4度目のスクラム2016/02/29 22:04

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160229-00000069-jij-soci
反対を押し切り再稼働した高浜原発4号機が緊急停止(スクラム)。
スクラムとは、原子炉の暴走を抑えるために、制御棒を一気に全挿入する緊急対応です。

これまでに、日本では
● 1991年2月9日 - 美浜発電所(伝熱管破断による。事故により緊急炉心冷却装置が日本では初めて作動した。)
● 2007年7月16日 - 柏崎刈羽原発(新潟中越沖地震による)
● 2011年3月11日 - 福島第一原子力発電所
しかないようです(wikiなので裏取り無し)。

そして、4回目のスクラムが起きてしまいました。
● 2016年2月29日 - 高浜4号機

これは重大です。
もし、スクラムが正常に行われていなければ、フクイチを超える大惨事になっていたでしょう(フクイチでは、スクラムは働きましたが、その後、冷却水が止まった。スクラムができなければ、冷却水があろうとなかろうと、原子炉の暴走は止められません)。
そして、高浜4号の燃料は、危険極わりないMOX燃料。
MOXのスクラムですよ!これ。
MOXに限っていれば、フクイチの3号機に次ぐ日本原発史上2度目のスクラムです。1度目がどうなったのか… 皆さん、忘れていませんよね。

もう、いい加減、原発は止めませんか?

追記:毎日新聞の報道がより詳しいです。
http://mainichi.jp/articles/20160301/k00/00m/040/026000c


福島第1 甲状腺ガンの実相2015/07/29 11:04

5月18日、福島県が事故当時18歳以下だった子どもたちに対する『甲状腺検査』の最新データを発表しました。

参照:放射線医学県民健康管理センター「甲状腺検査」の結果について

44万4,988人の受診者の中で、甲状腺ガンの確定が103人。100万人あたりにすると231人。通常、100万人に1人と言われる子どもの甲状腺ガンが、福島第1事故による放射線被ばくで激増しているのです。

この最新データを当方で整理したものが下の表です。

上半分が2013年度で完了した1巡目検査。下が2巡目検査です。ただ、2巡目検査で、"悪性または悪性の疑い"と診断されながら、経過観察で手術に至っていない例が多くあり、2巡目検査のデータを最終的な結果として扱うには無理があります。

そこでここでは、データとしては、2011年度から2013年度に実施された一巡目検査の結果に依拠して話を進めることにます(表の上半分に注目してください)。

●300倍以上の確率
2011年度から2013年度を見ていくと、総受診者数=299,543人中、甲状腺ガンの確定が98人。100万人あたりでは327人という高い確率になります。通常の300倍という高率で子どもの甲状腺ガンが発生しているのです。

「現時点で事故の影響は考えにくい」とする福島県(県民健康管理調査検討委員会)、福島県立医大、そして国の態度は、信じがたいものです。

●スクリーニング効果は考えられない
「現時点で事故の影響は考えにくい」とする福島県や国が、根拠としてあげているのが"スクリーニング効果"です。これまでに例のないような詳しい甲状腺検査を行っているので、今までなら見つからなかった甲状腺ガンの患者が見つかっていると言うのです。
本当でしょうか?

この説を信じるなら、これまで子ども100万人あたりで326人の"隠れた甲状腺ガン患者"がいたことになります。彼らは皆、自然治癒したのでしょうか?それとも、甲状腺ガンが発症する前に別な病気で亡くなった?
甲状腺ガンは成長が遅いともいわれますが、327人中1人だけが子どものうちにガンが見つかり、他の326人は大人になってからガンが見つかった… あり得ないでしょう!

●チェルノブイリにおけるスクリーニング効果
スクリーニング効果と並んで、「現時点で事故の影響は考えにくい」の根拠とされるのが、「子供の甲状腺ガン急増は原発事故から4、5年後」という説です。これはチェルノブイリのデータに基づいています。
では、本当にチェルノブイリの甲状腺ガンは、4、5年後から急増したのでしょうか?時系列に沿って検証してみました。

■1986年4月26日
旧ソ連、チェルノブイリ原発4号炉で過酷事故発生。

■1988年~1989年
チェルノブイリ周辺で、すでに子どもの甲状腺ガン多発の事実。
ミンスク第一病院 ビクトル・レベコ部長の証言「わたしたちは、放射能が人間に与える影響というものは、事故後10年から15年経って出てくるものだと思っていました。しかし実際には1988年から89年にかけて子供たちの甲状腺ガンが急激に増えてきました---過去に経験がないのですから仕方がないと言えばそうなのですが、医師として不注意でした」(チェルノブイリ小児病棟 ~5年目の報告~)
http://www.youtube.com/watch?v=MLNUEZCYGrE
【5分48秒~】

■1989年秋
当時のソ連首相ルイシコフがIAEA(国際原子力機関)にチェルノブイリ事故の調査を依頼(→ソ連政府が日本を含む各国へ医療協力を要請)

■1990年4月
IAEAが発足させた『チェルノブイリ原発事故をめぐる国際諮問委員会(IAC)』の委員長に重松逸造氏が就任。各国から集められた200人の専門家集団の責任者となる。ソ連国内の汚染状況と住民の健康の調査、住民の防護対策の妥当性の検討を目的とする『国際チェルノブイリプロジェクト』が動き出す。

■1991年5月~1996年4月
『国際チェルノブイリプロジェクト』の一貫として、チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトによる小児検診実施(1976年4月26日から1986年4月26日までに生まれた子供を対象)。その中心となったのが山下俊一氏(福島県立医科大学副学長・福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)。
○山下氏らが甲状腺の小児検診を実施した施設:
ゴメリ州立専門診療所(ゴメリ市、ベラルーシ)
モギリョフ州立医療診断センター(モギリョフ市、ベラルーシ)
ブリヤンスク州立第2診断センター(クリンシィ市、ブリヤンスク州、ロシア連邦)
キエフ州立第2病院(キエフ市、ウクライナ)
コロステン広域医療診断センター(コロステン市、ジトミール州、ウクライナ)
○検診延べ数:
16万人(この内、重複受診者や検診データの不完全な者を除いた内12万人分のデータを集約)
→64人の甲状腺ガン患者を発見(100万人当たり533人)

参照:チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクト報告書

ひとつ言えることは、チェルノブイリ事故直後のソ連には、ヒロシマ・ナガサキの曖昧なデータに基づく、「放射能が人間に与える影響というものは、事故後10年から15年経って出てくるもの」という間違った常識があって、放射線被ばくによる晩発性障害について、警戒が疎かになっていました。
加えて、1986年から1991年といえば、ソ連最後の5年間です。政治的混乱の中、医療関係者がいくら頑張ろうとしても限界があったことは想像に難くありません。この時期、発見されるべきだった甲状腺がんの患者が見落とされていた可能性は大です。

1990年になって、ソ連政府は、チェルノブイリ事故に関して、それまで積極的には受け入れてこなかった外国の調査や医療支援を逆に依頼するようになります(その背景には、どうにも対処しきれない深刻な事態とゴルバチョフが進めていたグラスノスチ(情報公開)政策があったと思われますが、ここでは深入りしません)。

そして、山下俊一氏らが、チェルノブイリの汚染地域に最新の検査機器を持ち込んだのが、1991年5月。以後、5年の間に、多くの小児甲状腺ガン患者を見つけるのです。他国の医療チームも検査を進めたし、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアにも、新しい機器が入ったでしょう。それ以前から検査態勢が一新され、ここでスクリーニング効果が起きた可能性が高いのです。ちょうど、事故後5年。子どもの甲状腺ガン患者がたくさん見つかるようになり、最終的には6千人にもなりました。
チェルノブイリの例をもって、「子どもの甲状腺ガンは、被ばく後、4~5年後から」と言う主張に、まったく根拠がないことがお分かり頂けたかと思います。新しい機器を用いた当時最新の検査が始まったせいなのです。対して、福島第1の汚染地域では、最初から最新の検査機器が使われています。
そして、そのことを一番良く知っているのは、山下俊一氏たちなのです。事故後5年後以降のチェルノブイリで、それまで見逃されていた子どもの甲状腺ガン患者を発見したのは、彼ら自身なのですから。
その山下俊一氏らが、声高に「子どもの甲状腺ガンは、被ばく後、4~5年後から」と主張し続けるのは、もはや悪意としか言いようがありません。そして、山下氏らを重用し、福島第1事故の被害を少しでも小さく見せようとする日本政府の姿勢もまた悪意に満ちたものと言わざるえません。

さらに今、超音波を使った検査で異常が発見されても、なかなか細胞診を実施しなかったり、細胞診で「ガンの可能性が高い」と判断されても、「経過観察」として、手術を実施いなかったり、という例が増えているとの報告もあります。許しがたいです。
福島第1の汚染地域で発生している300人に1人という高い確率の小児甲状腺ガン。この現実から目を背けるわけにはいかないのです。

『高浜原発再稼働差し止め仮処分』の読み方2015/04/19 17:31

4月14日、福井地裁(樋口英明裁判長)が、関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働を認めない仮処分決定を出しました。再稼働差し止めです。仮処分とは、新たな司法手続きによってそれが覆されないかぎり、効力が有効だという、裁判所による重い決定です。

高浜原発再稼働差止め仮処分福井地裁決定要旨全文

●基準地震動とはなにか?
この決定で目立つのは"基準地震動"への言及です。
基準地震動とは、原発の地震に対する耐性を評価するときに用いる数値で、原発やその周辺で想定される最大の地震の揺れ(=地震加速度)のこと。加速度を表す"ガル"という単位を用います。
要するに、その原発が襲われうる最大の揺れ。その原発がある場所では、絶対にこれ以上の揺れはない、というのが基準地震動で、その値を超える耐震性がなければ、原発の稼働は認められません。

高浜原発3、4号機の運転開始時の基準地震動は370ガルでした。それが耐震補強工事なしで550ガルに引き上げられ、新規制基準の実施を機に、さらに700ガルに。特に耐震性を強化したわけでもないのに、いつのまにか当初想定していた地震の倍の揺れにまで耐えられることになっている…
大規模な耐震工事がなされたなら、少しは納得の行く方もいるかも知れませんが、基準地震動という数値だけが、スルスルと引き上げられていく。これは、仮処分決定が指摘するとおり「社会的に許容できることではないし、債務者のいう安全設計思想と相容れないもの」です。

ここでは、補足として、地震加速度について解説を進めます。
地震加速度とは、地震の揺れの強さを示す値で、ガル値とか最大加速度などとも呼ばれます(それぞれの原発で想定される最大の地震加速度が基準地震動)。
ギネスに認定されているこれまで最大の地震加速度は、2008年6月の岩手・宮城内陸地震の時に岩手県一関市で記録された4022ガルです。史上最大とか有史以来最大とは言えませんが、少なくとも人類が地震計を手に入れてから最大の揺れ。それが、この日本列島で記録されていることは重要です。

ちなみに、東日本大震災で記録された最大地震加速度は2933ガル(宮城県栗原市)、新潟県中越地震では2516ガル(新潟県川口町)でした。

その時、原発はどうだったのしょうか?
新潟県中越地震で、全原子炉が緊急停止、火災発生、汚染水が流出した柏崎刈羽原発。3号機で2058ガルという猛烈な揺れを記録しています。ここまでの数字を見ただけで、高浜の700ガルという数字がいかに楽天的なものか、お分かり頂けるでしょう。
推進派は「地質構造が…」「岩盤が…」という理屈を言いますが、日本列島はすべての場所で、1000ガル、2000ガルを越える地震加速度が襲ってきても不思議はない地震の巣。それを認めるのが科学的立場です。固い岩盤の上に建っているはずだった柏崎刈羽原発が2000ガルを越える揺れに襲われたのですから。
東日本大震災では、福島第1原発の立地する大熊町で922ガルが記録されています。しかし、なぜか東京電力が発表した原発敷地内の地震加速度は、2号機が550ガル、3号機が507ガル、5号機が548ガルでした(これらの値ですら、当時の福島第1に適用されていた基準地震動の1.15倍~1.25倍ですが)。

さて、高浜原発に話を戻しましょう。基準地震動が、いつの間にか700ガルに引き上げられたことも大問題なのですが、仮処分決定では、原発推進派の権威である入倉孝次郎京大教授の言葉を引用して、基準地震動の数値自体がかなりいい加減だと指摘しています。
入倉教授曰く「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と。
福井地裁は「地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる」と当然の指摘をしています。
実は、"基準地震動=700ガル"には、なんの根拠も無かったということです。

参考資料
■気象庁『災害時地震・津波速報平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震』

参考記事:
■朝日新聞『原発で最大揺れ2058ガル 柏崎刈羽3号機』
■朝日新聞『福島第一の揺れ、耐震設計の想定超える 2・3・5号機』

●多重防護???
関西電力が主張する"多重防護"についても、福井地裁は大きな疑問を投げかけています。
「多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣、第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって、第1陣の備えが貧弱なため、いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる」と。

その通りなのです。「外部電源が落ちてもディーゼルがあるから大丈夫」「ディーゼルが落ちて、全電源喪失になっても、消防車や電源車があるから大丈夫」。はっきり言って、これは下品な笑い話レベル。福島第1で起きたことを見て見ぬふりして、原発再稼働を押し通す。そんなことは許されません。

なお、本来、原子力発電所における多重防護とは、「燃料ペレット→燃料棒被覆管→圧力容器→格納容器→原子炉建屋」という"五重の壁"のことを言います。それがいとも簡単に崩れ去ったのを私たちは目撃しています。
自分たちが錦の御旗にしてきた"五重の壁"という多重防護が打ち破れたときに、また、取って付けた多重防護で安全神話をでっち上げようとしている。それが、今の電力会社や日本政府の姿です。見逃してはいけません。

●政府の反応、原子力規制委員会の反応
管官房長官は14日午後の記者会見で、次のように述べています。「原子力規制委員会の判断を尊重して再稼働を進める方針に変わりはない。粛々と進める」。
沖縄県の翁長知事から「上から目線だ」と批判された"粛々"という言葉をあえて使って、仮処分という裁判所の重い判断を無視する構えです。行政府の番頭が司法の判断を無視!?"三権分立"はどこに行ってしまったのでしょうか?

新基準について「合理性を欠く」「緩やかすぎる」などと指摘された原子力規制委員会の田中委員長も感情的になっています。「私たちの取り組みが十分に理解されていない点がある。事実誤認がいっぱいある」と。
そして、「世界でもっとも厳しいレベルだと国際的にも認知されている」という大ウソをつきます。

新基準の問題点をとりあえず列挙すると、「溶融した核燃料を受けとめるコアキャッチャーがない」「航空機衝突対策二重壁が義務付けられてない」「フィルター付きベントの設置は加圧水型では5年間の猶予」など。
コアキャッチャーはヨーロッパの新型炉で義務付けられています。フィルター付きベントはもはや常識(ちなみに、スイスは多額の予算を使って全原発にフィルター付きベントを設置しましたが、安全性が担保されないとして、最終的にすべての廃炉を決定)。

管官房長官は「原子力規制委員会が専門的見地から十分に時間をかけて世界で最も厳しい新規制基準に適合すると判断したもので、尊重して再稼働を進めていく方針に変わりはない」と述べ、田中委員長のウソを追認しました。
安倍首相の「アンダーコントロール」発言が有名になってしまいましたが、いつからこの国の行政府のトップたちは、堂々とウソ言ってよいことに…

今回の仮処分決定は、高浜原発3、4号機に対して出された決定ですが、その中身を読めば、日本列島にあるすべての原発の再稼働が認められないという立場に立っていることが分かります。
きわめてまっとうなものだと思います。

参考記事
■NHK『規制委田中委員長 基準見直す考えない』
■毎日新聞『高浜原発:菅官房長官「再稼働進める方針は不変」』

放射性物質はいかに飛散し人体に入り込むのか(2)2014/08/10 16:40

2回目は"ホット・パーティクル"と"がれきと粉じん"という視点から見ていきます。

●ホット・パーティクル:参考記事
この記事を書き始めようとしていた、まさにその時、"ホット・パーティクル"がらみのニュースが入ってきました。以下にリンクで紹介しますが、記事が消されてしまう可能性もあるので、テキストでも貼り付けておきます。

■時事通信『微粒子からウラン検出=原発事故直後、茨城で採取-理科大など』
<東京理科大などは8日、東京電力福島第1原発事故直後の2011年3月14日に、約150キロ離れた茨城県つくば市で採取された放射性セシウムを含む微粒子から、ウランを検出したと発表した。微粒子には高温で溶けた後、急速に冷やされた形跡があり、研究チームは事故直後の原子炉内の様子を知る手掛かりになるとしている。>

■NHK『原子炉破損で燃料のウラン飛散か』
<東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きた直後に茨城県内で採取された大気中のチリから、ウランのほか原子炉内の構造物の素材が検出され、分析に当たった研究グループは早い段階から大規模な原子炉の破損が進んでいたことを裏付ける結果だとして、さらに分析を進めることにしています。
東京理科大学の中井泉教授らの研究グループは、福島第一原発の事故直後の3月14日の夜から翌朝にかけて原発から130キロ離れた茨城県つくば市で採取した大気中のチリを兵庫県にある大型の放射光施設「スプリング8」で分析しました。
その結果、放射性セシウムのほか、ウランや燃料棒の素材のジルコニウム、圧力容器の素材の鉄など、核燃料や原子炉内の構造物と一致する物質が検出されたということです。
これらのチリは直径2マイクロメートルほどのボール状をしていて、高温で溶けたあと外部に放出されるなどして急に冷えた場合の特徴を示しているということです。
福島第一原発では、事故発生からチリが採取された14日の夜までの間に核燃料のメルトダウンが進み、1号機と3号機が相次いで水素爆発していて、研究グループでは早い段階から大規模な原子炉の破損が進んでいたことを裏付ける結果だとして、今後もさらにチリの分析を進めることにしています。>


●ホット・パーティクル:生成のメカニズム
上記の報道は、福島第1の事故直後、3月14日につくば市で採取された直径2マイクロメートルという、きわめて小さなボール状微粒子に関するものです。
別な報道では「ガラス状の微粒子」ともされています。
ボールの中には、放射性セシウム、ウラン、ジルコニウム、鉄などが含まれていました。しかし、これはいわゆる合金でありません。主に酸化物が焼結したセラミックスと見られています。事故発生直後から危険視されていたホット・パーティクルです。

核燃料から放出される放射性セシウムは、水酸化セシウムやヨウ化セシウムという化合物の形になっています。他に、酸化セシウムというのもあります。
核燃料はウラン燃料とも呼ばれますが、実際には二酸化ウランです。メルトダウンして溶け出し、さらに高熱になって気化したとしても、二酸化ウランから変わることはありません。
ウラン燃料を原子炉で使い始めると、燃料棒内にはプルトニウム239が生成されます。また、3号機はMOX燃料を使っていましたから、もともとプルトニウム239が含まれています。これらは二酸化プルトニウムです。

前の記事でも書いたとおり、核燃料の本体は二酸化ウランのセラミックスです(MOX燃料の場合は、二酸化ウラン + 二酸化プルトニウムのセラミクス)。これがメルトダウンすると、原子炉内にある他の物質(ジルコニウムや鉄)も、飲み込まれるように溶け込んでいきます。

以下に、燃料棒や原子炉にある主な物質や元素の沸点と融点を整理しておきます。

こうして見ると、メルトダウンを起こす温度(二酸化ウランの融点)=2865℃というのが、いかに高い温度なのかよく分かります。セシウムの化合物はもちろん、鉄ですら気化する温度なのです。
原子炉内の空間は、気化した放射性物質と、溶けた核燃料から微粒子として舞い上がった放射性物質が充満した状態。それが冷やされたときに一緒になって、セラミクスの微粒子に。上昇気流に乗って大気中へ大量に漏れ出していきました。
見方を変えると、「二酸化ウランのセラミクスが高温で溶けて、他の物質も巻き込んで、再度、セラミクスに焼結し環境中に漏出した」とも言えます。

ここで、セラミクスと焼結について、簡単に解説しておきましょう。
私たちにとって、もっとも身近なセラミクスは磁器。その原料は、二酸化ケイ素(石英)、酸化アルミニウムなどです。これらを主成分とする陶石を粉末にし、水で練り、ロクロなどで成型します。その後、"焼結"。文字どおり焼き固めるのですが、窯の中の温度は1300℃前後。酸化物などの粉末の集合体を融点よりも少し低い温度で加熱すると、粉末が固まって焼結体(セラミクス)になるのです。

現在は、ほとんどの磁器の窯元が電気窯やガス釜を使っているので、温度が上がりすぎてしまうことはありませんが、かつては薪を使った登り窯でした。
窯の中の温度が陶土の融点を超えてしまうと、せっかく成型した器が溶けて変形してしまいます。言ってみれば、磁器のメルトダウン。昔は、窯の隅などで、しばしば"メルトダウン"が起きていました。しかし、いったん溶けても、冷えたときにはセラミクスになります(売り物にはなりませんが)。

この<セラミクス→メルトダウン→セラミクス>という事態が、原子炉内で起きたのです。そこにあったのはウランやプルトニウム、放射性セシウムや放射性ストロンチウムでした。そして、すべてが大きな塊にまとまったのではなく、一部は、微粒子=ホット・パーティクルとして舞い上がり、はるかかなたにまで、放射性物質を届ける役割を果たしました。
気象庁気象研究所が撮影に成功したホット・パーティクル

■Natureに掲載された気象庁気象研究所の論文

水に溶けない放射性物質の微粒子=ホット・パーティクルについて言及しています。

●ホット・パーティクル:その危険性
上記の生成過程を見ると、ぞれぞれのホット・パーティクルが、異なる組成になることは明白です。あるものはセシウム137を多く含み、あるものはストロンチウム90が多い。また、あるものはプルトニウム239やウラン235を、というように。複数の放射性物質を含んでいて、その比率はまちまちです。
もちろん、ベータ線やアルファ線を出す核種がたくさん含まれます。
アルファ線は強力な放射線ですが、遠くまでは届きません。逆に言うと、体内のある場所に固定されてしまうと、延々と同じ細胞(群)にダメージを与え続けます。

ホット・パーティクルは、セラミクスなので水に溶けません。ですから、今のところ、消化管から体内に吸収されるメカニズムはないとされています(絶対にないとは言いきれませんが)。
怖いのは、呼吸による摂取です。0.01マイクロメートルから10マイクロメートルという微粒子。簡単に肺の奥、肺胞までたどり着いてしまいます。
前の記事で書いた放射性ブルーム由来のヨウ素131やセシウム137と異なるのは、セラミクスなので、血液に溶けて体内を循環するのではないということです。肺胞にへばり付いて、放射線を発し続けます。そして、死ぬまで外に出てくることはありません。
特に、プルトニウム239を含むホット・パーティクルが肺に入った場合が危険視されています。
ちなみに、同じ数のプルトニウム239原子(半減期:2万4千年)とウラン235原子(半減期:7億年)があったとすると、同じ期間では、プルトニウム239が2万9千倍のアルファ線を出します。
1個のホット・パーティクルが、何ベクレルに相当するかは、その大きさや組成によって異なるので、何とも言えませんが、微粒子とは言え、そこに数十億個、数百億個の放射性の原子があるのは事実です。

一方、ホット・パーティクルが、今ここにあっても、空間線量が跳ね上がるとか、そういうことはありません。空間全体に対する密度は小さなものだからです。しかし、私たちの肺は、掃除機の集塵パックのようなものです。少ししか存在しなくても、いつの間にかため込んでしまうのです。

旧ソ連の核実験場があったセミパラチンスクでは、住民に肺がんが多発しています。亡くなった方たちの肺を調べると、がん組織の近くの細胞ほど、プルトニウムを含むホット・パーティクルが見つかると言います。
これは、核実験で飛散したホット・パーティクルを吸い込んだことが肺がんにつながることを示唆しています。

●がれきと粉じん
福島第1の事故現場から放射性物質を含む粉じんが舞い上がり問題となっています。まず、飛散対策をせずにがれき処理を進めてきた東京電力に怒り心頭です。
一方、この粉じんには、放射性プルームで飛散したものとは違う危険性があることも認識しておく必要があります。

ストロンチム90への警戒です。
カルシウムと化学的性質が似ているので、体内に入ると骨組織に集まり白血病を引き起こすストロンチム90。運転中の原子炉ではセシウム137とほぼ同量が生成されますが、チェルノブイリでも福島第1でも、セシウム137に比べると、遠くまで飛散しにくいという結果が出ています。
逆に言うと、事故現場の近くでは、相対的にストロンチム90の存在確率が高くなります。
原子炉直近にあるがれきを手荒に扱って、飛ばなくてよいストロンチム90を遠くまで飛ばしている。これが現状であり、"がれきと粉じん"の問題を正しく見据えるために必要な視点です。

原子炉至近のがれきに、どのくらいのストロンチウム90が付着しているのか… 飛散した粉じんに含まれていたストロンチム90はどの程度なのか…
徹底した調査を行う必要があります。

放射性物質はいかに飛散し人体に入り込むのか(1)2014/08/05 20:58

福島第1原発の過酷事故発生から3年半が経とうとしている時、「放射性物質はいかに飛散したのか…」と言われても、「何を今さら」と思う方も多いかも知れません。
しかし、セシウム137やヨウ素131など数多くの放射性物質が、福島第1からどのような形で飛散したのか、あるいは、飛散し続けているのか。そして、どのように人体に入り込み内部被ばくを引き起こしているのかは、実はあまり知られていないし、今なお解明しきれていない部分もあります。

放射性物質。どんな化合物として、あるいは、どんな大きさで、どこに存在しているのか?これは、内部被ばくを考えるときにきわめて重要です。
肺から体内に入ってくるのか、それとも、肺に沈着するのか… 消化器からは吸収されるのか… そういった問題に直結するからです。

放射性物質の飛散形態と体内への侵入。2回に分けて整理していきます。飛散の形態として注目するのは、"放射性ブルーム"。そして、"ホット・パーティクル"と"がれきから飛散する粉じん"です。

●放射性プルーム1:放射性セシウムの飛散
最初は、放射性セシウムについてです。
セシウムは元素周期表で一番左の列<アルカリ金属>に属します。
金属と言っても、固体金属状態のセシウムを実際に見たことのある人は、ほとんどいません。融点が28℃と低い上、他の物質と反応しやすく、簡単にイオンになったり、化合物を作ったりするからです。

同じアルカリ金属にナトリウムとカリウムがありますが、これらも金属状態を見たことがある人は少ないでしょう。一番身近なナトリウムは塩化ナトリウム(食塩)だし、洗剤や入浴剤の中には炭酸ナトリウムという化合物で含まれています。肥料として用いられるカリウムは主に塩化カリウム。サプリメントはクエン酸カリウムなどです。

ナトリウムやカリウムと同じように、セシウムも単体で存在することは希です。酸化セシウム、ヨウ化セシウム、水酸化セシウムなどの化合物になっていることが多いのです。また、これらの化合物が水に溶けた状態では、セシウムイオンになっています。核分裂連鎖反応で生成された放射性セシウム(セシウム137とセシウム134)であっても、まったく同じことです。

では、メルトダウンした核燃料から放射性セシウムがいかに漏れ出したのか… その足取りを追ってみましょう。

原子炉で用いる燃料棒は、二酸化ウランをセラミックス状に焼き固めたペレット(直径:1㎝/高さ:1㎝ほど)が本体。この二酸化ウランのペレットをジルカロイという合金でできた細い管に一列に並べて詰め込んでいます。
酸化ウランのペレットとジルカロイの管(被覆管)

ジルカロイはおよそ1200℃で溶融します(融点は合金比率によって若干変わる)。一方、二酸化ウランの融点は2865℃。冷却水が無くなり、みずから発する崩壊熱で二酸化ウランのペレットが溶け出したとき、すでにジルカロイの管はありません。メルトダウンへ一直線です。

新品の核燃料は、100%二酸化ウラン(ウラン235が約4%、ウラン238が約96%)です。発電を始める、すなわち核分裂連鎖反応を起こすと、燃料内部にセシウム137やストロンチウム90、ヨウ素131などたくさんの核分裂生成物や、プルトニウム239などの超ウラン元素が作られます。

話をセシウムに戻しましょう。
メルトダウンが起きたということは、核燃料の温度が2800℃を越えたことを意味しています。金属セシウムの沸点は671℃、水酸化セシウムは990℃、ヨウ化セシウムは1,280℃ですから、セシウムまたはその化合物は気体として核燃料の外に出てきます。
それが冷えて水酸化セシウムやヨウ化セシウムの微粒子となり上昇気流に乗って舞い上がったのです。
上空では地球上どこにでも広く存在する硫酸塩エアロゾルに取り込まれました。エアロゾルとは大気中に浮遊する微小な液体または固体の粒子のこと。放射性セシウムを含む硫酸塩エアロゾルは雲のようになって移動します。これが放射性プルームです。
放射性プルームからは、重力で落下してくる放射性セシウムを含む微粒子もあるし、雨や雪になれば、当然、雨粒や雪に含まれて地上に落下します。
■参考サイト
風に乗って長い距離を運ばれる放射性セシウムの存在形態


水酸化セシウムもヨウ化セシウムも、水との親和性が高い(水に溶けやすい)ので、水と出会えばイオン化します。水に溶けた(イオン化した)状態なら簡単に植物に吸収されます。その植物が野菜や果物であれば… 答えは誰にでも分かります。経口摂取です。

放射能ブルームからの雨が、流れ着いた先で蒸発してしまえば、セシウム化合物だけが土壌に残ります。そこで再度水と出会えば、また違う場所へと移動。この繰り返し。まさに「放射性物質は動く」のです。

除染、除染と言っても、水で洗い流す行為は放射性物質を拡散していることに他なりません。また住宅地だけ除染しても、やがて森林から新たな放射性物質がやってくることは明白なのです(すでに除染をした地域で、最近問題視されていますが、当初から予想されていた事態です)。

風が吹けば、放射性セシウムが付着した土埃が舞い上がり、容赦なく肺の中へ。吸引摂取です。そして、肺胞で血液に吸収され体内に入ってきます。
「肺から体内に吸収するのは酸素だけ」という誤った常識があります。もしそうであれば、人間は塩素ガスや一酸化炭素では死にません。私たちの肺は、水に溶ける元素を実に効率よく吸収する機能を持っています。水に溶けるということは、血液に溶け込むということなのです。
一人の体の中にある肺胞の表面積の総計はテニスコート一面分にも及びます。この広いエリアで、吸気は毛細血管に接し、酸素と二酸化炭素の交換だけでなく、様々な物質が血液に吸収されます。放射性セシウムも例外ではないのです。

●放射性プルーム2:ヨウ素131の人体への吸収
子どもたちの甲状腺で、深刻な内部被ばくを起こしているヨウ素131は、どのように広がり人体に吸収され、甲状腺に集まっていったのでしょうか?

汚染の広がり方はセシウム137同様の<エアロゾル→放射性プルーム>が中心です。ただ、化合物ではなくヨウ素分子そのものが多く、エアロゾルだけでなく気体としても拡散していきました。
大気中を流れ漂うヨウ素131は、呼吸により、あるいは食べ物に付着したり、水に溶け込んで、人の身体に入っていきました。経口摂取されたヨウ素131のほぼ100%が小腸などで吸収されるというWHO(国際保健機関)の報告があります。

■参考
世界保健機関 国際化学物質安全性計画『ヨウ素および無機ヨウ化物』
p.20 7.1 吸収

上記のリポートでは、呼吸によって吸入摂取されたヨウ素131も、ほぼ全量が体内に入っていくことが明らかにされています。
まず、鼻や気管、気管支にある粘液線毛がヨウ素131をとらえ、消化管に運んでしまうのです。あとは経口摂取と同じです。
粘液線毛をすり抜けて肺にまで到達するヨウ素131もあります。これは肺に沈着するのではなく、肺胞から血管へと比較的速く吸収されることが分かっています。行き先は… 言うまでもなく、甲状腺です。

今回調べ直してみて、つくづく思うのは、私たちの身体が、貪欲なまでにヨウ素を取り込むシステムを持ち合わせているということです(ヨウ素が人体にとってきわめて重要な元素だからこそです)。
参考にしたWHOの資料によれば、経口であれ吸引であれ、摂取されたヨウ素は、ほぼ100%体内に吸収されます。
「いつも甲状腺をヨウ素で満たしていれば、ヨウ素131は入ってこない。だから、昆布とワカメを食べよう!」などと言う人もいます。しかし、実験結果は、仮に甲状腺がヨウ素で満員状態であっても、新たなヨウ素が来れば、古いものを押し出して置き換わってしまうのではないか… と思わせます。となると、ヨウ素剤の効果についても疑問符が付いてしまいます(この部分は、まったくの私見なので、もし詳しい方がいらしたら、情報をお願いします)。

●放射性ブルーム3:希ガスの危険性は…
核分裂生成物のうち、周期律表の一番右の列<希ガス>に属するクリプトン85(半減期:10.72年)とキセノン133(半減期:5.25日)は、使用中の燃料棒の中に気体として生成されます。
ですから、メルトダウンしたら一気に空気中へ。福島第1では圧力容器の底が抜け、格納容器も破損していますので、どんどん大気中に漏出していきました。クリプトン85とキセノン133を合わせた漏出量は11,000ペタベクレル。チェルノブイリの6,500ペタベクレルの2倍近くです。希ガス放射性物質の漏出量から見れば、福島第1が史上最悪の原子力事故なのです。

希ガスは水に溶けにくいし、水以外の他の物質とも反応しにくいので、人体に害はないという主張があります。しかし、放射線を出すことに変わりはありません。外部被ばくはもちろん、気体故に肺の中に簡単に入ってくるという恐ろしさがあります。指摘されているのは、肺ガンを引き起こす危険性です。

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(2)に続きます。


ホット・パーティクルを知る第一歩2014/07/20 13:14

チェルノブイリでは、現在、NPOが主催するツアーが行われています。立ち入り禁止のゾーン(原発から30㎞圏内)に入り、原発の一部も見学します。危険視する意見もあれば、「啓蒙のための観光」として評価する向きあります。ここでは、その善し悪しを判断することはしませんが…

ここに『チェルノブイリダークツーリズム』という本があります。作家の東浩紀さんやジャーナリストの津田大介さんたちが、実際にチェルノブイリツアー(2013年4月11日~12日の1泊2日)に参加し、レポートしたものです。
細かい内容はともあれ、この本の中に、「今のチェルノブイリ」と「これからの福島第1事故汚染地域」を見ていく上で、重要な事柄を見い出したので、ご紹介していきましょう。

事故を起こした4号炉を覆う石棺から300メートルの場所。線量計が示す値は毎時5マイクロシーベルトです。年間の外部被ばく線量に換算する約15ミリシーベルト/年。なんと、福島第1で"帰還"の基準とされている20ミリシーベルト/年よりも低い。しかし、そこは厳重に管理された"危険な場所"です。

もちろん、ゾーン全体の空間線量が下がったわけではありません。コンクリートやアスファルトで固められた地面や道路では、風雨で放射性物質が流されるために低くなっているのです。実際にツアーガイドからは、「舗装道路から外に出ないように」という注意がなされます。
もう一つ、ガイドから注意されるのは「地面に座ったり、荷物を置かないように」ということです。これは何を警戒しているのでしょうか?地面に点在する放射性物質の微粒子=ホット・パーティクルの付着や拡散を恐れているのです。

ホット・パーティクルとは何か?
Wikipediaでは「主としてプルトニウムの微粒子を指す」とされていますが、現在では、必ずしもプルトニウムが含まれていなくても、原子力事故で生成された放射性微粒子すべてをホット・パーティクルと呼ぶのが一般的です。
セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム239、アメリシウム241などが代表的ですが、ホット・パーティクルに含まれる可能性のある放射性元素の種類は数百種に及びます(従って、一つ一つのホット・パーティクルを見るとその組成は異なります)。

さて、ホット・パーティクルについて検討するにあたり、何点か重要なことを上げておきましょう。

1. 事故現場に近ければ近いほど存在確率が高い。
→空気中を拡散するのですから、当然と言えば当然です。

2. 微粒子なので、遠くまで運ばれる。
→福島第1由来のホット・パーティクルは、アメリカ西海岸のシアトルでも観測されています。微粒子が遠くまで飛ぶ理屈は「風が吹いても岩は決して動じないのに、砂(岩の微粒子)は舞い上がる」のと同じ。同じ比重でも小さくなればなるほど、空気抵抗を受けやすくなるからです。

3. 数粒を吸い込んだだけで、肺がんを発症するリスクがきわめて高くなる。
→ホット・パーティクルには、近傍の細胞を直撃するアルファ線やベータ線を発する放射性元素が含まれています。肺に入ってしまうと、肺胞にへばりついて、同じ場所に放射線を浴びせ続けるという恐ろしい事態になります。一度、肺に入ったホット・パーティクルが、体の外に出てくることは、その人が死ぬまでありません。

今、ここに数個のホット・パーティクルがあっても、空間線量が大きく上がることはありません。線量計に引っかかるガンマ線を出す放射性物質は限られているからです。さらに、空間全体で見れば、ホット・パーティクルの密度はとても低いからです。
しかし、ホット・パーティクルは確実に体に入り込んできます。私たちの肺は、言うなれば掃除機のフィルターかゴミパックのようなもの。ピカピカに見えるフローリングの部屋であっても、掃除機をかけるとフィルターには驚くほどたくさんの塵がたまります。理屈は同じです。実際に、ホット・パーティクルは車のエアフィルターやエアコンや掃除機のゴミパックから発見されているのです。
名古屋の一般家庭の掃除機ゴミパックから見つかったホット・パーティクル

チェルノブイリでは年間5ミリシーベルト以上のエリアは、今でも立ち入り禁止です。福島第1の汚染地域では「年間20ミリシーベルト以下なら帰還せよ!」と。そこでいったい、どのくらいのホット・パーティクルが人々の肺に吸い込まれていくのだろうか… 今まさに、学校の校庭を走り回っている子どもたちがいます。

肺胞の中で放射線を発するホット・パーティクル

火山と原発2014/04/06 15:38

言うまでもないことですが、日本列島は地震が多く、火山活動が活発です。どちらも、"世界有数の"と形容することに、誰も反対しないでしょう。

ユーラシアの東端にある日本列島。その下では、プレートと呼ばれる、地球を覆う巨大な岩盤が複雑に重なり合っています。ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレート、太平洋プレートの4つです。
地球を覆っているのプレートは全部で10数枚。その内の4つが日本列島の下に入り込んでいる。この事実を知っただけで、日本が火山国、地震国であることに納得がいきます。
4つのプレートは、ゆっくりとですが別々の動きをしています。従って、プレートが交差する場所では、逃げ場を失った巨大な力が陸地を押し上げます。それが日本列島だと言ってもよいでしょう。
また、プレートの接点で生じた歪みが、一気に戻ろうとするとき、巨大地震が発生します。東日本大震災の震源は、大平洋プレートが北アメリカプレートの下に潜り込む、まさにその場所でした。

交差するプレートは、火山活動の源にもなります。気象庁のホームページに分かりやすいイラストがあったので、下に紹介します。

さて、日本列島にはいくつの火山があるのでしょうか?
数え方にもよりますが、約300とされています。そのうち、活火山が約100。活火山の定義は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」です。言い方を変えれば、「今後、いつ噴火してもおかしくない火山」。それが活火山です。1億3千万人弱が暮らす、この小さな列島に100もの活火山がある。まず、このことをしっかり認識する必要があります。

火山が噴火したら原発はどうなるのか… その想定は恐ろしすぎて、誰も正面から触れてこなかったのが事実です。
「大噴火は起きない」「溶岩流や火砕流が原発に到達することはない」。何の裏付けもないまま、原子力の専門家たちは、そう自分に信じ込ませてきました。多くの一般の人たちは、何となくそれに従って、危険を認識することはありませんでした。
しかし、大きな間違いでした。日本列島における火山噴火は、福島第1はもちろん、チェルノブイリをはるかに越える悲惨な原子力事故を引き起こします。以下、具体的に2つの例で見ていきましょう。

●九州の大カルデラ火山の噴火
多くの方は、"阿蘇カルデラ"という言葉には聞き覚えがあるでしょう。カルデラとは、火山の活動によってできた大きな凹地のことです。
阿蘇の場合は、大噴火で大量のマグマが地表に吹き出し、その時、地中にできた空洞に地面が落ち込んで凹地になったものです。ちなみに阿蘇カルデラを造った大噴火は8万7000年前に起きたもので、火砕流は九州全域を越え、現在の山口県にまで及びました。

九州には、阿蘇・九重(くじゅう)・加久藤(かくとう)・姶良(あいら)・阿多(あた)・喜界(きかい)という6つの大カルデラ火山があります。
カルデラ火山が大噴火すると、1000℃近い高温の軽石と火山灰が火山ガスとともに時速150キロ以上という高速で地表を走ります。火砕流です。威力は凄まじく、"すべてのものを破壊する"と言って間違いありません。

日本列島におけるもっとも新しいカルデラ火山の大噴火は、約7300年前に起きました。鹿児島南方沖の海底火山が噴火し、喜界カルデラを作ったときのものです。
火砕流と火山灰によって、南九州と四国・中国の一部が壊滅(中国地方の瀬戸内海側でも20センチ以上の降灰があった)。すべての生命が死に絶えました。このエリアでは、大噴火の前後で発掘される土器の形式がまったく異なることから、同じ縄文人とは言え、先住民はすべて死に絶え(あるいは移住し)、その後に外来者が住みつき、あらたな文化を築いたと考えられています。
九州の大カルデラ火山は、5000年~1万6000年に1回の割合で、九州全土と四国・中国のかなりの部分を無生物状態にするような大爆発を起こしているのです。最後の爆発から7300年。今すでに、次の大噴火が、いつ起きてもおかしくない時期になっています。これは、多くの火山学者が指摘している通りです。

「大噴火が起きたら、全部壊滅だから、原発があろうとなかろうと関係ない」と思う方がいるかも知れませんが、それは大きな間違いです。
確かに、大火砕流が火力発電所やガスタンクを飲み込んでいったとしても、特に被害が大きくなるとか、そういったことはありません。噴火の威力に比べたら、ガスタンクの大爆発だって、蚊に刺された程度です。
しかし、原発の場合は話が違います。そこには核燃料があり、大量の放射性物質(使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物や超ウラン元素、さらに汚染されたコンクリートや金属など)があります。火砕流に飲み込まれようが、溶岩に溶け込もうが、放射性物質が減ることはないし、それが発する放射線が減ることもないのです。
九州でカルデラ火山の大噴火が起きると、川内原発、玄海原発、伊方原発の3つは確実に制御不能に陥ります。全電源喪失はもちろん、建屋はおろか、格納容器、圧力容器まで破壊され、メルトダウンした核燃料と大量の放射性物質が露天にさらされるでしょう。
川内が178万キロワット、玄海が348万キロワット、伊方が203万キロワット。合計で729万キロワットの出力に相当する核燃料があります(原子炉内だけでこの量。他に核燃料プールや共有プールにも使用済み核燃料があります)。
ほぼすべての核燃料が露天にさらされたチェルノブイリ4号炉の出力は100万キロワットでした。伊方・玄海・川内の3原発が制御不能になったら、チェルノブイリの7倍を超える放射性物質が飛散する恐れがあります。大噴火の被害を越えて、ほぼ日本全土、朝鮮半島、中国の一部まで、数十年、あるいは100年単位で人が住むことはできなくなるでしょう。
この危険性を知りながら、川内原発の再稼働を目論む安倍政権の原子力政策は、愚の骨頂としか言いようがありません。

噴火がある程度予知できれば、対応策はとれるのでしょうか?
無理です。数日、あるいは数週間前に分かれば、発電時の核分裂連鎖反応を止めることはできます。しかし、使用中の核燃料(=使用済み核燃料)は、数年の間、強い放射線と崩壊熱を出すので、循環する水に漬けた状態でしか保管も移動もできません。せいぜい動かせて、原子炉に併設された核燃料プールまででしょう。押し寄せる火砕流への対策にはなりません。運転員は、暴走するのが分かっている原子炉を放り出して逃げ出すか、火砕流に巻き込まれて焼け死ぬか、選択肢は2つしかありません。悲しいかな… いずれにしても、原子炉は人間の制御から外れ、メルトダウンへと一直線です。

●成層火山による中規模火砕流
成層火山とは、ほぼ同一の火口からの複数回の噴火で、溶岩や火山砕屑物(火山礫や火山灰、軽石など)などが積み重なって形成された円錐状の火山のことです。富士山が代表格で、桜島や浅間山も成層火山です。日本列島では、約30の成層火山が中規模な火砕流をともなう噴火を起こしてもおかしくない時期に入っています。
特に原発や原子力施設に影響を及ぼす可能性が高い成層火山を上げてみましょう。
青森県にあるむつ燧(ひうち)ヶ岳と恐山は、東通原発や六ヶ所村に近く、噴火の際に無事に済むとは考えられません。
新潟県の妙高山が噴火した場合、柏崎刈羽原発まで火砕流が達するかどうかは微妙とされていますが、冬に噴火したら、火砕流が積雪を溶かして、大規模土石流が発生します。原子炉を日本海に押し流してしまうと考えられています。もちろんメルトダウン、放射性物質の大漏出となります。柏崎刈羽原発は822万キロワットの出力を持つ世界最大の原発です。

実は、火山の噴火によって、原発が制御不能、メルトダウンに至るシナリオは、上記の2つだけではありません。
地面に火山灰が10センチ以上積もる状況になれば、ほとんどの原発では、海からの冷却水の取り入れができなくなり、メルトダウンすると考えられます。海に落ちた火山灰が取水口を詰まらせてしまうからです。
伊豆諸島の利島(としま)や御蔵島(みくらじま)、神津島(こうづしま)などが噴火すれば、岩屑なだれが海中に突入し、巨大な津波が浜岡原発を襲う恐れがあります。
富士山の次の噴火は、山体崩壊を伴う可能性が大です。その時に発生する岩屑なだれが駿河湾に突入すれば、やはり浜岡原発は大津波に襲われます。
北海道の泊原発は、ニセコ火山から、たった13kmしか離れていません。ひとたび噴火が起きれば、岩屑そのものに埋まってしまう可能性があります。
北陸地方の海岸線は、小規模な火山(単成火山という)ができやすい地殻構造です。原発さえ無ければ、数百人が避難、移住すれば済む小規模な噴火にしかならないので、これまで問題視されることはありませんでした。しかし、原発が絡むと話が違ってきます。若狭湾の原発銀座のいずれかの原子炉の至近で、小規模とは言え、火山噴火が突然起きたら… 背筋が凍る思いです。避難、移住すべき人数は、アッと言う間に数十万人に。京都・大阪にまで影響が及べば数百万人、いや一千万人以上になってしまうのです。

この列島に、原発を作ってしまったことは、大きな間違いでした。今すぐ、完全脱原発に舵を切り、放射性物質をできるだけ安全な場所に、できるだけ安全な形でしまい込むことを考えなければなりません。
再稼働なんて、もっての外なのです。

●参考文献
『噴火と原発』(守屋以智雄)/岩波書店「科学 2014年1月号」ほか
●お薦め資料
川内原発直近の巨大活断層と幾度も襲った火砕流』/反原発・かごしまネット

かつて最終処分場があった2014/02/16 21:26

映画『100000年後の安全』で取り上げたられたフィンランドのオンカロが、世界で唯一の放射性廃棄物最終処分場として注目されています。
そんな中で、「かつて最終処分場があった」という話題に焦点を合わせます。オンカロの前に「あったはずだった」最終処分場のお話です。

実はドイツに、低・中レベル放射性廃棄物を地層処分(放射性廃棄物を地下深くで半永久的に保管する)する最終処分場があったのです。20年ほど前までは…

場所はアッセというところで、ドイツ語での名称は"Schachtanlage ASSE Ⅱ"。

●Schachtanlage ASSE Ⅱの場所: Googleマップ

直訳すると"アッセ第2鉱山"という感じでしょうか。Schachtanlage は"鉱山"という意味ですが、他に"地雷"という訳もあって、ちょっと意味深です。

なぜ、最後に"Ⅱ"が付いているのかというと、もともとは古い岩塩鉱山だったからです。1909年から1964年まで、岩塩を掘っていました。
閉山後、ここを原発や他の核施設から出た放射性廃棄物の最終処分場にしようとなったのです。そこで、鉱山が生まれ変わるという意味で"Ⅱ"が付きました。
この先では"アッセ放射性廃棄物処分場"と呼んでいきます。

1967年から1978年まで、地下750メートルから500メートルにある岩塩を掘ったあとの空洞に、キャスクで126,000本という膨大な数の低・中レベル放射性廃棄物が運び込まれました。
1979年からは、高レベル放射性廃棄物の処分研究も行いました。近い将来、高レベル放射性廃棄物も含めた最終処分場にしたかったのです。

話を少し戻して、なぜ、岩塩鉱山跡を最終処分場にしようと考えたのかを説明しておきましょう。
実は、当時の"科学的知見"では、「太古の時代に海から切り離され湖になり、その底に塩が堆積した岩塩層は、地層が安定している上に、水が入り込みにくい」という常識がありました。
岩塩層は放射性廃棄物の最終処分場に最適とされていたのです。実際、1957年には、米国科学アカデミーが、岩塩層に処分場を作るよう勧告したほどです。

稼働を始めたアッセ放射性廃棄物処分場。世界初の最終処分場になるはずでした。

しかし20年もしないうちに、安定しているはずだった岩塩の壁や天井に無数の亀裂が走ったのです。地殻変動で地層が動いたせいです。
1988年には地下水の流入が確認され、現在では毎日1万2千リットルもの地下水が流入しています。

いったん運び込まれたキャスクを取り出す術はありません。最終処分場ですから、取り出す想定なんてしてないのです。
また、荒っぽい扱いをしていたため、一部のキャスクは壊れ、強い放射線が出ています。近づくことすらできません。地下水によるキャスクの腐食も始まっていて、放射性物質が溶け出し、汚染水となっています。

処分場としては1994年に閉鎖されましたが、いまだに岩塩の壁に入ったひび割れを埋めようと、コンクリートを流し込む虚しい作業が続いています。汚染水をポンプでより深い地下へ送り出すだけの対症療法も、どこまで効果があるのか分かりません。しかし、やらなければ汚染水があふれ出す恐れがあるのです。そういった作業に何百万ユーロもの資金が注ぎ込まれています。

1960年代、ドイツは反省しました。「そもそも原発を使い始める時から処分場のことを考えるべきだった」と。それがアッセ放射性廃棄物処分場の出発点です。
しかし、その結果、作られた最終処分場は、役目を果たすどころか、未来に対して大きなツケを残し続けています。

「最終処分場を作れる場所はあるのか?」「10万年以上、地殻変動や自然災害の影響を受けない場所はあるのか?」。その答えが"否"だったからこそ、ドイツは脱原発を決意したのです。「もうこれ以上、放射性廃棄物を増やしてはいけない」と。
ドイツが福島第1事故の後、いち早く完全脱原発を宣言したのには、アッセでの失敗も大きく影響しています。

アッセの失敗は、単に場所の選択を誤ったというだけでは済みません。閉鎖後の後日談と言うには、あまりに重大な問題が発生しています。

アッセ放射性廃棄物処分場には、プルトニウムも保管されていたのですが、2009年8月になって、その量が間違っていたと発表されました。9.6kgから約3倍の28kgに訂正されたのです。プルトニウムは、約1kgで高性能TNT火薬に換算して20キロトンに匹敵する核爆発を起こせます。ということは、水浸しの岩塩鉱山の廃鉱に、原爆30発分近いプルトニウムが埋まっていることになります。

もう一つ、アッセ周辺で白血病・甲状腺ガンが顕著に増加というニュースが届いています。【ZDFニュース 2010年11月】
大気の汚染によるものなのか、地下水の汚染によるものなのかは明らかになっていませんが、放射性物質による環境汚染が進んでいるのは間違いないでしょう。

今ある放射性廃棄物をどうするのかだけでも、こんなにたくさんの、そして重大な問題が起きています。
もちろんドイツだけの話ではありません。アメリカもフランスも、最終処分場問題では右往左往です。
フィンランドのオンカロが、アッセの二の轍を踏まないよう祈るばかりです。

日本はどうでしょうか?
世界に名高い火山国・地震国ですから、最終処分場の適地はどこにもありません。そのことが分かっていて、この国で原発を推し進めた政府と電力会社には重大な責任があります。
ところが、福島第1で、あれだけの事故を起こしながら、政府と電力会社は虎視眈々と、いや、今や堂々と原発の再稼働を推し進めようとしています。そのまま処分するだけでも大変な使用済み核燃料を再処理にして、さらに危険な核廃棄物を生みだそうとしています。
「日本人は歴史から学ばないのか!?」
海外からそう見られるのも当然です。

総理・閣僚の靖国神社参拝や従軍慰安婦問題での居直りなどまで言及すると話が広がりすぎかも知れませんが、私たちは歴史から学ぶ姿勢を取り戻さなくてはいけません。
福島第1は、たった3年前に起きた出来事で、今も進行形で歴史に刻まれている人類史上に残る大事故です。その恐怖と教訓を忘れてはならないし、この日本に暮らす私たちこそが、世界の脱原発の先頭に立つことが求められているのです。

小さなチョウが教える原発事故の恐怖2014/02/15 21:42

ヤマトシジミ。
日本でもっともと一般的に見られるチョウです。この小さなチョウをめぐる論文が、世界で最も権威ある科学雑誌・Natureに掲載されるなど、大きな反響を呼んでいます。

論文を発表したのは、琉球大学の大瀧丈二准教授(分子生理学)の研究チーム。このチョウに原発事故の影響とみられる異常を見いだしたのです。

日本語英語含めて、論文や参考資料がたくさんあるのですが、もっとも読みやすいのは、岩波書店の『科学』。まず、これを一読することをお奨めします。

●『科学』(岩波書店)に掲載された論文

他の論文等は、この記事の最後にまとめてリンクを貼っておきます。

細かいデータについては、論文を読んで頂きたいのですが、ここでは、大瀧准教授のグループが明らかにした、原発事故によるヤマトシジミの異常を分かりやすくまとめてみましょう。
この研究は、大きく4つの観察・実験から成り立っています。それぞれの概要と結果を記します。

●野外採集・外見比較
概要:
2011年5月と2011年9月という事故後間もない時期に、福島県内各地で多数のヤマトシジミを採集し、外見データを記録。比較のため、宮城県白石市、茨城県つくば市、東京都内でも同様の採集・観察を実行。

結果:
□福島第1原発からの距離が近くなるほど、卵から羽化するまでの日数が長くなる【発育遅延】
□同様に、原発からの距離が近くなるほど、前翅(前の羽)が縮小している個体が多かった【前翅矮小化】。
□2011年5月採集分で12%に、9月では28%になんからの外見上の異常が見られた【形態異常】

まとめ:
ヤマトシジミには、気温が低いと異常を起こす性質(コールドショック)があるが、福島で見つかった異常は、コールドショックとは種類が違っていた。

●飼育・交配実験
概要:
福島で野外採集したヤマトシジミを沖縄に持ち帰り、飼育・交配。比較のため、宮城県白石市のヤマトシジミでも同様の実験を行った。

結果
□福島で採集した個体を沖縄で飼育・交配した結果、子世代では親世代よりも高い異常率となった【生殖細胞に異常が起きている可能性大】
□孫世代においても異常が多く見られる【子世代の異常が孫世代に遺伝している可能性大】

まとめ:
明らかに原発に近いほど異常が多く、また、それが子世代・孫世代に遺伝している可能性を指摘。

●外部被ばく実験
概要:
沖縄生まれのヤマトシジミに、人工的にセシウム137による外部被ばくをさせ、異常の発生を観察。

結果:
□被ばく実験によって、「発育遅延」「前翅矮小化」「形態異常」という、福島での野外データと同じ傾向が再現された。

まとめ:
この結果は、外部被ばくがヤマトシジミの異常に寄与している可能性が高いことを示している。

●内部被ばく実験
概要:
沖縄生まれのヤマトシジミに、福島のカタバミと他の地方のカタバミを食べさせて、結果を見た。ヤマトシジミの幼虫はカタバミしか食べないので、内部被ばくの影響を明確に示せる。与えたカタバミに含まれる放射性セシウムの量は、あらかじめ計測してある。

結果:
□沖縄産のヤマトシジミの幼虫に山口県宇部市のカタバミを食べさせても、ほとんど死なない。福島市や飯舘村のカタバミを食べさせると、生存率が著しく低下。
□生存率の低下だけでなく、矮小化と形態異常も確認された。

まとめ:
この結果は、内部被ばくがヤマトシジミの異常に寄与している可能性が高いことを示している。

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こうしてまとめてみると、大瀧准教授たちが、実に緻密な研究を重ねてきたことが実感できます。それでも、文字面だけでは、なかなか分かり難いので、表にしてみました。

事故後間もない時期から、このような綿密な観察と実験を重ねてきた大瀧准教授たちには敬服の至りです。

この研究は、外部被ばくや内部被ばくが生命体に及ぼす影響を知る意味で、きわめて重要で、貴重なものです。
海外の名だたる科学雑誌が、次々と取り上げるのも、うなずけます。
しかし、日本で本格的に取り上げたのは、岩波の『科学』だけ。福島第1事故を引き起こした当事者が、こんな姿勢でよいわけがありません。

加えて許しがたいのは、琉球大学が大瀧研究室に対する研究費をカットしたのです。文科省、国の意を受けてのことでしょう。ここまで来ると、原子力ムラなんて牧歌的な表現では足りません。もはや、原子力マフィアです。
こういった有意義な研究に対して、大学や行政は全面的にバックアップすべきです。

私たちは、小さなチョウが命を賭して教えてくれる原子力事故の恐怖を肝に銘じるべきでしょう。人類を含むすべての生命体は原子力とは共存できないのです。


●スライド(飯舘村エコロジー研究会シンポジウム発表用):福島第一原子力発電所事故とヤマトシジミ:長期低線量被曝の生物学的影響評価

●BMC Evolutionary Biology掲載論文の日本語訳:福島第一原子力発電所事故とヤマトシジミ:長期低線量被曝の生物学的影響評価

●Natureに掲載された論文【英語】:The biological impacts of the Fukushima nuclear accident on the pale grass blue butterfly

●Natureに掲載された研究紹介記事【英語】:Fukushima offers real-time ecolab

●BMC Evolutionary Biologyに掲載された論文【英語】:The Fukushima nuclear accident and the pale grass blue butterfly: evaluating biological effects of long-term low-dose exposures

琉球大学 大瀧研究室

"アメリカ原子力合衆国"が伝える恐ろしい事実2014/02/14 16:04

2012年のサンダンス映画祭(ロバート・レッドフォードが主催する米国最大のインデペンデント系映画祭)に優れたドキュメンタリー映画が出品されていました。
"The Atomic States of America"(93分)。直訳すれば『アメリカ原子力合衆国』。NHKの『BS世界のドキュメンタリー』で短縮版(49分)が『原子力大国アメリカ』というタイトルで、12月に放送されました。
今のところ『原子力大国アメリカ』は、DailyMotion で視聴可能です(消されてしまうかも知れませんが)。
オリジナルの英語版予告編はこちらです。

"The Atomic States of America"は、原子力施設近くの住民の健康被害、NRC(原子力規制委員会)が抱えるジレンマ、最終処分場の問題など、幅広く原発問題を扱った秀作ドキュメンタリーです。

なかでも、ニューヨーク州ロングアイランドにあるシャーリー(SHIRLEY)という町からの報告は衝撃的でした。
「女性の9人に1人が乳ガンを発症」「400万人に1人と言われる子どもの横紋筋肉腫という珍しいガンが、同じ通りで2人発症。周辺地域全体の患者数は20人」という事実が示されます。

多数のガン患者が出た原因は、シャーリーに隣接するブルックヘブン国立研究所にありました。
まず、シャーリーとブルックヘブン国立研究所の場所を地図上で確認しましょう。
●Googleマップ:ニューヨーク州シャーリー
 ニューヨークの中心部から東へ100キロ弱です。

ブルックヘブン国立研究所は原子物理学の研究所で、原子炉もありました。ここの使用済み核燃料プールから高濃度のトリチウムを含む汚染水が長年に渡って漏出。汚染水は、周辺13万人の住民が飲料水として利用する水源に流れ込みました。トリチウムの濃度は、最高で米国環境保護局の飲料水基準の32倍(11倍説もあり)という高い値。飲料水を介したトリチウムによる低線量内部被ばくが進んだのです。

トリチウムとは放射性の水素のことです。その恐ろしさについては、当ブログの以下の記事をご参照ください。

●トリチウムの恐怖(前編)
●トリチウムの恐怖(後編)

さて、次の静止画は、"The Atomic States of America"の中で、シャーリーの住民が示した横紋筋肉腫患者の分布地図です。

インタビューでは、20人の患者が出たという説明ですが、地図上には、そのうち19人の自宅の場所が示されています(先ほどのGoogleマップと見比ると分かりやすいです)。

細長いロングアイランドの中程にBNL(Brookhaven National Laboratory:ブルックヘブン国立研究所)があります。ロングアイランドの南北の幅は30km弱で、地図上のBNLからCまでの距離が20km強。いかに狭いエリアで、たくさんの患者が出たのかがよく分かります。普通は「400万人に1人」なのに。

ブルックヘブン国立研究所は、当初、汚染水漏れを認めませんでしたが、次第に事実が明らかになります。管轄する米国エネルギー省も黙殺することができなくなり、1997年、研究所を運営する法人に対して契約打ち切りを宣言。理由は「積年に渡るトリチウムの漏出」です。研究所は1999年、原子炉の再稼働を断念しました。

さて、トリチウムと言われて気になるのは、福島第1の増え続ける汚染水です。
仮にALPSなどの浄化装置が100%理想的な稼働をすれば、他の核種はある程度取り除けるのですが、トリチウムだけはどうにもなりません。水素なので、水(水分子)に組み込まれてしまうと、放射性の水と普通の水を分けることができないのです(実験室レベルは別として)。

実は、スリーマイル島事故の時も、最終的にトリチウムを含む汚染水が残ってしまい、大きな問題になりました。
結局、選択されたのは「蒸発させる」という荒っぽい方法。シャーリーの例を考えると、これは危険な賭けだったと思います。今後、スリーマイル島周辺で、トリチウムによる晩発性放射線障害が出ないとは言い切れません。

福島第1では、すでに海と地下水へのトリチウムの漏出が起きています。東電も国も「環境に影響を及ぼすほどではない」と言いますが、それを信じる根拠はどこにもありません。
最終的には、全部、海に流すことを画策しているようですが、そんなことを許したら、福島の海が蘇る術はなくなってしまうでしょう。
一方、スリーマイル島方式の蒸発は、あまりにも汚染水が多いことや日本の湿度が高いことなどから無理なようです。

今は、トリチウム以外の放射性物質も、ほとんど除去できてない状態ですが、トリチウムによる低線量内部被ばくへの警戒を怠るわけにはいきません。
そして、東電、政府、原発推進派の学者だけでなく、反対派まで含めた知恵を絞って、トリチウムをどうするのかを考えていかないと、何十年か先に悲劇が待っている可能性は十分にあるのです。

この記事の終わりに、秀作ドキュメンタリー"The Atomic States of America アメリカ原子力合衆国"の国内での公開を切望します。






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