安斎育郎さん、室井佑月さん、今こそ一言を!2011/11/01 22:21

10月17日の『あさイチ』に、ゲストコメンテーターとして出演したのは、放射線防護学を専門とする安斎育郎さん(立命館大学名誉教授)と作家の室井佑月さんでした。

「これは絶対!」という勢いで示された、
首都大学東京の福士研究室の分析データに対して、最後まで首を縦に振らなかった室井さんの母親としての直感というか、作家魂には頭が下がりました(私でさえ騙されかけました)。

安斎先生は、「まさか学者が間違ったのデータを提供するはずない」という前提から、福士研究室のデータを受け入れていますが、「これは、この1週間では出なかったという事だけれども別の1週間やったら少し出るという可能性もありますし」とか「この日たまたま多いのは、これはカリウムリッチで、食事をいっぱいとったのかもしれませんけどね」といった疑問を呈しています。番組全文書き起しという大変な作業をしてくれたブログがあります。あの『あさイチ』を見た人も、見なかった人も、一度目を通したらよいと思います。

当ブログとしては、意図せずこの一件に巻き込まれてしまった安斎育郎さん室井佑月さんにお願いがあります。他でもありません、『あさイチ』のレポートに対して、どういう立場を取るのかということです。今がよいのか、NHKが再検証の結果を発表してからがよいのか分かりませんが、是非とも立場表明をして欲しいです。

一方、分析を担当し、今、再分析に取り組んでいるはずの福士政広教授へ。ご専門は放射線安全管理学だそうですね。もし、再分析・再解析で、正しいデータを出せないようだったら、あなたの学者人生は終わりますよ。
でも実は、福士教授の学者人生がどうのこうのという、小っちゃな話ではないのです。子供たちの命が、私たちの命が守れるのかという話なのです。福士教授には、是非、この点を理解して欲しいものです。

福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト2011/11/13 14:45

今、福島の人たちは、まったくひどい状況の中に住み続けることを強制されています。

国が発表した年間1ミリシーベルトという除染のための基準。『汚染状況重点調査地区域』という難しい名称が付いていますが、簡単に言えば、福島第1由来の外部被ばく量が年間1ミリシーベルトを越える場所には、除染を受ける権利が有るという話です。最初、年間5ミリシーベルトと発表して、被災者から猛反発を食い、1ミリシーベルトに下げた経緯があるため、いかにも低い数字のように思えますが、これに騙されてはいけません。

この年間1ミリシーベルトという数字を冷静に見直すためには、除染だけでなく、避難や移住まで含めて、今、どういった基準になっているのか… それを検証し直す必要があります(福島の皆さんは切実な問題なので、ほとんど理解されていると思いますが、全国的に見ると多くの人が理解していません)。
まず一覧表で、チェルノブイリの基準と較べてみましょう。いかに、福島の基準が緩いものなのかお分かりいただけると思います。それは、とりもなおさず、福島の人たちが、きわめて危険な場所に住み続けさせられているということです。

年間1ミリシーベルトは、チェルノブイリでは、クリーンな環境への「移住権利」が認められる基準でした。
福島では、年間1ミリシーベルトでは、まったく先行きの見えない除染を受ける権利しか得ることができません。
他にも、チェルノブイリと福島では、明らかに、人の健康と命に対する基本的な考え方が、違っています。ソ連という国が崩壊するかしないかという瀬戸際の時期に、語弊を恐れずに言うなら、「チェルノブイリでさえ、ここまでやっていた」のです。
分かりやすい図にまとめてみました。

実質的に、避難や疎開・移住が義務化される基準値は、チェルノブイリでは年間5ミリシーベルトでした。福島では20ミリシーベルトです。「移住権利」については明確な概念すらなく、実質的には20ミリシーベルトを越えないと得ることができません。これはチェルノブイリの基準の20倍です。

年間20ミリシーベルトより下には、「除染を受ける権利」しかありません。しかし、その除染は遅々として進まず、時が無為に流れています。山林や農地の除染は見通しがまったく立たず、住宅地でも「屋根の除染が難しい」「風が吹くと放射性セシウムが舞い上がっているらしい」「セシウム以外の核種はどこにどうなているのか不明」といった新たな困難が明らかになっています。国や自治体が立ち止まる度に、住民は、しなくてよい被ばくを受け続けているのです。

「除染なのか移住なのか」という議論も起きています。これは、最終的には、どこかで線を引かなくてはなりません。ただ、必ずしも一本の明確な線である必要はありません。
まず、「移住権利エリア」をある程度広範囲にとって、移住するかどうかの判断を住民が行えるようにするべきでしょう。
それでもエリアごとの境界線は決めなくてはいけませんが、単純に○○シーベルトで切るのではなく、すくなくとも集落単位で設定すべきです。移住するにしても、住み続けるにしても、多くの困難が伴います。その時に、今まで暮らしてきた共同体が完全に失われてしまったら、何も前に進まなくなるでしょう。

住民の移住に関する原則があります。それは、東電と政府は、住民の生活を3.11の前の状態に戻す義務があるということを明確化すること。2ヘクタールの稲作をしていた農家には2ヘクタールの水田を。600頭の牛を飼っていた畜産家には600頭の牛を。この原則を徹底して守りながら、移住を実行しなくてはなりません。
外から見た勝手な思いと言われてしまうかも知れませんが、住民の皆さんも、移住に伴って、今までの暮らしを棄てるようなことはしないでください。住民は、何も悪いことはしていないのですから。

今、最悪の指定基準になっているのは、「特定避難勧奨地点」です。これは、世帯単位で決めているため、指定世帯のすぐ隣でも指定されなかったり、玄関先を毎日きれいに掃除していたために空間線量が局所的に下がり、指定されなかったりといった馬鹿げた事態が起きています。
人の暮らしが、家の中にとどまらないのは当たり前で、これは早急に集落単位の基準に変更すべきです。また、家の目の前に、高度に汚染された山林があったら、そこに住めないのは自明です。宅地だけを測っても意味はありません。もちろん、年間20ミリシーベルトなどという数字も根底から見直さなくてはいけません。

今一度、「福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト」の違いをしっかりと見直してみる必要があります。

移住と除染2011/11/23 08:55

福島第1原発が立地する大熊町。町全体が20km圏内の警戒区域に入り、町民全員の避難が続いています。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。

ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。

●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。

ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。

●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。

除染と言われて、真っ先に思い浮かぶは、汚染土壌をビニール袋に詰めて山積みにしていく風景か、高圧洗浄機で道路や屋根を洗い流している風景です。
このうち、汚染土壌の方は、各自治体とも保管先に腐心していますが、基本的には、「仮置き場→中間処理施設→最終処分場」という流れで、環境から隔離することができます。
洗浄水はどうでしょうか?一部の都市部を除けば、ほとんどが河川や海に流れ込んでいきます。これでは、放射性物質を環境から取り除いたことにはなりません。ピンポイントの除染では、屋根の洗浄は欠かせませんが、原則は「放射性物質を環境から隔離する」ことだと理解しておかないと、放射性物質の拡散を招く恐れがあります。下水施設のない地域では、河川に流れ込んだ放射性物質を回収する方法を考える必要があります。

一方、ゴミ処理所の焼却灰や下水処理場の汚泥に、高濃度の放射性物質が集まることが問題視されていますが、これは、不幸中の幸いと考えるべきでしょう。灰や汚泥に集まらなかったら、いつまでも、環境中にあるのですから。中間処理施設を早急に建設し、汚染された灰や汚泥を環境から完全に切り離すことが先決です。

●森林や農地の除染は本当にできるのか?
仮に、住宅地の除染がある程度できたとしても、森林の除染は容易ではありません。
国は、住民に「高濃度に汚染された森林と面と向かって暮らせ!」と言うのでしょうか?森林から流れ出る水はどうするのでしょうか?森林と人の生活圏との間を行ったり来たりする野生動物をどうするのでしょうか?解決の術は見当たりません。
この間、放射性セシウムを積極的に吸着する、いくつかの物質が提案されていますが、それらは例外なく、植物にとって欠くことの出来ない栄養素であるカリウムも吸着してしまいます。生態系の中から、放射性セシウムだけを抜き取ることは、ほぼ不可能といってよいのです。

農地は森林よりは除染できる可能性がありますが、それでも困難が付きまといます。農地の汚染は、作元を通して内部被ばくに直接つながります。きわめて深刻な問題です。
農地から放射性セシウムを化学的に除去しようとすると、必ず栄養分のカリウムも失われてしまうのは、森林の場合と一緒。今のところ、表土と、ある程度深いところの土を入れ替えてしまうのが有効とされていますが、大変な労力を伴う上に、土質が変わってしまいます。
チェルノブイリでは、最初、農地の土を丸ごと入れ替えることを考えましたが、あまりに広すぎて断念。今は、カリウムを撒いて、作物が吸収する射性セシウムの濃度を相対的に下げる方法が中心になっているようです。
何十年もかけて作ってきた豊かな土を放射性物質によって汚されてしまった農家の悔しさを思うと、涙が出てきます。

●福島県以外のホットスポットに関して
首都圏でも、千葉県柏市や埼玉県三郷市など、放射性物質のホットスポットが見つかっています。
除染が難しい森林が少ない地域なので、やる気になれば、徹底的に除染を進めることができると思います。汚染土壌の除去、屋根やアスファルト路面の洗浄などです。場合によっては、街路樹や植栽を撤去・植え替えする必要もあるかも知れません。
一方で、群馬県などには、山間部にもホットスポットがあります。高濃度に汚染された森林をどうするのか… 原発至近エリアと同じ問題があります。
悲しいかな、数十年間、立ち入り禁止にすべき森があります。

●自衛隊を全力動員せよ!
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が、国の内部被ばくや除染に対する対応を鋭く批判したのは、7月30日のことでした。
この日の児玉発言の中に、「ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごくもっております」というものがあります。除染が利権がらみのビジネスになることを警戒した発言です。
児玉教授は、土壌汚染に関する様々な技術を持つ民間企業の力を結集させるべきと言っています。それ自体は正しいと思うのですが、ハイテク技術を総動員したとしても、除染の現場は人海戦術になることは目に見えています。
なぜ、ここに自衛隊を動員しないのか?給料は税金で払っているのですから、支出は大きく抑えられます。
いずれにしても、自衛隊をフルに活用すれば、除染の利権化を防ぐことができ、費用全体を大きく抑えることができるはずです。

語弊を恐れずに言うなら、私たちは、東京電力から「汚い爆弾」による攻撃を受けた状態にあります。
核兵器を製造する能力を持たない国や組織が、放射性物質を手に入れた場合、それを敵国に撒き散らすだけで、大きな被害を与えられます。これを「汚い爆弾」と呼ぶのです。
福島第1という「汚い爆弾」は、セシウム137だけでも、広島原爆168個分を撒き散らしています。
戦争被害にも匹敵する状況。自衛隊の全力動員は、間違っていないはずです。日本には、陸海空合わせてで約25万人の自衛隊員がいます。

尿検査とホールボディカウンター2011/11/23 18:44

内部被ばく量や体内にある放射性物質の量を知るためには、今のところ、尿検査とホールボディカウンターが主に使われています。
いずれも万全ではないし、検査結果をどう評価すればよいのかも分かり難いものです。しかし、現状では他に頼るものがないのが事実です。
そこで、尿検査やホールボディカウンターでは、何が分かって、何が分からないのか… 結果をどう評価すればよいのか… ということを考えてみたいと思います。

●尿検査
まず、尿検査で出た放射性物質(ここではセシウム137)の検出値(尿中濃度)から体内残留量を計算する方法は、以下の通りです。

体重と放射性物質の体内実効半減期が分かれば、体内残留量が算出できますが、性別、個人差、体調などによって、数値が大きく変わる可能性があり、誤差は大きいと考えられます。
また、子供では成人よりも体内実効半減期が短いとされますが、何歳でどの位といったデータは、明確になっていません。
…とは言え、一応計算してみましょう。体重60kgの成人の尿から1ベクレル/kgのセシウム137が検出された場合、その時点での体内残留量は208ベクレルと推測されます。

ここでは、セシウム137を例にしていますが、ストロンチウム90ではどうでしょう?
ストロンチウム90の体内有効半減期は18年=6570日です。1日の排泄率は0.00011になります。もし、体重60kgの人の尿から1ベクレル/kgのストロンチウム90が検出されたとしたら、13650ベクレル(227.5ベクレル/kg)という大量のストロンチウム90が体内にあることになります。おまけに、ストロンチウム90は、ほとんどが骨に集まります。骨組織は人体の20%を占めていますので、実質的には、骨に1137.5ベクレル/kgの濃度で集積し、造血細胞にベータ線を浴びせ続けます。
ストロンチウム90が、尿中から検出されるようなことがあれば、かなり深刻な事態だと考えなくてはなりません。

主な放射性物質の体内実効半減期は、以下の通りです。

一応、尿中の放射性物質の濃度から、体内の残留放射性物質量を計算する式を作りましたので、どなたもご自由にご活用ください。ダウンロードしたZIPを解凍するとexcelになります。
尿検査評価計算式


●ホールボディカウンター
ホールボディカウンターは、体内から出てくるガンマ線の波長と強度を計測することで、体内にある放射性物質の核種と量を推測する装置です。
核種によって、放出するガンマ線の波長が異なりますので、波長が分かれば核種を特定できるのです。放射線の強度は、いわゆる線量(シーベルト)と考えてよいでしょう。ガンマ線の線量が分かれば、体内にある放射性物質の量(ベクレル)が推測でき、ベータ線による被ばく量も算出できます。

ホールボディカウンターは、崩壊する時にベータ線とガンマ線を出すヨウ素131やセシウム134、セシウム137に対しては有効です。しかし、ベータ線しか出さないストロンチウム90や、アルファ線しか出さないプルトニウム239を検出することはできません。
また、体内のどの部分から多くのガンマ線が出ているのかも分かりませんので、内臓や器官による放射性物質の蓄積の偏りも知ることはできません。
従って、ベータ線による被ばく量が算出できるといっても、あくまで全身均等被ばくに換算した値になってしまいます。実際には、ストロンチウム90は、ほとんどが骨に蓄積し、セシウム137は甲状腺や心臓で高濃度になります。

ホールボディカウンターでは、何ができて、何ができないのかを下にまとめました。


●1回摂取か継続摂取か
尿検査にしてもホールボディカウンターにしても、検査した時点で、どのくらいの量の放射性物質が体内にあるのかしか推測することしかできません。
内部被ばくを考える時には、その後、放射性物質を継続的に取り込むのかどうかが大きな問題となります。1回だけ摂取した場合と継続的に摂取した場合では、体内残留量が大きく変わってくるからです。下の図をご覧いただければ、一目瞭然だと思いますが、1000ベクレルを1回摂取した場合と、10ベクレルを継続的に摂取した場合では、後者の方が、ずっと恐ろしいのです。

上のグラフの裏付けとなっている計算式は、次の通りです。

1回摂取か継続摂取かを見極めるためには、継続的に検査を続けるしかありません。おそらく、一か月に1回程度の検査を続ければ、いろいろなことが分かってくるでしょう。
たとえば尿検査なら、結果を以下のように判断すればよいと思います。

●濃度が上がっていく=飲食や呼吸による放射性物質の摂取量が増えて続けている危険な状態。ただちに、クリーンな環境に避難または疎開の必要あり。

●濃度が変わらない=飲食や呼吸による放射性物質の摂取量が変わっていない状態。数値によっては、クリーンな環境に避難または疎開を検討する必要有り。

●濃度の下がり方が「一回摂取」の場合よりも遅い=減ってはいるが、放射性物質の摂取が続いている状態。注意深く観察の要有り。

●濃度の下がり方が「一回摂取」の場合に一致=現在は放射性物質の摂取がない状態。そのまま下がり続けるかどうか、注意深く観察の要有り。

残念ながら、4番目の場合でも、すでに受けた内部被ばくを帳消しにする方法はありませんし、この先、濃度が下がっていく過程でも、内部被ばくは受けます。
いずれにしても、内部被ばくは難敵なのです。特に、継続摂取をせざるを得ないような環境は、きわめて危険と考えなくてはいけません。
福島は深刻な状況にあります。もっともっとモニタリングを徹底化し、必要な対策(クリーンな環境への避難または疎開)を取っていかないと、とんでもないことになりそうで心配です。
一方、首都圏や福島以外の東北の県でも、子供の尿からセシウム134やセシウム137が検出されています。例によって、「微量」で片づけられていますが、より広範なモニタリングを行う必要があります。

破綻した核燃料サイクル2011/11/27 21:18

どうやら、高速増殖炉『もんじゅ』が廃炉になりそうです。

『もんじゅ:廃炉含め検討…細野原発事故相「来年判断」』【毎日新聞】

細野豪志原発事故担当相は、「一つの曲がり角に来ている。何らかの判断を来年はしなければならない」と述べています。
グズグズしている必要はありません。直ちに廃炉プロセスに入るべきです。すぐに始めたって、10年以上はかかるのですから。

高速増殖炉は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して再利用するというもの。再処理工場と並ぶ、いわば「夢の核燃料サイクル」の中核とも言うべきものです。事実上のもんじゅの廃炉決定。やっと、国が核燃料サイクルの破綻を認めた形です。

あまり大ニュースにはなりませんでしたが、もう一つ、核燃料サイクルがらみのニュースがありました。

『核燃:ロシアの再処理提案文書を隠蔽 「六ケ所」の妨げと』【毎日新聞

2002年に、ロシアから日本に対して行われた使用済み核燃料の受け入れ&再処理の申し出が、資源エネルギー庁の一部幹部によって握りつぶされていたのです。
当時、六ヶ所村再処理工場はトラブル続発。高コストも問題視されていました。記事の中にあるエネ庁幹部の「極秘だが使用済み核燃料をロシアに持って行く手がある。しかしそれでは六ケ所が動かなくなる」という発言が、すべてを物語っています。
9年前、核燃料サイクルそのものが成立しなくなる可能性を当事者たちは感じとっていたのです。ですから、汚い手を使ってまでも、情報を隠蔽しました。
なぜ?
核燃料サイクルがなくなると、自分の出世がなくなるからです。天秤の片方の皿に乗っているのは、私たちの健康と安全。反対側の天秤皿には官僚たちの出世。秤を操作しているのは官僚たち。このことに気が付かなかった私たちにも、少し責任があります。

では、幾つかのテーマに絞って、核燃料サイクルの話を進めましょう。

●核燃料サイクルの嘘
まず、核燃料サイクルの考え方を示す図をご覧ください。

あっちこっちの原発推進派の広報サイトにある核燃料サイクルの図と似ていますが、決定的に違うところがあります。原発と再処理工場から出る放射性排気と放射性廃液です。原発推進派は、ものの見事に、この点に目をつぶっています。
詳しく言えば、原発から出る放射性排気も問題なのですが、実は、再処理工場からは、同じ時間内に原発の1万倍もの放射性物質が出ます(主に廃液)。

原子炉も無いのになぜ?と思われる方も多いかと思いますので解説しましょう。
再処理の過程では、使用済み核燃料を硝酸に溶かす必要があります。この溶液からプルトニウムとウランを抽出したあと、残りを高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体に固めるのですが、すべてをガラス化することは技術的にも、コスト的にも、不可能なのです。
残った放射性廃液はどこへ?
海に流します。現在、再処理をビジネスとして行っているのは、フランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドにある再処理工場。どちらも、放射性廃液を海に流して、海洋汚染が大きな問題になっています。六ヶ所村も同じことをしようとしています。いや、せざるを得ないのです。再処理をする限りは。

放射性廃棄物を海に棄てておいて、何が核燃料サイクルなのでしょうか!?本来、○○サイクルと言ったら、閉鎖系でなくはいけません。「ゼロ・エミッション=排出物無し」です。
再処理工場から放射性廃液が大量に出る。核燃料サイクルには、根本的な嘘が隠されています。

●高速増殖炉の危険性
1980年代までは、世界各国が高速増殖炉の実用化に向けて、積極的な姿勢を示していました。「夢の原子炉」と言われていました。
しかし、政治的には、プルトニウムが世界的に拡散することを後押しする可能性があること。技術的には、冷却剤に液体ナトリウムを使用するという、大事故と背中合せのようなシステム。この二つを解決することができず、アメリカを含む各国が、開発中止を表明しています。
日本が、事実上の撤退表明をしましたので、今、本格的に開発を進めているのはフランスだけになりました(ロシア、中国、インドも開発の姿勢だけは示していますが)。

液体ナトリウムの恐ろしさ… それは、水に触れただけで大爆発を起こすことです。
次の映像は、第二次世界大戦中にアメリカが溜め込んでいた液体ナトリウムを、湖に廃棄する場面です。少しばかり古い映像ですが、液体ナトリウムの恐ろしさを伝えるには十分です。

Disposal of sodium

高速増殖炉では、炉心を冷やす(炉心から熱を取り出す)ために、水の代わりに液体ナトリウムを使います。熱を受け渡す効率が良いからです。
しかし、発電機のタービンを回すためには、最終的には水蒸気が必要ですから、炉心で高熱に熱せられた液体ナトリウムの熱で、水を沸騰させ水蒸気にします。
液体ナトリウムと水の間にあるのは、金属製のパイプの厚みだけです。そして、熱をより効率よく伝えるためには、パイプは、できるだけ薄い方がよいのです。
この話を読んだだけで、高速増殖炉が、まさに砂上楼閣、怪物の綱渡りのようなものなのだということが、お分かりいただけたかと思います。薄いパイプに、何らかの理由で傷が付き、そこから穴が空いたら… いや、大地震で、そのパイプ自体が折れたら… とんでもない大惨事が待っています。

●再処理工場はプルトニウム抽出工場
世界初の再処理工場が稼働したのは1944年です。
原子力発電も行われていなかった時代に、なぜ、再処理工場が?
アメリカのハンフォード核施設。長崎に投下する原爆を作るために再処理工場が作られました。再処理工場などと言われると聞こえが良いですが、その実態は、プルトニウム抽出工場に他なりません。
最初に示した核燃料サイクルの図から、余計な部分を消すと、簡単にプルトニウム爆弾を作るためのフローチャートになります。

原子力発電自体が、軍事技術の民生転用ではあるのですが、再処理工場は、その最たるものです。逆も真なりで、民生用の再処理工場は、簡単に軍事転用可能。再処理工場さえあれば、数ヶ月でプロトニウム原爆は作れます。
今、再処理工場(再処理施設)を稼働させている国は、英・仏・ロシア・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮・アルゼンチン・日本だとされています。

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核燃料サイクルについて、高速増殖炉と再処理工場という二つの側面から見てきました。本当に初歩的な話だけを書いたつもりですが、これだけでも、核燃料サイクルの恐ろしさと馬鹿馬鹿しさは、ご理解いただけたかと思います。

「もんじゅ」の事実上の廃炉決定。まずこれを確実に、出来るだけ早く実行させなくてはいけません。
次は「核燃料サイクルからの全面撤退=六ヶ所村再処理工場の廃止」です。
そして、全原発を廃炉へ。気を緩めている暇はありません。







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