福島意見聴取会と議事堂前解放区をめぐって2012/08/02 09:06

全国で行われている「将来のエネルギー政策に関する政府主催の意見聴取会」。7月29日までの開催分で、「原発0%=全原発の廃炉」の意見が7割です。
8月1日に開催された福島の聴取会では、30人中ただ一人が15%案支持で、29人が0%。原発ゼロを求める声が97%を占めました。

意見聴取会:原発「0%」7割が支持…8会場の「民意」【毎日新聞】

意見聴取会:福島では被害者の批判噴出「ガス抜きでは?」【毎日新聞】

そもそもこの意見聴取会、「2030年に…」という誰が決めたのか分からない条件の下に意見を聞くというスタンス。なぜ「ただちに全原発を廃炉」という選択肢が入っていないのか? 多くの人たちが疑問を感じています。
福島では、「原発再開のアリバイ作りではないか」「命あっての経済であり再稼働はおかしい」といった発言もありました。先の見えない避難生活、確保されない移住権、責任を回避する東電と政府… 福島の人たちの怒りは頂点に達しています。

東京では7月29日に大規模な反原発デモ。国会議事堂正面玄関前に数千(数万?)の人々がなだれ込み、いわゆる解放区状態になりました。これは1960年の安保闘争以来、62年ぶりの出来事です。大メディアは意図的に小さく報道していますが、実は歴史的な出来事でした。

60年安保も70年安保も、こういった街頭闘争(言い方が古い(笑))には、常に指導的な立場の人がいて、基本的にその指揮(時には煽動)に従って多くの人たちが動いていました。しかし、今起きている反原発のうねりは、既存政党や既存政治勢力からまったく無関係のフツーの人たちが次々と集まって大きな運動になっています。
鉄柵で閉鎖した車道へなだれ込んだのですから、警察に言わせれば「不法行為」でしょう。しかし、機動隊は手も足も出すことができません。皆、フツーの人たちだからです。

当方、国会議事堂前では最前列に行きましたが、そこには老若男女、様々な人たちがいて、政府への怒りの声を精一杯上げていました。中には、小さな子どもオンブした若いお父さんまで。「原発再稼働反対の声を議事堂正面で叫ぼう!」という当然の思いが議事堂前解放区につながりました。
撮影:広河隆一

●静止画資料集
7.29「脱原発 国会大包囲」空撮写真【正しい報道ヘリの会】
凄くイイ写真が並んでいます。

7.29脱原発国会大包囲【ウシトラ旅団アルバム】
幅広い層が集まった当日の様子を伝える写真集。

●動画資料集
7.29脱原発国会大包囲~空撮チャンネル 第二便【Ustream/IWJ】
44:40あたりから車道占拠が始まります。歴史的瞬間をとらえた貴重な空撮映像。

脱原発の鎖が国会包囲。議事堂前に解放区!【YouTube】
出来事全体の動きが分かります。

7.29 脱原発国会大包囲 国会前解放広場最前線【YouTube】
最前列の様子をつぶさに伝えています。

いっとき、福島では、「東京の人たちは気楽でイイよね。金曜日に官邸前に集まってりゃいいんだから」とシニカルな意見があったとも聞きます。しかし、意見聴取会を含むこの間の福島の人たちの声、そして、東京では毎金曜日の首相官邸前抗議行動と国会大包囲に数万の人々。溝は埋まり、一つの大きなうねりになりつつあります。

「福島の被害者の速やかな救済」「大飯原発の停止」「全原発の即時廃炉決定」。これこそが民意なのだと、政府に思い知らせてやる時が来ています。
そして、「東電と日本政府(=歴代政権)の責任の明確化」。こういったことが大切になってくると思います。

『崩れ始めた世界の原子力ムラ』と日本2012/08/03 13:58

原発の開発・建設で長年に渡って先頭を走ってきたゼネラル・エレクトリック社(GE)のCEO、ジェフ・イメルト氏が『世界の原子力ムラ』を震撼される衝撃の発言です。

米GE「原発の正当化、難しい」CEO発言、英紙報道【朝日新聞】

米GEのCEO、原発「正当化難しい」英紙に語る 【日本経済新聞】

発言の概要は、
●原子力発電が他のエネルギーと比較して相対的にコスト高になっている。
●原子力発電を経済的に正当化するのが非常に難しくなっている。
●天然ガスが非常に安くなり、いずれかの時点で経済原則が効いてくる。
●世界の多くの国が(天然)ガスと、風力か太陽光の組み合わせに向かっている。
です。

背景には、天然ガスの産出量増加や、自然エネルギー分野で進む技術革新と並んで、福島第1の事故で補償や廃炉にかかる費用が膨大になることがあります。また、3.11以降、各国で原発に対する審査や規制が厳しくなっており、これもコストを引き上げると見ているのです。世界の原子力ムラの中心人物が、原子力発電のコストが実は安くないことを明言したのです。

一方、日本では、東京電力への1兆円の公的資金投入をめぐって、枝野経産相が注目の発言です。

東電に1兆円公的資金投入 経産相「国有化は相当長期」【朝日新聞】

国有化の期間が「相当長期にわたる」と述べたのは、福島第1の廃炉や賠償の費用が巨額となり、その概算の見積りすら不可能なことが理由です。

原子力なのか自然エネルギーなのかを巡って、コスト論争が盛んに行われていますが、実は、事故処理や補償まで含めたら、原子力発電のコストは実質的には青天井。幾らになるかまったく分からない状態なのです。

そんな中で行われた東電への1兆円公的資金投入。赤ちゃんから高齢者まで含めた頭割りで一人1万円。4人家族で4万円。どれほど大きな金額かお分かりいただけるでしょう。これは私たちが背負ったあらたな原子力発電のコストです。それも、今までに原発で発電した分に対するコストだということを忘れてはいけません。この1兆円は、東電が倒産しないように支えるためだけの資金であって、何も生みません。

話をGEに戻しましょう。
福島第1の1号機から5号機はGEのMark1と呼ばれるタイプの原子炉です。このうちの3基がメルトダウン事故を起こしました。
今の段階では訴訟はなっていませんが、Mark1には元々欠陥があると指摘されており、今後、GEの責任が公の場で追求される可能性も高まっています。

GE Mark1 設計に特有の脆弱さ【本ブログ】

さて、GEは日立と組んで原発の推進を進めてきました。
提携開始は2007年。比較的最近のことです。見方によっては、GEはリスクの一部を日立に肩代わりさせようとしているとも読めます。

ここで世界の世界の原子炉メーカーを見てみましょう。ロシアのロスアトムを含めて4グループしかありません。

このうち、ウェスティングハウスは2006年に東芝の子会社になっています。
ウェスティングハウスがアメリカの企業からイギリスのBNFL(英国核燃料会社)に売却されたのは1998年。それが東芝に転売されたのです。

現時点で世界最大の原子力産業と言われるフランスのアレバ社は、三菱重工と提携・協力関係にあり、各国で原子炉の売り込みをしています。六ヶ所村再処理施設にも大きく関わっています。2社の提携は2008年以降に強化されています。

こうして見ると、ここ数年の間に世界の原子力産業の最先端に日本企業が躍り出た感があります。しかしそれは、同時に原子力事故に対する巨大なリスクを背負い込んだとも言えるのです。

GEについては、原子力関連の売り上げは全社の1%しかありません。仮に世界中の原子炉が、今すぐ廃炉になっても蚊に刺された程度なのです。原子力部門をすべて日立に売却してしまっても同じことです。
前述の通りウェスティングハウスは、すでに東芝の子会社です。アメリカ系2社に代わって、世界の原子力産業の中心を担おうとしているのが東芝と日立。
逆に言えば、アメリカやイギリスの企業は、過酷事故の際に責任を追及されるリスクの高い原子炉の建設や保守・管理から体よく逃げ出そうとしているのです。この見方は、当方自身、「うがった見方」とことわった上で、これまで何度か書いてみましたが、本記事冒頭のGEのジェフ・イメルトCEOの発言を読むと、あながち「うがった見方」ではなく、ほぼ当たっているのではないかという確信を得ています。

原発推進の旗を振ってきたアメリカとイギリスが逃げ出す。このままでは、取り残されるのは日本です。アメリカのオバマ政権は、原発の新規建設に手を付けていますが、その原子炉のメーカーはウェスティグハウス(=東芝)なのです。

ヒロシマ、ナガサキで悲惨な被害を被り、福島第1で3つの原子炉のメルトダウンという、人類史上かつてない過酷事故を引き起こした日本。今すぐにでも、世界から原発と核兵器をなくすための最先頭に立たなくてはいけません。
『世界の原子力ムラ』が崩れ始めている時に、私たちがもたついている理由はどこにもありません。

原発再稼働と総括原価方式の闇2012/08/26 11:21

この夏、関西電力管内も含めて、原発なしで電力は十分に足りていました。
関西以外のエリアでは、すべての原発が止まっています。しかし、計画停電も、強制的な節電もなく夏が乗り切れています。一般家庭や企業における、ちょっとした節電意識の高まりだけで原発は要らなくなったのです。いや、そもそも、要らなかったと言うべきでしょう。

最大の問題は、原発依存率がもっとも高い関西でした。関電と国は「大飯を再稼働しないと過酷な計画停電を実行するしかない」「産業への影響が多大」といった脅しをかけて、大飯原発3号機・4号機の再稼働を強行しました。高まる再稼働反対の声に耳を貸さずに。

迎えたこの夏は、全国的な猛暑。関西もその例外ではありません。しかし、「原発再稼働しとったから、エアコン止まらんで助かったわ~」とはならず。関西の夏もまた、原発なしで十分に乗り切れたことが明らかになったのです。

電力不足予測過大だった【京都民報】

振り返ってみると、京都大学の小出先生をはじめとする良心的な研究者たちは、3.11の直後から「原発がなくても電力は足りる」と主張してきました。

小出先生の意見(PDF)

しかし、原発推進派は「小出さんは反対派だから都合の良いデータだけで計算している。もし、大停電が起きたらどうするのか!」などと叫んで、正しい意見を押しつぶしてきました。

それにしても、なぜ、電力会社は原発にこだわり続けるのか… ひと言でいえば、儲かるからなのです。
電気事業法によって定められた総括原価方式によって、日本の電力会社は、絶対に損をしない仕組みになっています。
簡単に言えば、資産に対して一定の比率で電力会社の報酬が決められ、「原価+電力会社の報酬=電力料金収入」となっているのです。この電力料金収入から、電気料金を算出するのです。これでは、企業努力や自由競争による料金の値下げなど絶対にあり得ません。

上の図を見て頂ければ、高額な資産を持てば持つほど電力会社の報酬が増えるのがお分かりだと思います。だから、「高額な資産=原子力発電所」を持ちたがるのです。
信じられないことに、危険極まりない使用済み核燃料まで資産として計上されています。資産額が電力料金に跳ね返るのは、言うまでも有りません。

「原発ゼロ=全原発の廃炉」が決定されれば、原発も使用済み核燃料も資産価値がゼロになります。その分、電力会社の報酬は減ります。一方で、廃炉費用を原価に組み込むことが出来なければ、電気料金を下げざるを得なくなるのです。総括原価方式がある限り、電力会社が原発ゼロに首を縦に振るワケがないのです。

では、どうすればよいのか…
「ただちに全原発の廃炉」を求めると同時に、「総括原価方式の廃止」「地域独占の廃止」「発送電の分離」の3つを実現することです。
そんなことをすれば、電力会社が潰れてしまう?大丈夫です。私たちが支払ってきた電気料金で作り上げた送電網という巨大な資産があるのですから。






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