世界の原子力利権と日本②『世界を駆け巡る核物質の危険と利権』2012/06/15 10:08

核物質の危険と利権。偶然、語呂合せになってしまいましたが、核物質がその大きな危険性を顧みられることなく、利権のために世界中を駆け巡っている。それが、今の状況です。

ウラン鉱山で採掘された天然ウランが加工され、原発で使われ、最後は使用済み核燃料や放射性廃棄物になるまでを図にまとめてみました。

ウラン鉱山で採掘されたウラン鉱石は、通常、鉱山に併設されている精錬工場でウラン濃度60%まで精錬されイエローケーキ(ウラン精鉱)になります。
ウラン採掘の段階で、すでに日本の原子力産業が深く関わっているのは、前の記事で述べた通りです。採掘プロジェクトへの出資を行っていて、3.11以降も撤退していません。

●転換
精錬の次のプロセスは「転換」です。イエローケーキを六フッ化ウランに「転換」します。
なぜ、六フッ化ウランなのか?
詳しくは後述しますが、ウランを濃縮するためには、一旦、六フッ化ウランの形にする必要があるのです。
六フッ化ウランは常温では白色の粉末。水に触れると生体への毒性が強いフッ化水素を激しく発生します。56.5℃という低い温度で昇華して気体になるという性質もあります。従って六フッ化ウランの容器には厳重な防湿と密封性が必要です。

「転換」のための工場や施設は、カナダ、アメリカ、フランス、ロシア、イギリスなどにあります。ウラン鉱山を出たイエローケーキは、ある時はトレーラーで、ある時は船で危険な旅をします。
実際にアメリカでは、トレーラーの横転事故でイエローケーキを詰めたドラム缶が壊れ環境を汚染、除染を余儀なくされた事故例が複数あります。

転換工程を担う企業は、前述のカメコ(カナダ)の他、コミュレックス(フランス・アレバの子会社)、ウェスティングハウス(東芝の子会社)など。日本には転換工場はありませんが、実は東芝が深く関わっているのです。また、コミュレックスの親会社のアレバは、言わずと知れた世界最大の原子力産業。三菱重工と提携関係にあります。

●濃縮
「転換」の次に来る「濃縮」では、「低い温度で気体になる」という六フッ化ウランならではの性質を利用します。
現在、ウラン濃縮法の主流は「ガス拡散法」と「遠心分離法」。いずれも、気化したウラン化合物を使って、ウラン238とウラン235を選り分け、天然ウランには0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を原子炉で使える4%程度にまで高めます。そのために、あらかじめ天然ウランを気化しやすい六フッ化ウランに「転換」しておく必要があるのです。

世界的に見るとウラン濃縮は、アメリカのユーセック(東電と協力関係にある)、ウレンコ、フランスのアレバ、ロシアの国営企業ロスアトム(ROSATOM)の4社が世界全体の需要の約96%をまかない、日本には六ヶ所村に小規模な濃縮施設があります。

核物質を気体の状態で扱うわけですから、濃縮工場が持つ危険性は極めて高いもの。その詳細を原子力資料情報室が明らかにしています。

『六ヶ所ウラン濃縮工場における事故災害評価』【原子力資料情報室】

濃縮工程を経て、六フッ化ウランは濃縮六フッ化ウランになります。
この時に絞り滓のように残るのが劣化ウラン。主にウラン238ですが、分離しきれなかったウラン235も0.2%ほど含みます。世界中の濃縮工場で行方の決まらない劣化ウランが溜まり続けています。もちろん六ヶ所村でも。

●再転換
「濃縮」の次は「再転換」です。濃縮六フッ化ウランを濃縮二酸化ウラン(以下、単に「二酸化ウラン」と記す)に転換します。
ここでも、なぜ二酸化ウランなのか?という疑問が出てきます。答えは融点が高いから。金属ウランの融点が1132℃なのに対して、二酸化ウランは2865℃。高温でも溶けにくいという性質から核燃料として使われるようになったのです。しかし、ひとたび事故が起きれば、二酸化ウランですら溶け出してしまう… メルトダウンは、いとも簡単に起き、とてつもない被害を及ぼすことが福島第1で証明されたのです。

話を「再転換」に戻しましょう。
世界にある再転換工場(商用)は以下の通りです。

ここでも、ウラン採掘の総元締め=カメコ、東芝の子会社=ウェスティングハウスが上位に登場。他に日本の三菱原子燃料、アルゼンチン、ブラジル、インドにも再転換工場があります。

「再転換」もまた大きな危険を伴う工程です。1999年に東海村で起きたJCO臨界事故は、再転換作業中に発生したものでした。
以来、日本で稼働する再転換工場は三菱原子燃料だけになり、供給量が不足。二酸化ウランの多くを輸入してきたわけです。

ここでもう一度、ウラン採掘から始まる核物質の動きを見直してみましょう。

世界規模で行われる核物質の危険な移動と、それぞれの工程に潜む危険。
しかし、ウラン利権・原子力利権にしがみつく輩は、自分以外の命と健康には無関心です。過酷事故が起きても何処吹く風。数万人が故郷を追われ、被ばくの恐怖に晒されながら生きざるを得ない状況も、まったく目に入らないのでしょう。

今、核物質の危険と利権が世界を駆け巡っています。

世界の原子力利権と日本①『ウラン採掘総元締めの予想外』2012/06/15 09:58

原子力の問題を語る時、原発だけを取り上げてもすべてを語ることはできません。ウラン採掘から、使用済み核燃料を含む放射性廃棄物の行方まで、核物質の動き全体を考える必要があります。
そこで3回に分けて、国境を越えて地球を駆け巡る核物質を追って行こうと思います。
完全脱原発なのか脱原発依存なのか… 再稼働は許されるのか… 議論が高まる中、懲りずに世界の原子力利権構造にドップリと浸かり、大きな役割を果たし続けている日本の原子力産業の姿を浮き彫りにする必要があるからです。

●ロイターの報道
今年3月26日。ロイターが今までにない視点から福島第1の事故の影響について伝えています。

『Cameco sees restart of some Japan reactors soon』【REUTERS】
『全訳』【星の金貨プロジェクト】

見出しを直訳すると、「カメコ(Cameco)は、日本の幾つかの原子炉がまもなく再稼働すると予想している」。
カメコとは、カナダに本拠地を置く世界有数の核燃料供給企業で、ウラン採掘から精製、転換まで幅広く手がけています。
ロイター報道の主眼点は以下の通りです。
1. カメコは、3.11以降、日本の電力会社に対して余っているウラン燃料の買い取りを提案。
2. これに対して、いくつかの電力会社はウラン燃料の納品の延期を依頼してきたが、在庫を減らしたり、契約済みの分について数量を減らすよう求めてきた会社は一社もなかった。

カメコとしては、原発過酷事故を起こした日本は、脱原発に大きく舵を切るか、少なくともしばらくは原発は稼働できないと読んだのでしょう。そこで早々に、ウラン燃料の返品買い取りを提案。これに対して、かたくなに原子力発電にしがみつく日本の電力会社は、一切応じることがなかったと。
おそらく価格的にはよい条件ではなかったのでしょう。しかし、余っているウラン燃料を買ってもらえば、天然ガスの購入資金や再生可能エネルギーの開発に充てたりできたはずです。「原発が止まっているから発電コストが高く付く。だから値上げ」と言い続けるなら、まず、不要なウラン燃料を買い取ってもらうべきです。これは今からでも遅くないと思います。

報道はカメコのCEOであるティム・ギツェルの発言に基づくものでした。記事の中で、ギツェルはもう一つ重要なことを語っています。

1. カメコのウラン採掘計画の幾つかは、日本企業との提携で進められている。
2. この提携についても継続の可否を打診したが、撤退を申し出た会社はなかった。従って、日本からのウラン採掘への投資は継続される。
3. 出光興産は、2013年後半に採掘を開始する予定のカナダ・サスカチュワン州にあるカメコのシガーレイク・ウラン鉱山の株式8パーセントの株式を保有。東京電力は5%保有し続けている。

ウラン採掘の総元締めとも言えるカメコのCEO、ティム・ギツェルの予想は、日本の原子力産業は「ウラン燃料の返品買い取りを求めるだろう」そして「ウラン採掘計画からは撤退するだろう」というものでした。
その予想は、見事に裏切られました。日本の原子力産業は、カメコも驚くような対応をしたのです。
まさに「懲りない原子力村」。醜い姿が海外の報道から浮き彫りにされた形です。

ドイツでは国の脱原発宣言を受けて、大手電機メーカーのシーメンスが原発事業からの完全撤退を表明しました。これまでドイツ国内外を問わず原発関連で多くの利益を上げてきた企業が180度方向転換。未来を見据えての判断です。
過酷事故を起こした日本で、いまだに完全脱原発に踏み出せないでいる私たちは、恥ずべきであり、深く反省すべきなのでしょう。

再処理工場の闇2012/06/05 20:58

この間の毎日新聞のスクープで、闇に包まれていた核燃料サイクルをめぐる原子力村の利権構造の一部が明らかになりました。

核燃サイクル原案:秘密会議で評価書き換え 再処理を有利
核燃サイクル「秘密会議」:まるでムラの寄り合い

まだ一端が表面化したに過ぎませんが価値のある報道でした。

しかしながら、再処理って何?という疑問も世の中には、まだまだあります。今回は、これまであまり注目されていない側面から、核燃料サイクルの中核をなす再処理工場の問題を検証し直したいと思います。

●新ウラン燃料・使用済みウラン燃料・MOX燃料

まず最初に、新ウラン燃料と使用済みウラン燃料、そしてMOX燃料では、なにがどう違うのかを確認しておきましょう。
新ウラン燃料は、天然ウランを原料にして作ります。天然ウランは、ウラン238が99.3%、ウラン235が0.7%ですから、そのままでは核分裂を起こしません。濃縮してウラン235の濃度を4%程度にまで高めることで、原子炉で核分裂を起こす新ウラン燃料にします。

新ウラン燃料は、原子炉内で約3年間、臨界状態に置かれ、連鎖的核分裂反応を起こします。この時に発する熱を発電に利用するのが原子力発電です。
使用済み核燃料の中には新たな放射性物質が生まれます。セシウム137やヨウ素131といった核分裂生成物とプルトニウム239。さらにプルトニウム239以外の超ウラン元素です。超ウラン元素とはウランよりも重い元素のことで、ネプツニウムやアメリシウム、キュリウムなどがあります。いずれも、放射線を発する危険な元素です。

MOX燃料は、ウラン燃料の核分裂反応で生じたプルトニウム239を再度、発電に利用しようというものです。
ウラン原爆の原料がウラン235で、プルトニウム原爆の原料がプルトニウム239であることからも分かるように、プルトニウム239は連鎖的核分裂反応を起こす物質なのです。

実際のMOX燃料は、使用済み核燃料の中からウラン238・ウラン235・プルトニウム239を抽出して、原子炉で使うのに都合の良い割合で混ぜ合わせています。

しかし、MOX燃料は、最初から強い放射性を帯びていて、発熱もするなど、ウラン燃料にはない危険性を持っています。製造の過程で純粋に近いプルトニウムを生成するので、安全保障上も大きな問題となります。アメリカが使用済み核燃料の再処理を行っていないのは、そのせいだと言われています。

さて、本来ならばこの地球上に存在しなかった危険な放射性物質である核分裂生成物や超ウラン元素を含む使用済み核燃料。
残念ながら、原発反対派と言えども、もはやここから目をそらすことはできません。「負の遺産」として、明確に認識して、考え得るもっとも安全な方法で、使用済み核燃料を処分する必要があります。
そこで焦点になっているのが、使用済み核燃料をそのまま最終処分場に埋める「直接処分」か、一部を再利用する「再処理」かなのです。

●再処理では海洋投棄が不可欠
再処理の話に戻りましょう。
下の図は、<新ウラン燃料→使用済みウラン燃料→MOX燃料>という、原発推進派が大好きな核燃料サイクルの一部をクローズアップしたものです。

使用済みウラン燃料から左右に「直接処分」と「再処理」へ枝分かれしていますが、「直接処分」がシンプルなのに比べて、「再処理」には複雑な工程が絡みます。さらに、「直接処分」にはない「劣化ウラン」や「海洋投棄」という大きな問題が出てきます。

まずは、海洋投棄に注目しましょう。
「廃棄物を海に棄ててはいけない」という国際的合意は、1972年採択(1975年発効)の「廃棄物その他の投棄に係わる海洋汚染防止に関する条約【通称、ロンドン条約】」によってなされました。
ロンドン条約の主なターゲットは放射性廃棄物。それまで各国は、核兵器製造や原子力発電で生じる放射性廃棄物を無原則に海に捨て続けてきました。日本もその一つです。
しかし、条約や法律の常、ロンドン条約にも抜け道があります。規制しているのが、高レベル放射性廃棄物なので、液状の廃棄物を水で薄めて海に流してしまえば、条約違反にはならないのです。船からの投棄を考えれば、薄めると量が増えてしまって、効率が悪くなるのですが、陸から直接棄てる場合は話が別。「薄めればOK」という、この抜け道を狡猾に利用したのが再処理工場なのです。

次の図は、「核燃料再処理の流れ」を示しています。

使用済み核燃料は、硝酸で溶解して、核燃料生成物とプルトニウム以外の超ウラン元素を取り除いてから、ウランとプルトニウムの再処理に入ります。「核燃料生成物と超ウラン元素はガラス固化体に固めるから大丈夫」というのが推進派の主張ですが、ガラス固化体にする前に、水分(液体)を絞らなくてはなりません。その液体まで、すべて保管していたら、いくら場所があっても足りませんから。そして、搾り取った後の液体には、必ず核燃料生成物と超ウラン元素が残ってしまいます。
しょうがないから水で薄めて海に流すと… 世界的に有名な再処理工場としてフランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドがありますが、どちらも海の中に数kmという廃液パイプを伸ばして、水で希釈した放射性物質を堂々と流しています。六ヶ所村でも同じ計画のはずです。

六ヶ所村沖は、世界三大漁場の一つとして知られる三陸沖の北端。ここに、放射性物質の海洋投棄を行う。絶対に許されないでしょう。

●劣化ウランはどこへ?
使用済み核燃料の再処理の(建前上の)目的は、MOX燃料と再生ウラン燃料の製造です。
ただ、この過程で、連鎖的核分裂反応をしないウラン238の濃度を下げなければなりません。ウラン238が多いと連鎖的核分裂反応が起きないからです。
従って再処理の過程では、どうしてもウラン238(緑)が余ってしまいます。しかし、ウラン238だけの純粋な抽出は難しいのでウラン235(黄)や、特に放射性が強く危険なウラン236(紫)も残ってしまいます。これを「劣化ウラン」と呼びます。

劣化ウランは、そのままでは原爆の原料にもなりませんし、発電にも使えません。しかし、環境や生物に悪影響を及ぼすには十分の放射線を発する危険物質です(イラク戦争での劣化ウラン弾問題をご存じ方も多いと思います)。

今、日本で論じられている再処理や核燃料サイクルの議論からは、完全に劣化ウランの問題が落ちています。どこにどう劣化ウランを保管するつもりなのか、推進派からの説明を聞いてみたいものです。

●使用済みMOX燃料は再処理できない!?
再処理と核燃料サイクルの問題を調べていく中で、とんでもない嘘に突き当たりました。「核燃料サイクル」そのものが虚構=大嘘なのです。

推進派の説明によれば、「使用済みウラン燃料→再処理→MOX燃料→再処理→MOX燃料…」という、文字通りのサイクルで核燃料が回るはずでした。しかし、MOX燃料の再処理は少なくとも六ヶ所村タイプの再処理工場ではできないのです。なぜなら、MOXの使用済み燃料は硝酸に溶けにくいから… なんと馬鹿馬鹿しい!
MOXの使用済み燃料を再処理するためには新たなタイプの再処理工場が必要だそうです。今、世界中、どこを見渡しても、それは存在しないし、技術的な見通しもまったく立っていない状態です。
「核燃料サイクル」に騙されてきた人たちは大いに反省すべきです。核燃料はサイクルできません!

なんともはや、とてつもない嘘まで並べて推進されてきた核燃料サイクル。
誰がそれを望んでいるのでしょうか?
経済の原点に帰ってみましょう。電力会社が電力消費者に、より安い電気を供給しようと自ら努力するでしょうか?彼らの本意は、できるだけ高く売ることです。おまけに、日本の電力業界は無競争なので、ブレーキが掛かることはありません。
一方で、核燃料サイクルのような大事業を進めれば、企業としては大きな金が動くので、その過程で儲けることができます。利権も生じますから、そこで私腹を肥やそうという人間もたくさん群がってきます。結果は、電力料金に跳ね返り、いざ事故が起きれば税金投入。故郷に何十年、いや、永遠に帰れない人たちも出ます。私たちにとって、こんな理不尽なことはありません。

誰がどう考えても、経済的なメリットがなく、安全性の面からも危険視される核燃料サイクルが、推し進められてきた事実。その闇を徹底して暴き出すことで、この最悪の構造を打ち壊す第一歩にしなくてはなりません。

使用済み核燃料の処理に関しては、全量直接処分しかありません。
そして、この問題を考えるための前提として、今後一切、使用済み核燃料を増やさないこと。原発の再稼働を許さず、「直ちに廃炉へ」という決定を行う必要があります。

順番としては、「核燃料サイクルの放棄→すべての原発の廃炉決定→最終処分場の決定と具体化」となるのでしょう。そうしないと、「最終処分場があるのだから、原発を稼働してもよい」などと、馬鹿げたことを言い出す輩が出ますから。

原発稼働ゼロの日を迎えて2012/05/05 17:19

きょう、2012年5月5日深夜、42年ぶりに日本列島で稼働する原発がゼロになります。
原発の安全性がまったく約束されず、使用済み核燃料の行き場も決まらない中、他の選択肢はありません。また、福島第1の事故に関して、詳細な解析・検討も進まないどころか、いつ始められるのかさえ分からない状況です。

一方で、「電気が足りない!電気が足りない!」と騒ぎ立てる関西電力が、いまだにオール電化の営業を積極的に続けていることが明らかになりました。厚顔無恥とはこのことでしょう。
より多くの電力を消費するオール電化は、真っ先に放棄すべきです。その上で、どうしても足りないなら、今からでも、応急処置としてガスタービン発電機を外国から調達する手だてだってあるはずです。そもそも、東京電力以外の電力会社が、節電のプログラムに真面目に取り組んだ形跡すら認めることができません(東電を誉めているわけではありませんが)。

原発ゼロの日、5月5日はゴールではありません。私たちは、『完全脱原発』に向けてのスタートラインに立ったに過ぎません。
ここでは、あらためて問題意識を明確にし、気を引き締める意味で、「止まっている原発は安全なのか?」という設問について考えていきます。

●止まっている原発は安全なのか?
結論から言いましょう。制御棒が完全に差し込まれ臨界状態にない(=連鎖的核分裂反応が起きていない)原子炉は、運転中よりは少しだけ安全です。操作ミスが最終的な引き金となったスリーマイルアイランドやチェルノブイリのような事故は起きません。

一方、外部電源喪失によって、冷却水の循環が止まり、メルトダウンに至った福島第1型の事故はどうでしょうか?
同じように起きます。炉心に核燃料が有る限り。

使用中あるいは使用済みの核燃料の中には、連鎖的核分裂反応で生まれた放射性物質(核分裂生成物と超ウラン元素)があります。核分裂生成物の代表格はセシウム137やヨウ素131、超ウラン元素とはプルトニウム239などのことです。
これらの放射性物質は、放射線を出して崩壊する際に熱(崩壊熱)を出します。この発熱は、臨界状態にあろうとなかろうと関係ありません。

「私たちの身の回りにも飛んできている福島第1由来の放射性物質は発熱していないのか?」という質問がありそうなので、先に答えておきますが、実は放射線を出す際にわずかながら発熱しています。ただ、空気や人体を加熱するほどではありません。逆に、崩壊熱を肌で感じるほど放射線を浴びてしまったら、即死です。

話を本論に戻しましょう。
臨界を脱したばかりの核燃料で、冷却水の循環が止まったら、崩壊熱で数時間から数日の間に、圧力容器に溜まっている水はすべて蒸発。ほどなく、核燃料は溶岩のようにドロドロに溶け出してしまいます。
溶けた核燃料の温度は2800℃。圧力容器を形成する鋼鉄の融点は1600℃。簡単に底を突き破り、格納容器へと落ちていきます(メルトスルー)。格納容器でも底部の鋼鉄とコンクリートを溶かして、やっと止まっているのが、福島第1の1号機~3号機の現状なのはご存じの通りです。

そうなのです。原子炉が停止状態にあっても、炉心に核燃料が有る限り、福島第1型の事故が起きる可能性は、少しも減らないのです。

●どうすればよいのか?

まず、炉心にある核燃料を核燃料貯蔵プールに移動させることです。これは、普段の定期点検の際にも行われている作業です。安全とは言いませんが、特別なオペレーションではありません。こうして、炉心(圧力容器)を空にしておけば、シビアアクシデントが起きる可能性を一つ排除したことにはなります。
しかし、福島第1では、炉心が空だった4号機でも水素爆発が起き、建屋が傾いています。世界中の研究者が「4号機の核燃料貯蔵プールが崩壊したら、東京にも人が住めなくなる可能性がある」と警鐘を打ち鳴らしています。核燃料貯蔵プールもまた危うい施設なのです。
特に、福島第1のような沸騰水型原子炉(BWR)では、構造上、貯蔵プールを高い位置に作らざるを得ないので、危険性がより大きくなっています。高い分、様々な理由で水が抜ける可能性があるからです。
また、使用済み核燃料は、臨界を脱してから3年間は循環する水で冷却しないと、メルトダウンしてしまいますので、核燃料貯蔵プールでもまた、冷却水の循環が必要となります。

各原子炉に付属している核燃料貯蔵プールは、当然、容量が決まっています。せいぜい、数年分の使用済み核燃料しか貯蔵することができません。では、その先はどこへ行くのでしょうか?
各原発には共用プールという施設があって、ここに使用済み核燃料を集めます。地上高に作られているので、核燃料貯蔵プールよりは少しは安全といったところでしょうか。国内各原発の共用プールは、ほぼ満杯という情報もありますが、増設してでも、今、炉心と核燃料貯蔵プールにある分は、納めてもらわなければ困ります。

原子炉が止まっただけでは安全ではない。
このことは肝に銘じる必要があります。速やかに、すべての核燃料を核燃料貯蔵プールに。そして共用プールに移す必要があります。

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附記:
共用プールの先はどうするのか?悲しいかな、まったく見通しが立っていません。原発推進派は「再処理施設へ!」と声高に言いますが、六ヶ所村の施設は、本格稼働が見えない現在ですら、使用済み核燃料で満杯状態です。

*再処理施設に関しては、以下の記事をご参照ください。
再処理施設って何?
破綻した核燃料サイクル

今、現に存在している大量の使用済み核燃料をどうするのか… 再処理施設は危険極まりないものだし、結局、放射性廃棄物の量が減るわけではありません。最終処分場の問題は、脱原発派と言えども、避けて通ることはできません。

失われた福島の米2012/04/04 17:25

3.11福島第1原発の事故は、私たちの暮らしにどれだけの被害を及ぼしているのか… 今回は、「福島県の稲作」という視点から見てみます。

セシウム:100ベクレル超の福島県産米を全量廃棄へ』毎日新聞

農水省が、4月1日からの「食品に含まれる放射性セシウム新基準」にあわせて、100ベクレル/キログラムを超える2011年度産米の全量買い上げ、廃棄処分を発表したのは、3月29日のことです。該当する福島産米は3万7千トン(90億円相当)とされていますが、この報道で決定的に欠けているのは、その3万7千トンが、本来あるべき福島県全体の稲作に対して、どのくらいの比率を占めているのかです。農業関係者であれば、それが約61万7千俵に相当し、普通の田んぼ、すなわち一反(=10アール)の田んぼで6万1千700枚分という、もの凄い量だということがが直感的に分かるのでしょうが、都市生活者にとっては、なかなか実感できないものです。

そこでまず、2010年度と2011年度の福島県の稲作実績を数字で見ることで、3.11の傷跡を確認したいと思います。

100ベクレル/キログラムの基準超えで廃棄される米は、2011年度産米の10.5%を占めています。この数字を知っただけでも、常識をある人なら誰でも『原発はいらない!』という結論に達するはずです。

加えて、作付けすらできなかった田んぼがあったのは、皆さんご存じの通りです。土壌汚染・立ち入り禁止措置による国が定めた作付け禁止(約10,000ヘクタール)と自治体などによる作付け自粛(約600ヘクタール)。両方合わせて、収穫量に換算すると5万8千200トンに相当します。廃棄処分と合わせると9万5千200トン。これが、3.11原発事故で失われた福島の米。原発事故がなければ得られたであろう収穫量の約23パーセントにもなります(津波による冠水・塩害で作付けができなかった分を除いて計算。原発事故にも津波にも関係なく作付けをしなかった田があり得ますが、ごく一部と思われるので、計算上は無視しています)。


そして、原発事故の影響が一年で終わるはずもありません。2012年度、国によって作付けが禁止される区域は、約7,300ヘクタール。自治体による自粛も合わせ、福島県内で作付けが見送られる水田の面積は約1万500ヘクタールに及びます。作付けできない田んぼの面積は、2011年度とほぼ同じです。
100ベクレル/キログラムの基準を超える米は、2011年度産より多少減るかも知れませんが、それなりに出てくるでしょう。

福島の稲作は、原発事故によって大きな傷を負ってしまいました。この傷が癒えるのに、いったい何十年の時が必要なのか… 大きな憤りを覚えずにはいられません。

この事実は、福島の皆さんはもとより、福島産米の大消費地である東京の住民、そして、他の原発の数10キロ圏内(大阪も京都も福岡も入ります)に暮らす人たちに、わが身の問題として考えて欲しいと思います。原発事故は、私たちの祖先が、この列島に営々として築き上げてきた営みを根底から破壊してしまうのです。いとも簡単に。

今、野田政権は、福井県の大飯原発3・4号機の再稼働を画策しているようですが、以ての外です。
すべての原発をただちに廃炉行程へ!それこそが、私たちが歩むべき道です。

東電の悪あがき2012/03/15 13:29

天下りでスパイ雇い入れ!?
今朝の毎日新聞、一面トップのスクープ記事です。

東電:原発事故後も天下り招請 東京都元局長を雇用』『東電天下り:関係改善の切り札 固辞する元局長を説得

東電が、東京都の元環境局長を天下りで雇い入れ、都庁に対してスパイまがいの情報収集活動を展開していたことが明らかになりました。
3.11以前から、この人物に対する東電からの天下り招請はあったようですが、5月に再打診。拒否されたが、8月に東電が強引に押し切ったというのが大まかな流れ。元環境局長は、東電の「アドバイザー」に就任。期待通り、都が進めるLNG発電所建設計画などについて、都庁の後輩から情報収集を進めていたようです。このスパイ氏、今年2月に、毎日新聞が取材に動いていることを察知。アドバイザーを辞任したようです。

恥を知れ!東電。この期に及んで天下りか。おまけにスパイ活動。この会社、やることなすこと、社会の常識からかけ離れすぎています。


●一旦値上げ、原発再稼働で値下げ!?
きょうは毎日新聞デー。もう一つ、注目値する記事が…

東電特別事業計画:家庭用値下げ盛る 再稼働前提、値上げ後の18年度

家庭向け電気料金は、一旦値上げするが、「柏崎刈羽原発の再稼働」を前提として、2018年度には現行料金に比べ、5%安い水準にすると。
この事業計画は、原子力損害賠償支援機構がまとめつつあるものですが、支援機構と東電の合作であるのは間違いないところでしょう。

「福島第1の事故でお金が足りなくなったから、値上げするよ」「原発再稼働させてくれたら、ちょっと値下げのご褒美もあるよ」

お客を舐めるのもいいかげんにしろ!と言いたくもなります。
こんな見え透いた甘言に騙されてはいけません。

それにしても、どうしても原発を再稼働させたい勢力は、こんなに必死なのか… 裏に巨大な利権構造があるからです。
1954年(昭和29年)、当時改進党に所属していた中曽根康弘、稲葉修らによって原子力研究開発予算が国会に提出されました。以来、60年近く、電力会社・中央の政治家・重電メーカー・ゼネコン・地方議員・地元の土建業者などを中心とする「真っ黒い利権構造」は、膨張を重ねてきたのです。ここにしがみつく連中は必死です。
しかし、それに負けてしまったら、何も変わりません。日本列島は遅からず、第二の福島第1を経験することになるでしょう。

私たちは、原子力なんていう危険極まりない手段を使わなくても、十分にエネルギーを得ることができ、豊かな生活を育むことができるはずです。いや、原発は、私たちの安心で安全な生活を破壊する凶器でしかないということが、3.11で身に浸みているはずです。大事故は収束の見通しすらついていません。政府や東電は40年とか50年とか言っていますが、実際には、100年経っても、あの場所を安全な更地にすることは不可能です。
そんな中で、「値下げ」というニンジンをぶら下げて、強引に原発の再稼働を図ろうとする国と東電、そして原発利権集団。怒りを通り越して、呆れるばかりですが、ここは怒りを持続!全原発の廃炉を絶対に実現しなくてはなりません。

元旦のスクープ2012/01/03 23:20

2012年元旦。朝毎両紙の原発問題を巡るスクープが印象的でした。
まず、朝日新聞。
『原子力業界が安全委24人に寄付 計8500万円』朝日新聞

原子力安全委員会の委員(班目委員長を含む)24人が、原子力関連の企業・業界団体から計約8500万円の寄付を受けていたというものです。
日本の原子力基本法に定められている大原則は、『民主・自主・公開』。この話は、当ブログ『民主・自主・公開という大原則』に書いた通りです。「民主的に運営されるはずだった原子力委員会や原子力安全委員会には、原発に懐疑的だったり、反対の立場を取る科学者は、一人も入っていません」と指摘しました。
ところが、事実はそれどころではなかったのです。原子力安全委員会メンバーは、おそらく研究費の寄付という名目で、原発関連企業から賄賂とも呼んでよい金を受け取っていたのです。早晩、金を受け取っていたメンバーの名前と金額の明細などが出てくると思いますが、この問題を『民主・自主・公開』の立場から厳しく断罪するとともに、法律に照らして犯罪性がないのかも検証する必要があるでしょう。
原子力を推進する側に、「民意をくむ」などという発想はありません。企業の利権と、金の力でそこに絡め取られていく最悪の学者たち。醜いばかりの姿が明らかになっています。

毎日新聞にいきましょう。
『使用済み核燃料:直接処分コスト隠蔽 エネ庁課長04年指示 現経産審議官、再処理策を維持』

これは、六ヶ所村で進められようとしている使用済み核燃料の再処理に関わるコストの話。実は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出す再処理をあきらめ、使用済み核燃料をそのまま処分する直接処分にすれば、コスト的には1/4から1/3で済むことが、2004年の段階で明らかになっていたというのです。その情報を握りつぶしたのは、当時の経済産業省・安井正也原子力政策課長で、この人物、現在は経産審議官だというのですから、開いた口が塞がりません。

こういった官僚たちの頭の中にも、「民意」なんて微塵もありません。保身と出世。当然と言えば、当然なのです。みずからが推進している核燃料サイクルプランを否定するようなデータが、身内から出てしまったらたいへんなのです。出世がなくなりますから。ですから、推進側と監視側が同じ組織内にあっては、絶対に駄目なのです。そして、『民主・自主・公開』の三原則を守るためにも、すべての人に対して、原子力関連の情報が、完全な透明性をもって公開されるべきなのです。

『解説:使用済み核燃料・直接処分コスト試算隠蔽 原子力ムラの異常論理』毎日新聞
毎日新聞は、スクープの後追い解説で、情報隠蔽の背景を「原子力ムラの異常論理」に結論づけていますが、これは日本の官僚社会一般にある傾向で、原子力では、特に顕著に出ているということです。

経産省内の隠語では、電力業界に絡め取られた官僚を「感電した」、ガス業界に絡め取られた官僚を「ガス中毒になった」と言うそうです。かつてのような、現金による露骨な買収は影を潜めているようですが、酒やゴルフの接待、そして、巧妙なのは、子どもの就職に絡む便宜提供など。嫌になりますが、そんな世界が本当にあるのです。

天秤の片方に乗っているのは、私たちの健康と安全。もう一方に乗っているのは、官僚たちの出世と保身。しかし、天秤を操作するのは官僚たちです。いざとなったら、私たちの健康も安全も、どんどん軽く扱われます。
半原発運動は、その構造にもくさびを打ち込んでいかないと、いけないのかも知れません。より所は、『民主・自主・公開』でしょう。

破綻した核燃料サイクル2011/11/27 21:18

どうやら、高速増殖炉『もんじゅ』が廃炉になりそうです。

『もんじゅ:廃炉含め検討…細野原発事故相「来年判断」』【毎日新聞】

細野豪志原発事故担当相は、「一つの曲がり角に来ている。何らかの判断を来年はしなければならない」と述べています。
グズグズしている必要はありません。直ちに廃炉プロセスに入るべきです。すぐに始めたって、10年以上はかかるのですから。

高速増殖炉は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して再利用するというもの。再処理工場と並ぶ、いわば「夢の核燃料サイクル」の中核とも言うべきものです。事実上のもんじゅの廃炉決定。やっと、国が核燃料サイクルの破綻を認めた形です。

あまり大ニュースにはなりませんでしたが、もう一つ、核燃料サイクルがらみのニュースがありました。

『核燃:ロシアの再処理提案文書を隠蔽 「六ケ所」の妨げと』【毎日新聞

2002年に、ロシアから日本に対して行われた使用済み核燃料の受け入れ&再処理の申し出が、資源エネルギー庁の一部幹部によって握りつぶされていたのです。
当時、六ヶ所村再処理工場はトラブル続発。高コストも問題視されていました。記事の中にあるエネ庁幹部の「極秘だが使用済み核燃料をロシアに持って行く手がある。しかしそれでは六ケ所が動かなくなる」という発言が、すべてを物語っています。
9年前、核燃料サイクルそのものが成立しなくなる可能性を当事者たちは感じとっていたのです。ですから、汚い手を使ってまでも、情報を隠蔽しました。
なぜ?
核燃料サイクルがなくなると、自分の出世がなくなるからです。天秤の片方の皿に乗っているのは、私たちの健康と安全。反対側の天秤皿には官僚たちの出世。秤を操作しているのは官僚たち。このことに気が付かなかった私たちにも、少し責任があります。

では、幾つかのテーマに絞って、核燃料サイクルの話を進めましょう。

●核燃料サイクルの嘘
まず、核燃料サイクルの考え方を示す図をご覧ください。

あっちこっちの原発推進派の広報サイトにある核燃料サイクルの図と似ていますが、決定的に違うところがあります。原発と再処理工場から出る放射性排気と放射性廃液です。原発推進派は、ものの見事に、この点に目をつぶっています。
詳しく言えば、原発から出る放射性排気も問題なのですが、実は、再処理工場からは、同じ時間内に原発の1万倍もの放射性物質が出ます(主に廃液)。

原子炉も無いのになぜ?と思われる方も多いかと思いますので解説しましょう。
再処理の過程では、使用済み核燃料を硝酸に溶かす必要があります。この溶液からプルトニウムとウランを抽出したあと、残りを高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体に固めるのですが、すべてをガラス化することは技術的にも、コスト的にも、不可能なのです。
残った放射性廃液はどこへ?
海に流します。現在、再処理をビジネスとして行っているのは、フランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドにある再処理工場。どちらも、放射性廃液を海に流して、海洋汚染が大きな問題になっています。六ヶ所村も同じことをしようとしています。いや、せざるを得ないのです。再処理をする限りは。

放射性廃棄物を海に棄てておいて、何が核燃料サイクルなのでしょうか!?本来、○○サイクルと言ったら、閉鎖系でなくはいけません。「ゼロ・エミッション=排出物無し」です。
再処理工場から放射性廃液が大量に出る。核燃料サイクルには、根本的な嘘が隠されています。

●高速増殖炉の危険性
1980年代までは、世界各国が高速増殖炉の実用化に向けて、積極的な姿勢を示していました。「夢の原子炉」と言われていました。
しかし、政治的には、プルトニウムが世界的に拡散することを後押しする可能性があること。技術的には、冷却剤に液体ナトリウムを使用するという、大事故と背中合せのようなシステム。この二つを解決することができず、アメリカを含む各国が、開発中止を表明しています。
日本が、事実上の撤退表明をしましたので、今、本格的に開発を進めているのはフランスだけになりました(ロシア、中国、インドも開発の姿勢だけは示していますが)。

液体ナトリウムの恐ろしさ… それは、水に触れただけで大爆発を起こすことです。
次の映像は、第二次世界大戦中にアメリカが溜め込んでいた液体ナトリウムを、湖に廃棄する場面です。少しばかり古い映像ですが、液体ナトリウムの恐ろしさを伝えるには十分です。

Disposal of sodium

高速増殖炉では、炉心を冷やす(炉心から熱を取り出す)ために、水の代わりに液体ナトリウムを使います。熱を受け渡す効率が良いからです。
しかし、発電機のタービンを回すためには、最終的には水蒸気が必要ですから、炉心で高熱に熱せられた液体ナトリウムの熱で、水を沸騰させ水蒸気にします。
液体ナトリウムと水の間にあるのは、金属製のパイプの厚みだけです。そして、熱をより効率よく伝えるためには、パイプは、できるだけ薄い方がよいのです。
この話を読んだだけで、高速増殖炉が、まさに砂上楼閣、怪物の綱渡りのようなものなのだということが、お分かりいただけたかと思います。薄いパイプに、何らかの理由で傷が付き、そこから穴が空いたら… いや、大地震で、そのパイプ自体が折れたら… とんでもない大惨事が待っています。

●再処理工場はプルトニウム抽出工場
世界初の再処理工場が稼働したのは1944年です。
原子力発電も行われていなかった時代に、なぜ、再処理工場が?
アメリカのハンフォード核施設。長崎に投下する原爆を作るために再処理工場が作られました。再処理工場などと言われると聞こえが良いですが、その実態は、プルトニウム抽出工場に他なりません。
最初に示した核燃料サイクルの図から、余計な部分を消すと、簡単にプルトニウム爆弾を作るためのフローチャートになります。

原子力発電自体が、軍事技術の民生転用ではあるのですが、再処理工場は、その最たるものです。逆も真なりで、民生用の再処理工場は、簡単に軍事転用可能。再処理工場さえあれば、数ヶ月でプロトニウム原爆は作れます。
今、再処理工場(再処理施設)を稼働させている国は、英・仏・ロシア・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮・アルゼンチン・日本だとされています。

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核燃料サイクルについて、高速増殖炉と再処理工場という二つの側面から見てきました。本当に初歩的な話だけを書いたつもりですが、これだけでも、核燃料サイクルの恐ろしさと馬鹿馬鹿しさは、ご理解いただけたかと思います。

「もんじゅ」の事実上の廃炉決定。まずこれを確実に、出来るだけ早く実行させなくてはいけません。
次は「核燃料サイクルからの全面撤退=六ヶ所村再処理工場の廃止」です。
そして、全原発を廃炉へ。気を緩めている暇はありません。


日本国内の原子力施設一覧地図2011/10/16 08:25

日本にある主な原子力施設をGoogleマップ上にプロットしました。
日本国内の原子力施設一覧地図

商用の原子力発電所は、すべて網羅してあります。
GoogleEarth で閲覧すると、原発が、いずれも風光明媚な場所に立地し、日本列島の自然や景観をことごとく破壊していることが、よく分かります。
また、多くの原発では、温排水がさかんに排水されている様子まで確認できます。元の海水と較べて7度から10度も高い温度の水が、止めどもなく海に流れ込んでく。それが衛星画像ではっきりと見えるのです。背筋が寒くなりました。

嘆きとともに反省も…
自然や景観を電力会社に売り払ってしまったのは、他ならない私たち日本人だからです。もちろん、実際に売ったのは、その土地の人たちです。しかし、彼らのせいにはできません。この列島に暮らす一人ひとりが、自然や景観、農業や漁業、そして穏やかに暮らす権利というものに対して、あまりに意識が低かった。そこを守銭奴と利権屋につけ込まれたのです。

言い古された言い方ですが、一度失われた自然や景観を取り戻すのは容易なことではありません。しかし、少しずつでも、その方向に歩み始めないと… その第一歩が、全原子炉の即時停止であり、廃炉決定なのです。

舵を切る企業と産業界2011/10/04 20:30

今や、反原発に向かおうとするのは、市民だけではありません。多くの企業が、脱原発・反原発へと舵を切っています。

ソフトバンクの孫正義氏が、脱原発を目指す『自然エネルギー財団』を設立したのは、多くの皆さんがご存じの通りです。

ドイツでは、原発に深く関わってきた大手電機メーカーのシーメンスが、原子力事業からの完全撤退を宣言【朝日新聞9月19日】。日本で言えば、日立や東芝が、脱原発を宣言したようなものですから、大変な出来事です。シーメンスは多国籍企業で、外国の原発にも関わってきましたが、それも含めて止めるということです。

アメリカの世界的に有名なIT企業は、原発関連の事業にだけは手を出さないことを内規で決めているそうです。万一、コンピューターシステムが原因で事故が起きた時、補償のリスクを担保しきれないというのが理由。これは福島第1の影響ではなく、会社設立当初からの方針だそうです。

日本では、城南信金が4月の段階で脱原発宣言。大きな反響を呼びました。

スズキ自動車は、中電浜岡原発から11kmの距離にある相良工場を危険だと判断。原発事故時に従業員の命を守りきれないからです。移転を検討していましたが、7月に「浜岡原発再開なければ工場移さず」の方針を明らかにしています。

さらに、アメリカの、これまた超有名な半導体メーカーの上層部から、私が直接聞いた話があります。
「半導体メーカーにとっては、原発よりも太陽光発電の方が、ずっと儲かります。なぜかと言うと、<一つの発電システム>という意味では、原子炉1機も太陽光パネル1枚も同じです。極論すれば、原子炉一つに一個必要なチップが、太陽光パネル1枚にも一個必要なのです。太陽光パネルが千枚並べば、同じチップが千個売れるということです。巨大技術やエネルギーの中央集権は半導体メーカーにとっては困りもの。エネルギーの地方分散、地産地消は、私たちにとって大きなビジネスチャンスになるでしょう」。そして、こう続けました。「すでにこのビジネスは始まっています。日本の半導体メーカーの東芝や日立は、原子力に深く関わりすぎているので、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に大きく舵を切ることができません。私たちに追いつくとはないでしょう!」
なぜか悔しい!しかし、東芝や日立よりも、この半導体メーカーの判断の方が、間違いなく正しいのです。

企業によって、「社会的な責任に照らして」「従業員の安全を確保するため」「経営上のリスク回避のため」、あるいは「純粋に利潤追求の立場から」と様々な理由があっての、脱原発です。そのどれも、否定する必要はないでしょう。逆に、こういった動きが、ますます強まれば、脱原発のうねりに大きな弾みがつきます。
「脱原発は集団ヒステリー」なんて言ってた連中に、大恥をかかせてあげましょう!


さて、企業の脱原発の話を追っていくと、最後には、原子炉メーカーの話に辿り着きます。世界的な原子炉メーカーや、アメリカという国そのものが、実は、かなり前から原子力事業に及び腰になっていたのです。

まず、福島第1の1号炉、2号炉、6号炉を始め、日本にある多くの沸騰水型原子炉を製造したGE(ゼネラルエレクトリック社)。2006年に、日立製作所とGE双方の原子力部門を統合し、日立GEニュークリア・エナジー(日本市場担当)を設立しています。株式の割合は、日立が80%、GEが20%。世界市場を担当するGE-Hitachi Nuclear Energy の株式は、日立が40%、GEが60%です。GE一社が負ってきた原子力事業のうちのかなりの部分を日立が肩代わりする形になりました。

一方、関西電力などが導入している加圧水型原子炉で有名なウェスティングハウス・エレクトリック。アメリカの代表的な総合電機メーカーだったのですが、すでに元々の会社はありません。最後まで残っていた商業用原子力部門を英国核燃料会社(BNFL)に売却したのが1997年。BNFLは2006年に、それを東芝に転売。現在、ウェスティングハウスは、100%東芝傘下の会社です(名前だけはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー)。国策の幹であったはずの原子力産業を他国の会社に売ってしまう… 少なくとも、アメリカとイギリスでは、投資的にも原子力が魅力を失っている証です。

GEとウェスティングハウスの動きを見てみると、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの後の風向きの変化を巧みに読んで、アメリカは原発ビジネスのリスクを日本のメーカーに押しつけてきたのではないかと思えます。事故が起きたら会社が耐えきれない、という直接的なリスクと、「原発は、もう儲からない」という経営戦略上の理由の両方で。

冷静に歴史を見直してみれば、世界では、20年・30年前から、原子力企業でさえ、原子力から抜け出そうと画策してきたという逆説的な状況がありました。その流れの中で、巨大な原子力企業2社が、事実上、日本の傘下にある。いや、抱え込まされている。これは、恥ずべきことであるし、様々な意味で危険なことでしょう。







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