内部被ばくをどう評価するのか(1)2011/10/10 14:55

東京大学アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授。7月27日の衆議院厚労委で、国のあまりに人の命を軽視した被ばく対策へ怒りを爆発させ、一躍有名になってしまいました。この日の発言で大きく取り上げられたのは、除染に関するものでしたが、実は、内部被ばくに関しても、とても本質的なことを言っています。
「要するに内部被ばくというのは、さきほどから何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません!」

政府が持ち出してくる基準は、いつも「外部被ばくと内部被ばくを合わせて○○シーベルト」。ICRPの「年間1ミリシーベルト以下」も外部被ばくと内部被ばくを合わせての数値です。
児玉教授は、ご自身でも福島現地で除染活動に取り組んでいることから、「除染の専門家」と思われている方もいるかも知れませんが、本業の研究は「医療目的で使用するアイソトープ(放射性同位体)」です。簡単に言えば、放射性物質を体内に注入して、ガン細胞にだけ人為的に内部被ばくを起こし、ガンを治そうという最先端の研究。いわば、内部被ばく研究のエキスパートなのです。
その児玉教授が『内部被ばくをシーベルトで評価しても意味がない』と断言する。これはどういうことなのでしょうか?

今回は、内部被ばくを分かりやすく解説し直したいと思います。

●集積部位を考慮した計算式は存在しない。
実は、「外部被ばくと内部被ばくを合わせて」の計算には、「放射性物質によって集積する臓器が違う」という要素が、まったく入っていません。逆に、仮に臓器ごとの被ばく線量が分かったとしても、外部被ばくは全身に均等に受けるので、今度は合計する意味がなくなります。外部被ばくと内部被ばくは同列には扱えないのです。

ヨウ素131は甲状腺に、ストロンチウム90は骨に集まることは、今や常識。放射性物質は、その種類によって集積する臓器が異なります。これを全身の平均値にして(要するに薄めた数値にして)、外部被ばくの○○シーベルトと足し算しようとすること自体、臓器ごとの内部被ばくを過小評価しようという悪意に満ちたやり方なのです。児玉教授が怒った理由は、ここにあります。

下の図は、ストロンチム90の体内での動きを示しています。内部被ばくの危険性を論じる時に、集積する臓器(この場合は骨格)を考慮しなかったら、まったく意味が無いことがお分かりいただけると思います。早い話、ストロンチウム90は骨にしか集積せず、骨の中にある骨髄(造血細胞)に向けてベータ線を発し続けるから白血病を引き起こすのです。

ちなみに、セシウム137は、ほぼ全身に均等に蓄積するとされてきましたが、ベラルーシでの研究によると、蓄積率は、甲状腺>骨格筋>小腸>心筋の順で、特に子供では、甲状腺への集積が著しく、ヨウ素131だけでなく、セシウム137も、子供の甲状腺ガンに寄与している可能性があると指摘されています。
次の図は、セシウム134・137の体内での動きです。

●体内への取り込みは分からないことだらけ。
内部被ばくは、放射性物質が体内へ入るところが出発点です。ここから流れに沿って、検証していくことにしましょう。

体内への取り込みは、主に、呼吸によるものと飲食によるものです。例えば、ヨウ素131は、気体として肺に入る分と、地表に降下して、水の中やたべものに中に一旦取り込まれてから、人体に入ってくる場合があります。

しかし、呼吸によって肺の中に入ったうちの何%が肺細胞から血液に溶け込むのかは、まったく分かりません。ヨウ素が欠乏気味の人は、積極的にヨウ素131を吸収してしまい、逆に、ヨウ素が足りている人は、あまり吸収しません。

ですから、あらかじめヨウ素剤を飲んでおけば、ヨウ素131の吸収を抑えられるのです。今回の事故では、福島には38万人分という大量のヨウ素剤が備蓄されていたにもかかわらず、ほとんど配布されませんでした。誰が一体どうゆう判断をしたのか?腹立たしいばかりです。

話を戻しましょう。
飲食による取り込みはどうでしょうか?
これまた、胃・小腸・大腸で、どの核種についても、食べ物に含まれるうちの何%が吸収されるのか、まったく分かりません。
例えば、カリウムが不足気味の人が、セシウム137に汚染された食品を食べれば、身体がカリウムと勘違いして、積極的に取り込んでしまいます。一方、カリウムが十分に足りている人であれば、最低限のカリウムしか吸収しようとしないので、一緒に入ってくる放射性セシウムも減ります。

また、食品によっても吸収率は異なります。
例えば、カルシウムの吸収率は「牛乳39.8%、小魚32.9%、野菜19.2%」とされていますので、ストロンチウムもこれに従うと思いますが、体内のカルシウムが足りているか、不足してるかによって、数字は変わってくるでしょう。
カリウムに関しては、食品別の吸収率のデータが見当たりませんので、放射性セシウムの吸収量を概算で予測することすらできません。

ですから、「○○ベクレル/kgの食品を○○グラム食べた場合、体内に○○ベクレルの放射性物質が取り込まれ、○○ミリシーベルトの被ばくをする」なんていう計算は、絶対にできないのです。

ちょっと長くなりそうなので、ここで一旦、記事を分けます。

コメント

_ 吉村秀一 ― 2011/12/05 17:30

たいへん参考になるお話いつもありがとうございます。
ストロンチウムの内部被爆についてお伺いしたいのですが、内部被爆の主な経路として、飲食によるものと呼吸によるものが挙げられていますが、ストロンチウムの挙動は、飲食によるものだけになるのでしょうか?それとも、呼吸器からも吸収されるのでしょうか?
また、呼吸器からも吸収される場合、経口、呼吸、どれぞれで吸収率などは異なるのでしょうか?

_ 私設原子力情報室 ― 2011/12/05 20:38

>吉村秀一さん
断定はできないのですが、放射性ストロンチウムを肺から取り込む可能性は、低いと考えられています。なぜかと言うと、私たちは、肺からカルシウムを取り込まないからです。生体に対して、ストロンチウムとカルシウムは、ほぼ同じ振る舞いをします。

じゃあ、空気中にどれだけたくさんの放射性ストロンチウムがあっても安全??? そんなことはありません。
空気中にある放射性物質の量は、飲食分を通して私たちが受ける内部被ばくのバロメーターです。また、肺の中に、放射性ストロンチウムがとどまった時、何が起きるのか… 解明はされていません。

チェルノブイリを含む、過去の原子力事故の経験から言えるのは、ストロンチウムに関しては、特に、牛乳や水が怖いと言うことです。福島第1の立地を考えた時には、海産物への警戒を解くことはできません。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/10/10/6144073/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。






Google
WWW を検索 私設原子力情報室 を検索