肉牛の内部被ばく2011/07/12 12:33

どうして暫定基準値の6.8倍もの放射性セシウムに汚染された牛肉が、スクリーニング検査をすり抜けてしまったのだろう?とてもシンプルな疑問ですが、答えにたどり着くために、大分時間を要しました。

結論は、今言われている「放射線スクリーニング検査」とは、体表に付いた放射性物質が出すベータ線量だけを計るものだったということです。要するにベータ線を発する放射性物質が体表に付いていないかどうかだけを調べるのです。
一般名詞としてのスクリーニングは「ふるい分け」とか「遮蔽」とか広い意味に使われますが、「放射線スクリーニング検査」は、ほとんどの場合、ベータ線だけを相手にする極めて狭い意味しか持っていなかったのです。調べた範囲では、このことが明らかにされていた報道は、一つしかありませんでした。一般の人に「放射線スクリーニング検査」の内容が理解されないのも当然です(ごく一部に、ガンマ線も調べる放射線スクリーニング検査もあるようですが)。

さて、肉牛の話に戻りましょう。
なぜ、体表で計ったベータ線だけでは駄目なのか?
問題となっている放射性セシウムの内、セシウム137は、崩壊する過程でベータ線とガンマ線を発します(より正確には、ベータ崩壊して放射性バリウム137になり、そのバリウム137がガンマ線を発して安定したバリウム137になるものが大半)。セシウム134も崩壊過程でベータ線とガンマ線を出します。
しかし、ベータ線(電子線)は生体内では、精々数cmしか進むことができないので、牛の体内に取り込まれた放射性セシウムが出すベータ線が体外に出てくることはないのです。一方、ガンマ線は透過力が強いので、一部が体外まで飛び出してきますが、放射線スクリーニング検査では、それを計っていない… 牛の体をきれいに洗ってさえあれば、スクリーニングはクリアできるでしょう。

私たちは、牛の皮を食べるわけではありません。問題は肉なのです。なのに、牛の内部被ばくをまったく想定していない検査態勢。これでは消費者も生産者も安心できません。

一方で、野積みされ放射性セシウムに汚染された稲わらを牛に与えた農家を責めるような報道も見られますが、これはまったく見当違いです。農水省の担当者は「屋外の飼料は危険だとあれほど報道されていたのに信じられない」と。なんと報道任せ。農水省のホームページを見ると、曖昧な注意喚起はありますが、本来なら、危険性のある地域に安全な飼料を十分に供給すべきだったはずです。
生産者の暮らしと消費者の安全を真面目に考える姿勢が、どこにも見えません。

コメント

_ うなぎ ― 2011/07/12 15:46

こんにちは、良くこのブログを見ています。コメントするのは初めてです。
ずっと疑問に思っていた事があったので質問します。
「ガンマ線は透過力が強いので、体外まで飛び出してきます」という記述にあるように、ガンマ線というのは体の外に出てしまうので、その人のそばにいるとガンマ線を受けてしまうのですか?
これが福島の方の差別につながっているのではないかと思うのですが。
「放射線はうつらない」という事は聞くのですか、その点が分からなくて、もやもやしています。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/07/12 20:12

>うなぎさん
コメントありがとうございます。
「ガンマ線というのは体の外に出てしまうので、その人のそばにいるとガンマ線を受けてしまう」というのはホントに細かく言えばその通りなのですが、一般の内部被ばくのレベルでは、その二次被ばくは微々たるものとされています。体内で大きく減衰され、空間でも減衰されます。
一昔前の漫画や劇画に出てきたような「放射能人間」はあり得ません。放射線はうつりませんので、その点はご安心を。被ばく者を差別するような動きを絶対に許してはなりません。

一方、当方は東京都下在住なのですが、明らかに福島由来の放射性物質を体内に溜め込んでいます。今日も「福島第1原発:食事被ばく量、25%増 厚労省試算」
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110712k0000e040070000c.html
というニュースが入ってきました。言ってみれば、一億総内部被ばく状態です。こういったところに目を向けていく必要があると思います。

_ 薫 ― 2011/07/13 22:01

私は静岡に住んでいます。
福島原発事故後、内部被爆を避けるためかなり食べ物に注意しました。

また、その判断がいつか無駄になるだろう(時間の問題)と思っていました。
食品すべての放射能を調べるのは不可能でしょ。と当初から感じていましたし、また暫定基準値を上回ったから危険と言うより、ようは口に入る放射性物質は足算ですから。

できれば全ての食品に放射性物質の表示をつけてほしいですね。

私は50代ですので細胞分裂遅いですから多少食べても大丈夫です。

ただ孫には食べさせたくないです。

_ 薫 ― 2011/07/13 22:23

追伸:暫定基準値は1品目の目安ですね。
この国に生まれ、こので生活をしていく、、もはや放射線は避けれないでしょう。

また、進行形の海洋汚染は世界中に広がるでしょうし。

重複しますが、大人より感受性の強い子供が心配です。子供達の未来をあんじています。このブログは好きでよく観ています。

未来をどうしたらいいのか、真剣に考えないといけないですね。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/07/13 22:38

>薫さん
いつもコメントを頂き、ありがとうございます。
おっしゃる通りで、厚労省の試算ですら、食品からの内部被ばくが福島以前と比べて25%アップ。結構、ショッキングな数字です。

単純には計算できないのですが、体内取り込む放射能の総量は、一つの目安になります。当面は過激な地産地消は諦めて、東方・関東の産物を食べたら、九州・四国の産物をという自衛でしょうか。

食品の放射線量表示は行われるべきだと思います。
「自然放射線との関係で混乱して風評が広がる」という反論が来そうですが、そんなことは核種を明確に表示すれば解決しますので。

また、お立ち寄りください!

_ うなぎ ― 2011/07/14 22:22

解説ありがとうございました!これですっきりしました。
今回の原発事故以来、「放射線」の事を考えない日は無いです。特に政府がウソをつくので、安全と言われれば言われるほど疑ってしまって疲れます。食品の暫定基準値は、なんだか高めに設定してあるみたいなので、暫定基準値ギリギリの物を食べてばかりいると、きっと後悔しそうで、結局産地を選んで買う事になり、これが「風評被害」と言われることになるのだと思います。放射線量の高い所に住む人と、沖縄などに住む人はもう許容量が違うのに、全国民が同じ基準値で良いわけないと思うのです。だから、消費者に分かりやすい数値を食品一つ一つに書いてほしいと思うのです。政府にメールしてみましたが、特に変化はないです。
年1ミリとか20ミリとかいう問題も、単に空間の線量だけの事を言っているようで、内部被ばくには触れないような気がします。マスコミも指摘しません。そういう訳で、ネットなどを見ている人は自衛するわけですが、それを「神経質」などと言われるので、精神的にも疲れている人が多いみたいです。
外にあった藁を食べた牛からセシウムが出て大騒ぎですが、人間も同じでは?と思ってしまいます。
低線量被ばくの人体への影響は、あまりはっきり分かっていないと報道では良く聞きますが、はっきり分かっている事は、今まで通り年1ミリなら問題ないと言う事ですよね。だから政府は国民にその生活を保証するように頑張るべきだと思います。そして低線量の被曝の色々な学説を知らせて、それでも線量の高い所に留まりたいと言う人は、その希望を聞いていいと思います。
これからもこのブログを参考にしていきたいと思います、暑い日が続くのでどうかお体大切になさってくださいね。

_ 私設原子力情報室 ― 2011/07/14 23:04

>うなぎさん
明解なコメントをありがとうございます!
しかし、今日もまた、肉牛の問題で、とんでもないニュースが入ってきました。
http://www.asahi.com/national/update/0714/TKY201107140561.html
心配は募るばかりです。

実は、福島の人たちの苦労は、私たちの想像をはるかに超えているのでしょうけど、まずは、お互い、地に足のつく場所で、今の思いを持続・発展させることが出発点かと思います。

これからもよろしくお願いします。

PS.
今日の「クローズアップ現代」のリポート部分は、結構ショッキングでした。逃げるも地獄、残るも地獄。政府も東電も、福島の人たちの将来を考えた方策を何一つ実行できていません。

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