「NNSA(アメリカ国家核安全保障局)による大気中のダスト分析データ」を読む(改訂版) ― 2011/12/05 00:27
先に公開した<「NNSA(National Nuclear Security Administration:アメリカ国家核安全保障局)による大気中のダスト分析のデータ」を読む(ストロンチウムを甘く見てはいけない)>に関して、一部の検出地点におけるストロンチウムの数値に間違いがありました。混乱を招いたことをお詫び申し上げます。
改訂版を書き上げましたので、ここに公開いたします。
福島第1から漏出した放射性物質の種類は、数百種類とも1000種類以上とも言われています。主な31核種に関しては、原子力・安全保安院から試算値が発表されています。
『放射性物質放出量データ』【原子力・安全保安院】
3.11から9か月が経とうとしています。
内部被ばくが大きな問題としてクローズアップされる中、事故直後に、原発至近に暮らす人々はもとより、私たち東北・関東に暮らす人間は、いったいどの程度の放射性物質を呼吸によって体内に取り込んだ可能性があるのか… あるいは、あの時期、どれだけの放射性物質が空気中に漂っていて、それが地面に落ち植物などに吸収され、内部被ばくに、どうつながっていくのか… 福島第1から出た放射性物質の核種別の量は、上記の通り、一応、明らかにされているのですが、その行き先は、放射性セシウム以外は、まともに追跡されていないのが現状です。
それを知るためには、事故直後に大気中にあった放射性物質の濃度が鍵になります。対応が後手後手に回ったため、日本政府は、それを調べていないのか、あるいは隠しているのかは分かりませんが、いまだに詳細なデータは発表されていません。
一方、アメリカの政府機関が、福島県内や茨城県、東京都内などで、詳細なサンプリング調査を実施し、データを公開していたことが判明しました。
NNSA(National Nuclear Security Administration:アメリカ国家核安全保障局)による大気中のダストを分析したデータです。
7000件ものサンプリングデータがあり、アメリカ政府および米軍が、福島第1から飛来する放射性物質に対して、きわめて神経質になっていたことが伺えます。
【NNSAによる大気中ダスト分析:元データ】
上記のページから7000件分のCSVファイルが、一気にダウンロードできます。
ヨウ素・セシウム・ストロンチウム・テルル・ネプツニウムなどが検出されています。
GPSのデータが付いているので、計測場所も正確に分かります。東京港区のアメリカ大使館や各地の米軍基地をはじめ、担当者の自宅と思われる場所や、高速道路のサービスエリアやドライブインレストランの駐車場と思える場所もあります。
米軍が、これだけ自由に日本国内を動き回っていたのか、と気味悪く感じる部分もありますが、データが全面公開されているので、今回はそのことに噛みつくのはやめましょう。
以下は、特に目立つデータを抽出した一覧です。
「NNSA(アメリカ国家核安全保障局)による大気中のダスト分析データ」より
では、項目や核種に分けて、解説を試みます。
●検出結果の単位について
NNSAのデータは、基本的に、マイクロキュリー/ミリリットルという単位で記されているので、これを<1マイクロキュリー/ミリリットル=3.7×(10の10乗)ベクレル/立方メートル>という換算式で、ベクレル/立方メートルに換算しました。
元データのごく一部(7000件の内の12件)だけが、単位が違っていて、単なるマイクロキュリーになっていました(これが誤報の元でした)。これもサンプルの体積で割った上で換算し、ベクレル/立方メートルにしてあります。
●当面の基準値
検出された数値が高いのか、低いのかを見極めるためには、どうしても基準値が必要になります。
法令により定められているのは、「排気中濃度限度」です。
『排気中濃度限度』【原子力防災基礎用語集】
ゴチャゴチャと書いてありますが、要は、その環境下で3か月暮らした場合の被ばく量を一年に換算した時に、外部被ばく・内部被ばくを合わせた実効被ばく線量が年間1ミリシーベルトに達するかどうかで決められている限界値です。
過去の放射能漏れ事故などにおいても、基準値として採用されてきています。
【柏崎刈羽原子力発電所の資料】
注:上記資料では、「排気中濃度限界」を「告知濃度」と記しています。
では、NNSAのデータを読み進めましょう。
●ヨウ素131
まず、甲状腺がんを引き起こすヨウ素131。濃度限界は、5ベクレル/立方メートルです。
データを見ると、福島県内では、2250ベクレル/立方メートルという極めて高い数値が記録されています。なんと濃度限界の450倍。
茨城県にまで、かなり高い値が及んでいます。
元データを丹念に見ていくと、千葉市稲毛海岸で32ベクレル/立方メートル、米軍立川基地で16ベクレル/立方メートル、東京港区のアメリカ大使館でも7.3ベクレル/立方メートルという値が出ています。相当広い範囲で、5ベクレル/立方メートルという濃度限界を超えたのです。
福島では、子供たちの甲状腺検査が始まっています。異常が出ないことを祈るばかりです。
一方で、配布できたヨウ素剤を、なぜ生かすことができなかったのか… その責任は追及されなければなりません。
●セシウム137
いずれの検出値も、濃度限界の30ベクレル/立方メートルには及びません。比較的速やかに地面に落ちたと考えるべきなのかも知れません。
ただ、半減期が30年と長いので、今後の除染作業等で、セシウム137が、ふたたび大気中に舞い上がることのないよう、十分に配慮する必要があります。
また、セシウム137による土壌汚染は深刻で、その対策が急がれていることは言うまでもありません。
●ストロンチウム90
ストロンチウムに関しては、計算し直したところ、いずれも濃度限界以下の値ではありました。
本当に遠くまでは飛んできていないのか、それとも、速やかに地面に落ちてしまったのか… 現在、何カ所かで、土壌中のストロンチウム90の値について、議論になっています。まずは、その結果を待つしかないのかと思っています。
しかし、いずれにしても、ストロンチウムは一旦体内に入ってしまうと大変に危険です。
大気中から地面に落ち、水に溶けて、植物に吸収される。それを人間が食べるという食物連鎖がひとつ。牧草に吸収されて、それを乳牛が食べ、牛乳に濃縮され、それを人間が飲むという連鎖もあります。
体内にあるストロンチウムを検出するのは至難の業です。ベータ線しか出さないので、ホールボディーカウンターには反応が出ません。体内実効半減期は18年と長いため、尿にもごくわずかしか出てこないので、尿検査でも、なかなか見つからないでしょう。
改訂版を書き上げましたので、ここに公開いたします。
福島第1から漏出した放射性物質の種類は、数百種類とも1000種類以上とも言われています。主な31核種に関しては、原子力・安全保安院から試算値が発表されています。
『放射性物質放出量データ』【原子力・安全保安院】
3.11から9か月が経とうとしています。
内部被ばくが大きな問題としてクローズアップされる中、事故直後に、原発至近に暮らす人々はもとより、私たち東北・関東に暮らす人間は、いったいどの程度の放射性物質を呼吸によって体内に取り込んだ可能性があるのか… あるいは、あの時期、どれだけの放射性物質が空気中に漂っていて、それが地面に落ち植物などに吸収され、内部被ばくに、どうつながっていくのか… 福島第1から出た放射性物質の核種別の量は、上記の通り、一応、明らかにされているのですが、その行き先は、放射性セシウム以外は、まともに追跡されていないのが現状です。
それを知るためには、事故直後に大気中にあった放射性物質の濃度が鍵になります。対応が後手後手に回ったため、日本政府は、それを調べていないのか、あるいは隠しているのかは分かりませんが、いまだに詳細なデータは発表されていません。
一方、アメリカの政府機関が、福島県内や茨城県、東京都内などで、詳細なサンプリング調査を実施し、データを公開していたことが判明しました。
NNSA(National Nuclear Security Administration:アメリカ国家核安全保障局)による大気中のダストを分析したデータです。
7000件ものサンプリングデータがあり、アメリカ政府および米軍が、福島第1から飛来する放射性物質に対して、きわめて神経質になっていたことが伺えます。
【NNSAによる大気中ダスト分析:元データ】
上記のページから7000件分のCSVファイルが、一気にダウンロードできます。
ヨウ素・セシウム・ストロンチウム・テルル・ネプツニウムなどが検出されています。
GPSのデータが付いているので、計測場所も正確に分かります。東京港区のアメリカ大使館や各地の米軍基地をはじめ、担当者の自宅と思われる場所や、高速道路のサービスエリアやドライブインレストランの駐車場と思える場所もあります。
米軍が、これだけ自由に日本国内を動き回っていたのか、と気味悪く感じる部分もありますが、データが全面公開されているので、今回はそのことに噛みつくのはやめましょう。
以下は、特に目立つデータを抽出した一覧です。
「NNSA(アメリカ国家核安全保障局)による大気中のダスト分析データ」より
では、項目や核種に分けて、解説を試みます。
●検出結果の単位について
NNSAのデータは、基本的に、マイクロキュリー/ミリリットルという単位で記されているので、これを<1マイクロキュリー/ミリリットル=3.7×(10の10乗)ベクレル/立方メートル>という換算式で、ベクレル/立方メートルに換算しました。
元データのごく一部(7000件の内の12件)だけが、単位が違っていて、単なるマイクロキュリーになっていました(これが誤報の元でした)。これもサンプルの体積で割った上で換算し、ベクレル/立方メートルにしてあります。
●当面の基準値
検出された数値が高いのか、低いのかを見極めるためには、どうしても基準値が必要になります。
法令により定められているのは、「排気中濃度限度」です。
『排気中濃度限度』【原子力防災基礎用語集】
ゴチャゴチャと書いてありますが、要は、その環境下で3か月暮らした場合の被ばく量を一年に換算した時に、外部被ばく・内部被ばくを合わせた実効被ばく線量が年間1ミリシーベルトに達するかどうかで決められている限界値です。
過去の放射能漏れ事故などにおいても、基準値として採用されてきています。
【柏崎刈羽原子力発電所の資料】
注:上記資料では、「排気中濃度限界」を「告知濃度」と記しています。
では、NNSAのデータを読み進めましょう。
●ヨウ素131
まず、甲状腺がんを引き起こすヨウ素131。濃度限界は、5ベクレル/立方メートルです。
データを見ると、福島県内では、2250ベクレル/立方メートルという極めて高い数値が記録されています。なんと濃度限界の450倍。
茨城県にまで、かなり高い値が及んでいます。
元データを丹念に見ていくと、千葉市稲毛海岸で32ベクレル/立方メートル、米軍立川基地で16ベクレル/立方メートル、東京港区のアメリカ大使館でも7.3ベクレル/立方メートルという値が出ています。相当広い範囲で、5ベクレル/立方メートルという濃度限界を超えたのです。
福島では、子供たちの甲状腺検査が始まっています。異常が出ないことを祈るばかりです。
一方で、配布できたヨウ素剤を、なぜ生かすことができなかったのか… その責任は追及されなければなりません。
●セシウム137
いずれの検出値も、濃度限界の30ベクレル/立方メートルには及びません。比較的速やかに地面に落ちたと考えるべきなのかも知れません。
ただ、半減期が30年と長いので、今後の除染作業等で、セシウム137が、ふたたび大気中に舞い上がることのないよう、十分に配慮する必要があります。
また、セシウム137による土壌汚染は深刻で、その対策が急がれていることは言うまでもありません。
●ストロンチウム90
ストロンチウムに関しては、計算し直したところ、いずれも濃度限界以下の値ではありました。
本当に遠くまでは飛んできていないのか、それとも、速やかに地面に落ちてしまったのか… 現在、何カ所かで、土壌中のストロンチウム90の値について、議論になっています。まずは、その結果を待つしかないのかと思っています。
しかし、いずれにしても、ストロンチウムは一旦体内に入ってしまうと大変に危険です。
大気中から地面に落ち、水に溶けて、植物に吸収される。それを人間が食べるという食物連鎖がひとつ。牧草に吸収されて、それを乳牛が食べ、牛乳に濃縮され、それを人間が飲むという連鎖もあります。
体内にあるストロンチウムを検出するのは至難の業です。ベータ線しか出さないので、ホールボディーカウンターには反応が出ません。体内実効半減期は18年と長いため、尿にもごくわずかしか出てこないので、尿検査でも、なかなか見つからないでしょう。
結局、白血病で死んだ後に、骨を調べてみて、やっとストロンチウム90が原因だったと分かる。そういう恐ろしい物質なのです。
●テルル
テルル129m(半減期:33.6日)は、ベータ崩壊して半減期1600万年の放射性ヨウ素129に変わる放射性物質です。
体内に取り込んだ場合、テルル129mそのものによるベータ線内部被ばくと、娘核種のヨウ素129によるベータ線内部被ばくの両方を心配する必要があります。
テルル132(半減期:3日)も同様で、娘核種はヨウ素132(半減期:2.3時間)。いずれも警戒の要有りです。
データを見ると、テルル239mで最大237.54Bq/立方メートル、テルル132で831.76Bq/立方メートルという値が出ています。いずれも、濃度限界は20Bq/立方メートルですから、10倍から40倍という、大変に高い危険な数値と言えるでしょう。
2種類のテルルとも、自然界には存在しない放射性元素です。環境中に、その存在が認められれば、核燃料が損傷したという証です。1号炉の核燃料の85%以上が溶け落ちたことが明らかになった今となっては、呆れるしかないのですが、日本政府は、事故直後にテルル132を検出しながら、6月3日までその事実を隠してきたという事実が有ります。
本ブログ「テルル132と情報の隠蔽」参照
NNSAのデータでは、3月21日には、テルルの漏出が確認されています。そのデータは、日本政府にも伝えられたはずです。本当に隠すことを第一義にしているとしか思えません。
●プルトニウム239などの超ウラン元素
NNSAの7000件のデータの中で、超ウラン元素が特定されているのは、ネプツニウム239(半減期:2.4日)だけです。
5月8日に福島県岩瀬郡鏡石町岡ノ内で、553.10Bq/立方メートルが検出されています。
ネプツニウム239は、下のような崩壊過程の中で、生まれ、そして消える放射性物質です。
ネプツニウム239の半減期は2.4日、プルトニウム239の半減期は2万4千年。ということは、ネプツニウム239からプルトニウム239に変わることによって、単位時間あたりの崩壊数(ベクレル数)は1/365万に減ります。
そのまま拡散することなく崩壊したとすると、変わった先のプルトニウム239の濃度は、0.00015Bq/立方メートルになります。プルトニウム239の濃度限界=0.008Bq/立方メートルは下回ります(この計算では、すでに存在していたプルトニウム239は算入されませんが)。
ただ、心配なのは、アルファ線総計値を見ると、福島県内では4Bq/立方メートル以上、都内でも1Bq/立方メートル以上が検出されています。アルファ線を出すのは、おもに、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムなど、ウランよりも重い元素=超ウラン元素です。
データは、間違いなく福島第1由来の様々な超ウラン元素が、遠くまで飛散したことを意味しています。今となっては、空中を飛んでいることはないと思われますので、土壌のサンプリングなどで、その行方を徹底的に追いかけ、核種を特定し、対策を取る必要があります。
●おわりに
残念ながら、NNSAのデータは、5月9日の分までしか公表されていません。
測定をやめたとは考えにくいので、何らかの理由があって、公表を止めているのでしょう。まずは、全データの公開をアメリカ政府に求めるべきだと考えます。
そして、日本政府や自治体も、もっともっと丹念にモニタリングを行うべきです。
ストロンチウムも、まだまだ調べられていません。プルトニウムをはじめとする超ウラン元素に関しても、まったくお座なりな調査しか行われていないと感じるのは、私だけではないでしょう。
福島第1から出たものは、必ずどこかにたどり着いています。その行き先を確かめ、ひとつひとつ対策を取っていかないと、多くの人の健康が、いや、命までもが危うくなります。
追記:
今回、NNSAのデータを扱ってみて、CSVファイルの中に、GPSデータまで組み込まれているのには、正直感心しました。日本はPDFが基本なので、
データを二次使用しようとしても、大変に手間がかかります。政府も東電も、二次使用を前提としたデータの公開の仕方に切り変えるべきです。
データは納税者のものであり、電力消費者のものであり、今回の事故で被害を受けたすべての人のものであり、この列島で、いやこの星で暮らすすべての人のものです。
データは納税者のものであり、電力消費者のものであり、今回の事故で被害を受けたすべての人のものであり、この列島で、いやこの星で暮らすすべての人のものです。
「最悪シナリオ」をどう読むか ― 2011/12/24 20:46
毎日新聞のスクープです。
『福島第1原発:「最悪シナリオ」原子力委員長が3月に作成』
3.11から2週間後の3月25日、近藤駿介内閣府原子力委員長が「最悪シナリオ」を作成し、菅直人前首相に提出していました。この「最悪シナリオ」は、3月25日時点では過去形ではなく、十分に可能性のある想定でした。
その内容を簡単にまとめると…
●1~3号炉のいずれかでさらに水素爆発が起き原発内の放射線量が上昇。
●余震が続いて冷却作業が長期間停止。
●4号炉核燃料プールの核燃料が全て溶融。
という条件が重なれば、
■原発から半径170km圏内で、土壌中の放射性セシウムが1平方メートルあたり148万ベクレル以上というチェルノブイリ事故の強制移住基準に達する。
■東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた同250kmの範囲が、避難が必要な程度に汚染される。
…というものです。
170km圏内には、福島・宮城の全域と山形・栃木・茨城のほとんどが含まれます。250km圏には、東京・埼玉・群馬・新潟のほとんどが入り、北は岩手・秋田の半分にまで及びます。東北と関東のほとんどが強制移住または避難が必要な地域に… これは、まさに戦慄の内容です。
しかし、考えてみれば当たり前で、チェルノブイリで事故を起こしたのは4号炉1基。その出力は100万キロワットでした。
福島第1は、炉心溶融した1~3号炉だけで計203万キロワット。さらに、定期点検で止まっていた4号炉の燃料プールには、原子炉2基分にあたる1535本の燃料棒があります。概算すると、福島ではチェルノブイリの4倍量の核燃料が制御不能に陥ったことになります。
チェルノブイリ以上の事故になる可能性は十分にあったし、「最悪シナリオ」の存在は、それを原子力委員会と政府が認識していた証でしょう。
福島第1事故の現状はひどいものです。
政府も東電も人の命を何とも思っていません。移住はさせない、除染は効果が???内部被ばくはまとも評価せず… しかしながら、事故そのものの規模は、「最悪シナリオ」にまでは及んでいないのも事実です。
日本人の英知が、原発事故を「最悪シナリオ」にならないように抑え込んだ?
いいえ、そんな甘い話ではありません。いくつかの偶然が重なって、「最悪シナリオ」通りには進まなかっただけなのです。
その偶然とは、「余震があまりひどくなかった」「溶融した燃料が固まったのが最悪の場所ではなかった」といったもの。語弊を恐れずに言うなら、「幸いにも」なのです。
もちろん、ベントや、注水による冷却、4号炉の燃料プールの耐震補強工事が間に合ったことなども影響していますが、全体としては、「運良く最悪シナリオが回避されている」だけなのです。
炉心溶融の進行具合が、少しでも変わっていたら、さらなる水素爆発は容易に起きました。その水素爆発が、4号炉の燃料プールを破壊し、1535本の燃料棒が溶融することは、十分に考えられたのです。
原発事故の前では、人間の科学技術や英知は、ほとんど役に立ちません。偶然の結果、少しでも悪くならないように願うしかないのです。
「幸いにも」なんて言うと、福島の皆さんには怒られてしまいそうですが、いくつかの良い方の偶然が重なって、現状なのです。それでさえ、何万人もの人たちが、故郷を捨てざる得なくなっています。内部被ばくにおびえながら暮らし続ける人は、いったい何十万人、いや何百万人・何千万人になるのでしょうか。
今現在、日本国内では7基の原子炉が稼働しています。
原発推進の中枢の一つである原子力委員会が提出した「最悪シナリオ」を読んでも、まだ、原発を動かし続けるのでしょうか… 普通の神経をしていたら、誰だって「そんな度胸はない」と言うはずです。
そして、この記事を書いている2011年12月24日現在、「最悪シナリオ」は過去形になっているのでしょうか…
答えは「いいえ」です。1~3号炉で溶けた核燃料は、どこでどういう形で冷えているのか、いや、本当に冷えているのかさえ不明です。
百歩譲って、冷えているとしても、何かの拍子で核燃料の塊が集まった時には再臨界が起き、あらたに大量の放射性物質が生成・放出されます。再臨界から再溶融もある得るし、それは水素爆発や水蒸気爆発につながります。一方、4号炉の燃料プールの補強は成功したと言われていますが、どの程度の衝撃や地震に耐えるのか、明確にはなっていません。
スクープされた「最悪シナリオ」。それは、いまだに現在形で語られるべきものです。
『福島第1原発:「最悪シナリオ」原子力委員長が3月に作成』
3.11から2週間後の3月25日、近藤駿介内閣府原子力委員長が「最悪シナリオ」を作成し、菅直人前首相に提出していました。この「最悪シナリオ」は、3月25日時点では過去形ではなく、十分に可能性のある想定でした。
その内容を簡単にまとめると…
●1~3号炉のいずれかでさらに水素爆発が起き原発内の放射線量が上昇。
●余震が続いて冷却作業が長期間停止。
●4号炉核燃料プールの核燃料が全て溶融。
という条件が重なれば、
■原発から半径170km圏内で、土壌中の放射性セシウムが1平方メートルあたり148万ベクレル以上というチェルノブイリ事故の強制移住基準に達する。
■東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた同250kmの範囲が、避難が必要な程度に汚染される。
…というものです。
170km圏内には、福島・宮城の全域と山形・栃木・茨城のほとんどが含まれます。250km圏には、東京・埼玉・群馬・新潟のほとんどが入り、北は岩手・秋田の半分にまで及びます。東北と関東のほとんどが強制移住または避難が必要な地域に… これは、まさに戦慄の内容です。
しかし、考えてみれば当たり前で、チェルノブイリで事故を起こしたのは4号炉1基。その出力は100万キロワットでした。
福島第1は、炉心溶融した1~3号炉だけで計203万キロワット。さらに、定期点検で止まっていた4号炉の燃料プールには、原子炉2基分にあたる1535本の燃料棒があります。概算すると、福島ではチェルノブイリの4倍量の核燃料が制御不能に陥ったことになります。
チェルノブイリ以上の事故になる可能性は十分にあったし、「最悪シナリオ」の存在は、それを原子力委員会と政府が認識していた証でしょう。
福島第1事故の現状はひどいものです。
政府も東電も人の命を何とも思っていません。移住はさせない、除染は効果が???内部被ばくはまとも評価せず… しかしながら、事故そのものの規模は、「最悪シナリオ」にまでは及んでいないのも事実です。
日本人の英知が、原発事故を「最悪シナリオ」にならないように抑え込んだ?
いいえ、そんな甘い話ではありません。いくつかの偶然が重なって、「最悪シナリオ」通りには進まなかっただけなのです。
その偶然とは、「余震があまりひどくなかった」「溶融した燃料が固まったのが最悪の場所ではなかった」といったもの。語弊を恐れずに言うなら、「幸いにも」なのです。
もちろん、ベントや、注水による冷却、4号炉の燃料プールの耐震補強工事が間に合ったことなども影響していますが、全体としては、「運良く最悪シナリオが回避されている」だけなのです。
炉心溶融の進行具合が、少しでも変わっていたら、さらなる水素爆発は容易に起きました。その水素爆発が、4号炉の燃料プールを破壊し、1535本の燃料棒が溶融することは、十分に考えられたのです。
原発事故の前では、人間の科学技術や英知は、ほとんど役に立ちません。偶然の結果、少しでも悪くならないように願うしかないのです。
「幸いにも」なんて言うと、福島の皆さんには怒られてしまいそうですが、いくつかの良い方の偶然が重なって、現状なのです。それでさえ、何万人もの人たちが、故郷を捨てざる得なくなっています。内部被ばくにおびえながら暮らし続ける人は、いったい何十万人、いや何百万人・何千万人になるのでしょうか。
今現在、日本国内では7基の原子炉が稼働しています。
原発推進の中枢の一つである原子力委員会が提出した「最悪シナリオ」を読んでも、まだ、原発を動かし続けるのでしょうか… 普通の神経をしていたら、誰だって「そんな度胸はない」と言うはずです。
そして、この記事を書いている2011年12月24日現在、「最悪シナリオ」は過去形になっているのでしょうか…
答えは「いいえ」です。1~3号炉で溶けた核燃料は、どこでどういう形で冷えているのか、いや、本当に冷えているのかさえ不明です。
百歩譲って、冷えているとしても、何かの拍子で核燃料の塊が集まった時には再臨界が起き、あらたに大量の放射性物質が生成・放出されます。再臨界から再溶融もある得るし、それは水素爆発や水蒸気爆発につながります。一方、4号炉の燃料プールの補強は成功したと言われていますが、どの程度の衝撃や地震に耐えるのか、明確にはなっていません。
スクープされた「最悪シナリオ」。それは、いまだに現在形で語られるべきものです。
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