東京と原発2014/02/02 14:10

目前に迫った東京都知事選。原発への対応が大きな争点になっています。

なぜ、東京都民が原発のことを論じる必要があるのか?
「福島第1で発電した電気の大半は東京で消費していたから」「東京にも放射性物質が降り注いだから」「いまだに東京にも空間線量の高いホットスポットがあるから」「事故直後に飲料水の使用制限がかかったことを覚えているし」など、いろいろです。それぞれもっともで、間違ってません。

しかし、もっとも重大なことを見落としているような気がします。
福島第1の事故が、今のレベルで収まっているのは、いくつかの幸運があったからなのです。
東北はもとより、東京都を含むほぼ関東全域から、全住民が避難を余儀なくされる可能性があったのです。これは、低い確率ではありませんでした。
不適切な言葉かも知れませんが、"不幸中の幸い"が重なって、今、東京には人が住んでいられるのです
本当は何があったのか… 事実を正確に知れば、今、東京都民こそが、即時脱原発に邁進すべきだと理解できるでしょう
【どうか福島をはじめとする被災者の皆さんは気を悪くしないでください。当サイトの主張は「年間1ミリシーベルト以上の地域の住民には、無条件の移住権と完全なる生活の保障を!」で変わりません

何が起きようとしていたのか… たどってみましょう。
3.11から2週間後の3月25日に、当時の近藤駿介内閣府原子力委員長が菅首相に提出した報告書。いわゆる『最悪のシナリオ』と呼ばれるものがあります。そこに書かれていたのは、「原発事故の今後の推移によっては、東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた福島第1から250kmの範囲が、避難が必要な程度に汚染される」という衝撃的な内容でした。当時まだ、東電も国も、メルトダウンをはっきりとは認めず、「核燃料の健全性は守られている」などと言っていた頃です。

『最悪のシナリオ』に書かれていた"原発事故の今後の推移"とは、何を指しているのか…
1号機・3号機の再爆発も想定されていましたが、もっとも重大だったのは、4号機使用済み核燃料プールのメルトダウンと再臨界です。
当時、この核燃料プールには、1331本の使用済み核燃料と204本の新燃料がありました。

チェルノブイリ4号機の炉心にあった核燃料は、福島第一形に換算する699本です。4号機の核燃料プールだけで、倍以上の量があったのです。さらに、1号機から4号機まで、すべて合わせると4604本の核燃料が。チェルノブイリの7倍近くに達するのです。

4604本の核燃料が、メルトダウンや再臨界を起こしたら… 背筋が凍るとはこのことです。チェルノブイリでは半径30kmが強制避難の基準でしたが、『最悪のシナリオ』が250kmを想定した理由は、この膨大な核燃料によるのです。

では、なぜ、今のレベルで事故が収まっているのか…
東電が2011年12月2日に公表した「福島原子力事故調査報告書(中間報告書)」の添付資料を見てみましょう。

3月13日あたりから、プールの水位が一気に下がり始めます。全電源喪失によって、冷却水の循環が止まり水温が上昇。3月13日には沸騰が始まっていたのです。沸騰すると、水は急速に蒸発します。そして、燃料棒を包み込んでいるジルコニウムと水が反応して、大量の水素が発生します。
3月15日午前6時14分、何かの火がたまっていた水素に引火して、4号機建屋は水素爆発で吹っ飛びました。

写真は、爆発の凄まじさを物語っています。
しかし、結果的には、この爆発こそが"不幸中の幸い"だったのです。建屋の壁が壊れた部分から注水して、なんとか燃料棒を冷やし続けることができました。
そして、もう一つの偶然は、原子炉の上にある原子炉ウェルに、たまたま溜めてあった水が、プールに流れ込んだのです。「水圧の関係でゲートが壊れた」と言われていますが、時系列で見ると、ゲートが壊れたのも、爆発のせいである可能性が高いです。

さて、外からの注水と原子炉ウェルからの水の流入で、辛うじて最悪の事態を脱するのですが、たとえば、地震のせいで、建屋の上部に水素を逃がす小さなすきまが開いていたらどうなっていたでしょうか?あるいは、水素爆発がもう少し小規模で、注水できるほどの穴が開かなかったらどうなっていたでしょうか?
ほどなく水はなくなり、核燃料は溶融(メルトダウン)を始めます。最初に溶け出すのは、大きな崩壊熱を出す使用済み核燃料です。ドロドロに溶けた使用済み核燃料は、みずからはほとんど発熱しない新燃料をも巻き込んで、これも溶かしてしまいます。
新燃料には臨界しやすいウラン235が高い濃度で含まれています。ウラン235は一か所に多く集めると臨界を起こします。だからこそ、細い燃料棒に分けているのです。これが溶けて集まったら、アッと言う間に臨界です。連鎖的核分裂反応によって、たくさんの放射性物質と放射線がまき散らされ、巨大な熱が出ます。次に来るのは、大規模な水素爆発か、あるいは、メルトダウンした核燃料が、地下水か海水に触れて起きる水蒸気爆発。4号機のみならず、福島第1全体が、今とは比較にならないほど酷い状態になっていたはずです。たくさんの人命が失われたでしょう。
そして、チェルノブイリの数倍という放射性物質が東日本を覆い、私たちは我先にと、西へと逃げたのでしょう。東日本は終わりです。

忘れてはならないのは、ここで想定した事態は、「もしかしたら起きたかも知れない」というレベルのものではないということです。「避けられたことが奇跡的」と言っても差し支えないでしょう。
「水素爆発で建屋の壁に穴が開いた」「原子炉ウェルのゲートが壊れた」という2つの大きな偶然が重なって、なんとか『最悪のシナリオ』は回避でき、今も東京に人が暮らせているのです。

東京都民は、もう一度、福島第一原発の事故の、特に当初の推移を思い出し、みずからの問題として問い直してみる必要があります。
私たちは、原発とは共存できません。

汚染水問題に出口はあるのか?(下)2013/09/01 16:23

ボルトで接合し、シリコンゴムのパッキンをはさんだだけの組み立て式鉄製タンク。中に入っているのは塩分を含んだ高濃度汚染水。鉄だから錆びます。シリコンゴムは放射線と太陽光線で腐食。
こんな誰にでも予想のつくことが、東電には分かっていなかったのでしょうか?漏れるのは織り込み済みで、当面、世の中の厳しい目を交わすために、もっとも安い方法を選んだのではないか… これはもう疑いの域ではありません。

東電経営陣の頭の中には、「福島第1を環境から切り離して汚染拡大を防ぐ」とか「放射性物質の海への流出を絶対に阻止する」といった考えはありません。漁民の生活も作業員の安全も頭の片隅にすらないのでしょう。「最終的に海に流してしまえば、太平洋が薄めてくれる」程度にしか考えていないのです。

汚染水問題は重大です。放射性物質で地下水を汚し、海を汚すことは、大きな生態系を取り返しのつかない状態にしてしまうことを指します。もちろん私たちの命や健康にも直接関わってくる問題です。
安倍政権は「国の責任で抜本的対策を取る」などと、得意の空手形を切っていますが、そう簡単にはいかないでしょう。
いくつかの設問をあげて考えていきましょう。

●今ある汚染水をどうするのか?

にわか作りのタンクにため込まれている汚染水は、今の段階で33万トンにも及びます。今後も汚染水漏れは次々と起きるでしょう。そういう造りのタンクですから。ここにある汚染水を恒久的な貯蔵施設に移さなくてはいけないのに、その方策は見えません。

政府や東電が汚染水対策の切り札としているのが、汚染水から約60種類の放射性物質を取り除くことができるという多核種除去設備(ALPS)。しかし、トラブル続きで、ALPSそのものからの汚染水漏れも明らかになったばかりです。
仮にALPSがまとも稼働したとして、汚染水から取り除いた放射性物質はどうするのか?これもまた具体案なしです。
放射性物質は中和も解毒もできません。どんな形で存在しても、放射線を発し続けるのです。
さらに問題なのは、ALPSでも取り除けないトリチウムという放射性物質です。分かりやすく言えば放射性の水素。東電の目論見は、ALPSで処理した水を海に放出するというものですが、高濃度のトリチウムを含んでいるので、絶対に許されません。
トリチウムについては以下をご参照ください。
【トリチウムの恐怖(前編)】
【トリチウムの恐怖(後編)】

●流入する地下水をどうするのか?
福島第1の1号機から4号機には、1日約1000トンの地下水流入があり、うち300トンが汚染水となって海に流出。400トンが建屋に流入して回収されタンクへ。残りの300トンは行方不明!
REUTERS【福島第1の汚染水、1日300トンが海に流出と試算=エネ庁】

地下水の流入を防ぐために、凍土壁という方法が俎上に乗っていますが、これは恒久的な対策と呼べるのでしょうか? 地下水の流入は、最低でも100年間は防がなくてはなりません。凍土壁は冷凍庫と同じ原理で、パイプの中を通る冷却液で、まわりの土を凍らせるもの。もちろん電気が必要です。こういった施設を100年間、止まることなく動かせると誰が約束できるのでしょうか?抜本的対策とは呼べません。またまた無駄な資金の投入になるだけでしょう。

福島第1を環境から切り離すという考え方は正しいでしょう。しかし造るべきは、絶対に100年、いや200年、300年耐える施設です。運用に資金や手間がかからないことも重要です。

●いつまで冷やさなくてはいけないのか?
この設問は、東電も、政府も、マスメディアも避けて通っています。しかし、水で冷やしている限り、汚染水問題を避けて通ることはできません。
冷やすのをやめると、一度メルトダウンして溶けた燃料棒が、その中にある核分裂生成物の崩壊熱で、ふたたび溶け出す恐れがあります。これを再溶融と言います。再溶融した核燃料が大きな塊になると再臨界が起き、新たな放射性物質が大量に撒き散らされます。大規模な再臨界が起きれば、東北はおろか東日本のほとんどが、人の住めない場所になるでしょう。なにしろ、制御不能に陥っている核燃料の量で見ると、福島第1はチェルノブイリの6.6倍もあるのです。
今は、制御不能だが、なんとかなだめすかしている状態。これがすべて暴走することがあったら恐ろしい事態になるのです。
参考記事【附記:どうにも腑に落ちない水素発生】

一方、事故から2年半という月日が経とうとしています。核燃料内の崩壊熱は、少しずつ下がってきています。しかし、溶けた核燃料がどういう形で固まっているのか、まったく分からないので、水で冷やすのを止めることができないでいます。核燃料の塊の形や大きさによって、再溶融や再臨界を起こす条件が違うからです。

いつ、どの段階で水による冷却を止めるのか?水を止めたあと、どうやって放射性物質の飛散を防ぐのか?
もちろん人類史上初めての難しい試みです。「日本の知を結集して」なんてレベルではなく、「人類の知を結集して」取り組むべき課題です。日本政府は、恥も外聞も棄てて、世界に向けてSOSを発するべき段階にまで来ているのです。
もちろん、東京電力に任せられる問題ではありません。脇見運転で大暴走事故を起こしたドライバーに、みずから事故処理を任せているようなものなのです。現状は。
こんなことは普通、あり得ないでしょう?

汚染水問題に出口はあるのか?(上)2013/09/01 16:05

汚染水問題。出口が見えません。
今朝も新たな汚染水漏れが明らかになりました。
毎日新聞【福島汚染水漏れ:高放射線量を検出 敷地内の同型2基から】

タンク鋼板の接合部(例のボルトで接合した部分を指しているのか)から汚染水がしみ出しているだけで、毎時1800ミリシーベルト。
ご存じの通り一般公衆の線量基準は年間1ミリシーベルトです。なんと1,576万8千倍!この放射線を浴びたら、たった2秒で1ミリシーベルトに達します。
放射線業務従事者の年間20ミリシーベルト(5年間で100ミリシーベルト)という基準には40秒で。すべての人が死に至るという7000ミリシーベルトにも4時間足らずで達してしまいます。
まず、この毎時1800ミリシーベルトが、とんでもなく危険な放射線量であることを確認しましょう。

東京電力曰く「タンクの監視は目視で行っていたが、先月末から放射線の測定器を携帯した結果、高い放射線量が観測された」と。放射線を発する高濃度の汚染水タンクの監視に線量計すら持って行かなかった… マスメディアは、その「ずさんさ」を指摘していますが、おそらく東電は、「線量計を持って行けば、どこかで高線量が出てしまうから」と、汚染水漏れを織り込んだ上で、あえてずさんなパトロールで済ませていたのでしょう。

もうひとつ、8月20日に発覚した300トンの汚染水漏れ。
福島民報【タンク汚染水漏れ過去最大300トン 第一原発 高濃度8000万ベクレル検出】

見出しになっている「8000万ベクレル」は「1リットル当たり」の濃度です。漏れたのは300トンですから合計24兆ベクレル。
これはもう非常事態です。「原発事故収束宣言」はただちに撤回すべきです。

ここでひとつ明らかになったことがあります。この300トンには、放射性セシウム(セシウム137とセシウム134)が高濃度で含まれていたのです。
以下は、原子力規制庁が明らかにした数字です。
セシウム134 : 4万6千ベクレル/リットル
セシウム137 : 10万ベクレル/リットル
全ベータ線核種:8000万ベクレル/リットル
参照:キノリュウイチのblog

この数字をどう見るかですが、まず、セシウム除去装置を通したあとの汚染水なのに、放射性セシウムがかなり残っていることが分かります。
ちなみに国が示した<海への放出が認められる放射性
セシウムの濃度限界>は、セシウム134が60ベクレル/リットル、セシウム137は90ベクレル/リットルです。セシウム除去装置の効果は知れたものです。
そして、問題はセシウムだけではありません。見方を変えると、さらに恐ろしい事態が浮き彫りになります。濃度限界をはるかに超える高濃度の放射性セシウムは、汚染水に含まれる全ベータ線を出すすべての放射性元素(全ベータ線核種)の0.18%の過ぎないのです。とんでもなく高濃度の汚染水なのだということが、お分かりいただけるでしょう。
セシウム以外の99.82%には、多くのストロンチウム90が含まれています。その危険性については、以下の当ブログの記事を参照してください。

【ストロンチウム90に警戒を】
【再度、ストロンチウム90に警戒を】
【海からストロンチウム】
【恐怖のストロンチウム90】

長くなってしまったので、ここで記事を分けることにします。

附記:どうにも腑に落ちない水素発生2012/04/05 11:32

「どうにも腑に落ちない水素発生」の参考資料として、チェルノブイリと福島第1の事故を「制御不能に陥った核燃料の量」という視点から比較した一覧表をアップします。

福島第1は沸騰水型、チェルノブイリは黒鉛減速沸騰水型と炉の形式が違うので、チェルノブイリの炉心にあった核燃料(燃料集合体)の量を福島第1と同じ沸騰水型に換算してあります。
「制御不能に陥った核燃料の量」を燃料集合体の数で見ると、チェルノブイリ699本に対して福島第1は4604本。実に6.6倍。この観点からすれば、福島第1は、間違いなく人類史上最悪の事故です。

チェルノブイリでは、燃料集合体699本分すべての核燃料がメルトダウン。水蒸気爆発で原子炉本体が破壊されたので、溶岩のように溶けた核燃料が、何の覆いもなく環境中にさらされることになりました。
福島第1で、炉心にあった核燃料の何パーセントがメルトダウンしたのかは、「1号機では7割程度が溶融」とされていますが、全貌はいまだ明らかになっていません。
今のところ福島第1からの放射性物質の漏出量が、チェルノブイリに比べて少ないとされているのは、破損した圧力容器と格納容器が、割れた卵の殻のような状態で、核燃料を辛うじて覆っているからです。

危機は脱したのか?
何度か問われてきた、この問に対して、「冷却水の循環が止まれば、ふたたびメルトダウンが起きたり、臨界に陥る可能性もある」という警鐘は、当ブログだけでなく、多くの人たちが発してきました。
それに加えて、「水素発生・窒素注入」の問題が明らかになったのです。窒素注入が止まれば、30~50時間で水素爆発が起きる。今度吹き飛ぶのは、圧力容器と格納容器です。
いまだ、私たちは、綱渡りの細い綱の上を歩かされているのです。

4号機 核燃料プールの危険性【2】2012/03/10 16:06

■大量の使用済み核燃料があった理由
下の表は、福島第1の原子炉および核燃料プールにあった燃料集合体の数です。60本から74本の燃料棒を束ねて、一体の燃料集合体にするわけですから、一つの原子炉に数千本の燃料棒があることになります。

表を見ると、4号機の核燃料プールに、1,331本という飛び抜けて多い数の使用済み燃料集合体があったことが分かります。
3年間の使用を終えて、原子炉から出てくる使用済み燃料集合体は、毎年約183本です。今回は、圧力容器の改修作業のために、使用途中のものもすべて取り出していたという事情もありますが、多いのはその分だけではありません。2010年以前に取り出された使用済み燃料集合体が、プールの中に783本もあったことになります。

使用を終えたばかりの核燃料は、放射線量も崩壊熱もきわめて高いので、原子炉の直近にある核燃料プールで貯蔵するしかありません。ただ、そのままではプールがすぐに一杯になってしまうので、一年後を目途に、発電所内にある共有プールに移されます。もちろん、水に漬けたままの移動という難しい作業です。その後、そこで数年間冷やしてから再処理、というのが電力会社と日本政府の目論見でした。

しかし、
●東海村の再処理施設は規模が小さすぎて役に立たない。
●フランスとイギリスに委託していた海外での再処理は契約切れ。
●六ヶ所村再処理工場は、トラブル頻発で稼働の見通し立たず。
…という状態で、使用済み核燃料の行き場がなくなっているのです。ちなみに、六ヶ所村はまったく見通しが立っていないのに、使用済み核燃料の貯蔵量だけは、すでに90%を越えています。また、各原発の貯蔵能力も限界に近づいています。
そういった背景があって、行き場を失った多くの使用済み核燃料が、4号炉の核燃料プールに貯蔵されていたのです。

■使用済み核燃料と新核燃料 その怖さの違い
さて、核燃料プールには、使用済み核燃料と交換するための新核燃料も貯蔵されています。ここでは、使用済み核燃料と新核燃料では、危険性がどう違うのか、それを考えていきたいと思います。

新核燃料は95.9%がウラン238で、残りの4.1%が連鎖的核分裂反応を起こすウラン235です。新しい燃料なので、もの凄い放射線を発していそうな気がしますが、実はそうではありません。ウラン238の半減期は44億6千万年。ウラン235は7億年。少しずつアルファ崩壊はしていますが、その線量は限られたものです(近くに長時間いるのは危険です)。
また、崩壊熱もありません。ですから、新燃料の輸送に使う容器には、水も放射線の遮蔽材も使われていません。
●参照:BWR用燃料集合体輸送容器

では、新核燃料の何が怖いのか…
臨界の起きやすさです。ウラン235の濃度が高いので、使用済み核燃料に比べて、少ない量で臨界に達します。
逆に言えば、臨界を起こさないために、核燃料は細い燃料棒に小分けされているとも言えるのですが、燃料棒の被覆管が壊れて核燃料そのものが一か所に集まったら、あるいは、燃料棒同士の距離が近づきすぎたら、それだけで臨界は起きるのです。

一方、使用済み核燃料の怖さは、崩壊熱と放射線です。たとえば、連鎖的核分裂反応が止まってから数年以内に、循環する水による冷却が止まると、みずから発する崩壊熱で溶け出します。溶け出した核燃料が、ある量、ある形で集まれば、使用済みと言えども、臨界に達する恐れがあります。これは、事故を起こした福島第1にだけ言えることではなく、世界中、すべての原子炉がそうなのです。

比較のために、使用済み核燃料輸送容器の図にもリンクを貼っておきます。
新燃料の輸送容器に比べて、とても厳重に作られているのが分かります。しかし、使用済み核燃料は、使用後最低4年経たないと、この容器にすら入れられません。それ程、危険きわまりないものなのです。
ちなみに、使用済み核燃料が、私たちの暮らしや環境に悪影響を及ぼさなくなるためには、最低でも10万年の時が必要です。

■4号機は崩壊しないのか?
はっきり言って、爆発の影響で4号機は傾いています。また、核燃料プールも支えが不安定な状態になっていて、慌てて補強をしたことはご存じの方も多いでしょう。

では、4号機は大丈夫なのか?
決してそんなことは言えない状況です。
余震などをキッカケに、崩壊する可能性は十分にあります。東電も政府も、そのことが分かっているからこそ、ロードマップの真っ先に、4号機の核燃料プールからの燃料集合体の取り出しを掲げています。しかし、燃料取り出しの開始予定は来年末。間に合うのか…

もし、4号機の核燃料プールが崩壊したり、大規模な水漏れを起こせば、まず、使用済み核燃料が溶融します。
その熱で、新燃料が溶融。溶け出した新燃料がある大きさの塊になれば臨界反応が起きます。とてつもない量の放射性物質と放射線がばらまかれることになります。もはや、東日本に人間が住むことはできなくなるでしょう。

前の記事に書いた通り、幾つかの偶然、「不幸中の幸い」が重なって、今の状態です。そして、このまま収束に向かうのかというと、そんなことはありません。これから、福島第1が人類史上最悪の事故になる可能性も否定できないのです。
誰が、こんな不安を抱えながら生きることを望むでしょうか?
原発がある限り、またいつかどこかで、同じようなことが起きます。少なくとも、福島第1を最後にしなくてはいけない。今ほど、その思いを強く感じたことはありませんでした。

4号機 核燃料プールの危険性【1】2012/03/10 15:35

3.11から一年が経とうとしています。
福島第1の現状はどうでしょうか… 日本政府は無理矢理の「冷温停止宣言」を発しましたが、現実は、その言葉からほど遠いものです。
塩ビのパイプやホースをつないだ仮設の循環冷却システムは、あちこちで水漏れ。放射性物質の濾過装置は頻繁に停止。いったいどれほどの水が循環できているのか… 大きな余震(あるいはあらたな地震)に襲われたら、仮設循環冷却システムは、ひとたまりもないでしょう。その時には、原子炉や核燃料プールの暴走が始まり、核燃料溶融・臨界といった最悪の事態に向かいます。

そうした中、国内の良心的な研究者はもとより、世界中がもっとも危険視しているのが、4号機の核燃料プールです(一般には、使用済み核燃料プールと呼ばれることが多いですが、使用前の新核燃料も貯蔵されるので、以下、核燃料プールと記述します)。

これまで当ブログでは、4号機の問題を大きく扱ったことがなかったので、一年を期に、じっくりと見直してみることにしました。そして、調べていくに従って、4号機が抱える危険性は、日本の原発が、いや、世界中にある原発が本質的に抱える問題を象徴しているのだということが分かってきました。

■原子炉と核燃料プール
この話を進める前に、原子炉と核燃料プールの関係を簡単に整理しておきましょう(ここでは、プールの話が中心になるため、図では核燃料プールを実際より大きめに描いています)。

左は運転中の原子炉で、炉心では臨界状態の核燃料が核分裂連鎖反応で発熱し、大量の水蒸気を発生。その力で発電用のタービンを回します。
核燃料プールには、使用済み核燃料と、交換用の新核燃料が貯蔵されています。
圧力容器の上の原子炉ウェルのウェル(well)とは、井戸のことで、ちょうど井戸の底に原子炉を埋め込んだような形になっているので、この呼ばれています。

当然、核燃料には寿命があります。福島第1のような沸騰水型原子炉では、1年に1回、1/3ずつを新しい燃料集合体(燃料棒の束)に入れ替えています。つまり、核燃料の寿命は3年だということです。
使い終えたばかりの核燃料は、猛烈に発熱し、放射線量もきわめて高い状態です。ですから、原子炉と核燃料プールの間の燃料集合体のやり取りは、右図のように、原子炉ウェルを水で満たし、すべてを水中で行わなければなりません。

今回の事故で、「なぜ、核燃料プールを危険な高い場所に設置したのか?」という疑問が出されていますが、少なくとも沸騰水型原子炉では、燃料交換の都合から、核燃料プールは高ところに作らざるを得ないのです。「プールをもっと深くすれば…」という意見があるかも知れませんが、それでは設備に費用がかかる上、燃料交換作業が難しくなり、効率が悪いのです。

プールでは核燃料をただ水につけておけばよいわけではありません。使用済み核燃料は、核分裂生成物の崩壊によって、猛烈な熱を発しています。放っておいたら、プールの水はたちまち沸騰、蒸発し、空焚き状態になって、核燃料はみずから発する熱で溶け出してしまうのです。
そうなったら、環境中に大量の放射性物質と放射線が放出されることになります。

■偶然回避された最悪の事態
4号機は2010年11月30日から定期点検に入っていました。あわせて進んでいたのが、圧力容器内の改修作業(炉心隔壁の交換作業)です。このため、炉心にあった核燃料は、すべて核燃料プールに移された状態でした。
下図の状態です。

この時、原子炉ウェルが水で満たされていたのは、まさに偶然。燃料集合体の移動は終わっていましたから、ウェルに水を張っておく必要はなかったのです。
実際、3.11の4日前、3月7日には、水を抜く予定なっていました。ところが、圧力容器内の改修作業が不手際で遅れたため、ウェルは水を張ったままになっていたのです。

次の図に進みましょう。4号炉で起きた事故の流れを示しています。

地震と津波の影響で全電源喪失。核燃料プール内の冷却水が循環しなくなり、水温は見る見る上昇。蒸発も進み、核燃料が水面に顔を出す直前まで事態は進行しました。②の状態です。
ところが、プールとウェルの間にあるプールゲート(水門)は、常にプールの方が水圧が高いという前提で作られています。その結果、プール側の水量が減るに従い、ウェル側からの水圧に耐えきれず破損したのです。
ウェルから約1千トンという大量の水が核燃料プールに流れ込みました。これは、原子炉の設計上からは、まったくの「想定外」の出来事でした。
この時、ウェルから水が流れ込むことがなければ、ほどなく、核燃料プールは完全な空焚き状態になり、核燃料溶融、さらには臨界という事態になったでしょう。
現在の比ではない大量の放射性物質が撒き散らされ、首都圏からも住民が避難しなくてはいけない最悪の事態に進んでいた可能性が高いのです。それは、間違いなくチェルノブイリを越える人類史上最悪の事故です。

●朝日新聞に関連記事あり

次のグラフは、東電が2011年12月2日に公表した「福島原子力事故調査報告書(中間報告書)」の添付資料にあるものです。

分かり難いグラフなので、要点をかいつまんで説明しましょう。
3月14日あたりから水温が90℃に達しています。核燃料の附近では沸騰状態でしょう。水が大きく減ったのが3月15日。その深夜、プールゲートが壊れ、ウェルから水が流入したようです。これにより、満水からマイナス4メートルから3メートルくらいで、水位低下のスピードが落ちています。
しかしそれでも、水位は徐々に下がっていきました。4月21日の段階では、核燃料の頭頂部から1.5メートルにまで迫っています。その後、これまた偶然なのですが、4月22日に、注水によって高くなったプール側からの水圧によって、プールゲートが閉まったのです(完全に閉まったかどうかは分かりませんが、少なくとも水がプールから流れ出しにくくなった)。これによって、注水された水が、プールにだけ留まるようになったので、水位が上がりやすくなったとされています。その後、砂上楼閣的ではあるのですが、一応、安定した状態にはなっています。

しかし、4号炉が最悪の状態にならないで済むために、いくつの偶然があったでしょうか?
1. 原子炉ウェルに水があったこと。
2. プールゲートが、ウェル側からの水圧で破損したこと。
3. プールゲートが、プール側からの水圧で閉まったこと。
この三つの偶然のうち、一つでも起きなければ、どうなっていたのか?それを考えると背筋が寒くなります。

今、福島で避難している人たち、高線量下での生活を余儀なくされている人たち、あるいは、内部被ばくの恐怖の中で暮らす私たちにとって、「幸い」という言葉があまりに不似合いです。しかし、あえて言いましょう。上記の三つの『不幸中の幸い』があったからこそ、結果的に、福島第1は『人類史上最悪の事故』になるのを辛うじて逃れているのです。
最悪のシナリオまで、あと一歩。まさに危機一髪だったのです。

では、危機は去ったのか?
そうではありません。
長くなるので、この先は、次の記事にすることにします。

2号機の温度上昇と再臨界2012/02/13 22:28

2号機圧力容器内の温度が上昇し、大きな問題となっています。
いったい何が起きているのか… 不安に苛まれます。
しかし、一歩引いて冷静に見つめ直してみると、この問題、下手をすると東電に騙されてしまいかねません。炉内温度の上昇を、ちょっと違う視点から見つめ直してみましょう。

2号機圧力容器の内径は5.57メートルもあり、東電の発表を信じるなら、現在の水位は2メートル前後です。
まず、この半径=5.57メートル、高さ=2メートルという流水で満たされた円筒形の空間。温度計は、たったの6個しかありません。そしてそこには、毎時10トン以上という、もの凄い量の水が注がれ続けています。
にわか造りの給水システムが凍結し、給水が止まって問題になっているくらいですから、水の温度は、凍てつく摂氏零度にきわめて近い温度のはずです。

ここで、ひとつ思いだして欲しいのは、東電が正常だと言っている他の5個の温度計です。みな30℃以上を示しています。注ぎ込まれた大量の氷温水のすべてが、アッと言う間に、ぬるま湯になってしまう… 通常の感覚では、信じられないことです。

不謹慎と言われるかも知れませんが、分かりやすい喩えをしましょう。
想定するのは20席ほどの焼肉屋の客席。テーブルが5卓。どの卓上にも炭火の七輪が乗っています。満席になって、5台の七輪が燃えさかれば、外は氷点下でも暖房なんて要りません。一方、壁のあっちこっちに吊り下げられた温度計を見てみましょう。まぁ、25℃~28℃くらいでしょう。焼肉を突っつく私たちは、少しばかり火に近いですから、体感温度は30℃くらいでしょうか。
しかし、実は、目の前で赤熱する木炭は、800℃~1000℃という温度です。

ここまで書けばお分かり方も多いと思いますが、毎時10トンの氷温水がアッと言う間に、30℃以上になるには、壊れた原子炉内に、もの凄く高い温度のものがあることを示しています。核燃料の崩壊熱のことを考えれば、当たり前のことなのですが…

2号機で、今現在、高温を示している温度計が壊れているのかどうかは分かりませんが、1号機から3号機のいずれの炉心でも、いまだに数百度の温度を保っている部分が、間違いなくあります。でなければ、大量の氷温水が、一瞬のうちに、ぬるま湯になってしまうなんてことはありませんから。
30数℃を示している温度計は、たまたま赤熱部分から遠いだけです。

もう一点、明確にしておきたいのは、崩壊熱と臨界によって発する熱の違いです。原発反対派の中にも誤解があって、温度上昇=再臨界と騒ぎ立てる人たちもいますが、次のことを明確に理解しておく必要があります。

●臨界にならなくても、使用済み核燃料(使用中核燃料)は、崩壊熱によって温度が上がり、水で冷却しなければ、ほどなく再溶融する。

●臨界状態になるための条件は、ウラン235またはプルトニウム239の濃度、塊の大きさ、形状によって決まり、温度は直接的には無関係。

●「崩壊熱で温度上昇」→「再溶融」→「形状が変わり再臨界」というストーリーはあり得る。

●「再臨界」→「温度上昇」→「再溶融」というストーリーもあり得る。

東電は、「半減期の短い気体放射性物質が検出されていない」→「再臨界は起きていない」→「温度計が故障している」という理屈で押し切ろうとしています。しかし、彼らは、今の原子炉内の温度と再臨界が無関係である事を知っているのです。
マスメディアも含めて、「再臨界してないから大丈夫」という論理に騙されかけているので、これは要注意。現状を見る限り、事の本質は、崩壊熱にあり、6本の温度計のウチの1本の近くに、溶融して固まった核燃料が集まっている可能性が高いです(再臨界の可能性を100%否定はできませんが)。

では、「たまたま集まっているだけだから大丈夫!」なのか… いえいえ、そんなことはありません。
福島第1の原子炉のいずれもは、まだまだ数百度という赤熱する塊を抱え込んでおり、それを冷やしきるためには、とてつもない時間と労力がいるということです。そして、その塊からは、熱エネルギーと放射線が放出され、水中に放射性物質が溶け出し続けています。
半径=5.57メートル、高さ=2メートルの中に、たった6本の温度計を挿して、「30℃だから大丈夫!」と言っていることの方に大きな問題がるのです。

にわか造りの冷却システムが、余震やあらたな地震、凍結などによって破壊された時、また大きな悲劇の幕が開きます。国は住民の帰還を検討しはじめていますが、とんでもない話でしょう。

まず、東電と国は、一部とはいえ、水温が80℃を越えたその原因を明確にすべきです。
それに加えて、毎時10トン以上の氷温水が、なぜ、アッと言う間に30℃以上になってしまうのか… その理由をすべての人に分かりやすく説明する必要があります。
そして、対策があるなら、どんなに費用がかかろうと、それを実行すべきでしょう。そうしなれければ、ちょっとした偶然や間違いで、福島が、いや東日本が、本当の意味で失われてしまう可能性があります。

今頃 ストロンチウムだと!2011/10/01 09:25

久々に手が震えるような怒りを感じています。
昨9月30日、文科省から『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』なる報道発表が行われました。一つ前のブログ『再度、プルトニウムに警戒を』は、この発表に関する報道から書いたものです。
その後、報道が続き、さらに報道発表の本文を入手するにいたって、とんでも無い事実が判明してきました。

『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』【文科省報道発表全文9月30日
『福島第1原発:45キロ離れた飯舘でプルトニウム検出』【毎日新聞9月30日

プルトニウム情報の後ろに隠すように、広範囲での放射性ストロンチウムの検出が発表されていたのです。毎日新聞の見出しを見ても分かるように、マスメディアもプルトニウムに目を奪われて、ストロンチウムへの注目が薄くなっている有り様です。それでも、記事本文にストロンチウムの情報を載せた毎日新聞はマシな方で、前のブログで紹介したNHKの記事には、ストロンチウムのスの字さえ登場しません。

まず、放射性ストロンチウムの危険性は、研究者はもちろん、当ブログを含むたくさんの所で、事故直後から多くの人たちが指摘してきたものです。それが、なぜ今頃になって発表されたのか… 今回の報道発表の分のサンプル採取は、6月6日から7月8日の間で行われています。これ自体、遅きに失しているのですが、発表はサンプル採取終了から3ヶ月が経とうとしている昨日。文科省の態度には「人の命に関わる問題なんだ」という意識が、まったく感じられません。

さらに発表が金曜日。それも報道のタイミングから見ると、午後から行われたようです。これは、ここ数十年、世界中で見られる傾向なのですが、「権力者にとって都合の悪い発表は金曜日の午後、それも夕刊の閉め切りが過ぎた後」に行われます。なぜかと言うと、「土日のテレビは娯楽やスポーツ中心になり、報道番組が少ない」「役所が休みなので、マスメディアの追及を受けるまでに二日の余裕ができる」「週末は人々が家庭中心の生活になるので、世の中に向ける目が緩む」といった事情があるからです。今回の発表、プルトニウムにしても、ストロンチウムにしても、よほど都合の悪い状況があることの証です。

では、放射性ストロンチウムの危険性に関してです。
まず、すでに多くの方がご存じ通り、ストロンチウムはカルシウムと化学的な性質が似ているため、植物にしても、動物にしても、生体はカルシウムと勘違いして、積極的に取り込みます。動物では「カルシウムは骨を作るもと」と言われるくらいですから、ストロンチウムも骨に集まります。
今回検出されたストロンチウム89(半減期:50日)にしても、ストロンチウム90(半減期:30年)にしても、放出するのはベータ線。ベータ線は、空気中では数十センチから数メートル、体内では1センチほどしか進むことができません。従って、地面に沈着していても、外部被ばくは、あまり心配する必要はありません。一方、内部被ばくは大変に危険です。ストロンチウムが集まるのは骨。その中には血液を作る骨髄があり、造血細胞があります。放射性ストロンチウムは長い期間に渡って、造血細胞にベータ線を浴びせ続けるのです。この時、弱い透過力が禍します。半径1センチの範囲にある造血細胞(骨髄の中にある)を徹底的に痛めつけることになるのです。やがて白血病の発症です。

文科省の報道発表をよく読むと、放射性ストロンチウムによる被ばくについて、「土壌からの再浮遊に由来する呼吸被ばく」と「土壌からの外部被ばく線量」を勘案しているように書かれています。これは明らかな誤魔化しです。一番重要な部分を間違いなく意図的に隠しているからです。
ストロンチウムの危険性を考える時に、それが一旦、植物に吸収され、一部は家畜を経由して、最終的に人間の体内に入ってくるという流れを考えなかったら、まったく意味がありません。
セシウム137によるお茶の汚染を思い出してみましょう。空間線量が驚くほど高かったわけでもないし、土壌への沈着が問題視されていた場所でもない所で、茶葉が高濃度に汚染されていました。大気中を浮遊する、それこそごく僅かのセシウム137を、茶木が重要な栄養分であるカリウムと勘違いして、積極的に取り込んだ結果です。葉では、空気中の数百倍、いや数千倍の濃度にも濃縮されました。これを生体濃縮と言います。ちょっと難しい言葉ですが、本来は、生きものが生きるために栄養分を体内で濃縮する働き。放射性物質は、生きもの本来の営みを逆手に取るように体内に入り込み、内部被ばくを引き起こすのです。

さて、ストロンチウムに話を戻しましょう。
チェルノブイリを含めて、過去の原子力事故では、ストロンチウムを吸収した牧草を食べた乳牛から絞った牛乳による内部被ばくが、大きな問題となっています。IAEAもICRPも認めていませんが、原子力事故の後に、白血病が増えたというデータは複数存在しています。それを伝えているドキュメンタリー番組もあります。
今回、汚染が確認された地域には、二本松や白川など酪農が盛んな地域が含まれています。心配です。なお、福島県産の牛乳は、事故直後に出荷制限されましたが、4月末から5月初めにかけて、県内のほぼ全域で解除されています(事故後に地元の牧草を乳牛に与えていたかどうかは不明)。


危険なのは牛乳だけではありません。ストロンチウムを吸収した野菜を直接食べる場合や、溶け込んだ水道水を飲むことによる体内への吸収。これらにも警戒が必要です。当面、カルシウムが豊富な野菜に注意が必要でしょう。小松菜、モロヘイヤ、水菜、大根の葉、バジルなどが当たります。
また、牛乳の例で分かる通り、授乳中の女性が取り込んだ場合、母乳に放射性ストロンチウムが濃縮されるという恐ろしい事態が起きます。

すでに、事故発生から半年以上が経っています。ただちに、食品と水道水の検査項目にストロンチウムを加えないと、とんでも無い悲劇が起きる可能性があると指摘しておきます。乳牛の検査、母乳の検査も、今すぐに始めるべきです。一刻の猶予もありません。これは決してオーバーな言い方ではありません。

それにしても、国の動きの遅さ、知ってて情報を隠す姑息な態度。あらためて強い怒りを覚えます。

追記:
参考までに、過去に当ブログでストロンチウムを扱った記事をまとめておきます。
『ストロンチウム90に警戒を』(3月24日
『再度、ストロンチウム90に警戒を』(4月11日
『ごく微量のストロンチウム90?』(4月13日
『海からストロンチウム』(5月10日
『恐怖のストロンチウム90』(6月12日

再度、プルトニウムに警戒を2011/09/30 21:18

これまでも、アメリカ西海岸を含むたくさんの場所で、福島第1由来とされるプルトニウムが検出されてきました。今回は、やっと、文科省が福島第1の敷地外へのプルトニウムの飛散を認めた形です。

『飯舘村など プルトニウム検出』(NHK9月30日
『アメリカ西海岸へのプルトニウム飛散/ガンダーセン博士』(CNN6月7日

さて、このNHKの報道は、注意深く読み解く必要があります。
まず、プルトニウムが崩壊する際に発するアルファ線による被ばくは、○○シーベルトの基準となるガンマ線による外部被ばくと同列に語れるものではありません。
ガンマ線が大気中では数百メートルから数キロメートル以上飛ぶのに対して、アルファ線は、1センチ以下しか飛ぶことが出来ません。人体に対しては、ガンマ線の一部は透過しますが、アルファ線は数ミクロンしか進むことができません。
簡単に言うと、プルトニウムの塊が、今、目の前にあったとしても、外部被ばくを受けることはないのです。しかし、内部被ばくは深刻です。呼吸によって肺に入った場合、肺の細胞に長く留まり続け(数十年以上)、周りの細胞をガン化させます。
プルトニウムの半減期は2万4千年と長いので、滅多にアルファ線を発しないから大丈夫!などと言う人がいますが、これは大嘘!!肺に入った微粒子一個には、数億から数百億個というプルトニウム原子が含まれています。この莫大な数の原子が、一つずつ崩壊をしていくことで、2万4千年目に半分に減るのです。アルファ線の放出は、肺に入ったその瞬間、すでに始まっています。
そして怖いのは、水に溶けにくいプルトニウムは、血流に乗ることもなく、同じ場所に留まり続けるということです。先に、アルファ線は体内では数ミクロンしか進めないと書きましたが、逆に言えば、プルトニウムの微粒子から半径数ミクロン以内にある細胞は、徹底してアルファ線を浴び続けます。これだけでも、至近距離にある細胞がガン化しない方が不思議なくらいでしょう。さらに、放射線がDNAを破壊する力を電離作用と言いますが、アルファ線は、ガンマ線やベータ線の20倍の電離作用力を持っています。これらが、プルトニウムを含む微粉末数個を吸い込んだだけで、肺ガンを発症する危険性があるとされる理由です。

上の画像は、長崎大学の七條和子先生のブループが、2009年にとらえたもの。人間の体内でプルトニウムが発したアルファ線の軌跡です。実は、長崎原爆の被ばく者で、亡くなった方の保存されていた細胞を使って撮影したものです。被ばくから60数年経っても、体内にプルトニウムが残っていて、それがアルファ線を発し続けているという、これ以上の証拠は有りません。

では、比重の大きいプルトニウムが、なぜ、遠くまで飛ぶのか?冒頭にリンクを張ったNHKの記事で、東大の長崎晋也教授が、「粒子が非常に小さければ気象条件によって遠くに運ばれることはありえないことではない」と言う通りです。
分かり難いので、より詳しく解説すると、要するに、物質は小さくなればなるほど、重さに対する表面積の比が大きくなり、空気の抵抗を受けて飛びやすくなるという理屈。巨岩はどんな強風が吹いても微動だにしませんが、それが小さく砕けた砂粒は、ちょっとした風で舞い上がるのと同じです。
さらに、炉心溶融ののちに固まった核燃料が、一種類の元素で集まっているはずはありません。比重の軽い元素と一緒になっていると考える方が自然でしょう(大きな塊から微粉末まであります)。さらに、固まる時に、気泡を含んでいるでしょう。遠くまで飛んだのは、イメージとしては核燃料の火山灰のようなものです。火山灰の中に、プルトニウムが潜んでいると(冒頭にリンクを張ったCNNのリポートの中で、ガンダーセン博士が言っている「ホット・パーティクル」は、おそらく、この火山灰状の微粒子を指していると思われます)。

あいかわらず、文科省は、外部被ばくと内部被ばくを、そして、ガンマ線とアルファ線を一緒くたにして、「今回検出されたプルトニウムの濃度はいずれも低く、これらのプルトニウムによる被ばく量は非常に小さい」などと言っていますが、これはまったく根拠の無い主張です。
微粉末一個二個でも恐ろしいのがプルトニウムです。
プルトニウム飛散の状況を徹底して調査して、誰一人としてプルトニウムを肺に吸い込まないような対策を考え、実行すべきでしょう。
調査の方法としては、ガンダーセン博士が拠り所とした、クルマのエアフィルターを調べる方法の他に、下水処理場に集まってくる汚泥や、ゴミ焼却施設の灰などを調べる方法があります。
地面を一掘りして、その土の中にないからといって、安心できないのが、プルトニウムなのです。

格納容器はボルト&ナットとシリコンゴムで密閉!2011/09/29 21:27

福島第1の事故で、大量を放射性物質を広範囲に撒き散らした水素爆発。そのメカニズムが、少しずつ明らかになってきました。

3.11、地震直後、少なくとも1号炉では、圧力容器周りの配管破損により、燃料被覆菅と水との化学反応でできた水素と、絶対に外に出してはいけない一次冷却水が熱湯や水蒸気として、圧力容器の外側にある格納容器に漏れ出していました。これは、格納容器内の急激な温度上昇と圧力上昇によって裏付けられています。
一次冷却水は、直接、燃料棒に触れて、それを冷やすものですから、多くの放射性物質が含まれています。しかし、圧力容器の外側には、強固な格納容器があり、その外には何も漏れ出さないはずでした。

水素爆発で吹き飛んだのは原子炉建屋でした。では、どのようにして、格納容器の密閉性は破られ、水素や放射性物質が、建屋にまで漏れていたのでしょうか?

NHKの『サイエンスZERO』という番組を見て、愕然としました。格納容器の密閉性は、どこにでもあるような、ボルト&ナットとシリコンゴムで保たれていたのです。

格納容器の上部は帽子のような形(上蓋)で取り外しが可能になっています。燃料棒を入れ替える時に、上部を開ける必要があるからです。胴体部分との接合は、原始的とも言えるボルト&ナットによる締め付けです。いくらなんでも、それだけではと言うので、間にシリコンゴムのパッキンを噛ませています。これは、ガスや水道の漏出防止とまったく同じ技術です。
シリコンゴムって何?もっとも身近に見られるのは、料理用のゴムヘラです。どこの家の台所にあるゴムヘラと同じ素材で、原子炉の密閉性を保っていたというのです。ちなみに、シリコンゴムの耐熱性は約260℃。

では、福島第1で何が起こったのか?ここでは1号炉のデータを追っていきます。
事故発生後、上がり続けてきた格納容器内の圧力は、地震発生からほぼ12時間後の3月12日の午前2時30分に8.4気圧という最大値を記録します。設計上の最大圧力が4.3気圧ですから、ほぼ倍。ここから少しだけ圧力が下がって、7.5気圧前後で安定します。内部の圧力で、上蓋を止めていたボルトが延びて、格納容器の胴体部分との間に隙間が出来、気体が外に漏れ出したのです。
さらに、炉心溶融を起こしている圧力容器から漏れてきた気体の温度は260℃をはるかに越えるものだったはずです。溶けた核燃料は2800℃以上に達していたのですから。
シリコンゴムは高温になると劣化・収縮します。もはや、ボルト&ナットとシリコンゴムで保たれていた格納容器の密閉性は保ちようがありません。水素や放射性物質を大量に含む気体が漏れ続けました。

これまで、「水素は分子の大きさが小さいから、ちょっとした隙間から漏れた」というような言い方をされていましたが、それでは、放射性物質の漏出の説明が付きません。
実は、「ちょっとした隙間」どころの話ではなかったのです。

それにしても、最先端の技術であるはずの原子炉の安全性をボルト&ナットとシリコンゴムで保とうとしていた愚かさ。いや、これは福島第1だけではありません。日本中、世界中の原子炉が、ボルト&ナットとシリコンゴム、もしくはそれに類する、どこにでもあるような技術で、「安全性を保っている」と言い張っているのです。

原子力安全委員会の斑目委員長は、「あの時点で水素爆発を起こすなんて誰も想像できなかったと思う」と語りました。しかし、彼は、格納容器の密閉性がシリコンゴムのパッキンで保たれていることを知っていたはずです。知っていて誤魔化したのか?それとも、それを水素爆発に結びつける科学者としての想像力が決定的に欠如していたのか?
斑目委員長だけではありません。多くの原子力関係者が、「ボルト&ナットとシリコンゴム」の事実を知っていたはずです。これを放置してきたこと、さらに、放置し続けていること。誰がどうやって責任を取るのでしょうか。






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