自然放射線を正しく知る(3)2011/08/07 15:44

次にウラン系列(ウラン・ラジウム系列とも言う)です。
ウラン238は、放射線を出しながら、様々な放射性物質に変わり、最終的には鉛206に安定します。この過程をウラン238の崩壊系列、経由する放射性物質を孫核種と呼びます(詳しくはこちらへ)。

ほとんどが、半減期が短い元素ですが、ウラン234(半減期:24万6千年)、トリウム230(7万5千年)、ラジウム226(1600年)、ラドン222(3.82日)は半減期が比較的長いことから、自然界で存在が確認できます。
ラドン222以外は常温では固体である上、放出されるのは遠くまで飛べないアルファ線かベータ線が中心ですから、岩石中の中にある限りは心配はありません(若干のガンマ線が空間線量に影響を及ぼす)。
しかし、体内に取り込むと深刻な問題になります。
自然放射線の範疇ではありませんが、どの孫核種も、ウラン鉱山などで粉じんとして体内に入った場合は、肺、膵臓、肝臓に発ガンの危険性が高まります。

ラドン222は常温で気体なので、大気中に広く存在します。世界で見ると10~100ベクレル/立方メートルの濃度で、日本では平均13ベクレル/立方メートルとされます。アルファ崩壊なので、内部被ばくを考慮する必用があります。呼吸で肺に吸い込んだラドン222などから受ける被ばく線量は世界平均で1.3ミリシーベルト/年とされ、自然放射線による年間被ばく量=2.4ミリシーベルト/年の半分以上を占めます。
これも自然放射線の範疇ではありませんが、ウラン鉱山近傍ではラドン222の濃度が高まります。
日本では唯一のウラン鉱山があった岡山・鳥取県境の人形峠で、悲惨な事態になりました。多くの鉱山労働者を出した24世帯150人ほどの集落(鳥取県側の方面(かたも)地区)で、20年間で8人、28年間では11人がガンで死亡したのです。男性の肺ガン死亡率は全国平均の26倍になったそうです【参考サイト】。
アメリカでも同様の事態が起きており、アリゾナ州のレッドロックのウラン鉱山では、約400人の鉱山労働者(ほとんどが先住民)のうち約70人が肺ガンで死亡しています【参考サイト】。

自然放射線中で、もっとも問題視されているのはラドン222を吸い込んだ場合の内部被ばくです。ラドン222は絶対に増やしてはいけないし、ウランの採掘さえしなければ増えません。
そう!人類にとって、そして地球上の生物にとって、ウランは掘ってはいけないものなのです。地中にそっと置いておけば、深刻な被ばくを引き起こすようなことはありません。それをひとたび、人の手に収めようとした時、とんでもない悲劇が起きるのです。

トリウム系列に話を進めましょう。
天然放射性物質の一つで、岩石の中に含まれるトリウム232は、様々な孫核種(放射性物質)を経由して、最終的には鉛208に安定します(詳しくはこちら)。
孫核種の内、ラドン220以外は常温では固体で、ほとんどがアルファ線かベータ線しか出しません。ウラン系列同様、岩石の中にある限り心配はありません(若干のガンマ線が空間線量に影響を及ぼす)。しかし、鉱山の粉じんなどで体内に入った場合は、内部被ばくが心配です。
唯一、常温で気体となるラドン220(トロンとも呼ばれる)は、半減期が55.6秒と短いので大きな問題はないと思われます(一部のサイトで、「ラドン220は大きな被ばく要因」とされているが、これは間違いでは…)。

余談ですが、ラドン温泉、トロン温泉、ラジウム温泉なるものが存在します。少なくとも放射性物質が身体に良いことはありませんので、個人的にはお薦めしません。放射性物質以外に含まれている微量元素が、なんらかの効果を及ぼす可能性は否定しませんが…

たいへんに長くなってしまいましたが、重要なことは、太古からあるバランスを崩すとたいへんなことになるということです。


カリウム40の半減期は12.5億年です。ということは、体内での濃度=67ベクレル/kgは、人類が地球に登場して以来、ほとんど変化していないはずです。セシウム134とか137が体内に入れば、100万年以上変化していなかったカリウム40の濃度を上げるのと同じことになるのです。
ウラン系列やトリウム系列は、自然界にある限り問題はありません。掘るから悲劇が起きるのです。

自然放射線や天然放射性物質は、そっとしておいてあげる。それが唯一の道。
原発や核兵器が生む人工放射線は、人類を含むすべての生物が、長い時間をかけて築き上げてきた自然放射線との間の微妙なバランスを根底から崩してしまうのです。

コメント

_ うなぎ ― 2011/08/08 22:17

こんばんは。
偶然、昨日YouTubeで市川定夫氏の「自然放射線と人工放射線の違い」というのを見ました。長い間に自然放射線に負けた生物は滅んで、それと共存できるようになった生物が今存在している。今生き残った生物は自然放射性物質は体内に蓄積されずに排出する仕組みになった。一方人工放射性物質は体内に蓄積し、そこから放射線を出し、体に悪影響を及ぼす。」という様な内容だったと思います。
又武田邦彦先生のブログによると、地球上では地域によって自然放射線の値があるが、その地域に住んでいる人は長い間かけてその環境に適応して来たので、たとえ高い値の所でも平気だ、そうです。
自然にあるものとは長い間かけて、共存して来たのですね。それを崩すのは恐ろしいことかもしれませんね。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/08/08 23:28

>うなぎさん
コメントありがとうございます。
逆に言えば、自然放射線が、ある程度下がってきた時に、ほ乳類は地球上に登場できた。自然放射線が、もっともっと下がった時に、やっと人類が登場できたという解釈もあるようです。
チェルノブイリの研究では、ネズミが人類よりも、かなり放射線に強いという結果が出ています。抗酸化物質で活性酸素の働きを封じ込める能力が高いのだそうです(ネズミの仲間は、恐竜の時代、すでに地球上にいました)。
この理屈でいけば、恐竜もまた放射線に強かったということになるのですが、今となっては、検証のしようがありません。
いずれにしても、今の地球とそこに生きるすべての命にとって、自然放射線に上乗せするような人工放射線は、受け入れがたいですよね。

_ うなぎ ― 2011/08/10 22:12

こんばんは、そういう見方もあるんですね!
面白いです。

この話とは関係ないのですが、少し質問があります。お時間があったら教えてください。
京都の五山送り火で、陸前高田の松のを使うの使わないのという騒動がありました。毎日新聞には、「被災地の実情を知る者には放射性物質による汚染など見当外れだし、現に検査しても検出されなかった。専門家も木材内部の汚染リスクを否定している。」と出ていました。私は最近「安全だ」と言われると疑う癖が付いてしまい、どんな検査で値はゼロだったのか?何という専門家が言ったのかが気になってしまいました。だって岩手はイナワラからセシウムが出ましたよね。
新聞社に聞けばいいのですが・・・。もし暇がありましたらお答えください。
人の気持ちとは別に事実を知りたいです。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/08/11 09:42

「陸前高田の松」に関しては、マスメディア以外からの情報は得ていません。
ある意味、話は単純で、「高濃度の放射性セシウムが検出されていないなら、大文字で使うべきでした」ということでしょう(検査結果に関しては、詳報がないので、「ゼロ」を信じてですが)。
あと、陸前高田は、福島第1からは東京と同じくらい離れています。宮城の稲わらや静岡のお茶の例もありましたら、断言はできませんが、常識的には、薪が高濃度に汚染されているとは考えにくいです。

京都の皆さんには、今回の件をキッカケに、50kmから60km圏内にある、若狭湾の原発銀座をなんとかすることを考え始めて欲しいと思います。

_ うなぎ ― 2011/08/11 16:10

お答え、ありがとうございました!
このニュース、妙に引っ掛かってしまったんです。
もう日本は放射性物質と嫌でも付きあって行かなければなりません。今まで全然知らなかった放射性物質。皆が詳しい知識を持っていないと、色々なトラブルが出そうで心配です。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/08/12 00:00

最終的に、陸前高田の薪が大文字で燃やされるようになったようです。
http://www.nikkei.com/life/news/article/g=96958A9C93819695E3E3E2E0828DE3E3E2EAE0E2E3E39191E3E2E2E2;da=96958A88889DE2E0E3EAEAE7E6E2E0E3E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2
まずは、よかったのではないでしょうか。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/08/12 20:33

さらに、どんでん返し
http://www.asahi.com/national/update/0812/OSK201108120098.html
陸前高田の人たちも、京都の人たちも、どうか反目し合わないでください。原発さえなければ、こんなことは起きなかったのですから…
と思うばかりです。

_ 塩爺 ― 2011/08/13 00:07

京都五山の送り火問題。結構根が深い問題を内包しているのでは?
http://news.nifty.com/cs/headline/detail/jiji-12X014/1.htm
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201108120049.html
これからは、除染、がれき・汚泥・樹木・全食品(飲料)検査、核種分析、子どもの内部被ばく無料検査、等々をきちんと、正確に国、自治体、市民団体等が行わないとむなしい風評騒ぎが多々発生して、市民間での無用な反目、誤解がとても心配です。
悪の元凶、原発憎し!

_ Nick ― 2011/08/13 01:03

原発事故以来の成り行きを注意深くみていれば、京都送り火に陸前高田の薪を使う判断の方がナンセンスだと思います。むしろ簡単に“風評被害”と批判するスタンスに作為を感じるし、京都側の判断に批判が集中したという報道も東電、経産省経由のやらせ電話やメールも相当混じってるのでは。もともと松は放射性物質を集めやすい性質があること、そして東北まで広範囲に放射能汚染が広がっていることを見れば、かの地の松が汚染されてないとは考えがたいよね。それから各地の焼却灰、汚泥からも広く検出されてんだから焼却施設は早くフィルターを義務化しないと各施設が放射能再拡散の原因になるよ。同様に来年はどんど焼き、野焼き、もみ殻の焼却なども注意したほうが良いと思う。

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