移住コーディネーター制度を検討すべき2011/08/22 10:10

やっと政府が、「原発周辺に居住が長期間困難な地域が残る」ことを認めました。
「原発周辺の土地、国借り上げ検討 居住を長期禁止」(朝日新聞)
「原発:警戒区域解除を一部見送り 首相が現地で説明へ」(毎日新聞
現段階では、はっきりと「移住」には言及はしていませんが、早晩、本格的に検討せざるを得なくなるでしょう。

住民の移住は、事故発生後の早い時期から、当ブログを含む多くの場所で、多くの人たちが想定し、提案してきたものです。

事故から25年の経たチェルノブイリでは、依然として30km圏を中心に居住禁止地域が定められたままです。福島第1で漏出した放射性物質は、今のところ、チェルノブイリの1/8とか1/10とか言われています。しかし、住民には酷ですが、発電所至近の地域が、長い間、生活できる環境には戻らないことは分かりきっていたことです。3.11から間もなく半年。やっと、政府がそのことを認めたのです。

チェルノブイリ事故に対する当時のソ連政府の対応は、情報の隠蔽を中心に、誉められるものはほとんど見い出せません。しかし、事故発生の翌日には、数千台のバスを動員して、まず原発至近のプリピャチ市の住民4万5千人全員の避難を実行。およそ一週間以内に、原発から30km以内に居住する11万6000人を避難させています。
さらに、30km圏とは別に、土壌が高濃度に汚染されたエリア(放射性セシウムが18万5000ベクレル/㎡以上)では、住民の「移住権」を認める対応をしました。
それでも、主に内部被ばくに起因すると考えられる放射線障害が、広範囲で、多くの人たちの健康を蝕んでいるのが現状なのです(「チェルノブイリ原発事故によるその後の事故影響」今中哲二)。
日本政府の対応はあまりに遅すぎます。

しかし、嘆いてばかりいても始まらないので、福島第1の事故で、これから先、移住の問題をどう考えていけばよいのか、検討してみましょう。

今回の発表の一番の問題点は、土地の借り上げが前提となっており、完全には「移住」を認めていないことです。もし、1年以内に戻れるという見通しがあるなら、借り上げもあり得るでしょう。しかし、そんな甘い話ではないのです。農業を営んできた人たち、畜産業を営んできた人たち、漁業を営んできた人たちをどう救うつもりなのでしょうか… 間違いなく代替え地・代替え施設を用意してあげる必要があるし、それが国の義務でしょう。この期に及んでも、「すべて金で解決」という姿勢が見え隠れすのは許しがたいです。

まず、もっとも汚染のひどい地域を「居住禁止エリア」にすること。その外側に、「移住権認定エリア」を設けるべきでしょう。これは、職種や子供の有無などによって、移住を望むかどうか、個々の住民の判断が異なってくるからです。

さて、ここで問題となるのが、住民の移住を誰が、どうアレンジするのかです。「お金は渡しますので、あとはご自身でどうぞ」というのは、絶対にやってはいけないことです。
地域のコミュニティーをできるだけ維持する形で移住を考えていく必要があります。教育施設や医療機関を配慮することも大切です。こういった複雑な事情が絡む移住を、住民にとって少しでも負担のない形で実現するためには、まず地域の自治体の努力が必要です。ただ、それだけでは不十分。民間からプロの力を動員することを考えるべきでしょう。

具体的には、不動産鑑定士とか宅地建物取引主任者の資格を持つプロの人材に、不動産業界から期間限定で、公的機関(NGOというやり方もあるかも)に出向してもらうのです。この人たちを仮に「移住コーディネーター」と名付けましょう。

移住には、当然にも複数の地方自治体がからみます。当事者だけで、事がスムーズに運ぶとは考えられません。
例えば、
過疎で集落の半分以上が空き家になっている地域に集団で移住することを考える。
廃業した畜産農家の施設が残る場所に、福島の畜産農家の移住をアレンジする。
余裕のある漁港に、漁業中心の集落全体の移住を実行する。
全国の公営住宅の空き室・空き家を網羅し、住民にもっとも適した移住先を探す。
廃校になった小学校を活用して、学校を中心とするコミュニティー全体の移住を実現する。

他にも可能性はいろいろと考えられます。だからこそ、こういったコーディネートは四角四面の決まりの中では不可能。例外だらけになるからです。
被災地域の自治体に、その任を全面的に負わせるのは酷だし、難しいでしょう。移住コーディネーターが必要です。

不動産業界としては、移住コーディネーターが活躍すればするほど、塩漬けになっていた不動産が動くので、多少のメリットがあるはずです。
一方で、利権を発生させてはいけないので、いくつかの決まりを作っておく必要はありますが。

「いつかは戻れるようにしたい」という曖昧な対応を続けることは、今、避難している住民たちを少しは勇気づけているのかも知れません。しかし、事実を認めて、本格的に手を打っていかないと、結局、大きな混乱と不幸を残すだけになります。

ここは、国の決断と不動産業界の社会貢献に期待したいです。

コメント

_ うっちゃん ― 2011/08/28 07:17

チェルノブイリ事故発生直後のソ連政府の迅速な住民移住措置に対し、半年経っても明確にならない日本政府の対応…共産主義と資本主義の差が大きく見られますね。

資本主義下では、誰がどこまでどの様に保障するかが大きな問題となり対応が遅れるのでしょう。

原発事故はどこで起きても大変なことですが、資本主義下で起きた際には、お金の出所でもめて不明瞭でドロドロの保障になると思います。

移住措置の対応の違いは見られても、原発の隠蔽体質は共産国、資本主義国でも共通の様ですね!

_ 私設原子力情報室 ― 2011/08/28 16:45

ソ連でのゴルバチョフ政権の成立が1985年3月。ほぼ1年後の1986年4月26日にチェルノブイリ事故です。住民の強制避難は実行しつつも、スウェーデンで核分裂生成物が検出されるまで、ソ連政府は、事故の事実を完全に隠蔽し続けました。世界に向けて、未曾有の原発事故が起きたことを発表したのは4月28日になってからです。私は今でも、この時の会見における、ゴルバチョフの苦渋に満ちた表情を忘れることができません。

チェルノブイリ事故をキッカケに、ゴルバチョフがグラスノスチ(情報公開)を推し進め、ソ連官僚社会の隠蔽体質を変えようとしたことは事実です。一方で、事故直後の段階でゴルバチョフ自身が、事実をどこまで知っていて、どういう判断をしたのかは知りたいところ(未読ですが『ゴルバチョフ回想録』の中にも、細かい経緯は書かれていないよう)。ご承知の通り、ペレストロイカもグラスノスチも、道半ばで頓挫しました。しかし、だからこそ、ゴルバチョフには重要な証言を残して欲しいのです。

さて、ソ連と日本で共通するのは、強力な官僚体制です。彼らが一元的に情報をコントロールできるシステムが有る限り、隠蔽体質は変わらないでしょう。もちろん、ソ連に比べれば、今の日本では、情報は出てきているのですが、大事なところは、いつも隠されています。
原発は、ソ連では官僚制度の中に直接組み込まれていましたが、日本では電力会社が所有し運営しているという大きな違いがあります。電力会社は私企業ですから、なんらかの縛り(罰則)がない限り、都合の悪い情報を隠したがるのは当然です。それを縛るのが、原子力安全・保安院や通産省の仕事のはず。しかし、やらせメール問題で明らかになったように、そこには完全な癒着体質しかありません。昔のような露骨な贈収賄は影を潜めてますが、夜の会合はそれなりに行われ、天下りも相変わらず。最近では、子供の就職の面倒を見るという手口が横行しているようです。例えば、通産省の高級官僚の息子や娘が電力会社に就職しているというような… これは、人質ですよね。
権力の官僚への集中と官民癒着。これを突き崩さないと、日本は変われないでしょうね。

_ うっちゃん ― 2011/08/30 23:13

>権力の官僚への集中と官民癒着!!!!!

原子力発電のメカニズム以外を説明するのに最もふさわしい一言!ですね。おっしゃるとおり、これをいち早く突き崩して、原発周辺の住民の皆さんに新しい生活をスタートさせてあげて欲しいものです。

今日は福島第一原発で作業をされていた方の一人が急性白血病で亡くなられたという記事を読みました。原発作業との因果関係を否定して、うやむやにする東電。調査を行おうという気配すらなさそうな感じに、非常に憤慨いたしました。

今後原発作業員を志願する人は更に減ることでしょう。こんな中で福島第一の事故処理のみならず、(維持または廃炉までの継続なり)原子力発電自体をこれからどの様に進めるつもりなのでしょうか?

一刻も早い原発全廃を望みます。

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