放射性物質はいかに飛散し人体に入り込むのか(1)2014/08/05 20:58

福島第1原発の過酷事故発生から3年半が経とうとしている時、「放射性物質はいかに飛散したのか…」と言われても、「何を今さら」と思う方も多いかも知れません。
しかし、セシウム137やヨウ素131など数多くの放射性物質が、福島第1からどのような形で飛散したのか、あるいは、飛散し続けているのか。そして、どのように人体に入り込み内部被ばくを引き起こしているのかは、実はあまり知られていないし、今なお解明しきれていない部分もあります。

放射性物質。どんな化合物として、あるいは、どんな大きさで、どこに存在しているのか?これは、内部被ばくを考えるときにきわめて重要です。
肺から体内に入ってくるのか、それとも、肺に沈着するのか… 消化器からは吸収されるのか… そういった問題に直結するからです。

放射性物質の飛散形態と体内への侵入。2回に分けて整理していきます。飛散の形態として注目するのは、"放射性ブルーム"。そして、"ホット・パーティクル"と"がれきから飛散する粉じん"です。

●放射性プルーム1:放射性セシウムの飛散
最初は、放射性セシウムについてです。
セシウムは元素周期表で一番左の列<アルカリ金属>に属します。
金属と言っても、固体金属状態のセシウムを実際に見たことのある人は、ほとんどいません。融点が28℃と低い上、他の物質と反応しやすく、簡単にイオンになったり、化合物を作ったりするからです。

同じアルカリ金属にナトリウムとカリウムがありますが、これらも金属状態を見たことがある人は少ないでしょう。一番身近なナトリウムは塩化ナトリウム(食塩)だし、洗剤や入浴剤の中には炭酸ナトリウムという化合物で含まれています。肥料として用いられるカリウムは主に塩化カリウム。サプリメントはクエン酸カリウムなどです。

ナトリウムやカリウムと同じように、セシウムも単体で存在することは希です。酸化セシウム、ヨウ化セシウム、水酸化セシウムなどの化合物になっていることが多いのです。また、これらの化合物が水に溶けた状態では、セシウムイオンになっています。核分裂連鎖反応で生成された放射性セシウム(セシウム137とセシウム134)であっても、まったく同じことです。

では、メルトダウンした核燃料から放射性セシウムがいかに漏れ出したのか… その足取りを追ってみましょう。

原子炉で用いる燃料棒は、二酸化ウランをセラミックス状に焼き固めたペレット(直径:1㎝/高さ:1㎝ほど)が本体。この二酸化ウランのペレットをジルカロイという合金でできた細い管に一列に並べて詰め込んでいます。
酸化ウランのペレットとジルカロイの管(被覆管)

ジルカロイはおよそ1200℃で溶融します(融点は合金比率によって若干変わる)。一方、二酸化ウランの融点は2865℃。冷却水が無くなり、みずから発する崩壊熱で二酸化ウランのペレットが溶け出したとき、すでにジルカロイの管はありません。メルトダウンへ一直線です。

新品の核燃料は、100%二酸化ウラン(ウラン235が約4%、ウラン238が約96%)です。発電を始める、すなわち核分裂連鎖反応を起こすと、燃料内部にセシウム137やストロンチウム90、ヨウ素131などたくさんの核分裂生成物や、プルトニウム239などの超ウラン元素が作られます。

話をセシウムに戻しましょう。
メルトダウンが起きたということは、核燃料の温度が2800℃を越えたことを意味しています。金属セシウムの沸点は671℃、水酸化セシウムは990℃、ヨウ化セシウムは1,280℃ですから、セシウムまたはその化合物は気体として核燃料の外に出てきます。
それが冷えて水酸化セシウムやヨウ化セシウムの微粒子となり上昇気流に乗って舞い上がったのです。
上空では地球上どこにでも広く存在する硫酸塩エアロゾルに取り込まれました。エアロゾルとは大気中に浮遊する微小な液体または固体の粒子のこと。放射性セシウムを含む硫酸塩エアロゾルは雲のようになって移動します。これが放射性プルームです。
放射性プルームからは、重力で落下してくる放射性セシウムを含む微粒子もあるし、雨や雪になれば、当然、雨粒や雪に含まれて地上に落下します。
■参考サイト
風に乗って長い距離を運ばれる放射性セシウムの存在形態


水酸化セシウムもヨウ化セシウムも、水との親和性が高い(水に溶けやすい)ので、水と出会えばイオン化します。水に溶けた(イオン化した)状態なら簡単に植物に吸収されます。その植物が野菜や果物であれば… 答えは誰にでも分かります。経口摂取です。

放射能ブルームからの雨が、流れ着いた先で蒸発してしまえば、セシウム化合物だけが土壌に残ります。そこで再度水と出会えば、また違う場所へと移動。この繰り返し。まさに「放射性物質は動く」のです。

除染、除染と言っても、水で洗い流す行為は放射性物質を拡散していることに他なりません。また住宅地だけ除染しても、やがて森林から新たな放射性物質がやってくることは明白なのです(すでに除染をした地域で、最近問題視されていますが、当初から予想されていた事態です)。

風が吹けば、放射性セシウムが付着した土埃が舞い上がり、容赦なく肺の中へ。吸引摂取です。そして、肺胞で血液に吸収され体内に入ってきます。
「肺から体内に吸収するのは酸素だけ」という誤った常識があります。もしそうであれば、人間は塩素ガスや一酸化炭素では死にません。私たちの肺は、水に溶ける元素を実に効率よく吸収する機能を持っています。水に溶けるということは、血液に溶け込むということなのです。
一人の体の中にある肺胞の表面積の総計はテニスコート一面分にも及びます。この広いエリアで、吸気は毛細血管に接し、酸素と二酸化炭素の交換だけでなく、様々な物質が血液に吸収されます。放射性セシウムも例外ではないのです。

●放射性プルーム2:ヨウ素131の人体への吸収
子どもたちの甲状腺で、深刻な内部被ばくを起こしているヨウ素131は、どのように広がり人体に吸収され、甲状腺に集まっていったのでしょうか?

汚染の広がり方はセシウム137同様の<エアロゾル→放射性プルーム>が中心です。ただ、化合物ではなくヨウ素分子そのものが多く、エアロゾルだけでなく気体としても拡散していきました。
大気中を流れ漂うヨウ素131は、呼吸により、あるいは食べ物に付着したり、水に溶け込んで、人の身体に入っていきました。経口摂取されたヨウ素131のほぼ100%が小腸などで吸収されるというWHO(国際保健機関)の報告があります。

■参考
世界保健機関 国際化学物質安全性計画『ヨウ素および無機ヨウ化物』
p.20 7.1 吸収

上記のリポートでは、呼吸によって吸入摂取されたヨウ素131も、ほぼ全量が体内に入っていくことが明らかにされています。
まず、鼻や気管、気管支にある粘液線毛がヨウ素131をとらえ、消化管に運んでしまうのです。あとは経口摂取と同じです。
粘液線毛をすり抜けて肺にまで到達するヨウ素131もあります。これは肺に沈着するのではなく、肺胞から血管へと比較的速く吸収されることが分かっています。行き先は… 言うまでもなく、甲状腺です。

今回調べ直してみて、つくづく思うのは、私たちの身体が、貪欲なまでにヨウ素を取り込むシステムを持ち合わせているということです(ヨウ素が人体にとってきわめて重要な元素だからこそです)。
参考にしたWHOの資料によれば、経口であれ吸引であれ、摂取されたヨウ素は、ほぼ100%体内に吸収されます。
「いつも甲状腺をヨウ素で満たしていれば、ヨウ素131は入ってこない。だから、昆布とワカメを食べよう!」などと言う人もいます。しかし、実験結果は、仮に甲状腺がヨウ素で満員状態であっても、新たなヨウ素が来れば、古いものを押し出して置き換わってしまうのではないか… と思わせます。となると、ヨウ素剤の効果についても疑問符が付いてしまいます(この部分は、まったくの私見なので、もし詳しい方がいらしたら、情報をお願いします)。

●放射性ブルーム3:希ガスの危険性は…
核分裂生成物のうち、周期律表の一番右の列<希ガス>に属するクリプトン85(半減期:10.72年)とキセノン133(半減期:5.25日)は、使用中の燃料棒の中に気体として生成されます。
ですから、メルトダウンしたら一気に空気中へ。福島第1では圧力容器の底が抜け、格納容器も破損していますので、どんどん大気中に漏出していきました。クリプトン85とキセノン133を合わせた漏出量は11,000ペタベクレル。チェルノブイリの6,500ペタベクレルの2倍近くです。希ガス放射性物質の漏出量から見れば、福島第1が史上最悪の原子力事故なのです。

希ガスは水に溶けにくいし、水以外の他の物質とも反応しにくいので、人体に害はないという主張があります。しかし、放射線を出すことに変わりはありません。外部被ばくはもちろん、気体故に肺の中に簡単に入ってくるという恐ろしさがあります。指摘されているのは、肺ガンを引き起こす危険性です。

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(2)に続きます。


トリチウムの恐怖(前編)2013/05/04 15:20

福島第1原発の汚染水漏れに関連して、トリチウムという放射性物質に注目が集まっています。
「どんなフィルターを使ってもトリチウムは取り除けない」といったニュースを記憶している方も多いと思います。

汚染水漏れそのものについては、あまりにずさん、あまりに行き当たりばったりの話で、目を覆うばかりです。ただ、他所でもたくさん扱われていますので、ここでは、特にトリチウムに注目して考えていきたいと思います。というのは、トリチウムは、「人類と核」「人類と原子力」いや「地球と原子力」を考える上で、たいへん本質的な問題を突きつけているからです。

分かりやすく言えば、トリチウムとは放射性水素のことです。
たとえば、セシウムならば、セシウム133は安定核種なので放射線を出しません。セシウム134やセシウム137は、たいへんに危険な放射性核種です。崩壊する時にβ線やγ線を出します。
原子名の後ろの数字は質量数といって、原子核の中にある陽子と中性子の数の合計。「原子の種類は陽子の数によって決まる」ので、放射性であるかどうかは中性子の数によるということです。

さて、セシウムと同じように同じように、水素にも放射性のものとそうでないものがあります。
まずは下の図をご覧ください。


一番左の「軽水素」というのが普通の水素。自然界に存在する水素の99.985%が、この軽水素です。原子核には陽子が一つで中性子はありません。原子核のまわりを電子が回っています。

さて、水素ってどこにあるの?
もっとも身近な存在は「水」です。水が2個の水素原子と1個の酸素原子で出来ていることは、多くの方がご存じの通りです。
水道水や雨水、河川や海だけではありません。動物の体の中に含まれる水分、地中にある水分、植物の水分…
また、ほとんどの有機物(アミノ酸、タンパク質、脂質など)にも水素が含まれています。水素は、ありとあらゆるところにあるということです。
そして、その大半は軽水素。原子名の後ろに質量数を付けると水素1。これが軽水素です。

図の真ん中は重水素。これも自然に存在する放射線を出さない安定した水素です。存在比率は0.015%と少ないものです。原子核には陽子の他に、中性子が1個あります。従って、質量数を書き込むと水素2となります。

問題は一番右の三重水素。トリチウム(=水素3)のことです。原子核の中に陽子1個と中性子2個があり、不安定な放射性核種です。半減期=12.32年でβ崩壊し、ヘリウム3という安定した核種になります。
自然界では、宇宙線が大気中の窒素や酸素に衝突した際に、微量のトリチウムが生成されています。雨の中に含まれるトリチウムの濃度は、人類が核兵器や原発を開発する以前、0.2~1ベクレル/リットルでした。現在は1~3ベクレル/リットルで、最大で15倍、少なく見積もっても3倍になっています。
トリチウムは核爆発や原子炉内の核分裂反応によって、大量に生じるのです。

では、トリチウムによる被ばくの危険に話を進めましょう。
トリチウムが出すβ線は、非常にエネルギーが弱いものです。空気中では5mmくらいしか飛びません。仮に、人間の皮膚に当たったとしても、通過することができません。従って、外部被ばくは心配する必要はないというのが定説です。

一方、トリチウムは水や有機物に溶け込んでしまいますから、飲食を通して、体内に入ってきます。人体は、普通の水素とトリチウムを見分けることができません。内部被ばくへの警戒は怠れないのです。
トリチウムのβ線は、水中や体内では最大でも6ミクロン程度しか飛べません。これは、遠くまで届かないということですが、言い換えれば、トリチウムが出すβ線のエネルギーは、すべて近隣の細胞に影響を与えるということを意味しています。

下に、放射線による2種類のDNA破壊プロセスを示します。


①は、放射線によるDNAの直接破壊。放射線が電子をはじき飛ばしてDNAを破壊するので、『電離作用』と呼ばれます。
②は、放射線が水分子に当たって活性酸素を生じ、その活性酸素の化学反応によってDNAが破壊されるというものです。

トリチウムのβ線も例外ではなく、この二つの形で、DNAを破壊します。

しかし、ここまでは『トリチウムの恐怖』の「序」に過ぎません。他の放射性物質、放射性核種とは違う大きな恐怖がトリチウムにはあります。
次の記事で書くことにします。

ヨウ素131検出について2012/01/21 17:30

昨日から東京では雪がちらついてます。この雪から、ヨウ素131が検出されたとして、一部で、ちょっと騒ぎになっています。

ご存じ通り、ヨウ素131の半減期は8日ですから、福島第1で再臨界が起きていない限り、事故発生から300日以上経った時点で検出されるのは変だからです。
もちろん、放射性物質の漏出は依然として続いていますが、あらたなヨウ素131の生成は起きていないはずですから。溶融した炉心ですら、ほとんどヨウ素131はなくなっているでしょう。「再臨界は起きていない」という、東電と国の発表が真実だという前提ですが。

さて、雪からのヨウ素131ですが、発信元は、このブログです。発信者も「皆様はどのように思われますか??」としていますので、若干の疑問は抱かれているようです。

この問題を考えるに当たって、そもそも、どうやって核種を特定しているのかから考えていきましょう。
簡単に言えば、放出されるガンマ線が持つエネルギーの大きさを計測します。核種によって、出てくるガンマ線の波長が違うということは、ご存じの方が多いと思います。ガンマ線のような電磁波では、波長とエネルギーは反比例しますので、ガンマ線のエネルギーも核種によって異なるのです。

以下に、主な核種が出すガンマ線のエネルギーと波長を示します。参考にしたのは、日本原子力研究開発機構が公表しているデータです。

まず、黄色でマークしたところに注目して欲しいのですが、ヨウ素131と鉛214が、似た波長のガンマ線を出すことが分かります。
ヨウ素131が3.40ピコメートルで、鉛214が3.52ピコメートルです。これを見分けるのは、厳密な測定が可能なゲルマニウム半導体検出器でなければ難しいとされています。
断定はできませんが、今回の雪からのヨウ素131は、鉛214を誤認識した可能性があります(紫でマークしあるセシウム134の2.05ピコメールとビスマス214の20.4ピコメールも、誤認されやすい例です)。

じゃ、鉛214はあってよいのか?ということになるのですが、これは岩盤や土の中に自然に存在するウラン238を出発点とするウラン系列の放射性物質です。
ウラン238は15種類以上の放射性物質を経由して、最後は鉛206で安定します。この崩壊系列をウラン系列(別名ラジウム系列)と呼びます。

ウラン系列の中で、特に注目しなくてはいけないのがラドン222(半減期3.8日)。系列中で、唯一、常温で気体として存在します。それまで岩盤の中にあったものが、ラドン222になって、はじめて大気中に出てくるわけです。
ラドン222の次がポロニウム218(半減期3.1分)、その次が鉛214(半減期26.8分)になります。ポロニウム218も鉛214も、固体で存在します(大気中では、チリなどに付いている状態だと思われます)。
ウラン鉱山の近くなどでは、ラドン222を中心とするウラン系列の放射性物質による被ばくが、大きな被ばく被害をもたらしている例(鳥取岡山県境の人形峠やアメリカのアリゾナ州)がありますが、一般には、自然放射線として受け入れざるを得ないものです。

さて、ヨウ素131と鉛214は、ゲルマニウム半導体検出器でないと見分けられないのでしょうか?
実は、そうでもありません。ポロニウム218も鉛214も、半減期がとても短い放射性元素です。ということは、試料の中に、あらたにラドン222が入らないようにすれば、鉛214ならば、30分以上待てば、量がかなり減ります。ただ、気体であるラドン222の侵入を止めるのですから、完全に大気から遮断された環境で、測定をする必要がありますが。
逆に、ヨウ素131ならば、大気から遮断しても、数時間では減ってきません。

さて、今回のヨウ素131問題で思い出したことがあります。2011年の夏から秋にかけて、各地の下水処理施設で、ヨウ素131が検出されて、ニュースになったことがありました。結局、原因は特定されてないままです。今はどうなっているのか、見てみました。

●東京都下水道局『下水処理における放射能等測定結果』
2011/12/1~6
2011/12/15~20
2012/1/2~5

年が明けてからは、「脱水汚泥」のデータが発表されていないせいか、ヨウ素131の検出はありませんが、12月までは、それなりの数値が出ていました。「半減期8日」「再臨界無し」から考えると、どうしても納得がいかないデータです。
行政の発表ですから、ちゃっとゲルマニウム半導体検出器(または同等の機器)で計測しているはずです。原因を究明するとともに、今後も監視を続ける必要があります。

また、「脱水汚泥」の発表を止めた理由が分かりません。「もう安全!」と言えるほど、数値が下がったわけではありません。直ちに、「脱水汚泥」のデータの公開を再開すべきです。

今頃 ストロンチウムだと!2011/10/01 09:25

久々に手が震えるような怒りを感じています。
昨9月30日、文科省から『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』なる報道発表が行われました。一つ前のブログ『再度、プルトニウムに警戒を』は、この発表に関する報道から書いたものです。
その後、報道が続き、さらに報道発表の本文を入手するにいたって、とんでも無い事実が判明してきました。

『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』【文科省報道発表全文9月30日
『福島第1原発:45キロ離れた飯舘でプルトニウム検出』【毎日新聞9月30日

プルトニウム情報の後ろに隠すように、広範囲での放射性ストロンチウムの検出が発表されていたのです。毎日新聞の見出しを見ても分かるように、マスメディアもプルトニウムに目を奪われて、ストロンチウムへの注目が薄くなっている有り様です。それでも、記事本文にストロンチウムの情報を載せた毎日新聞はマシな方で、前のブログで紹介したNHKの記事には、ストロンチウムのスの字さえ登場しません。

まず、放射性ストロンチウムの危険性は、研究者はもちろん、当ブログを含むたくさんの所で、事故直後から多くの人たちが指摘してきたものです。それが、なぜ今頃になって発表されたのか… 今回の報道発表の分のサンプル採取は、6月6日から7月8日の間で行われています。これ自体、遅きに失しているのですが、発表はサンプル採取終了から3ヶ月が経とうとしている昨日。文科省の態度には「人の命に関わる問題なんだ」という意識が、まったく感じられません。

さらに発表が金曜日。それも報道のタイミングから見ると、午後から行われたようです。これは、ここ数十年、世界中で見られる傾向なのですが、「権力者にとって都合の悪い発表は金曜日の午後、それも夕刊の閉め切りが過ぎた後」に行われます。なぜかと言うと、「土日のテレビは娯楽やスポーツ中心になり、報道番組が少ない」「役所が休みなので、マスメディアの追及を受けるまでに二日の余裕ができる」「週末は人々が家庭中心の生活になるので、世の中に向ける目が緩む」といった事情があるからです。今回の発表、プルトニウムにしても、ストロンチウムにしても、よほど都合の悪い状況があることの証です。

では、放射性ストロンチウムの危険性に関してです。
まず、すでに多くの方がご存じ通り、ストロンチウムはカルシウムと化学的な性質が似ているため、植物にしても、動物にしても、生体はカルシウムと勘違いして、積極的に取り込みます。動物では「カルシウムは骨を作るもと」と言われるくらいですから、ストロンチウムも骨に集まります。
今回検出されたストロンチウム89(半減期:50日)にしても、ストロンチウム90(半減期:30年)にしても、放出するのはベータ線。ベータ線は、空気中では数十センチから数メートル、体内では1センチほどしか進むことができません。従って、地面に沈着していても、外部被ばくは、あまり心配する必要はありません。一方、内部被ばくは大変に危険です。ストロンチウムが集まるのは骨。その中には血液を作る骨髄があり、造血細胞があります。放射性ストロンチウムは長い期間に渡って、造血細胞にベータ線を浴びせ続けるのです。この時、弱い透過力が禍します。半径1センチの範囲にある造血細胞(骨髄の中にある)を徹底的に痛めつけることになるのです。やがて白血病の発症です。

文科省の報道発表をよく読むと、放射性ストロンチウムによる被ばくについて、「土壌からの再浮遊に由来する呼吸被ばく」と「土壌からの外部被ばく線量」を勘案しているように書かれています。これは明らかな誤魔化しです。一番重要な部分を間違いなく意図的に隠しているからです。
ストロンチウムの危険性を考える時に、それが一旦、植物に吸収され、一部は家畜を経由して、最終的に人間の体内に入ってくるという流れを考えなかったら、まったく意味がありません。
セシウム137によるお茶の汚染を思い出してみましょう。空間線量が驚くほど高かったわけでもないし、土壌への沈着が問題視されていた場所でもない所で、茶葉が高濃度に汚染されていました。大気中を浮遊する、それこそごく僅かのセシウム137を、茶木が重要な栄養分であるカリウムと勘違いして、積極的に取り込んだ結果です。葉では、空気中の数百倍、いや数千倍の濃度にも濃縮されました。これを生体濃縮と言います。ちょっと難しい言葉ですが、本来は、生きものが生きるために栄養分を体内で濃縮する働き。放射性物質は、生きもの本来の営みを逆手に取るように体内に入り込み、内部被ばくを引き起こすのです。

さて、ストロンチウムに話を戻しましょう。
チェルノブイリを含めて、過去の原子力事故では、ストロンチウムを吸収した牧草を食べた乳牛から絞った牛乳による内部被ばくが、大きな問題となっています。IAEAもICRPも認めていませんが、原子力事故の後に、白血病が増えたというデータは複数存在しています。それを伝えているドキュメンタリー番組もあります。
今回、汚染が確認された地域には、二本松や白川など酪農が盛んな地域が含まれています。心配です。なお、福島県産の牛乳は、事故直後に出荷制限されましたが、4月末から5月初めにかけて、県内のほぼ全域で解除されています(事故後に地元の牧草を乳牛に与えていたかどうかは不明)。


危険なのは牛乳だけではありません。ストロンチウムを吸収した野菜を直接食べる場合や、溶け込んだ水道水を飲むことによる体内への吸収。これらにも警戒が必要です。当面、カルシウムが豊富な野菜に注意が必要でしょう。小松菜、モロヘイヤ、水菜、大根の葉、バジルなどが当たります。
また、牛乳の例で分かる通り、授乳中の女性が取り込んだ場合、母乳に放射性ストロンチウムが濃縮されるという恐ろしい事態が起きます。

すでに、事故発生から半年以上が経っています。ただちに、食品と水道水の検査項目にストロンチウムを加えないと、とんでも無い悲劇が起きる可能性があると指摘しておきます。乳牛の検査、母乳の検査も、今すぐに始めるべきです。一刻の猶予もありません。これは決してオーバーな言い方ではありません。

それにしても、国の動きの遅さ、知ってて情報を隠す姑息な態度。あらためて強い怒りを覚えます。

追記:
参考までに、過去に当ブログでストロンチウムを扱った記事をまとめておきます。
『ストロンチウム90に警戒を』(3月24日
『再度、ストロンチウム90に警戒を』(4月11日
『ごく微量のストロンチウム90?』(4月13日
『海からストロンチウム』(5月10日
『恐怖のストロンチウム90』(6月12日

放射性物質と核分裂生成物2011/06/05 14:29

当ブログでは、「放射性物質」と「核分裂生成物」という単語を使い分けてきました。これは、自然界にも存在する「放射性物質」と、原子力発電や核爆発でしか生じない「核分裂生成物」を区別するためです。

「核分裂生成物」の多くは「放射性物質」に含まれます(一部、放射線を発しない安定元素も有り)。しかし、大事なことは、そこには自然界には決して存在しない物質があるということです。この点を曖昧にしたくなかったので、あえて「核分裂生成物」という言葉を中心に使ってきました。

核分裂生成物の多くは、なぜ自然界には存在しないのか?
半減期が短いからです。もはや有名になってしまったヨウ素131の半減期は8日、セシウム137とストロンチウム90は30年、テルル132は3日、コバルト60は5.3年、クリプトン85は10.8年。宇宙の歴史や地球の歴史から考えたら、多くの核分裂生成物の寿命は一瞬。仮に超新星爆発や地球誕生の時に存在していたとしても、はるか昔に他の安定的な物質(元素)に変わっています。

原発や原爆は、自然界に存在しない危険な物質=核分裂生成物を新たに作り出します。そして、核分裂生成物の危険性を取り除くには、物質みずからが崩壊するのを待つしかなく、人為的に解毒や分解といったことができません。基本的なことですが、この点をもう一度、確認しておきましょう。

さて、ウラン235に中性子が当たると、二つの物質に分裂し、同時に中性子を1~4個放出。この中性子が別のウラン235に衝突。この繰り返しが連鎖的核分裂反応です。分裂してできる物質は100種類以上(一説によると1000種類以上)に及びます。そのうちの代表的なものが、ヨウ素131やセシウム137です。

では、その片割れはどうなっているのでしょうか?セシウム137を例に考えてみましょう。
原子名の後ろについている数字は質量数といって、陽子の数と中性子の数を足したものです。ということは、ウラン235(陽子92個・中性子143個)の核分裂では、原子の質量数に中性子1個を加えた、質量数236が二つに分裂し、同時に中性子が1~4個生成されます。
核分裂の前後で、陽子数の合計は変わりません。ウランの陽子数が92、セシウムの陽子数が55ですから、引き算をすれば、片割れの陽子数は37になることが分かります。陽子数とは原子番号そのもの。片割れの原子は原子番号37のルビジウムです。
ただ、核分裂の際に飛び出す中性子の数によって、そのルビジウムの質量数は変わりますので、ルビジウム95からルビジウム98まで、4種類の核種=同位体(同じ元素で陽子数は同じだが、中性子数が違う)がありえます。
文章だけでは分かりにくいと思いますので、表にしてみました。
しかし、これらのルビジウムが核分裂生成物として話題に上ることはありません。半減期がきわめて短く、アッと言う間に別な物質に変わってしまうからです。
さらに、ルビジウム95の場合は、ストロンチウム95→イットリウム95→ジルコニウム95→ニオブ95という複雑な変化(崩壊)を遂げて、最後はモリブデン95という安定した原子になります。
この過程は、日本科学未来館のホームページで分かりやすく解説してあります。原発推進の広報ページなので注意は必要ですが、この件に関しては正しい情報です。
一方、このページで触れていないのは、原子が変化(崩壊)する過程で、必ずガンマ線やベータ線といった放射線を放出する点です。ルビジウム95は、何度も放射線を発しながら、やっと最後にモリブデン95として安定するのだということを忘れてはなりません。

テルル132と情報の隠蔽2011/06/05 11:25

またもや、隠蔽されていた重要なデータが公表されました。
事故直後にテルル132を検出

まず、聞き慣れないテルルという原子ですが、原子番号52(陽子の数が52個)、周期表で見ると右から3番目の酸素属に属します。安定して存在するのはテルル126(陽子52個+中性子74個)など。テルルはレアメタルの一つで、DVDの記録層やガラスの着色剤として欠かせないものです。

さて、問題のテルル132(陽子52個+中性子80個)は、中性子の数が多いため不安定な放射性物質です。半減期は約3日。半減期が3日ということは、自然界には100%存在することがなく、ウラン235の連鎖的核分裂反応によって生じる物質(核分裂生成物)です。
ベータ崩壊しますので、体内に入った場合、深刻な内部被ばくを引き起こす可能性があります(細胞に至近距離からベータ線を照射する)。ただ、プルトニウムのように肺に蓄積して肺ガンを引き起こすといった、細かいメカニズムまでは解明されていないようです。

このテルル132が、「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃の間に、浪江町や大熊町、南相馬市で採取した大気中のチリの中から検出されていた」というのが、今回の明らかにされた隠蔽データのあらましです。

テルル132は運転中の原子炉の燃料棒の中で生まれ、通常は、それが燃料棒から漏れ出すことはないとされます。
…ならば、まず、テルル132の検出はメルトダウンの証です。3月11日の21時には、1号炉はメルダウンを始めました。溶けた核燃料は、圧力容器の底や、一部は格納容器にまで達しています。
そして、テルル132が、原発の外で検出されたのが「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃」。まだ1号炉のベント前の段階です。浪江町は福島第1原発から6kmほど離れています。燃料ペレット・燃料棒被覆管・圧力容器・格納容器・原子炉建屋という「五重の壁」は、ベントや水蒸気爆発以前の段階で、すでに崩壊。絶対に漏れてはいけない物質が、外界に漏れていました。原子炉の安全神話が、まったくの空論に過ぎなかったことが明らかです。
そして、この事実はメルトダウンの恐ろしさをも伝えています。仮に、水素爆発や水蒸気爆発に至らなかったとしても、メルトダウンだけで「五重の壁」は、いとも簡単に破られてしまうのだと。そして福島第1では、メルトダウン+水素爆発という、決してあってはならない事態にまでなっています。

それにしても、東電と保安院の、この隠蔽体質はなんとかできないのでしょうか。
保安院スポークスマンの西山氏は「隠そうという意図はなかったが、国民に示すという発想がなかった」と語ったそうです。この一言は、心底腹立たしい。「すべての情報を公開する」という基本的な姿勢すらないのです。

当ブログで、何度か主張している通り、原発事故関連の情報は、原子力発電と利害関係のない第三者機関によって管理・監視されるべきで、基本はすべて公開です。
現状は、脇見運転で重大な交通事故を引き起こした加害者が、自分で現場検証している状態。自分に不利なブレーキ痕は明らかにしないのが当然と言えば当然なのです。

危機的状況だからこそ、すべての情報を公開して、普段は、原発に慎重であったり、反原発の立場をとっている科学者や技術者からも、広く意見を求めるべきなのです。

お茶とセシウム2011/05/18 13:05

ここのところ、神奈川県や静岡県の新茶からセシウム137が検出されて、大きな騒ぎになっています。
福島第1から遠く離れているのに、なぜ?
多くのメディアは、地形や天気等によって、核分裂生成物がある程度の濃度のまま、遠くまで運ばれることがあると報じています。それ自体は正しいのですが、もう一つ重要な視点が必要です。

茶という植物は、たいへん効率よくセシウム137を生体内に取り込み、濃縮する能力を持っているのです。えっ?と思われる方も多いと思いますので、その仕組みを説明しましょう。

文科省の食品成分データベースで、「せんちゃ」を検索してみましょう。「表示成分選択」のところで、「無機質」「全て」にチェックを入れます。結果を表示すると、煎茶にはカリウムが豊富に含まれていることが分かります。
茶は地中や大気中からカリウムを取り込む力が、とても強いのです。そして、カリウムは人間にとっての必須ミネラルの一つ。特にアジアの人々は、遠い昔から、茶が健康に良いことを経験的に知っていました。それはカリウムが豊富だからとも言えるのです。

さて、そのカリウムとセシウム137がどう関係するのか?
実は、セシウムは化学的性質がカリウムとよく似ていて、茶の木であろうと人間であろうと、生体はカリウムとセシウムを見分けることができません。言い方を変えれば、生命を維持するために、カリウムと勘違いしてセシウムをせっせと溜め込んでしまうのです。もちろん、セシウムが放射性であろうとなかろうと関係ありません。だから、環境の中で放射性のセシウム137の濃度が少しでも高まることは、たいへん危険なのです。人間の体内に取り込まれたセシウム137は、筋肉などに蓄積し、深刻な体内被曝を引き起こす可能性があります。

この事実を見ていくと、地球上の生きものはすべて、放射性物質に対してまったく防御する力を持っていないことが分かります。一方で、太古の昔から、地上での放射線量は少しずつ減ってきていたはずです。なぜなら、どの放射性物質も放射線を放出することで、少しずつ安定した原子に変わっていくからです。例えば、ウラン235の半減期は7億年ですから、現在、地球にあるウラン235の量は7億年前と比べると半分になっています。放射性物質が減ってきたからこそ、人類が地球に登場できたのかも知れません。
ところが、その人類は、減っていくはずの放射性物質を逆に増やしてしまったのです。広島・長崎、度重なる原水爆実験、そして、原発などの原子力施設での深刻な事故。ストロンチウム90やセシウム137は本来、地球上に存在しなかった放射性物質だということも忘れてはいけません。

放射性物質は、やがて減っていくという自然の摂理を破ってしまった人類。今、原点に戻って、もう放射性物質を増やしてはいけないのだと確認し合う必要があります。

毒物と放射性物質2011/04/27 14:47

直前の記事で、「放射性物質は、いわゆる毒物と違うので、中和させて無毒化するといったことができません」と記しましたが、なぜそうなのか、少しだけ話を深めておきます。

例えば、気体の塩素は強い毒性を持ちます。大量に吸い込むと死に至ります。また、塩素がナトリウムと酸素と結合すると次亜塩素酸ナトリウムに。強い殺菌力があるので、プールの消毒や家庭用の漂白剤に使われます。殺菌力があるということは、ちょっと量を間違えれば、人間にとっては毒物になります。一方で、塩素がナトリウムとだけ結合すると塩化ナトリウムです。いわゆる塩(しお)のことで、ほとんどの生物にとって不可欠なミネラル源になります。

放射性物質はどうでしょうか?液体であっても、固体であっても、気体であっても、その原子から発する放射線は変わりません。それどころか、どんな原子と、どんな形で結合しても放射線を出す力(放射能)は変化しないのです。

なぜなのでしょうか?
いわゆる毒物の毒は分子レベルの化学反応によるものなので、化合(結合)の形や相手を変えることによって、無毒化することができます。悪名高いダイオキシンにだって、一応、無毒化する方法はあります(だからといって安心というわけではありませんが)。

放射線はどうでしょうか。例えばガンマ線は、原子の中で原子核の周りを回る電子が軌道を変えるという量子力学的な現象によって生じるものです。アルファ線はヘリウムの原子核、ベータ線は電子線ですが、いずれも量子力学的な効果によって生じていることに違いはありません。放射線の発生は、原子の中という、私たちが覗くことのできない世界で起きているのです。

じゃあ、放射性物質を人為的に他の物質に変えることは出来ないのか… それは、超大型の加速器など特殊な装置の中でしかできません。それもごく僅かな量だけです。さらに、加速器を使っても、放射性原子は他の放射性原子に変わるだけで、安定した原子にはなりにくいものです。

人類は放射性物質から放射性を取り除くことはできません。それは、どんなに科学技術が発展しても不可能です。
だから、自然に減っていくのを待つしか方法はありません。ヨウ素131が半分に減る半減期は8日間。セシウム137やストロンチウム90は30年。プルトニウム239は2万4千年です。

もうこれ以上、余計な放射性物質を作り出してはいけないのです。

ごく微量のストロンチウム90?2011/04/13 08:11

当ブログで再三警告を発してきた、極めて危険な核分裂生成物の一つ、ストロンチウム90が正式に検出されました(変な表現ですが)。

例によって、国やマスメディアは「危険な量ではない」を連呼していますが、少しだけ正確に記事を読んでみましょう。検出された場所は、福島第1原発から30㎞以上も離れた場所です。原発に近づけば近づくほど、ストロンチウム90の濃度が上がるのは当たり前で、20㎞圏、10㎞圏、あるいは原発至近で、どの位の値が出ているのか、すぐさま公表すべきでしょう。海への流出状況も明らかにすべきです。
ストロンチウム90の数値は、立ち入り禁止区域の設定や避難指示、農作物や水産物の安全確保など今後の被爆対策に大きく影響するからです。

また、朝日新聞がサラッと書いていますが、ストロンチウムは水溶性です。海洋汚染や地下水の汚染のことを考えると、これはたいへん重要。注視していく必要があります。

それにしても、関係機関が言っている「ストロンチウム90の検出には1週間から4週間かかる」は本当なのでしょうか?確かに、ヨウ素131やセシウム137の崩壊がガンマ線とベータ線を発するのに対して、ストロンチウム90はベータ線しか発しないという違いがあります。しかし、ベータ線(電子線)をどうやっても検出できないなんて聞いたことありません。また、ベータ線の解析によって、放射性物質の種類は特定できるのではないのでしょうか?この辺の問題について、国側ではない専門家からの意見が欲しいものです。

なお、ストロンチウム90に関する基礎知識は、まずは本ブログ「ストロンチウム90に警戒を」「再度、ストロンチウム90に警戒を」「人類史上最悪の海洋汚染(2) 」をご参照ください。

再度、ストロンチウム90に警戒を2011/04/11 12:15

相変わらず、ストロンチウム90のデータが、東電からも国からも、まったく出てきません。もっとも危険な核分裂生成物の一つと言われているのに…

ストロンチウム90の半減期は約30年。ベータ線を出して、イットリウム90になります。ベータ線とは放射線の一種で、飛び交う電子(電子線)と考えればよいでしょう。電磁波(光)の一種であるガンマ線にような透過力はなく、アルミ板1枚でも止まります。従って、外部被曝としては、放射性物質が肌に直接乗るようなことにならなれば心配はないでしょう。
一方、内部被曝を考えると深刻です。ストロンチウム90は、カルシウムと似た化学的性質を持つため、人間を含む生体は、飲食を通して体内に取り込んだストロンチウム90をカルシウムと勘違いして骨に集めてしまいます。骨の中にある骨髄には造血幹細胞が。これが分裂・分化して、赤血球や白血球、血小板になります。骨に集積したストロンチウム90と造血幹細胞の間には、アルミ板どころか紙1枚すらありません。ストロンチウム90が発するベータ線が造血幹細胞をピンポイントで痛めつけます。ストロンチウム90が白血病を生むメカニズムです。
また、一旦体内に入ってしまうと、基本的に検出不可能になってしまうという怖さもあります。例えば、ヨウ素131やセシウム137であれば、体内で崩壊する時に、ベータ線だけでなく、ガンマ線を発します。これは透過力が強いので身体の外にも飛び出してきます。一方、
ストロンチウム90が出すのはベータ線。透過力が弱いため、身体の外では放射線を検出できません従って、ストロンチウム90による内部被曝が起きているかどうかを知るには、尿や便を調べるしかありません。ただその検査も誤差が大きく、言ってみれば、ストロンチウム90による内部被曝の実態は、死んでからしか分からないのです

ストロンチウム90は、使用中の燃料棒や使用済み燃料棒に、セシウム137とほぼ同量が含まれています。しかし、チェルノブイリの時のデータを見ると、大気中や土壌から検出されたストロンチウム90の量はセシウム137よりも、大分少なくなっています。これは、ストロンチウムが比較的大気中に飛散しにくいからです。
ただ、骨に集積する分、ストロンチウム90はセシウム137の15倍危険だというデータもあります(岩波新書『原子力発電』P89参照)。

もう一つ見落としてはいけないのは、海への流出です。今のところ、私たちは、
ストロンチウム90が海に流れ出しやすい物質なのかすら分かっていません。
放射性物質による大規模な海洋汚染の例としては、イギリス・セラフィールド再処理工場における垂れ流し事故がありますが、Web上でいろいろと探してみましたが、少なくとも日本語では、放射性物質の種類別の放出量・検出量など詳しい資料が見つかりません。セラフィールドは再処理工場の汚水、福島第1は燃料棒そのものからの流出ですが、参考になるデータは残されているはずです。加えて、とにかく福島第1附近の海の現状をつぶさに把握して、データを広く公開する必要があるでしょう。

残念ながら、福島第1の事故は、人類史上最悪の放射性物質による海洋汚染になるでしょう。私たちは、目の前の明日を生きるために、そして未来のために、その実態を知る必要があります。その時、ストロンチウム90のデータは不可欠です。






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