4号機 核燃料プールの危険性【2】2012/03/10 16:06

■大量の使用済み核燃料があった理由
下の表は、福島第1の原子炉および核燃料プールにあった燃料集合体の数です。60本から74本の燃料棒を束ねて、一体の燃料集合体にするわけですから、一つの原子炉に数千本の燃料棒があることになります。

表を見ると、4号機の核燃料プールに、1,331本という飛び抜けて多い数の使用済み燃料集合体があったことが分かります。
3年間の使用を終えて、原子炉から出てくる使用済み燃料集合体は、毎年約183本です。今回は、圧力容器の改修作業のために、使用途中のものもすべて取り出していたという事情もありますが、多いのはその分だけではありません。2010年以前に取り出された使用済み燃料集合体が、プールの中に783本もあったことになります。

使用を終えたばかりの核燃料は、放射線量も崩壊熱もきわめて高いので、原子炉の直近にある核燃料プールで貯蔵するしかありません。ただ、そのままではプールがすぐに一杯になってしまうので、一年後を目途に、発電所内にある共有プールに移されます。もちろん、水に漬けたままの移動という難しい作業です。その後、そこで数年間冷やしてから再処理、というのが電力会社と日本政府の目論見でした。

しかし、
●東海村の再処理施設は規模が小さすぎて役に立たない。
●フランスとイギリスに委託していた海外での再処理は契約切れ。
●六ヶ所村再処理工場は、トラブル頻発で稼働の見通し立たず。
…という状態で、使用済み核燃料の行き場がなくなっているのです。ちなみに、六ヶ所村はまったく見通しが立っていないのに、使用済み核燃料の貯蔵量だけは、すでに90%を越えています。また、各原発の貯蔵能力も限界に近づいています。
そういった背景があって、行き場を失った多くの使用済み核燃料が、4号炉の核燃料プールに貯蔵されていたのです。

■使用済み核燃料と新核燃料 その怖さの違い
さて、核燃料プールには、使用済み核燃料と交換するための新核燃料も貯蔵されています。ここでは、使用済み核燃料と新核燃料では、危険性がどう違うのか、それを考えていきたいと思います。

新核燃料は95.9%がウラン238で、残りの4.1%が連鎖的核分裂反応を起こすウラン235です。新しい燃料なので、もの凄い放射線を発していそうな気がしますが、実はそうではありません。ウラン238の半減期は44億6千万年。ウラン235は7億年。少しずつアルファ崩壊はしていますが、その線量は限られたものです(近くに長時間いるのは危険です)。
また、崩壊熱もありません。ですから、新燃料の輸送に使う容器には、水も放射線の遮蔽材も使われていません。
●参照:BWR用燃料集合体輸送容器

では、新核燃料の何が怖いのか…
臨界の起きやすさです。ウラン235の濃度が高いので、使用済み核燃料に比べて、少ない量で臨界に達します。
逆に言えば、臨界を起こさないために、核燃料は細い燃料棒に小分けされているとも言えるのですが、燃料棒の被覆管が壊れて核燃料そのものが一か所に集まったら、あるいは、燃料棒同士の距離が近づきすぎたら、それだけで臨界は起きるのです。

一方、使用済み核燃料の怖さは、崩壊熱と放射線です。たとえば、連鎖的核分裂反応が止まってから数年以内に、循環する水による冷却が止まると、みずから発する崩壊熱で溶け出します。溶け出した核燃料が、ある量、ある形で集まれば、使用済みと言えども、臨界に達する恐れがあります。これは、事故を起こした福島第1にだけ言えることではなく、世界中、すべての原子炉がそうなのです。

比較のために、使用済み核燃料輸送容器の図にもリンクを貼っておきます。
新燃料の輸送容器に比べて、とても厳重に作られているのが分かります。しかし、使用済み核燃料は、使用後最低4年経たないと、この容器にすら入れられません。それ程、危険きわまりないものなのです。
ちなみに、使用済み核燃料が、私たちの暮らしや環境に悪影響を及ぼさなくなるためには、最低でも10万年の時が必要です。

■4号機は崩壊しないのか?
はっきり言って、爆発の影響で4号機は傾いています。また、核燃料プールも支えが不安定な状態になっていて、慌てて補強をしたことはご存じの方も多いでしょう。

では、4号機は大丈夫なのか?
決してそんなことは言えない状況です。
余震などをキッカケに、崩壊する可能性は十分にあります。東電も政府も、そのことが分かっているからこそ、ロードマップの真っ先に、4号機の核燃料プールからの燃料集合体の取り出しを掲げています。しかし、燃料取り出しの開始予定は来年末。間に合うのか…

もし、4号機の核燃料プールが崩壊したり、大規模な水漏れを起こせば、まず、使用済み核燃料が溶融します。
その熱で、新燃料が溶融。溶け出した新燃料がある大きさの塊になれば臨界反応が起きます。とてつもない量の放射性物質と放射線がばらまかれることになります。もはや、東日本に人間が住むことはできなくなるでしょう。

前の記事に書いた通り、幾つかの偶然、「不幸中の幸い」が重なって、今の状態です。そして、このまま収束に向かうのかというと、そんなことはありません。これから、福島第1が人類史上最悪の事故になる可能性も否定できないのです。
誰が、こんな不安を抱えながら生きることを望むでしょうか?
原発がある限り、またいつかどこかで、同じようなことが起きます。少なくとも、福島第1を最後にしなくてはいけない。今ほど、その思いを強く感じたことはありませんでした。

コメント

_ 定年父さん ― 2012/03/10 18:21

いつも私達の疑問に対してわかり易く解説していただきありがとうございます。バックナンバーは全て印刷して疑問が生じた際に読み直しています。このブログは福島に住む人々の大きな支えです。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/03/10 20:46

>定年父さん さま
少しでもお役にたっているのなら、嬉しいかぎりです。
年明け以降、アップデートが滞りがちだったのですが、また、少しずつペースを上げていくつもりです。
今後ともよろしくお願いします。

_ 埼玉県民 ― 2012/03/11 07:44

いつになったら、使用済み核燃料が溶融しない程度に冷却されるのでしょうか?まだあと何年もかかるのでしょうか?

_ 私設原子力情報室 ― 2012/03/11 09:58

>埼玉県民さん
「燃料棒や燃料集合体の形状が正常に保たれている」という前提で、循環水による冷却は3年から5年必要と言われています。ただ、その後も強い放射線を発し続けますので、水漬けを続けるか、放射線を遮断する特殊な容器(乾式キャスク)で保管する必要があります。また、何年経っても発熱はゼロになるわけではありませんから、乾式キャスクで密閉保存すればするほど、内部に熱が溜まるというジレンマもあります。

「使用済み核燃料は、最低10万年間の監視が必要」というのは、決してオーバーな話ではありません。

_ 埼玉県民 ― 2012/03/12 09:00

丁寧なお返事ありがとうございます。
たかだか電気を得るためだけに、なんという代物を作ってしまったのか・・・そして今、政府もマスコミもガレキ広域処理の大合唱。暗澹たる気持ちです。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/03/12 23:41

>埼玉県民さん
仰る通りです。
その事実、その気持ちを一人でも多くの友人に伝えてください。そこからしか始まりませんから。

_ 高島与一 ― 2012/03/29 19:03

理科系の苦手な私にも分かり易い解説でした。ありがとうございます。少しずつ広げて行きます。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/03/29 21:22

>高島与一さん
コメントありがとうございます。
貴ブログ、今、拝見しつつあります。興味深く、勉強になります。
今後ともよろしくお願いします。

_ 村松賢一 ― 2012/08/30 03:33

これから起きる地震、南海地震やこないだの台風15号のような風速70mなどハラハラ、ドキドキしながら、生きるしかあっりませんね。ナウシカのフカイ、ブレードランナーのあの奇妙な人間のような人。放射能は、地球のすべてえを破壊して行く恐ろしい代物、最悪なシナリオ、愚かな白人ども、化学者早く何とかしてはしい、責任をとるべきだ。

_ 質問です ― 2012/12/13 02:00

この計算はどう思われますか?
http://blog.livedoor.jp/hn33jp/archives/51710038.html

_ 私設原子力情報室 ― 2012/12/16 00:32

日本が終わるとか終わらないとかいう話ではなく、今、現実に故郷を失った人たちが数十万人いて、命の恐怖、健康の恐怖を感じながら生きている人が数十万どころか百万人を超える単位で存在していることに目を向けるべきでしょう。
「命の恐怖、健康の恐怖」はフクシマだけではありません。東北・関東の広いエリア、中部・北海道の一部でも、それに苛まれながら生きている人はたくさんいます。これは被害妄想ではありません。

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