マスキー法とCVCCの奇跡を思いだそう! ― 2011/08/29 11:35
いささか古い話になってしまい恐縮なのですが…
アメリカで、通称、マスキー法と呼ばれる大気浄化法改正法が成立したのは、1970年でした。提案者の上院議員、エドムンド・マスキーの名前を取って、マスキー法と呼ばれています。
その内容は、
●1975年以降に製造する自動車の排気ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
●1976年以降に製造する自動車の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
…というもの。5~6年で有害物質の排出量を1/10にするという極めて厳しい法律でした。当然、マスキー法の基準をクリアしていないクルマは、期限以降の販売を認めません。
規制値の厳しさから、世界中の自動車会社から強い反発を受けたマスキー法。実際には、細かい改訂が続いたようです。
しかし、当初の「厳しすぎるマスキー法」をクリアするクルマが、期限前の1973年に登場します。ホンダのシビック。搭載していたエンジンはCVCCと呼ばれる形式で、ホンダが独自に開発した低公害・低燃費のエンジンでした。それまでの常識からすれば奇跡のエンジン。シビックとCVCCは世界を席巻し、低公害車が一気に普及するキッカケになりました。「先行する行政」と「追いかける産業界」が見事に機能し合った好例とされます。
原発と無関係?いえいえ、そうではありません。
言いたいことは、イノベーション(技術革新)やブレークスルー(現状突破)への姿勢です。
「高い目標設定を行い、そこに向けて真摯に立ち向かうことで、新たなイノベーションやブレイクスルーが生まれる」ということなのです。一見、根性主義(笑)に思えますが、マスキー法とCVCCの歴史以外にも、たくさんの事例を見ることができます。「ガガーリンによる人類初の宇宙飛行」「アポロ11号による月面着陸」「東海道新幹線の成功」などは、その典型でしょう。
電力分野においても、イノベーションやブレークスルーは、絶対に可能です。
今、福島第1の事故を受けて、電力を中心とする日本のエネルギー政策をどうするのかが大きな問題となっています。
少なくとも減原発の方向性は固まってきました。
しかし、「今ある原発を寿命まで使い切れば、自動的に日本から原発はなくなる」という消極的な意見から、「すべての原発を直ちに止めて、廃炉行程に入るべきだ」という積極的な意見まで、広い幅があります。
当ブログは、後者の立場を取ります。なぜか?もうこれほどの危険性と隣り合わせの生活を送りたくないからです。周辺住民から平穏な暮らしと健康を奪い取り、農業と漁業を破壊し、長い期間にわたって食べ物を汚染し続ける。原発はもう要りません。
この間、「自然エネルギーの開発には時間がかかるので、当面は原発で」といった意見が、目立ってきています。しかし、少々の苦労はしつつも、私たちはこの夏を乗り切ることができました。京大の小出先生によれば、真夏のピーク時であっても、少しだけ我慢をすれば、原発がまったくなくても停電は起きません。
しかし、原発を無くすのは当然としても、二酸化炭素のことを考えたら、火力も減らしたい。大規模ダムも問題があるし… ということで、エネルギーの浪費をやめながら、自然エネルギーへのシフトを考える必要はあります。
その時に、イノベーションやブレークスルーを後押しする「高い目標設定」が必要なのです。
数日中に新しい総理が決まりそうですが、候補者はいずれも、脱原発から腰が引けていて、年内には止まっている原子炉を再稼働しようなどという発言も見られます。これは絶対に許してはなりません。新しい総理に求められているのは、敢えて高い目標設定をして、産業界の尻を叩くことなのです。
具体的に言えば、「すべての原発を直ちに停止し、廃炉プロセスへ」という明確な方向性の提示とともに、「1年以内に風力発電を○○万キロワットに」とか「3年以内に太陽光発電を○○万キロワットに」という目標を掲げることです。年限を区切って、電力会社に自然エネルギーの割合を上げさせ、達成できなければ罰則です。
産業界から言えば、国の方針が定まらないから、動きようにも動けないという状況もあるのです。マスキー法とCVCCの奇跡を思い出しましょう!
幸い、風力発電や太陽光発電は、設備としては簡便なもので、やる気になれば、数ヶ月である程度の施設を作ることができます。地熱発電や潮力発電は、風力や太陽光ほど簡単ではありませんが、オリンピック用の競技場を作るつもりでやれば、アッと言う間に造れます。そこに、新たなイノベーションやブレークスルーが加われば、発電効率が上がり、建設コストやランニングコストが大幅に下がる可能性があります。
電力会社は、送電線が… 送電システムが… と言いますが、こんなものは、大雑把に言えば、電線を引くだけです。それに、この間、飛躍的な進歩を遂げているITを絡ませれば、問題は次々と解決していくことでしょう。ここにも、イノベーションやブレークスルーの可能性が十分にあります。
基本的な構図は、「先行する行政」と「追いかける産業界」です。そして、マスキー法の時には、「先行する行政」の背後には、反公害運動という安全と安心を求める市民の大きな声があったことを忘れてはなりません。
新総理にお任せでは何も動きません。まず、私たち一人ひとりが声を上げていくことです。
附記:
すべての原発を直ちに止めたとしても、危険がなくなるわけではありません。1963年の国内初の原子力発電から48年。溜め込んできた使用済み核燃料(放射性廃棄物)が放出する放射線が環境に影響を及ぼさないレベルになるまでには、10万年以上の年月が必要です。そして、それらを安全に保管するための最終処分場は日本にはありません(世界を見渡してもフィンランドにしかない)。たった48年のために、10万年以上に渡る危険を私たちは背負い込んでいます。この危険を今以上に増やしてはいけないのです。
そのためには、とにかく、すべての原発を止めて、廃炉への道に踏み出すこと。原子炉の運転(核分裂連鎖反応)を止めれば、少なくとも、福島第1やチェルノブイリのようなシビア・アクシデントの可能性は大きく減ります。一年ほどすれば、燃料棒を原子炉から取り出して貯蔵プールに移すことができます。これで、さらに危険性は減ります。その三年後、燃料棒は中間処理施設に移せます。ここまでくれば、核燃料溶融や再臨界の危険性はなくなりますので、汚染物質や汚染水を徹底して管理することに注力すればよくなります。それでも、注意深く進める必要はあるのですが、これは、50年近くに渡って原発を認めてきてしまった私たちが、甘んじて背負わなくてはいけない、最低限の危険と負担と理解するしかないでしょう。
アメリカで、通称、マスキー法と呼ばれる大気浄化法改正法が成立したのは、1970年でした。提案者の上院議員、エドムンド・マスキーの名前を取って、マスキー法と呼ばれています。
その内容は、
●1975年以降に製造する自動車の排気ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
●1976年以降に製造する自動車の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
…というもの。5~6年で有害物質の排出量を1/10にするという極めて厳しい法律でした。当然、マスキー法の基準をクリアしていないクルマは、期限以降の販売を認めません。
規制値の厳しさから、世界中の自動車会社から強い反発を受けたマスキー法。実際には、細かい改訂が続いたようです。
しかし、当初の「厳しすぎるマスキー法」をクリアするクルマが、期限前の1973年に登場します。ホンダのシビック。搭載していたエンジンはCVCCと呼ばれる形式で、ホンダが独自に開発した低公害・低燃費のエンジンでした。それまでの常識からすれば奇跡のエンジン。シビックとCVCCは世界を席巻し、低公害車が一気に普及するキッカケになりました。「先行する行政」と「追いかける産業界」が見事に機能し合った好例とされます。
原発と無関係?いえいえ、そうではありません。
言いたいことは、イノベーション(技術革新)やブレークスルー(現状突破)への姿勢です。
「高い目標設定を行い、そこに向けて真摯に立ち向かうことで、新たなイノベーションやブレイクスルーが生まれる」ということなのです。一見、根性主義(笑)に思えますが、マスキー法とCVCCの歴史以外にも、たくさんの事例を見ることができます。「ガガーリンによる人類初の宇宙飛行」「アポロ11号による月面着陸」「東海道新幹線の成功」などは、その典型でしょう。
電力分野においても、イノベーションやブレークスルーは、絶対に可能です。
今、福島第1の事故を受けて、電力を中心とする日本のエネルギー政策をどうするのかが大きな問題となっています。
少なくとも減原発の方向性は固まってきました。
しかし、「今ある原発を寿命まで使い切れば、自動的に日本から原発はなくなる」という消極的な意見から、「すべての原発を直ちに止めて、廃炉行程に入るべきだ」という積極的な意見まで、広い幅があります。
当ブログは、後者の立場を取ります。なぜか?もうこれほどの危険性と隣り合わせの生活を送りたくないからです。周辺住民から平穏な暮らしと健康を奪い取り、農業と漁業を破壊し、長い期間にわたって食べ物を汚染し続ける。原発はもう要りません。
この間、「自然エネルギーの開発には時間がかかるので、当面は原発で」といった意見が、目立ってきています。しかし、少々の苦労はしつつも、私たちはこの夏を乗り切ることができました。京大の小出先生によれば、真夏のピーク時であっても、少しだけ我慢をすれば、原発がまったくなくても停電は起きません。
しかし、原発を無くすのは当然としても、二酸化炭素のことを考えたら、火力も減らしたい。大規模ダムも問題があるし… ということで、エネルギーの浪費をやめながら、自然エネルギーへのシフトを考える必要はあります。
その時に、イノベーションやブレークスルーを後押しする「高い目標設定」が必要なのです。
数日中に新しい総理が決まりそうですが、候補者はいずれも、脱原発から腰が引けていて、年内には止まっている原子炉を再稼働しようなどという発言も見られます。これは絶対に許してはなりません。新しい総理に求められているのは、敢えて高い目標設定をして、産業界の尻を叩くことなのです。
具体的に言えば、「すべての原発を直ちに停止し、廃炉プロセスへ」という明確な方向性の提示とともに、「1年以内に風力発電を○○万キロワットに」とか「3年以内に太陽光発電を○○万キロワットに」という目標を掲げることです。年限を区切って、電力会社に自然エネルギーの割合を上げさせ、達成できなければ罰則です。
産業界から言えば、国の方針が定まらないから、動きようにも動けないという状況もあるのです。マスキー法とCVCCの奇跡を思い出しましょう!
幸い、風力発電や太陽光発電は、設備としては簡便なもので、やる気になれば、数ヶ月である程度の施設を作ることができます。地熱発電や潮力発電は、風力や太陽光ほど簡単ではありませんが、オリンピック用の競技場を作るつもりでやれば、アッと言う間に造れます。そこに、新たなイノベーションやブレークスルーが加われば、発電効率が上がり、建設コストやランニングコストが大幅に下がる可能性があります。
電力会社は、送電線が… 送電システムが… と言いますが、こんなものは、大雑把に言えば、電線を引くだけです。それに、この間、飛躍的な進歩を遂げているITを絡ませれば、問題は次々と解決していくことでしょう。ここにも、イノベーションやブレークスルーの可能性が十分にあります。
基本的な構図は、「先行する行政」と「追いかける産業界」です。そして、マスキー法の時には、「先行する行政」の背後には、反公害運動という安全と安心を求める市民の大きな声があったことを忘れてはなりません。
新総理にお任せでは何も動きません。まず、私たち一人ひとりが声を上げていくことです。
附記:
すべての原発を直ちに止めたとしても、危険がなくなるわけではありません。1963年の国内初の原子力発電から48年。溜め込んできた使用済み核燃料(放射性廃棄物)が放出する放射線が環境に影響を及ぼさないレベルになるまでには、10万年以上の年月が必要です。そして、それらを安全に保管するための最終処分場は日本にはありません(世界を見渡してもフィンランドにしかない)。たった48年のために、10万年以上に渡る危険を私たちは背負い込んでいます。この危険を今以上に増やしてはいけないのです。
そのためには、とにかく、すべての原発を止めて、廃炉への道に踏み出すこと。原子炉の運転(核分裂連鎖反応)を止めれば、少なくとも、福島第1やチェルノブイリのようなシビア・アクシデントの可能性は大きく減ります。一年ほどすれば、燃料棒を原子炉から取り出して貯蔵プールに移すことができます。これで、さらに危険性は減ります。その三年後、燃料棒は中間処理施設に移せます。ここまでくれば、核燃料溶融や再臨界の危険性はなくなりますので、汚染物質や汚染水を徹底して管理することに注力すればよくなります。それでも、注意深く進める必要はあるのですが、これは、50年近くに渡って原発を認めてきてしまった私たちが、甘んじて背負わなくてはいけない、最低限の危険と負担と理解するしかないでしょう。
デーモン・コア 再臨界を理解するために ― 2011/08/21 15:59
福島第1。使用済み核燃料プールについては、一応、循環冷却システムが稼働し、当面のさし迫った危機からは脱したと言えます(大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性があることを忘れてはなりませんが)。
一方、炉心でも注水による冷却を進めていますが、1号炉から3号炉まで、いずれも圧力容器に穴が空いているため漏水が多く、綱渡りの冷却が続いてます。
そんな中で、核燃料がふたたび溶融するのではないか… 再臨界が起きるのではないか… と危惧する声も出ています。ここでは、再臨界を正しく理解するために、そもそも核物質の臨界とは何なのか、そこまで立ち帰って説明していきます。怖がるにしても、正しく怖がる必要があるからです。
人類が核の恐怖に晒され始めたばかりの頃、すでに、実に簡単に起きてしまう臨界の怖さを教える重大な事件がありました。
舞台は、広島と長崎に投下された原爆を開発したアメリカ・ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所。原爆投下から間もない1945年8月21日、66年前の今日のことです。アメリカは、さらに破壊力の大きな核兵器の開発に躍起になっていました。
ロスアラモス国立研究所に所属する若手の物理学者ハリー・ダリアン(1921~1945)が実験に使っていたのは重さ6.2kgの球状のプルトニウム(大半がプルトニウム239で、一部、プルトニウム240を含む)の塊です。
一方、炉心でも注水による冷却を進めていますが、1号炉から3号炉まで、いずれも圧力容器に穴が空いているため漏水が多く、綱渡りの冷却が続いてます。
そんな中で、核燃料がふたたび溶融するのではないか… 再臨界が起きるのではないか… と危惧する声も出ています。ここでは、再臨界を正しく理解するために、そもそも核物質の臨界とは何なのか、そこまで立ち帰って説明していきます。怖がるにしても、正しく怖がる必要があるからです。
人類が核の恐怖に晒され始めたばかりの頃、すでに、実に簡単に起きてしまう臨界の怖さを教える重大な事件がありました。
舞台は、広島と長崎に投下された原爆を開発したアメリカ・ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所。原爆投下から間もない1945年8月21日、66年前の今日のことです。アメリカは、さらに破壊力の大きな核兵器の開発に躍起になっていました。
ロスアラモス国立研究所に所属する若手の物理学者ハリー・ダリアン(1921~1945)が実験に使っていたのは重さ6.2kgの球状のプルトニウム(大半がプルトニウム239で、一部、プルトニウム240を含む)の塊です。

核兵器や原子炉で使う連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こす物質として現在知られているのは、ウラン235とプルトニウム239だけです。この二つは、ある濃度で、ある分量が、ある形に集まった時、臨界に達します。
連鎖的核分裂反応(臨界反応)とは、原子が二つに割れる時に飛び出した中性子が、近くにある原子に吸収され、そこで次の核分裂を起こすという反応を連鎖的に繰り返すことです。それは、原爆が爆発する瞬間であり、原子炉の中では緩やかな臨界状態を保って、その時に生じる熱で発電をしているのです。
さて、ハリー・ダリアンの手元にあった、のちにデーモン・コア(悪魔のコア)と呼ばれるプルトニウムの塊。6.2kgの球状だったのは理由があります。それは、もう少し大きかったら臨界に達する大きさだったのです。球状になっていたのは、より少ない量で臨界に達するからです。球は、他のどの形よりも、同じ体積に対する表面積が小さくなるので、表面から逃げる中性子がもっとも少ない形。…と言うことは、もっとも臨界に達しやすい形なのです。
球状のプルトニウムの塊。もう少し大きくすれば臨界が起きるのですが、それでは、実験をしている自分が確実に死んでしまいます。ダリアンは、別な方法でプルトニウムを臨界に近い状態にしようとしていました。
塊の周囲に中性子を反射する炭化タングステンのブロックを積み上げたのです。ブロックを増やせば、逃げる中性子が減るので、同じ量でも臨界に達しやすくなるのです。
データを計測しながら、慎重に作業を進めるダリアン。その時、手が滑って、1個のブロックをプルトニウムの塊の上に落としてしまったのです。たちまちプルトニウムは臨界に達し、臨界反応が始まりました。ダリアンは、慌てて落としたブロックをプルトニウムの塊の上からどけましたが、すでに5.1シーベルトという大量の放射線を浴びており、25日後に急性放射線障害のため死亡しました。
もし、ブロックをどけることができなかったら、臨界反応が続き、もっと大量の放射線が放出され、死者はダリアン一人では済まなかったでしょう。プルトニウムの塊は、みずから発する熱で溶け出し、形が球状でなくなるまで、臨界反応が続いたはずです。
ダリアンの命の奪ったロスアラモス国立研究所のデーモン・コアは、翌1946年、カナダ出身の物理学者ルイス・スローティン(1910~1946)の命をも奪います。実験の形こそ違いますが、やはり臨界によって発生した大量の放射線による急性放射線障害でした。
さて、ここで一つの疑問が生まれます。連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、プルトニウム239なり、ウラン235なりに中性子が飛び込む必要があります。じゃあ、最初の核分裂を起こすための中性子はどこから来るのかというものです。
実は、プルトニウムやウランは、自然に核分裂を起こして中性子を発しているのです。これを自発的核分裂(または自発核分裂)と呼びます。
以下に、1kgのプルトニウムとウランが1秒間に自発的核分裂を起こす確率を記します。
●プルトニウム239: 7.01回/秒・kg
●プルトニウム240: 489,000回/秒・kg
●ウラン235: 0.0056回/秒・kg
●ウラン238: 6.93回/秒・kg
プルトニウムの塊には、プルトニウム239だけでなく、必ずプルトニウム240が含まれています。プルトニウム240は比較的高い頻度で自発的核分裂を起こすので、最初の1個の中性子は簡単に生まれます。
ウランの方は、ウラン235は自発的核分裂の確率は低いのですが、必ず一緒に存在するウラン238は、十分に高い確率で自発的核分裂を起こします。1999年9月30日に起きた東海村JCO臨界事故は、ウランによるものでした。臨界状態への引き金を引いたのはウラン238の自発的核分裂だったと考えられます。
なお、原爆や原子炉では、連鎖的核分裂反応をより確実に、均等に起こさせるため、別に中性子源を用意しています。
デーモン・コアの事件は、いとも簡単に臨界が起きることを教えています。
問題は、「濃度」と「大きさ」と「形状」です。
よく、炉心溶融(核燃料の溶融)と臨界(再臨界)が混同されますが、これはまったくの別物です。核燃料が溶けていなくても再臨界は起きるのです。そして、臨界状態になれば、大量の中性子線が飛び出し、近くにいる人は確実に死にます。また、ヨウ素131やセシウム137、ストロンチウム90といったやっかいな核分裂生成物が、これまた大量にばらまかれます。
この記事はここまでとして、次の記事で、今後、福島第1では核燃料の溶融や再臨界が起きる可能性があるのかを考えていきます。
イギリス、泥舟から逃げ出す ― 2011/08/04 17:29
昨晩(8月3日深夜)から各紙がイギリス・セラフィールドにあるMOX燃料工場の閉鎖を伝えています。
朝日新聞
毎日新聞
北海道新聞
MOX燃料(Mixed oxide fuel)というのは、ウラン・プルトニウム混合酸化物のことで、いわゆるプルサーマル発電のための燃料。言い換えれば、プルサーマルでは、たいへん毒性が強く核兵器にも転用しやすいプルトニウムを核燃料の一部として使用するということです。
今までに、日本でプルサーマル発電を導入している原子炉は、玄海3号炉(九州電力)、伊方3号炉(四国電力)、高浜3号炉(関西電力)と今回の事故で破壊され、大量の放射性物質をばらまいた福島第1の3号炉です。
この内、今現在、営業運転をしているのは高浜3号炉だけで、玄海3号炉と伊方3号炉は定期点検からの再稼働の見通しが立っていません。この二つの原子炉に関しては、具体的な安全性の問題だけでなく、やらせメールや説明会への電力会社からの動員が明らかになり、「誰がプルサーマルに賛成したのか?」「そもそもプルサーマルに賛成する世論はあったのか?」という問題にまでなっています。
近くプルサーマル発電を導入する予定になっているのは、浜岡4号炉(中部電力)、泊3号炉(北海道電力)などで、中電も北電も、今回の報道にかなり困惑しているようです。
世界的に見ると1960年代にヨーロッパ各国やアメリカでプルサーマル発電が積極的に進められた経緯がありますが、フランス以外は撤退の方向。今、プルサーマルに積極的な立場を取っているのは、日本とフランスだけです。
ところで、MOX燃料に使うプルトニウムは、どうやって手に入れるのでしょうか?
プルトニウムは使用済み核燃料の中に1%ほど含まれています(原子炉内でプルトニウムができる仕組みはこちらへ)。これを再処理工場で取り出して、MOX燃料工場に送っているのです。二つの工場は近い方が便利なので、イギリス・セラフィールドにも、再処理工場とMOX燃料工場の両方があります。
現在、再処理工場または再処理施設を稼働させている国は、フランス、イギリス、ロシア、インド、パキスタン、中国、北朝鮮、アルゼンチン、イスラエル(?)、そして日本だけです。日本で稼働中なのは東海再処理施設ですが、実験的な設備なので、大した処理能力はありません。そこで今、青森県六ヶ所村に規模の大きな再処理工場を作ろうとしているのです。試験運転中ですが、一方で、根強い反対運動が続いているのはご存じの通りです。
さて、「再処理工場」と言われると、危ないものを処理してくれそうで、何となく聞こえがよいですが、元々は、核兵器を作るための施設です。
ウラン原爆(広島型原爆)を作るためには、天然ウランの中に0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を90%以上にするという大変に難しい濃縮作業が必要です。
一方、プルトニウムは、使用済み核燃料の再処理で抽出できるので、プルトニウム原爆(長崎型原爆)はウラン原爆に比べると比較的簡単に製造できるのです。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル(?)の再処理工場は、核兵器と直接結びついています。フランス、イギリス、ロシアにしても、核兵器製造のために再処理の技術を高めてきたことに間違いありません。アメリカが、今現在、再処理工場を稼働させていないのは、プルトニウムがテロリストに渡るのを恐れているためと言われています。
もう一つ、今回の工場閉鎖の意味を考える上で忘れてはいけない視点があります。
他国の使用済み核燃料を受け入れているかどうか。実は、他国の分も請け負っているのは、フランスとイギリスだけです。フランスは、自国も核燃料サイクルやプルサーマルに積極的ですから、「ついでに稼ごう」という発想は分かります。ところがイギリスは、自国では核燃料サイクルにもプルサーマルにも取り組んでいません。イギリスの再処理工場とMOX燃料工場は、純粋に外貨稼ぎをするための施設なのです(かなり危険な稼ぎ方ですが)。そして、イギリスのMOX燃料工場の顧客は日本の電力会社だけです。
今回の工場閉鎖は、福島第1の事故を受けて、今後、MOX燃料の需要が激減、もしくはゼロになると判断した末のことでしょう。これは、ビジネスの問題です。
MOX燃料工場を管理する英国原子力廃止措置機関(NDA)は、「日本の地震と関連する事態がもたらす商業的リスクを分析した結果、将来的に英国の納税者に多大な負担をかけないためには、早期の工場閉鎖が唯一最善の選択肢」と明言しています。要するに赤字は出せないと。
この先、再処理工場も止める可能性が高いです。
プルサーマル以上にプルトニウムを効率的に使えるとされる高速増殖炉は、世界中どこの国でも、なんの見通しも立っていません(アメリカとEUはすでに計画を断念)。日本の「もんじゅ」は、事故に次ぐ事故を繰り返し、「廃炉に」という声が高まっています。
一方、プルサーマルも先が見えない。
プルトニウムもMOX燃料も、需要の見込みがないとなった今、イギリスにとって再処理工場とMOX燃料工場は無用の長物になりました。
イギリスは、核燃料サイクルという泥舟から、早々に退却することを決めたのです。
朝日新聞
毎日新聞
北海道新聞
MOX燃料(Mixed oxide fuel)というのは、ウラン・プルトニウム混合酸化物のことで、いわゆるプルサーマル発電のための燃料。言い換えれば、プルサーマルでは、たいへん毒性が強く核兵器にも転用しやすいプルトニウムを核燃料の一部として使用するということです。
今までに、日本でプルサーマル発電を導入している原子炉は、玄海3号炉(九州電力)、伊方3号炉(四国電力)、高浜3号炉(関西電力)と今回の事故で破壊され、大量の放射性物質をばらまいた福島第1の3号炉です。
この内、今現在、営業運転をしているのは高浜3号炉だけで、玄海3号炉と伊方3号炉は定期点検からの再稼働の見通しが立っていません。この二つの原子炉に関しては、具体的な安全性の問題だけでなく、やらせメールや説明会への電力会社からの動員が明らかになり、「誰がプルサーマルに賛成したのか?」「そもそもプルサーマルに賛成する世論はあったのか?」という問題にまでなっています。
近くプルサーマル発電を導入する予定になっているのは、浜岡4号炉(中部電力)、泊3号炉(北海道電力)などで、中電も北電も、今回の報道にかなり困惑しているようです。
世界的に見ると1960年代にヨーロッパ各国やアメリカでプルサーマル発電が積極的に進められた経緯がありますが、フランス以外は撤退の方向。今、プルサーマルに積極的な立場を取っているのは、日本とフランスだけです。
ところで、MOX燃料に使うプルトニウムは、どうやって手に入れるのでしょうか?
プルトニウムは使用済み核燃料の中に1%ほど含まれています(原子炉内でプルトニウムができる仕組みはこちらへ)。これを再処理工場で取り出して、MOX燃料工場に送っているのです。二つの工場は近い方が便利なので、イギリス・セラフィールドにも、再処理工場とMOX燃料工場の両方があります。
現在、再処理工場または再処理施設を稼働させている国は、フランス、イギリス、ロシア、インド、パキスタン、中国、北朝鮮、アルゼンチン、イスラエル(?)、そして日本だけです。日本で稼働中なのは東海再処理施設ですが、実験的な設備なので、大した処理能力はありません。そこで今、青森県六ヶ所村に規模の大きな再処理工場を作ろうとしているのです。試験運転中ですが、一方で、根強い反対運動が続いているのはご存じの通りです。
さて、「再処理工場」と言われると、危ないものを処理してくれそうで、何となく聞こえがよいですが、元々は、核兵器を作るための施設です。
ウラン原爆(広島型原爆)を作るためには、天然ウランの中に0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を90%以上にするという大変に難しい濃縮作業が必要です。
一方、プルトニウムは、使用済み核燃料の再処理で抽出できるので、プルトニウム原爆(長崎型原爆)はウラン原爆に比べると比較的簡単に製造できるのです。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル(?)の再処理工場は、核兵器と直接結びついています。フランス、イギリス、ロシアにしても、核兵器製造のために再処理の技術を高めてきたことに間違いありません。アメリカが、今現在、再処理工場を稼働させていないのは、プルトニウムがテロリストに渡るのを恐れているためと言われています。
もう一つ、今回の工場閉鎖の意味を考える上で忘れてはいけない視点があります。
他国の使用済み核燃料を受け入れているかどうか。実は、他国の分も請け負っているのは、フランスとイギリスだけです。フランスは、自国も核燃料サイクルやプルサーマルに積極的ですから、「ついでに稼ごう」という発想は分かります。ところがイギリスは、自国では核燃料サイクルにもプルサーマルにも取り組んでいません。イギリスの再処理工場とMOX燃料工場は、純粋に外貨稼ぎをするための施設なのです(かなり危険な稼ぎ方ですが)。そして、イギリスのMOX燃料工場の顧客は日本の電力会社だけです。
今回の工場閉鎖は、福島第1の事故を受けて、今後、MOX燃料の需要が激減、もしくはゼロになると判断した末のことでしょう。これは、ビジネスの問題です。
MOX燃料工場を管理する英国原子力廃止措置機関(NDA)は、「日本の地震と関連する事態がもたらす商業的リスクを分析した結果、将来的に英国の納税者に多大な負担をかけないためには、早期の工場閉鎖が唯一最善の選択肢」と明言しています。要するに赤字は出せないと。
この先、再処理工場も止める可能性が高いです。
プルサーマル以上にプルトニウムを効率的に使えるとされる高速増殖炉は、世界中どこの国でも、なんの見通しも立っていません(アメリカとEUはすでに計画を断念)。日本の「もんじゅ」は、事故に次ぐ事故を繰り返し、「廃炉に」という声が高まっています。
一方、プルサーマルも先が見えない。
プルトニウムもMOX燃料も、需要の見込みがないとなった今、イギリスにとって再処理工場とMOX燃料工場は無用の長物になりました。
イギリスは、核燃料サイクルという泥舟から、早々に退却することを決めたのです。
続・奇妙な一致(2) ― 2011/07/01 17:23
注意しなくてはいけないのは、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」が、 1985年~89年の間の乳がんによる死亡率に基づいている点です。原発地図が作られた2010年から逆算すると、稼働年数が0年から29年の原発グループを除いて考えなくてはなりません(この地図上で残るのは、「1980年以前に稼働し、現在も動いてる原発」=53基になります)。そうすると、先の地図で黒やグレーで塗られていたカリフォルニア州の一部には原発がないことになってしまいます。
しかし、よく考えてみると、上の条件に合う53基以外にも、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」に関連する原発がありうることが分かります。現在までに廃炉にされた原子炉と、1980年代前半に稼働し始めた原子炉です。インターネット上で、現在廃止されている原発まで、すべて網羅している資料を発見。
カリフォルニアには、「現在までに廃炉にされた原子炉と、1980年代前半に稼働し始めた原子炉」という条件にぴたりと当てはまる3つの原発があったのです(西暦は稼働時期)。
●フンボルト湾原発
1963~1980
●サンオンフレ原発
1号炉:1967~1992
2号炉:1982~
3号炉:1983~
●ランチョセコ原発
1974~1989
この内、ランチョセコ原発は、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの事故を受けて、住民運動が廃炉に追い込んだ原発です。この件は、別の機会に紹介するとして…
上記、3つの原発を地図上にプロットしてみました。
「奇妙な一致」を越えて「驚くべき一致」!正直言って、背筋が寒くなりました。J.M.グールドの「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」に認められる例外は、ロッキー山脈とミシシッピー川の間にある5つの原子炉だけです。
さて、このグールドの研究を日本に紹介した『内部被曝の脅威』(ちくま新書)の著者・肥田舜太郞さんは、グールドの統計手法を日本に当てはめようと考えたそうです。しかし、日本で原発の周りに160km圏を設定すると、日本中が塗りつぶされてしまい、その試みを諦めたそうです。笑えないどころか、恐ろしいエピソード。そして、それこそが、日本列島に今ある低線量被ばくの実情に他なりません。福島第1の事故を算入しなくても、すでにそこにある原発の恐怖。もう一度認識し直しましょう。
原子力発電所の大きくて高い煙突…
あそこから出ている白い煙は、単なる水蒸気ではありません。必ず核分裂生成物(放射性物質)が含まれているのです。
追記:
今回、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」を追跡するに当たって、当サイトよりも先に、独自の観点からこの資料を取り上げていたサイトを発見しました。敬意を表するとともに、ここにご紹介させていただきます。
<3.11 乳がんの増加が示すもの>
さて、このグールドの研究を日本に紹介した『内部被曝の脅威』(ちくま新書)の著者・肥田舜太郞さんは、グールドの統計手法を日本に当てはめようと考えたそうです。しかし、日本で原発の周りに160km圏を設定すると、日本中が塗りつぶされてしまい、その試みを諦めたそうです。笑えないどころか、恐ろしいエピソード。そして、それこそが、日本列島に今ある低線量被ばくの実情に他なりません。福島第1の事故を算入しなくても、すでにそこにある原発の恐怖。もう一度認識し直しましょう。
原子力発電所の大きくて高い煙突…
あそこから出ている白い煙は、単なる水蒸気ではありません。必ず核分裂生成物(放射性物質)が含まれているのです。
追記:
今回、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」を追跡するに当たって、当サイトよりも先に、独自の観点からこの資料を取り上げていたサイトを発見しました。敬意を表するとともに、ここにご紹介させていただきます。
<3.11 乳がんの増加が示すもの>
続・奇妙な一致(1) ― 2011/07/01 16:55
「奇妙な一致」の続編です。前稿は、日本語のサイトや文献からの孫引きだったせいもあり、一部に不十分な内容がありました。
決定的な間違いは無かったのですが、確かに資料として説得力を欠く部分があったことをお詫びします。
そこで、さっそく再挑戦!みずからの中学生レベルの英語力を駆使して、オリジナルのソースを探ってみました。
まず、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」は
、J.M.グールドという統計学者が著した「The Enemy Within:The High Cost of Living Near Nuclear Reactors」(1996年刊)にある記述です。ネット上に、一部を抜粋している英語のサイトを発見。私の英語力では力が及びませんでしたので、仕事で翻訳もやっている友人の協力を得て和訳しました。感謝!
【翻訳】
米国に約3,000ある郡のうち、およそ半分は「核」郡であると定義することができます(地図上に黒とグレーで表示されている部分を指すと思われる(訳者))。というのも、それらは原子炉から100マイル(160km)以内に位置しているからです。1985~89年における全米の乳がん死亡者の2/3以上が、これらの地域に集中しており、乳がんの年齢調整死亡率[訳注あり]においても、10万人当たり約26人となっています。これはその他の地域の22人と比べても、はっきりと高いことが分かります。
決定的な間違いは無かったのですが、確かに資料として説得力を欠く部分があったことをお詫びします。
そこで、さっそく再挑戦!みずからの中学生レベルの英語力を駆使して、オリジナルのソースを探ってみました。
まず、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」は
、J.M.グールドという統計学者が著した「The Enemy Within:The High Cost of Living Near Nuclear Reactors」(1996年刊)にある記述です。ネット上に、一部を抜粋している英語のサイトを発見。私の英語力では力が及びませんでしたので、仕事で翻訳もやっている友人の協力を得て和訳しました。感謝!
【翻訳】
米国に約3,000ある郡のうち、およそ半分は「核」郡であると定義することができます(地図上に黒とグレーで表示されている部分を指すと思われる(訳者))。というのも、それらは原子炉から100マイル(160km)以内に位置しているからです。1985~89年における全米の乳がん死亡者の2/3以上が、これらの地域に集中しており、乳がんの年齢調整死亡率[訳注あり]においても、10万人当たり約26人となっています。これはその他の地域の22人と比べても、はっきりと高いことが分かります。
もっともリスクの高い「核」郡は、地図上に黒く記してあります。この地域は、主に10万人当たりの乳がん死亡率が28人と高い数値を示した北東部であり、ここには、同32人という高い値を示したニューヨーク郊外も含まれています。これらは、最も原子炉が集中している地域と重なるのです。
また、五大湖と西海岸の「核」郡も10万人当たりの乳がん死亡率が、全米国比率の24.6人を明らかに上回る結果となっています。
ハンフォードのDOE原子炉[訳注あり]や、アイダホやニューメキシコの国立研究所[訳注あり]周辺の南部の「核」郡は、グレーで記されていますが、1950年以来、(乳がん死亡率が)全米比率と比べても、かなり大きい増加を示してきました。
また、五大湖と西海岸の「核」郡も10万人当たりの乳がん死亡率が、全米国比率の24.6人を明らかに上回る結果となっています。
ハンフォードのDOE原子炉[訳注あり]や、アイダホやニューメキシコの国立研究所[訳注あり]周辺の南部の「核」郡は、グレーで記されていますが、1950年以来、(乳がん死亡率が)全米比率と比べても、かなり大きい増加を示してきました。
また、米国基準を上回る放射性物質漏出をしたことがない5つの原子炉周辺を含む「非核」郡は、地図上に影がつけられていません。これらは、主にロッキー山脈とミシシッピー川に挟まれた地域で、ここでは乳がん死亡率が低下していることが見てとれます。
□訳注
●年齢調整死亡率=死亡率を比較する場合、年齢構成に差があるので自治体ごとにばらつきが出ます。つまり、高齢者の多い地域では高くなり、若年者の多い地域では低くなってしまうのです。そこで、年齢構成の異なる地域間の死亡状況を比較するために、年齢構成を調整した死亡率を「年齢調整死亡率」といいます。
●ハンフォードのDOE原子炉=マンハッタン計画でプルトニウムの精製が行ったハンフォード核施設のこと。ワシントン州東南部にあります。
●アイダホの国立研究所=国立原子炉試験基地(現在のアイダホ州国立研究所)のこと。世界初の原子力発電を行った施設です。
●ニュー・メキシコの国立研究所=広島と長崎に投下された原爆を製造したロスアラモス研究所のことです。
【翻訳関連ここまで】
長くなりそうなので、ここで記事を分割することにします。
イタリアは原発にサヨナラ! ― 2011/06/13 21:44
福島第1原発の事故を受けて、ヨーロッパ各国で脱原発への動きが激しいのは、皆様ご存じ通りです。
イタリアでは、チェルノブイリ事故をきっかけに、すべての原発が止められていました。期を見るに敏なベルルスコーニ政権が福島第1の事故を受けて、「新しい原子力発電所の建設を凍結を継続する」と発表したのは、4月の末でした。
しかし、イタリアの人々は、この誤魔化しを見逃しませんでした。「これでは、原発再開のためのフリーハンドを政府に与えてしまう」と。
そして実施されたのが今回の国民投票。結果は、ベルルスコーニ首相のコメントに見事に現れています。「イタリアは原発にさよならを言わなければならない」と。原発反対票は、なんと95%近くに。これは歴史的な出来事です。
しかし、イタリアの人々は、この誤魔化しを見逃しませんでした。「これでは、原発再開のためのフリーハンドを政府に与えてしまう」と。
そして実施されたのが今回の国民投票。結果は、ベルルスコーニ首相のコメントに見事に現れています。「イタリアは原発にさよならを言わなければならない」と。原発反対票は、なんと95%近くに。これは歴史的な出来事です。
ある意味で悔しい思いがあります。
FUKUSHIMAという人類史上に残る大事故を起こしてしまった日本人。広島・長崎という悲劇があったのも日本でした。人類が、原子力から、核から手を切るために、最初に行動すべきは私たちのはずです。イタリア人に先を越されてしまった!
足もとを見たら、日本の政治はポスト菅をめぐって大混乱。そこには、反原発の一言も、脱原発の一言もありません。
そこで、ひとつの提案があります。
次の総理大臣は、「国政史上初の脱原発総理」にしなくてはならないと。
もちろん、日本には事実上国民投票制度はありませんから、イタリアのように行きませんが、マスメディアは、徹底した世論調査と、候補者に対するアンケートを行うべきでしょう。
設問は、
●原子力発電所に関して:
1.すべて原子力発電所を出来るだけ早く停止して、全部の原子炉を廃炉にすべき。
2. このまま、この夏を越えてから、原子炉を廃炉のスケジュールを考えるべき(当面、再稼働はなし)。
3. 5年から10年をかけてすべて原子力発電所を停止すべき(その後、廃炉)。
4. 原子力発電所はできるだけたくさん稼働させるべき。
5. その他(具体的に=)
●東日本大震災の復興財源について:
1. 消費税増税を主にすべき。
2. 法人税増税を主にすべき。
3. 国債発行を主にすべき。
4. その他(具体的に=)
これでいいんじゃないですか?
言葉は悪いですが、次期総理大臣を選ぶに当たって、「原子力」を踏み絵にすべきです。
しかし、私たちが黙っていては、そんなことは起きません。
国会議員に「原発推進の首相候補を推したら、次の選挙で、あなたの当選はないよ」という圧力をかけること。ありとあらゆる力を振り絞って。
そして、まさに「民意」を政治に反映させるためのテコとして、マスメディアに、今度こそ力を発揮して欲しいと思います。
追記:
私は、「6.11脱原発100万人アクション」に参加してきました。集会やデモに出るのは7~8年ぶりです。
いやぁ~、元気が出ました。
結局、一人で考えていると、「水道がヤバイ」「野菜がヤバイ」「お茶がヤバイ」と、目の前の恐怖に対峙して、どんどん追い込まれていくだけなのです。もちろん、さし迫る恐怖はあります。それへの対応もしなくてはいけません。でも、少しでも出口を探したいじゃないですか。
答えは、日本中の、そして、世界中の原子炉を出来るだけ早く廃炉に追い込むことです。そのためには、選挙の一票をだけでは不十分だし、それを待っているわけにもいきません。
6月11日。2万人の人々が新宿駅東口を埋め尽くしました(主催者も人数を掌握できる状態ではなかったので、2万人を欠けたかも知れませんし、越えていたかも知れません)。当初、規制に乗り出していた機動隊も、あまりの数の多さに手の出しようがないという状態。私たちの力も捨てたもんじゃないぞ(笑)。
恐怖に追い込まれているだけではなく、より良い出口を探そう!そういう思いの人たちが、実はたくさんいるのだと分かっただけでも、嬉しい経験でした。
FUKUSHIMAという人類史上に残る大事故を起こしてしまった日本人。広島・長崎という悲劇があったのも日本でした。人類が、原子力から、核から手を切るために、最初に行動すべきは私たちのはずです。イタリア人に先を越されてしまった!
足もとを見たら、日本の政治はポスト菅をめぐって大混乱。そこには、反原発の一言も、脱原発の一言もありません。
そこで、ひとつの提案があります。
次の総理大臣は、「国政史上初の脱原発総理」にしなくてはならないと。
もちろん、日本には事実上国民投票制度はありませんから、イタリアのように行きませんが、マスメディアは、徹底した世論調査と、候補者に対するアンケートを行うべきでしょう。
設問は、
●原子力発電所に関して:
1.すべて原子力発電所を出来るだけ早く停止して、全部の原子炉を廃炉にすべき。
2. このまま、この夏を越えてから、原子炉を廃炉のスケジュールを考えるべき(当面、再稼働はなし)。
3. 5年から10年をかけてすべて原子力発電所を停止すべき(その後、廃炉)。
4. 原子力発電所はできるだけたくさん稼働させるべき。
5. その他(具体的に=)
●東日本大震災の復興財源について:
1. 消費税増税を主にすべき。
2. 法人税増税を主にすべき。
3. 国債発行を主にすべき。
4. その他(具体的に=)
これでいいんじゃないですか?
言葉は悪いですが、次期総理大臣を選ぶに当たって、「原子力」を踏み絵にすべきです。
しかし、私たちが黙っていては、そんなことは起きません。
国会議員に「原発推進の首相候補を推したら、次の選挙で、あなたの当選はないよ」という圧力をかけること。ありとあらゆる力を振り絞って。
そして、まさに「民意」を政治に反映させるためのテコとして、マスメディアに、今度こそ力を発揮して欲しいと思います。
追記:
私は、「6.11脱原発100万人アクション」に参加してきました。集会やデモに出るのは7~8年ぶりです。
いやぁ~、元気が出ました。
結局、一人で考えていると、「水道がヤバイ」「野菜がヤバイ」「お茶がヤバイ」と、目の前の恐怖に対峙して、どんどん追い込まれていくだけなのです。もちろん、さし迫る恐怖はあります。それへの対応もしなくてはいけません。でも、少しでも出口を探したいじゃないですか。
答えは、日本中の、そして、世界中の原子炉を出来るだけ早く廃炉に追い込むことです。そのためには、選挙の一票をだけでは不十分だし、それを待っているわけにもいきません。
6月11日。2万人の人々が新宿駅東口を埋め尽くしました(主催者も人数を掌握できる状態ではなかったので、2万人を欠けたかも知れませんし、越えていたかも知れません)。当初、規制に乗り出していた機動隊も、あまりの数の多さに手の出しようがないという状態。私たちの力も捨てたもんじゃないぞ(笑)。
恐怖に追い込まれているだけではなく、より良い出口を探そう!そういう思いの人たちが、実はたくさんいるのだと分かっただけでも、嬉しい経験でした。
モンゴルの最終処分場 ― 2011/05/11 15:48
5/9、毎日新聞の一面トップは、「核処分場:モンゴルに建設計画 日米、昨秋から交渉 原発ビジネス拡大狙い」という大スクープでした。
見出しにある「核処分場」とは、高レベル放射性廃棄物の最終処分場のこと。世界的に行き先がなくなってしまい、各国とも苦慮している原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分場を日・米・モンゴル共同で作り、ロシアやフランスの原発ビジネスに対抗する計画だったようです。また、日本もアメリカも国内で高レベル放射性廃棄物を処理できず、溜めるだけ溜め込んでいる状況ですから、それをモンゴルに持って行こうという腹づもりもあったでしょう。世界中の目を避けるように極秘裏に、とんでもない計画が進んでいました。
さて、高レベル放射性廃棄物の最終処分場とはどういうものなのでしょうか?まず、高レベル放射性廃棄物=使用済み核燃料と考えて問題ありません。日本では一日あたり1.4トンも発生しています。
使用前の核燃料は核分裂を起こすウラン235が4.1%、ほとんど核分裂しないウラン238が95.9%というのが、福島第1原発のような沸騰水型原子炉では一般的です。
約3年間原子炉内で使用したあと、使用済み核燃料になります。この時点でもウラン235は最初の1/3ほど残っているのですが、核分裂の効率が悪くなっているので、捨てざるをえません。また、ウラン235の核分裂で発生した核分裂生成物質(セシウム137・ストロンチウム90など100種あまり)が4.5%、同じく核分裂で発生した中性子をウラン238が吸収してできるプルトニウム239が1.1%とという比率になります。
見出しにある「核処分場」とは、高レベル放射性廃棄物の最終処分場のこと。世界的に行き先がなくなってしまい、各国とも苦慮している原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分場を日・米・モンゴル共同で作り、ロシアやフランスの原発ビジネスに対抗する計画だったようです。また、日本もアメリカも国内で高レベル放射性廃棄物を処理できず、溜めるだけ溜め込んでいる状況ですから、それをモンゴルに持って行こうという腹づもりもあったでしょう。世界中の目を避けるように極秘裏に、とんでもない計画が進んでいました。
さて、高レベル放射性廃棄物の最終処分場とはどういうものなのでしょうか?まず、高レベル放射性廃棄物=使用済み核燃料と考えて問題ありません。日本では一日あたり1.4トンも発生しています。
使用前の核燃料は核分裂を起こすウラン235が4.1%、ほとんど核分裂しないウラン238が95.9%というのが、福島第1原発のような沸騰水型原子炉では一般的です。
約3年間原子炉内で使用したあと、使用済み核燃料になります。この時点でもウラン235は最初の1/3ほど残っているのですが、核分裂の効率が悪くなっているので、捨てざるをえません。また、ウラン235の核分裂で発生した核分裂生成物質(セシウム137・ストロンチウム90など100種あまり)が4.5%、同じく核分裂で発生した中性子をウラン238が吸収してできるプルトニウム239が1.1%とという比率になります。
この放射性物質だらけの使用済み核燃料(高レベル放射性廃棄物)を地層の奥深くに埋めてしまおうというのが、最終処分場です。
今、フランスと日本では、使用済み核燃料を再処理して、ウラン235とプルトニウム239だけを取り出し、再度発電に利用する核燃料サイクルを実現しようとしていますが、この場合も、再処理施設から大量の高レベル放射性廃棄物が出てくることに違いはありません(核燃料サイクルと再処理施設は他にいくつもの大きな問題を抱えているのですが、それは別の機会に触れます)。
日本では現在、高レベル放射性廃棄物をどうしているかというと、大半は原子力発電所の敷地内で保管している状態です。2009年9月末時点で1万2840トンに膨れあがっています(これまでにフランスとイギリスに再処理を委託した7100トンを除いてです)。
世界中で、現在までに最終処分場の建設が具体的に始まっているのはフィンランドだけ。2020年に操業を開始する予定ですが、「高レベル放射性廃棄物が安全になる十万年後まで責任を負いきれるか」という議論が巻き起こっています(映画『100,000年後の安全』)。
アメリカでは、2002年にブッシュ政権がネバダ州ユッカ山地に最終処分場の建設を決定しましたが、地元の反対にあってオバマ政権は2009年に計画中止を発表。高レベル放射性廃棄物の行き先は宙に浮いています。
日本だけでなく、世界の原子力発電は、まさに、トイレのない超高層マンション状態。どこも、放射性廃棄物であふれんばかりです。それをモンゴルに押しつけようという、とんでもないプランが動き始めていたのです。
人類は、もうこれ以上、放射性廃棄物を作り出してはいけません。そのうねりを日本から生み出していく。それは、唯一の被爆国であり、福島第1の事故を経験した日本人の責任とも言えるのではないでしょうか。
そして、今すぐにすべての原発を止めたとしても、日本だけですでに1万2千トン以上の高レベル放射性廃棄物を抱え込んでいます。どこかに最終処分場を作らざるえないという厳しい現実から目をそらすことはできません。
BBCが伝える福島第1原発事故 ― 2011/03/28 18:38
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