小さなチョウが教える原発事故の恐怖2014/02/15 21:42

ヤマトシジミ。
日本でもっともと一般的に見られるチョウです。この小さなチョウをめぐる論文が、世界で最も権威ある科学雑誌・Natureに掲載されるなど、大きな反響を呼んでいます。

論文を発表したのは、琉球大学の大瀧丈二准教授(分子生理学)の研究チーム。このチョウに原発事故の影響とみられる異常を見いだしたのです。

日本語英語含めて、論文や参考資料がたくさんあるのですが、もっとも読みやすいのは、岩波書店の『科学』。まず、これを一読することをお奨めします。

●『科学』(岩波書店)に掲載された論文

他の論文等は、この記事の最後にまとめてリンクを貼っておきます。

細かいデータについては、論文を読んで頂きたいのですが、ここでは、大瀧准教授のグループが明らかにした、原発事故によるヤマトシジミの異常を分かりやすくまとめてみましょう。
この研究は、大きく4つの観察・実験から成り立っています。それぞれの概要と結果を記します。

●野外採集・外見比較
概要:
2011年5月と2011年9月という事故後間もない時期に、福島県内各地で多数のヤマトシジミを採集し、外見データを記録。比較のため、宮城県白石市、茨城県つくば市、東京都内でも同様の採集・観察を実行。

結果:
□福島第1原発からの距離が近くなるほど、卵から羽化するまでの日数が長くなる【発育遅延】
□同様に、原発からの距離が近くなるほど、前翅(前の羽)が縮小している個体が多かった【前翅矮小化】。
□2011年5月採集分で12%に、9月では28%になんからの外見上の異常が見られた【形態異常】

まとめ:
ヤマトシジミには、気温が低いと異常を起こす性質(コールドショック)があるが、福島で見つかった異常は、コールドショックとは種類が違っていた。

●飼育・交配実験
概要:
福島で野外採集したヤマトシジミを沖縄に持ち帰り、飼育・交配。比較のため、宮城県白石市のヤマトシジミでも同様の実験を行った。

結果
□福島で採集した個体を沖縄で飼育・交配した結果、子世代では親世代よりも高い異常率となった【生殖細胞に異常が起きている可能性大】
□孫世代においても異常が多く見られる【子世代の異常が孫世代に遺伝している可能性大】

まとめ:
明らかに原発に近いほど異常が多く、また、それが子世代・孫世代に遺伝している可能性を指摘。

●外部被ばく実験
概要:
沖縄生まれのヤマトシジミに、人工的にセシウム137による外部被ばくをさせ、異常の発生を観察。

結果:
□被ばく実験によって、「発育遅延」「前翅矮小化」「形態異常」という、福島での野外データと同じ傾向が再現された。

まとめ:
この結果は、外部被ばくがヤマトシジミの異常に寄与している可能性が高いことを示している。

●内部被ばく実験
概要:
沖縄生まれのヤマトシジミに、福島のカタバミと他の地方のカタバミを食べさせて、結果を見た。ヤマトシジミの幼虫はカタバミしか食べないので、内部被ばくの影響を明確に示せる。与えたカタバミに含まれる放射性セシウムの量は、あらかじめ計測してある。

結果:
□沖縄産のヤマトシジミの幼虫に山口県宇部市のカタバミを食べさせても、ほとんど死なない。福島市や飯舘村のカタバミを食べさせると、生存率が著しく低下。
□生存率の低下だけでなく、矮小化と形態異常も確認された。

まとめ:
この結果は、内部被ばくがヤマトシジミの異常に寄与している可能性が高いことを示している。

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こうしてまとめてみると、大瀧准教授たちが、実に緻密な研究を重ねてきたことが実感できます。それでも、文字面だけでは、なかなか分かり難いので、表にしてみました。

事故後間もない時期から、このような綿密な観察と実験を重ねてきた大瀧准教授たちには敬服の至りです。

この研究は、外部被ばくや内部被ばくが生命体に及ぼす影響を知る意味で、きわめて重要で、貴重なものです。
海外の名だたる科学雑誌が、次々と取り上げるのも、うなずけます。
しかし、日本で本格的に取り上げたのは、岩波の『科学』だけ。福島第1事故を引き起こした当事者が、こんな姿勢でよいわけがありません。

加えて許しがたいのは、琉球大学が大瀧研究室に対する研究費をカットしたのです。文科省、国の意を受けてのことでしょう。ここまで来ると、原子力ムラなんて牧歌的な表現では足りません。もはや、原子力マフィアです。
こういった有意義な研究に対して、大学や行政は全面的にバックアップすべきです。

私たちは、小さなチョウが命を賭して教えてくれる原子力事故の恐怖を肝に銘じるべきでしょう。人類を含むすべての生命体は原子力とは共存できないのです。


●スライド(飯舘村エコロジー研究会シンポジウム発表用):福島第一原子力発電所事故とヤマトシジミ:長期低線量被曝の生物学的影響評価

●BMC Evolutionary Biology掲載論文の日本語訳:福島第一原子力発電所事故とヤマトシジミ:長期低線量被曝の生物学的影響評価

●Natureに掲載された論文【英語】:The biological impacts of the Fukushima nuclear accident on the pale grass blue butterfly

●Natureに掲載された研究紹介記事【英語】:Fukushima offers real-time ecolab

●BMC Evolutionary Biologyに掲載された論文【英語】:The Fukushima nuclear accident and the pale grass blue butterfly: evaluating biological effects of long-term low-dose exposures

琉球大学 大瀧研究室

"アメリカ原子力合衆国"が伝える恐ろしい事実2014/02/14 16:04

2012年のサンダンス映画祭(ロバート・レッドフォードが主催する米国最大のインデペンデント系映画祭)に優れたドキュメンタリー映画が出品されていました。
"The Atomic States of America"(93分)。直訳すれば『アメリカ原子力合衆国』。NHKの『BS世界のドキュメンタリー』で短縮版(49分)が『原子力大国アメリカ』というタイトルで、12月に放送されました。
今のところ『原子力大国アメリカ』は、DailyMotion で視聴可能です(消されてしまうかも知れませんが)。
オリジナルの英語版予告編はこちらです。

"The Atomic States of America"は、原子力施設近くの住民の健康被害、NRC(原子力規制委員会)が抱えるジレンマ、最終処分場の問題など、幅広く原発問題を扱った秀作ドキュメンタリーです。

なかでも、ニューヨーク州ロングアイランドにあるシャーリー(SHIRLEY)という町からの報告は衝撃的でした。
「女性の9人に1人が乳ガンを発症」「400万人に1人と言われる子どもの横紋筋肉腫という珍しいガンが、同じ通りで2人発症。周辺地域全体の患者数は20人」という事実が示されます。

多数のガン患者が出た原因は、シャーリーに隣接するブルックヘブン国立研究所にありました。
まず、シャーリーとブルックヘブン国立研究所の場所を地図上で確認しましょう。
●Googleマップ:ニューヨーク州シャーリー
 ニューヨークの中心部から東へ100キロ弱です。

ブルックヘブン国立研究所は原子物理学の研究所で、原子炉もありました。ここの使用済み核燃料プールから高濃度のトリチウムを含む汚染水が長年に渡って漏出。汚染水は、周辺13万人の住民が飲料水として利用する水源に流れ込みました。トリチウムの濃度は、最高で米国環境保護局の飲料水基準の32倍(11倍説もあり)という高い値。飲料水を介したトリチウムによる低線量内部被ばくが進んだのです。

トリチウムとは放射性の水素のことです。その恐ろしさについては、当ブログの以下の記事をご参照ください。

●トリチウムの恐怖(前編)
●トリチウムの恐怖(後編)

さて、次の静止画は、"The Atomic States of America"の中で、シャーリーの住民が示した横紋筋肉腫患者の分布地図です。

インタビューでは、20人の患者が出たという説明ですが、地図上には、そのうち19人の自宅の場所が示されています(先ほどのGoogleマップと見比ると分かりやすいです)。

細長いロングアイランドの中程にBNL(Brookhaven National Laboratory:ブルックヘブン国立研究所)があります。ロングアイランドの南北の幅は30km弱で、地図上のBNLからCまでの距離が20km強。いかに狭いエリアで、たくさんの患者が出たのかがよく分かります。普通は「400万人に1人」なのに。

ブルックヘブン国立研究所は、当初、汚染水漏れを認めませんでしたが、次第に事実が明らかになります。管轄する米国エネルギー省も黙殺することができなくなり、1997年、研究所を運営する法人に対して契約打ち切りを宣言。理由は「積年に渡るトリチウムの漏出」です。研究所は1999年、原子炉の再稼働を断念しました。

さて、トリチウムと言われて気になるのは、福島第1の増え続ける汚染水です。
仮にALPSなどの浄化装置が100%理想的な稼働をすれば、他の核種はある程度取り除けるのですが、トリチウムだけはどうにもなりません。水素なので、水(水分子)に組み込まれてしまうと、放射性の水と普通の水を分けることができないのです(実験室レベルは別として)。

実は、スリーマイル島事故の時も、最終的にトリチウムを含む汚染水が残ってしまい、大きな問題になりました。
結局、選択されたのは「蒸発させる」という荒っぽい方法。シャーリーの例を考えると、これは危険な賭けだったと思います。今後、スリーマイル島周辺で、トリチウムによる晩発性放射線障害が出ないとは言い切れません。

福島第1では、すでに海と地下水へのトリチウムの漏出が起きています。東電も国も「環境に影響を及ぼすほどではない」と言いますが、それを信じる根拠はどこにもありません。
最終的には、全部、海に流すことを画策しているようですが、そんなことを許したら、福島の海が蘇る術はなくなってしまうでしょう。
一方、スリーマイル島方式の蒸発は、あまりにも汚染水が多いことや日本の湿度が高いことなどから無理なようです。

今は、トリチウム以外の放射性物質も、ほとんど除去できてない状態ですが、トリチウムによる低線量内部被ばくへの警戒を怠るわけにはいきません。
そして、東電、政府、原発推進派の学者だけでなく、反対派まで含めた知恵を絞って、トリチウムをどうするのかを考えていかないと、何十年か先に悲劇が待っている可能性は十分にあるのです。

この記事の終わりに、秀作ドキュメンタリー"The Atomic States of America アメリカ原子力合衆国"の国内での公開を切望します。

子どもたちの甲状腺ガンに再度注視を!2014/02/08 20:45

福島での甲状腺ガン検査、新しいデータが公開されました。
先に当ブログ『子どもたちの甲状腺ガン』で紹介したデータは、2013年8月23日検査分までの集計でした。今回、11月15日検査分までが出てきました。ちょっと恐ろしい数字が含まれていますので、報告をしておきます。

まず、データの在り所です。
<県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について>
2013年8月23日検査分まで
2013年11月15日検査分まで

2つのデータを見比べてみると、8月24日から11月15日までに検査を受けた人のうち、結果が判定したのは26,404人。で、この3か月弱の間に9例の「悪性ないし悪性の疑い」が出ているのです。
この期間で子どもたちの甲状腺ガンの発生率を見ると、「100万人あたり341人」というたいへんに高い数字になります。
前の記事でお伝えしたとおり、通常、子どもの甲状腺ガンは100万人に1人とか3人にしか発生しないと言われています。

2011年、2012年の数字にも若干の修正が入ったようなので、もう一度、データを表でまとめ直してみました。
なお、前回の表では、受診者数を分母にしたのですが、結果判定者数を分母にした方が、より正確でした。
今回は、結果判定者数に対する「悪性ないし悪性の疑い」の率で整理してあります(2011年、2012年に関しては、判定率が99.9%なので、受診者数≒結果判定者数です。結果の数字にはほぼ影響ありませんでした)

2013年分を11月15日分までの通算で見ると、100万人あたり136人ですから、2011年、2012年よりは低い率になっています。
汚染度の高かった市町村から検査を進めているので、全体として甲状腺ガンが見つかる率が減ってくるのは、ある意味、納得が行きます。

しかし、下がっていた2013年の数字が、夏以降、なぜか跳ね上がっています。ここは原因究明が必要です。万人単位の結果判定者数を分母にしているので、誤差と言うには大きすぎます。今、福島の子どもたちに何が起きているのか… 少しでも早く見極め、可能な対策を取る必要があります。

また、資料を見る限り、一度検査を実施した市町村での再検査は行っていないようです。
「被ばく後、4~5年経たないと子どもの甲状腺ガンは発症しない」と言い張る福島県立医大が主導する検査にしては、矛盾があります。2011年に受診した富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、飯舘村など汚染のひどかった地域の子どもたちの多くは、その後2年間、放ったらかしにされています。言葉は悪いですが…

ちなみに、他の病気の100万人あたりの年間発生率を見てみましょう。
●白血病:60人~70人/100万人
●膵臓ガン:100/100万人
これらは子どもだけの数字でありません。
一方、"子どもの甲状腺ガン"に関して同じ書き方をすれば、通常は、
●子どもの甲状腺ガン:1人~3人/100万人
です。

今、福島では子どもだけで、<100人~350人/100万人>の甲状腺ガン患者が見つかっています。尋常ではありません。

ちなみに、当方の知人(遠い知人まで含めて)関係で、この数年間の間に、膵臓ガンになった人は3人。白血病は1人。大人の甲状腺ガンが1人。子どもの甲状腺ガンは聞いたことがありません。
100万人に100人というのは、決して少ない数ではない。一方で、子どもの甲状腺ガンは、きわめて珍しいという実感があります。
「サンプル数が少なすぎる!」と批判する向きもあると思いますが、福島で多発する子どもたちの甲状腺ガンの数には直感的に違和感があります。原発事故と無関係と考えるには、大きな無理があります。

甲状腺ガンの原因は、ヨウ素131による被ばくです。それは、事故直後、数週間の間に起きているので、今から影響を取り除くことはできません。
しかし、一生に渡る健康管理を保証することで、異常を少しでも早く発見できます。もし、ガンであれば、早期発見・早期治療は、転移や再発の可能性を減らします。

国と東電は、とにかく責任を持って対応すべきです。命の問題に対して。

原発と経済(2):もともと安い電力なんて探していない2014/02/05 13:40

次は、東京電力をはじめとする電力会社というものについてです。
電力会社は、口を揃えて「利用者にとって、もっとも安くて品質の高い電力を提供するために、原子力発電を選択したし、これからも原発は必要だ」と言いますが、本当でしょうか?

まず、日本の電力会社は地域ごとに完全な独占体制になっています。
たとえば、東京電力の管内で東京電力以外の電気で生活をしている人はいませんし、不可能です(自家発電の山小屋などを除く)。
産業用電力は、建前上は自由化されていますが、実際に地域独占以外の電力会社から電気を買っている量は3.5%に過ぎません。それも大口の利用者が中心ですから、自由化を活用している企業の数は、ごくわずかということになります。


日本では、電力会社が自分の都合で電気料金を決定できます。
それを強く支えているのが『総括原価方式』。「電力会社が電気の供給に必要な年間費用を事前に見積もり、それを回収できるように料金を決めるしくみ」です。

競争がない上に総括原価方式で守られていたら、絶対に損はありません。3.11以降、電力料金の値上げに対する強い反発があり、この間、赤字を計上している電力会社がありますが、基本的に電力会社が赤字を出すことはあり得ないのです。どんなに経費をかけても、全部、電力料金として利用者に転嫁できるわけですから。
これって企業?これって資本主義?って、誰だって思います。しかし、それが現状なのです。

ですから電力会社は、もともと安い電力を供給しようなんて考えていません。競争がない上に、行政や第三者機関の監視もありませんから、安くする必要がないのです。
巨大投資(原発の建設が典型例)をして、その経費を利用者に押しつけ、またまた次の巨大投資へという最悪の循環を繰り返しています。その合間で、自分たちが太っていくこと。それが総てです。時代遅れの拡大再生産の悪しき典型と言えるでしょう。

電力会社の合同出資により運営されている電力中央研究所の資料を見てみましょう。



家庭用の電気代は、アメリカの2倍、韓国の3倍。産業用では、アメリカ、韓国の2.2倍です。
主たる原因は、総括原価方式に間違いありません。経費かけ放題、コスト意識不要ですから。

さて、東京電力は、2012年9月1日に家庭用電気料金を8.46%値上げしました。しかし、3.11以降、電気料金は上がっていなかったのかという、これが違うのです。

<電気料金=基本料金+電力使用料金+燃料調整費+消費税>が、日本の電気料金の計算式。この内、2012年9月1日の値上げに含まれていたのは"基本料金"と"電力使用料金"です。
一つ前の記事で指摘した、天然ガスを高すぎる値段で買っていることによる東電の支出は、"燃料調整費"として、いわば自動的に値上げされていたのです。
実際に、2012年4月のモデル家庭の電気代は、1年前と比べて600円もアップしていました。燃料調整費の値上げについては、政府の認可すら不要。電力会社の采配ひとつで電気料金を変えることができるのです。


では、8.46%の値上げは何だったのか?
東京電力は「火力発電の燃料費などの大幅な増加」だと説明しています。これは明らかな嘘です。燃料費の増加は、燃料調整費としてすでに参入済みでした。
8.46%は、動いていない原発の減価償却費や保守費、賠償費用や事故収束費用がかさんだ分です。


そして、もう一つ重要なことをお伝えしましょう。
2011年9月、第三者委員会(東京電力に関する経営・財務調査委員会)は、「東電は過去10年間で実際の原価より6186億円もコストを多く見積もり、それを基に電気料金を決めていた」と、東電の総括原価方式の運用に不正があると指摘しました。
この話がいつの間にかうやむやになってしまったのは、東電が総括原価方式の具体的データの公表を固く拒んだからです。
経費を電気料金に転嫁できる総括原価方式。おまけに、その"原価"を公表しないとなったら、すべてが東電の手のひらの上ということになってしまいます。不正の暴きようすらありません。
東電がもともと安い電力なんか探していなかったのは明白。逆に、不当に高い電力を売りつけていたのです。

ここまで、東電を中心に話を進めてきましたが、他の電力会社も五十歩百歩です。もちろん、総括原価方式はすべての電力会社に適用されています。

とにかく、総括原価方式を廃止し、発送電分離を分離することです。送電会社は、安くて質の高い発電会社から電力を買います。利用者は、サービスと価格によって送電会社を選択するわけです。
電気料金は大きく下がるでしょう。
その時、事故対応や廃炉に要する経費、使用済み核燃料の処分まで考えたら、明らかにコストの高い原子力発電が生き残る道はありません。

原発と経済(1):貿易赤字と原子力2014/02/04 20:55

「原発が止まってるから、貿易赤字が拡大して、日本経済は危機だ」というような主張が、政府や財界から繰り返されています。
本当なのでしょうか?

今現在、一基の原発も稼働していないのに、私たちは電力不足による不自由を感じることはありません。計画停電なんてやっているところは日本中どこにもありません。新幹線が停電で止まったとも聞きません。
日本と日本経済が、原発なしで十分にやっていけていることは明らかです。

冒頭に掲げた貿易赤字の問題はどうでしょうか?
実は、当サイトは「仮に貿易赤字が膨らんだとしても、原発を再稼働させてはいけない!」と考えてきました。ところが、これは取り越し苦労に過ぎなかったのです。

2月2日の毎日新聞朝刊の『視点』を読んでビックリ!実は、貿易赤字と原発は、ほぼ関係なかったのです。


ウェブ上から消えてしまう可能性もあるので、静止画でも貼り付けておきます。

安倍首相は1月29日、参議院の代表質問で「昨年、原発がないことで化石燃料の輸入に3.6兆円も多く支払った」と言い放っています。
しかし、原油の輸入量を見てみると、震災前から少し減っている状態です。

次に、総輸入額の推移を見てみましょう。

毎日新聞は、2013年の輸入額を2010年と比較して1.5倍になったとしていますが、もう少しさかのぼれば、リーマンショックのあった2008年とほぼ同じです。2013年の原油輸入額は、ビックリするほど高いわけではありません。

今度は、2つのグラフを見比べてみましょう。
輸入量は2009年以降横ばい。輸入額は跳ね上がっています。もうお分かりだと思いますが、原油の輸入額が増えたのは、原発が止まって原油の使用量が増えたらからではありません。単に価格が高騰したことによるのです。

天然ガス(LNG)はどうでしょうか…

確かに、2012年の輸入量は2010年の1.25倍になっています。
一方で、天然ガスの価格は2009年あたりから、大きく跳ね上がっていました(以下サイトを参照してください)。

●参照:世界経済のネタ帳『アジアを取り巻くLNG輸入環境』


3.11以前の天然ガス価格高騰の原因は、主に原油価格の上昇に引っぱられたものでしょう。原油が高いから、需要が天然ガスに集中したのです。

ところが2011年、特に日本向けの天然ガスだけが、さらに激しく値上がり。これは、言葉は悪いですが「足もとを見られた」のです
毎日新聞は、2010年と2013年では天然ガスの輸入額が2倍になったと書いています。
その原因は何だったのか… "トモダチ作戦"が聞いて呆れます。震災と原発事故で追い込まれた日本から、カネをむしり取っていった輩がいるのです。

話を戻しましょう。
ひとつ見落としてはいけないのは、3.11とは無関係に、日本はとても高い天然ガスを買い続けてきたということです。
主な原因は、購入側に交渉力がないからだと言われています。要するに言い値で買わされていると… 日本が買っている天然ガスの価格は、アメリカの5倍以上、イギリスの2倍近くです。
本来ならば、政府の交渉力によって、3.11以降の足もとを見るようなえげつない値上げを阻止すべきでした(これは、菅政権、野田政権、安倍政権共通)。
アメリカ並みと言わなくても、イギリス並みの価格で天然ガスを買えていれば、輸入量が1.25倍になっても、輸入額は十分に下げることができたのです。

いかがでしょうか?
安倍首相の「昨年、原発がないことで化石燃料の輸入に3.6兆円も多く支払った」という発言は、まったくの嘘なのだということがお分かりいただけたと思います。

加えて、安倍政権の『三本の矢』とやらで進められた円安誘導が、原油や天然ガスの価格をさらに引き上げました。
「原発が止まって貿易赤字拡大」は虚構。ある種、安倍政権の自作自演の下手な芝居とも言えるのです。

騙されてはいけません。

東京と原発2014/02/02 14:10

目前に迫った東京都知事選。原発への対応が大きな争点になっています。

なぜ、東京都民が原発のことを論じる必要があるのか?
「福島第1で発電した電気の大半は東京で消費していたから」「東京にも放射性物質が降り注いだから」「いまだに東京にも空間線量の高いホットスポットがあるから」「事故直後に飲料水の使用制限がかかったことを覚えているし」など、いろいろです。それぞれもっともで、間違ってません。

しかし、もっとも重大なことを見落としているような気がします。
福島第1の事故が、今のレベルで収まっているのは、いくつかの幸運があったからなのです。
東北はもとより、東京都を含むほぼ関東全域から、全住民が避難を余儀なくされる可能性があったのです。これは、低い確率ではありませんでした。
不適切な言葉かも知れませんが、"不幸中の幸い"が重なって、今、東京には人が住んでいられるのです
本当は何があったのか… 事実を正確に知れば、今、東京都民こそが、即時脱原発に邁進すべきだと理解できるでしょう
【どうか福島をはじめとする被災者の皆さんは気を悪くしないでください。当サイトの主張は「年間1ミリシーベルト以上の地域の住民には、無条件の移住権と完全なる生活の保障を!」で変わりません

何が起きようとしていたのか… たどってみましょう。
3.11から2週間後の3月25日に、当時の近藤駿介内閣府原子力委員長が菅首相に提出した報告書。いわゆる『最悪のシナリオ』と呼ばれるものがあります。そこに書かれていたのは、「原発事故の今後の推移によっては、東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた福島第1から250kmの範囲が、避難が必要な程度に汚染される」という衝撃的な内容でした。当時まだ、東電も国も、メルトダウンをはっきりとは認めず、「核燃料の健全性は守られている」などと言っていた頃です。

『最悪のシナリオ』に書かれていた"原発事故の今後の推移"とは、何を指しているのか…
1号機・3号機の再爆発も想定されていましたが、もっとも重大だったのは、4号機使用済み核燃料プールのメルトダウンと再臨界です。
当時、この核燃料プールには、1331本の使用済み核燃料と204本の新燃料がありました。

チェルノブイリ4号機の炉心にあった核燃料は、福島第一形に換算する699本です。4号機の核燃料プールだけで、倍以上の量があったのです。さらに、1号機から4号機まで、すべて合わせると4604本の核燃料が。チェルノブイリの7倍近くに達するのです。

4604本の核燃料が、メルトダウンや再臨界を起こしたら… 背筋が凍るとはこのことです。チェルノブイリでは半径30kmが強制避難の基準でしたが、『最悪のシナリオ』が250kmを想定した理由は、この膨大な核燃料によるのです。

では、なぜ、今のレベルで事故が収まっているのか…
東電が2011年12月2日に公表した「福島原子力事故調査報告書(中間報告書)」の添付資料を見てみましょう。

3月13日あたりから、プールの水位が一気に下がり始めます。全電源喪失によって、冷却水の循環が止まり水温が上昇。3月13日には沸騰が始まっていたのです。沸騰すると、水は急速に蒸発します。そして、燃料棒を包み込んでいるジルコニウムと水が反応して、大量の水素が発生します。
3月15日午前6時14分、何かの火がたまっていた水素に引火して、4号機建屋は水素爆発で吹っ飛びました。

写真は、爆発の凄まじさを物語っています。
しかし、結果的には、この爆発こそが"不幸中の幸い"だったのです。建屋の壁が壊れた部分から注水して、なんとか燃料棒を冷やし続けることができました。
そして、もう一つの偶然は、原子炉の上にある原子炉ウェルに、たまたま溜めてあった水が、プールに流れ込んだのです。「水圧の関係でゲートが壊れた」と言われていますが、時系列で見ると、ゲートが壊れたのも、爆発のせいである可能性が高いです。

さて、外からの注水と原子炉ウェルからの水の流入で、辛うじて最悪の事態を脱するのですが、たとえば、地震のせいで、建屋の上部に水素を逃がす小さなすきまが開いていたらどうなっていたでしょうか?あるいは、水素爆発がもう少し小規模で、注水できるほどの穴が開かなかったらどうなっていたでしょうか?
ほどなく水はなくなり、核燃料は溶融(メルトダウン)を始めます。最初に溶け出すのは、大きな崩壊熱を出す使用済み核燃料です。ドロドロに溶けた使用済み核燃料は、みずからはほとんど発熱しない新燃料をも巻き込んで、これも溶かしてしまいます。
新燃料には臨界しやすいウラン235が高い濃度で含まれています。ウラン235は一か所に多く集めると臨界を起こします。だからこそ、細い燃料棒に分けているのです。これが溶けて集まったら、アッと言う間に臨界です。連鎖的核分裂反応によって、たくさんの放射性物質と放射線がまき散らされ、巨大な熱が出ます。次に来るのは、大規模な水素爆発か、あるいは、メルトダウンした核燃料が、地下水か海水に触れて起きる水蒸気爆発。4号機のみならず、福島第1全体が、今とは比較にならないほど酷い状態になっていたはずです。たくさんの人命が失われたでしょう。
そして、チェルノブイリの数倍という放射性物質が東日本を覆い、私たちは我先にと、西へと逃げたのでしょう。東日本は終わりです。

忘れてはならないのは、ここで想定した事態は、「もしかしたら起きたかも知れない」というレベルのものではないということです。「避けられたことが奇跡的」と言っても差し支えないでしょう。
「水素爆発で建屋の壁に穴が開いた」「原子炉ウェルのゲートが壊れた」という2つの大きな偶然が重なって、なんとか『最悪のシナリオ』は回避でき、今も東京に人が暮らせているのです。

東京都民は、もう一度、福島第一原発の事故の、特に当初の推移を思い出し、みずからの問題として問い直してみる必要があります。
私たちは、原発とは共存できません。

子どもたちの甲状腺ガン:附記2014/01/12 15:46

以下に、ヨウ素131と甲状腺ガンに関する短い記事を何本か記載します。

●ヨウ素131の恐ろしさ
福島の甲状腺ガンは、主にヨウ素131による内部被ばくが原因と考えられています。ヨウ素は人体に不可欠な栄養素の1つで、甲状腺に集まって甲状腺ホルモンの主原料となります。人体は、普通のヨウ素と放射性のヨウ素を見分けることができませんから、ヨウ素131もまた甲状腺に集まってしまうのです。
ヨウ素131は半減期が8日で、核分裂で生まれる放射性物質の中では比較的短い方です。しかし、「8日もすれば半分になってしまうのだから」なんて考えてはいけません。
"半減期が短い"ということは、"短時間の間にたくさんの放射線を出して崩壊する"ことを意味します。たとえ一過性であっても、ある程度の濃度のヨウ素131を体内に取り込んでしまうと、それが甲状腺に集まり、甲状腺の細胞に集中的に放射線を浴びせ、後にガンを引き起こす可能性が高くなるのです。
ちなみに、ヨウ素131は福島第1から気体で大量に漏出しているので、避難の遅れによって、より多くのヨウ素131を吸い込んでしまった人は多いのです。
放医研(放射線医学総合研究所)は「福島県民のヨウ素131による被ばくは、大半が30mSv以下で心配は要らない」と発表していますが、被ばく直後に検査が行われていないなど、この説には多くの研究者から疑問が投げかけられています。

●甲状腺ガンで死ぬ人はいない!?
「甲状腺ガンで死ぬ人はいない」などとひどいことを言う研究者や政治家がいます。実際に、5年生存率は90%、10年生存率も80%以上と発表している医療機関が大半です。しかし、死んでいる人もいます。また、甲状腺の全摘をしてしまえば、甲状腺ホルモンを造ることができなくなり、一生、甲状腺ホルモン剤を服用せざるを得ません。また、再発の危険性がいつまでも付きまといます。
被ばくによって甲状腺ガンになってしまった人、あるいはその可能性がある人に対して、国は健康監理面で、一生責任を負う必要があります。

●全国規模で子どもの甲状腺検査を

今、福島で起きていることを正確に知るためには、全国規模で子どもの甲状腺検査を行う必要があります。
一次検査は、触診と超音波エコーによる診断だけなので、ツベルクリンよりも少し手間がかかる程度でしょう。
なぜ、日本政府はこういったことに熱心ではないのでしょうか?事実がつぶさにになって、みずからの責任を問われるのを恐れているからでしょう。

●一度検査した場所は、ふたたび検査しない!?
福島県の『県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について』を見ると、検査は、毎年限られた市町村だけで行われています。
ということは、一度検査をして「異常なし」となった子どもたちは、その後の検査を受けないことになります。これは大丈夫なのでしょうか?
被ばくした細胞が、かなり時間を経てからガン化する場合があることは、広く知られています。検査体制をもっと充実させないと、早期発見が困難になっていきます。

子どもたちの甲状腺ガン2014/01/12 14:56

多くの方がご存じ通り、福島で子どもの甲状腺ガンが急増しています。県内で行われている原発事故発生当時18歳以下だった子供に対する甲状腺検査は3年目。今までの医学的常識では考えられない数の患者が確認されているのです。
県が発表している「県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について」に基づいて、データをまとめ直してみると以下の表になります。


<悪性または悪性の疑い>は、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)といって、甲状腺に細い針を刺して腫瘍の細胞を直接調べる方法で、陽性と判断された人。
穿刺吸引細胞診で陽性だと、その90%が甲状腺ガンだと言われています。ですから、<手術=甲状腺ガン確定>の人数は、<悪性または悪性の疑い>の9割程度になるはずですが、データを見ると、<手術>に至ってない例が多くあります。これは甲状腺ガンは進行が遅いので、経過を見ているためと思われますが、少し心配です。

子どもの甲状腺ガンは、100万人に1人とか3人とか言われています。表の数字を見直してみましょう。福島では、ここ2年半ほど間に、<悪性または悪性の疑い>が100万人に243人の確率で、<甲状腺ガン確定>が100万人に109人の確率で見つかっています。通常の30倍から240倍の確率で、子どもが甲状腺ガンになっているのです。
「今までにない精度の高い検査をしているので、たくさん見つかっている」という研究者がいますが、これは嘘です。甲状腺ガンが自覚症状無しに自然治癒することはないからです。中にはガンの進行が遅くて、子ども頃にできたガンが大人になってから発見される例もあるかも知れませんが、それはごく僅かでしょう。いくら検査の精度が上がっても、100万人に1人が、100万人に100人とか200人になることはあり得ないのです。

さて、検査を主導する福島県立医大の鈴木真一教授は「甲状腺がんは最短で4~5年で発見というのがチェルノブイリの知見」と述べ、福島第1原発事故による放射線の影響を否定しますが、多くの人が「本当なのか?」と疑っています。
甲状腺ガンの急増という深刻な事態。少し視点を変えて考えてみます。

●チェルノブイリの曲解
まず、鈴木真一教授らが言うように、放射線被ばくを原因とする甲状腺ガンの発症は被ばく後4~5年以降というのは、正しいのでしょうか?

チェルノブイリ事故は1986年4月26日に発生。当時そこはソ連でした。1985年にゴルバチョフ政権が成立し、改革に手を付けたばかりの時期。7年間に渡るゴルバチョフ政権下、改革派と保守派の争いは熾烈を極めました。1990年にゴルバチョフは大統領に就任しますが、その翌年1991年の12月にソ連は崩壊。チェルノブイリ事故の主な被災地域は、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3つの国に分かれました。
これだけの記述で、チェルノブイリ事故後の4~5年間が、ソ連の政治的な大混乱期にあたることが分かります。その中で、献身的な活動を続けた医師や研究者たちの貢献に水を掛けるつもりはありませんが、最新の検査機器も無く、検診等も満足がいく形では進まなかったのは、想像に難くありません。
チェルノブイリ以前の晩発性放射線障害の研究が、主にヒロシマ・ナガサキの誤ったデータに基づいていたことも影響しました。
現に、ミンスク第一病院 ビクトル・レベコ部長は次のように語っています。 「私たちは放射能が人間に与える影響というものを、事故後10年から15年経って出てくるものだと考えていました。しかし実際には1988年から89年にかけて、子供達の甲状腺がんが急激に増えてきました」 「事故から2,3年しか経っていないのですから、私たちの考えは間違っていたわけです。過去にこうした経験がないのですから、しかたがないといえばそうなのですが、医師として不注意でした。どう対応していいのかわからなかったことが悔やまれてなりません」

鈴木真一教授の親分格にあたる山下俊一氏(福島県立医科大学副学長・福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)がチェルノブイリで活動を始めたのは1991年です。チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトへの参加です(日本の戦後史の闇の部分を背負う笹川良一(1899-1995)が、なぜチェルノブイリ支援?という疑問はあるのですが、ここでは深入りしません)。
日本製の最新機器を積んだ巡回バスがウクライナ、ベラルーシ、ロシアの被災地域をまわり、受診した子どもの数は16万人に上ります。放射性セシウムによる内部被ばくや甲状腺ガンの検診などを行いました。
1991年から1996年の間に検診した12万人分(17歳以下の子どもと思われる)のデータが公表されていて、甲状腺ガン64例、結節が577例、甲状腺腫に至っては被験者数の1/3を越える4万2千人近くが陽性という記録が残されています。甲状腺ガンの数字を100万人あたりに換算すると533人に!これは恐ろしい数字です。

参照:日本財団(旧・日本船舶振興会)『チェルノブイリ原発事故被災児の検診成績』

ひとつ、ここで注目すべきは、チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトの現地での活動が始まったのが1991年、チェルノブイリ事故の5年後だということです。
ソ連ゴルバチョフ政権が、1990年頃から始めた各国への原発事故の救援要請を受け、世界中から医師や研究者がチェルノブイリへ入りました。笹川プロジェクトはその代表格と呼べるでしょう。1990年、91年を境にチェルノブイリの医療体制は大きく変わったのです。
これが子どもの甲状腺ガンの数とどう関係するのか?
それまで見つからなかった初期のガンも見つかるようになったのです(甲状腺ガンは進行が遅く、初期にはなかなか見つかりにくい)。だから、チェルノブイリでは、事故後4~5年以降に子どもの甲状腺ガンが多く"見つかる"ようになったです。

大切なのは、"それまで見つからなかったものが見つかるようになった"という点です。山下俊一氏ももちろん、自分たちを始めとする世界の最先端をいく医療チームが入ったことが、検診結果に影響しているのは分かっていたはずです。
しかし、彼はそのデータを曲解します。「チェルノブイリでは事故後4~5年経つまで子どもの甲状腺ガンは発症していない」と… 見つけられていなかっただけなのに。
これが、子分の鈴木真一教授が言う"チェルノブイリの知見"の正体です。鈴木教授自身、それがデータの曲解に過ぎないことは、百も承知でしょう。しかし、政府と東電の責任逃れを応援するために、意識的にその曲解を押し通そうとしているのでしょう。

下に、ベラルーシでの甲状腺ガンのデータを示します。


原発事故後と事故前で、大人で2.6倍、子どもでは47.6倍にもなっています。
また、1990年、91年を境に、一気に見つかる数が増えているのがお分かりだと思います。繰り返しますが、これは"その年にガンが見つかった人の数"であって、"その年にガンができた人の数"ではありません。

もし、福島で事故後4年目5年目で、チェルノブイリのような甲状腺ガン患者の増え方をしたら、とんでもない患者数になります。
当方の考え方は、チェルノブイリでは4年目5年目以降にしか見つからなかった初期ガンの患者の一部が、福島では1年目から見つかっているというものです。この説が正しければ、4年目5年目でチェルノブイリのような増え方はしないはずです。これは"不幸中の幸い"の類なのですが、間違っていないことを祈ります。
早く見つければ見つけるほど治療はしやすくなるし、再発や転移の可能性も減るからです。

とにかく、検査態勢を充実して、被ばくした子どもたちの健康を一生見守っていく責任が政府に求められています。
なによりも、政府と東電は、今、見つかっている子どもたちの甲状腺ガンと原発事故との因果関係をはっきりと認める必要があります。

一方で、チェルノブイリでは、大人の甲状腺ガンも増えました。日本では、今のところ何の対策も取っていませんが、これもまた、たいへんに心配です。

被爆者援護法とフクシマ2013/09/08 16:28

日本で年間1ミリシーベルト以上の放射線被ばくを受けた人は、無償で医療や健康診断を受ける権利があります。

「今、福島で年間20ミリシーベルトという高い線量下での暮らしを強制されている人たちがいるのに何言ってんだ!」とお叱りを受けそうですが、事実なのです。

1995年に制定された『被爆者援護法』(正式名称は『原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律』)。分かりやすく言えば、原爆症認定や「被爆者健康手帳」公布の裏付けとなる法律です。
以前からあった「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(1957年制定)」「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(1968年制定)」をまとめたものと解釈されがちですが、それだけではありません。ICRP(国際放射線防護委員会)がその当時行った被ばく基準値の変更が背景にあります。
1985年、ICRPは「パリ声明」で一般人の被ばく基準をそれまでの年間5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに引き下げたのです。
この年間1ミリシーベルトが、チェルノブイリでは被災住民に無条件の移住権を保証する基準値となり、日本では『被爆者援護法』に反映されたのです(年間1ミリシーベルトが妥当なのかどうかはとりあえず横に置きます)。

『被爆者援護法』には以下の内容の記述があります。
<「被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者」を原爆症認定の第1の判断基準とする。>

参照:厚労省『原爆症認定』

『被爆者援護法』や厚労省のホームページには、年間1ミリシーベルトを具体的に謳った記述はありませんが、実は「被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者」とは「年間1ミリシーベルト以上を被ばくした者」と同義であることは、以下の図で明らかにされています。


ヒロシマでは爆心地から3.25km以内、ナガサキでは3.55km以内が年間1ミリシーベルトを被ばくしたエリアです。それを踏まえて、「被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者」を「積極的に原爆症に認定する」となったのです(被爆者手帳の交付は、それ以前の当然として)。

詳しくは:厚労省『原爆放射線について』

フクシマにおいて政府が住民に強要している基準値は年間20ミリシーベルトです。もちろん、被爆者健康手帳は1冊も公布されていません。これは二重基準(ダブルスタンダード)以外の何ものでもありません。
晩発性障害は間違いなく起きます。吉田所長の食道ガン死は原発事故と無関係と考える方がむしろ奇妙。何人かの作業員が不自然な死に方をしているのも事実です。
子供たちの間では、甲状腺ガン確定患者が8月の段階で18人。2か月間で6人も増えました。

すくなくとも『被爆者援護法』と同じ基準で、フクシマの被災者を支えること。そして、年間1ミリシーベルトを越えるエリアでは無条件の移住権を認める必要があります。

最後に、政府が2012年4月に発表した『20年後までの年間空間線量率の予測図』にリンクを貼っておきます。

政府発表:20年後の線量

今、そして20年後の年間1ミリシーベルトのエリアをしっかり確認してください。背筋が凍る思いです。

汚染水問題に出口はあるのか?(下)2013/09/01 16:23

ボルトで接合し、シリコンゴムのパッキンをはさんだだけの組み立て式鉄製タンク。中に入っているのは塩分を含んだ高濃度汚染水。鉄だから錆びます。シリコンゴムは放射線と太陽光線で腐食。
こんな誰にでも予想のつくことが、東電には分かっていなかったのでしょうか?漏れるのは織り込み済みで、当面、世の中の厳しい目を交わすために、もっとも安い方法を選んだのではないか… これはもう疑いの域ではありません。

東電経営陣の頭の中には、「福島第1を環境から切り離して汚染拡大を防ぐ」とか「放射性物質の海への流出を絶対に阻止する」といった考えはありません。漁民の生活も作業員の安全も頭の片隅にすらないのでしょう。「最終的に海に流してしまえば、太平洋が薄めてくれる」程度にしか考えていないのです。

汚染水問題は重大です。放射性物質で地下水を汚し、海を汚すことは、大きな生態系を取り返しのつかない状態にしてしまうことを指します。もちろん私たちの命や健康にも直接関わってくる問題です。
安倍政権は「国の責任で抜本的対策を取る」などと、得意の空手形を切っていますが、そう簡単にはいかないでしょう。
いくつかの設問をあげて考えていきましょう。

●今ある汚染水をどうするのか?

にわか作りのタンクにため込まれている汚染水は、今の段階で33万トンにも及びます。今後も汚染水漏れは次々と起きるでしょう。そういう造りのタンクですから。ここにある汚染水を恒久的な貯蔵施設に移さなくてはいけないのに、その方策は見えません。

政府や東電が汚染水対策の切り札としているのが、汚染水から約60種類の放射性物質を取り除くことができるという多核種除去設備(ALPS)。しかし、トラブル続きで、ALPSそのものからの汚染水漏れも明らかになったばかりです。
仮にALPSがまとも稼働したとして、汚染水から取り除いた放射性物質はどうするのか?これもまた具体案なしです。
放射性物質は中和も解毒もできません。どんな形で存在しても、放射線を発し続けるのです。
さらに問題なのは、ALPSでも取り除けないトリチウムという放射性物質です。分かりやすく言えば放射性の水素。東電の目論見は、ALPSで処理した水を海に放出するというものですが、高濃度のトリチウムを含んでいるので、絶対に許されません。
トリチウムについては以下をご参照ください。
【トリチウムの恐怖(前編)】
【トリチウムの恐怖(後編)】

●流入する地下水をどうするのか?
福島第1の1号機から4号機には、1日約1000トンの地下水流入があり、うち300トンが汚染水となって海に流出。400トンが建屋に流入して回収されタンクへ。残りの300トンは行方不明!
REUTERS【福島第1の汚染水、1日300トンが海に流出と試算=エネ庁】

地下水の流入を防ぐために、凍土壁という方法が俎上に乗っていますが、これは恒久的な対策と呼べるのでしょうか? 地下水の流入は、最低でも100年間は防がなくてはなりません。凍土壁は冷凍庫と同じ原理で、パイプの中を通る冷却液で、まわりの土を凍らせるもの。もちろん電気が必要です。こういった施設を100年間、止まることなく動かせると誰が約束できるのでしょうか?抜本的対策とは呼べません。またまた無駄な資金の投入になるだけでしょう。

福島第1を環境から切り離すという考え方は正しいでしょう。しかし造るべきは、絶対に100年、いや200年、300年耐える施設です。運用に資金や手間がかからないことも重要です。

●いつまで冷やさなくてはいけないのか?
この設問は、東電も、政府も、マスメディアも避けて通っています。しかし、水で冷やしている限り、汚染水問題を避けて通ることはできません。
冷やすのをやめると、一度メルトダウンして溶けた燃料棒が、その中にある核分裂生成物の崩壊熱で、ふたたび溶け出す恐れがあります。これを再溶融と言います。再溶融した核燃料が大きな塊になると再臨界が起き、新たな放射性物質が大量に撒き散らされます。大規模な再臨界が起きれば、東北はおろか東日本のほとんどが、人の住めない場所になるでしょう。なにしろ、制御不能に陥っている核燃料の量で見ると、福島第1はチェルノブイリの6.6倍もあるのです。
今は、制御不能だが、なんとかなだめすかしている状態。これがすべて暴走することがあったら恐ろしい事態になるのです。
参考記事【附記:どうにも腑に落ちない水素発生】

一方、事故から2年半という月日が経とうとしています。核燃料内の崩壊熱は、少しずつ下がってきています。しかし、溶けた核燃料がどういう形で固まっているのか、まったく分からないので、水で冷やすのを止めることができないでいます。核燃料の塊の形や大きさによって、再溶融や再臨界を起こす条件が違うからです。

いつ、どの段階で水による冷却を止めるのか?水を止めたあと、どうやって放射性物質の飛散を防ぐのか?
もちろん人類史上初めての難しい試みです。「日本の知を結集して」なんてレベルではなく、「人類の知を結集して」取り組むべき課題です。日本政府は、恥も外聞も棄てて、世界に向けてSOSを発するべき段階にまで来ているのです。
もちろん、東京電力に任せられる問題ではありません。脇見運転で大暴走事故を起こしたドライバーに、みずから事故処理を任せているようなものなのです。現状は。
こんなことは普通、あり得ないでしょう?






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