崩壊した五重の壁(2)2011/04/14 11:17

では、その頃、炉内はどうなっていたのでしょうか?
燃料棒被覆管が溶けても、まだ、ペレットの二酸化ウランの融点には至りません。バラバラとペレットは圧力容器の底部に落ち、溜まっていったはずです。ペレットは、核分裂生成物の崩壊熱により、やがて融点を超えて溶け始めます。核燃料が溶岩のようになる核燃料溶融(メルトダウン)です。ただ、完全な空焚きにはなっていないようなので、おそらく水中での出来事でしょう。集まったペレットの中心部でメルトダウンが起き、水と接している部分は固体のままという状態が想像できます。いずれにしても、溶けた核燃料は鋼鉄の融点=1,600℃よりも高い温度なので、第3の壁=圧力容器のところどころを破壊しているでしょう。これが、圧力容器に注入した水が、どんどん漏れていく原因。「穴の開いたヤカンに水を注いでいるようなもの」と揶揄される由縁です。

2号炉では、第4の壁=格納容器の一部である圧力抑制室(サプレッションプール)が破損しているようですが、これも溶融した核燃料によるものではないかと考えられます。

今回の事故では、「五重の壁」がすべて崩れました。それも短い時間の間に。どの「壁」も、しばし持ちこたえることさえできなかったのです。見直してみると、停電によって炉内の冷却水の循環が止まっただけで、簡単にすべての壁が崩れ去っています。地震が… 津波が… 東電は歯切れの悪い言い訳を続けていますが、実は「停電」だったのです。原子力発電が、綱渡りのような馬鹿げた危険とともにあることがよく分かります。

最後に、電力会社などが宣伝している、虚しいばかりの「五重の壁の安全性」をご紹介しておきます。

東京電力「一つが有効でなくなっても、他の壁でバックアップできるという仕組み」
関西電力「放射性物質が外部に放出されるリスクはほとんどありません」
九州電力「原子力発電所は、「多重防護」の考え方を基本としています」
資源エネルギー庁「安全のための五重の壁」
原子力安全技術センター「五重の壁と呼ばれる閉じ込め対策」
日本原子力文化振興財団「がっちりガードを固めています」

どれを見ても、呆れかえるばかりです。

コメント

_ 滝 ― 2011/04/14 18:51

普通に考えると、核燃料が圧力容器を突き破り、外に出てきてしまうのは時間の問題ですよね。
現在の科学技術は、この最悪の事態を食い止める術を持っているのでしょうか?

_ 私設原子力情報室 ― 2011/04/14 21:52

>滝さん
コメントありがとうございます。
溶融した核燃料の一部は、すでに圧力容器の一部に穴を空けていると思います。
この先、ある程度以上の規模で再臨界が起きると、圧力容器に大きな穴が空き、行く先はチェルノブイリなみの水蒸気爆発です。今は、そうならないことを祈るのみです。
最先端の科学技術を総動員したはずの原子力発電所に、祈るしかない… なんという馬鹿げた事態なのでしょうか。

_ tossini ― 2011/04/15 13:43

今回の事故をきっかけに、電力事業(発電・送電・配電)の水平分業が、ささやかれ始めましたね。例えば、自ら発電を行っている電力会社が、送電施設をも独占しているので、新たに風力発電設備を設置しても、その電気を送電網に載せてもらえず事業化が図れない、などの弊害がありました。(もちろん風力発電自体のパフォーマンスや運用・メンテ負荷などの問題は大きく残っていますが)
さらに、そもそも仕入れに競争がないので、実際には経済効率面でも劣る原発の発電量当たりのコストをごまかして原発投資に偏重注力したり、その一方で安全担保コストをケチったり…。
確かに、数億といわれる役員報酬の仕分けを含めて、電力会社の解体・水平分業化も、検討の余地はありそうです。

_ はは ― 2011/04/15 16:03

区内に住む子育て中の者です。いつも有益な情報をありがとうございます。ストロンチウムが心配で、都庁の環境保健課に問合せました。都がストロンチウムを計測しない理由は、遠くに飛ばないから・・だそうです。今日までの都の大気や水道水中には、ストロンチウムは一切検出されてないと断言できる!とまで言われました。加えて、ネット上の情報は本当に正確ですかね?と逆ギレ気味に。都の中枢にいる職員がこの態度では、公の情報は益々信用できなくなりました。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/04/15 16:34

>ははさん
コメントありがとうございます。都庁環境保健課、逆ギレですか(笑)。
ストロンチウム90は、運転中の原子炉内でセシウム137とほぼ同じ量が生成されます。ただ、チェルノブイリのデータを見ると、大気中ではストロンチウム90が遠くへ飛びにくいのは事実です。東京でゼロと断言できるかどうかは分かりませんが…(チェルノブイリの時は名古屋で微量検出)。
もっとも怖いのは、牧草と乳牛・牛乳を経由した内部被曝とされます。
あと、ストロンチウムは水に溶けやすいので、魚介類経由の内部被曝も心配です。海流に乗って、離れた所まで届きます。食物連鎖による濃縮、それに加えて生体濃縮が起きると、もともとは微量のストロンチウム90でも、それなりの濃度になる可能性があります。
詳しくは、
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/04/11/5800199
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/03/26/5759790
をご参照ください。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/04/15 16:42

>tossiniさん
いつもコメントありがとうございます。
確かに水平分業は、今よりはマシになりそうです。ただ、原子力には、再生可能エネルギーに比べて莫大な研究費が投入されていたり、六ヶ所村再処理工場の日本原燃が謎の国策会社だったりで、結局、ホントのコストは明らかになりそうもありませんね。

_ tossini ― 2011/04/16 00:02

おっしゃる通りで、別会社となった原発の「本当のコスト」が不明になれば、仕入れ先としての競争力がさらに落ちますので、送電会社は原発を選択しない、という流れが加速されそうです。本質的な原発排除戦略ではないかも知れませんが、経済面からも原発を選択しないことへの援護射撃にはなりますね。

_ 塩爺 ― 2011/04/16 17:50

http://news.nifty.com/cs/headline/detail/jcast-93099/1.htm
今さら陳謝? 
‘謝って済むなら警察は要らない!‘は子供でも判る世界の常識。
怒りがこみ上げます。
もっともっと御用学者、天下り成金連中を追いつめよう!
彼らの私有資産をすべて原発被害者に提供せよ!

_ 私設原子力情報室 ― 2011/04/16 22:15

>塩爺さん
燃えてますね~(笑)。
私の思いは、謝り始めた御用学者達に「やはり原発は人類の手に負えませんでした」と言わせることです。もちろん、全員は無理でしょうけど、一人でも二人でも、ホントのことを言い出してくれれば…
薄っぺらな性善説ですかね?これって?

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