NHK『あさイチ』の怪2011/10/30 18:42

NHK総合、朝の人気番組『あさイチ』で「放射能大丈夫?食卓まるごと調査」が放送されたのは10月17日のことです(私は、偶然だったのですが、リアルタイムで見ました)。
福島の2家族を含む全国7家族の一週間分の食事に含まれている放射性セシウムの量を計測(方法は、毎食一人前ずつ多く作ってもらい、それを分析に回す陰膳(かげぜん)法)。結果的には、5家族で一週間の間に1回ずつ5~9ベクレル/kgが検出されたというものです。
当ブログでも、その日にアップした「低線量内部被ばく/「毎日少しずつ」の恐怖」 で、番組内容に簡単に触れました。

「厳密な検査でも、一部の家庭で微量の放射性セシウムしか出なかった。福島でさえも」という、このレポートの反響は大きく、「これで安心して子供に食事を食べさせられる」といった声が上がりました。

ところが、一方で、「データが変だ」という声も広がりました。当ブログにも、『あさイチ』のデータに関するコメントを頂き、さっそく、NHKのホームページに上がっているデータを見直してみて、ビックリ。このPDFです。

まず第一の疑問は、7家族7日分=延べ49日分の食事を調べ、5日分から5~9ベクレル/kgの放射性セシウムが検出されているのですが、5件ともセシウム134かセシウム137のいずれかしか出ていないのです。
福島第1原発からの放出量を見ると、セシウム134(半減期:2年)が1.8京ベクレル、セシウム137(半減期:30年)が1.5京ベクレル(京は兆の1万倍)です。半減期の関係で、セシウム134の方が多少減りが早いのですが、現状では環境中にある福島第1由来のセシウム134とセシウム137は、ほぼ同量と見られます。おまけに、化学的な性質はまったく一緒。比重や融点、沸点なども一緒です。従って、2種類の放射性セシウムは、同じように、一緒に混ざったまま拡散していったと考えるのが妥当です。
下の地図は、文科省が発表した航空機モニタリングのデータです(福島第1の北側30キロ~60キロ圏)。セシウム137とセシウム134の広がり方も土壌への沈着量も、ほぼ同じです。

また、植物にしても、動物にしても、どちらかの放射性セシウムを選んで吸収することはできませんから、両方あれば、両方を吸収。私たちが食べる食品の中に入っていきます。
その証になるのが、食品別に放射性物質の濃度を発表している食品流通構造改善促進機構のデータです(シイタケなどを見ると分かりやすいです)。2種類の放射性セシウムのうち、片方だけが検出されるのはまれで、ほとんどの場合、両方同時に検出されています。
しかし、『あさイチ』では、5例が5例とも揃って片方だけなのです。これは、検査機器は大丈夫なのか?と疑って当然です。

もう一つの大きな疑問は天然に存在する放射性物質であるカリウム40の値です。延べ49日分のデータは、一日平均で250~470ベクレル/kgの間に入っています。しかし、通常、食品に含まれるカリウム40の濃度を見てみると下の表のようになります。

海草類などで高いものがありますが、食品全体を見れば200ベクレル/kgを越えるものはわずかしかありません。特に主食系の穀類では、ここに上げただけでなく、参考にした『家族で語る食卓の放射能汚染』のすべてのデータを見ても中華麺の99ベクレル/kgが最高で、100ベクレル/kgを越えるものはありません。
ところが、『あさイチ』のデータは、49日分すべてが、一日の平均で250ベクレル/kgを越えているのです。主食とおかずをどんな組み合わせにしても、250ベクレル/kg以上は、あり得ません。
番組では、水(おそらく飲料水)と米だけのカリウム40のデータも取っていますが、これらも考えられないような高い数値になっています。
カリウム40のデータも正しいのかどうか、疑わざるを得ないというか、ほぼ間違っているでしょう。

ところが、測定を担当した首都大学東京の福士政広教授もNHKも、「精度の高いゲルマニウム半導体検出器を用い、通常よりも時間をかけて綿密に調べた」と自信満々でした。
しかし、まず不思議なのが、専門家中の専門家であるはずの福士教授が、「セシウム137とセシウム134が一緒に出ない」「カリウム40の値が高すぎる」と疑問に思わなかったのでしょうか?NHKもNHKで、多くのスタッフが関わっているはずなのに、誰一人としてその疑問を持たなかったのでしょうか?

あるジャーナリストが、福士研究室に尋ねたところ、「機械の故障等で正確なデータではなく再分析中」という、とんでもない返事が返ってきたようです。故障した機械で取ったデータを全国放送に流すか!それも自信満々で。この記事を見た時、手が震えるような怒りをおぼえました。

NHKは、ホームページ上で再分析を行っていることを明らかにしています
「調査を担当した首都大学東京と、外部分析機関の協力を得て、データの再検討を行っています。結果が出次第、改めてホームページで公表いたします」と。
番組が大きな反響だったことを考えれば、もし、異なる結果が出た場合は、ホームページでの公表だけでは許されないでしょう。『あさイチ』で再度特集し、正しい情報を伝え直すのが報道機関の役目であり、責任だと考えます。

これは、多くの命に関わる問題なのですから。

コメント

_ ksirouto ― 2011/10/30 21:15

やはりと言うか、とんでもない事実が判明したものですね!ただ、ご指摘のように専門家を自負されている福士教授ご自身が全く疑問を感じなかったというのは信じられないことです!

通常では、言わば自分の評価にもつながることですから、慎重に分析など行いその結果発表も確認の上、行うのが常識かと考えます!

一体、どうなっているのでしょうか!言われるように単なるデータの再発表だけでは済ませられない局面かと思います。これからの推移を見守りたいものです!

_ 段 勲 ― 2011/10/31 00:10

いつもお世話様です。そうですね。既にウソは電波に流されています。後から訂正をしたところで最初のウソの放送の時の影響に比べればあまりインパックとを与えず、静かに真実は消されていくだろうと思います。だからこそ、一般の大衆に巨大なそして決定的な影響力のあるテレビメディアだからこそより慎重であるべきと思います。
しかし、そこまで彼らに慎重さがなかったとは思えません。ぼくのような普通の人にはわからない何かがあるのでしょう。
それにウソの放送の責任はだれも取らないのですから、
さらにびっくりです。

_ うなぎ ― 2011/10/31 13:18

最近のマスコミってどうなっちゃったんでしょうか。それとも、以前からこんな風だったのかな?
あの番組を見て、「ほら、大丈夫でしょ」と言われてさらに悩みが深くなったお母さんたちが沢山いたと思います。
食品の暫定基準値が出た時、1年1ミリシーベルトの法律の存在を言ったマスコミはほとんどいませんでした。そしてその基準値で最高5ミリシーベルトの被ばくになる事も言いませんでした。それが先日基準値の見直しで、食品だけで1ミリシーベルトにすると言ったら、「今までの5倍厳しい基準になりました!!」と大々的に報じるのです。どうしても国民に被曝させたくてしょうがないみたいです。

_ Ainahaina ― 2011/10/31 22:08

もしも
福島や東京の気にしない家族の食品の検査結果数値が高かったら番組になっただろうか\
不審に思います。

_ 高知のハニワは一つだけ ― 2011/11/01 12:22

いつも拝見しております。
普段は報道機関がヘマをすると他の報道機関ははしゃいでバッシングに走りますが、こと原子力災害にかんするとまったく無反応になります。負の連携があるようでそれがとても気になります。

_ 京都生協の働く仲間の会 ― 2011/11/22 21:19

京都生協の働く仲間の会 様 いつもNHKの番組を視聴いただき、ありがとうございます。 ご連絡いただきました、あさイチ「食卓まるごと調査」に関してですが、今週の木曜日、11月24日の朝8:15から番組の冒頭で、先日放送したデータについての修正を放送する予定にしております。 ご覧いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。 NHK「あさイチ」担当NHKふれあいセンター(放送)

_ 私設原子力情報室 ― 2011/11/22 21:36

>京都生協の働く仲間の会さん
情報ありがとうございます。
あさイチホームページ
http://www.nhk.or.jp/asaichi/2011/10/17/01.html
は、今のところ沈黙。
どんな形で修正データが出てくるのか、まずは注目しましょう。

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