原発と経済(1):貿易赤字と原子力2014/02/04 20:55

「原発が止まってるから、貿易赤字が拡大して、日本経済は危機だ」というような主張が、政府や財界から繰り返されています。
本当なのでしょうか?

今現在、一基の原発も稼働していないのに、私たちは電力不足による不自由を感じることはありません。計画停電なんてやっているところは日本中どこにもありません。新幹線が停電で止まったとも聞きません。
日本と日本経済が、原発なしで十分にやっていけていることは明らかです。

冒頭に掲げた貿易赤字の問題はどうでしょうか?
実は、当サイトは「仮に貿易赤字が膨らんだとしても、原発を再稼働させてはいけない!」と考えてきました。ところが、これは取り越し苦労に過ぎなかったのです。

2月2日の毎日新聞朝刊の『視点』を読んでビックリ!実は、貿易赤字と原発は、ほぼ関係なかったのです。


ウェブ上から消えてしまう可能性もあるので、静止画でも貼り付けておきます。

安倍首相は1月29日、参議院の代表質問で「昨年、原発がないことで化石燃料の輸入に3.6兆円も多く支払った」と言い放っています。
しかし、原油の輸入量を見てみると、震災前から少し減っている状態です。

次に、総輸入額の推移を見てみましょう。

毎日新聞は、2013年の輸入額を2010年と比較して1.5倍になったとしていますが、もう少しさかのぼれば、リーマンショックのあった2008年とほぼ同じです。2013年の原油輸入額は、ビックリするほど高いわけではありません。

今度は、2つのグラフを見比べてみましょう。
輸入量は2009年以降横ばい。輸入額は跳ね上がっています。もうお分かりだと思いますが、原油の輸入額が増えたのは、原発が止まって原油の使用量が増えたらからではありません。単に価格が高騰したことによるのです。

天然ガス(LNG)はどうでしょうか…

確かに、2012年の輸入量は2010年の1.25倍になっています。
一方で、天然ガスの価格は2009年あたりから、大きく跳ね上がっていました(以下サイトを参照してください)。

●参照:世界経済のネタ帳『アジアを取り巻くLNG輸入環境』


3.11以前の天然ガス価格高騰の原因は、主に原油価格の上昇に引っぱられたものでしょう。原油が高いから、需要が天然ガスに集中したのです。

ところが2011年、特に日本向けの天然ガスだけが、さらに激しく値上がり。これは、言葉は悪いですが「足もとを見られた」のです
毎日新聞は、2010年と2013年では天然ガスの輸入額が2倍になったと書いています。
その原因は何だったのか… "トモダチ作戦"が聞いて呆れます。震災と原発事故で追い込まれた日本から、カネをむしり取っていった輩がいるのです。

話を戻しましょう。
ひとつ見落としてはいけないのは、3.11とは無関係に、日本はとても高い天然ガスを買い続けてきたということです。
主な原因は、購入側に交渉力がないからだと言われています。要するに言い値で買わされていると… 日本が買っている天然ガスの価格は、アメリカの5倍以上、イギリスの2倍近くです。
本来ならば、政府の交渉力によって、3.11以降の足もとを見るようなえげつない値上げを阻止すべきでした(これは、菅政権、野田政権、安倍政権共通)。
アメリカ並みと言わなくても、イギリス並みの価格で天然ガスを買えていれば、輸入量が1.25倍になっても、輸入額は十分に下げることができたのです。

いかがでしょうか?
安倍首相の「昨年、原発がないことで化石燃料の輸入に3.6兆円も多く支払った」という発言は、まったくの嘘なのだということがお分かりいただけたと思います。

加えて、安倍政権の『三本の矢』とやらで進められた円安誘導が、原油や天然ガスの価格をさらに引き上げました。
「原発が止まって貿易赤字拡大」は虚構。ある種、安倍政権の自作自演の下手な芝居とも言えるのです。

騙されてはいけません。

コメント

_ きく ― 2014/02/05 07:27

とても、分かりやすいです。経済分野の記事をもっと読みたいですね。

_ 鍋山 ― 2014/02/05 17:07

わかりやすい説明~ありがとうございます。
「輸入額増加」の原因として、安倍首相が自慢する円安もあるのではないでしょうか。
どっちにしても、ごまかしですね。

_ @mogaarashi ― 2014/02/05 20:42

総括原価方式で、電気代に上乗せできるから値下げ交渉しないですね。
アメリカのガス屋は儲かるね、、

_ しぐもん ― 2014/02/07 03:48

火力発電の燃料は主に重油ではないでしょうか?
重油の輸入量は、震災前と比べて倍以上に増えているので、やはり発電コストは上昇していると思います。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/02/07 08:45

2013年で見ると、原油の輸入量は210,557,223キロリットル。重油の輸入量は37,712,866キロリットルです。
日本は原油で輸入して、精製して軽油や重油にするパターンが多いので、原油と重油では一桁違います。よって、重油の輸入量は、あまり全体には影響しません。
また、2012年の重油の輸入量は43,388,686キロリットルなので、2012→2013では、大きく減少しています。

もちろん火力の発電コストは上昇しています。原因は主にLNGの値上がりによるものです。当記事で一つ主張したかったのは、「"天然ガス(LNG)の値上がり"を阻止するための努力はなされたのか?」という点です。

_ わに ― 2014/02/07 17:29

はじめまして。突然失礼します。
貿易赤字の原因を化石燃料に押し付けようとする安倍首相の意図は他にもあると思います。
アベノミクスのシナリオの1つは「円安によって輸出が劇的に増える」でした。これが実現していれば、貿易赤字がこんなに増えることはなかったはずです。
しかし、実際には「輸入コストは円安で増えたが、輸出が伸びたわけではない」ということでしょう。
アベノミクスは既に失敗しているのです。
そこから目を逸らすために、電力の話を出しているのだと考えられます。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/02/07 21:57

>> わにさん

コメントありがとうございます。
円安誘導すれば、輸入LNGの価格が上がるのは明白で、それは織り込み済みだったでしょう。
円高・円安の功罪はさておき、悪質なのは、「赤字が増えたら、原発が止まっているせいにしてしまえば、ちょうどいい」くらいまで、間違いなく考えていたこと。それが安倍発言につながります。

しかし、このレベルのペテンは、国会で野党が、そして、マスメディアが、即座に暴かないといけないです。毎日新聞の社説は評価していますが、ちょっと遅すぎですよね。

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