今頃 ストロンチウムだと!2011/10/01 09:25

久々に手が震えるような怒りを感じています。
昨9月30日、文科省から『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』なる報道発表が行われました。一つ前のブログ『再度、プルトニウムに警戒を』は、この発表に関する報道から書いたものです。
その後、報道が続き、さらに報道発表の本文を入手するにいたって、とんでも無い事実が判明してきました。

『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』【文科省報道発表全文9月30日
『福島第1原発:45キロ離れた飯舘でプルトニウム検出』【毎日新聞9月30日

プルトニウム情報の後ろに隠すように、広範囲での放射性ストロンチウムの検出が発表されていたのです。毎日新聞の見出しを見ても分かるように、マスメディアもプルトニウムに目を奪われて、ストロンチウムへの注目が薄くなっている有り様です。それでも、記事本文にストロンチウムの情報を載せた毎日新聞はマシな方で、前のブログで紹介したNHKの記事には、ストロンチウムのスの字さえ登場しません。

まず、放射性ストロンチウムの危険性は、研究者はもちろん、当ブログを含むたくさんの所で、事故直後から多くの人たちが指摘してきたものです。それが、なぜ今頃になって発表されたのか… 今回の報道発表の分のサンプル採取は、6月6日から7月8日の間で行われています。これ自体、遅きに失しているのですが、発表はサンプル採取終了から3ヶ月が経とうとしている昨日。文科省の態度には「人の命に関わる問題なんだ」という意識が、まったく感じられません。

さらに発表が金曜日。それも報道のタイミングから見ると、午後から行われたようです。これは、ここ数十年、世界中で見られる傾向なのですが、「権力者にとって都合の悪い発表は金曜日の午後、それも夕刊の閉め切りが過ぎた後」に行われます。なぜかと言うと、「土日のテレビは娯楽やスポーツ中心になり、報道番組が少ない」「役所が休みなので、マスメディアの追及を受けるまでに二日の余裕ができる」「週末は人々が家庭中心の生活になるので、世の中に向ける目が緩む」といった事情があるからです。今回の発表、プルトニウムにしても、ストロンチウムにしても、よほど都合の悪い状況があることの証です。

では、放射性ストロンチウムの危険性に関してです。
まず、すでに多くの方がご存じ通り、ストロンチウムはカルシウムと化学的な性質が似ているため、植物にしても、動物にしても、生体はカルシウムと勘違いして、積極的に取り込みます。動物では「カルシウムは骨を作るもと」と言われるくらいですから、ストロンチウムも骨に集まります。
今回検出されたストロンチウム89(半減期:50日)にしても、ストロンチウム90(半減期:30年)にしても、放出するのはベータ線。ベータ線は、空気中では数十センチから数メートル、体内では1センチほどしか進むことができません。従って、地面に沈着していても、外部被ばくは、あまり心配する必要はありません。一方、内部被ばくは大変に危険です。ストロンチウムが集まるのは骨。その中には血液を作る骨髄があり、造血細胞があります。放射性ストロンチウムは長い期間に渡って、造血細胞にベータ線を浴びせ続けるのです。この時、弱い透過力が禍します。半径1センチの範囲にある造血細胞(骨髄の中にある)を徹底的に痛めつけることになるのです。やがて白血病の発症です。

文科省の報道発表をよく読むと、放射性ストロンチウムによる被ばくについて、「土壌からの再浮遊に由来する呼吸被ばく」と「土壌からの外部被ばく線量」を勘案しているように書かれています。これは明らかな誤魔化しです。一番重要な部分を間違いなく意図的に隠しているからです。
ストロンチウムの危険性を考える時に、それが一旦、植物に吸収され、一部は家畜を経由して、最終的に人間の体内に入ってくるという流れを考えなかったら、まったく意味がありません。
セシウム137によるお茶の汚染を思い出してみましょう。空間線量が驚くほど高かったわけでもないし、土壌への沈着が問題視されていた場所でもない所で、茶葉が高濃度に汚染されていました。大気中を浮遊する、それこそごく僅かのセシウム137を、茶木が重要な栄養分であるカリウムと勘違いして、積極的に取り込んだ結果です。葉では、空気中の数百倍、いや数千倍の濃度にも濃縮されました。これを生体濃縮と言います。ちょっと難しい言葉ですが、本来は、生きものが生きるために栄養分を体内で濃縮する働き。放射性物質は、生きもの本来の営みを逆手に取るように体内に入り込み、内部被ばくを引き起こすのです。

さて、ストロンチウムに話を戻しましょう。
チェルノブイリを含めて、過去の原子力事故では、ストロンチウムを吸収した牧草を食べた乳牛から絞った牛乳による内部被ばくが、大きな問題となっています。IAEAもICRPも認めていませんが、原子力事故の後に、白血病が増えたというデータは複数存在しています。それを伝えているドキュメンタリー番組もあります。
今回、汚染が確認された地域には、二本松や白川など酪農が盛んな地域が含まれています。心配です。なお、福島県産の牛乳は、事故直後に出荷制限されましたが、4月末から5月初めにかけて、県内のほぼ全域で解除されています(事故後に地元の牧草を乳牛に与えていたかどうかは不明)。


危険なのは牛乳だけではありません。ストロンチウムを吸収した野菜を直接食べる場合や、溶け込んだ水道水を飲むことによる体内への吸収。これらにも警戒が必要です。当面、カルシウムが豊富な野菜に注意が必要でしょう。小松菜、モロヘイヤ、水菜、大根の葉、バジルなどが当たります。
また、牛乳の例で分かる通り、授乳中の女性が取り込んだ場合、母乳に放射性ストロンチウムが濃縮されるという恐ろしい事態が起きます。

すでに、事故発生から半年以上が経っています。ただちに、食品と水道水の検査項目にストロンチウムを加えないと、とんでも無い悲劇が起きる可能性があると指摘しておきます。乳牛の検査、母乳の検査も、今すぐに始めるべきです。一刻の猶予もありません。これは決してオーバーな言い方ではありません。

それにしても、国の動きの遅さ、知ってて情報を隠す姑息な態度。あらためて強い怒りを覚えます。

追記:
参考までに、過去に当ブログでストロンチウムを扱った記事をまとめておきます。
『ストロンチウム90に警戒を』(3月24日
『再度、ストロンチウム90に警戒を』(4月11日
『ごく微量のストロンチウム90?』(4月13日
『海からストロンチウム』(5月10日
『恐怖のストロンチウム90』(6月12日

聖地に反旗が翻った日2011/10/01 12:51

茨城県東海村と言えば、住民の方からは怒られそうですが、『日本の原子力の聖地』とも言ってもよい場所。東海発電所、東海第二発電所、核燃料サイクル工学研究所を筆頭に、1999年に臨界事故を起こしたJCOを含め、12もの原子力関係事業所が建ち並びます。
その東海村が、明確な脱原発の方針を打ち出しました。

『JCO臨界事故:国を痛烈批判 茨城・東海村で臨時の朝礼』(毎日新聞9月30日

私は、仕事で何度か東海村に行ったことがあります。数日間滞在したこともあり、なんとなく雰囲気は身体で分かっているつもりです。初めて訪れた時、「原子力が来る前、ここは穏やかな日差しの下に田畑が広がっり、海岸には小さな漁船が並んでいたんだろうな」という寂しい想いが頭を過ぎったことを覚えています。

就労人口の30%が直接の原子力関係者と言われ、その他にも、土建・建築関係はもとより、スーパーマーケットから居酒屋に至るまで、原子力無しでは立ちゆきません。

JCOの臨界事故から12年になる9月30日、その東海村の村上達也村長が「人に冷たく無能な国に原発を持つ資格はない」という厳しい言葉で、明確に脱原発を打ち出したのですから、国にとっては大事件でしょう。
JCOで、原子力事故の恐ろしさと、それに対する国の対応があまりに冷酷だったとことを身を以て知った東海村の人たち。福島第1の事故を受けて、ついに国に対してはっきりと反旗を翻したのです。

東海村の勇気ある脱原発宣言。大きな拍手を送りたいと思います。

東海村だけではありません。
『南相馬市、新原発の交付金辞退へ 住民の安全を優先』【朝日新聞8月4日
『原発新規立地めぐる交付金、浪江町も辞退へ 町長が明言』【朝日新聞9月6日
『浜岡原発永久停止、周辺自治体理解示す 牧之原市が決議』【中日新聞9月27日
『静岡県知事、浜岡原発再開の可否を独自で判断する考え強調 』【日経9月27日
『浜岡原発:「廃炉にすべきだ」 牧之原市の隣、吉田町・田村町長が初表明』【毎日新聞9月29日
住民の声に押されて、自治体の脱原発への動きは急を告げています。

自治体が脱原発に舵を切ろうとする時、最大のネックになるのが住民の就労問題です。原発周辺の自治体では、多くの住民が原発関連の仕事に就いています。しかし、これは、ちゃんと手当をすれば大きな問題にはならないはずです。まず、廃炉などの行程に入れば、十年以上にわたって地元から多くの労働力が必要になります。その間に並行して、農業や漁業を立て直すことが可能です。また、自然エネルギーの基地として新たな道を探ることも考えられます。選択肢は、風力、太陽光、潮力、地熱など様々。地域にあった自然エネルギーを見つけ出し、エコの町としての再出発を考えるのです。自然エネルギーの活用のためには、原発よりも労働力が必要になりますから、雇用問題もクリアできるはずです。

本当は、地方自治体の脱原発を妨げる大きな枷は存在しないのです。

追記:
自治体の脱原発への動きは、日本だけではありません。原発大国と言われるフランスでは、福島第1の事故を受けて、国内最古の原発=フェッセンハイム原発(まさにフランス原子力の聖地)周辺の自治体が次々と「原発停止」を決議。サルコジ政権の原発推進策の前に立ちふさがろうとしています。

日本中で、世界中で、自治体が脱原発の旗を翻し始めました。このうねりをなんとか、地球上からすべての原発を無くすところにまでつなげていきたいものです。

舵を切る企業と産業界2011/10/04 20:30

今や、反原発に向かおうとするのは、市民だけではありません。多くの企業が、脱原発・反原発へと舵を切っています。

ソフトバンクの孫正義氏が、脱原発を目指す『自然エネルギー財団』を設立したのは、多くの皆さんがご存じの通りです。

ドイツでは、原発に深く関わってきた大手電機メーカーのシーメンスが、原子力事業からの完全撤退を宣言【朝日新聞9月19日】。日本で言えば、日立や東芝が、脱原発を宣言したようなものですから、大変な出来事です。シーメンスは多国籍企業で、外国の原発にも関わってきましたが、それも含めて止めるということです。

アメリカの世界的に有名なIT企業は、原発関連の事業にだけは手を出さないことを内規で決めているそうです。万一、コンピューターシステムが原因で事故が起きた時、補償のリスクを担保しきれないというのが理由。これは福島第1の影響ではなく、会社設立当初からの方針だそうです。

日本では、城南信金が4月の段階で脱原発宣言。大きな反響を呼びました。

スズキ自動車は、中電浜岡原発から11kmの距離にある相良工場を危険だと判断。原発事故時に従業員の命を守りきれないからです。移転を検討していましたが、7月に「浜岡原発再開なければ工場移さず」の方針を明らかにしています。

さらに、アメリカの、これまた超有名な半導体メーカーの上層部から、私が直接聞いた話があります。
「半導体メーカーにとっては、原発よりも太陽光発電の方が、ずっと儲かります。なぜかと言うと、<一つの発電システム>という意味では、原子炉1機も太陽光パネル1枚も同じです。極論すれば、原子炉一つに一個必要なチップが、太陽光パネル1枚にも一個必要なのです。太陽光パネルが千枚並べば、同じチップが千個売れるということです。巨大技術やエネルギーの中央集権は半導体メーカーにとっては困りもの。エネルギーの地方分散、地産地消は、私たちにとって大きなビジネスチャンスになるでしょう」。そして、こう続けました。「すでにこのビジネスは始まっています。日本の半導体メーカーの東芝や日立は、原子力に深く関わりすぎているので、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に大きく舵を切ることができません。私たちに追いつくとはないでしょう!」
なぜか悔しい!しかし、東芝や日立よりも、この半導体メーカーの判断の方が、間違いなく正しいのです。

企業によって、「社会的な責任に照らして」「従業員の安全を確保するため」「経営上のリスク回避のため」、あるいは「純粋に利潤追求の立場から」と様々な理由があっての、脱原発です。そのどれも、否定する必要はないでしょう。逆に、こういった動きが、ますます強まれば、脱原発のうねりに大きな弾みがつきます。
「脱原発は集団ヒステリー」なんて言ってた連中に、大恥をかかせてあげましょう!


さて、企業の脱原発の話を追っていくと、最後には、原子炉メーカーの話に辿り着きます。世界的な原子炉メーカーや、アメリカという国そのものが、実は、かなり前から原子力事業に及び腰になっていたのです。

まず、福島第1の1号炉、2号炉、6号炉を始め、日本にある多くの沸騰水型原子炉を製造したGE(ゼネラルエレクトリック社)。2006年に、日立製作所とGE双方の原子力部門を統合し、日立GEニュークリア・エナジー(日本市場担当)を設立しています。株式の割合は、日立が80%、GEが20%。世界市場を担当するGE-Hitachi Nuclear Energy の株式は、日立が40%、GEが60%です。GE一社が負ってきた原子力事業のうちのかなりの部分を日立が肩代わりする形になりました。

一方、関西電力などが導入している加圧水型原子炉で有名なウェスティングハウス・エレクトリック。アメリカの代表的な総合電機メーカーだったのですが、すでに元々の会社はありません。最後まで残っていた商業用原子力部門を英国核燃料会社(BNFL)に売却したのが1997年。BNFLは2006年に、それを東芝に転売。現在、ウェスティングハウスは、100%東芝傘下の会社です(名前だけはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー)。国策の幹であったはずの原子力産業を他国の会社に売ってしまう… 少なくとも、アメリカとイギリスでは、投資的にも原子力が魅力を失っている証です。

GEとウェスティングハウスの動きを見てみると、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの後の風向きの変化を巧みに読んで、アメリカは原発ビジネスのリスクを日本のメーカーに押しつけてきたのではないかと思えます。事故が起きたら会社が耐えきれない、という直接的なリスクと、「原発は、もう儲からない」という経営戦略上の理由の両方で。

冷静に歴史を見直してみれば、世界では、20年・30年前から、原子力企業でさえ、原子力から抜け出そうと画策してきたという逆説的な状況がありました。その流れの中で、巨大な原子力企業2社が、事実上、日本の傘下にある。いや、抱え込まされている。これは、恥ずべきことであるし、様々な意味で危険なことでしょう。


たった1%の綱渡り2011/10/05 15:22

3.11以来、原子力発電の危険性に多くの人が気がつきました。しかし、いまだに推進派からは「より安全な原発を…」とか「原発が無くなったら日本経済は沈没する」といった発言が続いています。もう一度シビアアクシデントが起きたら、それこそ日本が沈没するのに…
今回は、「安全な原発はあり得ない」というお話です。

臨界とか臨界反応とか言いますが、これは連鎖的核分裂反応のことです。一つの原子に中性子が飛び込むことで、その原子が核分裂。その時に飛び出す中性子が、次の原子に飛び込んで… という反応が続きます。連鎖的核分裂反応を起こす物質は、ウラン235とプルトニウム239だけです。

上の図が、連鎖的核分裂反応の仕組みです。基本原理は原爆も原発も同じで、原爆の場合は、連鎖的核分裂反応が1億分の1秒という短い時間に起き、原発の場合は、反応速度を調節して、ギリギリ連鎖的核分裂反応が起きる状態(臨界状態)で、ゆっくりと反応を進めます。
図のように核分裂物質(ウラン235またはプルトニウム239)が二つに割れる時に出る中性子を即発中性子【prompt neutron】と呼びます。

臨界以下の状態では、生まれる中性子の数が足りず、連鎖的な反応は起きません。ところが、核分裂物質の「濃度」「大きさ」「形状」が、ある条件を満たすと臨界に達します。そうなると、今度は一気に反応が進むのです。マッチで花火に火を点けようとしても、なかなか点かないことがありますね。しかし、ある瞬間、一気に火が噴き出します。そんなイメージです。
「形状」で言うと、球がもっとも臨界に達しやすい形です。理由は、表面から逃げる中性子の数が少ないから。原爆では、通常爆薬の爆発力でウラン235やプルトニウム239を球形の一塊にし臨界点を超えさせ、急激な連鎖的核分裂反応(=核爆発)を起こします。

さて、原子炉を考える時、即発中性子だけで臨界に達してしまうと、問題があります。即発中性子は速度が速い上に、臨界を越えると一気にその数が増えます。即発中性子の数や、この時に起きる連鎖的核分裂反応を人間が制御することは不可能なのです。
逆に言うと、即発中性子だけで臨界点を超えてしまうと、原子炉は暴走し、そう簡単に止めることはできません。ガスレンジの火だけならガス栓を閉めれば止まりますが、その火が天ぷら鍋に入ってしまうと、そう簡単には消せません。それと同じです。

通常運転中の原子炉の中で飛び交っている中性子の99%は即発中性子です。では残りの1%は?
遅発中性子【delayed neutron】と呼ばれるものです。
核分裂によって生まれる核分裂生成物の中には、崩壊する時に中性子を放出する元素があります(バリウム87など現在までに45種類が知られています)。この中性子の放出は、核分裂から0.2秒~1分くらい遅れて起きるので、遅発中性子と呼ばれます。

核燃料(燃料棒の束)の中には、出し入れの出来る制御棒があります。材料は、中性子を吸収しやすいカドミウムなど。遅発中性子は速度が遅いので、その数を制御棒によってコントロールできるのです。

もし、制御棒を引き抜き過ぎてしまうと、即発中性子だけで臨界点を超えてしまいます。これを即発臨界と呼んでいますが、要するに原子炉暴走。チェルノブイリは、まさにこの状態になりました。

いや、チェルノブイリだけではありません。人類はこれまでに少なくとも37回の臨界事故を引き起こしています。
過去の臨界事故例1
過去の臨界事故例2
そのほとんどが、即発臨界だったと考えられます。なぜなら、意図せずに起きる臨界状態で、「即発中性子の数が、臨界量に対して99%以上、100%未満」という狭い範囲に納まるのは、余程の偶然が重ならない限りあり得ないからです。

もちろん原爆も即発臨界なのですが、核燃料では、ウラン235の濃度が低いため、原爆のような核爆発までは起きません。しかし、大量の中性子線と放射性物質が短時間の間に生成されます。

分かりやすいように具体的に見ていきましょう。

まず、1999年に東海村で二人の命を奪い、多くの住民を被ばくさせたJCO事故。高速増殖炉の研究に使う核燃料の製造工程で、ウラン溶液が臨界を越えてしまいました。国もJCOも正式には認めていませんが、最初の段階で即発臨界を起こしたのは間違いありません。この図で、「最初のバースト」と書かれているのが、即発臨界です。

即発臨界は、長い時間は続きません。次々と核分裂が起き、ウラン235の数が、あっと言う間に減って、濃度が下がっていくからです。
そして、臨界量に対して、即発中性子が99%、遅発中性子が1%程度になったところで、原子炉内と同じような遅発臨界状態に。JCO事故では、ウラン溶液の周りに冷却水があり、これが遅発中性子をはね返し、外に逃げる中性子が少なかったため、20時間という長い時間に渡って臨界状態が続きました。即発臨界のピーク時に比べて、遅発臨界の状態では、核分裂反応の回数は千分の一になっています。それでも、事故現場の中性子線量がとても高く、臨界を抑えるための作業は命がけでした。小さな原子炉が裸の状態で運転を続けているのと一緒ですから。

福島第1の事故では、3号炉で「即発臨界爆発」が起きたのではないか?と騒ぎ立てる向きもありますが、これは正確ではありません。
まず、即発臨界爆発とは核爆発のこと。核燃料のウラン濃度やプルトニウム濃度では核爆発は起きません。
一方、1号炉から3号炉まで、いずれも地震直後に制御棒が全挿入され、一旦は、核分裂連鎖反応が止まっています。その後、冷却水が止まったために、炉心溶融が起きるのですが、溶け出した核燃料が、一部で「濃度」「大きさ」「形状」の条件を満たして、再臨界を起こした可能性は否定できません。もし起こしていれば、ほぼ間違いなく最初は即発臨界に達したはずです。大きな熱エネルギーが出ますから、さらに炉心溶融は加速。水素の発生も促進されたでしょう。ですから、再臨界(即発臨界)が、より大きな水素爆発を引き起こした可能性はあります。
さらに、プルトニウム239はウラン235よりも即発臨界に達しやすいとされていますので、MOX燃料を使っていた3号炉で、1号炉より大きな水素爆発が起きた理由とも考えられます(現在までに、福島第1で再臨界が起きたとは確認されていません)。

話を戻しましょう。
通常の運転か、原子炉暴走かの境目は、たった1%です。ちょっとしたトラブルや操作ミスで、即発中性子が臨界量を越えた途端に原子炉は暴走します。この暴走は簡単には止められません。かと言って、99%を切ると連鎖的核分裂反応が維持できません。

よくこんな危険な技術に、「人類のエネルギーの夢を託す」なんて言ってきたものです。人類が原子炉を初めて作ったのは1942年の事。原爆を作るためでした。それから69年。もう、『たった1%の綱渡り』から、私たちは足を洗う必要があります。

外部被ばく線量計算機2011/10/08 12:06

被ばく線量の計算について、混乱が続いています。「自然放射線の分はどうするの?」「外部被ばくと内部被ばくって合計できるの?」などなど。

当サイトは、内部被ばくを外部被ばくと一緒くたにして、「シーベルト」で評価することに反対です。放射性物質は種類によって集積する器官や内臓が違うからです。全身に均等に被ばくを受ける外部被ばくと内部被ばくは分けて考える必要があります。

今回は、まず、外部被ばくに注目。ご自身の放射線測定器で計った実測値や、自治体からの発表値などから人工放射線による被ばく量が算出できる計算機を作ってみました。3.11以前と比べて、外部被ばくが、どれだけ増えているかが、一目で分かります。

計算式は以下です。
ご自身で計った実測値の場合:

自治体などからの発表値の場合:

計算機は、エクセルで作りました。
計算機ダウンロードをクリックしてもらえれば、ZIPファイルがダウンロードできます。解凍するとエクセルになります。配布は自由です。
「屋外・屋内の実測値から」「自治体などの発表値から」というタブから選んでご使用ください。3番目の「参考 大地と建物からの自然放射線」は、自然放射線による被ばく量計算の根拠です。

主に参考にしたサイトは、国連科学委員会「放射線とその人間への影響」(2000年版)に基ずく、原子力百科事典ATOMICA「世界における自然放射線による放射線被ばく」「大地ガンマ線からの空気吸収線量率(空気吸収線量率=空間線量。「大地」とされていますが、建物からの分も含んでいます)」「屋内における外部被ばく軽減係数」です。
原発推進派の広報サイトなので、「実効線量換算係数
(=実効線量/空間線量)」が0.7とやや低めだったり、「木造家屋の屋内における被ばく線量軽減係数」が0.4とこれまた低め(NHKの番組では0.5を採用していたものも)だったりするのですが、他にある程度信頼できそうなデータが見つからなかったので、これに依拠しました。

どうしても、ある基準と見られてしまうICRPの「年間1ミリシーベルト(1mSv/y)以下」は、自然放射線からの被ばくを除いた上乗せ分ではあるのですが、外部被ばくと内部被ばくを無作為に合計しています。ですから、この計算機による計算結果とは比較しても意味がありません。

計算結果は、「外部被ばく量が、3.11以前と比べて、どのくらい増えているのか」という視点から見て頂けると有効かと思います。自然放射線に上乗せされた年間実効外部被ばく線量と、外部被ばく量全体が3.11以前に比べて何倍なのかが分かります。

「しきい値なし直線仮説」に従えば、まず大雑把に言って、外部被ばくによって、放射線による発ガン率が○倍に増えると解釈できます。

また、○倍の意味は、単純に「大地と建物からの自然放射線」が増えたのとは訳が違います。自然放射線の線源は、ほとんどが岩盤や道路の舗装、建物のコンクリートの中です。これを吸い込んで内部被ばくすることは、まずありません。
ところが、増えた分は、目の前の地面や屋根の上にある放射性セシウムによるものです。それは、ちょっとしたことで舞い上がり、私たちの身体の中に入り込み、内部被ばくを引き起こします。また、計った場所が畑であれば、その放射性セシウムは、やがて野菜に吸収され、私たちの身体の中に入ってきます。
3.11以降の外部被ばくの上乗せ分は、内部被ばくの危険度を示す、ある種のバロメーターでもあります(数字的な意味はとして曖昧ですが)。

内部被ばくをどう評価するのか(1)2011/10/10 14:55

東京大学アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授。7月27日の衆議院厚労委で、国のあまりに人の命を軽視した被ばく対策へ怒りを爆発させ、一躍有名になってしまいました。この日の発言で大きく取り上げられたのは、除染に関するものでしたが、実は、内部被ばくに関しても、とても本質的なことを言っています。
「要するに内部被ばくというのは、さきほどから何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません!」

政府が持ち出してくる基準は、いつも「外部被ばくと内部被ばくを合わせて○○シーベルト」。ICRPの「年間1ミリシーベルト以下」も外部被ばくと内部被ばくを合わせての数値です。
児玉教授は、ご自身でも福島現地で除染活動に取り組んでいることから、「除染の専門家」と思われている方もいるかも知れませんが、本業の研究は「医療目的で使用するアイソトープ(放射性同位体)」です。簡単に言えば、放射性物質を体内に注入して、ガン細胞にだけ人為的に内部被ばくを起こし、ガンを治そうという最先端の研究。いわば、内部被ばく研究のエキスパートなのです。
その児玉教授が『内部被ばくをシーベルトで評価しても意味がない』と断言する。これはどういうことなのでしょうか?

今回は、内部被ばくを分かりやすく解説し直したいと思います。

●集積部位を考慮した計算式は存在しない。
実は、「外部被ばくと内部被ばくを合わせて」の計算には、「放射性物質によって集積する臓器が違う」という要素が、まったく入っていません。逆に、仮に臓器ごとの被ばく線量が分かったとしても、外部被ばくは全身に均等に受けるので、今度は合計する意味がなくなります。外部被ばくと内部被ばくは同列には扱えないのです。

ヨウ素131は甲状腺に、ストロンチウム90は骨に集まることは、今や常識。放射性物質は、その種類によって集積する臓器が異なります。これを全身の平均値にして(要するに薄めた数値にして)、外部被ばくの○○シーベルトと足し算しようとすること自体、臓器ごとの内部被ばくを過小評価しようという悪意に満ちたやり方なのです。児玉教授が怒った理由は、ここにあります。

下の図は、ストロンチム90の体内での動きを示しています。内部被ばくの危険性を論じる時に、集積する臓器(この場合は骨格)を考慮しなかったら、まったく意味が無いことがお分かりいただけると思います。早い話、ストロンチウム90は骨にしか集積せず、骨の中にある骨髄(造血細胞)に向けてベータ線を発し続けるから白血病を引き起こすのです。

ちなみに、セシウム137は、ほぼ全身に均等に蓄積するとされてきましたが、ベラルーシでの研究によると、蓄積率は、甲状腺>骨格筋>小腸>心筋の順で、特に子供では、甲状腺への集積が著しく、ヨウ素131だけでなく、セシウム137も、子供の甲状腺ガンに寄与している可能性があると指摘されています。
次の図は、セシウム134・137の体内での動きです。

●体内への取り込みは分からないことだらけ。
内部被ばくは、放射性物質が体内へ入るところが出発点です。ここから流れに沿って、検証していくことにしましょう。

体内への取り込みは、主に、呼吸によるものと飲食によるものです。例えば、ヨウ素131は、気体として肺に入る分と、地表に降下して、水の中やたべものに中に一旦取り込まれてから、人体に入ってくる場合があります。

しかし、呼吸によって肺の中に入ったうちの何%が肺細胞から血液に溶け込むのかは、まったく分かりません。ヨウ素が欠乏気味の人は、積極的にヨウ素131を吸収してしまい、逆に、ヨウ素が足りている人は、あまり吸収しません。

ですから、あらかじめヨウ素剤を飲んでおけば、ヨウ素131の吸収を抑えられるのです。今回の事故では、福島には38万人分という大量のヨウ素剤が備蓄されていたにもかかわらず、ほとんど配布されませんでした。誰が一体どうゆう判断をしたのか?腹立たしいばかりです。

話を戻しましょう。
飲食による取り込みはどうでしょうか?
これまた、胃・小腸・大腸で、どの核種についても、食べ物に含まれるうちの何%が吸収されるのか、まったく分かりません。
例えば、カリウムが不足気味の人が、セシウム137に汚染された食品を食べれば、身体がカリウムと勘違いして、積極的に取り込んでしまいます。一方、カリウムが十分に足りている人であれば、最低限のカリウムしか吸収しようとしないので、一緒に入ってくる放射性セシウムも減ります。

また、食品によっても吸収率は異なります。
例えば、カルシウムの吸収率は「牛乳39.8%、小魚32.9%、野菜19.2%」とされていますので、ストロンチウムもこれに従うと思いますが、体内のカルシウムが足りているか、不足してるかによって、数字は変わってくるでしょう。
カリウムに関しては、食品別の吸収率のデータが見当たりませんので、放射性セシウムの吸収量を概算で予測することすらできません。

ですから、「○○ベクレル/kgの食品を○○グラム食べた場合、体内に○○ベクレルの放射性物質が取り込まれ、○○ミリシーベルトの被ばくをする」なんていう計算は、絶対にできないのです。

ちょっと長くなりそうなので、ここで一旦、記事を分けます。

内部被ばくをどう評価するのか(2)2011/10/10 15:07

●体内にどれだけの放射性物質があるかは計測できない。
さて、体内に入ってしまった放射性物質の量や、そこから出ている放射線量を計ることはできるのでしょうか?

ホールボディカウンターという機器があります。これは、身体全体から出ているガンマ線を計測して、体内にある放射性物質の量を計測するものです。ですから、崩壊する時にベータ線とガンマ線の両方を出す核種、つまり、セシウム137とヨウ素131には、ある程度有効です。
体外に出てくるガンマ線の波長と線量から、元素の種類(核種)と、それが体内にどれだけ存在するかが分かり、内部被ばく量を推定することができます。ただし、ある核種が、臓器ごとにどれだけ蓄積されているか、といった細かい計測はできません。

また、ベータ線しか出さないストロンチウムや、アルファ線しか出さないプルトニウム239が出す放射線は、ホールボディカウンターでは検出できません。
それどころか、ガンマ線を出さない核種による内部被ばくは、どんな機器を用いても、身体の外から計ることはできないのです。それは、アルファ線とベータ線が、体内では、ごくわずかしか進むことができず、外に出てこないからです。

ストロンチウムやプルトニウムに関しては、誤差の大きい尿検査しか、方法がないとされています。

●水に溶けるか溶けないかで、まったく挙動が違う。
その核種が、水に溶けるか溶けないかも重要です。
水に溶けるということは、とりもなおさず、血液に溶けるという意味です。
ここまでで扱ってきた、ヨウ素131、セシウム134・137、ストロンチウム90は、血液に溶けて全身を周り、言ってみれば、集積すべき場所に集積します。その臓器内では、ほぼ均等な濃度で存在すると考えられます。

一方、プルトニウム239のように水に溶けない核種はどうでしょうか?エアロゾルとかホット・パーティクルとか言われていますが、小さな粒子(といっても、原子数は数億から数十億)として、肺に取り込まれ、肺組織のどこかにしっかりと居座ってしまいます。そして、半径数ミクロンの範囲に、延々、アルファ線を浴びせ続けるのです。
飲食で入ってきた場合は?「プルトニウムは飲んでも大丈夫!」というトンデモ発言をした東大教授がいますが、彼は、微粒子一個が腸壁のどこかに引っかかっただけで、大変な危険性があることを理解していません。

●生物学的半減期に騙されない。
最後に、「生物学的半減期」の話をしましょう。
通常、半減期と言ったら、物理学的半減期のことで、放射性物質(核種)が崩壊(放射性物質を放出して別の元素に変化)して、原子数が元の半分になるまでの時間です。
一方で、生物学的半減期は、人体内の代謝によって、その核種の半分量が排泄されるまでの時間です。これには、物理学的半減期は算入していませんので、ヨウ素131では、物理学的半減期が8日なのに、生物学的半減期が138日、なんていう変な話になってしまうのです。そこで、実質的に体内で、その核種が半分になるまでの時間を「体内での有効半減期」として、下に示します。

まず、この表から読み取れるのは、「ヨウ素131は、たった7日で半分に減るのに、子供の甲状腺に大きな傷跡を残す」ということです。
一方、「セシウム137は半減期が30年なんて言うけど、身体の中では70日で半分に減るから、あまり心配は要らない」なんていう、とんでも無い発言も見受けますが、騙されてはいけません。
同じ地域で、同じような食生活を続けたら、毎日、ほぼ同じ量のセシウム137を摂取し続けることになります。いくら排泄が進んでも、新しく入ってきますから、やがて体内でのセシウム137の濃度は平衡に達し、そのまま長きに渡って内部被ばくが続きます。
ですから、日常的に飲食するものに対しては特に、そこに含まれる放射性物質の量を徹底して低く管理する必要があります。真っ先に浮かぶのは、米であり、牛乳であり、水です。現在の暫定基準値は、高すぎるし、大雑把すぎます。

以上、内部被ばくについて、2回にわたって、今までとは違う視点からまとめてみました。
「分かっていないことが多い」ことに愕然とされた方もいるかと思います。しかし、これが現状なのです。
これまで、人類が遭遇した大規模な内部被ばくの例は、広島・長崎とチェルノブイリしかありません。広島・長崎のデータは、核心部分をいまだにアメリカが隠しています。チェルノブイリは26年を経て、今、やっと研究が本格化した段階です。

しかしながら、内部被ばくが、甲状腺ガンと白血病だけに留まらず、肺ガンや子宮ガンなど、あらゆるガンの引き金になることは、すでに隠しようのない事実になっています。チェルノブイリでは、最近、内部被ばくが原因とされる心臓疾患が増えています。肥田舜太郞さんが指摘する原爆ブラブラ病(無気力症+多臓器不全)もあります。

とにかく、内部被ばくに対して、最大限の警戒を続ける必要があります。
それと並行して、まず、内部被ばくと外部被ばくを、正確に分けて、それぞれ正確に評価すること。生物学的にも、医学的にも難しい問題はありますが、ある臓器に対して、どういった危険性が、どのくらいあるのかということを、細かく明らかにしていかないと、うやむやのままに、責任の所在が宙に浮きかねません。それ以前に、多くの人たちの命と健康を守ることができません。

外部被ばく線量計算機(改訂版)2011/10/14 10:16

先日公開した『外部被ばく線量計算機』ですが、自治体や報道機関が発表する「時間あたりの空間線量」から計算した場合、「年間の実効外部被ばく線量」が少なめに出ることが判明しました。原因は、当方が原子力百科事典ATOMICAのデータに全面的に依拠したためです。ATOMICAと、現行広く行われている計算法のどちらが正しいかは、考え方の違いなので、正確には判断できません。ただ、いろいろな数値が出て、混乱するのは問題なので、当サイト配布の『外部被ばく線量計算機』の設定条件を「現行広く行われている計算法」に近づけました。ただ、全ての市町村がまったく同じ計算法を採用しているわけではありませんので、若干のズレが生じることはあります。

外部被ばく線量計算機(改訂版)【ダウンロード】
ZIPファイルですので、解凍してください。エクセルになります。

●改訂点
1. 『実効線量換算係数』を1にしました。従って、空間線量(空間中の線量)=実効線量(実際の外部被ばく線量)という前提になります。
2. 『大地と建物からの自然線量(屋外)』(バックグラウンド線量)を0.05μSv/hにしました。国連科学委員会「放射線の線源と影響」(1993)によると、日本における数値は、0.049μSv/hですが、現在、多くの自治体が0.05μSv/hを採用しているので、これに合わせました。
3. 2に基づいて、『大地と建物からの自然被ばく(年間実効線量)』を計算し直し、438μSv/yとしました。
4. 屋外活動時間を8時間に設定しました。多くの自治体が採用している前提条件だからです。

●計算のもとになっている考え方(数値以外は変更無し)


●ご留意頂きたい点
1. 『屋外・屋内の実測値から』の白セル内には、計測器が指した数値そのものを入力してください。自動的にバックグラウンド線量を引いて、上乗せ分(要するに福島第1の影響分)の年間実効外部被ばく線量が算出されます。
2. 『自治体などの発表値から』の白セルに入れる数字は、「発表された実測値」です。もし、「上乗せ分」で発表されている場合は、自然放射線の分の0.05μSv/hを加えて入力してください。

●自治体や報道機関に対して
要らぬ混乱を避けるために、発表する線量が、「実測値」なのか、「自然放射線の分を差し引いた上乗せ分の実効線量」なのかを常に明示するようお願いしたいです。

●ありそうな質問に対して
Q1. どうして、全ての放射線からの被ばく量ではなく、自然放射線の分を差し引いた値を計算するのですか?

ICRPの「年間1ミリシーベルト以下」などの基準が、すべて、自然放射線に対する「上乗せ分」で決められているからです。この背景には、世界的に見ると地域によって、自然放射線の量が異なるという理由があります。日本でも、本当は場所によって若干異なるのですが、現在は、全国平均値の0.05μSv/hを使用している自治体がほとんです。

Q2. 『大地と建物からの自然線量』が、屋外と屋内で変わらないのはなぜですか?

自然から来るガンマ線は、ほとんどが土や岩盤、植物に含まれる放射性物質が線源です。ちょっと考えると、屋外の方が小さくなりそうですが、事実は逆です。
国連科学委員会の報告によると、多くの国で、屋内の方が自然線量が高くなっています。これは、建材に使われている石やコンクリートに含まれる放射性物質(ルビジウム87・ウラン系列核種・トリウム系列核種など)が影響しているためです。
木材にもカリウム40が含まれていますが、被ばく量は、石やコンクリートからより低くなります。これが、日本では屋外と屋内の自然線量が、ほとんど同じになっている理由です。
これに対して、上乗せ分(福島第1の影響分)は、地面や屋根の上にある放射性セシウムが、主な線源ですので、屋内に入ると下がります。低減率は、木造家屋で0.4とされています。

自然放射線を理解する2011/10/14 17:41

当ブログに寄せられるコメントを見ていると、自然放射線に対する質問や意見が結構あるので、チャート式で、分かりやすく整理しておきたいと思います。

イラストを見て頂ければ、私たちが地上で受けている自然放射線は、大きく4種類に分類されることが分かるかと思います。一つ一つ見ていきましょう。

●二次宇宙線による外部被ばく
宇宙から地球に飛び込んでくる宇宙線を一次宇宙線と呼びます。これは、ほとんどが陽子で、地上までは届きません。一次宇宙線が空気中の原子や分子と衝突して生まれるのが二次宇宙線。その内、地表にまで届くのは、ほとんどが素粒子の一種のミュー粒子です。
よく、飛行機に乗ると余計に外部被ばくをすると言われますが、これは事実です。高空では、二次宇宙線の内のガンマ線が存在しますので、これが航空機内にまで届きます。また、海抜数千メートルという高地には、二次宇宙線のガンマ線が、ある程度、届いていると思われます。

●大地と建物からの外部被ばく
岩盤の中には、ウラン238をはじめとするウラン系列と、トリウム232をはじめとするトリウム系列の核種、さらにカリウム40やルビジウム87が含まれています。これらが発するガンマ線が「大地と建物からの外部被ばく量」の元です。特に、花こう岩にはウラン238が多く含まれています。
建物も含む理由は、建材の石やコンクリートなどに、自然に存在する放射性物質が入っているからです。

日本国内で、「大地と建物からの外部被ばく量」の値を見ると、おおむね、西高東低の傾向を示します。これは、西日本に花こう岩質の岩盤が多いのと、関東では、関東ローム層によって岩盤自体が厚く覆われていて、地表から出てくるガンマ線が少ないからです。

注意したいのは、人工放射線(今で言えば、福島第1から飛散した放射性物質による放射線)と違って、「大地と建物からの外部被ばく」では、線源となる原子が岩の中や石の中なので、これらを吸い込む可能性は少ないということです。
自然放射線による外部被ばくと人工放射線による外部被ばくを同列に語る人たちがいますが、この点を見落としているか、意図的に誤魔化しています。

●呼吸で摂取
呼吸で摂取した放射性物質による内部被ばくは、主にラドン222によって引き起こされています。ラドン222は、花こう岩などの中にあるウラン238が崩壊する過程で生じますから、世界中どこにでも微量は存在します。

自然放射線の枠外ですが、ラドン222による内部被ばくは、ウラン鉱山の近くでは深刻な問題を引き起こします。日本で唯一のウラン鉱山があった鳥取県の人形峠や、アメリカ・アリゾナ州のレッドロック鉱山付近では、たくさんの人が肺ガンで亡くなりました。

●飲食で摂取
飲食による内部被ばくに関連している自然の放射性物質は、カリウム40とウラン系列・トリウム系列の核種です。
よく、「カリウム40は天然のカリウムの中に0.0117%含まれている」と言いますが、世の中に天然でない原子は存在しませんから、岩石の中でも、野菜の中でも、水の中でも、人体内でも、そして、ドラッグストアで売ってるカリウムのサプリメントの中にも、0.0117%のカリウム40が含まれています。これから逃れようとすると、カリウム不足になってしまいますから、受け入れるしかありません。ただ、後述しますが、「カリウム40が止むを得ないから、セシウム137も止む得ない」という話にはなりません。

さて、自然放射線を考える上で、見落としてはいけない点があります。
それは放射線の種類。実は、自然放射線のうち、ガイガーカウンターなどの一般の空間線量計で検知できるのは、「大地と建物からのガンマ線」だけなのです。

内部被ばく関係はアルファ線とベータ線、二次宇宙線はミュー粒子という素粒子がほとんどだからです。「私たちは、自然放射線を年間2.42ミリシーベルト(日本では1.5ミリシーベルト)も浴びている」などと言って、実測された空間線量を過小評価しようとする人たちがいますが、これはまったくの誤魔化しです。実測値から引き算できるのは、0.05μSv/h(=0.3mSv/y)の「大地と建物からの外部被ばく量」だけです。

以下、自然放射線に関する気になる話を二つ紹介しておきます。
●高自然放射線地域
世界には、自然由来の「大地と建物からのガンマ線」が高い地域があります。

インドのケララとブラジルのガラパリでは、トリウム232(基本はアルファ崩壊ですがガンマ線も出す)を含むモナザイトという鉱石が原因となっています。
イランのラムサールでは、温泉の噴出によって溜まったラジウム。中国の陽江は粘土層に含まれるウラン238が崩壊してできるウラン系列核種が発するガンマ線が原因です。

これらの地域は、他の地域と比べても、がん発生率に差がないとされています。その理由は、今も研究が続いています。ただ、これらの地域の高くなっている放射線は、主に「大地と建物からのガンマ線」によるものだけだということは、理解しておきましょう。
さらに、線源となる原子のほとんどが、岩や石ころの中に存在しているので、放射性物質そのものを吸い込んで、内部被ばく量が多くなることは、ほぼ考えにくい環境です。

●カリウム40とセシウム137
最後は、飲食で体内に入ってくるカリウム40と、カリウムに化学的な性質が似ているセシウム137についてです。

「カリウム40は、体重60kgの成人男子の体内に約4000ベクレルもある」と言われます。これは間違った数字ではありませんが、4000ベクレルという、いかにも高そうな数値を引き合いに出して、人体がカリウムと勘違いして取り込んでしまう放射性セシウムの影響を過小評価しようとする悪意に満ちた宣伝です。
カリウム40は、体重1kgで計算すると66.7ベクレル/kgしかありません。米や肉や野菜の500ベクレル/kgという基準値が、いかに高いものか、お分かりいただけると思います。
そして、カリウム40の半減期は12.8億年。セシウム137の半減期は30年です。仮に同じ原子数が存在すると、セシウム137はカリウム40に比べて、時間あたり、なんと4267万倍の放射線を出します。
ほんの少しのカリウムが、セシウム137と入れ代わっただけで、恐ろしいことが起きるのです。

以上、「自然放射線で騙されないための知識」として、ご理解頂ければ幸いです。

日本国内の原子力施設一覧地図2011/10/16 08:25

日本にある主な原子力施設をGoogleマップ上にプロットしました。
日本国内の原子力施設一覧地図

商用の原子力発電所は、すべて網羅してあります。
GoogleEarth で閲覧すると、原発が、いずれも風光明媚な場所に立地し、日本列島の自然や景観をことごとく破壊していることが、よく分かります。
また、多くの原発では、温排水がさかんに排水されている様子まで確認できます。元の海水と較べて7度から10度も高い温度の水が、止めどもなく海に流れ込んでく。それが衛星画像ではっきりと見えるのです。背筋が寒くなりました。

嘆きとともに反省も…
自然や景観を電力会社に売り払ってしまったのは、他ならない私たち日本人だからです。もちろん、実際に売ったのは、その土地の人たちです。しかし、彼らのせいにはできません。この列島に暮らす一人ひとりが、自然や景観、農業や漁業、そして穏やかに暮らす権利というものに対して、あまりに意識が低かった。そこを守銭奴と利権屋につけ込まれたのです。

言い古された言い方ですが、一度失われた自然や景観を取り戻すのは容易なことではありません。しかし、少しずつでも、その方向に歩み始めないと… その第一歩が、全原子炉の即時停止であり、廃炉決定なのです。






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