イギリス、泥舟から逃げ出す2011/08/04 17:29

昨晩(8月3日深夜)から各紙がイギリス・セラフィールドにあるMOX燃料工場の閉鎖を伝えています。
朝日新聞
毎日新聞
北海道新聞

MOX燃料(Mixed oxide fuel)というのは、ウラン・プルトニウム混合酸化物のことで、いわゆるプルサーマル発電のための燃料。言い換えれば、プルサーマルでは、たいへん毒性が強く核兵器にも転用しやすいプルトニウムを核燃料の一部として使用するということです。

今までに、日本でプルサーマル発電を導入している原子炉は、玄海3号炉(九州電力)、伊方3号炉(四国電力)、高浜3号炉(関西電力)と今回の事故で破壊され、大量の放射性物質をばらまいた福島第1の3号炉です。
この内、今現在、営業運転をしているのは高浜3号炉だけで、玄海3号炉と伊方3号炉は定期点検からの再稼働の見通しが立っていません。この二つの原子炉に関しては、具体的な安全性の問題だけでなく、やらせメールや説明会への電力会社からの動員が明らかになり、「誰がプルサーマルに賛成したのか?」「そもそもプルサーマルに賛成する世論はあったのか?」という問題にまでなっています。

近くプルサーマル発電を導入する予定になっているのは、浜岡4号炉(中部電力)、泊3号炉(北海道電力)などで、中電も北電も、今回の報道にかなり困惑しているようです。

世界的に見ると1960年代にヨーロッパ各国やアメリカでプルサーマル発電が積極的に進められた経緯がありますが、フランス以外は撤退の方向。今、プルサーマルに積極的な立場を取っているのは、日本とフランスだけです。

ところで、MOX燃料に使うプルトニウムは、どうやって手に入れるのでしょうか?
プルトニウムは使用済み核燃料の中に1%ほど含まれています(原子炉内でプルトニウムができる仕組はこちらへ)。これを再処理工場で取り出して、MOX燃料工場に送っているのです。二つの工場は近い方が便利なので、イギリス・セラフィールドにも、再処理工場とMOX燃料工場の両方があります。

現在、再処理工場または再処理施設を稼働させている国は、フランス、イギリス、ロシア、インド、パキスタン、中国、北朝鮮、アルゼンチン、イスラエル(?)、そして日本だけです。日本で稼働中なのは東海再処理施設ですが、実験的な設備なので、大した処理能力はありません。そこで今、青森県六ヶ所村に規模の大きな再処理工場を作ろうとしているのです。試験運転中ですが、一方で、根強い反対運動が続いているのはご存じの通りです。

さて、「再処理工場」と言われると、危ないものを処理してくれそうで、何となく聞こえがよいですが、元々は、核兵器を作るための施設です。
ウラン原爆(広島型原爆)を作るためには、天然ウランの中に0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を90%以上にするという大変に難しい濃縮作業が必要です。
一方、プルトニウムは、使用済み核燃料の再処理で抽出できるので、プルトニウム原爆(長崎型原爆)はウラン原爆に比べると比較的簡単に製造できるのです。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル(?)の再処理工場は、核兵器と直接結びついています。フランス、イギリス、ロシアにしても、核兵器製造のために再処理の技術を高めてきたことに間違いありません。アメリカが、今現在、再処理工場を稼働させていないのは、プルトニウムがテロリストに渡るのを恐れているためと言われています。

もう一つ、今回の工場閉鎖の意味を考える上で忘れてはいけない視点があります。
他国の使用済み核燃料を受け入れているかどうか。実は、他国の分も請け負っているのは、フランスとイギリスだけです。フランスは、自国も核燃料サイクルやプルサーマルに積極的ですから、「ついでに稼ごう」という発想は分かります。ところがイギリスは、自国では核燃料サイクルにもプルサーマルにも取り組んでいません。イギリスの再処理工場とMOX燃料工場は、純粋に外貨稼ぎをするための施設なのです(かなり危険な稼ぎ方ですが)。そして、イギリスのMOX燃料工場の顧客は日本の電力会社だけです。

今回の工場閉鎖は、福島第1の事故を受けて、今後、MOX燃料の需要が激減、もしくはゼロになると判断した末のことでしょう。これは、ビジネスの問題です。
MOX燃料工場を管理する英国原子力廃止措置機関(NDA)は、「日本の地震と関連する事態がもたらす商業的リスクを分析した結果、将来的に英国の納税者に多大な負担をかけないためには、早期の工場閉鎖が唯一最善の選択肢」と明言しています。要するに赤字は出せないと。
この先、再処理工場も止める可能性が高いです。
プルサーマル以上にプルトニウムを効率的に使えるとされる高速増殖炉は、世界中どこの国でも、なんの見通しも立っていません(アメリカとEUはすでに計画を断念)。日本の「もんじゅ」は、事故に次ぐ事故を繰り返し、「廃炉に」という声が高まっています。
一方、プルサーマルも先が見えない。
プルトニウムもMOX燃料も、需要の見込みがないとなった今、イギリスにとって再処理工場とMOX燃料工場は無用の長物になりました。
イギリスは、核燃料サイクルという泥舟から、早々に退却することを決めたのです。

使用済み核燃料はどこへ?2011/08/06 22:15

日本の原発から一年間に出る使用済み核燃料は1000トン~1300トン。この中には、核分裂せずに残ったウラン235の他に、超ウラン元素(プルトニウム239・アメリシウム241など)と核分裂生成物(セシウム137・ストロンチウム90など)がたくさん含まれています。いずれも危険極まりない放射性物質である事は言うまでもありません。

この使用済み核燃料が、どこへどう運ばれているのかを追ってみました。

まず第一の行き先は、国内の再処理工場です。
日本で営業運転中の再処理工場は東海再処理施設しかありません。これは実験的なプラントなので、年間200トンほどの処理能力しかありません。貯蔵能力も限界のようで、ここ数年は、東海村への使用済み核燃料輸送は、ほとんど行われていません。

もう一つは、試運転中の六カ所村再処理工場(反対運動が続いています)。処理能力は年回最大800トンです。ここの使用済み燃料プールには3000トンの貯蔵ができますが、運転開始前なのに、すでに満杯。今年に入ってからは、一切の使用済み核燃料を受け入れていません。

なお、日本で使用済み核燃料を輸送する場合、トラックによる陸上輸送と船舶による海上輸送を併用します。警備は警察と警備会社で、自衛隊は動員しません。
文科省のサイトに、高速道路での核燃料物質(使用済み核燃料と思われる)の陸上輸送の写真が掲載されています。物々しい警戒態勢と言うよりは、普通の風景の中をとてつもなく危険な物質が移動している姿に底知れぬ恐怖感を感じます。

次は、使用済み核燃料の海外への輸送です。行き先は、フランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドでした。過去形にしたのは、どちらも契約量のすべてを数年前までに運び終えており、現在は、再処理を終えたウラン235、プルトニウム239とそれを原料にして作ったMOX燃料(プルサーマル用燃料)、ガラスで固められた高レベル放射性物質(ガラス固化体)の日本への返却が続けられています。
前の記事で書いた「セラフィールド(イギリス)のMOX燃料工場の閉鎖」は、日本から来た使用済み核燃料の再処理がほぼ終わり、MOX燃料の製造も完了するということを意味しているのでしょう。少なくともMOX燃料工場の客は、日本だけだったわけですから(再処理工場の方は、スイスなども顧客のようですが、そのスイスも「脱原発」宣言。再処理工場も先行きは見えなくなりそう)。

日欧間の核物質輸送では主に英国籍の使用済核燃料輸送船が使われています。英国の警備会社が雇った武装した警備員が乗り込んでおり、船には機関砲や武装高速艇を搭載しているそうです。ルートはパナマ運河経由なので、カリブ海諸国から「安全性に問題がある」と非難されています。

さて、使用済み核燃料の行き先をもう一度見直してみましょう。海外での再処理は契約終了。国内の再処理工場は満杯。じゃあ、どこへ?
各原発が山のように溜め込んでるのが現状です。その総量は9000トン近くになるようです。
日本中の原子炉が通常運転を続けると、年間1000トンから1300トンの使用済み核燃料が出てきます。六ヶ所村再処理工場の処理能力は年間800トン。誰が計算しても計算が合いません。
どんどん溜まる危険な使用済み核燃料。トイレのないマンションと揶揄される所以です。
加えて、再処理工場は、原子炉1機に比べての1万倍の放射性物質を出すなど、大きな問題を抱えています。

長くなりそうなので、再処理工場の詳細については、別な記事で書くことにしますが、とりあえず、使用済み核燃料の行き先を追っただけでも、問題山積なのはお分かりいただけたかと思います。

2011年8月6日を迎えて2011/08/06 22:25

66年前の今日、8月6日。広島に原爆が投下されました。

福島第1の事故が収束しない中、日本中、いや世界中の多くの人たちが思いを新たにこの日を迎えています。

核による、とてつもない被害を受けてから66年…
語弊を恐れずに言うなら、核兵器廃絶を目指す反核勢力の多くも、「原子力の平和利用」という甘言に絡め取られてきた歴史があります。
その事を自己批判しろだの、総括しろだの馬鹿馬鹿しいことを言うつもりはありません。福島第1の事故を経て、「原子力の平和利用」の本当の怖さを知った今、核兵器も原発も廃絶しなくてはいけないという原則的な立場こそが正しいのだということが明確になりました。その事を心に刻みましょう。

「原子力の平和利用」の裏に何があったのか?
核兵器開発との直接的な結びつき…
住民の命と健康をまったく考慮していなかった(考慮しようもなかった)完全対策…
放ったらかしで山積みの使用済み核燃料…
儲かるのは電力会社と政治家だけ…
などなど。

2011年8月6日。この日を期に、「原子力の平和利用」と本気で決別する道に歩み出さなくてはいけないと考えています。

自然放射線を正しく知る(1)2011/08/07 15:22

私たちは自然界からも放射線を受けています。自然放射線と言います。人工放射線(核実験や原発の影響などで浴びている放射線)同様、体外から直接放射線を浴びる外部被ばくと、体内に入り込んだ放射性物質による内部被ばくがあります。
自然放射線による被ばく量の合計(外部被ばく量+内部被ばく量)は、世界平均では2.4ミリシーベルト/年(1988年国連科学委員会報告)。日本では平均1.4ミリシーベルト/年(若干異なるデータもあり)と推定されています。
例えばインドのケララ州の一部では、大地からの放射線だけで35ミリシーベルト/年という数字もありますが、今のところ、それが原因でガンが多発しているといったデータはありません。
こういった自然放射線の数字を楯に、「自然放射線以外の被ばく量を年間1ミリシーベルトとするのは厳しすぎる」などと主張する人たちがいますが、これはまったくの間違いです。そのあたりを分かりやすく解説したいと思います。

まず、どこから来る自然放射線なのかという視点から考えてみましょう。
自然放射線は、「宇宙から飛んでくる宇宙線に由来する放射線」と「地球創生期から大地の中に存在する天然放射性物質に由来する放射線」の二つに分けられます。

宇宙線とは、宇宙空間を飛び交う放射線のことで、常に地球にも降り注いでいます。大部分が高エネルギーの陽子で、一部がアルファ線(ヘリウム原子核)です。他に様々な素粒子もありますが、微量です。これらは一次宇宙線と呼ばれ、大気圏に入ると空気中の原子や分子と衝突して、二次宇宙線と言われる中性子やガンマ線を生み、一次宇宙線自体は、ほとんど地表まで到達しません。
二次宇宙線もまた、大気中で様々な原子や分子と衝突し、地表面(海抜0メートル)まで到達するのは、平均0.03マイクロシーベルト/時。年単位で見ると世界平均では0.35ミリシーベルト/年です(この年平均は海抜0メートルのデータではありません)。

宇宙線の量は、地磁気の関係で、緯度が高くなるほど多くなります(赤道で一番少なく、北極、南極で多い)。また、海抜が上がれば、通過する空気の層が薄くなるので、増えることになります。よく飛行機で海外へ行く場合の被ばく線量が取り上げられますが、これは宇宙線の影響によるものです。高度1万メートルにもなると、宇宙線の線量は、かなり増えてきます。

一次宇宙線やそれから派生する放射線と空気中の原子や分子との衝突によって、ナトリウム22や炭素14などの放射性元素も生成されます。ベータ線を発する炭素14は、主に飲食で体の中に入ってきます。これによる内部被ばく量は、臓器やによってことなりますが、数10マイクロシーベルト/年程度です。

(続く)

自然放射線を正しく知る(2)2011/08/07 15:32

大地には、地球創生期にできた天然放射性物質が、わずかに含まれています。
主なものは、
カリウム40(半減期:12.5億年)
ウラン238(半減期:44億6千万年)とその崩壊過程で生成される核種【ウラン系列】
トリウム232(半減期:140億年)をその崩壊過程で生成される核種【トリウム系列】
です。
これらは、大地の中(多くは岩石の中)から放射線を発する場合もありますし、建材などにも含まれているので、私たちは建物からも若干の外部被ばくを受けています。大地+建物からの合計が世界平均で0.4ミリシーベルト/年ほど。
日本国内には、大地+建物からの被ばく線量に対応するデータありません。使えそうなデータは、「宇宙、大地からの放射線と食物摂取によって受ける放射線量」です。
一番低い神奈川県で0.91ミリシーベルト/年、一番高い岐阜県で1.19ミリシーベルト/年という値に。線量の違いは、主に大地からの放射線量の違いによります。
天然放射性物質は花こう岩に多く含まれているため、花こう岩地帯では線量が上がります。日本では、西日本に花こう岩が多いので、大地からの放射線量は、概ね、西高東低の傾向を見せます。さらに、関東地方では岩盤の上を関東ローム層という赤土の層が厚く覆っているため自然放射線のレベルが低くなっています。

三つの天然放射性物質(群)は、いずれも内部被ばくにも関与します。

まず、カリウム40から見ていきましょう。
カリウム40は、地球上にあるカリウムの中に0.0117%含まれる放射性物質です。海の中にあるカリウムも、岩石に含まれるカリウムも、生体内にあるカリウムも、皆、その0.0117%はカリウム40です。サプリメントのカリウム剤であっても、0.0117%はカリウム40です。
一割ほどがガンマ線を出して、空間線量に影響を及ぼし、外部被ばくに関わります。残りの9割はベータ線を出して、カルシウム40に変わります。ベータ線は、遠くまで飛ばないので、この分は、外部被ばくよりも内部被ばくを考える必要があります。

カリウムは、体内に入ると血中や筋組織などを中心に、ほぼ平均的に全身に広がります。人体にとっての必須ミネラルの一つなので、健康体であれば、世界中の誰もがほぼ同じ濃度で体内に持っています(生活習慣や食文化の違いで若干の過不足がある)。しかし、どこまで行っても、カリウムの0.0117%はカリウム40で、体重60kgの日本人では、4000ベクレルのカリウム40が体内にあります。もちろん、これは少ない方が良いのですが、減らそうとするとカリウム欠乏症になってしまいますので、できません。

今回の福島第1の事故で、大量に放出されたセシウム137は、カリウムと似た性質を持っているため、体内に吸収されやすい放射性物質です。私たちの体は、セシウム137をカリウムとほとんど同じように扱いますので、仮に、2000ベクレルのセシウム137を体内に溜め込んでしまうと、カリウム40の濃度が、ほぼ1.5倍になったのと同じだけのベータ線による内部被ばくを受けるのです。

厚生労働省が、事故後に慌てて決めた暫定基準値によると、放射性セシウム(134と137の合計)は500ベクレル/kg(野菜や肉、それに卵や魚などそのほかの食品)です。
体内にあるカリウム40の4000ベクレルに比べたら随分低いから安心!ではありません。ここに誤魔化しが隠されているのです。4000ベクレルは体重60kgに対してです。カリウム40の濃度を1kg当たりで見たら、67ベクレル/kg。仮にセシウム137が100ベクレル/kg含まれる食品を持続的に食べ続けたらどうなるでしょう。<カリウム40+セシウム137>による内部被ばく量は、アッと言う間に跳ね上がります。

(続く)

自然放射線を正しく知る(3)2011/08/07 15:44

次にウラン系列(ウラン・ラジウム系列とも言う)です。
ウラン238は、放射線を出しながら、様々な放射性物質に変わり、最終的には鉛206に安定します。この過程をウラン238の崩壊系列、経由する放射性物質を孫核種と呼びます(詳しくはこちらへ)。

ほとんどが、半減期が短い元素ですが、ウラン234(半減期:24万6千年)、トリウム230(7万5千年)、ラジウム226(1600年)、ラドン222(3.82日)は半減期が比較的長いことから、自然界で存在が確認できます。
ラドン222以外は常温では固体である上、放出されるのは遠くまで飛べないアルファ線かベータ線が中心ですから、岩石中の中にある限りは心配はありません(若干のガンマ線が空間線量に影響を及ぼす)。
しかし、体内に取り込むと深刻な問題になります。
自然放射線の範疇ではありませんが、どの孫核種も、ウラン鉱山などで粉じんとして体内に入った場合は、肺、膵臓、肝臓に発ガンの危険性が高まります。

ラドン222は常温で気体なので、大気中に広く存在します。世界で見ると10~100ベクレル/立方メートルの濃度で、日本では平均13ベクレル/立方メートルとされます。アルファ崩壊なので、内部被ばくを考慮する必用があります。呼吸で肺に吸い込んだラドン222などから受ける被ばく線量は世界平均で1.3ミリシーベルト/年とされ、自然放射線による年間被ばく量=2.4ミリシーベルト/年の半分以上を占めます。
これも自然放射線の範疇ではありませんが、ウラン鉱山近傍ではラドン222の濃度が高まります。
日本では唯一のウラン鉱山があった岡山・鳥取県境の人形峠で、悲惨な事態になりました。多くの鉱山労働者を出した24世帯150人ほどの集落(鳥取県側の方面(かたも)地区)で、20年間で8人、28年間では11人がガンで死亡したのです。男性の肺ガン死亡率は全国平均の26倍になったそうです【参考サイト】。
アメリカでも同様の事態が起きており、アリゾナ州のレッドロックのウラン鉱山では、約400人の鉱山労働者(ほとんどが先住民)のうち約70人が肺ガンで死亡しています【参考サイト】。

自然放射線中で、もっとも問題視されているのはラドン222を吸い込んだ場合の内部被ばくです。ラドン222は絶対に増やしてはいけないし、ウランの採掘さえしなければ増えません。
そう!人類にとって、そして地球上の生物にとって、ウランは掘ってはいけないものなのです。地中にそっと置いておけば、深刻な被ばくを引き起こすようなことはありません。それをひとたび、人の手に収めようとした時、とんでもない悲劇が起きるのです。

トリウム系列に話を進めましょう。
天然放射性物質の一つで、岩石の中に含まれるトリウム232は、様々な孫核種(放射性物質)を経由して、最終的には鉛208に安定します(詳しくはこちら)。
孫核種の内、ラドン220以外は常温では固体で、ほとんどがアルファ線かベータ線しか出しません。ウラン系列同様、岩石の中にある限り心配はありません(若干のガンマ線が空間線量に影響を及ぼす)。しかし、鉱山の粉じんなどで体内に入った場合は、内部被ばくが心配です。
唯一、常温で気体となるラドン220(トロンとも呼ばれる)は、半減期が55.6秒と短いので大きな問題はないと思われます(一部のサイトで、「ラドン220は大きな被ばく要因」とされているが、これは間違いでは…)。

余談ですが、ラドン温泉、トロン温泉、ラジウム温泉なるものが存在します。少なくとも放射性物質が身体に良いことはありませんので、個人的にはお薦めしません。放射性物質以外に含まれている微量元素が、なんらかの効果を及ぼす可能性は否定しませんが…

たいへんに長くなってしまいましたが、重要なことは、太古からあるバランスを崩すとたいへんなことになるということです。


カリウム40の半減期は12.5億年です。ということは、体内での濃度=67ベクレル/kgは、人類が地球に登場して以来、ほとんど変化していないはずです。セシウム134とか137が体内に入れば、100万年以上変化していなかったカリウム40の濃度を上げるのと同じことになるのです。
ウラン系列やトリウム系列は、自然界にある限り問題はありません。掘るから悲劇が起きるのです。

自然放射線や天然放射性物質は、そっとしておいてあげる。それが唯一の道。
原発や核兵器が生む人工放射線は、人類を含むすべての生物が、長い時間をかけて築き上げてきた自然放射線との間の微妙なバランスを根底から崩してしまうのです。

反原発は反科学?2011/08/08 10:55

「科学技術」という言葉があります。英語では‘Science and Technology’。ところが、日本語の「科学技術」は「科学的技術」のニュアンスが強く、科学と技術が一緒くたになっています。
本当は科学と技術は別物で、別物だからこそ英語では‘and’でつないでいるのです。
一般的には、科学的な方法で見つけ出されたり、経験的に裏付けられた客観的な法則性を人間が使いやすいように応用するのが技術。
科学は、自然界の真理を探究する行為です。社会や人類の進歩に役に立とうが立つまいが関係ありません。例えば、小林・益川理論で「対称性の破れ」が証明されても、日常生活には何の影響もありません。しかし、科学者には真理を追究を続けて欲しいし、みんながそれを応援します。
一方、歴史的に見れば、原子や原子核の中で起きていることを解明する量子力学の研究の一部が、原爆開発へと技術的に利用されたことは事実です。これこそが「悪しき技術」。ヒロシマ・ナガサキの後、多くの科学者がその事に気づき、マンハッタン計画の中心人物であったオッペンハイマーやフェルミも反核兵器の立場に転じました。

話を戻すと、科学に善悪はありませんが、技術には善い技術と悪い技術があるということです。

「反原発は反科学・反技術の考え方だ」と批判する人がいますが、これは違っています。量子力学は、純粋に科学です。それを悪しき技術で大量殺戮兵器に転用したのが原爆で、金儲けのために危険極まりない発電用熱源に利用したの原発。悪しき技術の背景には、札束と名誉、権力がうごめいます。私たちは、悪しき技術に反対するのみです。

前の記事で、「人類はウランを掘るべきではない」と書きましたが、これは、私たちが科学を棄てることを意味するわけではありません。毒キノコだと分かれば、それを採らないのも科学的立場なのです。

身の回りの放射性廃棄物はどこへ?2011/08/15 20:26

稲わらに堆肥、下水処理場の汚泥、ゴミ焼却場の灰、校庭などの除染のためにすき取った表土… 福島第1から出た放射性物質によって汚染された危険な廃棄物が、次々と生まれています。
これまで、放射性廃棄物といえば、使用済み核燃料や原発で使用された資材などを指すものでした。しかし今、原発事故による新種の放射性廃棄物が、私たちの身の回りにあふれています。

国も東電も、これらの放射性廃棄物の行き場を確保していないので、施設ごとに集められ、山積みにされている例がほとんどです。
しかし、このままでは、例えば畑の隅に集められた稲わらや堆肥から土壌や地下水へと汚染が進む可能性があります。校庭の片隅に、ビニール袋に詰めた汚染土壌を放っておいてよいはずがありません。

一方、下水処理場の汚泥やゴミ焼却場の灰に放射性物質が集まってきているのは、不幸中の幸いとも言えます。どこかに集積しなかったら、日常の生活空間を彷徨い続けるのですから。現場の労働者に危険がないよう細心の注意を払いながら、汚泥や灰を適切な場所に移す必要があります。

放射能下水汚泥、行き場なし 業者引き取らず、保管限界
都内の家庭ゴミ焼却灰から放射性物質 8000ベクレル超、一時保管へ

福島県内では、多くの学校が、汚染されたプールの水を排水できずに困っています。下水に流せるところは流すべきだと思います。農業用水路や河川に流れてしまうところは、一旦ポンプ車で吸い上げて下水に流す、といった方法が考えられます。しかし、国は対応をすべて地元任せにして、何の手だても打っていません。
文科省学校健康教育課「基準作りは難しく、各学校と関係者の間で合意してもらうしかない」
経済産業省原子力安全・保安院「プールのみに特別な対応は考えていない」
国土交通省「下水道への排水は問題ないが、地元との調整は管轄外」
行政、いや、あえて「役人ども」と言いましょう。彼らの対応は腹立たしいばかりです。

本来なら、福島第1から漏出した放射性物質に関して、東電は、原子の一つ一つに至るまで回収する責任があります。そして、原子力行政を推し進めてきた国にも重大な責任があります。それを認めてきた国民にも… という言い方をする人がいますが、この間の「やらせメール」などの件などで、原発推進の世論そのものが捏造だったことが明白になりました。それ抜きにしても、「札束で横っ面を張る」ようなやり方で、日本の原発が作られてきたのは、皆さんご存じの通りです。

話を身の回りの放射性廃棄物の話に戻しましょう。
もっとも危険なのは、一旦集まってきた放射性物質が、管理の不行き届きから再拡散することです。また「満杯」を理由に安全基準を緩めることは絶対に許されません(今でさえ十分に緩い)。

個人的には、福島第1の近くに、生活空間から出る放射性廃棄物の集積場をつくるべきだと考えています。残念ながら、原発至近の一帯は、今後数十年、いや数百年にわたって、人が暮らせる環境には戻らない可能性が高いからです(土地は東電なり国なりが買い上げ)。
分かりやすく言えば、福島第1から出たものは、すべて福島第1に戻すということです。

もう一点…
身の回りにあふれる放射性物質に関して、地方自治体は、東電や国に対して、もっともっと強く出る必要があります。まず、地方自治体は放射性物質が出たことに関して、基本的に責任を負っていません。そして、地方自治体には、住民の健康と安全を守る責任と義務があるのですから。これは、極めて分かりやすい話なのです。

泊3号炉を止めろ!2011/08/15 20:46

3.11直前に定期検査最終段階の調整運転に入った北海道電力泊3号炉。通常、1か月ほどで終了する調整運転を5か月に渡って継続し、なし崩し的に営業運転に入ろうとしています。
福島第1の事故を経ても、本質的に原発の安全問題に取り組もうとしない電力会社に対して、強い一手が打たれました。
「泊原発の営業運転前に安全策を」 北大教授ら緊急声明
北大大学院の吉田文和教授(環境経済学)など北海道内の大学教授ら50人が立ち上がりました。この力は大きいと思います。
「調整運転とはいえ、動いちゃっているから、しょうがないか」という諦めは駄目。一つ一つ止めていきましょう!

泊3号炉同様、長期間の調整運転を続けてきた関西電力の大飯(おおい)原発1号炉は緊急炉心冷却装置(ECCS)系統のトラブルにより原子炉停止。営業運転に移行できずです。緊急炉心冷却装置と言えば、原発の安全確保の心臓部(福島第1では作動せず)。3.11以降、電力会社としては、絶対にトラブルを起こしてはいけない状況下ですら、こんなことが起きているのです。

一つの原子炉も再稼働を認めない。それが、私たちがみずからの命と子孫の命を守るための唯一の道です。

続報:泊3号炉を止めろ!2011/08/17 11:09

なんと、高橋はるみ北海道知事の資金管理団体=萌春会の会長は、南山英雄北電元会長だそうです。
また、萌春会には、毎年、現役の北電役員が個人献金をしていることも明らかになっています。
こんな事情があって、5か月間の調整運転という異常事態から、そのまま営業運転に移行を画策。怒りがこみ上げてきます。
金と権力のどす黒い力が、住民の安全を踏みにじろうとしています。






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