外部被曝の現状2011/05/05 11:14

今現在、私たちは、そして福島の人たちは、どの程度の放射線に被曝していて、今後はどうなっていくのでしょうか?状況を一旦、客観的に見直し、今後について考えてみたいと思います。

まずは外部被曝です。原発の至近距離でない限り、外部被曝の原因は、空気中を浮遊する塵などに乗った「浮遊放射性物質」と、それが地面や建物に沈着した「沈着放射性物質」に分けられます。この両方から受ける放射線量を合計したものが空間線量です。

ただ空間線量=被曝線量ではありません。屋内では線量が下がるからです。ここで面倒なのは、「浮遊放射性物質」と「沈着放射性物質」では、屋内で減る率が違うことです。
「沈着した放射性物質」は、家の中にいればかなり遮れるでしょう。上のデータを見ると木造家屋でも屋外の0.4倍となっています。
一方、「浮遊放射性物質」は、木造家屋内では0.9倍にしかならないとされています。対策は、窓を閉め切ったり、洗濯物を外に干さなかったり、外出から帰ったら玄関の外で埃を払うといった「花粉症対策」と同じ。これである程度被ばく量を減らすことができるとされます。

なお、ここで扱っている放射線はガンマ線です。
なぜならアルファ線とベータ線は透過力が非常に弱いため、それを発する物質に直接手で触ったり、体内に取り込まない限り危険性はあまりないからです(体内被曝は深刻です)。ちなみに空気に対する透過力は、アルファ線が1センチ以下、ベータ線が1メートル程度。ガンマ線はかなり遠くまで届きます。従って、事故現場から数キロ以上離れた場所では、外部被曝はガンマ線だけを考えておけばよいわけです。

ではまず、東京の状況を見てみましょう。
都内の降下物(塵や雨)の放射能調査結果」を見ると、「浮遊放射性物質」は、かなり減ってきています。今 現在の空間線量の多くは「沈着放射性物質が出している放射線」と考えてよいと思います。ということは、木造家屋における軽減係数は、一応、0.4と。

空間線量はどうでしょうか。
ここのところ下がってきて、0.07μGy/h(=0.07μSv/h)程度です。
これを一日8時間を外で過ごすとして計算すると、年間の実効被曝量は
((0.07μSv/h x 8時間)+(0.07μSv/h x 0.4 x 16時間))x365日=368μSv/y=0.368mSv/y
となります。
一般人の年間限度量=1mSv/y以下ではありますが、福島第1の事故以前の平均値は0.04μSv/hくらいでした。倍近くにはなっていますので安心は禁物です。

一方、福島は…
どこを探しても、「浮遊放射性物質」のデータがありません。これでは正確な外部被曝の量を計算しようにもできないはずです。まだまだモニタリングの体制が弱体です。
やむを得ず東京と同じ「木造家屋における軽減係数=0.4」で計算してみます。
5/4現在の福島県双葉郡の空間線量は1.7μSv/h。これを年間の実効被曝線量に直すと8.9mSv/yとなり、問題となっている20mSv/yには及びませんが、1mSv/yという基準の8倍に達しています。
一方で、http://atmc.jp/school/ を見ると、空間線量は地域によってかなりの偏りがあり、中には6.8μSv/h(年間実効被曝線量=35.7mSv/y)などという恐ろしい値も出ています。リンク先にある地図を大きく拡大してみると分かりますが、地域の中でも大きく値が異なる場所があります。これは、放射性物質が埃と同じように吹き溜まることを示しています。狭い地域の中にも、大変危険な場所と比較的安全な場所があります。それを見極めるためにも、より一層綿密なモニタリングが必要でしょう。
その結果、ある程度広い範囲で年間実効被曝線量が1mSv/yを越える地域では、大規模な避難が必要になると思います。

今回は、外部被曝だけを考えてきましたが、次は内部被曝を取り上げます。

コメント

_ 塩爺 ― 2011/05/05 23:27

`「浮遊放射性物質」のデータがありません,,,まだまだモニタリングの体制が弱体です。`の記述に対して質問です。
これは、技術的問題と政治的、行政的遅れ(危機管理体制の貧弱さ)のどちらに多くの原因があるのでしょうか?素人考えではガイガーカウンターで殆どモニタリング(検出)できると考えていますが、間違っていますか?
今、通販でガイガーカウンタが売れ始めているそうですが、‘我が家に1台‘は意味がありますか?個人主義的質問で恐縮です。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/06 10:27

>塩爺さん
ガイガーカウンターでは空間線量しか計れませんので、その放射線が空気中に浮いている浮遊放射性物質から来ているのか、地面に落ちた放射性物質(沈着放射性物質)から来ているのかを見分けることができません。
浮遊放射性物質の量やその種類(核種)を知るためには、化学的な分析、あるいは、物理学的な分析が必要になります。
放射線を発している物質が空中にあるのか、地面にあるのか、また、その核種によって、対策・対応が変わってくるのは言うまでもありません。

「一家に1台ガイガーカウンター」は大賛成です。ホントは、屋外と室内に1台ずつ欲しいところです。でも、結構、高いですよね。

_ 塩爺 ― 2011/05/07 05:45

ガイガーカウンターが空間線量しか測定できない事が理解できました。御回答ありがとうございます。
通販サイトでガイガーカウンタの価格を調べたら、だいたい4万円から20万円ぐらいでした。素人なので各スペックの評価はできませんでしたが腕時計型の製品がありました。今はやりのスマートフォン等に内蔵することは技術的には可能と思います。ぜひ商品化して欲しいものです。孫さんにお願いしてみようかな?

_ sukoyaka_farm ― 2011/05/07 08:22

いつも参考にさせていただいています。

このページの記事で、
「一方、福島は…」以降の
「μSv/y」となっている部分は
「mSv/y」ではないでしょうか?

ご確認いただければありがたいです。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/07 08:59

>sukoyaka_farmさん
ご指摘ありがとうございます。
5か所も間違っていました。すいません!
直ちに修正しました。

_ sukoyaka_farm ― 2011/05/07 14:58

早速、確認・修正いただきありがとうございます。

もう一つ確認させてください。

「ちなみに空気に対する透過力は、アルファ線が1センチ以下、ベータ線が1メートル程度。ガンマ線はかなり遠くまで届きます。従って、事故現場から数キロ以上離れた場所では、外部被曝はガンマ線だけを考えておけばよいわけです。」
 のところ、事故現場から直接放射されるものについては、記述の通りかと思いますが、ベントや水素爆発の際に放出・飛散した放射性物質が、各地にチリのように漂い(浮遊し)、今はその大半が地表に落ちた(沈着した)ものとして、存在しているのだと思います。

 ですので、そのお住まいの地域に浮遊や沈着している放射性物質がどの核種であるのかによって、 アルファ線、ベータ線、ガンマ線のどれが出るのかが決まるのであって、「ガンマ線だけを考えておけばよい」ということにはならないのではないでしょうか。

「空気に対する透過力は、アルファ線が1センチ以下、ベータ線が1メートル程度。」であるなら、アルファ線を出す核種が到達してしまって地面にあれば、「寝転がるようなこと」をすれば外部被ばくするし、ベータ線を出す核種が到達してしまって地面にあれば、立っていても大人は腰から下、幼児は頭までやはり外部被ばくする可能性があるのだと 思います。

 そういうチリのようなものがあるので、次項の「内部被曝の再検討」のような核種が含まれるチリが、舞い上がった際、吸い込まないように防除することが大切のだと思います。

いかがでしょうか?
(長くなりました。すみません。)

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/07 16:10

>sukoyaka_farmさん
ご指摘いただいた件、回答させて頂きます。

まず、<沈着した放射性物質からのアルファ線やベータ線であっても、「寝転がるようなこと」をすれば外部被ばくする>のは確かです。
ただ、アルファ線は、人体の中を数十μmしか進めませんので、外からでは真皮にすら届かないでしょう(大量に浴びれば皮膚ガンの恐れがないとは言えませんが)。
ベータ線なら、ある程度外部被曝するでしょう。ただ、子供であっても24時間地面に転がっていることはないでしょう。その場面を想定した時には、遊んでいる内に土の微粒子や埃を吸い込んだ場合の内部被曝の方が怖いです。

一方、放射線の強さは、距離の三乗(二乗という説もあり)に反比例して減っていきます。例えば、ベータ線が1メートルでほとんどゼロになるとすると、10センチ離れただけで、それなりに減衰していることになります。
「アルファ線とベータ線は透過力が非常に弱いため、それを発する物質に直接手で触ったり、体内に取り込まない限り危険性はあまりない」と書いたのは、そういう意味です。
<立っていても大人は腰から下、幼児は頭までやはり外部被ばくする可能性がある>は事実ではありますが、事故現場からある程度離れた場所では、かなり小さな影響しかないと考えられます(データの裏付けはありませんが)。ガンマ線は、そう簡単に減衰しないので、外部被曝が危険です。

私が、「ガンマ線だけを考えておけばよい」としたのは、純粋に外部被曝の話を言っているだけです。もちろん、吸い込んでしまったら、内部被曝になりますから危険です。
一度沈着した(地面に落ちた)放射性物質が、なんらかの形で舞い上がった時は、浮遊性放射性物質と同様に扱うべきなのは、ご指摘の通りです。

外部被曝と内部被曝のどちらが危険かという議論は成立しません。ただ、晩発性障害を考えた時、特定の器官に集まって、放射線をピンポイント照射する内部被曝の危険性が正確に伝えられていないのは大きな問題だと考えています。

_ ゆきぼー ― 2011/05/10 10:10

はじめまして、まったくの素人で参考になります。

原発が事故発生時の「安全です」が白々しく聞こえたのは本能的に危険と感じたからでしょうか。

素人ですので少しお尋ねします。

記号の読みからがわからないのですが
出来ればルビを振ってくれれば助かります。
お邪魔しました

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/10 18:15

>ゆきぼーさん
了解しました。今後、できるだけ気をつけるようにします。このブログにはルビ機能はないので、別な形で読みやすくなるよう配慮します。
ちなみに、
μGy/h=マイクログレイ/毎時
μSv/h=マイクロシーベルト/毎時
mSv/y=ミリシーベルト/年間
となります。
ご存じかも知れませんが、μ(マイクロ)は100万分の1という意味になります。

危険を感じとった本能を大切にしてください。

_ ゆきぼー ― 2011/05/11 19:47

ありがとうございました。
これからも参考にして少しは理解できるように努力します。
拡散もしていきたいと思います。
これからもよろしくお願いします。

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