東京水道水戒厳令の謎2011/03/26 08:45

東京都が金町浄水場でのヨウ素131の検出データにもとずき、その配水地域である23区と武蔵野、三鷹、町田、多摩、稲城の5市に「水道水の乳児の飲用制限」を要請したのは 3月23日のことでした。いわば「東京水道水戒厳令」の発令です。
この時、ふと頭に浮かんだのが、「武蔵野や三鷹は都からの給水に井戸水を混ぜて給水しているでは」という記憶でした。幼い頃、三鷹市で育った私は、「三鷹の水は井戸水」と小学校で教わり、その後、「井戸水が足りなくなったので、今日から東京の水が混ざるんだって。水がまずくなるね」と母から言われたのを覚えていたのです。

さて、今回の一件、早速、三鷹市武蔵野市のホームページを見てみました。
三鷹市では、金町浄水場の水は最大で6%。武蔵野市では約2%です。そんな事実は知っている人はあまり多くありませんから、三鷹でも武蔵野でもミネラルウォーターに人が群がり、あっという間に売り切れです。
しかし、都の水道関係者なら、井戸水ブレンドの話は皆知っていたはず。特にさし迫った危険がなかった三鷹と武蔵野にまで、なぜ「水道水戒厳令」が発令されたのか?実際に23区内ではヨウ素131の濃度が上がった地域もあったと思いますので、「水道水戒厳令」自体がおかしいとは言いませんが、どうも変です。
東京で買い占めが進めば、地震と津波と原発事故に追われて避難所で暮らす人たちに届く水も届かなくなってしまします。私たちは、厳に買い占めを慎まなくてはなりませんが、都が逆に買い占めを煽るような不正確な情報を出したことが信じられません。また、私が知る限り、この件にして、三鷹市も武蔵野市も東京都に抗議したという事実はないようです。
うがった見方はしたくありませんが、乳幼児のいる家庭へのミネラルウォーターの無料配布で株を上げた石原都知事の人気稼ぎに利用されたような思いです。

一方で、福島第1原発に近い福島県内や茨城県内では、水道水の汚染が深刻です。水がなければ生活が成り立たないのは自明。いまだに核反応生成物の放出が続いているので、見通しすらつきません。昨日、大気中から受ける累積放射線量を理由に、事実上、避難地域が半径30㎞に広げられました。今後は、汚染された水のせいで住めなくなる地域が出てくるかも知れません。
一刻も早く、核反応生成物の放出を止めてほしいものです。

食物連鎖と核分裂生成物2011/03/26 22:40

福島第1原発の排水から、基準値の千倍を超す濃度のヨウ素131、同じく79倍のセシウム137が検出されました。それを受けて、原子力安全委員会の班目春樹委員長は「放射性物質は海では希釈、拡散される」として、「人が魚を食べてもまず心配はない」との見方を示したそうです。東大や京大の教授を歴任し、今、原子力安全委員会委員長におさまっているこの人は、ホントに科学者なの?と疑いたくなります。

核分裂生成物(放射性物質)は、確かに海に流れ込めば希釈されます。しかし、それは植物プランクトンに吸収され濃縮されます。その植物プランクトンを食べた動物プランクトンの体内でさらに濃縮。食物連鎖に従って、貝類や小魚へ。そしてマグロやカツオなどの大きな魚へ。どんどん濃縮が進んで、最後は私たち人間の体に入ってきます。

環境ホルモンが問題視された時に、アメリカの国鳥であるハクトウワシが、農場や町で撒かれた殺虫剤・DDT(環境ホルモンの一つ)のせいで絶滅の危機に瀕していました。ハクトウワシは、農場の作物を突っついたわけではありません。雨で流れ出たごく少量のDDTを含む水が流れ込む先の湖に、たくさんのプランクトンがいて、そのプランクトンを食べた小魚を餌にして育った大きな魚をハクトウワシが獲っていたのです。ハクトウワシの体内では、DDTが深刻な濃度になっていました。この話は食物連鎖による毒物の濃縮の典型例とされています。「風が吹くと桶屋が儲かる」みたいな話ですが、食物連鎖とはそういうもので、生き物とはそういうものなのです。DDTの使用が禁止されると、ハクトウワシはその生息数を盛り返しました。

不要に危機感を煽るような発言は慎むべきだと思いますが、福島第1原発の事故による海洋汚染は、間違いなく進むだろうと考えられます。市場で最初に問題になるのは、おそらく海草と貝類でしょう。半減期の短いヨウ素131は深刻ではありませんが、生体がカリウムと間違って取り込んでしまうセシウム137と、カルシウムと容易に入れ代わるストロンチウム90が心配です(ともに半減期は約30年)。核分裂生成物が食物連鎖の輪に取り込まれるまでには、おそらく数ヶ月から数年あれば十分でしょう。
さらに、数日前に書いていますが、危険きわまりないストロンチウム90に関しては、東電からも国からも、まったくデータが公表されていません。いったいどうなっているのでしょうか。

福島と茨城県北部は、農業においても漁業においても、国内有数の生産地であり、先進的な取り組みをしてきた生産者も多い地域です。取り返しのつかない事態になってしまいそうで、考えれば考えるほど悲しくなります。







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