お茶とセシウム2011/05/18 13:05

ここのところ、神奈川県や静岡県の新茶からセシウム137が検出されて、大きな騒ぎになっています。
福島第1から遠く離れているのに、なぜ?
多くのメディアは、地形や天気等によって、核分裂生成物がある程度の濃度のまま、遠くまで運ばれることがあると報じています。それ自体は正しいのですが、もう一つ重要な視点が必要です。

茶という植物は、たいへん効率よくセシウム137を生体内に取り込み、濃縮する能力を持っているのです。えっ?と思われる方も多いと思いますので、その仕組みを説明しましょう。

文科省の食品成分データベースで、「せんちゃ」を検索してみましょう。「表示成分選択」のところで、「無機質」「全て」にチェックを入れます。結果を表示すると、煎茶にはカリウムが豊富に含まれていることが分かります。
茶は地中や大気中からカリウムを取り込む力が、とても強いのです。そして、カリウムは人間にとっての必須ミネラルの一つ。特にアジアの人々は、遠い昔から、茶が健康に良いことを経験的に知っていました。それはカリウムが豊富だからとも言えるのです。

さて、そのカリウムとセシウム137がどう関係するのか?
実は、セシウムは化学的性質がカリウムとよく似ていて、茶の木であろうと人間であろうと、生体はカリウムとセシウムを見分けることができません。言い方を変えれば、生命を維持するために、カリウムと勘違いしてセシウムをせっせと溜め込んでしまうのです。もちろん、セシウムが放射性であろうとなかろうと関係ありません。だから、環境の中で放射性のセシウム137の濃度が少しでも高まることは、たいへん危険なのです。人間の体内に取り込まれたセシウム137は、筋肉などに蓄積し、深刻な体内被曝を引き起こす可能性があります。

この事実を見ていくと、地球上の生きものはすべて、放射性物質に対してまったく防御する力を持っていないことが分かります。一方で、太古の昔から、地上での放射線量は少しずつ減ってきていたはずです。なぜなら、どの放射性物質も放射線を放出することで、少しずつ安定した原子に変わっていくからです。例えば、ウラン235の半減期は7億年ですから、現在、地球にあるウラン235の量は7億年前と比べると半分になっています。放射性物質が減ってきたからこそ、人類が地球に登場できたのかも知れません。
ところが、その人類は、減っていくはずの放射性物質を逆に増やしてしまったのです。広島・長崎、度重なる原水爆実験、そして、原発などの原子力施設での深刻な事故。ストロンチウム90やセシウム137は本来、地球上に存在しなかった放射性物質だということも忘れてはいけません。

放射性物質は、やがて減っていくという自然の摂理を破ってしまった人類。今、原点に戻って、もう放射性物質を増やしてはいけないのだと確認し合う必要があります。

コメント

_ 蔦谷K ― 2011/05/18 20:27

初めてコメントいたします。
ツイッターで、こちらの記事が引用されているツイートを見て、それからこちらのブログを拝見するようになりました。

カリウムは、色々な食材に普通に含まれているミネラルだから、カリウムと性質が似ているセシウムが、いろいろな食材をまんべんなく汚染していくのですね…。分量の多寡はあるでしょうが…。
暗澹たる気持になります。

他の放射性物質の心配なのですが、ストロンチウムはカルシウムと化学的性質が似ていると聞きました。ではこれは骨に蓄積する恐れがあるのでしょうか。

コウナゴから放射性ヨウ素が検出されましたが、ストロンチウムについての報道は全然聞かないので情報がなく、不安に思っています…

_ ゆきぼー ― 2011/05/18 20:35

お邪魔いたします。
お邪魔している間に少しずつ理解できるようになりました。
沢山の専門家と言われる方がおられるのに、原子力発電を
効率・停電・経済という視点からしか話さない「専門家」が多くいますが、なぜご指摘のような視点から問題点を解明する人がマスコミに登場しないのでしょうか。
半減期と報道されると素人はなくなると思ってしまいますが、字で書いてのごとく・半減するだけですとは報道されませんね。残念です。が広めていきます。

ちなみに、福島の状況ですが単純に水を循環させることができるのでしょうか。ひどい放射レベルとのことですが
情報がありませんが。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/18 20:39

>蔦谷Kさま
コメントありがとうございます。
ストロンチウム90に関しては、当ブログで再三警告を発している通り、たいへんに危険です。
お時間のある時に、以下の記事を読んで頂ければ幸いです。
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/03/24/5755484
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/03/26/5759790
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/04/01/5769468
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/04/05/5775254
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/04/11/5800199
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/04/18/5812745
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/05/10/5855742
ストロンチウム90については、崩壊する時に出る放射線がベータ線のため、分析しにくいという事実は有るのですが、それにしても情報が出なさすぎです。多くの研究者が、もっとも恐ろしい核分裂生成物だと言っているのに。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/18 20:59

>ゆきぼーさん
コメントありがとうございます。
なにしろ、学者もマスコミも、有形無形の形で原子力に買収されてますからね(実は、かなり有形が多いのですが)。まずは、この利権構造を解体しないと。何しろ、エネルギー関係の開発研究に関わる予算の大半が原子力に注ぎ込まれてきました。3月11日当日、東電会長率いるマスコミOBツアーが、中国を訪れていたのも象徴的でしてた。
福島第1の当面の着地点ですが、どうやら、1~3号機のすべてで格納容器が破損しているようです。そうなると水棺は難しいでしょう。土木建築系の知識はあまりないのですが、チェルノブイリ方式の石棺を目指すしかないような気がしています。やるなら、早めに路線を変更すべきでしょう。その方が、トータルの放出量を減らせますので。

_ kattsuism ― 2011/05/18 21:08

福島市在住の物です。恐ろしい事が起こっている・・ですがわたしの周りには日常が広がっています。
隠蔽された情報 メディアの歯切れの悪さ・・文化省の犯した内部被爆も無視の20問題・・現地の人に真実を!選択権も与えられぬ騙された日常があり しかしその薄気味悪さに気付いている人は少数派です。
 真実のコメントいつも拝見させてもらっています。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/18 21:18

>kattsuismさん
福島市からのコメントありがとうございます。
まずは、頑張ってください!というありきたりな一言しか出ませんが、とにかく、すべての情報の公開を求めていくことが第一歩だと考えています。
微力ながら、このブログを書き連ねていくこと。それが今の私にできることです。

_ ののはな ― 2011/05/18 23:15

わたしもツイッターでここを知りやってきました。お茶に関してすごくよくわかりました。不安でずっと鬱状態です。東電にはもう言う言葉もなくなって・・・
これからも覗かせてくださいね。よろしく

_ 蔦谷K ― 2011/05/18 23:46

ストロンチウムの記事ご紹介ありがとうございます。
(過去記事を検索せずに無精してお聞きし、失礼しました!)
全て拝読しました。
白血病を引き起こすメカニズムもよくわかりました。

イワシが「海の牧草」と言われるように、
オキアミは「海洋生態系のエンジンを動かす燃料」と言われていたのですね。
ああ、どちらもカルシウムたっぷり!

海の恵みに生かされて来た日本人が、こんなふうに海を汚してしまったことが、居たたまれません…

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/19 06:47

>ののはなさん・蔦谷Kさん
これからも、よろしくお願いします。

_ hipopotamas ― 2011/05/24 23:00

ご紹介ありがとうございます。茶からセシウムの件、カラクリがわかりました。ありがとうございます。
ただ、空気中からの摂取能力が高いということは、神奈川以上に放射線量の大きい近隣都県でももっとニュースになって良いと思うのですが、どうしてなのでしょうか。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/25 08:50

>hipopotamasさん
コメントありがとうございます。
お訊ねの件、核分裂生成物(放射性物質)の飛散は、福島第1から同心円状に広がっているわけではありません。地上での風、上空の気流、核分裂生成物の比重、さらに核分裂生成物が乗っている塵の大きさなど、様々な条件により、原発からある程度離れた場所で、危険な物質が、地上に、あるいは地上近くに舞い降りてくることがあります(核分裂生成物のホットスポット)。
もちろん、原発に近い方が、より危険ではあるのですが、今回のお茶の件については、神奈川県や静岡県に、ある程度のセシウム137が舞い降りたということだと思います。
ただ、神奈川県や静岡県における、空気中や地中のセシウム137濃度が発表されていないので、何とも言いようがないのですが、おそらくその濃度はあまり高くないものと思われます。茶の木がセシウムをカリウムと勘違いして生体内に溜め込んだ結果でしょう。これこそが生体濃縮の恐ろしさなのです。

_ usako ― 2011/05/25 20:29

こちらのブログはとても信頼でき、参考にさせていただいています。放射能のことで毎日ノイローゼ気味です。ところで今週発売のサンデー毎日にセシウムの生物学的半減期は100日とあるのですが本当でしょうか?だとすれば少しは安心するのですが。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/05/25 21:00

>usakoさん
コメントありがとうございます。
生物学的半減期というのは、体内に入った放射性物質が、排泄されて半分に減るまでの時間です。これについては様々な説があって、はっきりしたことは言えません。
ただ、物理的な半減期が8日であるヨウ素131ですら、明らかに甲状腺ガンを引き起こしています(短い物理的半減期に加えて、生物学的半減期が加わっても発ガンする)。仮に、セシウム137の生物学的半減期が100日だったとしても、まったく安心はできません(念のために、セシウム137の物理的半減期は30年です)。また、半減期とは「放射性物質の量が半分にしか減らない期間」と考えた方が良いと思います。
もともとの量がきわめて少なければ、半分に減れば、それなりに安心ですが、元が多ければ気休めにすらなりません。
もし、爆心地直近にお住まいでないとしたら、当面心配すべきは内部被ばくです。その対策を一緒に考えていきましょう。

_ 駿府お茶姫 ― 2011/06/11 00:03

今、静岡ではほんやま茶からセシウムが検出しニュースになっています。セシウムについてとてもわかりやすくまとめていらっしゃるので、ぜひ私のブログで紹介したいのですが良いですか?

_ 私設原子力情報室 ― 2011/06/11 01:15

>駿府お茶姫さま
わざわざご連絡頂き恐縮です。
当ブログは、基本的にリンクフリー。広めて頂ければ、ありがたいです。

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