原子の一個一個に至るまで2011/09/30 17:29

地元の人たちの声や自治体からの要望に押されて、ようやく国が除染に向けて動き出しました。

『年間5ミリシーベルト以上地域、国が除染へ 環境省方針』【朝日新聞9月27日
『福島第1原発:8都県に中間貯蔵施設 汚泥で環境事務次官』【毎日新聞9月29日
『放射性物質除染:1~5ミリシーベルトでも国負担』【毎日新聞9月29日

私は、今回の事故で漏出・飛散した放射性物質に関して、その原子の一個一個に至るまで、東京電力が回収する責任を負っていると考えます。原賠法(原子力損害賠償法)の解釈はともあれ、少なくとも道義的責任は、まず東京電力にあると。これは、誰の目にも明らかなことです。
例えて言うなら、居眠り運転で重大事故を引き起こしたのは東電であり、国または経産省は、ドライバーが寝不足なのを知りながら、助手席で運転を黙認してきた存在です。

除染へ向けての国からの発表を見て、すごく気になるのは、「本来、東電がやるべきことだ」ということを明言していないことです。
いつの間にか、第2次補正予算の予備費からの出費が決まっていたり、第3次補正予算には百数十億円を計上する予定になっていたり。もちろん、迅速に動かなくてはなりませんから、一時的に税金で立て替えることは必要でしょう。しかし、それは、国が責任を持って東電から取り立てるべきです。そのことを最初に明言しておかなかったら、東電は間違いなく責任を回避して、逃げ切るでしょう。人類史に残る重大事故を引き起こした主犯を取り逃がすような、暗に、そんな動きを感じているのは、私だけではないでしょう。
もし、東電が、本当に払いきれないとなった時、分割や国有化を含めて議論すべきです。とにかく、東電からは搾り取れるだけ搾り取る。言葉は悪いですが、国には、この姿勢が求められます。
一方の東電も、除染に関して、ほとんど言葉を発しません。本来なら自分がすべきことを国や自治体に肩代わりしてもらわざるを得ないことに対する全面的な謝罪があってしかるべきでしょう。

それにしても、国レベルで除染が動き出すまで、なぜ、こんなに時間がかかったのでしょうか。「遅きに失した」と批判されてもやむを得ません。地元からの強い要望や東大・児玉龍彦教授など研究者の強い要請があって、やっと動き出そうか… という程度です。
チェルノブイリでは、強制避難地域や移住権利区域に指定された汚染レベルでも、避難や移住は補償しないし、かと言って、除染もしない。こういう非人道的とも言える対応が、半年以上に渡って続いてきたのです。もっと早く動き出していれば、たくさんの人たちの被ばく量を下げることができました。

最初は、福島の地元の人たちや自治体による自主的な除染活動でした。それを研究者たちが支援してきました。8月下旬から9月になると、住民の声に押されて、東京都や千葉県、埼玉県などでも、自治体によるホットスポット(教育施設中心)の除染が始まりました。そして、やっと国です。
今は、とにかく迅速に、大規模な除染を進めるべきです。
ただ、その時に、東電の責任を常に明確にしておくことを忘れてはなりません。埼玉県のある市で、住民が自主的に除染を進めた時のエピソードですが、集めた汚染土を東電の支社に持ち込んだところ、受け取りを拒否されたという出来事が、実際にありました。

さて、除染作業では、汚染された土、汚泥、枯葉といったものが大量に集まります。これをどこに集め、安全に保管するのかが大きな問題となっています。
ここでも基本は、「放射性物質の原子の一個一個に至るまで、東京電力が回収する責任を負っている」という立場です。福島第1から出たものは福島第1に戻すと。

東大の森口祐一教授の試算によると、除染土壌の体積は東京ドーム80杯分に相当するそうです。現実的に、一気に福島第1に運び込むのは難しいので、仮置き場や中間貯蔵施設が必要にはなるでしょうが、最終的には福島第1だと私は考えます。

もう一つあるとすれば、福島第1の電力を主に使ってきたのは東京なのだから、東京で保管するという考え方。現実的に場所がない?そんなことはありません。地下鉄の半蔵門線か大江戸線をそれに当てればよいのです。この二つ路線は、かなり地下深くを走っています。半蔵門線が永田町を通るのも象徴的な意味を持つでしょう。レールが敷いてありますから、奥から、どんどん汚染物質を詰め込んでいくのには適しています。荒唐無稽なアイデアと一笑に付されそうですが、このくらい大胆なことを考えないと、汚染物質が宙に浮いてしまい、あっちこっちで行方不明になるという最悪の事態を招きかねません。

最後にもう一度繰り返します。仮に、中間貯蔵施設や最終処分場が東電の敷地以外の場所に作られるとしても、私たちは、「放射性物質の原子の一個一個に至るまで、東京電力が回収する責任を負っている」という原則を忘れてはなりません。電力会社に原発事故に対する免罪符を与えないために。

再度、プルトニウムに警戒を2011/09/30 21:18

これまでも、アメリカ西海岸を含むたくさんの場所で、福島第1由来とされるプルトニウムが検出されてきました。今回は、やっと、文科省が福島第1の敷地外へのプルトニウムの飛散を認めた形です。

『飯舘村など プルトニウム検出』(NHK9月30日
『アメリカ西海岸へのプルトニウム飛散/ガンダーセン博士』(CNN6月7日

さて、このNHKの報道は、注意深く読み解く必要があります。
まず、プルトニウムが崩壊する際に発するアルファ線による被ばくは、○○シーベルトの基準となるガンマ線による外部被ばくと同列に語れるものではありません。
ガンマ線が大気中では数百メートルから数キロメートル以上飛ぶのに対して、アルファ線は、1センチ以下しか飛ぶことが出来ません。人体に対しては、ガンマ線の一部は透過しますが、アルファ線は数ミクロンしか進むことができません。
簡単に言うと、プルトニウムの塊が、今、目の前にあったとしても、外部被ばくを受けることはないのです。しかし、内部被ばくは深刻です。呼吸によって肺に入った場合、肺の細胞に長く留まり続け(数十年以上)、周りの細胞をガン化させます。
プルトニウムの半減期は2万4千年と長いので、滅多にアルファ線を発しないから大丈夫!などと言う人がいますが、これは大嘘!!肺に入った微粒子一個には、数億から数百億個というプルトニウム原子が含まれています。この莫大な数の原子が、一つずつ崩壊をしていくことで、2万4千年目に半分に減るのです。アルファ線の放出は、肺に入ったその瞬間、すでに始まっています。
そして怖いのは、水に溶けにくいプルトニウムは、血流に乗ることもなく、同じ場所に留まり続けるということです。先に、アルファ線は体内では数ミクロンしか進めないと書きましたが、逆に言えば、プルトニウムの微粒子から半径数ミクロン以内にある細胞は、徹底してアルファ線を浴び続けます。これだけでも、至近距離にある細胞がガン化しない方が不思議なくらいでしょう。さらに、放射線がDNAを破壊する力を電離作用と言いますが、アルファ線は、ガンマ線やベータ線の20倍の電離作用力を持っています。これらが、プルトニウムを含む微粉末数個を吸い込んだだけで、肺ガンを発症する危険性があるとされる理由です。

上の画像は、長崎大学の七條和子先生のブループが、2009年にとらえたもの。人間の体内でプルトニウムが発したアルファ線の軌跡です。実は、長崎原爆の被ばく者で、亡くなった方の保存されていた細胞を使って撮影したものです。被ばくから60数年経っても、体内にプルトニウムが残っていて、それがアルファ線を発し続けているという、これ以上の証拠は有りません。

では、比重の大きいプルトニウムが、なぜ、遠くまで飛ぶのか?冒頭にリンクを張ったNHKの記事で、東大の長崎晋也教授が、「粒子が非常に小さければ気象条件によって遠くに運ばれることはありえないことではない」と言う通りです。
分かり難いので、より詳しく解説すると、要するに、物質は小さくなればなるほど、重さに対する表面積の比が大きくなり、空気の抵抗を受けて飛びやすくなるという理屈。巨岩はどんな強風が吹いても微動だにしませんが、それが小さく砕けた砂粒は、ちょっとした風で舞い上がるのと同じです。
さらに、炉心溶融ののちに固まった核燃料が、一種類の元素で集まっているはずはありません。比重の軽い元素と一緒になっていると考える方が自然でしょう(大きな塊から微粉末まであります)。さらに、固まる時に、気泡を含んでいるでしょう。遠くまで飛んだのは、イメージとしては核燃料の火山灰のようなものです。火山灰の中に、プルトニウムが潜んでいると(冒頭にリンクを張ったCNNのリポートの中で、ガンダーセン博士が言っている「ホット・パーティクル」は、おそらく、この火山灰状の微粒子を指していると思われます)。

あいかわらず、文科省は、外部被ばくと内部被ばくを、そして、ガンマ線とアルファ線を一緒くたにして、「今回検出されたプルトニウムの濃度はいずれも低く、これらのプルトニウムによる被ばく量は非常に小さい」などと言っていますが、これはまったく根拠の無い主張です。
微粉末一個二個でも恐ろしいのがプルトニウムです。
プルトニウム飛散の状況を徹底して調査して、誰一人としてプルトニウムを肺に吸い込まないような対策を考え、実行すべきでしょう。
調査の方法としては、ガンダーセン博士が拠り所とした、クルマのエアフィルターを調べる方法の他に、下水処理場に集まってくる汚泥や、ゴミ焼却施設の灰などを調べる方法があります。
地面を一掘りして、その土の中にないからといって、安心できないのが、プルトニウムなのです。






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