福島で放射性降下物(Fallout)が急上昇2012/01/05 17:59

福島県が調査・公表している『定時降下物環境放射能測定値』に、1月2日から3日にかけて、非常に高い数値が記録されています。セシウム137が252MBq/km2(メガベクレル/平方キロメートル)、セシウム134が180MBq/km2。

文科省が発表している『定時降下物のモニタリング』に、各自治体が過去に計測した値が残っています。福島市の11月から12月を見ると、セシウム137・セシウム134ともに、不検出~20MBq/km2の間で推移しています。今回の値は、桁が一つ違います。

また、福島県双葉郡で昨年6月・7月に計測されたデータと比べてみると、今回の1月2日から3日のデータが、この頃の平均値に匹敵する数値である事が分かります。
【元データ】
福島県双葉郡で計測された3月から6月の放射性降下物のデータ(1ヶ月分合計)
福島県双葉郡で計測された7月の放射性降下物のデータ(1ヶ月分合計)

もし、福島第1からの放射性物質の漏出量が増えたことが原因なら、あっちこっちで空間線量が上がるはずなので、おそらく、水素爆発やベントで飛び散って、いまだに上空に漂っている放射性セシウムが、なんらかの原因で、一気に降下してきたものと思われます。ちなみに、1月2日から3日にかけて、福島では降雪はなく、晴れの天気でした。

まず、この放射性降下物の急増の原因を徹底的に究明する必要があります。研究者からの意見を聞きたいところです。
また、「大気中の放射性セシウムは、すでに、ほとんどが地面に落ちているので、マスクなどは必要ない」と言われていることにも、疑問を投げかける必要が出てきます。呼吸による放射性セシウムの摂取に対して、警戒を解くことができないということです。

一方で、文科省は、12月27日まで、毎日、行っていた放射性降下物データの公表を1ヶ月おきに切り替えたようです(福島県は県として連日発表を継続)。まだまだ、放射性降下物の監視を弱めていい状態ではありません。文科省は、ただちに連日公表に戻すべきだと思います。

しかし、突然の放射性降下物(Fallout)の急上昇。原発事故が引き越すものは、誰も予測できないし、誰も制御できないということの証です。

福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト2011/11/13 14:45

今、福島の人たちは、まったくひどい状況の中に住み続けることを強制されています。

国が発表した年間1ミリシーベルトという除染のための基準。『汚染状況重点調査地区域』という難しい名称が付いていますが、簡単に言えば、福島第1由来の外部被ばく量が年間1ミリシーベルトを越える場所には、除染を受ける権利が有るという話です。最初、年間5ミリシーベルトと発表して、被災者から猛反発を食い、1ミリシーベルトに下げた経緯があるため、いかにも低い数字のように思えますが、これに騙されてはいけません。

この年間1ミリシーベルトという数字を冷静に見直すためには、除染だけでなく、避難や移住まで含めて、今、どういった基準になっているのか… それを検証し直す必要があります(福島の皆さんは切実な問題なので、ほとんど理解されていると思いますが、全国的に見ると多くの人が理解していません)。
まず一覧表で、チェルノブイリの基準と較べてみましょう。いかに、福島の基準が緩いものなのかお分かりいただけると思います。それは、とりもなおさず、福島の人たちが、きわめて危険な場所に住み続けさせられているということです。

年間1ミリシーベルトは、チェルノブイリでは、クリーンな環境への「移住権利」が認められる基準でした。
福島では、年間1ミリシーベルトでは、まったく先行きの見えない除染を受ける権利しか得ることができません。
他にも、チェルノブイリと福島では、明らかに、人の健康と命に対する基本的な考え方が、違っています。ソ連という国が崩壊するかしないかという瀬戸際の時期に、語弊を恐れずに言うなら、「チェルノブイリでさえ、ここまでやっていた」のです。
分かりやすい図にまとめてみました。

実質的に、避難や疎開・移住が義務化される基準値は、チェルノブイリでは年間5ミリシーベルトでした。福島では20ミリシーベルトです。「移住権利」については明確な概念すらなく、実質的には20ミリシーベルトを越えないと得ることができません。これはチェルノブイリの基準の20倍です。

年間20ミリシーベルトより下には、「除染を受ける権利」しかありません。しかし、その除染は遅々として進まず、時が無為に流れています。山林や農地の除染は見通しがまったく立たず、住宅地でも「屋根の除染が難しい」「風が吹くと放射性セシウムが舞い上がっているらしい」「セシウム以外の核種はどこにどうなているのか不明」といった新たな困難が明らかになっています。国や自治体が立ち止まる度に、住民は、しなくてよい被ばくを受け続けているのです。

「除染なのか移住なのか」という議論も起きています。これは、最終的には、どこかで線を引かなくてはなりません。ただ、必ずしも一本の明確な線である必要はありません。
まず、「移住権利エリア」をある程度広範囲にとって、移住するかどうかの判断を住民が行えるようにするべきでしょう。
それでもエリアごとの境界線は決めなくてはいけませんが、単純に○○シーベルトで切るのではなく、すくなくとも集落単位で設定すべきです。移住するにしても、住み続けるにしても、多くの困難が伴います。その時に、今まで暮らしてきた共同体が完全に失われてしまったら、何も前に進まなくなるでしょう。

住民の移住に関する原則があります。それは、東電と政府は、住民の生活を3.11の前の状態に戻す義務があるということを明確化すること。2ヘクタールの稲作をしていた農家には2ヘクタールの水田を。600頭の牛を飼っていた畜産家には600頭の牛を。この原則を徹底して守りながら、移住を実行しなくてはなりません。
外から見た勝手な思いと言われてしまうかも知れませんが、住民の皆さんも、移住に伴って、今までの暮らしを棄てるようなことはしないでください。住民は、何も悪いことはしていないのですから。

今、最悪の指定基準になっているのは、「特定避難勧奨地点」です。これは、世帯単位で決めているため、指定世帯のすぐ隣でも指定されなかったり、玄関先を毎日きれいに掃除していたために空間線量が局所的に下がり、指定されなかったりといった馬鹿げた事態が起きています。
人の暮らしが、家の中にとどまらないのは当たり前で、これは早急に集落単位の基準に変更すべきです。また、家の目の前に、高度に汚染された山林があったら、そこに住めないのは自明です。宅地だけを測っても意味はありません。もちろん、年間20ミリシーベルトなどという数字も根底から見直さなくてはいけません。

今一度、「福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト」の違いをしっかりと見直してみる必要があります。

自然放射線を理解する2011/10/14 17:41

当ブログに寄せられるコメントを見ていると、自然放射線に対する質問や意見が結構あるので、チャート式で、分かりやすく整理しておきたいと思います。

イラストを見て頂ければ、私たちが地上で受けている自然放射線は、大きく4種類に分類されることが分かるかと思います。一つ一つ見ていきましょう。

●二次宇宙線による外部被ばく
宇宙から地球に飛び込んでくる宇宙線を一次宇宙線と呼びます。これは、ほとんどが陽子で、地上までは届きません。一次宇宙線が空気中の原子や分子と衝突して生まれるのが二次宇宙線。その内、地表にまで届くのは、ほとんどが素粒子の一種のミュー粒子です。
よく、飛行機に乗ると余計に外部被ばくをすると言われますが、これは事実です。高空では、二次宇宙線の内のガンマ線が存在しますので、これが航空機内にまで届きます。また、海抜数千メートルという高地には、二次宇宙線のガンマ線が、ある程度、届いていると思われます。

●大地と建物からの外部被ばく
岩盤の中には、ウラン238をはじめとするウラン系列と、トリウム232をはじめとするトリウム系列の核種、さらにカリウム40やルビジウム87が含まれています。これらが発するガンマ線が「大地と建物からの外部被ばく量」の元です。特に、花こう岩にはウラン238が多く含まれています。
建物も含む理由は、建材の石やコンクリートなどに、自然に存在する放射性物質が入っているからです。

日本国内で、「大地と建物からの外部被ばく量」の値を見ると、おおむね、西高東低の傾向を示します。これは、西日本に花こう岩質の岩盤が多いのと、関東では、関東ローム層によって岩盤自体が厚く覆われていて、地表から出てくるガンマ線が少ないからです。

注意したいのは、人工放射線(今で言えば、福島第1から飛散した放射性物質による放射線)と違って、「大地と建物からの外部被ばく」では、線源となる原子が岩の中や石の中なので、これらを吸い込む可能性は少ないということです。
自然放射線による外部被ばくと人工放射線による外部被ばくを同列に語る人たちがいますが、この点を見落としているか、意図的に誤魔化しています。

●呼吸で摂取
呼吸で摂取した放射性物質による内部被ばくは、主にラドン222によって引き起こされています。ラドン222は、花こう岩などの中にあるウラン238が崩壊する過程で生じますから、世界中どこにでも微量は存在します。

自然放射線の枠外ですが、ラドン222による内部被ばくは、ウラン鉱山の近くでは深刻な問題を引き起こします。日本で唯一のウラン鉱山があった鳥取県の人形峠や、アメリカ・アリゾナ州のレッドロック鉱山付近では、たくさんの人が肺ガンで亡くなりました。

●飲食で摂取
飲食による内部被ばくに関連している自然の放射性物質は、カリウム40とウラン系列・トリウム系列の核種です。
よく、「カリウム40は天然のカリウムの中に0.0117%含まれている」と言いますが、世の中に天然でない原子は存在しませんから、岩石の中でも、野菜の中でも、水の中でも、人体内でも、そして、ドラッグストアで売ってるカリウムのサプリメントの中にも、0.0117%のカリウム40が含まれています。これから逃れようとすると、カリウム不足になってしまいますから、受け入れるしかありません。ただ、後述しますが、「カリウム40が止むを得ないから、セシウム137も止む得ない」という話にはなりません。

さて、自然放射線を考える上で、見落としてはいけない点があります。
それは放射線の種類。実は、自然放射線のうち、ガイガーカウンターなどの一般の空間線量計で検知できるのは、「大地と建物からのガンマ線」だけなのです。

内部被ばく関係はアルファ線とベータ線、二次宇宙線はミュー粒子という素粒子がほとんどだからです。「私たちは、自然放射線を年間2.42ミリシーベルト(日本では1.5ミリシーベルト)も浴びている」などと言って、実測された空間線量を過小評価しようとする人たちがいますが、これはまったくの誤魔化しです。実測値から引き算できるのは、0.05μSv/h(=0.3mSv/y)の「大地と建物からの外部被ばく量」だけです。

以下、自然放射線に関する気になる話を二つ紹介しておきます。
●高自然放射線地域
世界には、自然由来の「大地と建物からのガンマ線」が高い地域があります。

インドのケララとブラジルのガラパリでは、トリウム232(基本はアルファ崩壊ですがガンマ線も出す)を含むモナザイトという鉱石が原因となっています。
イランのラムサールでは、温泉の噴出によって溜まったラジウム。中国の陽江は粘土層に含まれるウラン238が崩壊してできるウラン系列核種が発するガンマ線が原因です。

これらの地域は、他の地域と比べても、がん発生率に差がないとされています。その理由は、今も研究が続いています。ただ、これらの地域の高くなっている放射線は、主に「大地と建物からのガンマ線」によるものだけだということは、理解しておきましょう。
さらに、線源となる原子のほとんどが、岩や石ころの中に存在しているので、放射性物質そのものを吸い込んで、内部被ばく量が多くなることは、ほぼ考えにくい環境です。

●カリウム40とセシウム137
最後は、飲食で体内に入ってくるカリウム40と、カリウムに化学的な性質が似ているセシウム137についてです。

「カリウム40は、体重60kgの成人男子の体内に約4000ベクレルもある」と言われます。これは間違った数字ではありませんが、4000ベクレルという、いかにも高そうな数値を引き合いに出して、人体がカリウムと勘違いして取り込んでしまう放射性セシウムの影響を過小評価しようとする悪意に満ちた宣伝です。
カリウム40は、体重1kgで計算すると66.7ベクレル/kgしかありません。米や肉や野菜の500ベクレル/kgという基準値が、いかに高いものか、お分かりいただけると思います。
そして、カリウム40の半減期は12.8億年。セシウム137の半減期は30年です。仮に同じ原子数が存在すると、セシウム137はカリウム40に比べて、時間あたり、なんと4267万倍の放射線を出します。
ほんの少しのカリウムが、セシウム137と入れ代わっただけで、恐ろしいことが起きるのです。

以上、「自然放射線で騙されないための知識」として、ご理解頂ければ幸いです。

外部被ばく線量計算機(改訂版)2011/10/14 10:16

先日公開した『外部被ばく線量計算機』ですが、自治体や報道機関が発表する「時間あたりの空間線量」から計算した場合、「年間の実効外部被ばく線量」が少なめに出ることが判明しました。原因は、当方が原子力百科事典ATOMICAのデータに全面的に依拠したためです。ATOMICAと、現行広く行われている計算法のどちらが正しいかは、考え方の違いなので、正確には判断できません。ただ、いろいろな数値が出て、混乱するのは問題なので、当サイト配布の『外部被ばく線量計算機』の設定条件を「現行広く行われている計算法」に近づけました。ただ、全ての市町村がまったく同じ計算法を採用しているわけではありませんので、若干のズレが生じることはあります。

外部被ばく線量計算機(改訂版)【ダウンロード】
ZIPファイルですので、解凍してください。エクセルになります。

●改訂点
1. 『実効線量換算係数』を1にしました。従って、空間線量(空間中の線量)=実効線量(実際の外部被ばく線量)という前提になります。
2. 『大地と建物からの自然線量(屋外)』(バックグラウンド線量)を0.05μSv/hにしました。国連科学委員会「放射線の線源と影響」(1993)によると、日本における数値は、0.049μSv/hですが、現在、多くの自治体が0.05μSv/hを採用しているので、これに合わせました。
3. 2に基づいて、『大地と建物からの自然被ばく(年間実効線量)』を計算し直し、438μSv/yとしました。
4. 屋外活動時間を8時間に設定しました。多くの自治体が採用している前提条件だからです。

●計算のもとになっている考え方(数値以外は変更無し)


●ご留意頂きたい点
1. 『屋外・屋内の実測値から』の白セル内には、計測器が指した数値そのものを入力してください。自動的にバックグラウンド線量を引いて、上乗せ分(要するに福島第1の影響分)の年間実効外部被ばく線量が算出されます。
2. 『自治体などの発表値から』の白セルに入れる数字は、「発表された実測値」です。もし、「上乗せ分」で発表されている場合は、自然放射線の分の0.05μSv/hを加えて入力してください。

●自治体や報道機関に対して
要らぬ混乱を避けるために、発表する線量が、「実測値」なのか、「自然放射線の分を差し引いた上乗せ分の実効線量」なのかを常に明示するようお願いしたいです。

●ありそうな質問に対して
Q1. どうして、全ての放射線からの被ばく量ではなく、自然放射線の分を差し引いた値を計算するのですか?

ICRPの「年間1ミリシーベルト以下」などの基準が、すべて、自然放射線に対する「上乗せ分」で決められているからです。この背景には、世界的に見ると地域によって、自然放射線の量が異なるという理由があります。日本でも、本当は場所によって若干異なるのですが、現在は、全国平均値の0.05μSv/hを使用している自治体がほとんです。

Q2. 『大地と建物からの自然線量』が、屋外と屋内で変わらないのはなぜですか?

自然から来るガンマ線は、ほとんどが土や岩盤、植物に含まれる放射性物質が線源です。ちょっと考えると、屋外の方が小さくなりそうですが、事実は逆です。
国連科学委員会の報告によると、多くの国で、屋内の方が自然線量が高くなっています。これは、建材に使われている石やコンクリートに含まれる放射性物質(ルビジウム87・ウラン系列核種・トリウム系列核種など)が影響しているためです。
木材にもカリウム40が含まれていますが、被ばく量は、石やコンクリートからより低くなります。これが、日本では屋外と屋内の自然線量が、ほとんど同じになっている理由です。
これに対して、上乗せ分(福島第1の影響分)は、地面や屋根の上にある放射性セシウムが、主な線源ですので、屋内に入ると下がります。低減率は、木造家屋で0.4とされています。

外部被ばく線量計算機2011/10/08 12:06

被ばく線量の計算について、混乱が続いています。「自然放射線の分はどうするの?」「外部被ばくと内部被ばくって合計できるの?」などなど。

当サイトは、内部被ばくを外部被ばくと一緒くたにして、「シーベルト」で評価することに反対です。放射性物質は種類によって集積する器官や内臓が違うからです。全身に均等に被ばくを受ける外部被ばくと内部被ばくは分けて考える必要があります。

今回は、まず、外部被ばくに注目。ご自身の放射線測定器で計った実測値や、自治体からの発表値などから人工放射線による被ばく量が算出できる計算機を作ってみました。3.11以前と比べて、外部被ばくが、どれだけ増えているかが、一目で分かります。

計算式は以下です。
ご自身で計った実測値の場合:

自治体などからの発表値の場合:

計算機は、エクセルで作りました。
計算機ダウンロードをクリックしてもらえれば、ZIPファイルがダウンロードできます。解凍するとエクセルになります。配布は自由です。
「屋外・屋内の実測値から」「自治体などの発表値から」というタブから選んでご使用ください。3番目の「参考 大地と建物からの自然放射線」は、自然放射線による被ばく量計算の根拠です。

主に参考にしたサイトは、国連科学委員会「放射線とその人間への影響」(2000年版)に基ずく、原子力百科事典ATOMICA「世界における自然放射線による放射線被ばく」「大地ガンマ線からの空気吸収線量率(空気吸収線量率=空間線量。「大地」とされていますが、建物からの分も含んでいます)」「屋内における外部被ばく軽減係数」です。
原発推進派の広報サイトなので、「実効線量換算係数
(=実効線量/空間線量)」が0.7とやや低めだったり、「木造家屋の屋内における被ばく線量軽減係数」が0.4とこれまた低め(NHKの番組では0.5を採用していたものも)だったりするのですが、他にある程度信頼できそうなデータが見つからなかったので、これに依拠しました。

どうしても、ある基準と見られてしまうICRPの「年間1ミリシーベルト(1mSv/y)以下」は、自然放射線からの被ばくを除いた上乗せ分ではあるのですが、外部被ばくと内部被ばくを無作為に合計しています。ですから、この計算機による計算結果とは比較しても意味がありません。

計算結果は、「外部被ばく量が、3.11以前と比べて、どのくらい増えているのか」という視点から見て頂けると有効かと思います。自然放射線に上乗せされた年間実効外部被ばく線量と、外部被ばく量全体が3.11以前に比べて何倍なのかが分かります。

「しきい値なし直線仮説」に従えば、まず大雑把に言って、外部被ばくによって、放射線による発ガン率が○倍に増えると解釈できます。

また、○倍の意味は、単純に「大地と建物からの自然放射線」が増えたのとは訳が違います。自然放射線の線源は、ほとんどが岩盤や道路の舗装、建物のコンクリートの中です。これを吸い込んで内部被ばくすることは、まずありません。
ところが、増えた分は、目の前の地面や屋根の上にある放射性セシウムによるものです。それは、ちょっとしたことで舞い上がり、私たちの身体の中に入り込み、内部被ばくを引き起こします。また、計った場所が畑であれば、その放射性セシウムは、やがて野菜に吸収され、私たちの身体の中に入ってきます。
3.11以降の外部被ばくの上乗せ分は、内部被ばくの危険度を示す、ある種のバロメーターでもあります(数字的な意味はとして曖昧ですが)。

毎時1マイクロシーベルトで安心はできない2011/09/23 14:15

福島で、3.11以来初めて、空間線量が1マイクロシーベルト/毎時を切ったようです(文科省測定)。

『放射線量:毎時1マイクロシーベルト切る 福島、震災後初』【毎日新聞9月22日

台風による風と雨が、表土に付着した放射性物質を吹き飛ばしたり、洗い流したりしたのは、事実でしょうし、少しでも空間線量が下がったことは喜ぶべきでしょう。
しかし、記事を読んだだけでは、「1マイクロシーベルト/毎時」という数字が、あたかも安心できる数字として一人歩きしそうなので、正確な評価をしておきたいと思います。

全国平均で自然放射線による空間線量(外部被ばく量)は0.05マイクロシーベルト/毎時とされています。概ね西高東低なので、事故前の福島は、おそらく0.03~0.04マイクロ シーベルト/毎時だったでしょう。しかし、正確なデータがないので、ここでは、0.05マイクロシーベルト/毎時としておきます。

まず、下がったとは言え、1マイクロシーベルト/毎は、事故前の20倍です。誰が、何を根拠に安全と言えるのでしょうか?しきい値無し直線仮説(LNT)に従うなら、放射線が原因でガンを発症する患者は、平時の20倍に増えます。

さて、1マイクロシーベルト/毎時から自然放射線の0.05を引いた値が、福島第1から漏出した放射性物質による外部被ばく量となり、0.95マイクロシーベルト/毎時です。一日のうちの8時間を屋外で過ごすとし、木造家屋による外部被ばくの低減係数=0.4も算入して計算すると、年間の実効外部被ばく線量は4.99ミリシーベルト/年。ほぼ5ミリシーベルト/年に達します。
原発労働者が白血病を発症した場合の労災認定では、累積線量が5.2ミリシーベルトで認められた例があります。年間では5.73ミリシーベルト/年で労災認定されています。いずれも内部被ばくも含めての値です【当ブログ『原発作業員:被ばくでがん 労災10人』参照】。
一方、今回の計算結果の4.99ミリシーベルト/年は、外部被ばくだけです。目の前の地面上には放射性セシウムがあるのですから、少なからず、それが体内に入り、内部被ばくは受けることになります。実質的に、5ミリシーベルト/年を越えるのは確かでしょう。

また、1マイクロシーベルト/毎時を切ったのは地上高2.5メートルのデータで、地上高1メートルでは1.36マイクロシーベルト/毎時が記録されていることも見落としてはいません。

福島の皆さんには、少しでも低い数字を信じて、安心したいという気持ちもあるでしょう。しかし残念ながら、まだまだ危険な数字です。
とにかく、必要な場所では、避難を実行し(累積線量が問題となりますから、これからでも遅くありません)、除染で対応できる場所では、徹底して除染を求めていく。この姿勢が必要だと考えられます。

学校 1ミリシーベルト!?2011/05/27 21:17

福島のママさんたちを中心とする闘いのかいがあって、やっと文科省が「学校内では年間1ミリシーベルト以下目指す」と発表しました。これは、大きな前進だと思います。

しかし、「年間20ミリシーベルト」を前提とする今までの姿勢よりはましですが、「学校 1ミリシーベルト以下」には、とん でもない誤魔化しがあることを見落とさないでください。仮に、学校にいる時間を8時間と考えれば、残りの16時間分をどう計算するのか… 誰がこんな詭弁を思いついたのか、心が寒くなります。

前提とすべきは、子供たちが、そして、すべての住民が浴びる放射線量を24時間計算で、年間1ミ リシーベルト以下にすること。これしかありません。

もう一点、原発事故の年間1ミ リシーベルトと、レントゲン撮影の年間1ミ リシーベルトでは、まったく意味が違うことを、再度確認しましょう。

病院のレントゲン室では放射性物質が飛び交うことはありません。私たちが受けるのは純粋に放射線(この場合はX線)だけです。それでも、危険がありますから、必要以上にレントゲン撮影を受けてはいけないのです。

一方、今の福島(というか東北・関東)は、たくさんの核分裂生成物(放射性物質)が宙に浮いたり、地面に落ちたりして、それが私たちに放射線を浴びせている状態です。
この間、議論されている、「年間○○ミ リシーベルト」とは、体の外にある放射性物質から、体表と通して被ばくする量(外部被ばく量)を表しているに過ぎません。レントゲン室の危険性と同じ考え方です。放射線を発する元である放射性物質自体が私たちの体内に入ってくることは、まったく想定も、算入もしていません。

放射性物質を吸い込んだり、水と一緒に飲んだり、食べ物と一緒に食べたりしたらどうなるのか… それが内部被ばくです。少ない量の放射性物質を体内に取り込んだだけで、深刻な放射線障害を起こします(早い話がガンになる可能性が高まります)。

ガイガーカウンターが示す線量(シーベルト)は、外部被ばくの量そのものを示していま す。放射性物質が、目の前にあれば線量は上がりますから、ある程度、内部被ばくの危険性を指し示しているとも言えますが、正確な対応はしていません。
それは、核分裂生成物(放射性物質)の種類によって、甲状腺ガンを起こしやすくなったり、白血病を起こしやすくなったり、内部被ばくによる障害は様々だからです。
線量(シーベルト)では、セシウム137なのか、はたまた別な物質なのか、その種類を特定することはできません。また、ストロンチウム90などが放射するベータ線(電子線)を通常のガイガーカウンターで検出することはできません。

どんな種類の核分裂生成物(放射性物質)が、どこにどの位存在しているのか。このデータを東電や国は調べているのか?知っているのに詳細を発表していないのか?
10年、20年ではありません。私たちは、今、100年、いや1000年に及ぶ恐怖と直面しています。
どう対処するのか… そのためには、徹底したデータの収集と情報の開示が必要なのです。そして、少しでも危なかったら、「逃げる権利」を保証すること。もちろん、東電と国の責任で行うことは言うまでまでもありません。

「学校 1ミリシーベルト以下」は、確かに前進です。しかし、気を緩めてはなりません。

年間1ミリシーベルトで、避難計画の再考を2011/05/25 10:53

文科省が4月20に教育現場向けに出したに「放射能を正しく理解するために」なる通達が、いまだに取り消されていません。この通達こそ、子供にまで年間20ミリシーベルトという途方も無い被ばく線量を強要する出発点でした。

非常に楽観的(!?)とされる「国際放射線防護委員会(ICRP)」の推測でさえ、「ガンなどで死ぬ危険は1000ミリシーベルトあたり5%高まる」としています。被ばく線量と「ガンによる致死リスク」は正比例しますので、100ミリシーベルトで1000人中5人、20ミリシーベルトで1000人中1人となります。ただ、子供は大人に比べて放射線の影響を5倍受けやすいので、20ミリシーベルトを被ばくすると1000人中5人の子供のガン死が増えるということです。ここで注意しなくてはならないのは、ICRPの計算は累積被ばく線量だということです。もし、年間20ミリシーベルトが2年続けば、子供のガン死は1000人中10人に、5年続けば25人になります。
一方、米国国立アカデミーの全米研究評議会の報告書では、「年間20ミリシーベルトは、子供の発がん比率を200人に1人増加させる」としています。

そもそも、一般人の被ばく限度量は年間1ミリシーベルトです。実は、この基準も科学的・医学的裏付けがあるものではなく、「これより厳しくすると原子力産業が立ちゆかない」という事情か生まれたものなのですが、ここではそれに噛みつくのはやめて、一応、世界標準として存在している「被ばく限度量=年間1ミリシーベルト」を前提に話を進めます。

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故。ソ連ゴルバチョフ政権の対応は遅れが目立ち、ヨーロッパ全体へその被害が広がりました。しかし、チェルノブイリの時ですら、居住禁止(=強制移住)のエリアは、年間5ミリシーベルトでした。ゴルバチョフ政権は数千台のバスを動員して、住民の移住を決行したのです。

日本政府は、年間20ミリシーベルトの撤回を頑なに拒んでいます。避難地域が広がって経済的支出が増えることをもっとも恐れているのでしょう。この姿勢は、子供の命、人の命を何とも思っていないことと同じです。
今こそ、年間1ミリシーベルトを基準に避難計画の再考をすべき時です。

追記1:
個人的には、子供だけの集団疎開には疑問があります。なぜなら、この避難は短期間で終わるとは考えられないからです(チェルノブイリの例を見ても明らか)。避難する人たちの負担は大きなものになると思いますが、家族単位、あるいは地域共同体単位での集団移転を考えるべきでしょう。それを支える義務は東電と国にあります。東電のすべての保養施設を開放し、各地の公営住宅や旅館を借り上げて、速やかに実行すべきです。

追記2:
「除染」とか「土壌改良」とか言っている人たちもいますが、校庭だけで良いならそれも可能です。しかし、農地や山林をどうするつもりなのでしょうか?大規模な除染によって、短期間で汚染地域を清浄化することは不可能です。何よりも、まだ核分裂生成物(放射性物質)が出続けているのですから。

外部被曝の現状2011/05/05 11:14

今現在、私たちは、そして福島の人たちは、どの程度の放射線に被曝していて、今後はどうなっていくのでしょうか?状況を一旦、客観的に見直し、今後について考えてみたいと思います。

まずは外部被曝です。原発の至近距離でない限り、外部被曝の原因は、空気中を浮遊する塵などに乗った「浮遊放射性物質」と、それが地面や建物に沈着した「沈着放射性物質」に分けられます。この両方から受ける放射線量を合計したものが空間線量です。

ただ空間線量=被曝線量ではありません。屋内では線量が下がるからです。ここで面倒なのは、「浮遊放射性物質」と「沈着放射性物質」では、屋内で減る率が違うことです。
「沈着した放射性物質」は、家の中にいればかなり遮れるでしょう。上のデータを見ると木造家屋でも屋外の0.4倍となっています。
一方、「浮遊放射性物質」は、木造家屋内では0.9倍にしかならないとされています。対策は、窓を閉め切ったり、洗濯物を外に干さなかったり、外出から帰ったら玄関の外で埃を払うといった「花粉症対策」と同じ。これである程度被ばく量を減らすことができるとされます。

なお、ここで扱っている放射線はガンマ線です。
なぜならアルファ線とベータ線は透過力が非常に弱いため、それを発する物質に直接手で触ったり、体内に取り込まない限り危険性はあまりないからです(体内被曝は深刻です)。ちなみに空気に対する透過力は、アルファ線が1センチ以下、ベータ線が1メートル程度。ガンマ線はかなり遠くまで届きます。従って、事故現場から数キロ以上離れた場所では、外部被曝はガンマ線だけを考えておけばよいわけです。

ではまず、東京の状況を見てみましょう。
都内の降下物(塵や雨)の放射能調査結果」を見ると、「浮遊放射性物質」は、かなり減ってきています。今 現在の空間線量の多くは「沈着放射性物質が出している放射線」と考えてよいと思います。ということは、木造家屋における軽減係数は、一応、0.4と。

空間線量はどうでしょうか。
ここのところ下がってきて、0.07μGy/h(=0.07μSv/h)程度です。
これを一日8時間を外で過ごすとして計算すると、年間の実効被曝量は
((0.07μSv/h x 8時間)+(0.07μSv/h x 0.4 x 16時間))x365日=368μSv/y=0.368mSv/y
となります。
一般人の年間限度量=1mSv/y以下ではありますが、福島第1の事故以前の平均値は0.04μSv/hくらいでした。倍近くにはなっていますので安心は禁物です。

一方、福島は…
どこを探しても、「浮遊放射性物質」のデータがありません。これでは正確な外部被曝の量を計算しようにもできないはずです。まだまだモニタリングの体制が弱体です。
やむを得ず東京と同じ「木造家屋における軽減係数=0.4」で計算してみます。
5/4現在の福島県双葉郡の空間線量は1.7μSv/h。これを年間の実効被曝線量に直すと8.9mSv/yとなり、問題となっている20mSv/yには及びませんが、1mSv/yという基準の8倍に達しています。
一方で、http://atmc.jp/school/ を見ると、空間線量は地域によってかなりの偏りがあり、中には6.8μSv/h(年間実効被曝線量=35.7mSv/y)などという恐ろしい値も出ています。リンク先にある地図を大きく拡大してみると分かりますが、地域の中でも大きく値が異なる場所があります。これは、放射性物質が埃と同じように吹き溜まることを示しています。狭い地域の中にも、大変危険な場所と比較的安全な場所があります。それを見極めるためにも、より一層綿密なモニタリングが必要でしょう。
その結果、ある程度広い範囲で年間実効被曝線量が1mSv/yを越える地域では、大規模な避難が必要になると思います。

今回は、外部被曝だけを考えてきましたが、次は内部被曝を取り上げます。

波紋を広げる年間20ミリシーベルト2011/04/30 17:32

数日前にこのブログでも取り上げた「学校の校庭利用の放射線量上限を年間20mSv(マイクロシーベルト)とする政府の安全基準」が大きな波紋を広げています。4月20日以前は、一般人の被ばく限度量は一律1mSv/年だったのですから、一気に20倍です。すんなりいくわけがありません。

この件に関連して、小佐古敏荘東大教授が内閣参与を辞任しました。ただ、この人、ちょっと調べてみると、近畿原爆症訴訟集団認定訴訟で国側に立った唯一の証人で、無責任な証言を繰り返した人物なのです。「小佐古敏荘 原爆症認定訴訟」でググってもらえば、すぐに分かります。
その小佐古教授が『原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい』とか『「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい』なんて言い出したのだから、原爆症認定訴訟の関係者は、まさに「開いた口がふさがらない」と思っていることでしょう。「あの小佐古教授の口から、ヒューマニズムなんて言葉が飛び出すなんて…」と。彼が改心したのか、それもと、揶揄されているように「御用学者も逃げ出す」状況なのか定かではありませんが、20mSv/年がどれほど非常識な数字であるかを示すエピソードには違いありません。

今日30日午前中の衆院予算委員会で、菅首相と枝野官房長官は、「年間20mSv」を巡って右往左往の答弁を繰り返したようです。
まずは、原則が大切です。「一般人の被ばく限度量は一律1mSv/年」という基準を守り続けなければ、なし崩し的に被災者の、そして、私たちの健康はないがしろにされていくでしょう。

一方、現状で1mSv/年を厳守すれば、避難地域はある程度広くなるでしょう。しかし、文科省が発表した来年の3月11日までの累積線量推定マップによれば、30km圏内にも、1mSv/年以下と思える地域はあります(このマップには10mSv/年までしかプロットされていませんが)。

内部被曝に関しても、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータを避難地域の再検討に活用することができます。

SPEEDI

残念ながら、話は、子供を外で遊ばせなければ、なんとかなるというレベルのものではありません。また、学童疎開のような短期的な対策では意味がありません。
なぜなら、この事故からの避難は、数ヶ月で済まないからです。短くても数年、場所によっては数十年に及ぶことも考えられます。子供が暮らせない場所に、町や村を維持することは不可能です。子供が住めない場所には、大人も住めないのです。

今のところは、福島第1原発から20km圏内を「警戒区域」、20km~30km圏内を一律に「緊急時避難準備区域」、20km以遠で20mSv/年を越えることが予想される地域を「計画的避難区域」としていますが、1mSv/年を基準に、避難の問題を根本的に考え直す必要があるでしょう。






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