再処理工場の闇2012/06/05 20:58

この間の毎日新聞のスクープで、闇に包まれていた核燃料サイクルをめぐる原子力村の利権構造の一部が明らかになりました。

核燃サイクル原案:秘密会議で評価書き換え 再処理を有利
核燃サイクル「秘密会議」:まるでムラの寄り合い

まだ一端が表面化したに過ぎませんが価値のある報道でした。

しかしながら、再処理って何?という疑問も世の中には、まだまだあります。今回は、これまであまり注目されていない側面から、核燃料サイクルの中核をなす再処理工場の問題を検証し直したいと思います。

●新ウラン燃料・使用済みウラン燃料・MOX燃料

まず最初に、新ウラン燃料と使用済みウラン燃料、そしてMOX燃料では、なにがどう違うのかを確認しておきましょう。
新ウラン燃料は、天然ウランを原料にして作ります。天然ウランは、ウラン238が99.3%、ウラン235が0.7%ですから、そのままでは核分裂を起こしません。濃縮してウラン235の濃度を4%程度にまで高めることで、原子炉で核分裂を起こす新ウラン燃料にします。

新ウラン燃料は、原子炉内で約3年間、臨界状態に置かれ、連鎖的核分裂反応を起こします。この時に発する熱を発電に利用するのが原子力発電です。
使用済み核燃料の中には新たな放射性物質が生まれます。セシウム137やヨウ素131といった核分裂生成物とプルトニウム239。さらにプルトニウム239以外の超ウラン元素です。超ウラン元素とはウランよりも重い元素のことで、ネプツニウムやアメリシウム、キュリウムなどがあります。いずれも、放射線を発する危険な元素です。

MOX燃料は、ウラン燃料の核分裂反応で生じたプルトニウム239を再度、発電に利用しようというものです。
ウラン原爆の原料がウラン235で、プルトニウム原爆の原料がプルトニウム239であることからも分かるように、プルトニウム239は連鎖的核分裂反応を起こす物質なのです。

実際のMOX燃料は、使用済み核燃料の中からウラン238・ウラン235・プルトニウム239を抽出して、原子炉で使うのに都合の良い割合で混ぜ合わせています。

しかし、MOX燃料は、最初から強い放射性を帯びていて、発熱もするなど、ウラン燃料にはない危険性を持っています。製造の過程で純粋に近いプルトニウムを生成するので、安全保障上も大きな問題となります。アメリカが使用済み核燃料の再処理を行っていないのは、そのせいだと言われています。

さて、本来ならばこの地球上に存在しなかった危険な放射性物質である核分裂生成物や超ウラン元素を含む使用済み核燃料。
残念ながら、原発反対派と言えども、もはやここから目をそらすことはできません。「負の遺産」として、明確に認識して、考え得るもっとも安全な方法で、使用済み核燃料を処分する必要があります。
そこで焦点になっているのが、使用済み核燃料をそのまま最終処分場に埋める「直接処分」か、一部を再利用する「再処理」かなのです。

●再処理では海洋投棄が不可欠
再処理の話に戻りましょう。
下の図は、<新ウラン燃料→使用済みウラン燃料→MOX燃料>という、原発推進派が大好きな核燃料サイクルの一部をクローズアップしたものです。

使用済みウラン燃料から左右に「直接処分」と「再処理」へ枝分かれしていますが、「直接処分」がシンプルなのに比べて、「再処理」には複雑な工程が絡みます。さらに、「直接処分」にはない「劣化ウラン」や「海洋投棄」という大きな問題が出てきます。

まずは、海洋投棄に注目しましょう。
「廃棄物を海に棄ててはいけない」という国際的合意は、1972年採択(1975年発効)の「廃棄物その他の投棄に係わる海洋汚染防止に関する条約【通称、ロンドン条約】」によってなされました。
ロンドン条約の主なターゲットは放射性廃棄物。それまで各国は、核兵器製造や原子力発電で生じる放射性廃棄物を無原則に海に捨て続けてきました。日本もその一つです。
しかし、条約や法律の常、ロンドン条約にも抜け道があります。規制しているのが、高レベル放射性廃棄物なので、液状の廃棄物を水で薄めて海に流してしまえば、条約違反にはならないのです。船からの投棄を考えれば、薄めると量が増えてしまって、効率が悪くなるのですが、陸から直接棄てる場合は話が別。「薄めればOK」という、この抜け道を狡猾に利用したのが再処理工場なのです。

次の図は、「核燃料再処理の流れ」を示しています。

使用済み核燃料は、硝酸で溶解して、核燃料生成物とプルトニウム以外の超ウラン元素を取り除いてから、ウランとプルトニウムの再処理に入ります。「核燃料生成物と超ウラン元素はガラス固化体に固めるから大丈夫」というのが推進派の主張ですが、ガラス固化体にする前に、水分(液体)を絞らなくてはなりません。その液体まで、すべて保管していたら、いくら場所があっても足りませんから。そして、搾り取った後の液体には、必ず核燃料生成物と超ウラン元素が残ってしまいます。
しょうがないから水で薄めて海に流すと… 世界的に有名な再処理工場としてフランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドがありますが、どちらも海の中に数kmという廃液パイプを伸ばして、水で希釈した放射性物質を堂々と流しています。六ヶ所村でも同じ計画のはずです。

六ヶ所村沖は、世界三大漁場の一つとして知られる三陸沖の北端。ここに、放射性物質の海洋投棄を行う。絶対に許されないでしょう。

●劣化ウランはどこへ?
使用済み核燃料の再処理の(建前上の)目的は、MOX燃料と再生ウラン燃料の製造です。
ただ、この過程で、連鎖的核分裂反応をしないウラン238の濃度を下げなければなりません。ウラン238が多いと連鎖的核分裂反応が起きないからです。
従って再処理の過程では、どうしてもウラン238(緑)が余ってしまいます。しかし、ウラン238だけの純粋な抽出は難しいのでウラン235(黄)や、特に放射性が強く危険なウラン236(紫)も残ってしまいます。これを「劣化ウラン」と呼びます。

劣化ウランは、そのままでは原爆の原料にもなりませんし、発電にも使えません。しかし、環境や生物に悪影響を及ぼすには十分の放射線を発する危険物質です(イラク戦争での劣化ウラン弾問題をご存じ方も多いと思います)。

今、日本で論じられている再処理や核燃料サイクルの議論からは、完全に劣化ウランの問題が落ちています。どこにどう劣化ウランを保管するつもりなのか、推進派からの説明を聞いてみたいものです。

●使用済みMOX燃料は再処理できない!?
再処理と核燃料サイクルの問題を調べていく中で、とんでもない嘘に突き当たりました。「核燃料サイクル」そのものが虚構=大嘘なのです。

推進派の説明によれば、「使用済みウラン燃料→再処理→MOX燃料→再処理→MOX燃料…」という、文字通りのサイクルで核燃料が回るはずでした。しかし、MOX燃料の再処理は少なくとも六ヶ所村タイプの再処理工場ではできないのです。なぜなら、MOXの使用済み燃料は硝酸に溶けにくいから… なんと馬鹿馬鹿しい!
MOXの使用済み燃料を再処理するためには新たなタイプの再処理工場が必要だそうです。今、世界中、どこを見渡しても、それは存在しないし、技術的な見通しもまったく立っていない状態です。
「核燃料サイクル」に騙されてきた人たちは大いに反省すべきです。核燃料はサイクルできません!

なんともはや、とてつもない嘘まで並べて推進されてきた核燃料サイクル。
誰がそれを望んでいるのでしょうか?
経済の原点に帰ってみましょう。電力会社が電力消費者に、より安い電気を供給しようと自ら努力するでしょうか?彼らの本意は、できるだけ高く売ることです。おまけに、日本の電力業界は無競争なので、ブレーキが掛かることはありません。
一方で、核燃料サイクルのような大事業を進めれば、企業としては大きな金が動くので、その過程で儲けることができます。利権も生じますから、そこで私腹を肥やそうという人間もたくさん群がってきます。結果は、電力料金に跳ね返り、いざ事故が起きれば税金投入。故郷に何十年、いや、永遠に帰れない人たちも出ます。私たちにとって、こんな理不尽なことはありません。

誰がどう考えても、経済的なメリットがなく、安全性の面からも危険視される核燃料サイクルが、推し進められてきた事実。その闇を徹底して暴き出すことで、この最悪の構造を打ち壊す第一歩にしなくてはなりません。

使用済み核燃料の処理に関しては、全量直接処分しかありません。
そして、この問題を考えるための前提として、今後一切、使用済み核燃料を増やさないこと。原発の再稼働を許さず、「直ちに廃炉へ」という決定を行う必要があります。

順番としては、「核燃料サイクルの放棄→すべての原発の廃炉決定→最終処分場の決定と具体化」となるのでしょう。そうしないと、「最終処分場があるのだから、原発を稼働してもよい」などと、馬鹿げたことを言い出す輩が出ますから。

突然、『再起動』!?2012/06/09 07:31

昨6月8日18時より、大飯発電所の「再起動」に関する野田首相の記者会見が行われました。あまりにも酷い内容だったので、次の記事で全面的な反論・反証を行おうと思います。

先だって、この会見の中で突然飛び出した
「再起動」という言葉に注目です。いままで原発に関しては、「再稼働」が一般的に使われてきました。「再起動」には大きな違和感がありました。
パソコンやスマートフォンであれば、再起動によって大きな危機から回復することはあります。しかし、原発はそんな甘い物じゃありません。
「再起動」という言葉を使うことによって、原発問題をパソコンのトラブルレベルに抑え込んでしまいたい。そんな思いが見え隠れします。
野田首相のオリジナルアイデアなのか、広告代理店の差し金なのかは知りませんが、姑息な言葉遊びに、怒り心頭です。

野田会見に全面反論2012/06/09 07:44

以下、青文字赤文字が、2012年6月8日18時から行われた、大飯原発の再稼働問題に関する野田首相の会見内容全文です。特に重要と思われる部分を赤文字にしてあります。黒文字は、私設原子力情報室からのコメントです。

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本日は大飯発電所3、4号機の再起動の問題につきまして、国民の皆様に私自身の考えを直接お話をさせていただきたいと思います。

4月から私を含む4大臣で議論を続け、関係自治体のご理解を得るべく取り組んでまいりました。
夏場の電力需要のピークが近づき、結論を出さなければならない時期が迫りつつあります。
国民生活を守る。それがこの国論を二分している問題に対して、私がよって立つ、唯一絶対の判断の基軸であります。それは国として果たさなければならない最大の責務であると信じています。


>「国民生活」の大前提は、「命」と「健康」でしょう。

その具体的に意味するところは2つあります。国民生活を守ることの第1の意味は、次代を担う子どもたちのためにも、福島のような事故は決して起こさないということであります。
福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整っています。これまでに得られた知見を最大限に生かし、もし万が一、すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らないことが確認をされています。


>「すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らない」という確認は、いつ、どこで、誰が行ったのでしょうか?あの斑目委員長だって、この発言には首を縦に振らないはずです。
「長時間の全電源喪失が起きれば、必ず炉心損傷(メルトダウン)に至る。だから、全電源喪失だけは起こさないようにしなければならない。しかし、それを100%防ぐ手だてはない」というのが、原発推進派も含めた基本的な理解です。

また、福島型の地震・津波以外の原因であれば、また「想定外」で逃げられる文脈になっていることも見落としてはいけません。この作文はかなり狡猾です。

これまで1年以上の時間をかけ、IAEAや原子力安全委員会を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて得られた知見を慎重には慎重を重ねて積み上げ、安全性を確認した結果であります。

もちろん、安全基準にこれで絶対というものはございません
最新の知見に照らして、常に見直していかなければならないというのが、東京電力福島原発事故の大きな教訓の一つでございました。


>数秒前に言った「福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整っています」と「安全基準にこれで絶対というものはございません」は、完全に矛盾しています。
安全基準に絶対がないと認めることは、事故を100%防止はできないと認めることと同義です。

そのため、最新の知見に基づく30項目の対策を新たな規制機関の下での法制化を先取りして、期限を区切って実施するよう、電力会社に求めています。
その上で、原子力安全への国民の信頼回復のためには、新たな体制を一刻も早く発足させ、規制を刷新しなければなりません。速やかに関連法案の成案を得て、実施に移せるよう、国会での議論が進展することを強く期待をしています。

>「原子力安全規制庁」のことを言っているのだと思いますが、なぜ、その発足が遅々として進まないのか、一言も触れないのは卑怯と言ってもよいでしょう。
また、「推進」と「規制」を同じ組織でやってきたことが、福島第1事故の遠因の一つになっていることを認めなければ、話は進みようがないでしょう。
過去を振り返れば、行政による「規制」はほぼなかったというのが事実なのですが、それにも言及せずです。

こうした意味では、実質的に安全は確保されているものの、政府の安全判断の基準は暫定的なものであり、新たな体制が発足した時点で安全規制を見直していくこととなります。
その間、専門職員を要する福井県にもご協力を仰ぎ、国の一元的な責任の下で、特別な監視体制を構築いたします。


>「こうした意味」の「こうした」が何を指すのか、まったく意味不明。なにをして、「実質的に安全は確保されている」と断言できるのでしょうか?
大飯原発には、格納容器の爆発という最悪の事態をギリギリの段階で抑えるための、まともなベント設備はありません。ベントに際して、放射性物質の放出を多少でも少なくするウェットベントやフィルター付きベントは備えていないのです。免震事務棟もありません。おそらく、3.11以降の改善点と言えば、消防車を増やしたことと、ディーゼル発電機の設置場所を変えたことくらいでしょう。
一方、スイスでは、国内すべての原発にウェットベントとフィルター付きベントと完備しています。しかしそのスイスは、すべての原発の廃炉を決定しました。「100%安全に近い原発を作ることはできるが、100%安全な原発を作ることはできない」というのがその理由です。
このスイスの人たちの判断を野田首相は、どう受け止めるのでしょうか?

これにより、さきの事故で問題となった指揮命令系統を明確化し、万が一の際にも私自身の指揮の下、政府と関西電力双方が現場で的確な判断ができる責任者を配置いたします。
なお、大飯発電所3、4号機以外の再起動については、大飯同様に引き続き丁寧に個別に安全性を判断してまいります。


>野田首相は、福島を経てもなお、原発と原発事故の怖さをまったく理解していないとしか思えません。

国民生活を守ることの第2の意味、それは計画停電や電力料金の大幅な高騰といった日常生活への悪影響をできるだけ避けるということであります。
豊かで人間らしい暮らしを送るために、安価で安定した電気の存在は欠かせません。
これまで、全体の約3割の電力供給を担ってきた原子力発電を今、止めてしまっては、あるいは止めたままであっては、日本の社会は立ち行きません。


>これは危険な恫喝です。
かつて、「大陸進出しなければ日本は立ちゆかない」「満州がなければ日本は立ちゆかない」という集団ヒステリー状態に駆られて、とんでもない事態を引き起こした経験を思い出す必要があります。
「豊かな暮らし」→「豊富な電力」→「原子力発電」という単純な構図が間違っていたんだと、今、多くの人が気が付き始めている時に、首相がこのレベルでは…
いや、シニカルに冷笑している場合ではありません。この論法の根底にある、きわめて危険な発想を見ぬく必要があります。

数パーセント程度の節電であれば、みんなの努力で何とかできるかもしれません。しかし、関西での15%もの需給ギャップは、昨年の東日本でも体験しなかった水準であり、現実的には極めて厳しいハードルだと思います。
仮に計画停電を余儀なくされ、突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人も出ます。仕事が成り立たなくなってしまう人もいます。働く場がなくなってしまう人もいます。


>これは、福島の人は怒りますよ!
福島で、故郷を失い、仕事を失い、家族との暮らしを失い、被ばくの恐怖に晒されながら生きている人たちのことを心の隅にも置いていない酷い発言です。
また、原発が動かないと命が失われるとか、雇用がなくなるとか言うなら、それを防ぐのが政府の仕事でしょう!原発無しで。野田総理は、政府や行政がやるべきことを放棄して、「面倒だから、元通りで」と言っているに過ぎません。

東日本の方々は震災直後の日々を鮮明に覚えておられると思います。計画停電がなされ得るという事態になれば、それが実際に行われるか否かにかかわらず、日常生活や経済活動は大きく混乱をしてしまいます。
そうした事態を回避するために最善を尽くさなければなりません。

夏場の短期的な電力需給の問題だけではありません。
化石燃料への依存を増やして、電力価格が高騰すれば、ぎりぎりの経営を行っている小売店や中小企業、そして、家庭にも影響が及びます。空洞化を加速して雇用の場が失われてしまいます。
そのため、夏場限定の再稼働では、国民の生活は守れません。

>繰り返しになりますが、原発が動かないと日常生活や経済活動が破綻するという単純化は、きわめて危険な考え方です。
多くの研究者が言っているように、原発が無くても日本は沈没しません。
原発の無い日本を前提に、次の100年、200年のビジョンを考えるのが政府の仕事でしょう。

さらに、我が国は石油資源の7割を中東に頼っています。仮に中東からの輸入に支障が生じる事態が起これば、かつての石油ショックのような痛みも覚悟しなければなりません。国の重要課題であるエネルギー安全保障という視点からも、原発は重要な電源であります。

そして、私たちは大都市における豊かで人間らしい暮らしを電力供給地に頼って実現をしてまいりました。


>ここでもまた、都市生活だけに注目です。
本当は原発なんか無い田舎にこそ、豊かで人間らしい暮らしがあるのに…
野田首相の想像力の乏しさには、ほとほと呆れざるを得ません。

関西を支えてきたのが福井県であり、おおい町であります。これら立地自治体はこれまで40年以上にわたり原子力発電と向き合い、電力消費時に電力の供給を続けてこられました。私たちは立地自治体への敬意と感謝の念を新たにしなければなりません。

>こういうのを慇懃無礼(いんぎんぶれい)と言います。
事実を言えば、福井県だっておおい町だって、ボランティア精神で原発を受け入れてきたわけではありません。
一方、おおい町だけではありませんが、豊かな自然と山海の恵みにあふれる地域が、原発を受け入れざるを得ない状況を作ったのは、この国の政治だということを強く反省すべきでしょう。

以上を申し上げた上で、私の考えを総括的に申し上げたいと思います。

国民の生活を守るために、大飯発電所3、4号機を再起動すべきというのが私の判断であります。

その上で、特に立地自治体のご理解を改めてお願いを申し上げたいと思います。ご理解をいただいたところで再起動のプロセスを進めてまいりたいと思います。

福島で避難を余儀なくされている皆さん、福島に生きる子どもたち。そして、不安を感じる母親の皆さん。東電福島原発の事故の記憶が残る中で、多くの皆さんが原発の再起動に複雑な気持ちを持たれていることは、よくよく理解できます。

>野田総理は、福島の痛みをまったく理解していません。
もし、少しでも理解しているなら、この会見の中に、「大都市における豊かで人間らしい暮らし」なんていう視点は登場しないでしょう。

しかし、私は国政を預かるものとして、人々の日常の暮らしを守るという責務を放棄することはできません。

>「人々の日常の暮らしを守る」というのは、すべての原発の廃炉を決めることに他なりません。
福島第1の事故が、どれだけ人々の暮らしを揺るがしているのか… それを二度と起こさないための選択肢は明らかなのです。

一方、直面している現実の再起動の問題とは別に、3月11日の原発事故を受け、政権として、中長期のエネルギー政策について、原発への依存度を可能な限り減らす方向で検討を行ってまいりました。
この間、再生可能エネルギーの拡大や省エネの普及にも全力を挙げてまいりました。

>太陽光発電、風力発電はもとより、日本列島は、地熱発電や海洋発電(潮力発電など)に適した自然環境下にあります。
野田政権が、再生可能エネルギーの拡大に本格的に努力した形跡を認めることができません。もしあるなら、大々的に発表してほしいものです。
再生可能エネルギーの特徴の一つは、地域地域で適する発電方法が異なるということ。エネルギー源の多様性を意識した積極的な政策が求められています。
そのためには、まず、原発にドップリと浸かって、手も足も出せないでいる状況から、政府みずからが抜け出さないと…

これは国の行く末を左右する大きな課題であります。
社会の安全・安心の確保、エネルギー安全保障、産業や雇用への影響、地球温暖化問題への対応、経済成長の促進といった視点を持って、政府として選択肢を示し、国民の皆様との議論の中で、8月をめどに決めていきたいと考えております。

国論を二分している状況で1つの結論を出す。これはまさに私の責任であります。
再起動させないことによって、生活の安心が脅かされることがあってはならないと思います。

国民の生活を守るための今回の判断に、何とぞご理解をいただきますようにお願いを申し上げます。

>残念ながら、「ご理解」できません。

また、原子力に関する安全性を確保し、それを更に高めていく努力をどこまでも不断に追及していくことは、重ねてお約束を申し上げたいと思います。


>3.11以降、本格的に原発の安全性を高めるような改善は、どこの原発でも行われていません。原子力政策の見通しが不透明な中、電力会社が大きな投資を渋っているわけです。
一方、どんなに努力しても、原発の安全性を100%確保することはできません。もちろん火力発電所だって事故は起こすし、ガスタンクだって爆発します。しかし、原発の事故はレベルが違うのです。それを福島第1が具体的に教えてくれました。
原発は100%安全でなければならないのです。しかし、100%の安全を確保することは不可能なのです。
答えは明白だと思います。
過酷事故を起こした国の首相が、このレベルのことを理解していないとしたら、あまりに酷すぎるでしょう。

世界の原子力利権と日本①『ウラン採掘総元締めの予想外』2012/06/15 09:58

原子力の問題を語る時、原発だけを取り上げてもすべてを語ることはできません。ウラン採掘から、使用済み核燃料を含む放射性廃棄物の行方まで、核物質の動き全体を考える必要があります。
そこで3回に分けて、国境を越えて地球を駆け巡る核物質を追って行こうと思います。
完全脱原発なのか脱原発依存なのか… 再稼働は許されるのか… 議論が高まる中、懲りずに世界の原子力利権構造にドップリと浸かり、大きな役割を果たし続けている日本の原子力産業の姿を浮き彫りにする必要があるからです。

●ロイターの報道
今年3月26日。ロイターが今までにない視点から福島第1の事故の影響について伝えています。

『Cameco sees restart of some Japan reactors soon』【REUTERS】
『全訳』【星の金貨プロジェクト】

見出しを直訳すると、「カメコ(Cameco)は、日本の幾つかの原子炉がまもなく再稼働すると予想している」。
カメコとは、カナダに本拠地を置く世界有数の核燃料供給企業で、ウラン採掘から精製、転換まで幅広く手がけています。
ロイター報道の主眼点は以下の通りです。
1. カメコは、3.11以降、日本の電力会社に対して余っているウラン燃料の買い取りを提案。
2. これに対して、いくつかの電力会社はウラン燃料の納品の延期を依頼してきたが、在庫を減らしたり、契約済みの分について数量を減らすよう求めてきた会社は一社もなかった。

カメコとしては、原発過酷事故を起こした日本は、脱原発に大きく舵を切るか、少なくともしばらくは原発は稼働できないと読んだのでしょう。そこで早々に、ウラン燃料の返品買い取りを提案。これに対して、かたくなに原子力発電にしがみつく日本の電力会社は、一切応じることがなかったと。
おそらく価格的にはよい条件ではなかったのでしょう。しかし、余っているウラン燃料を買ってもらえば、天然ガスの購入資金や再生可能エネルギーの開発に充てたりできたはずです。「原発が止まっているから発電コストが高く付く。だから値上げ」と言い続けるなら、まず、不要なウラン燃料を買い取ってもらうべきです。これは今からでも遅くないと思います。

報道はカメコのCEOであるティム・ギツェルの発言に基づくものでした。記事の中で、ギツェルはもう一つ重要なことを語っています。

1. カメコのウラン採掘計画の幾つかは、日本企業との提携で進められている。
2. この提携についても継続の可否を打診したが、撤退を申し出た会社はなかった。従って、日本からのウラン採掘への投資は継続される。
3. 出光興産は、2013年後半に採掘を開始する予定のカナダ・サスカチュワン州にあるカメコのシガーレイク・ウラン鉱山の株式8パーセントの株式を保有。東京電力は5%保有し続けている。

ウラン採掘の総元締めとも言えるカメコのCEO、ティム・ギツェルの予想は、日本の原子力産業は「ウラン燃料の返品買い取りを求めるだろう」そして「ウラン採掘計画からは撤退するだろう」というものでした。
その予想は、見事に裏切られました。日本の原子力産業は、カメコも驚くような対応をしたのです。
まさに「懲りない原子力村」。醜い姿が海外の報道から浮き彫りにされた形です。

ドイツでは国の脱原発宣言を受けて、大手電機メーカーのシーメンスが原発事業からの完全撤退を表明しました。これまでドイツ国内外を問わず原発関連で多くの利益を上げてきた企業が180度方向転換。未来を見据えての判断です。
過酷事故を起こした日本で、いまだに完全脱原発に踏み出せないでいる私たちは、恥ずべきであり、深く反省すべきなのでしょう。

世界の原子力利権と日本②『世界を駆け巡る核物質の危険と利権』2012/06/15 10:08

核物質の危険と利権。偶然、語呂合せになってしまいましたが、核物質がその大きな危険性を顧みられることなく、利権のために世界中を駆け巡っている。それが、今の状況です。

ウラン鉱山で採掘された天然ウランが加工され、原発で使われ、最後は使用済み核燃料や放射性廃棄物になるまでを図にまとめてみました。

ウラン鉱山で採掘されたウラン鉱石は、通常、鉱山に併設されている精錬工場でウラン濃度60%まで精錬されイエローケーキ(ウラン精鉱)になります。
ウラン採掘の段階で、すでに日本の原子力産業が深く関わっているのは、前の記事で述べた通りです。採掘プロジェクトへの出資を行っていて、3.11以降も撤退していません。

●転換
精錬の次のプロセスは「転換」です。イエローケーキを六フッ化ウランに「転換」します。
なぜ、六フッ化ウランなのか?
詳しくは後述しますが、ウランを濃縮するためには、一旦、六フッ化ウランの形にする必要があるのです。
六フッ化ウランは常温では白色の粉末。水に触れると生体への毒性が強いフッ化水素を激しく発生します。56.5℃という低い温度で昇華して気体になるという性質もあります。従って六フッ化ウランの容器には厳重な防湿と密封性が必要です。

「転換」のための工場や施設は、カナダ、アメリカ、フランス、ロシア、イギリスなどにあります。ウラン鉱山を出たイエローケーキは、ある時はトレーラーで、ある時は船で危険な旅をします。
実際にアメリカでは、トレーラーの横転事故でイエローケーキを詰めたドラム缶が壊れ環境を汚染、除染を余儀なくされた事故例が複数あります。

転換工程を担う企業は、前述のカメコ(カナダ)の他、コミュレックス(フランス・アレバの子会社)、ウェスティングハウス(東芝の子会社)など。日本には転換工場はありませんが、実は東芝が深く関わっているのです。また、コミュレックスの親会社のアレバは、言わずと知れた世界最大の原子力産業。三菱重工と提携関係にあります。

●濃縮
「転換」の次に来る「濃縮」では、「低い温度で気体になる」という六フッ化ウランならではの性質を利用します。
現在、ウラン濃縮法の主流は「ガス拡散法」と「遠心分離法」。いずれも、気化したウラン化合物を使って、ウラン238とウラン235を選り分け、天然ウランには0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を原子炉で使える4%程度にまで高めます。そのために、あらかじめ天然ウランを気化しやすい六フッ化ウランに「転換」しておく必要があるのです。

世界的に見るとウラン濃縮は、アメリカのユーセック(東電と協力関係にある)、ウレンコ、フランスのアレバ、ロシアの国営企業ロスアトム(ROSATOM)の4社が世界全体の需要の約96%をまかない、日本には六ヶ所村に小規模な濃縮施設があります。

核物質を気体の状態で扱うわけですから、濃縮工場が持つ危険性は極めて高いもの。その詳細を原子力資料情報室が明らかにしています。

『六ヶ所ウラン濃縮工場における事故災害評価』【原子力資料情報室】

濃縮工程を経て、六フッ化ウランは濃縮六フッ化ウランになります。
この時に絞り滓のように残るのが劣化ウラン。主にウラン238ですが、分離しきれなかったウラン235も0.2%ほど含みます。世界中の濃縮工場で行方の決まらない劣化ウランが溜まり続けています。もちろん六ヶ所村でも。

●再転換
「濃縮」の次は「再転換」です。濃縮六フッ化ウランを濃縮二酸化ウラン(以下、単に「二酸化ウラン」と記す)に転換します。
ここでも、なぜ二酸化ウランなのか?という疑問が出てきます。答えは融点が高いから。金属ウランの融点が1132℃なのに対して、二酸化ウランは2865℃。高温でも溶けにくいという性質から核燃料として使われるようになったのです。しかし、ひとたび事故が起きれば、二酸化ウランですら溶け出してしまう… メルトダウンは、いとも簡単に起き、とてつもない被害を及ぼすことが福島第1で証明されたのです。

話を「再転換」に戻しましょう。
世界にある再転換工場(商用)は以下の通りです。

ここでも、ウラン採掘の総元締め=カメコ、東芝の子会社=ウェスティングハウスが上位に登場。他に日本の三菱原子燃料、アルゼンチン、ブラジル、インドにも再転換工場があります。

「再転換」もまた大きな危険を伴う工程です。1999年に東海村で起きたJCO臨界事故は、再転換作業中に発生したものでした。
以来、日本で稼働する再転換工場は三菱原子燃料だけになり、供給量が不足。二酸化ウランの多くを輸入してきたわけです。

ここでもう一度、ウラン採掘から始まる核物質の動きを見直してみましょう。

世界規模で行われる核物質の危険な移動と、それぞれの工程に潜む危険。
しかし、ウラン利権・原子力利権にしがみつく輩は、自分以外の命と健康には無関心です。過酷事故が起きても何処吹く風。数万人が故郷を追われ、被ばくの恐怖に晒されながら生きざるを得ない状況も、まったく目に入らないのでしょう。

今、核物質の危険と利権が世界を駆け巡っています。

世界の原子力利権と日本③『世界の原子炉を支える日本企業』2012/06/15 10:26

「再転換」の次は「燃料成型加工」です。
二酸化ウランの粉末を焼き固めてセラミックス化し、燃料被覆管に詰め込みます。これが核燃料棒で、束ねると核燃料集合体になります。
国内で使う核燃料の「燃料成型加工」は、日本の原子燃料メーカーが担っています。下の図はその一覧です。

それぞれ、東芝、日立、三菱重工という原子炉メーカーと深いつながりがあります。また、アレバとウェスティングハウスという世界的な原子力産業との関係も見落とせません。

次に世界の原子炉メーカーを見てみましょう。

ロシアのアトムエネルゴブロムを除く3社に日本企業が深く関わっています。ウェスティングハウスに至っては、東芝そのものと言ってもよいでしょう。世界の原子炉マーケットは、日本企業が牛耳っているのです。
ちなみにアメリカは、スリーマイル島の事故以来続けてきた新設凍結の禁を破って、新たな原子炉2基の建設を決めました。この原子炉はウェスティングハウス製(=東芝製)です。

ところで、事故を起こした福島第1の原子炉メーカーは、
1号炉=GE
2号炉=GE(+東芝)
3号炉=東芝
4号炉=日立
です。
道義的に考えれば、過酷事故に深く関わった東芝と日立は、事故収拾と廃炉プロセス以外の原子力事業から、直ちに撤退すべきです。
しかし、実情はまったく異なります。
原子炉の建設はもとより、ウラン採掘から始まる原子力利権構造の中で守銭奴と化す。かれらが大好きなはずの「日本人の潔さ」はどこに行ってしまったのでしょうか…

もう一つ、原子炉マーケットの状況を裏読みしてみましょう。
ウェスティングハウスがアメリカの企業からイギリスのBNFL(英国核燃料会社)に売却されたのは1998年。さらに、2006年には東芝に売却されます。
一方、GE日立ニュークリア・エナジーの発足は2007年6月。
どうも、アメリカもイギリスも、事故が起きれば大きな責任を追及される原子炉の開発・建設から、体よく逃げ出そうとしているのではないでしょうか。実際、アメリカの世界的IT企業の一つは、内規で、どんなに利益が見込めても原子力関係のシステムには絶対に手を出さないと決めています。もし、コンピューターシステムが原因で事故が起きたら、その責任を負いきれない(要するに、会社が潰れる)と考えているからです。

数行前に「道義的には…」と書きましたが、本音を言えば、日本企業が自主的に世界の原子力利権から手を引くことは不可能だろうと思っています。
まず、日本政府が完全脱原発路線を明確にすること。企業がついて来ざるを得ない状況を作らないといけないのでしょう。そして、政府に重い腰を上げさせるには、私たち一人ひとりが声を上げ続けるしかないのです。






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