被爆者援護法とフクシマ2013/09/08 16:28

日本で年間1ミリシーベルト以上の放射線被ばくを受けた人は、無償で医療や健康診断を受ける権利があります。

「今、福島で年間20ミリシーベルトという高い線量下での暮らしを強制されている人たちがいるのに何言ってんだ!」とお叱りを受けそうですが、事実なのです。

1995年に制定された『被爆者援護法』(正式名称は『原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律』)。分かりやすく言えば、原爆症認定や「被爆者健康手帳」公布の裏付けとなる法律です。
以前からあった「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(1957年制定)」「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(1968年制定)」をまとめたものと解釈されがちですが、それだけではありません。ICRP(国際放射線防護委員会)がその当時行った被ばく基準値の変更が背景にあります。
1985年、ICRPは「パリ声明」で一般人の被ばく基準をそれまでの年間5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに引き下げたのです。
この年間1ミリシーベルトが、チェルノブイリでは被災住民に無条件の移住権を保証する基準値となり、日本では『被爆者援護法』に反映されたのです(年間1ミリシーベルトが妥当なのかどうかはとりあえず横に置きます)。

『被爆者援護法』には以下の内容の記述があります。
<「被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者」を原爆症認定の第1の判断基準とする。>

参照:厚労省『原爆症認定』

『被爆者援護法』や厚労省のホームページには、年間1ミリシーベルトを具体的に謳った記述はありませんが、実は「被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者」とは「年間1ミリシーベルト以上を被ばくした者」と同義であることは、以下の図で明らかにされています。


ヒロシマでは爆心地から3.25km以内、ナガサキでは3.55km以内が年間1ミリシーベルトを被ばくしたエリアです。それを踏まえて、「被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者」を「積極的に原爆症に認定する」となったのです(被爆者手帳の交付は、それ以前の当然として)。

詳しくは:厚労省『原爆放射線について』

フクシマにおいて政府が住民に強要している基準値は年間20ミリシーベルトです。もちろん、被爆者健康手帳は1冊も公布されていません。これは二重基準(ダブルスタンダード)以外の何ものでもありません。
晩発性障害は間違いなく起きます。吉田所長の食道ガン死は原発事故と無関係と考える方がむしろ奇妙。何人かの作業員が不自然な死に方をしているのも事実です。
子供たちの間では、甲状腺ガン確定患者が8月の段階で18人。2か月間で6人も増えました。

すくなくとも『被爆者援護法』と同じ基準で、フクシマの被災者を支えること。そして、年間1ミリシーベルトを越えるエリアでは無条件の移住権を認める必要があります。

最後に、政府が2012年4月に発表した『20年後までの年間空間線量率の予測図』にリンクを貼っておきます。

政府発表:20年後の線量

今、そして20年後の年間1ミリシーベルトのエリアをしっかり確認してください。背筋が凍る思いです。

除染考(1):「除染」とは…2013/01/31 11:30

政府は「除染、除染」と騒ぎ立てますが、一向にその成果は上がっていません。
それどころか、「フクシマの手抜き除染」が世界的なニュースとなり、この国は多額の税金をいったい何のために、どこに投入しているのか、日本中が疑問を持っています。
そこで、一度原点に立ち帰って、除染の問題を何回かに分けて考えていくことにします。

まず除染の目的。地域を汚染している放射性物質を取り除いて、住民が安心して暮らせる状態にすることです。20ミリシーベルト/年以上で居住制限のかかっている地域では、安心して帰還できるようにすることです。
しかし、考えてみると、「安心して」というのは曖昧な言葉です。これは具体的には、「何の制限もなく生活できる状態に戻すこと」を指すと考えないといけません。「山林に入ってはいけない」「山のキノコは採ってはいけない」「川のヤマメは食べてはいけない」という状態では、「故郷に帰った」とか「故郷を取り戻した」ことにはなりません。
本来は、3.11以前の状態に完全に戻してこそ、除染の完了です。

さて、20ミリシーベルト/年以上のエリアでは、国が除染を行うことになっています。1ミリシーベルト/年から20ミリシーベルト/年のエリアでは、地方自治体が除染を行い、財政的には国が支援することになっています。
ここで予備知識として再整理しておきたいのは、1ミリシーベルト/年と20ミリシーベルト/年という数字です。
実は、どちらも安全だという根拠のある数字ではありません。ICRP(国際放射線防護委員会)によれば、「一般の人が浴びても差し支えないとされる1年間の被ばくの基準は1ミリシーベルト」「原子力事故からの復旧期においては年間の被ばく量を多くても1ミリシーベルトから20ミリシーベルトまでにとどめるべき」ということです。
日本政府が採用しているのは復旧期の上限値。事故直後から1ミリシーベルトなのか20ミリシーベルトなのかという議論がありましたが、なし崩し的に20ミリシーベルトという高い放射線量を押し付けられているのが現状なのです。おまけに、復旧期がいつまで続くのか、明確どころか、おおむねの目安さえ示されていません。

ここでは詳しく述べませんが、1ミリシーベルト/年以下でも、ガンなどの発生率が上昇しているデータは、チェルノブイリだけではなく、世界中で報告されています。
●参考サイト:NHK「低線量被ばく 揺れる国際基準」に関連するブログ

では、チェルノブイリの基準はどうなっているのでしょうか?何度か掲載した図ですが、もう一度確認しておきましょう。

ウクライナもベラルーシもロシアも同じ基準で、5ミリシーベルト/年以上のエリアは危険なので居住が禁止されています。
さらに、1ミリシーベルト/年から5ミリシーベルト/年で住民には移住の権利があります。国の支援を受けながらそこに住み続けるか、他の地域に移住するか、自由に選択することができるのです。フクシマとはレベルの違う対応が行われています。

そして、フクシマよりも厳しい基準を適用しているチェルノブイリですら、今、白血病や心臓疾患など、慢性被ばくが原因とされる病気が多発しているのです。
事故発生から27年を経ようとしているチェルノブイリですが、立ち入り禁止区域の外が「何の制限もなく生活できる状態」になっているわけではないのです。

フクシマに話を戻しましょう。
残念ながら、すべてを3.11以前に戻すのは不可能です。納得のいかない数字ではありますが、当面は、1ミリシーベルト/年を目安にしましょう。「1ミリシーベルト/年から5ミリシーベルト/年で移住の権利」「5ミリシーベルト/年以上で立ち入り禁止」というチェルノブイリなみの基準は最低限必要です。

国が本当に除染できるというなら、5ミリシーベルト/年以上のエリアをすべて買い上げて、きれいに除染してから売り出せば良いだけの話なのです。

安易に、「除染」とか「帰還」という言葉に踊らされるのは、とても危険なこと。ここで言う、「危険」とは、具体的に、「命や健康に関わる危険」を指していることは、言うまでもありません。

福島は今、どうなっているのか…2012/11/07 13:18

今回は、空間線量(=外部被ばく)の視点から、今の福島を冷静に見直してみたいと思います。

下の2枚の表をご覧ください。11月7日の午前9時前後に文部科学省の「放射線モニタリング情報」から得たデータです。


3.11以前の空間線量は全国平均で約0.04マイクロシーベルト/時でした。もちろん福島も例外ではありません。

今現在、居住制限のかかっている地域では、3.11以前の数十倍という空間線量になっているのが一目瞭然です。なんの制限もかかっていない地域でも、5倍から10数倍という場所があります。これを胸部X線撮影での被ばく量(1回約0.1ミリシーベルト)と比較すると、20回分以上という場所が続々出てきます。「年に20回以上も胸のレントゲンを撮る」と言われたら、誰だって尻込みするでしょう。

国が定めている居住制限の線引きは20ミリシーベルト/年です。これは毎時に直すと3.8マイクロシーベルト/時になります。葛尾村で0.689、飯舘村で0.793と1.124。「3.8マイクロシーベルト/時(=20ミリシーベルト/年)に比べると、かなり低いのではないか」と思う方がいるかもしれません。しかし、これらの数値は、すべて居住空間に近い場所で計測されたものです。周りには、山林や放置された農地がたくさんあり、20ミリシーベルト/年を大きく越えています。ちなみに、20ミリシーベルト/年は胸部X線撮影200回分に相当します。

いつの間にか決められてしまった20ミリシーベルト/年。この数値は、ICRP(国際放射線防護委員会)の「緊急時の基準」をより所としています。安全だという裏付けはまったくありません。ICRPが公衆の被ばく線量限界として勧告しているのは、外部被ばく、内部被ばくを合わせて1ミリシーベルト/年です(それすら安全の裏付けはなく、放射線はどんなに微量であっても人体に害のあるものです)。

ここで、20ミリシーベルト/年で線引きされた居住制限等の内容を簡単に整理しておきましょう。
●避難指示解除準備区域
避難指示区域のうち、放射線の年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実と確認された地域。宿泊禁止。製造業などの事業再開許可。
<経産省からの通達>
●居住制限区域
避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、引き続き避難を継続することが求められる地域。製造業などの事業再開許可可能。
<経産省からの通達>
●帰還困難区域
5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり、年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域。
●警戒区域
立ち入り禁止区域

驚くべきことは、「居住制限区域」や「避難指示解除準備区域」において、すでに業務の再開などが認められていることです。
移住権を認めないどころか、危険な場所へ帰ることを奨励している!こんな国がどこにあるでしょうか!

参考のために、チェルノブイリと福島の居住制限等に関する基準の違いを下に示します。チェルノブイリの高濃度汚染地域は、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3国に広がっていますが、3国ともほぼ同じ基準で被災住民に対応しています。

図をご覧いただければ、もう何も語る必要はありません。
原発事故被災地の人たちは、今、とても危険な状況に放置されています。
国や自治体は、「1ミリシーベルト/年を越えるエリアでは、無条件で移住権を認める」といった施策を積極的に実行すべきです。その時、「10ヘクタールの水田を持っていた人には10ヘクタールの水田を」「100頭の牛を飼っていた人には100頭の牛と牛舎を」という、「生産力として等価」という考え方が必要です。「金銭的に等価」では、営々として作り上げてきた地方の文化は、間違いなく崩壊します。
例えば、「長年耕してきた10ヘクタールと新たな10ヘクタールでは、まったく違う!」という声が出るでしょう。被災地の人たちにとって、移住が苦渋の決断であることは、もちろん理解しています。しかし、ギリギリの選択としては、「ふるさとよりも命」あるいは「ふるさとよりも安心、安全」を取るべきです。共同体が一体となって移住できる道を国や東電に求め、みずからも探ることが第一ですが、個別に移転していく道も閉ざす必要はありません。

多くの自治体首長や市町村会議員が、「帰還」「除染」を声高に言うのは、自分の議席や票田がなくなるのを恐れているからに過ぎない、と冷たく見切る必要もあります。

除染は容易ではありません。高圧放水を使うと壊れてしまう家屋がたくさんあります。山林の除染の見通しは立たず、そこから流れ出る水は、苦労して除染したはずの水田へも向かいます。
仮に住宅と道路と商業施設の除染がある程度できたとして、子供たちに「放射性物質があるから山には入ってはいけない」「川の魚は獲るな」「キノコは採るな」と何十年にも渡って言い続けることができるのでしょうか…

南相馬の黒い物質2012/03/10 21:26

テレビのニュースでも報じられたので、ご存じの方も多いと思いますが、「南相馬の黒い物質」の話です。

南相馬の地元の方が、所々の地表面に広がる黒い物質に線量計を近づけて測ったところ、最大31,682cpm(そのまま換算すると、何と94.9μSv/h!)というきわめて高い放射線量が検出され、一部は、プルトニウム239などの超ウラン元素から出ているアルファ線ではないかと疑われた一件です。

●「南相馬の黒い物質」を報じる海外のニュース

アルファ線の方は、専用の機器で測定したところ、一応、不検出となったのですが、「黒い物質」に放射性セシウムが高濃度で蓄積しているのは、間違いのない事実でした。
神戸大学の山内知也教授が高純度ゲルマニウム半導体検出器を用いて計測したところ、セシウム134が485,252Bq/kg、セシウム137が604,360Bq/kg。放射性セシウムの合計で109万Bq/kg。この100万Bq/kg以上という数値は、ゴミ焼却場から出た焼却灰で言えば、コンクリートに固めても埋設できない高いレベルです。こういったものが、南相馬、いや南相馬だけではないでしょう、福島第1から数十キロ圏内には、たくさんあると考えられます。

この「南相馬の黒い物質」は、東北大植物園の鈴木三男教授によって、「らん藻(らんそう)」であると確認されました。らん藻は生物学的にはバクテリアの仲間。私たちの一般的な感覚としては、細菌と植物の中間のような存在です。普段、「藻(も)」とか「苔(こけ)」と呼んでいるものの多くが、実はらん藻の仲間。観賞魚を飼う水槽の内側に付く緑色の藻も、海で赤潮を起こすのもらん藻です。

この、きわめて日常的に私たちの周りにある「らん藻」に、放射性セシウムが高濃度に蓄積しているのです。理由は、らん藻がみずから生き延びるために、空気中や水中、土中から積極的に栄養分としてカリウムを吸収しようとするからです。生体は、化学的な性質が似ているカリウムとセシウム(放射性であろうとなかろうと)を見分けることができませんから、「らん藻」が生きようとすればするほど、その体内には、どんどん放射性セシウムが溜まっていくのです。

ならば、らん藻に近づいたり、触ったりしなければ大丈夫?話は、そう簡単ではありません。
水がなければ活性化しないのがらん藻です。じゃあ、水が切れたら、土にへばりついて、死んでしまうのか?そうではありません。乾燥状態になると、細かく割れて、風の力で空中に舞い上がり、運良く水のある場所に落ちたら、そこで息を吹き返します。そこに、また放射性セシウムがあれば、さらに蓄積が進むということです。また、胞子によっても繁殖しますので、放射性セシウムに汚染されたらん藻の広がりを抑えることは、事実上、困難です。
そして、空中に舞い上がったらん藻やその胞子を私たちが呼吸によって吸い込むのは、まれな事ではありません。
らん藻の生きようとする力によって、私たちは放射性セシウムによる内部被ばくの恐怖に晒され、さらに、予想もしなかった場所に、あらたなホットスポットが作られていきます。

ここまで書いて、一年間に渡って、すっかり騙されていたことに気がつきました。「セシウムは、土壌との親和性が高いので、地面に落ちると土と強く結びついて、再度、大気中に舞い上がることはない」。国や多くの研究者が言ってきたことです。
まったくの嘘でした!
実際には、放射性セシウムを土より先にらん藻が吸収している場合があるのです。また、一旦、土が取り込んだ放射性セシウムをらん藻が吸い上げ、乾燥が進めば、大気中に舞い上がっていた、いや、今も舞い上がっているのです。
そのらん藻の汚染度は100万Bq/kgレベル!このような場所に、今、南相馬の人たち、いや、福島の多くの人たちが住むことを強制されています。本来ならば、人が住んでよい場所ではありません。いったい、誰がどう責任を取るつもりなのか…
今からでも遅くはありません。福島での対策の中心を除染から移住に切り替えるべきでしょう。

そしてもう一つ…
藻や苔への放射性物質の集積は、生態系全体の汚染の出発点となり、食物連鎖によって、私たちにその恐怖が押し寄せてきます。
河川に生えるらん藻を好んで食べるのはメダカのような小さな魚です。その先は、推して知るべしでしょう。
海では、植物性プランクトンや貝類、甲殻類などがらん藻を餌にします。下図のような流れに乗って、放射性物質がバトンタッチされていくのです。

悲しいかな、生体の宿命として、食物連鎖が上位に行けば行くほど、放射性物質の濃縮が進みます。それは、生体が、放射性物質を栄養分と勘違いして取り込んでいくからです(たとえば、セシウムとカリウムを、また、ストロンチウムとカルシウムを生体は区別することができない)。
私たちは、肉や魚や野菜などの食物から吸収した栄養分を体内で濃縮しています。いや、人間だけではありません。すべての生物がそのなのです。摂取した食物から得た栄養分を体内でより濃縮する。生体濃縮は、まさに生物が生きるためのシステム。その中に、放射性セシウムや放射性ストロンチウムが入り込んできて、生命活動と種の保存の根幹を担うDNAを破壊してしまう。そういう話なのです。

移住と除染2011/11/23 08:55

福島第1原発が立地する大熊町。町全体が20km圏内の警戒区域に入り、町民全員の避難が続いています。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。

ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。

●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。

ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。

●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。

除染と言われて、真っ先に思い浮かぶは、汚染土壌をビニール袋に詰めて山積みにしていく風景か、高圧洗浄機で道路や屋根を洗い流している風景です。
このうち、汚染土壌の方は、各自治体とも保管先に腐心していますが、基本的には、「仮置き場→中間処理施設→最終処分場」という流れで、環境から隔離することができます。
洗浄水はどうでしょうか?一部の都市部を除けば、ほとんどが河川や海に流れ込んでいきます。これでは、放射性物質を環境から取り除いたことにはなりません。ピンポイントの除染では、屋根の洗浄は欠かせませんが、原則は「放射性物質を環境から隔離する」ことだと理解しておかないと、放射性物質の拡散を招く恐れがあります。下水施設のない地域では、河川に流れ込んだ放射性物質を回収する方法を考える必要があります。

一方、ゴミ処理所の焼却灰や下水処理場の汚泥に、高濃度の放射性物質が集まることが問題視されていますが、これは、不幸中の幸いと考えるべきでしょう。灰や汚泥に集まらなかったら、いつまでも、環境中にあるのですから。中間処理施設を早急に建設し、汚染された灰や汚泥を環境から完全に切り離すことが先決です。

●森林や農地の除染は本当にできるのか?
仮に、住宅地の除染がある程度できたとしても、森林の除染は容易ではありません。
国は、住民に「高濃度に汚染された森林と面と向かって暮らせ!」と言うのでしょうか?森林から流れ出る水はどうするのでしょうか?森林と人の生活圏との間を行ったり来たりする野生動物をどうするのでしょうか?解決の術は見当たりません。
この間、放射性セシウムを積極的に吸着する、いくつかの物質が提案されていますが、それらは例外なく、植物にとって欠くことの出来ない栄養素であるカリウムも吸着してしまいます。生態系の中から、放射性セシウムだけを抜き取ることは、ほぼ不可能といってよいのです。

農地は森林よりは除染できる可能性がありますが、それでも困難が付きまといます。農地の汚染は、作元を通して内部被ばくに直接つながります。きわめて深刻な問題です。
農地から放射性セシウムを化学的に除去しようとすると、必ず栄養分のカリウムも失われてしまうのは、森林の場合と一緒。今のところ、表土と、ある程度深いところの土を入れ替えてしまうのが有効とされていますが、大変な労力を伴う上に、土質が変わってしまいます。
チェルノブイリでは、最初、農地の土を丸ごと入れ替えることを考えましたが、あまりに広すぎて断念。今は、カリウムを撒いて、作物が吸収する射性セシウムの濃度を相対的に下げる方法が中心になっているようです。
何十年もかけて作ってきた豊かな土を放射性物質によって汚されてしまった農家の悔しさを思うと、涙が出てきます。

●福島県以外のホットスポットに関して
首都圏でも、千葉県柏市や埼玉県三郷市など、放射性物質のホットスポットが見つかっています。
除染が難しい森林が少ない地域なので、やる気になれば、徹底的に除染を進めることができると思います。汚染土壌の除去、屋根やアスファルト路面の洗浄などです。場合によっては、街路樹や植栽を撤去・植え替えする必要もあるかも知れません。
一方で、群馬県などには、山間部にもホットスポットがあります。高濃度に汚染された森林をどうするのか… 原発至近エリアと同じ問題があります。
悲しいかな、数十年間、立ち入り禁止にすべき森があります。

●自衛隊を全力動員せよ!
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が、国の内部被ばくや除染に対する対応を鋭く批判したのは、7月30日のことでした。
この日の児玉発言の中に、「ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごくもっております」というものがあります。除染が利権がらみのビジネスになることを警戒した発言です。
児玉教授は、土壌汚染に関する様々な技術を持つ民間企業の力を結集させるべきと言っています。それ自体は正しいと思うのですが、ハイテク技術を総動員したとしても、除染の現場は人海戦術になることは目に見えています。
なぜ、ここに自衛隊を動員しないのか?給料は税金で払っているのですから、支出は大きく抑えられます。
いずれにしても、自衛隊をフルに活用すれば、除染の利権化を防ぐことができ、費用全体を大きく抑えることができるはずです。

語弊を恐れずに言うなら、私たちは、東京電力から「汚い爆弾」による攻撃を受けた状態にあります。
核兵器を製造する能力を持たない国や組織が、放射性物質を手に入れた場合、それを敵国に撒き散らすだけで、大きな被害を与えられます。これを「汚い爆弾」と呼ぶのです。
福島第1という「汚い爆弾」は、セシウム137だけでも、広島原爆168個分を撒き散らしています。
戦争被害にも匹敵する状況。自衛隊の全力動員は、間違っていないはずです。日本には、陸海空合わせてで約25万人の自衛隊員がいます。

福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト2011/11/13 14:45

今、福島の人たちは、まったくひどい状況の中に住み続けることを強制されています。

国が発表した年間1ミリシーベルトという除染のための基準。『汚染状況重点調査地区域』という難しい名称が付いていますが、簡単に言えば、福島第1由来の外部被ばく量が年間1ミリシーベルトを越える場所には、除染を受ける権利が有るという話です。最初、年間5ミリシーベルトと発表して、被災者から猛反発を食い、1ミリシーベルトに下げた経緯があるため、いかにも低い数字のように思えますが、これに騙されてはいけません。

この年間1ミリシーベルトという数字を冷静に見直すためには、除染だけでなく、避難や移住まで含めて、今、どういった基準になっているのか… それを検証し直す必要があります(福島の皆さんは切実な問題なので、ほとんど理解されていると思いますが、全国的に見ると多くの人が理解していません)。
まず一覧表で、チェルノブイリの基準と較べてみましょう。いかに、福島の基準が緩いものなのかお分かりいただけると思います。それは、とりもなおさず、福島の人たちが、きわめて危険な場所に住み続けさせられているということです。

年間1ミリシーベルトは、チェルノブイリでは、クリーンな環境への「移住権利」が認められる基準でした。
福島では、年間1ミリシーベルトでは、まったく先行きの見えない除染を受ける権利しか得ることができません。
他にも、チェルノブイリと福島では、明らかに、人の健康と命に対する基本的な考え方が、違っています。ソ連という国が崩壊するかしないかという瀬戸際の時期に、語弊を恐れずに言うなら、「チェルノブイリでさえ、ここまでやっていた」のです。
分かりやすい図にまとめてみました。

実質的に、避難や疎開・移住が義務化される基準値は、チェルノブイリでは年間5ミリシーベルトでした。福島では20ミリシーベルトです。「移住権利」については明確な概念すらなく、実質的には20ミリシーベルトを越えないと得ることができません。これはチェルノブイリの基準の20倍です。

年間20ミリシーベルトより下には、「除染を受ける権利」しかありません。しかし、その除染は遅々として進まず、時が無為に流れています。山林や農地の除染は見通しがまったく立たず、住宅地でも「屋根の除染が難しい」「風が吹くと放射性セシウムが舞い上がっているらしい」「セシウム以外の核種はどこにどうなているのか不明」といった新たな困難が明らかになっています。国や自治体が立ち止まる度に、住民は、しなくてよい被ばくを受け続けているのです。

「除染なのか移住なのか」という議論も起きています。これは、最終的には、どこかで線を引かなくてはなりません。ただ、必ずしも一本の明確な線である必要はありません。
まず、「移住権利エリア」をある程度広範囲にとって、移住するかどうかの判断を住民が行えるようにするべきでしょう。
それでもエリアごとの境界線は決めなくてはいけませんが、単純に○○シーベルトで切るのではなく、すくなくとも集落単位で設定すべきです。移住するにしても、住み続けるにしても、多くの困難が伴います。その時に、今まで暮らしてきた共同体が完全に失われてしまったら、何も前に進まなくなるでしょう。

住民の移住に関する原則があります。それは、東電と政府は、住民の生活を3.11の前の状態に戻す義務があるということを明確化すること。2ヘクタールの稲作をしていた農家には2ヘクタールの水田を。600頭の牛を飼っていた畜産家には600頭の牛を。この原則を徹底して守りながら、移住を実行しなくてはなりません。
外から見た勝手な思いと言われてしまうかも知れませんが、住民の皆さんも、移住に伴って、今までの暮らしを棄てるようなことはしないでください。住民は、何も悪いことはしていないのですから。

今、最悪の指定基準になっているのは、「特定避難勧奨地点」です。これは、世帯単位で決めているため、指定世帯のすぐ隣でも指定されなかったり、玄関先を毎日きれいに掃除していたために空間線量が局所的に下がり、指定されなかったりといった馬鹿げた事態が起きています。
人の暮らしが、家の中にとどまらないのは当たり前で、これは早急に集落単位の基準に変更すべきです。また、家の目の前に、高度に汚染された山林があったら、そこに住めないのは自明です。宅地だけを測っても意味はありません。もちろん、年間20ミリシーベルトなどという数字も根底から見直さなくてはいけません。

今一度、「福島とチェルノブイリの年間1ミリシーベルト」の違いをしっかりと見直してみる必要があります。

外部被ばく線量計算機(改訂版)2011/10/14 10:16

先日公開した『外部被ばく線量計算機』ですが、自治体や報道機関が発表する「時間あたりの空間線量」から計算した場合、「年間の実効外部被ばく線量」が少なめに出ることが判明しました。原因は、当方が原子力百科事典ATOMICAのデータに全面的に依拠したためです。ATOMICAと、現行広く行われている計算法のどちらが正しいかは、考え方の違いなので、正確には判断できません。ただ、いろいろな数値が出て、混乱するのは問題なので、当サイト配布の『外部被ばく線量計算機』の設定条件を「現行広く行われている計算法」に近づけました。ただ、全ての市町村がまったく同じ計算法を採用しているわけではありませんので、若干のズレが生じることはあります。

外部被ばく線量計算機(改訂版)【ダウンロード】
ZIPファイルですので、解凍してください。エクセルになります。

●改訂点
1. 『実効線量換算係数』を1にしました。従って、空間線量(空間中の線量)=実効線量(実際の外部被ばく線量)という前提になります。
2. 『大地と建物からの自然線量(屋外)』(バックグラウンド線量)を0.05μSv/hにしました。国連科学委員会「放射線の線源と影響」(1993)によると、日本における数値は、0.049μSv/hですが、現在、多くの自治体が0.05μSv/hを採用しているので、これに合わせました。
3. 2に基づいて、『大地と建物からの自然被ばく(年間実効線量)』を計算し直し、438μSv/yとしました。
4. 屋外活動時間を8時間に設定しました。多くの自治体が採用している前提条件だからです。

●計算のもとになっている考え方(数値以外は変更無し)


●ご留意頂きたい点
1. 『屋外・屋内の実測値から』の白セル内には、計測器が指した数値そのものを入力してください。自動的にバックグラウンド線量を引いて、上乗せ分(要するに福島第1の影響分)の年間実効外部被ばく線量が算出されます。
2. 『自治体などの発表値から』の白セルに入れる数字は、「発表された実測値」です。もし、「上乗せ分」で発表されている場合は、自然放射線の分の0.05μSv/hを加えて入力してください。

●自治体や報道機関に対して
要らぬ混乱を避けるために、発表する線量が、「実測値」なのか、「自然放射線の分を差し引いた上乗せ分の実効線量」なのかを常に明示するようお願いしたいです。

●ありそうな質問に対して
Q1. どうして、全ての放射線からの被ばく量ではなく、自然放射線の分を差し引いた値を計算するのですか?

ICRPの「年間1ミリシーベルト以下」などの基準が、すべて、自然放射線に対する「上乗せ分」で決められているからです。この背景には、世界的に見ると地域によって、自然放射線の量が異なるという理由があります。日本でも、本当は場所によって若干異なるのですが、現在は、全国平均値の0.05μSv/hを使用している自治体がほとんです。

Q2. 『大地と建物からの自然線量』が、屋外と屋内で変わらないのはなぜですか?

自然から来るガンマ線は、ほとんどが土や岩盤、植物に含まれる放射性物質が線源です。ちょっと考えると、屋外の方が小さくなりそうですが、事実は逆です。
国連科学委員会の報告によると、多くの国で、屋内の方が自然線量が高くなっています。これは、建材に使われている石やコンクリートに含まれる放射性物質(ルビジウム87・ウラン系列核種・トリウム系列核種など)が影響しているためです。
木材にもカリウム40が含まれていますが、被ばく量は、石やコンクリートからより低くなります。これが、日本では屋外と屋内の自然線量が、ほとんど同じになっている理由です。
これに対して、上乗せ分(福島第1の影響分)は、地面や屋根の上にある放射性セシウムが、主な線源ですので、屋内に入ると下がります。低減率は、木造家屋で0.4とされています。

続報:移住コーディネーター制度を検討すべき2011/08/22 17:35

おぼろげながら、買い上げの方向性が提示されました。

福島第1原発:「警戒区域」で土地の借り上げなど検討【毎日新聞】


移住コーディネーター制度を検討すべき2011/08/22 10:10

やっと政府が、「原発周辺に居住が長期間困難な地域が残る」ことを認めました。
「原発周辺の土地、国借り上げ検討 居住を長期禁止」(朝日新聞)
「原発:警戒区域解除を一部見送り 首相が現地で説明へ」(毎日新聞
現段階では、はっきりと「移住」には言及はしていませんが、早晩、本格的に検討せざるを得なくなるでしょう。

住民の移住は、事故発生後の早い時期から、当ブログを含む多くの場所で、多くの人たちが想定し、提案してきたものです。

事故から25年の経たチェルノブイリでは、依然として30km圏を中心に居住禁止地域が定められたままです。福島第1で漏出した放射性物質は、今のところ、チェルノブイリの1/8とか1/10とか言われています。しかし、住民には酷ですが、発電所至近の地域が、長い間、生活できる環境には戻らないことは分かりきっていたことです。3.11から間もなく半年。やっと、政府がそのことを認めたのです。

チェルノブイリ事故に対する当時のソ連政府の対応は、情報の隠蔽を中心に、誉められるものはほとんど見い出せません。しかし、事故発生の翌日には、数千台のバスを動員して、まず原発至近のプリピャチ市の住民4万5千人全員の避難を実行。およそ一週間以内に、原発から30km以内に居住する11万6000人を避難させています。
さらに、30km圏とは別に、土壌が高濃度に汚染されたエリア(放射性セシウムが18万5000ベクレル/㎡以上)では、住民の「移住権」を認める対応をしました。
それでも、主に内部被ばくに起因すると考えられる放射線障害が、広範囲で、多くの人たちの健康を蝕んでいるのが現状なのです(「チェルノブイリ原発事故によるその後の事故影響」今中哲二)。
日本政府の対応はあまりに遅すぎます。

しかし、嘆いてばかりいても始まらないので、福島第1の事故で、これから先、移住の問題をどう考えていけばよいのか、検討してみましょう。

今回の発表の一番の問題点は、土地の借り上げが前提となっており、完全には「移住」を認めていないことです。もし、1年以内に戻れるという見通しがあるなら、借り上げもあり得るでしょう。しかし、そんな甘い話ではないのです。農業を営んできた人たち、畜産業を営んできた人たち、漁業を営んできた人たちをどう救うつもりなのでしょうか… 間違いなく代替え地・代替え施設を用意してあげる必要があるし、それが国の義務でしょう。この期に及んでも、「すべて金で解決」という姿勢が見え隠れすのは許しがたいです。

まず、もっとも汚染のひどい地域を「居住禁止エリア」にすること。その外側に、「移住権認定エリア」を設けるべきでしょう。これは、職種や子供の有無などによって、移住を望むかどうか、個々の住民の判断が異なってくるからです。

さて、ここで問題となるのが、住民の移住を誰が、どうアレンジするのかです。「お金は渡しますので、あとはご自身でどうぞ」というのは、絶対にやってはいけないことです。
地域のコミュニティーをできるだけ維持する形で移住を考えていく必要があります。教育施設や医療機関を配慮することも大切です。こういった複雑な事情が絡む移住を、住民にとって少しでも負担のない形で実現するためには、まず地域の自治体の努力が必要です。ただ、それだけでは不十分。民間からプロの力を動員することを考えるべきでしょう。

具体的には、不動産鑑定士とか宅地建物取引主任者の資格を持つプロの人材に、不動産業界から期間限定で、公的機関(NGOというやり方もあるかも)に出向してもらうのです。この人たちを仮に「移住コーディネーター」と名付けましょう。

移住には、当然にも複数の地方自治体がからみます。当事者だけで、事がスムーズに運ぶとは考えられません。
例えば、
過疎で集落の半分以上が空き家になっている地域に集団で移住することを考える。
廃業した畜産農家の施設が残る場所に、福島の畜産農家の移住をアレンジする。
余裕のある漁港に、漁業中心の集落全体の移住を実行する。
全国の公営住宅の空き室・空き家を網羅し、住民にもっとも適した移住先を探す。
廃校になった小学校を活用して、学校を中心とするコミュニティー全体の移住を実現する。

他にも可能性はいろいろと考えられます。だからこそ、こういったコーディネートは四角四面の決まりの中では不可能。例外だらけになるからです。
被災地域の自治体に、その任を全面的に負わせるのは酷だし、難しいでしょう。移住コーディネーターが必要です。

不動産業界としては、移住コーディネーターが活躍すればするほど、塩漬けになっていた不動産が動くので、多少のメリットがあるはずです。
一方で、利権を発生させてはいけないので、いくつかの決まりを作っておく必要はありますが。

「いつかは戻れるようにしたい」という曖昧な対応を続けることは、今、避難している住民たちを少しは勇気づけているのかも知れません。しかし、事実を認めて、本格的に手を打っていかないと、結局、大きな混乱と不幸を残すだけになります。

ここは、国の決断と不動産業界の社会貢献に期待したいです。






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