除染考(1):「除染」とは…2013/01/31 11:30

政府は「除染、除染」と騒ぎ立てますが、一向にその成果は上がっていません。
それどころか、「フクシマの手抜き除染」が世界的なニュースとなり、この国は多額の税金をいったい何のために、どこに投入しているのか、日本中が疑問を持っています。
そこで、一度原点に立ち帰って、除染の問題を何回かに分けて考えていくことにします。

まず除染の目的。地域を汚染している放射性物質を取り除いて、住民が安心して暮らせる状態にすることです。20ミリシーベルト/年以上で居住制限のかかっている地域では、安心して帰還できるようにすることです。
しかし、考えてみると、「安心して」というのは曖昧な言葉です。これは具体的には、「何の制限もなく生活できる状態に戻すこと」を指すと考えないといけません。「山林に入ってはいけない」「山のキノコは採ってはいけない」「川のヤマメは食べてはいけない」という状態では、「故郷に帰った」とか「故郷を取り戻した」ことにはなりません。
本来は、3.11以前の状態に完全に戻してこそ、除染の完了です。

さて、20ミリシーベルト/年以上のエリアでは、国が除染を行うことになっています。1ミリシーベルト/年から20ミリシーベルト/年のエリアでは、地方自治体が除染を行い、財政的には国が支援することになっています。
ここで予備知識として再整理しておきたいのは、1ミリシーベルト/年と20ミリシーベルト/年という数字です。
実は、どちらも安全だという根拠のある数字ではありません。ICRP(国際放射線防護委員会)によれば、「一般の人が浴びても差し支えないとされる1年間の被ばくの基準は1ミリシーベルト」「原子力事故からの復旧期においては年間の被ばく量を多くても1ミリシーベルトから20ミリシーベルトまでにとどめるべき」ということです。
日本政府が採用しているのは復旧期の上限値。事故直後から1ミリシーベルトなのか20ミリシーベルトなのかという議論がありましたが、なし崩し的に20ミリシーベルトという高い放射線量を押し付けられているのが現状なのです。おまけに、復旧期がいつまで続くのか、明確どころか、おおむねの目安さえ示されていません。

ここでは詳しく述べませんが、1ミリシーベルト/年以下でも、ガンなどの発生率が上昇しているデータは、チェルノブイリだけではなく、世界中で報告されています。
●参考サイト:NHK「低線量被ばく 揺れる国際基準」に関連するブログ

では、チェルノブイリの基準はどうなっているのでしょうか?何度か掲載した図ですが、もう一度確認しておきましょう。

ウクライナもベラルーシもロシアも同じ基準で、5ミリシーベルト/年以上のエリアは危険なので居住が禁止されています。
さらに、1ミリシーベルト/年から5ミリシーベルト/年で住民には移住の権利があります。国の支援を受けながらそこに住み続けるか、他の地域に移住するか、自由に選択することができるのです。フクシマとはレベルの違う対応が行われています。

そして、フクシマよりも厳しい基準を適用しているチェルノブイリですら、今、白血病や心臓疾患など、慢性被ばくが原因とされる病気が多発しているのです。
事故発生から27年を経ようとしているチェルノブイリですが、立ち入り禁止区域の外が「何の制限もなく生活できる状態」になっているわけではないのです。

フクシマに話を戻しましょう。
残念ながら、すべてを3.11以前に戻すのは不可能です。納得のいかない数字ではありますが、当面は、1ミリシーベルト/年を目安にしましょう。「1ミリシーベルト/年から5ミリシーベルト/年で移住の権利」「5ミリシーベルト/年以上で立ち入り禁止」というチェルノブイリなみの基準は最低限必要です。

国が本当に除染できるというなら、5ミリシーベルト/年以上のエリアをすべて買い上げて、きれいに除染してから売り出せば良いだけの話なのです。

安易に、「除染」とか「帰還」という言葉に踊らされるのは、とても危険なこと。ここで言う、「危険」とは、具体的に、「命や健康に関わる危険」を指していることは、言うまでもありません。

除染考(2):除染にゼネコンは必要なのか?2013/01/31 15:32

まずは下の表をご覧ください。
国や地方自治体から、除染事業のために巨額の資金が大手ゼネコンに流れ込んでいるのが分かります。

ゼネコン。正しくは General Contractor ですから、直訳すれば総合建設業といったところでしょう。

もちろん、元請けはゼネコンでも、実際に現場で働いている人たちは、地元や日本各地で集められた労働者。その多くは日雇い契約か短期間の契約です。そして、ゼネコンとの間には、何社もの下請け業者が入っていて、労働者に本来渡らなくてはいけない賃金が、途中で抜かれるという事態も起きています。
電話1本で仕事を右から左へ流しているだけの仲介業者も多く、暴力団のフロント企業が入り込んでいるとも言われています。なにしろ、元請けのゼネコンですら、複雑な下請け構造の全体を掌握できていない状態なのです。
J-CASTニュース:手抜き除染の「実態」 元請けゼネコンも把握できない?

素直に考えれば、福島地元の建設会社や土建会社に、国や自治体が直接発注すれば、下請け構造による問題はかなり解決されるような気がします。

では、なぜこの総合建設業、ゼネコンが除染に必要なのか?
国や自治体の説明は、
1. ゼネコンは最新の除染技術を持っている。
2. 巨大な除染事業を多くの事業者に振り分ける能力が自治体にはない。
といったところです。

まず、1.です。最新技術で飛躍的に除染が進んだ、なんていう話はどこからも聞いたことがありません。それどころか、放射性物質を含む水をそのまま河川に垂れ流したり、汚染された枯れ枝を放置したりと、とても信じられないような事態が起きているのです。
「手抜き除染」と言いますが、これは立派な違法行為。放射性物質を環境中に廃棄したり、許可なく移動させることは法で禁じられているのです。
もし、最新技術を売りにして、ゼネコンが入札に勝ったのなら、その証を見せてもらいたいものです。それ以前に、入札の内容を全面的に公開すべきでしょう。企画内容から見積に至るまで、万人の監視が必要です。

国とゼネコン、地方自治体とゼネコンという利権構造にくさびを打ち込まなければ、除染は、原発で儲けた連中が、また儲けるだけのものになってしまいます。おまけに、実際の効果はほとんどないと。こんなことは許されません!

環境省のホームページに、田村市の除染作業をリポートした写真がありました。

この作業のどこにゼネコンが必要で、最新技術はどこに生かされているのか?誰でも疑問に思うでしょう。

除染考(3):そもそも除染は必要なのか?2013/01/31 20:57

当ブログをはじめ、多くの人たちが多くの場所で指摘している通り、高濃度汚染地域では、除染は核物質を拡散するだけで、効果は乏しいものです。

チェルノブイリでは、立ち入り禁止区域になっている半径30キロの「ゾーン」の中では、除染は行わず、放射性物質の野生生物や環境への影響を研究することに専念しています。除染したところで、とうてい人が住める環境にはならないからです。
「ゾーン」の外では、今も一部で除染作業が続いているようですが、決定的な効果を上げるような新技術はありません。農地では、当初、土の入れ替えによる除染を試みました。しかし、あまりに広大な面積が対象となることから、除染をあきらめ、カリウムを撒くことで、植物が吸収する放射性セシウムの量を減らすという対策に変更しました。

福島、いや日本ではどうすべきなのでしょうか…
環境省のホームページを見ると、「計画的避難区域」と「警戒区域」を合わせて『除染特別地域』として、当面の除染を進めようとしています。このエリア=20ミリシーベルト/年を超える地域です。
さらに、福島県だけでなく、宮城県、岩手県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県でも広い範囲が『汚染状況重点調査地域』に指定されています。数字的に言えば、1ミリシーベルト/年から20ミリシーベルト/年のエリアです。自治体が除染を計画すれば国から経済的支援を受けられる。これが『汚染状況重点調査地域』です。実に104市町村に及びます。

除染特別地域・汚染状況重点調査地域一覧(環境省)

今、巨額の税金を投入して、『除染特別地域』の除染を進めようとしていますが、これが、「効果は上がらない」「手抜き横行」「労働者の賃金ピンハネ」というひどい事になっています。
『除染特別地域』は、今現在、人が住めない地域です。ここでの除染が、「帰還」と深く結びついていることは言うまでもありません。しかし、線量を下げられなければ、帰還どころではありません。また、仮に住宅の周りだけある程度、除染できたとしても、野山や山林はどうするのか… そこから流れ出る放射性物質を含む水にどう対応するのか… だいたい「放射線量が高いから山に入ってはいけない」と子どもたちに何十年も言い続けのでしょうか。そこは決して安全な場所ではありません。

フクシマの地元で、この「除染+帰還」という危険な流れを汚染地域で推し進めているのが地方議員たちです。
敢えて言います。地方議員を信用してはいけません!ごく一部の議員を除けば、票田が失われるのを恐れているだけなのです。住民の命や健康よりも、自分の地位の確保だけを考えていると言って間違いありません。

今、除染を重点的に進めるべきなのは、1ミリシーベルト/年から5ミリシーベルト/年の地域。ここでは、避難や疎開の権利も認められるべきです。
5ミリシーベルト/年以上は無条件に避難すべき。
20ミリシーベルト/年以上は、当面放置して、数十年単位で様子を見るしかありません。冷酷なようですが、これが原子力事故なのです。

埼玉県加須市の旧騎西高校に集団で避難していた双葉町。井戸川町長が、結局、辞任に追い込まれました。
その背景には「除染+帰還」の問題が横たわっています。

井戸川町長の主張は、「放射能不安が全くない地域に“仮の町”を」「7千人の全住民が住め、仕事も担保された町を」という、きわめて真っ当なものでした。しかし、町議会の主流派は、「まず、町役場を旧騎西高校から福島県内に戻すべきだ」と。

結局、この3月には、町役場をいわき市に移すことが決まり、新町役場を中心に学校などを再建し、“仮の町”を建設しようという流れになっています。
しかし、いわき市の空間線量を見ると、1ミリシーベルト/年に相当する0.23マイクロシーベルト/時を越える場所が、まだまだたくさんあります。
まともに線量を測っていない山林も心配です。福島第1から250㎞離れた加須市から、60㎞のいわき市に戻るわけですから、食べ物や水なども、心配するなという方が無理なのです。

「放射能不安が全くない地域に“仮の町”を」という井戸川町長の当然とも思える主張は、潰されてしまいました。

井戸川町長の辞任のメッセージ「双葉町は永遠に」が双葉町のサイトにあがっています。涙なくしては読めません。

年間20ミリの避難基準を非難~国連特別報告者2013/01/31 22:49

少し遅れてしまいましたが、これは必見です。国連関係からも、こういった発言が出ていることを日本政府は真摯に受け止めるべきです。
●動画再生は、下の緑色の部分をクリックしてください。
国連人権員会「健康に対する権利に関する特別報告者」アナンド・グローバー氏記者会見(2012年11月26日)






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