ホット・パーティクルを知る第一歩2014/07/20 13:14

チェルノブイリでは、現在、NPOが主催するツアーが行われています。立ち入り禁止のゾーン(原発から30㎞圏内)に入り、原発の一部も見学します。危険視する意見もあれば、「啓蒙のための観光」として評価する向きあります。ここでは、その善し悪しを判断することはしませんが…

ここに『チェルノブイリダークツーリズム』という本があります。作家の東浩紀さんやジャーナリストの津田大介さんたちが、実際にチェルノブイリツアー(2013年4月11日~12日の1泊2日)に参加し、レポートしたものです。
細かい内容はともあれ、この本の中に、「今のチェルノブイリ」と「これからの福島第1事故汚染地域」を見ていく上で、重要な事柄を見い出したので、ご紹介していきましょう。

事故を起こした4号炉を覆う石棺から300メートルの場所。線量計が示す値は毎時5マイクロシーベルトです。年間の外部被ばく線量に換算する約15ミリシーベルト/年。なんと、福島第1で"帰還"の基準とされている20ミリシーベルト/年よりも低い。しかし、そこは厳重に管理された"危険な場所"です。

もちろん、ゾーン全体の空間線量が下がったわけではありません。コンクリートやアスファルトで固められた地面や道路では、風雨で放射性物質が流されるために低くなっているのです。実際にツアーガイドからは、「舗装道路から外に出ないように」という注意がなされます。
もう一つ、ガイドから注意されるのは「地面に座ったり、荷物を置かないように」ということです。これは何を警戒しているのでしょうか?地面に点在する放射性物質の微粒子=ホット・パーティクルの付着や拡散を恐れているのです。

ホット・パーティクルとは何か?
Wikipediaでは「主としてプルトニウムの微粒子を指す」とされていますが、現在では、必ずしもプルトニウムが含まれていなくても、原子力事故で生成された放射性微粒子すべてをホット・パーティクルと呼ぶのが一般的です。
セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム239、アメリシウム241などが代表的ですが、ホット・パーティクルに含まれる可能性のある放射性元素の種類は数百種に及びます(従って、一つ一つのホット・パーティクルを見るとその組成は異なります)。

さて、ホット・パーティクルについて検討するにあたり、何点か重要なことを上げておきましょう。

1. 事故現場に近ければ近いほど存在確率が高い。
→空気中を拡散するのですから、当然と言えば当然です。

2. 微粒子なので、遠くまで運ばれる。
→福島第1由来のホット・パーティクルは、アメリカ西海岸のシアトルでも観測されています。微粒子が遠くまで飛ぶ理屈は「風が吹いても岩は決して動じないのに、砂(岩の微粒子)は舞い上がる」のと同じ。同じ比重でも小さくなればなるほど、空気抵抗を受けやすくなるからです。

3. 数粒を吸い込んだだけで、肺がんを発症するリスクがきわめて高くなる。
→ホット・パーティクルには、近傍の細胞を直撃するアルファ線やベータ線を発する放射性元素が含まれています。肺に入ってしまうと、肺胞にへばりついて、同じ場所に放射線を浴びせ続けるという恐ろしい事態になります。一度、肺に入ったホット・パーティクルが、体の外に出てくることは、その人が死ぬまでありません。

今、ここに数個のホット・パーティクルがあっても、空間線量が大きく上がることはありません。線量計に引っかかるガンマ線を出す放射性物質は限られているからです。さらに、空間全体で見れば、ホット・パーティクルの密度はとても低いからです。
しかし、ホット・パーティクルは確実に体に入り込んできます。私たちの肺は、言うなれば掃除機のフィルターかゴミパックのようなもの。ピカピカに見えるフローリングの部屋であっても、掃除機をかけるとフィルターには驚くほどたくさんの塵がたまります。理屈は同じです。実際に、ホット・パーティクルは車のエアフィルターやエアコンや掃除機のゴミパックから発見されているのです。
名古屋の一般家庭の掃除機ゴミパックから見つかったホット・パーティクル

チェルノブイリでは年間5ミリシーベルト以上のエリアは、今でも立ち入り禁止です。福島第1の汚染地域では「年間20ミリシーベルト以下なら帰還せよ!」と。そこでいったい、どのくらいのホット・パーティクルが人々の肺に吸い込まれていくのだろうか… 今まさに、学校の校庭を走り回っている子どもたちがいます。

肺胞の中で放射線を発するホット・パーティクル

コメント

_ 福島県中通り ― 2014/07/20 20:24

福島県中通りでは、学校の外遊びや外運動を積極的に推奨しています。
いくらグランドを除染しても、
山林から毎日セシウム粒子が降り積もっているのに、
その降下物の存在を保護者に伝えていません。

手遅れになる前に誰かが立ち上がらなければ。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/07/20 21:14

>福島県中通りさん

空間線量は、そのままホット・パーティクルの存在確率を示すものではありませんが、ほぼ比例すると考えるのが妥当です。
年間20ミリシーベルトという基準が、いかに非人道的な数字なのか、もう一度、問い直さないと、とんでもない事態になりそうで心配です。

それと同時に、ホット・パーティクルがかなり遠くまで飛んでいて、そこで健康被害を引き起こすのだということも皆が知らねば… 福島第1の汚染エリアは、政府が発表しているよりもずっと広範囲なのです。

_ 脱福者 ― 2014/07/22 00:51

ホット・パーティクル、これがキーになる。
一刻も早く表舞台にださねば。

_ カメジィ ― 2014/08/10 18:28

初めまして、カメジィといいます。
亀戸にいるからカメジィです。
原子力の問題でテレビなどの報道で、或いはテレビで報道しないことについて、いろいろと疑問なことが出てきて調べている内にこのブログに出会いました。

テレビの報道などで気になっていたのは
空中の空間線量などで、沢山の放射性同位元素(RI)があるのになぜ セシウ137(Cs137)かという疑問だ。ところが今から半世紀も前の原水爆実験のころはラジオでもストロンチウム90(Sr90)を測ってその線量を発表していた。子どもの頃、降り始めの雨にあたるとハゲになるといわれたことを覚えている。
セシウムはγ線をだしてガイガーカウンターでも測りやすいが、ストロンチウムはβ線を出すので測りにくいというのだが、それでは昔はどうしてストロンチウムを測っていたのだろうという疑問がある。

そこで、当時どうだったか、調べる意味で、昔見たことのある亀井文夫の記録映画「世界は恐怖する」を探したら、なんとyoutubeに載っていた。
https://www.youtube.com/watch?v=yCk2Qf6RA_s
1時間程度の作品です。怖い映画ですがぜひ見てください。
ということで、この映画のなかでも、双発のプロペラ機(多分ビーチクラフト)にのって、高度3000メートルの空気をフィルターで漉してゴミを採取する話がのっていた。あれはホットパーティクルではなかったか? 福島でも文部科学省あたりでやったのは空間線量の測定だけで、空中のホットパーティクルを採取、その核種を発表しているのだろうか? どうも、分からない。東京都の公害研究所などの方がやっているかもしれない。
空間線量だけでなく、残存核種の分布を出して欲しいと思うがいかがでしょう?

以上

_ 私設原子力情報室 ― 2014/08/10 20:16

>カメジィさん

コメントありがとうございます。
ストロンチウム90を含む、核種別のデータ公開は、3.11直後から多くの人たちが求めてきたものです。
確かに絶対量としては、(希ガス以外では)ヨウ素131、セシウム137とセシウム134が多いのですが、特に内部被ばくにおいては、核種ごとに危険性の中身が異なることも事実です。
福島第1から飛散した、数百種と言われる核分裂生成物と超ウラン元素が、核種ごとにどこにどれだけ存在しているのか… 明らかにされる必要があります。

_ カメジィ ― 2014/08/14 23:38

またまた、古い話で申し訳ありませんが、1954年ビキニの死の灰をかぶったマグロ漁船第五福竜丸が母港の焼津に戻ってきたとき、マグロの放射能を測るのに大活躍したのがガイガーカウンターだった。当時、この計測装置は日本には少なく、理化学研究所の仁科研究室にあったガイガーカウンターが大活躍をする。その様子は当時のニュース映画にもある。
この事件は 放射能によって久保山愛吉さんがなくなるという痛ましい結果となった。東京都江東区の夢の島に第五福竜丸がそのまま保存されている。木造の船だった。150トンくらいか。こんな小さな船でよくまあ、太平洋の真ん中までマグロをとりに行っていたものだ。当時のニュース映画もそこで見ることができる。
ここに書きたいのはそれだけでなく、1970年頃 200トンくらいの小さい水産調査船にのって、取材をしていたときに、その中の乗組員の1人が第五福竜丸に乗っていたと話してくれたことだ。夜明け近くに空が真昼のように明るくなった。そして、朝になって真っ白い灰が甲板につもり、それをモップで掃除したという話をしてくれた。たしか、Sさんといっていた。これが、ファールアウト(fallout)だ。
このなかにもホットパーティクルはあるのだろうか。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/08/15 21:09

> カメジィ様

今のところ、福島第1で当初拡散した放射性ブルームには、気体としてのヨウ素131、水溶性の化合物としてのセシウム134やセシウム137が大量に含まれていたとみられています。
ホット・パーティクルの一部は放射性ブルームとともに拡散しましたが、比重も違うし、粒径も違うので、別なメカニズムで飛散したものもあるでしょう。

放射性物質の拡散から見た原発事故と核爆発の最大の違いは当初の爆発力です。巨大な核爆発では、水溶性の化合物もセラミクスのホット・パーティクルも、ある程度の距離までは一緒くたになって飛んでいくというのは想像に難くないところです。

「死の灰」という言葉は、核の恐ろしさを伝えるのに十分な説得力を持ちますが、物理的あるいは化学的には、大量の放射性物質を飲み込んだ非常に多様な物質であることも明確にする必要があります。水溶性の酸化物あり、難溶性の化合物あり、セラミクス状の微粒子あり… ということです。もちろんこの3つに限りません。

ビキニ水爆の被害者については、『放射線を浴びた x年後』という優れたドキュメンタリー映画があります。
第5福竜丸だけではなかった… あの時、南太平洋のビキニエリアにいた多くの漁船員が、ことごとくガンで亡くなっています。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/08/17 10:29

追記:
原爆は酸化物では濃縮度が足りないので、ウランにしてもプルトニウムにしても、金属を使用します。
ビキニ水爆の起爆剤はプルトニウム原爆で、プルトニウム239が放射性ブルームに乗って飛散しました。
ただ、金属プルトニウムは、酸素および水と容易に反応するので、飛散時には、二酸化プルトニウムとか水素化プルトニウムになっていた可能性が高いと思います。

_ カメジィ ― 2014/08/18 00:08

今日、「ゴジラ」を見てきた。ストーリーはともかく、ゴジラはビキニの水爆実験で放射能を”食べて”よみがえったという設定になっている。アメリカの放射性廃棄物処分場、ユッカマウンテンも出てくる。
ゴジラとは関係ないが、1954年のビキニの水爆実験から40数年後の1997年 国際原子力機関(IAEA)が残留放射能の調査を行った時のこと。その結果、この島に定住して通常の生活をすると、年間の被ばく量は15mSvに達すると推定され「永住には適さない」という判断を下した。チェルノブイルと同じ結論である。このブログの管理人氏と同じように、福島の年間20mSvで居住可能というのはどのような科学的な根拠に基づいているか疑問に思う。

そして、ビキニに関心を持つもう一つの理由。
最近、NHKのニュースを見ていた。福島の被ばくした子どもたちがビキニの子どもたちと交流するニュースだ。
福島の子どもがビキニの子どもたちにこれからも仲良くしていきたいといって、ニュースは終わるのだが、それを受けたニュースキャスターが打合せ不足だったのか、受けのナレーションも一言もいわずに、ぎょっとした表情であわてて「それでは次のニュース」と考える間をおかずに次の話題に切り替えてしまったことだ。私はこのニュースで深く考えさせられたのである。というのは福島の子どもたちも自分たちが被爆者、ヒバクシャであるという意識を持ち始めているということだ。まだ、チェルノブイルと同じだと思うよりも、ヒバクシャと同じと感じ始めていることに深く日本の歴史の深部を子どもたちが無意識のうちに感じてしまっているんだなあと思った。その余韻を確かめようとしている時に、そのキャスターは私の気持ちまでもぶち壊してしまった。上から目線でなく、もっとやさしく言葉をかけて欲しいと思った。
今のテレビというメディアの鈍感さというか、実は自主規制がもっと事態を複雑にしている
ことをメディア関係者は自覚すべきである。(私の勘違いであえば幸いである)
以上

_ カメジィ ― 2014/08/26 00:55

原研のSPEED1の予算を縮小するという今日のニュースをみて、文部科学省は気が狂ったのかと思った。311の時に予測データを一瞬テレビで流しておきながら、あれば不正確だからといって テレビから隠してしまった。誰がそういったのか まさか、斑目委員長ではないだろうが、疑いは十分ある。一体誰か明らかにして欲しいと前から思っている。
実は、SPEEDI1は多分10年以上前、パソコン程度のシュミレーションシステムを組んでいたときに取材したことがあるのでことさら愛着があるのです。文部科学省がシミュレーションをやめて実測で行く??この時代にばかじゃないの。原子力問題では影でこそこそ言う人がいて それが実際に実施されてしまうので本当に怖い。日本で原子力発電の安全性について、細々とではあるが、研究していたのは 日本原子力研究所しかなかったのに、それをつぶしてしまうとは、影でこそこそ言う人の意見が通ったとしか思えない。残念である。
FBRはなんの成果もあげていないのに、維持だけのために年間200億も使っている。もう、20年間近くもである。FBRは国家プロジェクトなので、そこのけそこのけお馬が通る、というわけだ。今の日本は戦時中の日本ではないのに。年間200億もあれば、原子力の安全性を研究する立派な研究所ができるというのに、さらに残念である。以上。(今回はさすがに言葉遣いが荒くなってすみません。)

_ 私設原子力情報室 ― 2014/08/26 07:54

>カメジィさん

いつもコメントありがとうございます。
SPEED1の予算の件、立腹ごもっとです。

今後もよろしくお願いします。

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