かつて最終処分場があった2014/02/16 21:26

映画『100000年後の安全』で取り上げたられたフィンランドのオンカロが、世界で唯一の放射性廃棄物最終処分場として注目されています。
そんな中で、「かつて最終処分場があった」という話題に焦点を合わせます。オンカロの前に「あったはずだった」最終処分場のお話です。

実はドイツに、低・中レベル放射性廃棄物を地層処分(放射性廃棄物を地下深くで半永久的に保管する)する最終処分場があったのです。20年ほど前までは…

場所はアッセというところで、ドイツ語での名称は"Schachtanlage ASSE Ⅱ"。

●Schachtanlage ASSE Ⅱの場所: Googleマップ

直訳すると"アッセ第2鉱山"という感じでしょうか。Schachtanlage は"鉱山"という意味ですが、他に"地雷"という訳もあって、ちょっと意味深です。

なぜ、最後に"Ⅱ"が付いているのかというと、もともとは古い岩塩鉱山だったからです。1909年から1964年まで、岩塩を掘っていました。
閉山後、ここを原発や他の核施設から出た放射性廃棄物の最終処分場にしようとなったのです。そこで、鉱山が生まれ変わるという意味で"Ⅱ"が付きました。
この先では"アッセ放射性廃棄物処分場"と呼んでいきます。

1967年から1978年まで、地下750メートルから500メートルにある岩塩を掘ったあとの空洞に、キャスクで126,000本という膨大な数の低・中レベル放射性廃棄物が運び込まれました。
1979年からは、高レベル放射性廃棄物の処分研究も行いました。近い将来、高レベル放射性廃棄物も含めた最終処分場にしたかったのです。

話を少し戻して、なぜ、岩塩鉱山跡を最終処分場にしようと考えたのかを説明しておきましょう。
実は、当時の"科学的知見"では、「太古の時代に海から切り離され湖になり、その底に塩が堆積した岩塩層は、地層が安定している上に、水が入り込みにくい」という常識がありました。
岩塩層は放射性廃棄物の最終処分場に最適とされていたのです。実際、1957年には、米国科学アカデミーが、岩塩層に処分場を作るよう勧告したほどです。

稼働を始めたアッセ放射性廃棄物処分場。世界初の最終処分場になるはずでした。

しかし20年もしないうちに、安定しているはずだった岩塩の壁や天井に無数の亀裂が走ったのです。地殻変動で地層が動いたせいです。
1988年には地下水の流入が確認され、現在では毎日1万2千リットルもの地下水が流入しています。

いったん運び込まれたキャスクを取り出す術はありません。最終処分場ですから、取り出す想定なんてしてないのです。
また、荒っぽい扱いをしていたため、一部のキャスクは壊れ、強い放射線が出ています。近づくことすらできません。地下水によるキャスクの腐食も始まっていて、放射性物質が溶け出し、汚染水となっています。

処分場としては1994年に閉鎖されましたが、いまだに岩塩の壁に入ったひび割れを埋めようと、コンクリートを流し込む虚しい作業が続いています。汚染水をポンプでより深い地下へ送り出すだけの対症療法も、どこまで効果があるのか分かりません。しかし、やらなければ汚染水があふれ出す恐れがあるのです。そういった作業に何百万ユーロもの資金が注ぎ込まれています。

1960年代、ドイツは反省しました。「そもそも原発を使い始める時から処分場のことを考えるべきだった」と。それがアッセ放射性廃棄物処分場の出発点です。
しかし、その結果、作られた最終処分場は、役目を果たすどころか、未来に対して大きなツケを残し続けています。

「最終処分場を作れる場所はあるのか?」「10万年以上、地殻変動や自然災害の影響を受けない場所はあるのか?」。その答えが"否"だったからこそ、ドイツは脱原発を決意したのです。「もうこれ以上、放射性廃棄物を増やしてはいけない」と。
ドイツが福島第1事故の後、いち早く完全脱原発を宣言したのには、アッセでの失敗も大きく影響しています。

アッセの失敗は、単に場所の選択を誤ったというだけでは済みません。閉鎖後の後日談と言うには、あまりに重大な問題が発生しています。

アッセ放射性廃棄物処分場には、プルトニウムも保管されていたのですが、2009年8月になって、その量が間違っていたと発表されました。9.6kgから約3倍の28kgに訂正されたのです。プルトニウムは、約1kgで高性能TNT火薬に換算して20キロトンに匹敵する核爆発を起こせます。ということは、水浸しの岩塩鉱山の廃鉱に、原爆30発分近いプルトニウムが埋まっていることになります。

もう一つ、アッセ周辺で白血病・甲状腺ガンが顕著に増加というニュースが届いています。【ZDFニュース 2010年11月】
大気の汚染によるものなのか、地下水の汚染によるものなのかは明らかになっていませんが、放射性物質による環境汚染が進んでいるのは間違いないでしょう。

今ある放射性廃棄物をどうするのかだけでも、こんなにたくさんの、そして重大な問題が起きています。
もちろんドイツだけの話ではありません。アメリカもフランスも、最終処分場問題では右往左往です。
フィンランドのオンカロが、アッセの二の轍を踏まないよう祈るばかりです。

日本はどうでしょうか?
世界に名高い火山国・地震国ですから、最終処分場の適地はどこにもありません。そのことが分かっていて、この国で原発を推し進めた政府と電力会社には重大な責任があります。
ところが、福島第1で、あれだけの事故を起こしながら、政府と電力会社は虎視眈々と、いや、今や堂々と原発の再稼働を推し進めようとしています。そのまま処分するだけでも大変な使用済み核燃料を再処理にして、さらに危険な核廃棄物を生みだそうとしています。
「日本人は歴史から学ばないのか!?」
海外からそう見られるのも当然です。

総理・閣僚の靖国神社参拝や従軍慰安婦問題での居直りなどまで言及すると話が広がりすぎかも知れませんが、私たちは歴史から学ぶ姿勢を取り戻さなくてはいけません。
福島第1は、たった3年前に起きた出来事で、今も進行形で歴史に刻まれている人類史上に残る大事故です。その恐怖と教訓を忘れてはならないし、この日本に暮らす私たちこそが、世界の脱原発の先頭に立つことが求められているのです。

コメント

_ 武尊43 ― 2014/02/17 01:17

 フクシマの名は未来永劫この地球上で語り継がれていく事は間違い有りません。チェルノブイリと共にね。超氷河期が来て、全球凍結が起こるまで、誰も忘れる日が来る事は有りません。これだけは神明に誓って断言できます。
 それを今、国民に忘れさせようと懸命になっている輩が、この国元に居るのが悔しいし、残念ですし、恥ずかしいですよ。
 しかし、諸外国はそうじゃないと信じています。何時までも発信してくるでしょう。批難してくることを、願う訳ではないですが、そうならざることをね。

_ rocky ― 2014/02/23 11:43

以前、NHKのテレビ放映で『100000年後の安全』が有り「オンカロ」を知りましたが、ドイツの「アッセ」は知りませんでした。「アッセ」のこともドキュメンタリー放映してほしいですね。現在のNHKでは無理な気はしますが・・・

_ 私設原子力情報室 ― 2014/02/24 09:13

アッセを含む、世界中の廃炉・最終処分場問題を扱ったNHK BS世界のドキュメンタリー『原発廃炉は可能か? ~計画とその現実~』が、今のところ、以下で視聴可能になっています。
http://www.dailymotion.com/video/x18mvrt_%E5%8E%9F%E7%99%BA%E5%BB%83%E7%82%89%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%8B-%E8%A8%88%E7%94%BB%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E7%8F%BE%E5%AE%9F-bs%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E3%83%89%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC_news

_ rocky ― 2014/02/25 17:22

早速見ました。的確な情報有り難う御座いました。

_ 大山弘一 ― 2014/05/11 22:17

ご無沙汰しています。以下情報。
Natureのオープンアクセス電子ジャーナルである”Scientific Reports”に、2013年8月30日に、’Emission of spehrical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident’というタイトルの、衝撃的な論文が掲載されました
______________
紹介したブログ
http://ishtarist.blogspot.jp/2013/10/google.html

「合金」ならばカリウムやカルシウムの挙動になるのでしょうか?
私的には
http://mak55.exblog.jp/20693845/です。

もしかすると広島も長崎もフクシマも抑圧的学説が
ひっくり返る発見かもしれません。

よろしくお願いします。

_ 大山弘一 ― 2014/05/14 17:10

お世話になります。
圧力容器内でメルトダウンして容器の鋼鉄をも溶かし込みながら、ウランを原点とした地球上のあらゆる金属他を
5千度以上の熱で気化させた状態。
 気体粒子が高圧のガスとなって ベントされれば一瞬のうちにホットパーティクルに。

勿論ウランや超ウラン物質もこの合金の成分にあるとおもわれ、よく言われてきた「炉内ではセシウムとストロンチウムが1:1の割合で生成される。」

今回のセシウムホットパーティクルにはなぜこれらの原子が入っていないのでしょうか?

もしかすると「気体であっても比重の違いで重いものは放出されなかったのでしょうか?
確か高温で解けるモリブデンや比較的重い銀や鉛も放出されていてますが。

以上、素朴な疑問です。
よろしくお願いいたします。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/05/15 06:41

>大山様

お尋ねの件、「セシウムは非常に不安定な金属である」ことに関係する可能性が有ります。調べてみますので、少しお時間をください。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/05/24 17:46

>大山様

ご案内頂いた"Space of ishtarist"
http://ishtarist.blogspot.jp/2013/10/google.html
をやっとじっくり読むことができました。

長文で、かつ一部かなり専門的なので、なかなか読むのにエネルギーがいりますが、非常に正しい視点から見ていると思います。まず、著者に敬意を表します。

"セシウム・ホット・パーティクル"については、「当然あり得る」とは考えていましたが、深く考察したことがありませんでした。勉強になりました(なんて悠長なことを言っている場合ではないのですが)。

大山さんの疑問についてですが、セシウム・ホット・パーティクルは合金状態なので、そこに含まれるセシウムは、人体内でカリウム同様に振る舞いをすることはありません(人体内でセシウムがカリウム同様に振る舞うのは、それが血液などの体液に溶け込んでイオン化している場合と、塩化セシウムなどの塩になっているときだけでしょう)。

"Space of ishtarist"で、"さつきのブログ"から引用している
<天然の環境では、ホットパーティクルは生まれ得ない。この点が、天然放射能と人工放射能の決定的な違いであり、ホットパーティクルは、生命にとっては未知の物質と考えて良い。また、天然の放射能と人工の放射能のこれ以外の差異は、おそらく何もない。>
は、まったく正しいでしょう。
核爆発や、原子力事故によるメルトダウンや再臨界による超高温環境以外では、ホットパーティクルは形成されないのです。ですから、天然の放射性カリウムを含むホットパーティクルは、存在し得ません。

ホットパーティクルの危険性については、"Space of ishtarist"が指摘しているとおりです。

一方、使用済み核燃料の中には、セシウム137とストロンチウム90が、ほぼ同比率で含まれています。ホットパーティクルの起源がメルトダウンでドロドロに溶けた使用済み核燃料であるなら、その中には、セシウム137とストロンチウム90が、ほぼ同比率で含まれているはずではないか… という疑問が湧きます。
この点については、もう少し調べてみます。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/05/25 08:53

アーニー・ガンダーセンは、2011年6月の段階で、福島や東京から送られてきた車のフィルターから「ストロンチウム、セシウム、プルトニウム、アメリシウムなどすべてを含むホット・パーティクルが見つかった」と証言しています。
http://tiny4649.blog48.fc2.com/blog-entry-72.html

_ 私設原子力情報室 ― 2014/05/25 08:56

アーニー・ガンダーセンの指摘。もうひとつ追加しておきます。
http://kohmae.seesaa.net/article/209565982.html

_ 大山弘一 ― 2014/06/05 04:55

いつも明快なお答え、ありがとうございます。火山灰と比べ格段に小さく、肉眼では見えないことは逆手に取られ、物がないような錯覚で、放射線量に気を取られてしまっています。まんまと乗せられてしまっています。
視覚して吸引の危険を知らせたいです。
子供がマスクもせず、土ぼこりを吸引しています。

それにしても、ストロンチウムは、40万円出して計ってもら
いましたが実際、千分の一と低いのは、疑問です。
いつもありがとうございます。

_ 大山弘一 ― 2014/07/12 18:04

いつもお世話になっております。
ホットパーティクルについての御教示ありがとうございました。
 本日は関連して、粒子の大きさなどについてお教えください。

初期吸引被ばく時、吸引されたホットパーティクルが痰によって嚥下され、胃に溶かされ小腸で吸収され血液に入った時の状態と

肺に入ってマクロファージ貪食で溶かされたりすることがあるかどうかと、リンパ節や血液中に入る状態など
お教えいただけないでしょうか?

いつも勝手を言い申し訳ありません。

「吸引被ばくのメカニズム」こそ被ばく者のこれからの健康リスクに大いにかかわってくると思います。
よろしくお願いします。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/07/20 13:47

ホット・パーティクルに関しては、「肺胞から一部血中への流れ込みがあるのか?」「腸管などの消化管からの吸収があるのか?」について、裏付けとなるほど信頼できる論文や調査結果が、今のところ見つかりません。調査継続します。
呼吸器内に入り込み、数個であっても、肺がんを引き起こす可能性がきわめて高くなるのは、間違いありません。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://nucleus.asablo.jp/blog/2014/02/16/7224473/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。






Google
WWW を検索 私設原子力情報室 を検索