移住と除染2011/11/23 08:55

福島第1原発が立地する大熊町。町全体が20km圏内の警戒区域に入り、町民全員の避難が続いています。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。

ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。

●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。

ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。

●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。

除染と言われて、真っ先に思い浮かぶは、汚染土壌をビニール袋に詰めて山積みにしていく風景か、高圧洗浄機で道路や屋根を洗い流している風景です。
このうち、汚染土壌の方は、各自治体とも保管先に腐心していますが、基本的には、「仮置き場→中間処理施設→最終処分場」という流れで、環境から隔離することができます。
洗浄水はどうでしょうか?一部の都市部を除けば、ほとんどが河川や海に流れ込んでいきます。これでは、放射性物質を環境から取り除いたことにはなりません。ピンポイントの除染では、屋根の洗浄は欠かせませんが、原則は「放射性物質を環境から隔離する」ことだと理解しておかないと、放射性物質の拡散を招く恐れがあります。下水施設のない地域では、河川に流れ込んだ放射性物質を回収する方法を考える必要があります。

一方、ゴミ処理所の焼却灰や下水処理場の汚泥に、高濃度の放射性物質が集まることが問題視されていますが、これは、不幸中の幸いと考えるべきでしょう。灰や汚泥に集まらなかったら、いつまでも、環境中にあるのですから。中間処理施設を早急に建設し、汚染された灰や汚泥を環境から完全に切り離すことが先決です。

●森林や農地の除染は本当にできるのか?
仮に、住宅地の除染がある程度できたとしても、森林の除染は容易ではありません。
国は、住民に「高濃度に汚染された森林と面と向かって暮らせ!」と言うのでしょうか?森林から流れ出る水はどうするのでしょうか?森林と人の生活圏との間を行ったり来たりする野生動物をどうするのでしょうか?解決の術は見当たりません。
この間、放射性セシウムを積極的に吸着する、いくつかの物質が提案されていますが、それらは例外なく、植物にとって欠くことの出来ない栄養素であるカリウムも吸着してしまいます。生態系の中から、放射性セシウムだけを抜き取ることは、ほぼ不可能といってよいのです。

農地は森林よりは除染できる可能性がありますが、それでも困難が付きまといます。農地の汚染は、作元を通して内部被ばくに直接つながります。きわめて深刻な問題です。
農地から放射性セシウムを化学的に除去しようとすると、必ず栄養分のカリウムも失われてしまうのは、森林の場合と一緒。今のところ、表土と、ある程度深いところの土を入れ替えてしまうのが有効とされていますが、大変な労力を伴う上に、土質が変わってしまいます。
チェルノブイリでは、最初、農地の土を丸ごと入れ替えることを考えましたが、あまりに広すぎて断念。今は、カリウムを撒いて、作物が吸収する射性セシウムの濃度を相対的に下げる方法が中心になっているようです。
何十年もかけて作ってきた豊かな土を放射性物質によって汚されてしまった農家の悔しさを思うと、涙が出てきます。

●福島県以外のホットスポットに関して
首都圏でも、千葉県柏市や埼玉県三郷市など、放射性物質のホットスポットが見つかっています。
除染が難しい森林が少ない地域なので、やる気になれば、徹底的に除染を進めることができると思います。汚染土壌の除去、屋根やアスファルト路面の洗浄などです。場合によっては、街路樹や植栽を撤去・植え替えする必要もあるかも知れません。
一方で、群馬県などには、山間部にもホットスポットがあります。高濃度に汚染された森林をどうするのか… 原発至近エリアと同じ問題があります。
悲しいかな、数十年間、立ち入り禁止にすべき森があります。

●自衛隊を全力動員せよ!
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が、国の内部被ばくや除染に対する対応を鋭く批判したのは、7月30日のことでした。
この日の児玉発言の中に、「ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごくもっております」というものがあります。除染が利権がらみのビジネスになることを警戒した発言です。
児玉教授は、土壌汚染に関する様々な技術を持つ民間企業の力を結集させるべきと言っています。それ自体は正しいと思うのですが、ハイテク技術を総動員したとしても、除染の現場は人海戦術になることは目に見えています。
なぜ、ここに自衛隊を動員しないのか?給料は税金で払っているのですから、支出は大きく抑えられます。
いずれにしても、自衛隊をフルに活用すれば、除染の利権化を防ぐことができ、費用全体を大きく抑えることができるはずです。

語弊を恐れずに言うなら、私たちは、東京電力から「汚い爆弾」による攻撃を受けた状態にあります。
核兵器を製造する能力を持たない国や組織が、放射性物質を手に入れた場合、それを敵国に撒き散らすだけで、大きな被害を与えられます。これを「汚い爆弾」と呼ぶのです。
福島第1という「汚い爆弾」は、セシウム137だけでも、広島原爆168個分を撒き散らしています。
戦争被害にも匹敵する状況。自衛隊の全力動員は、間違っていないはずです。日本には、陸海空合わせてで約25万人の自衛隊員がいます。

コメント

_ 段 勲 ― 2011/11/25 12:14

何時もお世話になっております。
そうですね。なぜ政府は重い腰を起こそうとしないのでしょうか?原発事故における昨今の政府の対応を見ていますと、まるで、大昔の専制国家のそれを連想させられてしまいます。今の日本国は、現在の国民つまり、今の国家の構成員一人ひとりの健康と生命を救うより国家構成員の犠牲の基で国そのものの存続を重んじているような気がします。つまり、構成員はこれからも生まれてくるだろう。だからそれより大切な現在の国家体制、国富、国際的な地位などを守ることに必死になっているように見えます。民主主義の根本的な考え方そのものが問われているのにもかかわらずまったく応えようとしていない状態とも思えます。もっと激しい言い方をしますと、今の構成員の国民に対しては、「いずれにせよお前らの命、健康に対して希望はないし(どうせ死んでいくだろうし)、何かやってやる風に見せかけて適当にやり過ごして時間が経ってしまえばそれで万事OKだよ。」という風に見えて仕方ありません。
本当に悲しいことです。アジアにおいてかつて最も早いときから民主主義が花咲いていた国、その日本はどこに行ってしまったのでしょうか?
民が主人であると言う考え方は国家が危機に直面すると手のひらをひっくり返すようなそんなにたよりない
思想だったのでしょうか?
今からでも、国民そのものが国家という考え方、国富とは政府のものではなく国民のもの、国民を見殺しにする国には国際的地位などないという事を思い出していただきたいと思います。
それだけが、原発事故で地に落ちた日本国の尊厳を取り戻せる最も大事な土台となると思います。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/11/26 07:03

>段勲さん
たいへんに本質的な話をありがとうございます。

かつて、この列島で、民が主役となって世の中が変わったことがあっただろうか… というのが、私の問題意識です。

「明治維新は日本の市民革命だった」と言う人もいますが、結局は、幕府の侍から、長州藩を中心とする元侍に、実質的な権力が移行しただけ、と穿った見方もできます。それは極端!と批判されそうですが、民の力が大きく発揮される局面が無かったのは事実です。
太平洋戦争敗戦時はどうでしょうか?一時は、2.1ゼネスト前夜や東宝争議など、GHQも手を焼くほど、民の力が昂揚しました。しかし、結局、GHQは戦前からの権力者の多くを復権させることで、日本の民の力を潰すことに成功します。「民を指導する」と称する人たちの路線間違いも影響しました。

「長いものには巻かれろ」「お上には逆らわない」。この列島には、そんな「あきらめ感」に似たものが、ずっと蔓延しています。その結果、起きたのが福島第1の大事故だとも言えるでしょう。民がエネルギー政策にモノを言う機会はなかったし、言おうともしませんでした。

一方で、「3.11を契機に、民の力を結集せよ!」などと言うのは、それこそ、上から目線で、何も言っていないのに等しいでしょう。
今、私たちが知るべきなのは、「民の力が結びついていないと、自らの身に、とんでもない厄災が降りかかる」ということです。段勲さんの「尊厳」という言葉をお借りするなら、それこそが、この列島に暮らす民の一人ひとりである私たちが、人間としての尊厳を取り戻すための第一歩ではないかと考えます。

「被災者の移住権確保」「徹底したモニタリングの実施」「給食の安全確保」「都市部の除染」「もんじゅ廃炉」「稼働中の全原発の停止・廃炉」「原発輸出の撤回」「六ヶ所村再処理工場の廃止」等々。私たちには、今やるべきこと、今求めるべきことが山積みです。皆がすべてをやることはできません。それぞれが、それぞれの生きる場所で、ひとつひとつ積み上げていくことが大切でしょう。それが結びついた時、3.11で受けた大きな傷が、少しだけ癒されるのかも知れません。

_ 段 勲 ― 2011/11/27 13:05

私設原子力情報室さん。
コメントをありがとうございます。
まったく同じことが自分の生まれ育った国でも日常茶飯事のように横行しております。原子力行政においても日本と全く同じ構造、体制の中であらゆる悪行が行われています。数多くの隠蔽と嘘、組織による口封じなどなど。既に寿命を超えて運転を続けている原子炉も数多くあります。まるで時限爆弾を抱えているようなものです。しかし、そこに国家権力をも巻き込んでいる巨大な利権集団が国民の目を口を耳を塞いでいるのが現実です。いつ福島のような事故が起きてもおかしくありません。
しかしこれらに負けているものですか。
仰るように自分の持ち場で一つ一つ積み上げることしか有効な手段はないと思いますが、今にでもすぐどうにもできないのが悔しいだけです。

_ momo ― 2011/12/21 10:52

こんにちわ。
いつも貴重な情報ありがとうございます!!
また、理解に苦しむ事があり書き込みました。
国が財政負担をして除染を行う地域のある自治体として、指定を受けた川場村ですが(あの安全宣言は何だったんだろう?)
村のHPに、土壌汚染調査の結果を発表しました。
「川場村内各施設等における土壌中セシウム濃度について」
http://www.vill.kawaba.gunma.jp/topic/img/98.pdf
それがまたもや怪しいと思うのです・・・なぜわざわざ地表1㎝の土を採取して検査したのか?
川場村の今回の結果報告をどう理解したらいいのか?

土壌汚染調査について、その有効な検査方法とその結果はどのように利用したらいいのかを教えて下さい。お願いします!!

_ 私設原子力情報室 ― 2011/12/22 11:01

>momoさん
コメントありがとうございます。

さっそくですが…
川場村放射線対策協議会が言う「地表面より1cm以内のもっともセシウム濃度が高いと考えられる土壌」というのは、それ自体は間違っていません。
しかし、その土壌サンプルをどこで採るかによって、データは大きく異なるはずです。たとえば、雨樋の下や、排水溝は当然として、雨が降ると雨水の通り道になる場所も要注意です。おそらく、協議会は、農園にしても、園庭、校庭にしても、その真ん中でしか、サンプルの採取をしていないのではないでしょうか(断定はできませんが)。

ただ、土壌分析は素人の手に負えるものではありませんので、まずは、皆さんの手で、空間線量を丹念に測って、空間線量の高い部分の土壌を分析するよう要請するのがよいのではないかと思います。園庭、校庭の空間線量マップを作ってみるのも、村役場などを動かすキッカケになるかも知れません。

_ 塩爺 ― 2011/12/22 21:25

>momo様
私の地元、埼玉三郷市での土壌調査レポートです。
市民で行い、市側に提出しました。
参考になれば幸いです。

http://www.chiekovsky.com/labo/uploader/files/dojo-chousa2.pdf

_ 私設原子力情報室 ― 2011/12/22 22:18

>塩爺さん
そうそう!私も塩爺さんたちの三郷での取り組みを念頭に、momoさんにReコメントしました。

>momoさん
三郷での取り組みは、間違いなく参考になると思います。

…とは言え、三郷でも市役所・市長相手に苦労しているのは事実です。一筋縄ではいかないぞと!と覚悟の上で取り組めば、少しは気も楽に構えられるでしょう。

いずれにしても、長い闘いになります。短期的に疲れすぎないように気をつけて頑張りましょう!

_ 塩爺 ― 2011/12/22 22:49

http://www.infopara.com/
「放射能から子ども達を守ろう みさと」のHPです。

_ momo ― 2011/12/23 13:01

コメントありがとうございます。
そして、塩爺さんありがとうございます。
「放射能から子ども達を守ろう みさと」の活動すばらしいですね!うらやましい限りです。
HPを拝見したら、安田先生の講演会の事が・・・
偶然にも、安田節子先生の講演会「わが子からはじまる食べものと放射能のはなし」を来月22日に隣の沼田市で出来る事になりました。

しかし、沼田市での講演会は市との協働事業なので思わぬ障害がでてきました。
今回の講演会を知った数人の市民から
担当課に講演者を避難する電話がありました。
講演内容について「およそ科学的根拠のないデマゴギーの連発で、この話、真に受けると利根沼田は作付け禁止になります。みんなが不幸になります」
そこで担当課は「放射線の健康被害については話してもらったら困る」と申し入れたと答えたとか・・・・。

放射能の健康被害を心配しているお母さん達のための講演会なのに困りました。

まあ、それでも出来る事から少しずつ進めていきます。

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