失われた福島の米2012/04/04 17:25

3.11福島第1原発の事故は、私たちの暮らしにどれだけの被害を及ぼしているのか… 今回は、「福島県の稲作」という視点から見てみます。

セシウム:100ベクレル超の福島県産米を全量廃棄へ』毎日新聞

農水省が、4月1日からの「食品に含まれる放射性セシウム新基準」にあわせて、100ベクレル/キログラムを超える2011年度産米の全量買い上げ、廃棄処分を発表したのは、3月29日のことです。該当する福島産米は3万7千トン(90億円相当)とされていますが、この報道で決定的に欠けているのは、その3万7千トンが、本来あるべき福島県全体の稲作に対して、どのくらいの比率を占めているのかです。農業関係者であれば、それが約61万7千俵に相当し、普通の田んぼ、すなわち一反(=10アール)の田んぼで6万1千700枚分という、もの凄い量だということがが直感的に分かるのでしょうが、都市生活者にとっては、なかなか実感できないものです。

そこでまず、2010年度と2011年度の福島県の稲作実績を数字で見ることで、3.11の傷跡を確認したいと思います。

100ベクレル/キログラムの基準超えで廃棄される米は、2011年度産米の10.5%を占めています。この数字を知っただけでも、常識をある人なら誰でも『原発はいらない!』という結論に達するはずです。

加えて、作付けすらできなかった田んぼがあったのは、皆さんご存じの通りです。土壌汚染・立ち入り禁止措置による国が定めた作付け禁止(約10,000ヘクタール)と自治体などによる作付け自粛(約600ヘクタール)。両方合わせて、収穫量に換算すると5万8千200トンに相当します。廃棄処分と合わせると9万5千200トン。これが、3.11原発事故で失われた福島の米。原発事故がなければ得られたであろう収穫量の約23パーセントにもなります(津波による冠水・塩害で作付けができなかった分を除いて計算。原発事故にも津波にも関係なく作付けをしなかった田があり得ますが、ごく一部と思われるので、計算上は無視しています)。


そして、原発事故の影響が一年で終わるはずもありません。2012年度、国によって作付けが禁止される区域は、約7,300ヘクタール。自治体による自粛も合わせ、福島県内で作付けが見送られる水田の面積は約1万500ヘクタールに及びます。作付けできない田んぼの面積は、2011年度とほぼ同じです。
100ベクレル/キログラムの基準を超える米は、2011年度産より多少減るかも知れませんが、それなりに出てくるでしょう。

福島の稲作は、原発事故によって大きな傷を負ってしまいました。この傷が癒えるのに、いったい何十年の時が必要なのか… 大きな憤りを覚えずにはいられません。

この事実は、福島の皆さんはもとより、福島産米の大消費地である東京の住民、そして、他の原発の数10キロ圏内(大阪も京都も福岡も入ります)に暮らす人たちに、わが身の問題として考えて欲しいと思います。原発事故は、私たちの祖先が、この列島に営々として築き上げてきた営みを根底から破壊してしまうのです。いとも簡単に。

今、野田政権は、福井県の大飯原発3・4号機の再稼働を画策しているようですが、以ての外です。
すべての原発をただちに廃炉行程へ!それこそが、私たちが歩むべき道です。

どうにも腑に落ちない水素発生2012/04/05 10:09

昨4月4日、強風の影響で福島第1の窒素注入装置が停止したというニュースが入ってきました。

福島第1原発:強風でフィルター詰まる 窒素注入装置停止』毎日新聞

このニュースを読んで、「まだ窒素を注入していたんだ!」と驚かざるをえませんでした。
窒素注入の目的は、原子炉内の水素濃度を下げ、水素爆発を防止すること。いまだに、かなりの量の水素が1号機・2号機・3号機のいずれでも発生していることを示しています。

まず大きな問題は、東電も国も、水素の発生が続いているという事実を公にしてきませんでした(少なくとも積極的には)。水素の大量発生を認めたら「冷温停止宣言」など、到底できないからです。今回、窒素注入装置のトラブルによって、はからずも、「冷温停止宣言」が嘘八百であったことが明らかになりました。
水素発生の原因は、まったく説明されていません。もし、燃料棒の鞘(核燃料被覆管)であるジルカロイが残っていて、水から酸素を奪って酸化ジルカロイになる過程で水素が発生しているとしたら、炉心の一部はいまだに900℃以上の温度だということになります。<ジルカロイ→酸化ジルカロイ>の反応は、900℃以上でないと起きないからです。
もう一つは、強烈な放射線で水が分解され水素が発生している可能性があります。
いずれにしても、東電は水素発生のメカニズムとその量を速やかに公表すべきです。

一方、水素爆発を防ぐための窒素の注入は、放射性物質の漏出を加速させます。窒素は格納容器と圧力容器へ注入されているのですが、入る気体があれば、出る気体もあります。そうしないとパンク(爆発)してしまいますから。
出てくる気体とは何か?大部分は、放射性物質(核分裂生成物と超ウラン元素)の微粒子を含んだ窒素・酸素・水素であり、気体の核分裂生成物もあるでしょう。
水素爆発を防ぐために止むを得ない措置とは言え、窒素の注入によって、放射性物質の漏出が増加している事実から目を背けてはなりません。

窒素注入装置の停止に関して、東電は「水素濃度が危険値に達するまで約30〜50時間の余裕がある」と述べています。背筋が凍る思いがしました。
たった30〜50時間!窒素注入装置が止まっただけで、ふたたび水素爆発が起きるのです。
2号機は建屋が残っているので、吹っ飛ぶのは建屋でしょう。しかし、1号機と3号機には、もう建屋はありません。爆発で破壊されるのは格納容器です。もし3号機でその爆発が起きれば、4号機の核燃料プールも破壊される可能性大です。何しろ、4号機はすでに傾いていて、大きな余震での倒壊も危惧されているほどですから。
仮に、3号機の格納容器が水素爆発して、その爆風で3号機と4号機の核燃料プールが破壊された場合、どうなるのか… 冷却する水がなくなってしまいますから、炉心の分も、核燃料プールの分も、ほどなくメルトダウンし、暴走を始めます。溶けた核燃料の集まり方によっては、野ざらしで臨界状態という、最悪の事態になる可能性もあります。暴走する核燃料の量は、チェルノブイリ原発事故の4倍近い量。間違いなく人類史上最悪の事故です。
さらに、1号機から4号機の炉心と核燃料プールが、すべて破壊された場合には、チェルノブイリの6.6倍という、もの凄い量の核燃料が暴走します。東日本に人が住むことはできなくなるでしょう。

福島第1も私たちも、いまだに綱渡りの綱の上です。
「たった30〜50時間」で、東日本が失われる事態になるのに、福島第1近隣住民の帰還に向けて躍起の日本政府。もう一方の手では、大飯原発などで再稼働を画策しています。

本来やるべきなのは、福島第1に関するすべての情報を無条件に公開することです。

どうにも腑に落ちない水素発生の事実… メルトダウンした原子炉の中で、いったい何が起きているのか?
東電と国に、その原因と危険性、そして対策を明確にすることを強く求めます。

附記:どうにも腑に落ちない水素発生2012/04/05 11:32

「どうにも腑に落ちない水素発生」の参考資料として、チェルノブイリと福島第1の事故を「制御不能に陥った核燃料の量」という視点から比較した一覧表をアップします。

福島第1は沸騰水型、チェルノブイリは黒鉛減速沸騰水型と炉の形式が違うので、チェルノブイリの炉心にあった核燃料(燃料集合体)の量を福島第1と同じ沸騰水型に換算してあります。
「制御不能に陥った核燃料の量」を燃料集合体の数で見ると、チェルノブイリ699本に対して福島第1は4604本。実に6.6倍。この観点からすれば、福島第1は、間違いなく人類史上最悪の事故です。

チェルノブイリでは、燃料集合体699本分すべての核燃料がメルトダウン。水蒸気爆発で原子炉本体が破壊されたので、溶岩のように溶けた核燃料が、何の覆いもなく環境中にさらされることになりました。
福島第1で、炉心にあった核燃料の何パーセントがメルトダウンしたのかは、「1号機では7割程度が溶融」とされていますが、全貌はいまだ明らかになっていません。
今のところ福島第1からの放射性物質の漏出量が、チェルノブイリに比べて少ないとされているのは、破損した圧力容器と格納容器が、割れた卵の殻のような状態で、核燃料を辛うじて覆っているからです。

危機は脱したのか?
何度か問われてきた、この問に対して、「冷却水の循環が止まれば、ふたたびメルトダウンが起きたり、臨界に陥る可能性もある」という警鐘は、当ブログだけでなく、多くの人たちが発してきました。
それに加えて、「水素発生・窒素注入」の問題が明らかになったのです。窒素注入が止まれば、30~50時間で水素爆発が起きる。今度吹き飛ぶのは、圧力容器と格納容器です。
いまだ、私たちは、綱渡りの細い綱の上を歩かされているのです。






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