世界の原子力利権と日本①『ウラン採掘総元締めの予想外』2012/06/15 09:58

原子力の問題を語る時、原発だけを取り上げてもすべてを語ることはできません。ウラン採掘から、使用済み核燃料を含む放射性廃棄物の行方まで、核物質の動き全体を考える必要があります。
そこで3回に分けて、国境を越えて地球を駆け巡る核物質を追って行こうと思います。
完全脱原発なのか脱原発依存なのか… 再稼働は許されるのか… 議論が高まる中、懲りずに世界の原子力利権構造にドップリと浸かり、大きな役割を果たし続けている日本の原子力産業の姿を浮き彫りにする必要があるからです。

●ロイターの報道
今年3月26日。ロイターが今までにない視点から福島第1の事故の影響について伝えています。

『Cameco sees restart of some Japan reactors soon』【REUTERS】
『全訳』【星の金貨プロジェクト】

見出しを直訳すると、「カメコ(Cameco)は、日本の幾つかの原子炉がまもなく再稼働すると予想している」。
カメコとは、カナダに本拠地を置く世界有数の核燃料供給企業で、ウラン採掘から精製、転換まで幅広く手がけています。
ロイター報道の主眼点は以下の通りです。
1. カメコは、3.11以降、日本の電力会社に対して余っているウラン燃料の買い取りを提案。
2. これに対して、いくつかの電力会社はウラン燃料の納品の延期を依頼してきたが、在庫を減らしたり、契約済みの分について数量を減らすよう求めてきた会社は一社もなかった。

カメコとしては、原発過酷事故を起こした日本は、脱原発に大きく舵を切るか、少なくともしばらくは原発は稼働できないと読んだのでしょう。そこで早々に、ウラン燃料の返品買い取りを提案。これに対して、かたくなに原子力発電にしがみつく日本の電力会社は、一切応じることがなかったと。
おそらく価格的にはよい条件ではなかったのでしょう。しかし、余っているウラン燃料を買ってもらえば、天然ガスの購入資金や再生可能エネルギーの開発に充てたりできたはずです。「原発が止まっているから発電コストが高く付く。だから値上げ」と言い続けるなら、まず、不要なウラン燃料を買い取ってもらうべきです。これは今からでも遅くないと思います。

報道はカメコのCEOであるティム・ギツェルの発言に基づくものでした。記事の中で、ギツェルはもう一つ重要なことを語っています。

1. カメコのウラン採掘計画の幾つかは、日本企業との提携で進められている。
2. この提携についても継続の可否を打診したが、撤退を申し出た会社はなかった。従って、日本からのウラン採掘への投資は継続される。
3. 出光興産は、2013年後半に採掘を開始する予定のカナダ・サスカチュワン州にあるカメコのシガーレイク・ウラン鉱山の株式8パーセントの株式を保有。東京電力は5%保有し続けている。

ウラン採掘の総元締めとも言えるカメコのCEO、ティム・ギツェルの予想は、日本の原子力産業は「ウラン燃料の返品買い取りを求めるだろう」そして「ウラン採掘計画からは撤退するだろう」というものでした。
その予想は、見事に裏切られました。日本の原子力産業は、カメコも驚くような対応をしたのです。
まさに「懲りない原子力村」。醜い姿が海外の報道から浮き彫りにされた形です。

ドイツでは国の脱原発宣言を受けて、大手電機メーカーのシーメンスが原発事業からの完全撤退を表明しました。これまでドイツ国内外を問わず原発関連で多くの利益を上げてきた企業が180度方向転換。未来を見据えての判断です。
過酷事故を起こした日本で、いまだに完全脱原発に踏み出せないでいる私たちは、恥ずべきであり、深く反省すべきなのでしょう。

世界の原子力利権と日本②『世界を駆け巡る核物質の危険と利権』2012/06/15 10:08

核物質の危険と利権。偶然、語呂合せになってしまいましたが、核物質がその大きな危険性を顧みられることなく、利権のために世界中を駆け巡っている。それが、今の状況です。

ウラン鉱山で採掘された天然ウランが加工され、原発で使われ、最後は使用済み核燃料や放射性廃棄物になるまでを図にまとめてみました。

ウラン鉱山で採掘されたウラン鉱石は、通常、鉱山に併設されている精錬工場でウラン濃度60%まで精錬されイエローケーキ(ウラン精鉱)になります。
ウラン採掘の段階で、すでに日本の原子力産業が深く関わっているのは、前の記事で述べた通りです。採掘プロジェクトへの出資を行っていて、3.11以降も撤退していません。

●転換
精錬の次のプロセスは「転換」です。イエローケーキを六フッ化ウランに「転換」します。
なぜ、六フッ化ウランなのか?
詳しくは後述しますが、ウランを濃縮するためには、一旦、六フッ化ウランの形にする必要があるのです。
六フッ化ウランは常温では白色の粉末。水に触れると生体への毒性が強いフッ化水素を激しく発生します。56.5℃という低い温度で昇華して気体になるという性質もあります。従って六フッ化ウランの容器には厳重な防湿と密封性が必要です。

「転換」のための工場や施設は、カナダ、アメリカ、フランス、ロシア、イギリスなどにあります。ウラン鉱山を出たイエローケーキは、ある時はトレーラーで、ある時は船で危険な旅をします。
実際にアメリカでは、トレーラーの横転事故でイエローケーキを詰めたドラム缶が壊れ環境を汚染、除染を余儀なくされた事故例が複数あります。

転換工程を担う企業は、前述のカメコ(カナダ)の他、コミュレックス(フランス・アレバの子会社)、ウェスティングハウス(東芝の子会社)など。日本には転換工場はありませんが、実は東芝が深く関わっているのです。また、コミュレックスの親会社のアレバは、言わずと知れた世界最大の原子力産業。三菱重工と提携関係にあります。

●濃縮
「転換」の次に来る「濃縮」では、「低い温度で気体になる」という六フッ化ウランならではの性質を利用します。
現在、ウラン濃縮法の主流は「ガス拡散法」と「遠心分離法」。いずれも、気化したウラン化合物を使って、ウラン238とウラン235を選り分け、天然ウランには0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を原子炉で使える4%程度にまで高めます。そのために、あらかじめ天然ウランを気化しやすい六フッ化ウランに「転換」しておく必要があるのです。

世界的に見るとウラン濃縮は、アメリカのユーセック(東電と協力関係にある)、ウレンコ、フランスのアレバ、ロシアの国営企業ロスアトム(ROSATOM)の4社が世界全体の需要の約96%をまかない、日本には六ヶ所村に小規模な濃縮施設があります。

核物質を気体の状態で扱うわけですから、濃縮工場が持つ危険性は極めて高いもの。その詳細を原子力資料情報室が明らかにしています。

『六ヶ所ウラン濃縮工場における事故災害評価』【原子力資料情報室】

濃縮工程を経て、六フッ化ウランは濃縮六フッ化ウランになります。
この時に絞り滓のように残るのが劣化ウラン。主にウラン238ですが、分離しきれなかったウラン235も0.2%ほど含みます。世界中の濃縮工場で行方の決まらない劣化ウランが溜まり続けています。もちろん六ヶ所村でも。

●再転換
「濃縮」の次は「再転換」です。濃縮六フッ化ウランを濃縮二酸化ウラン(以下、単に「二酸化ウラン」と記す)に転換します。
ここでも、なぜ二酸化ウランなのか?という疑問が出てきます。答えは融点が高いから。金属ウランの融点が1132℃なのに対して、二酸化ウランは2865℃。高温でも溶けにくいという性質から核燃料として使われるようになったのです。しかし、ひとたび事故が起きれば、二酸化ウランですら溶け出してしまう… メルトダウンは、いとも簡単に起き、とてつもない被害を及ぼすことが福島第1で証明されたのです。

話を「再転換」に戻しましょう。
世界にある再転換工場(商用)は以下の通りです。

ここでも、ウラン採掘の総元締め=カメコ、東芝の子会社=ウェスティングハウスが上位に登場。他に日本の三菱原子燃料、アルゼンチン、ブラジル、インドにも再転換工場があります。

「再転換」もまた大きな危険を伴う工程です。1999年に東海村で起きたJCO臨界事故は、再転換作業中に発生したものでした。
以来、日本で稼働する再転換工場は三菱原子燃料だけになり、供給量が不足。二酸化ウランの多くを輸入してきたわけです。

ここでもう一度、ウラン採掘から始まる核物質の動きを見直してみましょう。

世界規模で行われる核物質の危険な移動と、それぞれの工程に潜む危険。
しかし、ウラン利権・原子力利権にしがみつく輩は、自分以外の命と健康には無関心です。過酷事故が起きても何処吹く風。数万人が故郷を追われ、被ばくの恐怖に晒されながら生きざるを得ない状況も、まったく目に入らないのでしょう。

今、核物質の危険と利権が世界を駆け巡っています。

世界の原子力利権と日本③『世界の原子炉を支える日本企業』2012/06/15 10:26

「再転換」の次は「燃料成型加工」です。
二酸化ウランの粉末を焼き固めてセラミックス化し、燃料被覆管に詰め込みます。これが核燃料棒で、束ねると核燃料集合体になります。
国内で使う核燃料の「燃料成型加工」は、日本の原子燃料メーカーが担っています。下の図はその一覧です。

それぞれ、東芝、日立、三菱重工という原子炉メーカーと深いつながりがあります。また、アレバとウェスティングハウスという世界的な原子力産業との関係も見落とせません。

次に世界の原子炉メーカーを見てみましょう。

ロシアのアトムエネルゴブロムを除く3社に日本企業が深く関わっています。ウェスティングハウスに至っては、東芝そのものと言ってもよいでしょう。世界の原子炉マーケットは、日本企業が牛耳っているのです。
ちなみにアメリカは、スリーマイル島の事故以来続けてきた新設凍結の禁を破って、新たな原子炉2基の建設を決めました。この原子炉はウェスティングハウス製(=東芝製)です。

ところで、事故を起こした福島第1の原子炉メーカーは、
1号炉=GE
2号炉=GE(+東芝)
3号炉=東芝
4号炉=日立
です。
道義的に考えれば、過酷事故に深く関わった東芝と日立は、事故収拾と廃炉プロセス以外の原子力事業から、直ちに撤退すべきです。
しかし、実情はまったく異なります。
原子炉の建設はもとより、ウラン採掘から始まる原子力利権構造の中で守銭奴と化す。かれらが大好きなはずの「日本人の潔さ」はどこに行ってしまったのでしょうか…

もう一つ、原子炉マーケットの状況を裏読みしてみましょう。
ウェスティングハウスがアメリカの企業からイギリスのBNFL(英国核燃料会社)に売却されたのは1998年。さらに、2006年には東芝に売却されます。
一方、GE日立ニュークリア・エナジーの発足は2007年6月。
どうも、アメリカもイギリスも、事故が起きれば大きな責任を追及される原子炉の開発・建設から、体よく逃げ出そうとしているのではないでしょうか。実際、アメリカの世界的IT企業の一つは、内規で、どんなに利益が見込めても原子力関係のシステムには絶対に手を出さないと決めています。もし、コンピューターシステムが原因で事故が起きたら、その責任を負いきれない(要するに、会社が潰れる)と考えているからです。

数行前に「道義的には…」と書きましたが、本音を言えば、日本企業が自主的に世界の原子力利権から手を引くことは不可能だろうと思っています。
まず、日本政府が完全脱原発路線を明確にすること。企業がついて来ざるを得ない状況を作らないといけないのでしょう。そして、政府に重い腰を上げさせるには、私たち一人ひとりが声を上げ続けるしかないのです。






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