広範なエリアで染色体分析調査を!2012/07/11 15:16

放医研(放射線医学総合研究所)が、今ごろになって言い訳じみた変なことを言い始めています。そして、その言い訳に誤魔化しの上塗りをしようとしているのが日本政府。福島の子どもたちの命に関わる問題で。

政府は昨年3月下旬、いわき市や川俣町、飯舘村など10市町村以上で15歳以下の1080人に対して、ヨウ素131の体内への取り込み(内部被ばく)状況を調査しました。
結果が発表されたのは、5か月も経ったあとの8月。1080人の内、55%の保護者に「ゼロ」と通知しましたが、当然、これには「検出限界以下」が含まれています。
そして、この時のデータを放医研が独自に計算しなおしたところ、「ゼロ」と通知した例でも、実際は一定の被曝をしていた可能性の高いことが分かったというのです。この結果について、政府は「誤差が大きく、不安を招く」として、今後も保護者に通知しない方針だと強弁しています。

一体何のための検査だったのでしょうか?不安を招くから発表しない!?そもそも、巨大な不安を作り出したのは日本政府と東電なのです。すべてを公開しなければ、福島第1は教訓にすらならないし、ギリギリの救済策すら実行しようがないのです。そして、発表しないことがどれだけ不安を増幅しているのか、いまだに分かっていないのでしょうか。腹の底から怒りが沸いてきます。

福島「線量ゼロ」の子でも一定の被爆 放医研が独自計算【朝日新聞】

福島第1から漏出した放射性ヨウ素の大部分を占めるヨウ素131の半減期は、ご存じの通り8日と短いものです。短い期間に甲状腺の細胞にあるDNAに深い傷を負わせた後、消えてしまいます。従って、事故後、数週間から長くても数か月の間に検査をしないと、甲状腺に入ったヨウ素131を直接確認することはできません。
しかしDNAに傷は残されています。だからこそ甲状腺ガンを発症するのですから…

放射線によるDNAの破壊には、次の図に示す2つのパターンがあります。ひとつは、放射線によるDNAの直接破壊。もう一つは、体内にある水分子が放射線を受けることで活性酸素が発生し、これがDNAを破壊するパターンです。

このDNAに残された傷跡を調べて、ヨウ素131による被ばくや、甲状腺ガン発症の危険性を知ることはできなのでしょうか?残念ながら現状では、DNAそのものを調べるのは、かなりたいへんです。

一方、細胞の中心部にある核には染色体があり、遺伝情報をつかさどっています。
…と言ってしまうと、遺伝情報は染色体にあるのか?DNAにあるのか?と混乱しがちですが、それぞれの染色体の中には非常に長い1本のDNAが折りたたまれて収まっているのです。DNAは遺伝情報そのもので、染色体はそのかたまりと考えれば分かりやすいでしょう。

人間の細胞には、46本の染色体があります。男女とも右下にある2本が性染色体で、これによって性別が決まります。染色体は皆、X型をしていて、くびれの部分を動原体(どうげんたい)と呼びます。

DNAが放射線によって傷つけれた時、必ずしも染色体に異常が現れるわけではありません(大きな損傷でなければ、染色体の外見上は変化無し)。しかし、逆に染色体に放射線による損傷が認められた時には、100%、DNAは大きな損傷を受けています。
染色体異常には様々な形がありますが、主に放射線によってのみ引き起こされる2つのパターンが確認されています。<二動原体染色体>と<環状染色体>です。

見るからに異常な状態。放射線によって切断された染色体が、間違った修復を行った結果です。もちろん、これでは正しい遺伝情報は伝わりません。こういった染色体異常はガンなどを引き起こします。

DNAの損傷と違って、染色体の損傷は、顕微鏡による分析で確認することができます。
…ということは、甲状腺細胞の染色体を顕微鏡で調べれば、ヨウ素131による被爆があったかどうかは、明確に分かるし、甲状腺ガンの危険性も予測できます。
しかし、国や調査機関は染色体を調べようとしません。なぜ?ひと言で言えば、面倒だから。染色液と顕微鏡があればできる簡単な検査なのですが、一人あたり数百の細胞を調べて、染色体異常の数や種類を目視でカウントする必要があるのです。人手と時間がかかります。
しかし、その言い訳は通じません。国はこの原発事故に大きな責任を負っているのです。そして、内部被ばくの恐怖にさらされながら生きている福島の人たちには、何の落ち度もないのですから。

染色体分析は、手間は掛かりますが、ホールボディカウンターのような高価な機器は必要としません。尿検査のような大きな誤差もありません。広いエリアで、たくさんの人の染色体異常の状況をつぶさに掌握できれば、ヨウ素131による内部被ばくの広がりを正確に知ることができます。

結果、残念ながら多くの染色体異常が発見された人に関しては、健康状態を注意深く観察し適切な対策を講じることで、できるだけ発症しないようにできるはずです。仮に発症しても、重症化する前に抑え込める可能性が高まります。悲劇を少しでも減らすことは不可能ではありません。

これまで、放射線被ばくによる染色体異常に関する研究がなかったのかというと、実はそんなことはありません。
チェルノブイリ事故による子どもの甲状腺ガンの増加に関して、DNAや染色体の損傷との関連を研究した論文があります(かなり専門的な内容ですが)。

医師の一分『低線量被曝による小児の甲状腺癌患者の染色体7q11異常』

Gain of chromosome band 7q11 in papillary thyroid carcinomas of young patients is associated with exposure to low-dose irradiation(英文)

チェルノブイリの苦い教訓。その研究成果があるのに、少しも生かそうとしない日本政府。大きな憤りと怒りを感じざるを得ません。

ただちに、福島を中心とする広範なエリアで、甲状腺細胞の染色体分析調査を実施すべきだと考えます。
いや、本当の事を言えば、甲状腺だけでなく、赤血球や筋細胞、造血細胞の染色体分析を実施すれば、いま、闇の中に隠されようとしている被ばくの実態が明らかになるはずなのです。
それは、多くの人たちをギリギリの所で救う助けになるでしょうし、これから先、私たち日本人が、いや、人類が原子力とどう向き合うべきなのかを教えてくれる貴重なデータになるはずなのです。

コメント

_ 大山弘一 ― 2012/07/11 22:54

谷岡くにこ参議にご紹介させていただきました。

 既に避難者の卵子DNAに損傷という未確認情報もあります。

「被災者生活支援法」に発災当初の被曝を明らかにしてもらう手だてを 盛り込んでもらいましょう。

当初の被曝を全く忘れ去られ 現在の空間線量だけ独り歩きしています。

責任を果たしてもらいましょう。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/07/11 23:45

>大山さん
さっそくコメント頂きありがとうございます。少しでもお役にたてれば幸いです。というか、まさに私たち日本列島に暮らす一人一人の問題なんですよね。そこを多くの人が認識しないと。

染色体の問題は、ずっとモヤモヤしていたのですが、朝日の放医研のニュースを読んで、逆に自分の中で整理ができました。
卵子、精子、腸管細胞、毛管細胞などでは被爆の影響が出やすいというのは間違いのない事実なのですが、そこも本格的に調べられた形跡はないですよね。本当にどうなっているのやら…

今後ともよろしくお願いいたします。

_ okutteru ― 2012/07/13 18:48

野呂美加さんのフェイスブックから、こちらを知りました。
とても分かりやすくて勉強になります。
わたしのホームページで紹介させて下さい。
http://asobinohiroba.com/kodomoactivenet/powersearch/
これからもよろしくお願いします。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/07/14 00:35

>okutteruさん
わがわざご連絡頂き恐縮です。
当ブログ、リンクフリー&拡散歓迎が原則。よろしくお願いします。

_ 福島県民(中通り) ― 2012/07/14 18:16

こんにちは、福島県民(中通り)です。
私も染色体の検査をなぜ今までやらないのか不思議でした。
放射能の影響がおおやけになることを恐れているかのようです。
ところで、
>甲状腺細胞の染色体を顕微鏡で調べれば、ヨウ素131による被爆があったかどうかは、明確に分かる

とのことですが、はたしてヨウ素だけが問題なのでしょうか?
小佐古教授が泣いて辞任した会見で強調していた「初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、とりわけ小児の甲状腺の等価線量」のサブマージョンとはキセノン133も含め、あらゆる希ガスが含まれるのではないでしょうか?
なぜかこのキセノン(が主と思われる)による被ばくを当初から国側は隠し通しています。
もしそれが軽微な被ばくであるならば、今までの経緯からして公表していたと思います。
ちなみにサブマージョンとは、
「放射性希ガスが人の周囲にあると、吸入により身体組織に放射性物質が集積することによる線量よりも、体外又は肺の中の放射性気体からの線量の方がはるかに大きくなります(体内摂取が少ないので)。
このような核種をサブマージョンと呼びます」
そして福島第一原発事故によるそのキセノン133の放出量はチェルノブイリ事故時の2倍だと言います。

SPEEDIの拡散予測で公表されているのはヨウ素やセシウムだけで、その他の希ガスなどの核種ももちろん予測していたはずです。
私設原子力情報室さんの希ガスに関する見解をお聞きしたいです。

毎日新聞が12月1日(木)20時4分配信に報道した内容によると、東京電力福島第1原発事故直後、大気中の放射性物質「キセノン133(半減期5日)」の濃度が事故前に比べ最大で約40万倍になっていたという。
見解を示したのは、環境中の放射性物質の調査などを専門に行う財団法人「日本分析センター」(千葉市)であり、同日東京都内で行われた文部科学省の環境放射能調査研究成果発表会で公表した。

<福島原発事故>発生直後、千葉のキセノン濃度40万倍に / 毎日新聞
—以下転載–
同センターによると、キセノン133の大気中の平均濃度は、3月14~22日に千葉市で1立方メートルあたり1300ベクレルへ急上昇した。事故前は「不検出」から3.4ミリベクレルの間で、3月11日の事故直後は40万倍に達した。通常の濃度に戻るまで約3カ月かかったという。
同センターの磯貝啓介さんは「キセノン133は福島第1原発からプルーム(雲のような塊)になって千葉市まで流れてきたのだろう。3カ月間の外部被ばく量の累積は1.3マイクロシーベルトで、健康に影響が出るレベルではなかった」と話している。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/07/15 07:58

>福島県民(中通り)さん
コメントありがとうございます。
キセノン133を含む希ガス類については、水にも血液にも溶けない(体組織内に取り込まれない)ということで見落としがちです。しかし、外部被ばくやご指摘のサブマージョンに寄与するのは間違いの無いところです。

<キセノン133(半減期=5.24日)→β崩壊→セシウム133(安定)>という崩壊過程なのですが、このβ崩壊に伴って、γ線が出るのかどうかは、いろいろ調べたのですが、はっきりしないです。
もしβ線しか出ないとすると、キセノン133に関しては、皮膚や毛根細胞、角膜などに対する外部被ばくと肺胞のサブマージョンですよね。

小佐古教授は、「甲状腺被ばくによる等価線量」http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/200/80519.html を強調していますが、これはキセノン133のことだけを言っているわけではないでしょう。崩壊時にγ線を出すキセノン133m(2.19日)やキセノン131m(11.84日)を含めて指摘しているのだと思われます。
γ線被ばくであれば、外部被ばくは全身均等被ばく。サブマージョンは肺を中心とする全身被ばく、ということになります。甲状腺は特に放射線に対して敏感なので注意する必要があるという意味ではないでしょうか。

いずれにしても、3.11直後の放射能ブリュームに含まれていた希ガス系の放射性物質の量は半端ではありません。

「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号機及び
3号機の炉心の状態に関する評価について」(原子力安全・保安院)のデータ
http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111020001/20111020001.pdf を見ると、とんでもない量のキセノン133が漏出したことが明らかです(ちなみに、キセノン133mはヨウ素133がγ線を放出して、キセノン131mはヨウ素131がγ線を放出して生じるとされています)。
福島でそして首都圏で、希ガス放射性元素によって、どのような被ばくの実態があったのか、国はすべてのデータを公表すべきです。

また、希ガス類については、通常運転中の原発からも、かなり出ていますので、そのことにも注目しておく必要があります。分かりやすく言えば、原発の煙突(排気筒)は、水蒸気と一緒に希ガス放射性元素を逃がすための設備です。

_ 元いわき市民 ― 2013/03/17 21:21

はじめまして、こんばんわ。
元いわき市民です。
あの事故の時はいわき市に住んでました。
今は宮城県に住んでいるのです。
ただあの事故から約一年いわき市に居たので被曝は外部•内部を少なからずあると思っています。県の健康調査もあらずじまいであります。
このサイトは今までいろんな事を調べましたが1番わかりやすく、且つ、信頼できました。
今いわき市は放射能関連の話は政府、役人、自治体の話を鵜呑みに
している人が大半。少数は子供を避難させている状況です。
やはり故郷を捨てられない、避難先での仕事のことや、経済状況を
考えて出来ない人もいます。
はっきり言うと原子力について何の知識も無いから
言うことを聞かざる得ないんです。誰も助けてくれない
んです。マスコミ、特にテレビ局は何にも報道してくれません。
さて、本題はこのサイトで仰っている血液検査や大人の甲状腺の細胞診検査を行いたいのです。ただ、東北地方や、福島県の健康調査に関わっている教授の息が掛かっていない専門機関で調べて欲しいのですが、
何か良い手立てはないでしょうか?
初めてで不躾ではありますが何卒宜しくお願い致します。

_ 私設原子力情報室 ― 2013/03/20 21:13

>元いわき市民さん

福島第1事故による被ばく対応は、極めてお寒い状態です。この間の子どもの甲状腺ガン問題への国の対応がすべてを物語っています。まして、大人は完全に放っておかれている状態です。住民も、作業員もです。
一方、現状では、甲状腺の細胞診検査をいきなり受けるのは難しいと思います。気になるようでしたら、甲状腺エコー検査をされたらどうでしょうか?「事故後いわきに住んでいた」「首のあたりに違和感がある」という自己申告で、受けられると思います。特に有名な病院を選ぶ必要もなく、「甲状腺 エコー」でググって近くの病院を探すのがよいかと思います。
本来なら、東北・関東に暮らす人間すべてが、無料で甲状腺エコー検査を受ける権利を持つべきなのですが、そうはなっていなくて、有料なのはご存じ通りです。ウェブ上の情報では5000円くらいのようです。

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