除染考(3):そもそも除染は必要なのか?2013/01/31 20:57

当ブログをはじめ、多くの人たちが多くの場所で指摘している通り、高濃度汚染地域では、除染は核物質を拡散するだけで、効果は乏しいものです。

チェルノブイリでは、立ち入り禁止区域になっている半径30キロの「ゾーン」の中では、除染は行わず、放射性物質の野生生物や環境への影響を研究することに専念しています。除染したところで、とうてい人が住める環境にはならないからです。
「ゾーン」の外では、今も一部で除染作業が続いているようですが、決定的な効果を上げるような新技術はありません。農地では、当初、土の入れ替えによる除染を試みました。しかし、あまりに広大な面積が対象となることから、除染をあきらめ、カリウムを撒くことで、植物が吸収する放射性セシウムの量を減らすという対策に変更しました。

福島、いや日本ではどうすべきなのでしょうか…
環境省のホームページを見ると、「計画的避難区域」と「警戒区域」を合わせて『除染特別地域』として、当面の除染を進めようとしています。このエリア=20ミリシーベルト/年を超える地域です。
さらに、福島県だけでなく、宮城県、岩手県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県でも広い範囲が『汚染状況重点調査地域』に指定されています。数字的に言えば、1ミリシーベルト/年から20ミリシーベルト/年のエリアです。自治体が除染を計画すれば国から経済的支援を受けられる。これが『汚染状況重点調査地域』です。実に104市町村に及びます。

除染特別地域・汚染状況重点調査地域一覧(環境省)

今、巨額の税金を投入して、『除染特別地域』の除染を進めようとしていますが、これが、「効果は上がらない」「手抜き横行」「労働者の賃金ピンハネ」というひどい事になっています。
『除染特別地域』は、今現在、人が住めない地域です。ここでの除染が、「帰還」と深く結びついていることは言うまでもありません。しかし、線量を下げられなければ、帰還どころではありません。また、仮に住宅の周りだけある程度、除染できたとしても、野山や山林はどうするのか… そこから流れ出る放射性物質を含む水にどう対応するのか… だいたい「放射線量が高いから山に入ってはいけない」と子どもたちに何十年も言い続けのでしょうか。そこは決して安全な場所ではありません。

フクシマの地元で、この「除染+帰還」という危険な流れを汚染地域で推し進めているのが地方議員たちです。
敢えて言います。地方議員を信用してはいけません!ごく一部の議員を除けば、票田が失われるのを恐れているだけなのです。住民の命や健康よりも、自分の地位の確保だけを考えていると言って間違いありません。

今、除染を重点的に進めるべきなのは、1ミリシーベルト/年から5ミリシーベルト/年の地域。ここでは、避難や疎開の権利も認められるべきです。
5ミリシーベルト/年以上は無条件に避難すべき。
20ミリシーベルト/年以上は、当面放置して、数十年単位で様子を見るしかありません。冷酷なようですが、これが原子力事故なのです。

埼玉県加須市の旧騎西高校に集団で避難していた双葉町。井戸川町長が、結局、辞任に追い込まれました。
その背景には「除染+帰還」の問題が横たわっています。

井戸川町長の主張は、「放射能不安が全くない地域に“仮の町”を」「7千人の全住民が住め、仕事も担保された町を」という、きわめて真っ当なものでした。しかし、町議会の主流派は、「まず、町役場を旧騎西高校から福島県内に戻すべきだ」と。

結局、この3月には、町役場をいわき市に移すことが決まり、新町役場を中心に学校などを再建し、“仮の町”を建設しようという流れになっています。
しかし、いわき市の空間線量を見ると、1ミリシーベルト/年に相当する0.23マイクロシーベルト/時を越える場所が、まだまだたくさんあります。
まともに線量を測っていない山林も心配です。福島第1から250㎞離れた加須市から、60㎞のいわき市に戻るわけですから、食べ物や水なども、心配するなという方が無理なのです。

「放射能不安が全くない地域に“仮の町”を」という井戸川町長の当然とも思える主張は、潰されてしまいました。

井戸川町長の辞任のメッセージ「双葉町は永遠に」が双葉町のサイトにあがっています。涙なくしては読めません。

除染考(2):除染にゼネコンは必要なのか?2013/01/31 15:32

まずは下の表をご覧ください。
国や地方自治体から、除染事業のために巨額の資金が大手ゼネコンに流れ込んでいるのが分かります。

ゼネコン。正しくは General Contractor ですから、直訳すれば総合建設業といったところでしょう。

もちろん、元請けはゼネコンでも、実際に現場で働いている人たちは、地元や日本各地で集められた労働者。その多くは日雇い契約か短期間の契約です。そして、ゼネコンとの間には、何社もの下請け業者が入っていて、労働者に本来渡らなくてはいけない賃金が、途中で抜かれるという事態も起きています。
電話1本で仕事を右から左へ流しているだけの仲介業者も多く、暴力団のフロント企業が入り込んでいるとも言われています。なにしろ、元請けのゼネコンですら、複雑な下請け構造の全体を掌握できていない状態なのです。
J-CASTニュース:手抜き除染の「実態」 元請けゼネコンも把握できない?

素直に考えれば、福島地元の建設会社や土建会社に、国や自治体が直接発注すれば、下請け構造による問題はかなり解決されるような気がします。

では、なぜこの総合建設業、ゼネコンが除染に必要なのか?
国や自治体の説明は、
1. ゼネコンは最新の除染技術を持っている。
2. 巨大な除染事業を多くの事業者に振り分ける能力が自治体にはない。
といったところです。

まず、1.です。最新技術で飛躍的に除染が進んだ、なんていう話はどこからも聞いたことがありません。それどころか、放射性物質を含む水をそのまま河川に垂れ流したり、汚染された枯れ枝を放置したりと、とても信じられないような事態が起きているのです。
「手抜き除染」と言いますが、これは立派な違法行為。放射性物質を環境中に廃棄したり、許可なく移動させることは法で禁じられているのです。
もし、最新技術を売りにして、ゼネコンが入札に勝ったのなら、その証を見せてもらいたいものです。それ以前に、入札の内容を全面的に公開すべきでしょう。企画内容から見積に至るまで、万人の監視が必要です。

国とゼネコン、地方自治体とゼネコンという利権構造にくさびを打ち込まなければ、除染は、原発で儲けた連中が、また儲けるだけのものになってしまいます。おまけに、実際の効果はほとんどないと。こんなことは許されません!

環境省のホームページに、田村市の除染作業をリポートした写真がありました。

この作業のどこにゼネコンが必要で、最新技術はどこに生かされているのか?誰でも疑問に思うでしょう。

移住と除染2011/11/23 08:55

福島第1原発が立地する大熊町。町全体が20km圏内の警戒区域に入り、町民全員の避難が続いています。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。

ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。

●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。

ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。

●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。

除染と言われて、真っ先に思い浮かぶは、汚染土壌をビニール袋に詰めて山積みにしていく風景か、高圧洗浄機で道路や屋根を洗い流している風景です。
このうち、汚染土壌の方は、各自治体とも保管先に腐心していますが、基本的には、「仮置き場→中間処理施設→最終処分場」という流れで、環境から隔離することができます。
洗浄水はどうでしょうか?一部の都市部を除けば、ほとんどが河川や海に流れ込んでいきます。これでは、放射性物質を環境から取り除いたことにはなりません。ピンポイントの除染では、屋根の洗浄は欠かせませんが、原則は「放射性物質を環境から隔離する」ことだと理解しておかないと、放射性物質の拡散を招く恐れがあります。下水施設のない地域では、河川に流れ込んだ放射性物質を回収する方法を考える必要があります。

一方、ゴミ処理所の焼却灰や下水処理場の汚泥に、高濃度の放射性物質が集まることが問題視されていますが、これは、不幸中の幸いと考えるべきでしょう。灰や汚泥に集まらなかったら、いつまでも、環境中にあるのですから。中間処理施設を早急に建設し、汚染された灰や汚泥を環境から完全に切り離すことが先決です。

●森林や農地の除染は本当にできるのか?
仮に、住宅地の除染がある程度できたとしても、森林の除染は容易ではありません。
国は、住民に「高濃度に汚染された森林と面と向かって暮らせ!」と言うのでしょうか?森林から流れ出る水はどうするのでしょうか?森林と人の生活圏との間を行ったり来たりする野生動物をどうするのでしょうか?解決の術は見当たりません。
この間、放射性セシウムを積極的に吸着する、いくつかの物質が提案されていますが、それらは例外なく、植物にとって欠くことの出来ない栄養素であるカリウムも吸着してしまいます。生態系の中から、放射性セシウムだけを抜き取ることは、ほぼ不可能といってよいのです。

農地は森林よりは除染できる可能性がありますが、それでも困難が付きまといます。農地の汚染は、作元を通して内部被ばくに直接つながります。きわめて深刻な問題です。
農地から放射性セシウムを化学的に除去しようとすると、必ず栄養分のカリウムも失われてしまうのは、森林の場合と一緒。今のところ、表土と、ある程度深いところの土を入れ替えてしまうのが有効とされていますが、大変な労力を伴う上に、土質が変わってしまいます。
チェルノブイリでは、最初、農地の土を丸ごと入れ替えることを考えましたが、あまりに広すぎて断念。今は、カリウムを撒いて、作物が吸収する射性セシウムの濃度を相対的に下げる方法が中心になっているようです。
何十年もかけて作ってきた豊かな土を放射性物質によって汚されてしまった農家の悔しさを思うと、涙が出てきます。

●福島県以外のホットスポットに関して
首都圏でも、千葉県柏市や埼玉県三郷市など、放射性物質のホットスポットが見つかっています。
除染が難しい森林が少ない地域なので、やる気になれば、徹底的に除染を進めることができると思います。汚染土壌の除去、屋根やアスファルト路面の洗浄などです。場合によっては、街路樹や植栽を撤去・植え替えする必要もあるかも知れません。
一方で、群馬県などには、山間部にもホットスポットがあります。高濃度に汚染された森林をどうするのか… 原発至近エリアと同じ問題があります。
悲しいかな、数十年間、立ち入り禁止にすべき森があります。

●自衛隊を全力動員せよ!
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が、国の内部被ばくや除染に対する対応を鋭く批判したのは、7月30日のことでした。
この日の児玉発言の中に、「ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごくもっております」というものがあります。除染が利権がらみのビジネスになることを警戒した発言です。
児玉教授は、土壌汚染に関する様々な技術を持つ民間企業の力を結集させるべきと言っています。それ自体は正しいと思うのですが、ハイテク技術を総動員したとしても、除染の現場は人海戦術になることは目に見えています。
なぜ、ここに自衛隊を動員しないのか?給料は税金で払っているのですから、支出は大きく抑えられます。
いずれにしても、自衛隊をフルに活用すれば、除染の利権化を防ぐことができ、費用全体を大きく抑えることができるはずです。

語弊を恐れずに言うなら、私たちは、東京電力から「汚い爆弾」による攻撃を受けた状態にあります。
核兵器を製造する能力を持たない国や組織が、放射性物質を手に入れた場合、それを敵国に撒き散らすだけで、大きな被害を与えられます。これを「汚い爆弾」と呼ぶのです。
福島第1という「汚い爆弾」は、セシウム137だけでも、広島原爆168個分を撒き散らしています。
戦争被害にも匹敵する状況。自衛隊の全力動員は、間違っていないはずです。日本には、陸海空合わせてで約25万人の自衛隊員がいます。

外部被ばく線量計算機(改訂版)2011/10/14 10:16

先日公開した『外部被ばく線量計算機』ですが、自治体や報道機関が発表する「時間あたりの空間線量」から計算した場合、「年間の実効外部被ばく線量」が少なめに出ることが判明しました。原因は、当方が原子力百科事典ATOMICAのデータに全面的に依拠したためです。ATOMICAと、現行広く行われている計算法のどちらが正しいかは、考え方の違いなので、正確には判断できません。ただ、いろいろな数値が出て、混乱するのは問題なので、当サイト配布の『外部被ばく線量計算機』の設定条件を「現行広く行われている計算法」に近づけました。ただ、全ての市町村がまったく同じ計算法を採用しているわけではありませんので、若干のズレが生じることはあります。

外部被ばく線量計算機(改訂版)【ダウンロード】
ZIPファイルですので、解凍してください。エクセルになります。

●改訂点
1. 『実効線量換算係数』を1にしました。従って、空間線量(空間中の線量)=実効線量(実際の外部被ばく線量)という前提になります。
2. 『大地と建物からの自然線量(屋外)』(バックグラウンド線量)を0.05μSv/hにしました。国連科学委員会「放射線の線源と影響」(1993)によると、日本における数値は、0.049μSv/hですが、現在、多くの自治体が0.05μSv/hを採用しているので、これに合わせました。
3. 2に基づいて、『大地と建物からの自然被ばく(年間実効線量)』を計算し直し、438μSv/yとしました。
4. 屋外活動時間を8時間に設定しました。多くの自治体が採用している前提条件だからです。

●計算のもとになっている考え方(数値以外は変更無し)


●ご留意頂きたい点
1. 『屋外・屋内の実測値から』の白セル内には、計測器が指した数値そのものを入力してください。自動的にバックグラウンド線量を引いて、上乗せ分(要するに福島第1の影響分)の年間実効外部被ばく線量が算出されます。
2. 『自治体などの発表値から』の白セルに入れる数字は、「発表された実測値」です。もし、「上乗せ分」で発表されている場合は、自然放射線の分の0.05μSv/hを加えて入力してください。

●自治体や報道機関に対して
要らぬ混乱を避けるために、発表する線量が、「実測値」なのか、「自然放射線の分を差し引いた上乗せ分の実効線量」なのかを常に明示するようお願いしたいです。

●ありそうな質問に対して
Q1. どうして、全ての放射線からの被ばく量ではなく、自然放射線の分を差し引いた値を計算するのですか?

ICRPの「年間1ミリシーベルト以下」などの基準が、すべて、自然放射線に対する「上乗せ分」で決められているからです。この背景には、世界的に見ると地域によって、自然放射線の量が異なるという理由があります。日本でも、本当は場所によって若干異なるのですが、現在は、全国平均値の0.05μSv/hを使用している自治体がほとんです。

Q2. 『大地と建物からの自然線量』が、屋外と屋内で変わらないのはなぜですか?

自然から来るガンマ線は、ほとんどが土や岩盤、植物に含まれる放射性物質が線源です。ちょっと考えると、屋外の方が小さくなりそうですが、事実は逆です。
国連科学委員会の報告によると、多くの国で、屋内の方が自然線量が高くなっています。これは、建材に使われている石やコンクリートに含まれる放射性物質(ルビジウム87・ウラン系列核種・トリウム系列核種など)が影響しているためです。
木材にもカリウム40が含まれていますが、被ばく量は、石やコンクリートからより低くなります。これが、日本では屋外と屋内の自然線量が、ほとんど同じになっている理由です。
これに対して、上乗せ分(福島第1の影響分)は、地面や屋根の上にある放射性セシウムが、主な線源ですので、屋内に入ると下がります。低減率は、木造家屋で0.4とされています。

NHKは真相公開を2011/08/31 12:23

『ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図(3)』(8/28放送)を見ました。
木村真三さんと岡野眞治さんの名コンビによる詳細な汚染マップ作りは、今回は内部被ばくに大きく踏み込みました。さらに、ホットスポットで暮らす住民たちの実情を知った木村さんは、「汚染マップ作り」という枠を越えて、具体的に除染への取り組みを行い、その効果を検証しています。
前二回の番組に比べると、やや「安心」寄りのコメントが気になりましたが、住民を目の前にしたら止む得ないのかとも…

実際に除染を行った民家では、屋内の空間線量が半分程度に下がりましたが、それでも、赤ちゃんがいる部屋で毎時0.64マイクロシーベルト。仮に、赤ちゃんが一日中家の中にいるとして、年間の実効被ばく線量は5.61ミリシーベルトにもなります。これは、はっきり言って危険な数字。お母さんが「赤ちゃんと一緒に、この家(実家)を離れて自分のアパートに帰る」と言った時は、少しホッとしました。
とは言え、他の家族は、高い線量の外部被ばくを受け続けます。これは大丈夫なのか?心が痛みます。

さて、この番組の中で、本筋には絡まなかったのですが、奇妙なデータが提示されました。民家の庭の土から、セシウム134、セシウム137と並んで、テルル129とテルル129mが、相当量検出されたというのです(番組中ではナレーションによる解説は一切無く、グラフだけを表示)。数万ベクレル/㎡という高い値です。
半減期はともに短く、テルル129が70分、テルル129mが34日。これは変です。3.11当日、原子炉に制御棒が挿入されて連鎖的核分裂反応は止まっています。それ以降、テルル129もテルル129mも半減期に従って減る一方なので、今はほとんど残っていないはずです(テルル129mの一部がテルル129になるプロセスもあるようですが、それにしても量が多すぎる気がします)。
「すわ、再臨界」と騒ぐ声もありますが、もし、再臨界が起きていれば、他の数値も大きく変化するはずですから、データの解釈になんらかの間違いがあると思われます。

放射性物質の種類を知るためには、放出するガンマ線の波長を計測します(ガンマ線は光の仲間なので波長がある)。放射性物質によって、放出するガンマ線の波長が違うので、それを計測することで、放射性物質が特定できるのです。
と言うことは、テルル129・テルル129mではないにしても、セシウム134・セシウム137以外の放射性物質が、相当の濃度で存在していることになります。
一体、その放射性物質が何なのか?特に、内部被ばくを考える時、核種の特定は極めて重要です。NHKは木村さんとともに、サンプルを再検査して、真相を明らかにして欲しいと思います。

学校 毎時1マイクロシーベルトは低くない2011/08/28 17:58

8月26日、文科省から<学校、毎時1マイクロシーベルト未満に 屋外活動基準「3.8」は廃止>という新たな基準が発表されました。
これは、5月27日に示された「学校内では年間1ミリシーベルト以下目指す」という指針をより明確化して、毎時当たりの空間線量にまで落とし込んだものです。これによって、「年間20ミリシーベルト」「毎時3.8ミリシーベルト」という基準は、完全に撤回されたことになります。
しかし、本ブログで既報の通り、「学校 年間1ミリシーベルト」は安全な数値とはとても呼べないものです。

今回示された毎時1マイクロシーベルトを、通学日数=200日、1日当たりの学校滞在時間=6.5時間(屋内=4.5時間/屋外=2時間/コンクリート校舎による低減係数=0.1)で積算し、これに給食などによる内部被ばくを加算しても、年間0.534ミリシーベルトにしかならない。従って、十分に安全だというのが文科省の主張です。
試しに、
1μSv×(2時間+4.5時間×0.1)×200日
で計算すると、外部被ばく線量は年間0.49ミリシーベルトにしかなりません。内部被ばく量算出の根拠がどこに有るのか不明なのですが、この0.49ミリシーベルトに内部被ばく分を足したものが年間0.534ミリシーベルトということのようです。

しかし、子供たちは、学校を離れている時、放射線をまったく通さない鉛の部屋にいるわけではありません。逆に、学校などから除染を進めているので、学校を離れると、より線量が高い場所にいると考える方が自然です。

では、毎時1マイクロシーベルトを前提に、24時間365日の年間外部被ばく量を計算してみます。屋外=8時間、屋内=16時間、屋内の低減係数=0.1とすると、年間3.5ミリシーベルトです。木造家屋の低減係数=0.4を使うと、年間5.3ミリシーベルトにもなります。
実は、原発の作業員で白血病などのガンになって労災認定されている人の中には、年間被ばく線量が5ミリシーベルト強だった人も含まれています。国もそのブレーンになっている学者たちも、年間5ミリシーベルトが、大人にとっても十分に危険な数字であることを知っているのです。

福島の学校を、いえ、福島をこのままの状態にしてよいはずはありません。あくまで、24時間365日で1ミリシーベルト以下という国際基準を前提にした対策を進めること。それを政府と東電に求めていく必要があります。

「国破れて山河あり」すら…2011/06/01 18:59

「國破山河在(国破れて山河あり)」という、杜甫の有名な漢詩があります。その意は、「国家は戦に敗れてしまったが、山や河の姿は変わらない」と。杜甫は世の中の崩壊を嘆き哀れみながら、一方で、変わらない大自然の雄大な姿に安らぎを求めたのでしょう。

今から千三百年前に生きた杜甫には、山河すらその営みを維持できなくなる「大崩壊」が、同じ東アジアで起きようとは、想像もつかなかったでしょう。言うまでもなく、福島第1原発の事故のことです。

福島の山林が大きな危機を迎えています。「原発周辺、林業危機」(毎日新聞)。
「除染すれば、避難地域も住めるようになる」と吹いて回る楽観的な学者がいますが、彼らの想像力の中に、「森」や「山林」はないのでしょうか。除染も土壌改良も、ほぼ不可能です。毎日新聞の記事には、土砂崩れの問題や、林業の衰退への危惧が書かれていますが、それだけではありません。森はたくさんの雨水を蓄え、その水はやがて豊かな栄養分を含んで、河へ、そして海へと流れ込みます。森は河と海の命の源なのです。
上流に豊かな森のある河が流れ込む海は、例外なく魚たちの天国。人間にとっては、かけがえのない好漁場です。
荒れ果てた森から流れ出る水は、どんな水でしょうか。栄養分が乏しいだけではありません。様々な核分裂生成物(放射性物質)を含む死の水なのです。

河を見てみましょう。「アユ漁延期を検討 放射性物質、基準値超す」(毎日新聞)。多くの科学者が、淡水魚は海の魚より放射性物質を蓄積しやすいと指摘しています。それは、大地に降り注いだ放射性物質の大半が、やがて河に流れ込むから。さらに、河や湖では、海ほどの「拡散」が期待できないのが大きな理由です。息を殺してアユやヤマメと対決する釣り師たちの夢。それは、人が山河と対話する瞬間でもあります。夢も時も、いとも簡単に打ち壊されました。
そしてこの汚染は、小さな川魚から大きな川魚へ、あるいは、水鳥たちへと広がっていきます。河や湖の周りの生態系を守ることは至難の業。そして程なく、私たち人間の内部被ばくへとつながっていきます。

「国破れて山河あり」。人間の営みが、どんなに不幸な事態を招いても、山河は静かに見守っていてくれるはずでした。しかし原子力事故は、それすら許さない過酷なもの。豊かな山河すら失われてしまうのです。

どうするのだろう?除染2011/04/27 14:45

文科省から来年の3月11日までの累積線量推定マップが公表されました。
これによると、浪江町の一部では235mSv(ミリシーベルト)に達し、原発から50㎞前後も離れた伊達市や福島市、二本松市の一部でも、一般人の人工被ばくの年間限度量とされる1mSvの10倍を越えると予測されています。
ここ数日伝えられている学校や公園の汚染による屋外活動の制限と合わせて、事態はより深刻な方向に向かっています。

公園や校庭などでは、すでに「除染」という話が持ち上がっています。しかし、放射性物質は、いわゆる毒物と違うので、中和させて無毒化するといったことができません。
除染とは、例えば汚染された表土をすきとって他所に持っていく、いわば移染に過ぎません。深いところの土と入れ替えるというアイデアもあるようですが、結局、地下水が心配になります。

もちろん、公園などの汚染をこのままにしておくわけにはいきません。しかし、すき取った汚染土をどこに持って行くつもりなのか、そこまで含めた綿密な除染計画を進める必要があるでしょう。







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