リフレッシュ・ローテーションの効果2012/01/19 16:57

今回は、当サイトの読者の一人、「世田谷の鈴木さん」から寄せられた試算とコメントを紹介してます。

内容は、『「リフレッシュ・ローテーション分校」による、Cs体内残存量の低減効果』というものです。
リフレッシュ・ローテーション分校というのは、食事や呼吸による放射性物質の取り込みがあり、内部被ばくの危険が大きい地域の子供たちを、一時的にクリーンな環境に疎開あるいは避難させる取り組みです。

当ブログでも、何度か指摘している通り、内部被ばくに関しては、一度にある程度を量を体内に取り込んでしまう一回摂取と、少ない量であっても毎日体内に取り込む継続摂取では、後者の方が危険です。これは、「世田谷の鈴木さん」の試算にも、はっきりと現れています。
では、以下に、鈴木さんの試算とコメントを紹介します。黒字部分が私設原子力情報室による記載で、青字・赤字部分が鈴木さんのコメントとなります。

●「リフレッシュ・ローテーション分校」による、Cs体内残存量の低減効果
食物を通してのセシウム体内残存量の増大が懸念されています。故郷での生活と両立しつつ、子どもたちの体内残存量を下げる一つの方法として、他府県での生活を組み合わせる「リフレッシュ・ローテーション分校」が提案されています。その効果を計算してみました。

1. 食物からの定常的な摂取による体内残存量の推移
 図1にICRP Publication111(日本語版ダウンロード)にある放射性セシウム(Cs)137の全身放射能の推移グラフを示す。
(1)例えば、一度に1000Bqを摂取した場合は、生物学的半減期100日後に、体内残存量は500 Bqとなる。
(2)一方、毎日一定量を摂取した場合、体内からの排出には生物学的半減期を要するため、その出入り差により、体内残存量は或る平衡値に達する。成人は排出が遅いので、600日後には日摂取量の約140倍となる(図1参照)。


2. 子どもは生物学的半減期が短いので、全身放射能が早く変化する
ICRPの図は、体内残存量が多くなる中高年の生物学的半減期100日を用いているが、図2に、代謝の早い子どもの生物学的半減期(消費者庁「食品と放射能Q&A」)の場合のグラフを示す。
グラフから、長期間後の体内残存量の平衡値は、代謝の早い9歳児は日摂取量の55倍、1歳児は13倍となることが分かる。元となる日摂取量が異なる場合も、この倍率で考えればよい。

計算方法:9歳児の1日当りの減衰率k=(1/2)の1/38乗=0.982。
任意日の値=前日値*k+日摂取量。これをExcel上で繰り返す。
検証 http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/hokenjo/kouenkai/inoue-shiryou.pdf

試算によると、9歳児では、1日10ベクレルの放射性セシウムを摂取し続けると、550ベクレルで平衡に達し、そのままの状態が続くことになります。
気になるのは、この550ベクレルが高い数値なのかどうか、という点です。
よく、放射性セシウムと比較されるカリウム40(自然界に存在する)の体内存在量を見ると、体重60kgの大人で4000ベクレルとされています。9歳児の平均体重は、約30kgなので、体内にあるカリウム40は2000ベクレル。それに、550ベクレルが上乗せされるのです。安全とは誰も言い切れないでしょう。
人間の体内にあるカリウム40の濃度は、人類が地球に登場して以来、300万年間、ほとんど変化しなかったはずです。それが突然、1.275倍になるのですから。

折しも、朝日新聞から、「家庭で1日の食事に含まれる放射性セシウムの量」の調査結果が発表されました。全国53家族というサンプル数は、十分に多いとは言えませんが、参考にはなります。
福島では、17ベクレルを越える例が一つ。5ベクレル以上で見ると、26人のうち8人が該当しています。鈴木さんが試算に用いた1日10ベクレルという数字が、決して高いものではないことが分かります(この調査が、飲料水も含めているのかが不明なのですが、もし、入っていないとしたら、1日の摂取量は、もっと増えるでしょう。また、呼吸による摂取は、まったく算入していません)。
記事中で、京都大医学研究科の小泉昭夫教授は「福島のセシウム量でも十分低く、健康影響を心配するほどのレベルではなかった」と語っていますが、この人は、継続摂取(低線量内部被ばく)の怖さをまったく理解していないのか、知っているのに、誤魔化しているだけです。

【参考:ちょっと難しいので、以下の黒字部分は読み飛ばして貰ってもOKです】
なお、鈴木さんの試算の中で、生物学的半減期(または体内有効半減期)の数値が、ICRPのものと、日本の消費者庁のものが出てきますので、整理しておきます。
理解しておきたいのは、生物学的半減期には物理的半減期(一般に言われる「半減期」)が算入されていないという点です。生物学的半減期は、たとえば、セシウムであれば、放射性であろうとなかろうと、セシウム134であろうと137であろうと同じです。
要するに、人間が、セシウムという物質をどれだけの時間、身体の中にとどめるかによって決まってきます。
ですから、「放射性元素が体内で半分になるまでの時間=体内実効半減期」を知るためには、生物学的半減期と物理的半減期の両方を考慮しなければなりません。
ただ、生物学的半減期が物理的半減期に対して、十分に短い場合は、体内実効半減期は、ほぼ生物学的半減期と一致します。表で、セシウム137の生物学的半減期と体内実効半減期が一致しているのは、そういう理由によります。
セシウム134の場合も、半減期が2年ありますので、生物学的半減期≒体内実効半減期と考えて大丈夫です。

3. リフレッシュ・ローテーションによる低減効果のグラフ
図3に、毎日のCs摂取量が「10Bq」と「1Bq」の生活を周期的に行った場合の体内残存量の推移を示す。
周期は1ヶ月でも2ヶ月でも低減効果に大差はないが、リフレッシュ滞在日の割合を大きくする方が望ましい。


この試算は、放射性セシウムの摂取量が1日10ベクレルの環境と1日1ベクレルの環境との間を月単位で行ったり来たりする想定です。
リフレッシュ・ローテーションの効果は明白で、体内残留量が大きく減ることが分かります。また、一つ画期的なことは、「周期は1ヶ月でも2ヶ月でも低減効果に大差がない」という点で、「どうせ一か月しか行けないのだから、効果はたかが知れている」とあきらめてはいけないということです。

鈴木さんの試算は、放射性物質を継続摂取することの怖さと、リフレッシュ・ローテーションが果たす一定の効果を裏付けていると思います。
安全な食品が入手しにくい地域や、呼吸による放射性物質の摂取が考えられる地域では、子供たちの「リフレッシュ・ローテーション分校」や「クリーンな環境への疎開」を行政に強く求めていく必要があります。

鈴木さんから、今回の試算に使用したExcelファイルが提供されていますので。以下にアップロードしておきます。必要な方は、クリックしてダウンロードしてください(Zipに圧縮してあります)
ダウンロード・ファイル(鈴木さんの試算)

なお、鈴木さんと意見交換したい方は、この記事のコメント欄を自由にご利用ください。

コメント

_ ひまわり ― 2012/01/19 20:14

こんばんは。
いつも有意義な情報をありがとうございます。内部被爆の解説、本当に理解しやすく感謝しております。呼吸による被爆がどうなのか?心配です。
低線量内部被ばく/「毎日少しずつ」の恐怖 の折にコメントさせて頂いてリンクフリーとの回答を頂き、その後何回か転載させて頂いておりましたが。
アメブロにて著作権侵害は犯罪です http://ameblo.jp/staff/entry-11138992689.html 注意喚起がありましたので改めて転載のお願いにまいりました。
よろしくお願いいたします。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/01/19 20:51

>ひまわりさん
今一つ、状況が掌握できないのですが、以下のようなことでしょうか?

まず、当ブログへのリンクや、当ブログからの引用については、悪用でない限り、一切、著作権上の問題はありません。本人が言っているのですから間違いありません。

おそらく、アメブロからの締め付けは、『未来へ』http://ameblo.jp/hiromi1810/ の中に、様々なメディアからダウンロードしてきた静止画やイラストを貼り付けていることに対する警告でしょう。敵はホントに、やることがセコイです。

選択肢は二つしかありません。今まで通りのやり方を貫くか、静止画を貼るのではなく、リンクにするかです。イラストに関しては、自分で書き直すという方法もありますが。
どれを選ぶかは、ひまわりさん次第です。

_ ksirouto ― 2012/01/21 04:09

いつも貴重な論文の後提供を頂き勉強になります!ありがとうございます! 

早速ですが、知り合いの大学の先生ですが、「アカデミーキャンプ」というのを実行されており、昨年に引き続き今年も実行されているようです。

これは詳しくは存じませんが、福島の子供たちを一時的に多人数集団疎開させ、一緒に生活を共にするという試みと伺っています。生活している動画も拝見しましたが、子供たちが生き生きと生活しており、暗さを感じさせないものでした!

加えて、今回のようなリフレッシュ・ローテーション分校という効果を意識されているかどうは不明ですが、この論文を拝見しながら気付きましたのでご案内させて頂きました。

_ 二本松 ぽよよん ― 2012/01/23 16:22

10月頃に一度お邪魔した二本松市の50代主婦です。
コメに続き今度は砕石問題ですっかり有名になってしまいました。
放射線量の方は僅かずつ減少してきており、市の発表で0.7~0.9、わが家の室内で0.4~0.5といったところです。(RD1503で測定)
3日ほど前に雪が積もって線量が下がり、市の発表で0.5~0.6、わが家で0.3~0.4となっています。森林や地面からの放射線が雪で若干遮断されているようです。
でも雪はやがて融けますし、融けた後、放射性物質が地面にしみ込むのではないかと心配の種は尽きません。

二本松市もほぼ全域で放射線量が高いのですが、その中で岳温泉地区が比較的線量が低く、0.15~0.20と発表されています。この辺は山が多いので、放射性物質の流れがある程度山で遮られたと考えられます。
それでも決して安全な数値とはいえませんが、建物の中はその半分として合計年間1ミリシーベルト程度と思われます。
私は市に対して中学生までの子供たちをこの地区で疎開させることを提案しました。今から準備してこの4月から2年から3年間。温泉地なので旅館を寄宿舎として活用する。(旅館もこのところ客が少ないようですし)
低学年までは保護者も一緒に。週末や夏休みなどは家庭で過ごしてもトータルで少なくて済みます。
市からの返答はありません。確かに簡単に決められることではありませんからね。

こうして書き込んでいる間にも、わが家の前を通って帰宅する子供たちの声が聞こえます。無防備な子供たちの姿をこれ以上見るのは忍びない思いです。
世田谷の鈴木さんの試算、後でもう一度じっくり拝見します。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/01/23 23:00

>二本松 ぽよよん さん
コメントありがとうございます。
東京では、逆に、今降っている雪で、Falloutと空間線量が上がっています。
ちなみに、わが家の外では、この間の倍以上のガンマ線量になっています。
上空に、放射性物質を含むチリが、まだ舞っているのだと身を以て知り、恐怖を新たにしています。
世田谷の鈴木さんの試算は、大変に有意だと思います。ぜひ、参考にしてください。

_ 2児ママ ― 2012/01/24 20:27

こんばんは。興味深く拝見させて頂きました。
現在5歳児と2歳児を連れて茨城県から西日本に疎開しております。疎開期間は約50日です。
今までは、2日位の短期間ならちょこちょこ県外に出たりしておりましたが、まとまった期間は初めてです。
次の疎開は半年後位かも知れませんが、また同じ位の期間出たいと思っています。
こんな形でもリフレッシュになるでしょうか。見解を伺えれば嬉しいです。
宜しくお願い致します。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/01/24 20:52

>2児ママさん
小さなお子さんは代謝が速いので、仮に現在、体内に放射性物質があったとしても、50日でかなり抜けます。リフレッシュの効果は間違いなくあると思います。

_ 1児のママ ― 2012/01/25 16:45

初めて投稿させていただきます。ホットスポットと呼ばれる地域在住の1才児の母です。
放射線量の非常に高い地域から西日本に移住するのであれば、効果は顕著に表れると思いますが、例えば、ホットスポットから若干放射線量の低い地域にある実家に1ヶ月程度帰省したり、あるいはホットスポットではない近隣地域に引越したりしても多少の効果はあるのでしょうか。(どちらも東日本です。)
放射線に関しては全くの素人でお恥ずかしいのですが、ご意見をいただければ嬉しく思います。

_ 2児ママ ― 2012/01/25 19:14

心強いお言葉、ありがとうございます!
なかなか疎開も難しいですが、子供の健康最優先で、リフレッシュしたいと思います。
今後も参考にさせて頂きます。ありがとうございました。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/01/25 21:18

>1児のママさん
コメントありがとうございます。

さっそくですが…
放射線量(被ばく量)は低いに越したことありません。これは、外部被ばく、内部被ばく共にです。

小さなお子さんの場合は、代謝が速いので、飲食や呼吸による放射性物質の摂取を減らせれば、その効果は現れやすい。これは、間違いのない事実です。

疎開や移住をしなくても、飲食に気を遣えば、摂取量を減らせそうな気もしますが、現実はそう甘くないようです(他の方からの報告を読んでください)。

小さなお子さんのいる家庭では、少しでも線量の低いエリアに移るというのは、正しい選択だと思います。本来、それは東電と国が補償すべきもの。現状ではそうなっていませんが、その選択をするのであれば、関連する領収書等は保管しておいた方がよいと思います。

_ 1児のママ ― 2012/01/26 23:12

ご助言ありがとうございました。
飲食物に気をつければ大丈夫なのかと思っておりましたが、やはり現実は厳しいのですね。
西日本に移住は難しいため引越は半分諦めていましたが、近距離の移住でも効果があるとのことで、安心しました。

_ 京都生協の働く仲間の会 ― 2012/04/01 00:47

3月31日京都駅前での細野大臣等追及行動!大きな力を発揮!

3月31日京都駅前での細野大臣山田京都府知事、野中広務元自民党幹事長、らが一緒になった、放射能がれきバラマキ、最終処分場を京丹波町に建設することに対して、大抗議行動を行った。そしてみんなで大きな勝利を手にしました。被曝をすぐにやめさせるために、100万人避難を受け入れることが、まずするべきことだ。その避難を妨害する野田、細野、山田らを許せない。その行動を大貫徹した。感謝です。大感激です。必要なのは100万人避難者大支援です。‏さらに一層頑張りましょう。
なおhttp://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-1699.html
http://www.youtube.com/watch?v=iFi7QkngopM&feature=relmfuには、はっきりと、京都駅での大衆的な必死の闘いが、記録されています。ぜひ、視聴してください。パート1、2とあります。
2012年3月31日
京都生協の働く仲間の会
keizirou.hushimi@hotmail.co.jp

京都駅前で大追及した。子供、大人、年寄りのそう決起です。素晴らしい。
1、
細野、山田、福山、野中への大追及行動、民衆の裁判でした。
2、総勢100人位で追及したよ。そしたらドンドン人は増えていた。ユーチューブで見たら、500人くらいいたようだ。怒りのこえは本当に京都駅中に響いた。良かった。あまりの追及行動の爆発に細野が直接挑発した。一人に近づいて来て話した。記者とSPが囲んで詳しくはわからなかったが。
3、そこで僕は野中広務に話に行って野中を追及した。SPが妨害に来たが、野中も大政治家の面子がある。こんな私一人の話したい要請をSPに従って拒否したら余りにもみっともない。そこで話に応じて来た。だから、とことん追及した。何で避難を受け入れないのかと。福島で子供らが放射線管理区域での生活を強いられている。すぐに避難をできるように支えるべきだ。100万人京都に避難しようって何で言わない。と追及したら、野中は答えられ、右往左往だ。結局、SPに助けられた。
4、全体的に素晴らしい追及行動だ。みんながそれぞれ怒りを思いっきり爆発させた。本当に良かった。シュプレヒコール、怒りのボード、私たちは『放射能ばらまき反対』『野田、細野、山田は避難を妨害するな』と書いたボードを掲げた。
5、『人が先』のシュプレヒコールは避難の人が先の意味だ。これが大きな声で響いた。『子供を守れ』のシュプレヒコール。『人殺し』『子供を被曝させてそんなに嬉しいか』『福島の子ら100万人は京都に避難しよう』『嘘つき』など追及が大衆的に、叩きつけられた。京都駅の春の観光客も皆怒りの爆発に共感した。インドからの9日間の男性観光客も頑張ってください。と声をかけてくれた。細野、山田、福山、野中らは逃げて行きました。福山は『私は京都が地元です。帰れと言われても困ります。』などと言い、観光客からも笑われました。ヤッター。の声が京都駅に響いた。『二度と来るな』の声も叩きつけられた。
6、私たちは、島田市民を先頭に闘われてきた放射能がれきバラマキに反対する取り組みを、やっと連帯することができたと思います。関西広域連合専門家会議抗議行動から、3月27日京都市議会傍聴行動、放射性がれき受け入れ決議反対の大行動、3月29日の京都府庁における大飯原発再稼働反対、山田知事による放射能がれき受け入れ、最終処分場を京丹波町に建設する宣言を許さない闘いを続けて闘ってきた。その取り組みが、重大な局面を勝ち取ったといえます。全国、全世界に対して、「国際都市京都」から、今こそ、①福島の子供ら100万人避難を大支援しよう、②放射能汚染がれき、食品による放射能バラマキに反対しよう、③原発再稼働を絶対に阻止し、全原発の即時廃炉を実現しようと訴え、ぜひしっかりと取り組みましょう。以上。

_ 杉山ひとし ― 2012/10/08 21:04

大変貴重な情報をありがとうございます。
被災地の切実な状況もあわせて知ることができました。

被災地の絆を謳い文句で、被災地のガレキの広域処理ばかりの話が先行していますが、現実には人命に関わることを最優先に行うべきなんですが、全く政府、官僚、政治家は動きません。地方議会に働きかけて、原発被災地の方々には少しでも安心して暮らせる時間が共有できるよう地方議員を通じてやってみたいと思います。

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