南相馬の黒い物質2012/03/10 21:26

テレビのニュースでも報じられたので、ご存じの方も多いと思いますが、「南相馬の黒い物質」の話です。

南相馬の地元の方が、所々の地表面に広がる黒い物質に線量計を近づけて測ったところ、最大31,682cpm(そのまま換算すると、何と94.9μSv/h!)というきわめて高い放射線量が検出され、一部は、プルトニウム239などの超ウラン元素から出ているアルファ線ではないかと疑われた一件です。

●「南相馬の黒い物質」を報じる海外のニュース

アルファ線の方は、専用の機器で測定したところ、一応、不検出となったのですが、「黒い物質」に放射性セシウムが高濃度で蓄積しているのは、間違いのない事実でした。
神戸大学の山内知也教授が高純度ゲルマニウム半導体検出器を用いて計測したところ、セシウム134が485,252Bq/kg、セシウム137が604,360Bq/kg。放射性セシウムの合計で109万Bq/kg。この100万Bq/kg以上という数値は、ゴミ焼却場から出た焼却灰で言えば、コンクリートに固めても埋設できない高いレベルです。こういったものが、南相馬、いや南相馬だけではないでしょう、福島第1から数十キロ圏内には、たくさんあると考えられます。

この「南相馬の黒い物質」は、東北大植物園の鈴木三男教授によって、「らん藻(らんそう)」であると確認されました。らん藻は生物学的にはバクテリアの仲間。私たちの一般的な感覚としては、細菌と植物の中間のような存在です。普段、「藻(も)」とか「苔(こけ)」と呼んでいるものの多くが、実はらん藻の仲間。観賞魚を飼う水槽の内側に付く緑色の藻も、海で赤潮を起こすのもらん藻です。

この、きわめて日常的に私たちの周りにある「らん藻」に、放射性セシウムが高濃度に蓄積しているのです。理由は、らん藻がみずから生き延びるために、空気中や水中、土中から積極的に栄養分としてカリウムを吸収しようとするからです。生体は、化学的な性質が似ているカリウムとセシウム(放射性であろうとなかろうと)を見分けることができませんから、「らん藻」が生きようとすればするほど、その体内には、どんどん放射性セシウムが溜まっていくのです。

ならば、らん藻に近づいたり、触ったりしなければ大丈夫?話は、そう簡単ではありません。
水がなければ活性化しないのがらん藻です。じゃあ、水が切れたら、土にへばりついて、死んでしまうのか?そうではありません。乾燥状態になると、細かく割れて、風の力で空中に舞い上がり、運良く水のある場所に落ちたら、そこで息を吹き返します。そこに、また放射性セシウムがあれば、さらに蓄積が進むということです。また、胞子によっても繁殖しますので、放射性セシウムに汚染されたらん藻の広がりを抑えることは、事実上、困難です。
そして、空中に舞い上がったらん藻やその胞子を私たちが呼吸によって吸い込むのは、まれな事ではありません。
らん藻の生きようとする力によって、私たちは放射性セシウムによる内部被ばくの恐怖に晒され、さらに、予想もしなかった場所に、あらたなホットスポットが作られていきます。

ここまで書いて、一年間に渡って、すっかり騙されていたことに気がつきました。「セシウムは、土壌との親和性が高いので、地面に落ちると土と強く結びついて、再度、大気中に舞い上がることはない」。国や多くの研究者が言ってきたことです。
まったくの嘘でした!
実際には、放射性セシウムを土より先にらん藻が吸収している場合があるのです。また、一旦、土が取り込んだ放射性セシウムをらん藻が吸い上げ、乾燥が進めば、大気中に舞い上がっていた、いや、今も舞い上がっているのです。
そのらん藻の汚染度は100万Bq/kgレベル!このような場所に、今、南相馬の人たち、いや、福島の多くの人たちが住むことを強制されています。本来ならば、人が住んでよい場所ではありません。いったい、誰がどう責任を取るつもりなのか…
今からでも遅くはありません。福島での対策の中心を除染から移住に切り替えるべきでしょう。

そしてもう一つ…
藻や苔への放射性物質の集積は、生態系全体の汚染の出発点となり、食物連鎖によって、私たちにその恐怖が押し寄せてきます。
河川に生えるらん藻を好んで食べるのはメダカのような小さな魚です。その先は、推して知るべしでしょう。
海では、植物性プランクトンや貝類、甲殻類などがらん藻を餌にします。下図のような流れに乗って、放射性物質がバトンタッチされていくのです。

悲しいかな、生体の宿命として、食物連鎖が上位に行けば行くほど、放射性物質の濃縮が進みます。それは、生体が、放射性物質を栄養分と勘違いして取り込んでいくからです(たとえば、セシウムとカリウムを、また、ストロンチウムとカルシウムを生体は区別することができない)。
私たちは、肉や魚や野菜などの食物から吸収した栄養分を体内で濃縮しています。いや、人間だけではありません。すべての生物がそのなのです。摂取した食物から得た栄養分を体内でより濃縮する。生体濃縮は、まさに生物が生きるためのシステム。その中に、放射性セシウムや放射性ストロンチウムが入り込んできて、生命活動と種の保存の根幹を担うDNAを破壊してしまう。そういう話なのです。

コメント

_ 南相馬市 大山弘一 ― 2012/03/11 09:39

涙。

_ 桑原 豊 ― 2012/03/11 11:19

子ども達がいるため通学路を優先にしていますが、天候に左右されなかなか進まないのが現状です。除染は拡散させないで取ること。水撒き対策は拡散させることで意味はない。ただ、飲料水まで汚染していること。早急に避難してほしいが、行政が動かない。放射能に対する危機感を感じていないのか?住民の教育と正しい指導が必要と考えます。覚悟しているのかな?住むなら住むでそれなりの対策が必要なのですが。時間の許す限り少しでも取り除く考えですが住む場所ではない。矛盾しますが「情け」が入ってしまいます。
無理でも作業を進める行動。

_ 小高 ― 2012/03/11 14:41

県外避難中の小高区住民です。
4月から鹿島近くの借り上げ住宅に移ることになりました。
教員を続けたい親の意向です。私は幼い孫たちを思えば帰りたくありません。
かといって いつまでも親子離れ離れの避難生活を続けたくもありません。
他の職業ならともかく、聖職と言われる、よそ様の子どもを預かる仕事なのに、安全な所に避難しろと言わず、市長や東電の言いなりになって、戻って来い、学校再開です、と言ってるかと思うと わが子ながらぞっとします。
黒い粉のことも、何度もブログを見せても「ひとりが騒いでるだけ」と本気にしません。
医者も市役所職員も半減してるのに、教員だけは減らないと言うのは、いったいどういうことでしょう!

_ みち ― 2012/03/11 16:31

避難権を盛り込む東電原発事故被災者保護法が早く成立して、避難したい人たちが、一刻も早く脱出できますように。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/03/11 16:31

「黒い物質」に関しては、マスメディアの中にも、「今や、植物や原始的な生物に濃縮するのは常識」とも言わんばかりの対応のところあるようです。彼らは、生態系の大切さ、生体濃縮と内部被ばくの恐ろしさをまったく分かっていません。20mSv/yのところに、住民を住まわせ続ける日本政府の先棒担ぎでしかないですね。
そして、地元には、不本意なのに、子供たちに「戻ってこい」と言わざるえない先生たちがいる。なにか、根本的なところが間違っているような気がします。

_ misan ― 2012/03/11 20:24

4月に区域の変更がありますが、本当に帰宅させていいところなんですかね。無責任な人たちのすることに
賛同すには、まだまだ早い気がします。
気をつけてもらいたい。

_ たか ― 2012/03/11 22:09

復興ばかりに力を注ぎ、一番大事な事を見失っている事が最も悔しい限りです。
α線・β線・γ線の各種分析をきちんと行い、汚染マップをきちんと作成して欲しいです。
除染の無力さを認め、一刻も早く市民を避難させなければと考えます。
まあ、のんきにマラソンしてるバカ市長にはわからないだろうな。

_ ぽんた ― 2012/03/12 00:22

個人的な意見ですけど
埼玉県 福島県 岩手県 千葉県 東京都
今までみてきて これらの知事は リコール
されても ふしぎじゃないとおもいますね
それと、広島 長崎の被爆医療関係者の行動
がひとつとしてみえてこないところ
ふしぎな国ですね 念じればなんでもかなう
とおもっているのでしょうか?です。

_ 大山弘一 ― 2012/03/12 01:08

 児玉氏の登場が桜井市長を助け 我々の市民運動を沈静化させました。どこからともなくやってきてボランティアさんが共同記者会見。
助っ人だったんですね。

さあ戦いは いよいよ佳境を迎えています。
阿修羅では同志が中央突破を目指して奮闘しています。
http://www.asyura2.com/12/genpatu21/msg/433.html
我が家のセシウム合算77万Bq藍藻から ストロンチウムも検出してもらいます。
 更には 「野生ざる」の内部被爆調査ももう一押し。
邪魔する輩は告発させていただきます。

_ 小高 ― 2012/03/12 12:28

残って復興に尽力くださるかたには敬意を表します。
愚痴もこぼさず、誰をも非難しない穏やかな人々、福島の誇りです。
が、一部ではあるが、避難したい人を止めたり、避難中の人を侮辱するのは止めて頂きたい。

【ロバ売りの親子】の寓話がありますが、育児中の親は、遠慮なく子供を守って欲しい。
逃げるのか、ふるさとを捨てるのか、という愚問には応じる必要はありません。
命あってこそ、復興は可能なのです。

発症の危険性が少ないと言われる年代の人や、全国からの支援にゆだね、その代わり 土地への執着は捨て、整地や処理場建設に応じ、復興に携わる人たちの邪魔にならないようにする。

一番卑怯なのは、強制避難区域でもないのに逃げ、被災者を名乗り、逃げた先で 足りない、もっと支援せよとクチだけ騒ぐ輩。家も土地も仕事も無事なのに、勝手に親子離れて被害者気取りの輩。
そういう人たちのせいで、受け入れ都府県から苦情が入り、市長や東電の思う壺、みんなで帰りましょう路線に引き込まれる。
 
避難者が卑怯なのではない。本当に卑怯なのは、たとえば真実を糾弾する大山議員を侮辱する同業議員、原発マフィアの面々。無駄な除染を法外な価格で引き受ける悪徳業者である事を忘れたくない。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/03/12 20:52

>小高さん

原発マフィア! まさに言い得て妙のようです。

伝え聞くところでは、除染利権に群がっているのは、福島に原発を誘致し、原発におんぶに抱っこで甘い汁を吸ってきた勢力そのものだとか。
日本政府も自治体も完全に一体です。だから、「移住よりも除染」になるということ。

「絆」「絆」と言われますが、守られているのは、「土木利権の絆」であり、「原発誘致の絆」でしかありません。100年後、200年後の子孫・後輩たちに笑われないためにも、この構造を根底からブチ壊す必要があると思います。

無駄な除染を法外な価格で発注する国に対し、すべてをNo!と言って悪い理由は見当たりません。

_ 自由人 ― 2012/04/01 02:15

黒い物質の件が気づかせてくれたことは、γ線だけではないという部分ではないでしょうか。
ここを頭に入れて20mSv基準を考えると、本当は30mSvだったり40mSvもあり得るのではと思ったりします。
特に内部被曝では透過力の弱いα線やβ線が1箇所に留まってダメージを与え続けることが懸念されるので、ホールボディカウンタでγ線を計ってもあまり意味がないようにも感じます。
この問題を探っていくと、日本が準拠するICRPに行き着きます。ここは「内部被曝は外部被曝の2~3%に留まる」と否定的に捉えている機関です。日本においてもやはり全く同じ発言が聞かれます。ICRPは劣化ウラン弾からの放射能の影響を否定したりもする、ちょっと?な組織です。
原爆のときにも、その後入市した人が病気になったり晩発性の発症が続出した際に、詳細が隠されたような経過があるようで、今回と重なって見えたりもします。
生かさなければいけないのですが・・・ 何かおかしいと思います。
長々と失礼しました。

_ 京都生協の働く仲間の会 ― 2012/04/09 16:58

>ここまで書いて、一年間に渡って、すっかり騙されていたことに気がつきました。

大変なことですね。今、放射性がれきの受け入れ反対を闘っている中で、事の重大さに唖然としているところです。
1つは、私たちは、キノコなどを食品として考えて、そこに放射性物質が集まることを危惧してきました。そこでシイタケなど、あちこちで問題が見つかりました。
しかし、問題はそれ以上に、このらん藻と同じ問題があると思いました。食用でないキノコもまた、今回のらん藻同様に、高い濃度の放射性物質を吸収しており、枯死などして、その胞子などが、空気中に漂っているのだろうということです。
その点、ぜひ知りたいところです。
また、ここでも触れられており、小出さんも言っていたと思うのですが、このような例は、たくさんあるのではないかと思います。この点での政府要求をしなければいけないだろうと思います。道路のらん藻などを測るように、です。
ここでも書かれておられるように基本的な、全く基本的な、呼吸という問題次元で、100万ベクレルに襲われているとは、大変なことです。
小出さんは、放射線管理区域に、福島、群馬、宮城、栃木、茨城、千葉、東京の一部の子らは、閉じ込められている。絶対に、救わなければいけない。と言っていました。
僕たちは、絶対に被曝を拒否する。とともに、福島などの子らの避難場所として、絶対に関西、京都、西日本を確保しなければいけないと思っています。100万人、避難を支えようと。
野田首相のしていることは、まさに、被ばくジェノサイド=大虐殺行為です。絶対に阻止したいです。
食品の安全基準、それと同じように、空気の安全基準を絶対に作らせなければいけません。もちろん、100万ベクレルなど、論外です。
本当に大切な指摘に感謝します。
なお、大山弘一さんには、精いっぱい応援したいです。

_ 二本松 ぽよよん ― 2012/04/22 11:33

京都で私達福島県のために活動してくれているとは存じませんでした。有り難いことですが、多分ほとんどの福島県民ば知らないと思います。
放射能を気にしながら福島に住み続けるなんて、他の地域の人から見たら、何をしている、早くほかの所に行けばいいのに、と思われるでしょうね。
あれから1年以上経ち、線量も下がってきたし、食品等の基準も厳しくなったし、今体が大丈夫なんだからもう大丈夫だろう、という感じ。というより、放射能に対して慣れてしまって感覚がマヒしつつあります。
それでも大人は「自己責任」で住み続けてもいいが、それを子供に同じく生活させるのはどうなんだろう。数年後、とんでもない状況にならないことを祈るしかない。。
新学期が始まり、今日も子供達はマスクをする程度で通学しています。
福島の県民性として、自分のことを自分で決めるのが苦手。判断基準は「誰々に言われたから」「行政から指示があったから」「みんなが行くなら私も行く」という感じ。
だから何か都合の悪いことが起きると「私が悪いんじゃない」「誰々の責任」「とにかく何とかしてくれ」となる。
残念ながら今回その県民性が顕著になり、東電や国はそこに付け込んでいるのも顕著。福島に長く住んでいながら残念に思う。

RD1503に台所用のアルミホイルを丸1本使ってくるんでみました。
幅12.5cmの厚紙でグルグル巻きこみ、50枚重ねにしました。12マイクロメートル×50で600マイクロメートルつまり0.6mm、触った感じは2,3ミリありますが。
これでRD1503を表示部分だけ残してぐるっと包んで測定してみましたが、測定値はほとんど同じでした。
これだもの、マスクなんて本当に気休めですよね。
それよりは車の中とかファンヒーターの陰などが低くなります。やはり金属のある程度の厚みが必要のようです。

_ 消えない夜 ― 2012/06/06 12:53

黒い物質は、カビです。

_ まるちゃん ― 2012/08/08 22:37

あの日から1年5ヶ月・・・小高出身者は様々な立場から発信できない場合もあると・・・しかし、それにしても、いつも情報を本当に感謝しながら拝見しております。マスコミや東電の情報操作には、ほとほともう、いいのではないですか。そろそろ賢くなりませんか?

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