人類史上最悪の海洋汚染(1)2011/04/01 13:51

3月30日に1~4号機の放水口で採取した水から基準値の4385倍のヨウ素131を検出。福島第1原発による海洋汚染が進んでいます。

思い出してみましょう。かつて、これほど大量の放射性物質が海に流れ出したことがあったでしょうか?今回の事態は、間違いなく「人類史上最悪の海洋汚染」です。
海洋汚染と言えば、昨年の4月20日に起きたメキシコ湾の石油掘削施設が爆発し、約78万キロリットル(490万バレル)の原油が流れ出した大事故を思い出します。メキシコ湾の自然環境を大きく傷つけました。しかし、語弊を恐れずに言うなら、原油流出事故は、油を取り除いてある程度の時間が経てば、おおむね元に戻ります。
一方、放射性物質はどうでしょう?なんともやっかいなのは、取り除く術がないということです。福島では完全に崩れ去ってしまいましたが、原発事故対応の基本は「止める。冷やす。閉じ込める」です。なぜ、「閉じ込める」なのかというと、大気中や海に漏れ出してしまった放射性物質は、自然に減っていくのを待つしかないからです。一般の毒物のように、中和させたり、無毒化したりすることは不可能なのです。
海に流れ込めば薄まっていくのは確かです。しかし、忘れてはいけないのは、生物は特定の物質(原子)を濃縮する生体濃縮という能力を持っています。それは、見方を変えれば栄養を体内に貯めていく行為。生物が生物であり続けるための機能です。悲しいかな、放射性物質はこの生物としての基本的な機能の逆手を取ってきます。

今回の事故は、人類が直面する初めてのタイプの事故(放射性物質による大規模な海洋汚染)なので、放射性物質の海での拡散の仕方や、魚介類の生体濃縮に関するデータは、ほとんどありません(多少参考になるとしたら、イギリスのセラフィールド再処理工場の一件か)。
東電も保安院も、無責任に「海に流れこめば薄まるから大丈夫」と言っていますが、その裏付けはありません。
(続く)

人類史上最悪の海洋汚染(2)2011/04/01 14:22

では、核分裂生成物(放射性物質)の種類別に、この海洋汚染で危惧される内容を見ていきましょう。

●ヨウ素131
多くの方が、もう暗記してしまったと思いますが、ヨウ素131の半減期は8日と比較的短いものです。今現在、かなりの濃度のヨウ素131が漏出していますが、海水で拡散されるとともに、ヨウ素131は、ベータ線を出しながら、どんどんキセノン131に変わっていきます(さらに、そのキセノン131がガンマ線を出します)。「プランクトン→小魚→大きな魚」といった食物連鎖の環に入り込む前に、ヨウ素131は、ほとんどゼロになってしまうでしょう。
しかし、「半減期=8日」で安心してはいけません。ヨウ素131は、人間の体内に入ると甲状腺に集まり、甲状腺癌を引き起こします。同じように、海藻や魚介類に悪影響を与える可能性があります。特に、ヨウ素を大量に吸収し生体濃縮する海草類は心配です。

●セシウム137
セシウム137の半減期は約30年。1年や2年では、ほとんど減りません。生物は、セシウム137をカリウムと間違えて体内に取り込み、生体濃縮します。
農業はもちろん、園芸をやっている方なら、植物の三大栄養素=「窒素・リン酸・カリ」というのをご存じでしょう。カリとはカリウムのこと。植物だけでなく、動物にとっても必須です。

例えば、カリウムを欲しがる海藻や植物プランクトンがセシウム137を取り込み生体濃縮。それを食べた小魚の体内でさらに濃縮。さらに大きな魚を経て人間へ。生体濃縮と食物連鎖が掛け算のように相互作用しあって、私たちの身体の中に、ある程度の濃度でセシウム137が入ってくる恐れがあります。
カリウムの代わり取り込まれたセシウム137は、放射線(ベータ線)を出しながら血液に乗って身体の中を巡ります。特に肝臓や腸に影響を与える可能性があるとされています。

●ストロンチウム90
核分裂生成物の代表格でありながら、今回、まったくデータが発表されていないのがストロンチウム90(半減期=約30年)。情報が隠されている理由は不明ですが、ここではそのことには触れず、先に進みます。

生体は、ストロンチウム90をカルシウムと間違えて体内に取り込み、生体濃縮します。
日本では、「カルシウムを摂るなら牛乳か小魚」と言われてきました。海の中では、小魚がカルシウムと勘違いしてストロンチウム90を生体濃縮。私たちは、その小魚を食べることもあるし、食物連鎖のもっと上位にいる大きめの魚から、より濃縮されたストロンチウム90を摂取する可能性もあります。

人間の体もまた、ストロンチウム90をカルシウムと同じように扱いますから、ストロンチウム90は骨に集まります。骨の中にある骨髄には造血幹細胞が。造血幹細胞は、盛んに分裂し、赤血球や白血球、血小板などに分化しています。ストロンチウム90は、骨髄の中にある造血幹細胞にピンポイントで狙いを定め、放射線(ベータ線)を照射し続けると考えればよいでしょう。これが、ストロンチウム90が白血病を引き起こすメカニズムです。
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海の中での放射性物質の生体濃縮と食物連鎖の影響。過去のデータはほとんどありません。それは、福島第1原発の事故が前代未聞、人類史に残る大事故だからです。とにかく今は、放射性物質の漏出を止めること。そして、海洋汚染の進行をつぶさに観測しながら、可能な対策を実行する。残念ながら、これしかありません。そして、「不幸中の幸い」を少しずつ積み重ねていくことでしょう。

人類史上最悪の海洋汚染:補完版2011/04/03 17:37

「人類史上最悪の海洋汚染1・2」に、やや不十分な部分があったので補完します。

昨日の朝日新聞のサイトに興味深い記事が上がりました。
「英の放射能海洋汚染半世紀」
イングランド北西部にあるセラフィールドにある核燃料再処理工場が、1960年代から70年代にかけて、過去最悪の放射性物質による海洋汚染を起こしていたという話です。

セラフィールドは、もともとはウィンズケール原子力研究所としてスタートし、1957年10月10日には、世界初の原子炉重大事故と言われるウィンズケール火災事故を起こしています。数十人が白血病で死亡し、今も、白血病の発生率は全国平均の3倍だそうです(当ブログで再三指摘してきたストロンチウム90が関わった可能性が大)。

セラフィールドには、原子炉と核燃料再処理工場が併設されていたのです。そして、過去最悪の放射性物質による海洋汚染が起きました。事実関係や数字は朝日の記事をご一読ください。 一方、今、福島第1原発で起きている海洋汚染は、セラフィールド以上になる可能性が十分にあります。当事国のイギリスは情報を出したがらないでしょうから、対岸のアイルランドで得られたデータなどを解析して、少しでも対策の参考にすべきでしょう。まずは流出を止めることが先決ですが。

もう一点だけ、この件は、試験運転をしている六ヶ所村の再処理工場の今後にも、大きく関わる問題です。

再臨界は起きているのか?2011/04/05 09:46

「再臨界は起きてるのか?」
3月11日以来、私は多くの友人から、この質問を受けてきました。私の答えは、「燃料棒が溶融した直後に、短い間、再臨界に達した可能性はあるが、今は起きていないだろう」というものでした。この裏付けは、東電から発表される中性子線の放射量が極めて低かったからです。小規模であれ再臨界が起きれば、中性子線量は跳ね上がると思われます。ただ、中性子線は遠くまでは飛んでこないので、どこで計るかという問題はありますが…

さて、再臨界に関する興味深い論文が出ました。アメリカの科学雑誌「Nature」のウェブサイトでも紹介されたようです。
原論文は、専門的な上、翻訳で読みにくいので、かいつまんで説明しましょう。
まず、1号炉のタービン建屋の溜り水から高濃度の塩素38が検出されたようです(このニュース自体が一般には伝えられていません)。この塩素38というのは、普通の塩素、つまり安定した塩素=塩素37が中性子を一つ吸収してできる放射性物質(放射性同位元素)で、その半減期は37分と短いものです。

普段、原子炉では、塩素と中性子が出会うことはありません。しかし今は、炉心を冷やすために海水を注入しています。炉心近くで海水中の塩素37が中性子を得て、塩素38になったことは間違いありません。半減期から推測するに、それはごく最近に起きたか、現在進行中のはずです。

炉心で中性子が出ているとしたら、その原因は再臨界がまず疑われます。溶融して銑鉄か溶岩のようになった核燃料の中で、ウラン235がある濃度で、ある大きさ以上の一塊になり、そこに水があれば連鎖的核分裂反応が起きます。これが再臨界です。ウラン235は、ストロンチウム90やヨウ素131・セシウム137などに分裂。大きな熱エネルギーとともに2~3個の中性子が飛び出してきます。その中性子が別のウラン235に当たり、核分裂を引き起こす。これが連鎖的に起きるのが臨界状態です。

溶融した核燃料が、どのような形で再臨界に達するのか、そのメカニズムは正確には解明されていませんが、核燃料全体で一気に連鎖的核分裂反応が起きるのではなく、溶岩のように溶けた核燃料の一部でウラン235の濃度が高くなり、連鎖的核分裂反応(再臨界)が起きると考えられています。部分的であれ、再臨界が起きているとすると、危険な放射性物質の生成がさらに進むのと、炉心の冷却は今まで以上に容易なことではなくなります。

今回の塩素38の検出に関して、「再臨界ではない」とする学者たちは、「ウラン235の核分裂反応の結果できたプルトニウム240(など)の自発的核分裂(連鎖的ではない)の際に発する中性子のせいだ」としていますが、紹介した論文の中では、「自発的核分裂が唯一の原因とするには、塩素38の濃度が高すぎる」と反論の反論をしています。

悔しいかな、私たちの手元には、問題の塩素38が、いつ、どんな濃度で検出されたのか、正確なデータがありません。
東京電力と原子力安全・保安院は、すべての地点での、すべての放射性物質の検出データを速やかに公開すべきでしょう。

ちなみに、たった16㎏、バケツ一杯の核燃料が起こしたJCOの再臨界事故ですら、2名の死者と667名の被爆者を出しています。
もし、1号炉で、今も再臨界が進んでいるとしたら、たいへん危険な事態と言えるでしょう。

魚と放射性物質2011/04/05 14:03

今ごろになって、「水産庁、検査強化 「魚の体内で濃縮せぬ」の見解再検討」だそうです。恐るべき不見識!
水産庁には、食物連鎖と生体濃縮に関する知識を持つ役人が一人もいなかった?そんなわけないでしょう。皆、運良く魚から高濃度の核分裂生成物(放射性物質)が検出されないことを願っていただけなのでしょう。自分が面倒な立場に追い込まれたくないだけの理由で。彼らは、漁民のことも、消費者のことも、まったく考えていないと断言したくなります。

さて事実関係ですが、茨城県沖で穫れたイカナゴ(コウナゴ)から高濃度のヨウ素131が検出されました。これは、私が思っていた以上に速いペースで、生体濃縮が進んでいるということです。半減期8日のヨウ素131でさえ、この調子です。セシウム137やストロンチウム90はどうなっているのでしょうか?

魚の体内に蓄積される放射性物質が、私たちに影響を及ぼすとしたら、間違いなく、それを食べたことによる内部被曝です。何度か書いているとおり、セシウム137は血流に乗って全身を巡り、肝臓や腸に癌などの障害を起こす可能性があります。ストロンチウム90は骨にたまり、造血細胞にベータ線を放射し、白血病を引き起こします。セシウム137とストロンチウム90は微量であっても恐ろしい放射性物質です。

ヨウ素131が検出されたイカナゴ(コウナゴ)は、常識的には、セシウム137やストロンチウム90も蓄積していたはずです。微量であっても、こういったデータは公開すべきです。もし、ゼロであったらあったで、不幸中の幸いとして、明確にすべきでしょう。情報の公開が、まだまだ滞っています。

魚と放射性物質:追記2011/04/06 08:25

やはり、コウナゴからセシウム137が検出されました。
海の生物たちは、海に広がったはずの放射性物質を、悲しいかな、せっせと集めて体内に取り込み、濃縮までしてしまうのです。
食物連鎖に従って、コウナゴを食べる中型魚、大型魚に汚染が広がる可能性は大です。一方、プランクトンにも汚染が広がっていると思われますから、今後、他の魚介類からもセシウム137が検出されるでしょう。何も悪いことをしていない漁業関係者に誰がどう謝るのでしょうか。

さて、魚に限らず、生物はセシウム137をカリウムと同じように扱います。原子の周期律表で見ると、どちらも一番左の列(アルカリ金属)です。これは、セシウムとカリウムの性質が似ていることを示しています。言ってみれば、人間を含めて、生物は皆、セシウム137をカリウムと勘違いして体内に取り込んでしまうのです。

一方、カリウムは生物にとって不可欠な栄養素の一つです。農業関係、あるいは園芸を少しでもやったことがある人は、すぐに分かると思いますが、植物の三大栄養素は、窒素・リン酸・カリ(カリウム)。動物の体内でも、細胞の基本的な活動を支えています。
このカリウムの代わりに、放射線を長い期間にわたって発し続けるセシウム137が入り込んでしまったら… 恐ろしいことなのです。

栄養素を体内で濃縮するという生命体の基本とも言える活動が、危険な放射性物質を体内にため込む働きをしてしまう。このパラドックスは、地球上に、余分な放射性物質を絶対に作ってはいけないことを示しています。

100,000年後の安全2011/04/08 14:54

「100,000年後の安全」というドキュメンタリー映画を観てきました。
原発から排出される高レベル放射性廃棄物(簡単に言えば使用済み燃料棒)の最終処理場を巡る話です。舞台はフィンランド。オルキルオトという場所に建設中の放射性廃棄物の最終処分場“オンカロ(隠された場所)”にカメラが初めて入り、処分場の当事者たちにインタビューを試みます。

現在ある高レベル放射性廃棄物が人に害を及ぼさなくなるまでには10万年かかるという前提で作られたオンカロ。しかし、映画(マイケル・マドセン監督)は、「10万年もの間、人類はオンカロが危険な場所であるということを伝えきれるのか」と問いかけます。例えば、今から10万年前といえば、ネアンデルタール人の時代で、私たちの直接の祖先である新人がアフリカの一部で暮らし始めた頃。この先10万年、人類は放射性廃棄物の危険性を語り継ぐことができるのでしょうか。
ツタンカーメンが棺に納められたのは、今からたった3,000年程前のこと。開けてはいけないと厳封されていたその棺桶は1922年に開封されました。オンカロは3,000年どころではありません。10万年の間、安全に保管するというのはとてつもない話なのです。
10万年は、私たち人類にとっては、とても長い時間です。しかし、放射性物質にとっては、それほど長い時間ではありません。例えば、プルトニウム239の半減期は2万4千年。アメリシウム 241は432年、ウラン235は7億年です。比較的半減期が短いとされるプルトニウム239でさえ、1/16にしか減らないのです。
放射性廃棄物を人類は扱いきれるのだろうか… 「100,000年後の安全」は、静かに本質的な問題を突きつけてきます。

燃料棒除去の着手まで10年2011/04/08 21:11

東電の榎本聡明顧問によると、「燃料棒除去の着手まで10年」だそうです。
なぜ、それだけの時間がかかるのか。その間、今避難している住民はどうなるのか。農民や漁民への補償はどうなるのか。燃料棒除去の費用は誰がどう負担するのか。そういった費用まで含めて、原発の経済性は維持できるのか。明確にすべきでしょう。

In the year 2525:私たちは責任を負えるのか…2011/04/09 21:22

「100,000年後の安全」に関連して、tossiniさんからご紹介のあったIn the year 2525 by Zager & Evans」が、YouTubeに上がっていました。

反原発デモに1万5千人 黙殺するマスメディア2011/04/11 09:17

昨4月10日、各地で反原発デモが繰り広げられました。中でも、東京・高円寺のデモには、1万5千人が参加
芝公園にも2000人が集まり、経産省や東京電力の前で抗議の声を上げました。

一方、統一地方選挙の投票日と重なったと言え、こういった反原発の大きな動きがマスメディアを通じて報じられることは、ほとんどありませんでした。「黙殺」という言葉が頭をよぎります。これでは、「マスメディアは、東電と政府の広報機関」と言われても反論できないでしょう。

なお、芝公園の方のデモ参加者がギター片手に歌っているのは、作詞・作曲・替え歌=斉藤和義の「ずっとウソだった」(原曲=ずっと好きだった)です。いやぁ~、とりあえず痛快です!






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