火山と原発2014/04/06 15:38

言うまでもないことですが、日本列島は地震が多く、火山活動が活発です。どちらも、"世界有数の"と形容することに、誰も反対しないでしょう。

ユーラシアの東端にある日本列島。その下では、プレートと呼ばれる、地球を覆う巨大な岩盤が複雑に重なり合っています。ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレート、太平洋プレートの4つです。
地球を覆っているのプレートは全部で10数枚。その内の4つが日本列島の下に入り込んでいる。この事実を知っただけで、日本が火山国、地震国であることに納得がいきます。
4つのプレートは、ゆっくりとですが別々の動きをしています。従って、プレートが交差する場所では、逃げ場を失った巨大な力が陸地を押し上げます。それが日本列島だと言ってもよいでしょう。
また、プレートの接点で生じた歪みが、一気に戻ろうとするとき、巨大地震が発生します。東日本大震災の震源は、大平洋プレートが北アメリカプレートの下に潜り込む、まさにその場所でした。

交差するプレートは、火山活動の源にもなります。気象庁のホームページに分かりやすいイラストがあったので、下に紹介します。

さて、日本列島にはいくつの火山があるのでしょうか?
数え方にもよりますが、約300とされています。そのうち、活火山が約100。活火山の定義は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」です。言い方を変えれば、「今後、いつ噴火してもおかしくない火山」。それが活火山です。1億3千万人弱が暮らす、この小さな列島に100もの活火山がある。まず、このことをしっかり認識する必要があります。

火山が噴火したら原発はどうなるのか… その想定は恐ろしすぎて、誰も正面から触れてこなかったのが事実です。
「大噴火は起きない」「溶岩流や火砕流が原発に到達することはない」。何の裏付けもないまま、原子力の専門家たちは、そう自分に信じ込ませてきました。多くの一般の人たちは、何となくそれに従って、危険を認識することはありませんでした。
しかし、大きな間違いでした。日本列島における火山噴火は、福島第1はもちろん、チェルノブイリをはるかに越える悲惨な原子力事故を引き起こします。以下、具体的に2つの例で見ていきましょう。

●九州の大カルデラ火山の噴火
多くの方は、"阿蘇カルデラ"という言葉には聞き覚えがあるでしょう。カルデラとは、火山の活動によってできた大きな凹地のことです。
阿蘇の場合は、大噴火で大量のマグマが地表に吹き出し、その時、地中にできた空洞に地面が落ち込んで凹地になったものです。ちなみに阿蘇カルデラを造った大噴火は8万7000年前に起きたもので、火砕流は九州全域を越え、現在の山口県にまで及びました。

九州には、阿蘇・九重(くじゅう)・加久藤(かくとう)・姶良(あいら)・阿多(あた)・喜界(きかい)という6つの大カルデラ火山があります。
カルデラ火山が大噴火すると、1000℃近い高温の軽石と火山灰が火山ガスとともに時速150キロ以上という高速で地表を走ります。火砕流です。威力は凄まじく、"すべてのものを破壊する"と言って間違いありません。

日本列島におけるもっとも新しいカルデラ火山の大噴火は、約7300年前に起きました。鹿児島南方沖の海底火山が噴火し、喜界カルデラを作ったときのものです。
火砕流と火山灰によって、南九州と四国・中国の一部が壊滅(中国地方の瀬戸内海側でも20センチ以上の降灰があった)。すべての生命が死に絶えました。このエリアでは、大噴火の前後で発掘される土器の形式がまったく異なることから、同じ縄文人とは言え、先住民はすべて死に絶え(あるいは移住し)、その後に外来者が住みつき、あらたな文化を築いたと考えられています。
九州の大カルデラ火山は、5000年~1万6000年に1回の割合で、九州全土と四国・中国のかなりの部分を無生物状態にするような大爆発を起こしているのです。最後の爆発から7300年。今すでに、次の大噴火が、いつ起きてもおかしくない時期になっています。これは、多くの火山学者が指摘している通りです。

「大噴火が起きたら、全部壊滅だから、原発があろうとなかろうと関係ない」と思う方がいるかも知れませんが、それは大きな間違いです。
確かに、大火砕流が火力発電所やガスタンクを飲み込んでいったとしても、特に被害が大きくなるとか、そういったことはありません。噴火の威力に比べたら、ガスタンクの大爆発だって、蚊に刺された程度です。
しかし、原発の場合は話が違います。そこには核燃料があり、大量の放射性物質(使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物や超ウラン元素、さらに汚染されたコンクリートや金属など)があります。火砕流に飲み込まれようが、溶岩に溶け込もうが、放射性物質が減ることはないし、それが発する放射線が減ることもないのです。
九州でカルデラ火山の大噴火が起きると、川内原発、玄海原発、伊方原発の3つは確実に制御不能に陥ります。全電源喪失はもちろん、建屋はおろか、格納容器、圧力容器まで破壊され、メルトダウンした核燃料と大量の放射性物質が露天にさらされるでしょう。
川内が178万キロワット、玄海が348万キロワット、伊方が203万キロワット。合計で729万キロワットの出力に相当する核燃料があります(原子炉内だけでこの量。他に核燃料プールや共有プールにも使用済み核燃料があります)。
ほぼすべての核燃料が露天にさらされたチェルノブイリ4号炉の出力は100万キロワットでした。伊方・玄海・川内の3原発が制御不能になったら、チェルノブイリの7倍を超える放射性物質が飛散する恐れがあります。大噴火の被害を越えて、ほぼ日本全土、朝鮮半島、中国の一部まで、数十年、あるいは100年単位で人が住むことはできなくなるでしょう。
この危険性を知りながら、川内原発の再稼働を目論む安倍政権の原子力政策は、愚の骨頂としか言いようがありません。

噴火がある程度予知できれば、対応策はとれるのでしょうか?
無理です。数日、あるいは数週間前に分かれば、発電時の核分裂連鎖反応を止めることはできます。しかし、使用中の核燃料(=使用済み核燃料)は、数年の間、強い放射線と崩壊熱を出すので、循環する水に漬けた状態でしか保管も移動もできません。せいぜい動かせて、原子炉に併設された核燃料プールまででしょう。押し寄せる火砕流への対策にはなりません。運転員は、暴走するのが分かっている原子炉を放り出して逃げ出すか、火砕流に巻き込まれて焼け死ぬか、選択肢は2つしかありません。悲しいかな… いずれにしても、原子炉は人間の制御から外れ、メルトダウンへと一直線です。

●成層火山による中規模火砕流
成層火山とは、ほぼ同一の火口からの複数回の噴火で、溶岩や火山砕屑物(火山礫や火山灰、軽石など)などが積み重なって形成された円錐状の火山のことです。富士山が代表格で、桜島や浅間山も成層火山です。日本列島では、約30の成層火山が中規模な火砕流をともなう噴火を起こしてもおかしくない時期に入っています。
特に原発や原子力施設に影響を及ぼす可能性が高い成層火山を上げてみましょう。
青森県にあるむつ燧(ひうち)ヶ岳と恐山は、東通原発や六ヶ所村に近く、噴火の際に無事に済むとは考えられません。
新潟県の妙高山が噴火した場合、柏崎刈羽原発まで火砕流が達するかどうかは微妙とされていますが、冬に噴火したら、火砕流が積雪を溶かして、大規模土石流が発生します。原子炉を日本海に押し流してしまうと考えられています。もちろんメルトダウン、放射性物質の大漏出となります。柏崎刈羽原発は822万キロワットの出力を持つ世界最大の原発です。

実は、火山の噴火によって、原発が制御不能、メルトダウンに至るシナリオは、上記の2つだけではありません。
地面に火山灰が10センチ以上積もる状況になれば、ほとんどの原発では、海からの冷却水の取り入れができなくなり、メルトダウンすると考えられます。海に落ちた火山灰が取水口を詰まらせてしまうからです。
伊豆諸島の利島(としま)や御蔵島(みくらじま)、神津島(こうづしま)などが噴火すれば、岩屑なだれが海中に突入し、巨大な津波が浜岡原発を襲う恐れがあります。
富士山の次の噴火は、山体崩壊を伴う可能性が大です。その時に発生する岩屑なだれが駿河湾に突入すれば、やはり浜岡原発は大津波に襲われます。
北海道の泊原発は、ニセコ火山から、たった13kmしか離れていません。ひとたび噴火が起きれば、岩屑そのものに埋まってしまう可能性があります。
北陸地方の海岸線は、小規模な火山(単成火山という)ができやすい地殻構造です。原発さえ無ければ、数百人が避難、移住すれば済む小規模な噴火にしかならないので、これまで問題視されることはありませんでした。しかし、原発が絡むと話が違ってきます。若狭湾の原発銀座のいずれかの原子炉の至近で、小規模とは言え、火山噴火が突然起きたら… 背筋が凍る思いです。避難、移住すべき人数は、アッと言う間に数十万人に。京都・大阪にまで影響が及べば数百万人、いや一千万人以上になってしまうのです。

この列島に、原発を作ってしまったことは、大きな間違いでした。今すぐ、完全脱原発に舵を切り、放射性物質をできるだけ安全な場所に、できるだけ安全な形でしまい込むことを考えなければなりません。
再稼働なんて、もっての外なのです。

●参考文献
『噴火と原発』(守屋以智雄)/岩波書店「科学 2014年1月号」ほか
●お薦め資料
川内原発直近の巨大活断層と幾度も襲った火砕流』/反原発・かごしまネット

コメント

_ 金宮 with Lemon & Soda ― 2014/04/07 17:03

火山があろうがなかろうが、地盤が堅牢であろうが軟弱であろうが、地球上に原発をつくること自体が大きな誤りですね。そして仰るように、日本列島の至る所が、その危険性をさらに拡大する最悪の立地であることは、誰もが認めるところでしょう!
「トイレのないマンション」が「豆腐の上」に立てられ、しかもその豆腐の中では、マグマが煮えたぎっているのですからね!

_ 武尊43 ― 2014/04/12 01:37

 自民党に政権を獲らせて置く限り、動き続ける原発。止めるにはどうした良いのか?即断原発を掲げている、本当の政権にするしかない。急に出て来て「脱原発」などと言い出す輩に惑わされてはいけない。奴らは攣るんでいる。自民党を生き伸ばすだけの為に言っているだけだ。そして経団連の米倉。産経新聞。読売新聞。日経新聞とその配下のテレビ局は全て動かす為に蠢いている輩だ。

_ 八鍬 収冶 ― 2014/04/12 10:10

世界地図の地震地帯を俯瞰すると、日本の原発は地震地帯に立地していますね。西欧は地震は少ない面もありますが、地震発生地に立地していません。米国も、地震地帯はさけている。
地質学者は地震国、日本に原発があること事態、間違いだと警告していますね。

_ rocky ― 2014/04/18 17:08

私が訪れた場所の噴火時期を見てみると
有珠山 1978年噴火土石流
摩周湖 カルデラは約7000年前の大噴火で形成
阿寒湖 カルデラ湖は今から1万年程前
駒ヶ岳 昭和4年大噴火(北海道)
十和田湖 915年大噴火と火砕流
蔵王御釜 1182年の噴火により誕生
御嶽山 1979年に有史以来の爆発、これ以来、死休火山は死語に
阿蘇山 1979年阿蘇第一火口が爆発
普賢岳 1991年噴火と火砕流
開聞岳 9世紀末の噴火では大きな被害

これ以外にも大小の噴火や火砕流があるので、本当に日本列島は噴火と地震の巣窟といえますね。

富士山もあの美しい山体を保持するには内部からの相当の圧が必要と思われますが、バランスが崩れると噴火あるいは陥没と言うことがあり得ます。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/05/06 17:03

追加情報です。
NHK そなえる防災『カルデラ噴火! 生き延びるすべはあるか?』
http://www.nhk.or.jp/sonae/column/20130314.html
九州で起こりうるカルデラ噴火の詳細を伝えています。原発への影響も記述。素直に読めば、浜岡または志賀以西のすべての原発がメルトダウンすることが分かります。

_ 私設原子力情報室 ― 2014/08/14 07:13

追加情報:
『東洋経済』の以下2本のインタビュー記事。とても分かりやすです。

「火山影響評価は科学的とはいえない」
川内原発審査の問題②高橋正樹・日本大学教授
http://toyokeizai.net/articles/-/44770

「規制委の火山リスク認識には誤りがある」
川内原発審査の問題④藤井敏嗣・東京大学名誉教授
http://toyokeizai.net/articles/-/44828

_ カメジィ ― 2014/08/23 23:28


雲仙普賢岳の火砕流の1年後くらいに現場に取材に行ったことがある。溶岩ドームの崩壊によって発生した火砕流で海外から来た火山学者夫婦、テレビの報道陣など40名がなくなった。焼けこげた大きな報道用カメラが展示してあったが、まるで、原爆で焼けた時計や弁当箱をみるようだった。中腹の立入禁止地区にそっと入ると理髪店が軒下まで埋まっていたりした。もちろん、これはその後の土石流によるものだと思われる。わずか高さ30メートルから40メートルの溶岩ドームの崩壊でこれだけの大惨事になるのだから、火山が大爆発をしたら、いったいどうなるか、想像がつかない。

7万年まえまでの阿蘇山の大噴火で火砕流が山口県まで達したという記事を見て、途中の1000メートル弱の山脈が二つもあるのに火砕流はどうして乗り越えたのだろうと疑問に思ったが、藤井先生の火砕流の説明で納得、火砕流は中九州を中心に発生し、九州全土に及んでいないことが分かって一安心した。
山口県まで達した痕跡があるからといって、阿蘇山を中心にコンパスで円を描いてその範囲は全部やられたなんて乱暴は推論はしない方が良いと思う。
そして、火砕流と続いて起こる火山灰の降灰は厳密に分けた方が良いと思う。噴火による火山灰の降灰は、数千キロに及ぶことは実証されている。
火砕流のメカニズムについては、もう少し、理解を深める必要があるかと思う。

聞いた話だが、阿蘇カルデラの大噴火に次ぐ噴火は 2万年前に起こった姶良(あいら)火山の噴火でその時に鹿児島の錦江湾ができたそうだ。また、2000年前におこった姶良火山の噴火で屋久島の杉が全滅し、現在縄文杉や神代杉とか言われている杉は本当は樹齢2000年だという話もある。その学説は否定されたのでしょうか?

7000年まえの鬼界カルデラの噴火で鹿児島南部の磨製石器をもった高度な縄文文化が消滅したという話は前に読んだことがある。彼らは丸木舟で九州沿岸から北上したのかもしれない。
しかし、川内原発にもっとも近い姶良カルデラについて述べないのはなぜでしょう?
これは爆発する可能性はないのでしょうか?
その可能性については、私の方でも調べる必要があるかも・・・・

_ カメジィ ― 2014/09/06 22:56

管理人さんのブログを読んていて思い出したりすることを投稿しているが、そろそろネタが尽きそうである。
秋田の大湯というところに環状列石がある。イギリスのストーンサークルに匹敵する大発見と大騒ぎされた。
その発見のいきさつを書いた小冊子をみつけた。
この遺跡は戦前から戦後にかけて発掘されたものだそうだ。
段丘のような台地上の原っぱがあって、もったいないから開墾しようということになって、開墾を進めた。野中にぽつんとある由来もしれない野中堂という小さなほこらのあたりを開墾し始めると、とたんにそこら辺にはない丸石が沢山出始めた。これは何かの遺跡に違いないということで その後十数年たって発掘したら環状列石が出てきたという話だ。
それも一つではなく、あちこちに2,3カ所発掘された。誰がいつ どんな理由で作ったか不明。だた、不毛の地を掘ると文明の遺跡が出てきたというのは、ボンベイの遺跡のようだ。ここには、古代の人たちが集落を営んでいたらしい。その地は、火山の厚い層で覆われてしまったことは確からしい。
環状列石を作った人たちは、火山の爆発で滅んだのだろうか?
米代川の流域には長者伝説があるのも面白い。

参考にした小冊子は手元にあります
「みちのくのふしぎ 謎のストーンサークル」高瀬博 編著
昭和55年6月20発行 定価400円 印刷 よねしろ書房

以上

_ 私設原子力情報室 ― 2014/09/07 22:01

サントリーニ島やポンペイ。たまたまその頃原発がなくて助かった…
近くはフィリピンのピナトゥボ山。今まさに進行中のアイスランド、バルダルブンガ火山の噴火は航空機の飛行に影響を与えています。たまたま近くに原発がなくて助かった…
そんな綱渡りをしているんですよね、人類は。
そして、もっとも細い綱が日本列島を南北に走っている。その上をヤジロベエのようにフラフラと歩んでいるのが日本の原発なのです。

_ コタツお父さん ― 2015/07/02 18:07

何がどうあれ 原発さえ無ければ広域的な避難訓練や
放射能の拡散状況 など無駄なことをしなくてすむ
放射能の恐ろしさも 時期が来れば薄れ危機感を失い
多くの人たちが被曝する
そもそも人間の手に負えない原発は早急に収束すべきもの 高リスクを抱えた利権はやがて経済破綻へと繋がる
日本の存続さえ危ぶまれる
電気は十分に足りている 最近は省電力化も進み 再生発電も増えてきてる あえてこの様な危険きわまりない永遠に思えるほど長く消えない猛毒発生機を運転する価値など何処にも無い

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