続・奇妙な一致(1)2011/07/01 16:55

「奇妙な一致」の続編です。前稿は、日本語のサイトや文献からの孫引きだったせいもあり、一部に不十分な内容がありました。
決定的な間違いは無かったのですが、確かに資料として説得力を欠く部分があったことをお詫びします。

そこで、さっそく再挑戦!みずからの中学生レベルの英語力を駆使して、オリジナルのソースを探ってみました。
まず、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」は
、J.M.グールドという統計学者が著した「The Enemy Within:The High Cost of Living Near  Nuclear Reactors」(1996年刊)にある記述です。ネット上に、一部を抜粋している英語のサイトを発見。私の英語力では力が及びませんでしたので、仕事で翻訳もやっている友人の協力を得て和訳しました。感謝!

【翻訳】
米国に約3,000ある郡のうち、およそ半分は「核」郡であると定義することができます(地図上に黒とグレーで表示されている部分を指すと思われる(訳者))。というのも、それらは原子炉から100マイル(160km)以内に位置しているからです。1985~89年における全米の乳がん死亡者の2/3以上が、これらの地域に集中しており、乳がんの年齢調整死亡率[訳注あり]においても、10万人当たり約26人となっています。これはその他の地域の22人と比べても、はっきりと高いことが分かります。
もっともリスクの高い「核」郡は、地図上に黒く記してあります。この地域は、主に10万人当たりの乳がん死亡率が28人と高い数値を示した北東部であり、ここには、同32人という高い値を示したニューヨーク郊外も含まれています。これらは、最も原子炉が集中している地域と重なるのです。
また、五大湖と西海岸の「核」郡も10万人当たりの乳がん死亡率が、全米国比率の24.6人を明らかに上回る結果となっています。

ハンフォードのDOE原子炉[訳注あり]や、アイダホやニューメキシコの国立研究所[訳注あり]周辺の南部の「核」郡は、グレーで記されていますが、1950年以来、(乳がん死亡率が)全米比率と比べても、かなり大きい増加を示してきました。

また、米国基準を上回る放射性物質漏出をしたことがない5つの原子炉周辺を含む「非核」郡は、地図上に影がつけられていません。これらは、主にロッキー山脈とミシシッピー川に挟まれた地域で、ここでは乳がん死亡率が低下していることが見てとれます。

□訳注
●年齢調整死亡率=死亡率を比較する場合、年齢構成に差があるので自治体ごとにばらつきが出ます。つまり、高齢者の多い地域では高くなり、若年者の多い地域では低くなってしまうのです。そこで、年齢構成の異なる地域間の死亡状況を比較するために、年齢構成を調整した死亡率を「年齢調整死亡率」といいます。
●ハンフォードのDOE原子炉=マンハッタン計画でプルトニウムの精製が行ったハンフォード核施設のこと。ワシントン州東南部にあります。
●アイダホの国立研究所=国立原子炉試験基地(現在のアイダホ州国立研究所)のこと。世界初の原子力発電を行った施設です。
●ニュー・メキシコの国立研究所=広島と長崎に投下された原爆を製造したロスアラモス研究所のことです。
【翻訳関連ここまで】

長くなりそうなので、ここで記事を分割することにします。

続・奇妙な一致(2)2011/07/01 17:23

さて、もう一つの重要なのは、全米にある原発の位置を示す地図です。
これは、アメリカ合衆国原子力規制委員会のホームページからゲットすることができました。

注意しなくてはいけないのは、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」が、 1985年~89年の間の乳がんによる死亡率に基づいている点です。原発地図が作られた2010年から逆算すると、稼働年数が0年から29年の原発グループを除いて考えなくてはなりません(この地図上で残るのは、「1980年以前に稼働し、現在も動いてる原発」=53基になります)。そうすると、先の地図で黒やグレーで塗られていたカリフォルニア州の一部には原発がないことになってしまいます。

しかし、よく考えてみると、上の条件に合う53基以外にも、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」に関連する原発がありうることが分かります。現在までに廃炉にされた原子炉と、1980年代前半に稼働し始めた原子炉です。インターネット上で、現在廃止されている原発まで、すべて網羅している資料を発見。
カリフォルニアには、「現在までに廃炉にされた原子炉と、1980年代前半に稼働し始めた原子炉」という条件にぴたりと当てはまる3つの原発があったのです(西暦は稼働時期)。

●フンボルト湾原発
1963~1980
●サンオンフレ原発
1号炉:1967~1992
2号炉:1982~
3号炉:1983~
●ランチョセコ原発
1974~1989

この内、ランチョセコ原発は、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの事故を受けて、住民運動が廃炉に追い込んだ原発です。この件は、別の機会に紹介するとして…

上記、3つの原発を地図上にプロットしてみました。
「奇妙な一致」を越えて「驚くべき一致」!正直言って、背筋が寒くなりました。J.M.グールドの「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」に認められる例外は、ロッキー山脈とミシシッピー川の間にある5つの原子炉だけです。

さて、このグールドの研究を日本に紹介した『内部被曝の脅威』(ちくま新書)の著者・肥田舜太郞さんは、グールドの統計手法を日本に当てはめようと考えたそうです。しかし、日本で原発の周りに160km圏を設定すると、日本中が塗りつぶされてしまい、その試みを諦めたそうです。笑えないどころか、恐ろしいエピソード。そして、それこそが、日本列島に今ある低線量被ばくの実情に他なりません。福島第1の事故を算入しなくても、すでにそこにある原発の恐怖。もう一度認識し直しましょう。

原子力発電所の大きくて高い煙突…
あそこから出ている白い煙は、単なる水蒸気ではありません。必ず核分裂生成物(放射性物質)が含まれているのです。

追記:
今回、「アメリカの原子力施設と乳がん患者の相関関係」を追跡するに当たって、当サイトよりも先に、独自の観点からこの資料を取り上げていたサイトを発見しました。敬意を表するとともに、ここにご紹介させていただきます。
3.11 乳がんの増加が示すもの

動かすのではなく、止めるのが先2011/07/08 15:52

本来あってはならない形で稼働を続けている原発が二つあります。
北海道電力の泊原発3号炉と関西電力の大飯(おおい)原発1号炉。13か月に一度義務付けられている定期点検の最終段階として、泊3号炉は3月7日に、大飯1号炉は3月10日に調整運転に入っています。調整運転は、通常、1か月程度で完了し、原子力安全・保安院の最終チェック(総合負荷性能検査)を受けることになっています。

ところが、問題の二つの原子炉は、すでに4か月近く調整運転を続け、営業運転とまったく同じ状態になっています。法的には、「調整運転は○か月以内」という決まりがないらしく、違法とは言えないようですが、法のすきまを縫うような姑息なやり方に違いありません。

福島第1原発の事故以前の決まりすら守られることなく原発が動いている現状。真っ先に、泊3号炉と大飯1号炉を停止すべきでしょう。

ストレステストは最初の第一歩2011/07/08 16:38

ここ数日、ストレステスト(=耐性試験)の問題が大きく報じられています。
お手本になるのは欧州連合(EU)が6月から実施しているストレステスト。EUは福島第1の事故を受けて、急遽、実行を決定しました。地震や洪水、竜巻、豪雨といった自然災害に加え、航空機墜落やテロ攻撃なども評価対象としています。さらに、自国の機関・専門家だけでなく、他国からも専門家を招聘して進められる点は重要です。日本で言えば、日本海側で重大事故が発生した場合に、大きな影響が及ぶ韓国・中国・ロシアなどの専門家にも参加して貰うということです。これは相手国にも原発を安全性を徹底して考えてもらうキッカケにもなりますから、是非とも行うべきです。同時に、相手国にもストレステストを促していく。これは、人類史に残る重大事故を引き起こしてしまった日本の責任でもあります。現状では、韓国・中国・ロシアは原発推進国なので、微妙といえば微妙ですが、ここは地政学を基準に考えたいです。

ともあれ、事故の当事国である日本が行うストレステストは、世界で一番厳しいものでなくてはいけません。その実行を巡って、政治的な大きな混乱がありますが、これは絶対に行わなくてはいけません。

たた、注意すべき点は、ストレステストがクリアされれば、すべてOKということではないということです。スリーマイル島やチェルノブイリがそうであったように、多くの原発事故は、自然災害とはまったく関係のない人為ミスから起きています。
100%事故を起こさない原発は本当に可能なのか?そのことを検証していく必要があります。

さらに、原発は、どんなに理想的な状態で運転されても、外部に核分裂生成物(放射性物質)を放出しています。この核分裂生成物が引き起こしているのが「低線量内部被爆」です。詳しくは、当ブログ「奇妙な一致」以下3編をお読み頂きたいのですが、原発が放出する放射性物質が、明らかに周辺地域の発ガン率を引き上げているという統計データが存在します。

日本でも、直ちに、原子力発電所と低線量内部被爆、発ガン率の関連性について、徹底した調査を開始する必要があります。

原発の安全性を考える時、ストレステストは最初の第一歩。重要ですが、第一歩に過ぎないことも肝に銘じておきましょう。

九州電力の醜態2011/07/10 11:28

九州電力の「やらせメール」事件は、皆さん、ご存じ通りです。国の住民向け説明番組の際に、九州電力の職員が子会社社員らに原発再開を支持するメールを投稿するように指示していたのです。この「住民向け説明番組」自体も、7人に限定された地元出演者の選出基準などが不透明で、どうも怪しいとは思っていたのですが、それを上塗りした形です。
「やらせメール」事件の発覚は7月2日、6日の衆院予算委員会では日本共産党の笠井亮議員が追及し、大きな問題となりました。

さて、「やらせメール」事件が世間を騒がせる中、佐賀県主催による県民説明会が開かれたのが7月8日。
毎日新聞の記事には、「参加県民からは厳しい意見が相次ぎ、政府不信が渦巻いた」とありますが、一方で、「会場は拍手と怒号が交錯した。「原発は必要だ」との声もあったが…」という記述も。
私はすっかり騙されてしまい、「この期に及んでも、地元には強固な原発推進派がいるんだ」などと変に納得していた次第です。まさか、「やらせメール」事件で社長退陣にまで追い込まれている九電が、県民説明会に対しても、変なアクションを起こしているなどとは、露思わずでした。しかし実際には、県民説明会には九電から動員がかかっていたのです。
朝日新聞<九電、佐賀県説明会にも動員 社内調査判明、8日開催分>
時系列を追っていくと、「しんぶん赤旗」が「やらせメール事件」を報じたのは2日。佐賀県が8日の説明会の参加者を自治体を通じて募集したのは、1日~5日でした。この間に、九電は本社やグループ会社の社員に説明会への参加を呼びかけていたのです。「やらせメール」の上に、説明会への組織動員が明らかになれば、さらに追い込まれることは分かっていたはずです。しかし、説明会への動員指令が取り消されることはありませんでした。本来ならば、みずから非を明らかにして、謝罪すべきところなのに…

コンプライアンス(法令遵守)が聞いて呆れます。会場で飛んだ「原発は必要だ」の声は、おそらく、九電の関係者でしょう。まんまと引っかかった自分自身が恥ずかしいです。

九電の醜態。総会屋まがいの手口を使って、世論を誘導しようとした罪は重大です。

しかし、なぜ、電力会社はそこまでするのか?原子力発電が追い込まれているからに他なりません。無理矢理、推進派の意見を捏造しなくては、もはや、やっていけないところまで来ているのが現状なのです。

これで、玄海原発の2号炉・3号炉の再稼働は、当面不可能になったでしょう。しかし、次に再稼働を狙っている原発もあります。油断することなく、一つ一つ、原発を止めていく。このことを肝に銘じましょう。

頑張って!佐賀の皆さん!2011/07/11 22:18

佐賀の皆さんの頑張りが伝わって来る記事と動画です!本ブログ一押しの山本太郎さんも参加。馳せ参じられない自分に無念…です。

当ブログの「ストレステスト」に対する見解は、ちょっと甘かったかと反省。考え直します。

もっとも大事なことは、それぞれの地元からの声です。そして、私たち都市住民の理解と支援(ちなみに、当方は東京都下在住)。
一気に原発全廃に向けて歩みを進めましょう。ちょっと前なら、「少しずつでも、確実に」なんて言っていたかも知れませんが、もうそんな余裕はないし、原発が危険極まりないものだという事は、もう誰もが知っています。そして、そこから利益を得ているのは、ごく限られた者たちだということも。
「直ちに、すべての原発を止め、廃炉へのプロセスに入るべき」です。

肉牛の内部被ばく2011/07/12 12:33

どうして暫定基準値の6.8倍もの放射性セシウムに汚染された牛肉が、スクリーニング検査をすり抜けてしまったのだろう?とてもシンプルな疑問ですが、答えにたどり着くために、大分時間を要しました。

結論は、今言われている「放射線スクリーニング検査」とは、体表に付いた放射性物質が出すベータ線量だけを計るものだったということです。要するにベータ線を発する放射性物質が体表に付いていないかどうかだけを調べるのです。
一般名詞としてのスクリーニングは「ふるい分け」とか「遮蔽」とか広い意味に使われますが、「放射線スクリーニング検査」は、ほとんどの場合、ベータ線だけを相手にする極めて狭い意味しか持っていなかったのです。調べた範囲では、このことが明らかにされていた報道は、一つしかありませんでした。一般の人に「放射線スクリーニング検査」の内容が理解されないのも当然です(ごく一部に、ガンマ線も調べる放射線スクリーニング検査もあるようですが)。

さて、肉牛の話に戻りましょう。
なぜ、体表で計ったベータ線だけでは駄目なのか?
問題となっている放射性セシウムの内、セシウム137は、崩壊する過程でベータ線とガンマ線を発します(より正確には、ベータ崩壊して放射性バリウム137になり、そのバリウム137がガンマ線を発して安定したバリウム137になるものが大半)。セシウム134も崩壊過程でベータ線とガンマ線を出します。
しかし、ベータ線(電子線)は生体内では、精々数cmしか進むことができないので、牛の体内に取り込まれた放射性セシウムが出すベータ線が体外に出てくることはないのです。一方、ガンマ線は透過力が強いので、一部が体外まで飛び出してきますが、放射線スクリーニング検査では、それを計っていない… 牛の体をきれいに洗ってさえあれば、スクリーニングはクリアできるでしょう。

私たちは、牛の皮を食べるわけではありません。問題は肉なのです。なのに、牛の内部被ばくをまったく想定していない検査態勢。これでは消費者も生産者も安心できません。

一方で、野積みされ放射性セシウムに汚染された稲わらを牛に与えた農家を責めるような報道も見られますが、これはまったく見当違いです。農水省の担当者は「屋外の飼料は危険だとあれほど報道されていたのに信じられない」と。なんと報道任せ。農水省のホームページを見ると、曖昧な注意喚起はありますが、本来なら、危険性のある地域に安全な飼料を十分に供給すべきだったはずです。
生産者の暮らしと消費者の安全を真面目に考える姿勢が、どこにも見えません。

総理の脱原発宣言2011/07/13 21:53

やっと日本の総理大臣の口から「脱原発宣言」が出ました!
菅総理は、18時過ぎの緊急記者会見(NHKは同時中継)で、「将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」と言い切りました。NHK7時のニュースのトップかと思ったら、10分頃からの例の冷静な事実だけを言う報道。おそらく、NHKを含めて報道各社は、自社が打ち出す姿勢を思い悩んでいるはずです。
ウェブでは日経時事通信が早くて、やっと毎日が追ってきました(22時現在)。

もちろん、玉虫色の内容だし、原発再稼働にも含みを持たせた内容なので、全面的に支持るわけにはいきませんが、「最終的な廃炉に長い期間を要するリスクの大きさを考え、これまでの安全確保という考え方だけでは律することができない技術だと痛感した」と、素直に政策転換し、その理由を述べたことは評価できると思います。

もちろん、「菅総理についていけばすべてが解決!」なんて、簡単な話をしているわけではありません。基本は批判的に、ちょっとだけ支持です。

一方で、脱原発・反原発の力が、少しだけ政治を動かせるようになったのかとも… もちろん、おごってはいけませんが、たくさんの人たちのたくさんの声が政府を動かしたのだとは認めてよいと思います。
しかし、
福島の人たちの暮らしをどう守るのか…
ストレステストは行うべきなのか…
低線量内部被ばくにどう対応すのか…
ホットスポットはどうするのか…
そして、福島第1からの放射性物質漏出をどうやって止めるのか…
問題は山積み。油断は禁物です。一つ一つの事柄に対して、私たちが、できるだけたくさんで、できるだけ大きな声を上げていく必要があります。

原発と機関銃2011/07/20 22:19

原発警備の機動隊は短機関銃(サブマシンガン)を装備しているそうです。知らなかった… 「ドイツH&K社のMP5短機関銃」らしい。
誰を何から守ろうとしているのか… こんなものは不要です。

クリス・バズビー氏の論文2011/07/23 16:28

7月17日から21日まで、日本各地で講演や記者会見を行ったECRR(欧州放射線リスク委員会)のクリス・バズビー氏。福島第1の200km圏内では、今後10年の間に20万人、今後50年には40万人もの超過ガンが発生するとの予測をしていました。
3月30日に発表されたこの論文は、これまで公式な日本語訳がありませんでしたが、このほど、ウェブ上で発表されました。

当ブログとしては、下記リンクにて、まずは一切の評価を加えず、この論文の紹介のみを行います。とにかくみんなで読んでみましょう!

ECRRクリス・バズビー論文「福島の破局的事故の健康影響」日本語訳






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