2号機の温度上昇と再臨界2012/02/13 22:28

2号機圧力容器内の温度が上昇し、大きな問題となっています。
いったい何が起きているのか… 不安に苛まれます。
しかし、一歩引いて冷静に見つめ直してみると、この問題、下手をすると東電に騙されてしまいかねません。炉内温度の上昇を、ちょっと違う視点から見つめ直してみましょう。

2号機圧力容器の内径は5.57メートルもあり、東電の発表を信じるなら、現在の水位は2メートル前後です。
まず、この半径=5.57メートル、高さ=2メートルという流水で満たされた円筒形の空間。温度計は、たったの6個しかありません。そしてそこには、毎時10トン以上という、もの凄い量の水が注がれ続けています。
にわか造りの給水システムが凍結し、給水が止まって問題になっているくらいですから、水の温度は、凍てつく摂氏零度にきわめて近い温度のはずです。

ここで、ひとつ思いだして欲しいのは、東電が正常だと言っている他の5個の温度計です。みな30℃以上を示しています。注ぎ込まれた大量の氷温水のすべてが、アッと言う間に、ぬるま湯になってしまう… 通常の感覚では、信じられないことです。

不謹慎と言われるかも知れませんが、分かりやすい喩えをしましょう。
想定するのは20席ほどの焼肉屋の客席。テーブルが5卓。どの卓上にも炭火の七輪が乗っています。満席になって、5台の七輪が燃えさかれば、外は氷点下でも暖房なんて要りません。一方、壁のあっちこっちに吊り下げられた温度計を見てみましょう。まぁ、25℃~28℃くらいでしょう。焼肉を突っつく私たちは、少しばかり火に近いですから、体感温度は30℃くらいでしょうか。
しかし、実は、目の前で赤熱する木炭は、800℃~1000℃という温度です。

ここまで書けばお分かり方も多いと思いますが、毎時10トンの氷温水がアッと言う間に、30℃以上になるには、壊れた原子炉内に、もの凄く高い温度のものがあることを示しています。核燃料の崩壊熱のことを考えれば、当たり前のことなのですが…

2号機で、今現在、高温を示している温度計が壊れているのかどうかは分かりませんが、1号機から3号機のいずれの炉心でも、いまだに数百度の温度を保っている部分が、間違いなくあります。でなければ、大量の氷温水が、一瞬のうちに、ぬるま湯になってしまうなんてことはありませんから。
30数℃を示している温度計は、たまたま赤熱部分から遠いだけです。

もう一点、明確にしておきたいのは、崩壊熱と臨界によって発する熱の違いです。原発反対派の中にも誤解があって、温度上昇=再臨界と騒ぎ立てる人たちもいますが、次のことを明確に理解しておく必要があります。

●臨界にならなくても、使用済み核燃料(使用中核燃料)は、崩壊熱によって温度が上がり、水で冷却しなければ、ほどなく再溶融する。

●臨界状態になるための条件は、ウラン235またはプルトニウム239の濃度、塊の大きさ、形状によって決まり、温度は直接的には無関係。

●「崩壊熱で温度上昇」→「再溶融」→「形状が変わり再臨界」というストーリーはあり得る。

●「再臨界」→「温度上昇」→「再溶融」というストーリーもあり得る。

東電は、「半減期の短い気体放射性物質が検出されていない」→「再臨界は起きていない」→「温度計が故障している」という理屈で押し切ろうとしています。しかし、彼らは、今の原子炉内の温度と再臨界が無関係である事を知っているのです。
マスメディアも含めて、「再臨界してないから大丈夫」という論理に騙されかけているので、これは要注意。現状を見る限り、事の本質は、崩壊熱にあり、6本の温度計のウチの1本の近くに、溶融して固まった核燃料が集まっている可能性が高いです(再臨界の可能性を100%否定はできませんが)。

では、「たまたま集まっているだけだから大丈夫!」なのか… いえいえ、そんなことはありません。
福島第1の原子炉のいずれもは、まだまだ数百度という赤熱する塊を抱え込んでおり、それを冷やしきるためには、とてつもない時間と労力がいるということです。そして、その塊からは、熱エネルギーと放射線が放出され、水中に放射性物質が溶け出し続けています。
半径=5.57メートル、高さ=2メートルの中に、たった6本の温度計を挿して、「30℃だから大丈夫!」と言っていることの方に大きな問題がるのです。

にわか造りの冷却システムが、余震やあらたな地震、凍結などによって破壊された時、また大きな悲劇の幕が開きます。国は住民の帰還を検討しはじめていますが、とんでもない話でしょう。

まず、東電と国は、一部とはいえ、水温が80℃を越えたその原因を明確にすべきです。
それに加えて、毎時10トン以上の氷温水が、なぜ、アッと言う間に30℃以上になってしまうのか… その理由をすべての人に分かりやすく説明する必要があります。
そして、対策があるなら、どんなに費用がかかろうと、それを実行すべきでしょう。そうしなれければ、ちょっとした偶然や間違いで、福島が、いや東日本が、本当の意味で失われてしまう可能性があります。

コメント

_ そらりか ― 2012/02/14 08:25

たいへん明快でわかりやすい説明,今までしっくりこなかったことが,わかった気がします。ありがとうございます。ただ問題は全く解決していないということもはっきりしましたので,更に気をつけて,関西とはいえ,逃げる準備も必要かと用心していきたいと思います。今後もこちらにお邪魔させていただきます。どうぞ今後とも素人にわかりやすい説明よろしくお願いいたします。

_ 虹 ― 2012/02/14 15:48

MP3で聞いた小出先生のインタビューでも納得できなかった部分が、今日の記事で炙り出され、大体理解できたような気がします。有難うございました。
先程もふくいちから地震のツイッターが2回入りました。毎日綱渡りの状況ですよね。
首都圏からの引越しを模索中ですが、関西、九州、オセアニアで迷っています。東日本が失われるような事故になれば、九州も難しくなるのは時間の問題ではないかと・・・。そんな事故が起こらずこのまま綱渡りを数十年続けられる可能性はどれ位あるのでしょうか?日本民族のDiaspora(離散)が迫っているような気すらします。

_ みさ ― 2012/02/14 16:26

危ないと薄々分かっていても逃げられないです。

政府および東電はチェルノブイリ二の舞にならないように必要があれば、隠さないで避難させて欲しいです。

_ さかなちゃん☆ウクレレ歌人 ― 2012/02/14 19:12

わかりやすい説明ありがとうございます。

私も反原発派も崩壊熱を甘く見てるなって気がしていました。反対派も物理現象を、もうこの際ちゃんととらえたほうがいいですね。(自分もですが)

_ 一語一会 ― 2012/02/14 21:47

「冷温停止」といっている状況がよく判りました。そこで質問させて頂いていいでしょうか。「10トンの水が毎時流入しているとおっしゃいます。その水はどうなっているのでしょうか。還流して再利用しているのでしょうか。どこかに流出しているのでしょうか。」
まことに素人ですみませんが、よろしく手ほどきをお願いいたします。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/02/15 07:26

>一語一会さん
にわか造りの循環システムで、一応、還流再循環にはなっています。途中に、これまた、にわか造りの、放射性物質除去フィルターが設置されています(100%除去ではありません)。あっちこっちで水漏れが起きているのは、ニュースで報じられている通りです。

_ papa1400 ― 2012/02/15 13:44

言われてみれば!!
 東北の工場内は外気温は氷点下ですね~
水温30度でよかった?? 報道は嘘じゃ無い??
 かもしれないが、言われている疑問点を。
 なぜ!! だれも、メディアが取り上げないのか
 それほど、???か
  メディアも 洗脳されてるのか!!
    お金が飛び交ってるのか。

 日本国民の為に働く気持ちはないのか。
   情けない社会構造だ~~~
 すべては必ず良くなる、ぜったい大丈夫
  祈るしかない。

_ 辛明太子 ― 2012/02/16 03:07

妥当な指摘だと思います。その意味でhttp://20z0.blog85.fc2.com/ に書いたのですが、ドレインパイプ上部温度が6℃にまで下がっているのが気がかりです。冷却水が熱い所を通らなくなったのではないかと思いますが、いかがに思われますか?

_ 私設原子力情報室 ― 2012/02/16 09:13

>辛明太子さん
「徒然草子」
http://20z0.blog85.fc2.com/blog-entry-12.html
でのご指摘、可能性としては、かなり高い思います。

_ 辛明太子 ― 2012/02/17 01:04

情報室さんのご指摘も参考に、圧力容器の中の様子をhttp://20z0.blog85.fc2.com/blog-entry-13.html で想像してみました。いかがなものでしょうか。
 原子力関係の方々は、いつもきれいなモデルで研究しているので、このように不均一になるということがなかなか考えられないようです。有名な小出先生も残念ながら、計器の問題に関しては、原子力村の限界から逃れられなかったようですね。

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_ 一語一会 blog - 2012/02/14 21:45

 「私設原子力情報室」というアサブロのサイトで、原発の温度計についての解説を読んだ。

 個別の高温に上昇した温度計はさておき、一般に、原子炉内の水の温度の解説に、なる






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