家康のお茶とセシウム1372011/06/11 09:20

遠く離れた静岡県にまで… 福島第1から放出された核分裂生成物によるお茶の汚染が止まりません。
本山茶から規制値超の放射性セシウム検出」。
藁科「製茶」で規制値超す」。

本山(ほんやま)茶とは、静岡市北部の安倍川と藁科(わらしな)川流域で栽培される最高級のお茶。徳川家康が愛飲したことで知られ、その後も将軍家御用達のお茶として珍重されてきました。

さて、この間のお茶の汚染をめぐる報道で、一点、曖昧にされていることがあります。それは、茶木は葉からもセシウム137を吸収するということです。

農業の世界には、葉面散布という肥料の与え方があります。農作物(植物)が葉から栄養分を吸収する能力を利用したもので、肥料成分を水に溶いて、霧状にして散布します。特に、新芽を出したり葉が増えたりする成長期には、農作物は、葉の表面から効率よく栄養分を吸収するのです。いわば葉面吸収。

セシウムは、植物にとっての三大栄養素のひとつであるカリウムと化学的性質が似ています。悲しいかな、茶木は、大気中のチリや雨とともに降ってきたセシウム137をカリウムと勘違いして吸収。生体内に蓄えているのです。葉面吸収を起こすために、大気中を舞うセシウム137の量が大量に必要かというと、そういうわけでもありません。微量のセシウム137を見事に集めてしまうのです。土に染み込んだ放射性物質を根から吸収しているだけではないのです。

しかし、国の発表や報道では「放射性物質の葉面吸収」に積極的に言及していません。それは、野菜類の汚染の問題で「洗えば大半は落ちる」的な言い方で誤魔化してきたことが、ばれてしまうからでしょう。
思い出してみましょう。最初に問題になったのは、ホウレンソウや小松菜、サンチュなどの葉物野菜でした。いかにも、空から降ってくる放射性物質が葉に付着しやすそうです。事実、葉物野菜は、大気中を舞うカリウムを力の限り吸い込みたいから大きく葉を開いているとも言えるのです。そして、そこに降り注いだのが放射性のセシウム137でした。葉に付着するだけはなく、どんどん生体内に吸収されていきます。水洗いによって除去できる放射性物質はせいぜい1/4程度のようです(このデータはヨウ素131に関するもの)。

さて、話を本山茶に戻しましょう。
江戸時代だったら、「お上の御茶に毒を混ぜた不届き者」として、東電屋の主(あるじ)と番頭は即刻打ち首。いや、それだけでは済まないでしょう。商家なので「お家お取りつぶし」とは言わないかも知れませんが、一族や関係者まで、広くその罪を負わされたことでしょう。
原子力発電の危険性を十分に知りながら、それを強引に推し進めてきた東電や政治家(特に自民党)、さらに原子力安全委員会などの刑事責任が問われることはないのでしょうか?安易に警察や検察の介入を許すと逆に真実が覆い隠されるので注意は必要なのですが、情報の全面公開を前提に刑事責任の追及もあってしかるべきだと思います。
「三菱自動車製大型自動車のクラッチ系統の欠陥による死亡事故」「JR西日本福知山線の脱線事故」「パロマ工業製ガス湯沸器による一酸化炭素中毒事故」などでは、当該企業のトップ(役員)が業務上過失致死傷の刑事責任を問われています。


附記:
今回の件に関する、川勝知事をはじめとする静岡県の対応については、ちょっと疑問を感じています。「暫定基準値が高い低い、越えた越えない」に終始していますが、これは気をつけないと、生産者と消費者を対立させることになります。消費者としては「少しでも危険なものは飲食したくない」という思いがあります。一方で、生産者は「風評に騙された消費者が離れてしまった」となります。
大切なことは、福島第1原発の事故が起きる前は、静岡県はもちろん、日本中のどこでもセシウム137はゼロにだったということです(より正確には限りなくゼロに近かった)。基準値うんぬんの話の前に、事故を起こしたことに対する東電と政府の責任を追及する立場を明確にすべきでしょう。
そして、少しでも危険なものは出荷しないと。生産地としては涙を呑む思いなのは分かりますが、まずは原則的な立場から補償を求めること。そして、汚染値を少しでも抑えていく方策を考えるしかないでしょう。
泥縄ではあるのですが、農水省では、カリウムを葉面散布することで、茶木内のセシウム137の濃度を下げられないかという研究を始めたようです。いわば、トコロテン式にセシウム137を押し出してしまおうと。可能性はありますが、新芽の成長期の問題も絡みますので、そう簡単ではないでしょうけど。

コメント

_ DHMO ― 2011/06/11 19:15

環境に137Csが存在しなかったとお思いですか?

半減期の関係で核実験由来の137Csがどこでも検出されますから、どこで線引きをするかだけの話しなのですが。

判断の基準とする方法は幾つか存在するので、追々検討されていくでしょう。

それから同じ1族でKと似た挙動するなら、同じ1族のNaとの関係はどうなのでしょうね。
マスコミが解説することは、まず無いでしょう。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/06/12 00:02

>DHMOさま
ご指摘ありがとうございます。
確かに原水爆実験由来や、チェルノブイリ由来のセシウム137を考えれば、「ゼロであった」とは言い切れないでしょう。追記しましたので、ご確認ください。
ただ、3.11以前と以後では、あきらかに桁数が違うレベルで検出されているはずです。宇治茶のセシウム137は問題になっていませんから。

セシウムとナトリウムの関係については、置き換わりやすいと指摘しているサイトが複数存在します。当然考えられることですが、残念ながら情報が足りません。
また、植物については、「三大栄養素=窒素・リン酸・カリ」に注目して、カリウムとセシウムの代替を論じるのは間違っていないでしょう。

_ youko ― 2011/06/13 23:37

カリウムとセシウムが置き換わる事は、科学誌にも載っていたと思います。今までの検出されたセシウム137の数値(チェルノブイリ事故時にわたらい茶にセシウムが検出されていますが)と、明らかに格段の数値の差がありますので、これは福島由来です。
どんな生産業でも、人に害を与える危惧がある物を流通させたら、罰せられます。その大原則を曲げたら、私達は、この国で生きる事が困難になります。被害は、当然東電に求めるべきで、私達の健康と引きかえに産業を維持していくという考えは本末転倒ですよね。

_ DHMO ― 2011/06/14 19:00

植物と異なり動物はKイオンとNaイオンの電位差をエネルギー源として使っているのですから、厳密とKとNaは区別されます。
化学的性質が似ているから置き換わるというほど単純じゃないのですね。
そして土壌中には核実験由来と思われる137Csが結構沢山残っていたりする、そして危険を煽る人達はこの事実を明かそうとしない。

_ youko ― 2011/06/16 09:59

茶葉に異常(放射性物質)があるのは、福島由来であると「危険を煽る」人だけが言っている事ではありません。化学的性質の違い等、化学の知識が少しでもあれば判る事で、この問題で解き明かす必要すらない判り切った「茶葉の異常」なのです。人の健康リスクを優先すれば、「施設原子力情報室」のこの発信だけで十分です。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/06/16 11:26

>youkoさん
コメントありがとうございます。
お茶の放射性セシウム汚染に関しては、農水省も(ですら?)次の見解を発表しています。
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/tya_taiou.html
主に葉面吸収ではないかとした、当ブログの指摘は間違っていなかったようです。
一方で、「古葉に付着したものが葉面から吸収され、新芽に移動したものと推定」は、当方の見解とは異なっています。当ブログでは、新芽の方が葉面吸収の力が強いされていますので、古葉と新芽で汚染濃度が同程度だとしたら、新芽から古葉へ流れたと考えます。このあたりは、どちらが正しいのか、今後の研究・解析を待つしかありません。
いずれにしても、葉面吸収というお茶の生命力そのものが、核分裂生成物によって逆手に取られてしまった。この事実だけは間違いありません。
植物も、そして、私たち人間も、放射性物質を見分けて、排除する能力をまったく持ち合わせていないのです。

_ tomatosukisukisuki ― 2011/07/19 14:43

政治家もセシュウムが葉面吸収することを「教えられていない」のかもしれませんね。 物理学者はバカですから気付きもしませんが。

_ kikuti ― 2011/08/10 09:35

セシウム、カリュウムの問題ですが、現在桑茶を愛用していますが、桑茶にもカリュウムが豊富に含まれていますのでセシュウムを取り込んでいると思われますが如何なものでしょうか?現在岩手県内に在住しています。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/08/10 10:40

>kikutiさん
「カリウムの豊富な植物には、放射性セシウムが蓄積しやすい」というのは、間違いありません。
ただ、飛散状況はもちろんとして、桑茶の成長時期とも関係してきますので、岩手の桑茶が汚染されているかどうか、可能性はありますが、断言することはできません。
他県まで含めると、桑茶に関しては一件だけ、福島県二本松市のデータがあります。
http://yasaikensa.cloudapp.net/detail.aspx?no=1001734
少量ですが放射性セシウムが検出されています。この数字を危険とみるか安全とみるかは、難しいところです。
お茶に関しては、「乾燥茶で500ベクレル/kg」という基準は意味がなく、抽出した時の濃度で論じるべきでしょう。
「飲み物」というカテゴリーで括ると、放射性セシウムに関する日本の暫定基準値は200ベクレル/リットル。ベラルーシは10ベクレル/リットル。ウクライナは2ベクレル/リットルです。
以下は裏取りしてませんが、
アメリカの法令基準=0.111ベクレル/リットル
ドイツガス水道協会=0.5ベクレル/リットル
WHO基準=1ベクレル/リットル
という情報もあります。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/06/11/5906334/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。






Google
WWW を検索 私設原子力情報室 を検索