テルル132と情報の隠蔽2011/06/05 11:25

またもや、隠蔽されていた重要なデータが公表されました。
事故直後にテルル132を検出

まず、聞き慣れないテルルという原子ですが、原子番号52(陽子の数が52個)、周期表で見ると右から3番目の酸素属に属します。安定して存在するのはテルル126(陽子52個+中性子74個)など。テルルはレアメタルの一つで、DVDの記録層やガラスの着色剤として欠かせないものです。

さて、問題のテルル132(陽子52個+中性子80個)は、中性子の数が多いため不安定な放射性物質です。半減期は約3日。半減期が3日ということは、自然界には100%存在することがなく、ウラン235の連鎖的核分裂反応によって生じる物質(核分裂生成物)です。
ベータ崩壊しますので、体内に入った場合、深刻な内部被ばくを引き起こす可能性があります(細胞に至近距離からベータ線を照射する)。ただ、プルトニウムのように肺に蓄積して肺ガンを引き起こすといった、細かいメカニズムまでは解明されていないようです。

このテルル132が、「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃の間に、浪江町や大熊町、南相馬市で採取した大気中のチリの中から検出されていた」というのが、今回の明らかにされた隠蔽データのあらましです。

テルル132は運転中の原子炉の燃料棒の中で生まれ、通常は、それが燃料棒から漏れ出すことはないとされます。
…ならば、まず、テルル132の検出はメルトダウンの証です。3月11日の21時には、1号炉はメルダウンを始めました。溶けた核燃料は、圧力容器の底や、一部は格納容器にまで達しています。
そして、テルル132が、原発の外で検出されたのが「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃」。まだ1号炉のベント前の段階です。浪江町は福島第1原発から6kmほど離れています。燃料ペレット・燃料棒被覆管・圧力容器・格納容器・原子炉建屋という「五重の壁」は、ベントや水蒸気爆発以前の段階で、すでに崩壊。絶対に漏れてはいけない物質が、外界に漏れていました。原子炉の安全神話が、まったくの空論に過ぎなかったことが明らかです。
そして、この事実はメルトダウンの恐ろしさをも伝えています。仮に、水素爆発や水蒸気爆発に至らなかったとしても、メルトダウンだけで「五重の壁」は、いとも簡単に破られてしまうのだと。そして福島第1では、メルトダウン+水素爆発という、決してあってはならない事態にまでなっています。

それにしても、東電と保安院の、この隠蔽体質はなんとかできないのでしょうか。
保安院スポークスマンの西山氏は「隠そうという意図はなかったが、国民に示すという発想がなかった」と語ったそうです。この一言は、心底腹立たしい。「すべての情報を公開する」という基本的な姿勢すらないのです。

当ブログで、何度か主張している通り、原発事故関連の情報は、原子力発電と利害関係のない第三者機関によって管理・監視されるべきで、基本はすべて公開です。
現状は、脇見運転で重大な交通事故を引き起こした加害者が、自分で現場検証している状態。自分に不利なブレーキ痕は明らかにしないのが当然と言えば当然なのです。

危機的状況だからこそ、すべての情報を公開して、普段は、原発に慎重であったり、反原発の立場をとっている科学者や技術者からも、広く意見を求めるべきなのです。

放射性物質と核分裂生成物2011/06/05 14:29

当ブログでは、「放射性物質」と「核分裂生成物」という単語を使い分けてきました。これは、自然界にも存在する「放射性物質」と、原子力発電や核爆発でしか生じない「核分裂生成物」を区別するためです。

「核分裂生成物」の多くは「放射性物質」に含まれます(一部、放射線を発しない安定元素も有り)。しかし、大事なことは、そこには自然界には決して存在しない物質があるということです。この点を曖昧にしたくなかったので、あえて「核分裂生成物」という言葉を中心に使ってきました。

核分裂生成物の多くは、なぜ自然界には存在しないのか?
半減期が短いからです。もはや有名になってしまったヨウ素131の半減期は8日、セシウム137とストロンチウム90は30年、テルル132は3日、コバルト60は5.3年、クリプトン85は10.8年。宇宙の歴史や地球の歴史から考えたら、多くの核分裂生成物の寿命は一瞬。仮に超新星爆発や地球誕生の時に存在していたとしても、はるか昔に他の安定的な物質(元素)に変わっています。

原発や原爆は、自然界に存在しない危険な物質=核分裂生成物を新たに作り出します。そして、核分裂生成物の危険性を取り除くには、物質みずからが崩壊するのを待つしかなく、人為的に解毒や分解といったことができません。基本的なことですが、この点をもう一度、確認しておきましょう。

さて、ウラン235に中性子が当たると、二つの物質に分裂し、同時に中性子を1~4個放出。この中性子が別のウラン235に衝突。この繰り返しが連鎖的核分裂反応です。分裂してできる物質は100種類以上(一説によると1000種類以上)に及びます。そのうちの代表的なものが、ヨウ素131やセシウム137です。

では、その片割れはどうなっているのでしょうか?セシウム137を例に考えてみましょう。
原子名の後ろについている数字は質量数といって、陽子の数と中性子の数を足したものです。ということは、ウラン235(陽子92個・中性子143個)の核分裂では、原子の質量数に中性子1個を加えた、質量数236が二つに分裂し、同時に中性子が1~4個生成されます。
核分裂の前後で、陽子数の合計は変わりません。ウランの陽子数が92、セシウムの陽子数が55ですから、引き算をすれば、片割れの陽子数は37になることが分かります。陽子数とは原子番号そのもの。片割れの原子は原子番号37のルビジウムです。
ただ、核分裂の際に飛び出す中性子の数によって、そのルビジウムの質量数は変わりますので、ルビジウム95からルビジウム98まで、4種類の核種=同位体(同じ元素で陽子数は同じだが、中性子数が違う)がありえます。
文章だけでは分かりにくいと思いますので、表にしてみました。
しかし、これらのルビジウムが核分裂生成物として話題に上ることはありません。半減期がきわめて短く、アッと言う間に別な物質に変わってしまうからです。
さらに、ルビジウム95の場合は、ストロンチウム95→イットリウム95→ジルコニウム95→ニオブ95という複雑な変化(崩壊)を遂げて、最後はモリブデン95という安定した原子になります。
この過程は、日本科学未来館のホームページで分かりやすく解説してあります。原発推進の広報ページなので注意は必要ですが、この件に関しては正しい情報です。
一方、このページで触れていないのは、原子が変化(崩壊)する過程で、必ずガンマ線やベータ線といった放射線を放出する点です。ルビジウム95は、何度も放射線を発しながら、やっと最後にモリブデン95として安定するのだということを忘れてはなりません。

超ウラン元素2011/06/05 17:11

核分裂生成物とは別に、使用中の燃料棒の中で作られるのが「超ウラン元素」です。

実は、原子番号92のウランは自然界でもっとも重い元素で、原子番号93以降の原子は「存在しうるが、自然界には存在しない」というもの。これらを超ウラン元素と呼んでいます。
超ウラン元素は、総じて寿命が短く、短時間の間に崩壊して、別な元素(物質)に変わってしまいます。超ウラン元素の代表格とも言えるプルトニウム239の半減期は2万4千年。2万年以上と聞くと長く感じるかも知れませんが、46億年という地球の歴史から見れば一瞬に過ぎません。仮に地球誕生時に、ある程度の量のプルトニウム239があったとしても、それはもうどこにも残っていません。
しかし、私たち人間、いや、生物の一生から考えれば2万4千年は、とてつもなく長い時間です。「放射線(アルファ線)を出し続けるプルトニウム239は、2万4千年経っても、半分にしか減らない」。そう考えれば、絶対に作り出してはいけない物質だということがお分かりいただけると思います。

さて、超ウラン元素は、加速器や原子炉でしか作ることができません。多くの場合は、既存の原子に中性子を吸収させて作るものだからです。
世界には、理論的には存在可能でも、実際に存在が確認されていない元素を作ろうと、しのぎを削る実験物理学者たちがいます。最近も原子番号114のウンウンクアジウムの生成が話題になりました。

話を原発に戻しましょう。
燃料棒の中にできる超ウラン元素は、
ネプツニウム237(半減期=214万年)
プルトニウム238(半減期=88万年)
プルトニウム239(半減期=2万4千年)
アメリシウム-241(半減期=433年)
などです(他にキュリウムなど)。

プルトニウム239の場合は、連鎖的核分裂反応で余った中性子をウラン238が吸収して生成されます。他の超ウラン元素では、ウランやプルトニウムが元になって、アルファ崩壊やベータ崩壊を繰り返す複雑な過程で生成されます。詳しくは原子力資料情報室のサイトへどうぞ。
いずれの超ウラン元素もアルファ線やベータ線を出して崩壊し、別な物質へと変わっていきます(超ウラン元素が崩壊して、別の超ウラン元素になる場合もあります)。
アルファ線とは、ヘリウムの原子核(陽子2個+中性子2個)のことで、透過力は弱いですが、エネルギーは大きく、DNAを傷つける電離作用の強さは、ガンマ線の20倍。万一、超ウラン元素を体内に取り込んでしまうと、アルファ線によって、深刻な体内被曝を受ける可能性があります。理由は、電離作用の強いことがひとつ。もう一点は、遠くまで影響が及ばない分、至近距離にあるたくさんの細胞を確実に壊してしまうからです。

福島第1の事故では、これまでにニュースになっただけで、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムの漏出が確認されています。
政府は「直ちに健康に影響が出るレベルではない」を繰り返していますが、核分裂生成物と併せて、超ウラン元素の危険性を認識し、その監視を強める必要があります。






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