福島は今、どうなっているのか…2012/11/07 13:18

今回は、空間線量(=外部被ばく)の視点から、今の福島を冷静に見直してみたいと思います。

下の2枚の表をご覧ください。11月7日の午前9時前後に文部科学省の「放射線モニタリング情報」から得たデータです。


3.11以前の空間線量は全国平均で約0.04マイクロシーベルト/時でした。もちろん福島も例外ではありません。

今現在、居住制限のかかっている地域では、3.11以前の数十倍という空間線量になっているのが一目瞭然です。なんの制限もかかっていない地域でも、5倍から10数倍という場所があります。これを胸部X線撮影での被ばく量(1回約0.1ミリシーベルト)と比較すると、20回分以上という場所が続々出てきます。「年に20回以上も胸のレントゲンを撮る」と言われたら、誰だって尻込みするでしょう。

国が定めている居住制限の線引きは20ミリシーベルト/年です。これは毎時に直すと3.8マイクロシーベルト/時になります。葛尾村で0.689、飯舘村で0.793と1.124。「3.8マイクロシーベルト/時(=20ミリシーベルト/年)に比べると、かなり低いのではないか」と思う方がいるかもしれません。しかし、これらの数値は、すべて居住空間に近い場所で計測されたものです。周りには、山林や放置された農地がたくさんあり、20ミリシーベルト/年を大きく越えています。ちなみに、20ミリシーベルト/年は胸部X線撮影200回分に相当します。

いつの間にか決められてしまった20ミリシーベルト/年。この数値は、ICRP(国際放射線防護委員会)の「緊急時の基準」をより所としています。安全だという裏付けはまったくありません。ICRPが公衆の被ばく線量限界として勧告しているのは、外部被ばく、内部被ばくを合わせて1ミリシーベルト/年です(それすら安全の裏付けはなく、放射線はどんなに微量であっても人体に害のあるものです)。

ここで、20ミリシーベルト/年で線引きされた居住制限等の内容を簡単に整理しておきましょう。
●避難指示解除準備区域
避難指示区域のうち、放射線の年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実と確認された地域。宿泊禁止。製造業などの事業再開許可。
<経産省からの通達>
●居住制限区域
避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、引き続き避難を継続することが求められる地域。製造業などの事業再開許可可能。
<経産省からの通達>
●帰還困難区域
5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり、年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域。
●警戒区域
立ち入り禁止区域

驚くべきことは、「居住制限区域」や「避難指示解除準備区域」において、すでに業務の再開などが認められていることです。
移住権を認めないどころか、危険な場所へ帰ることを奨励している!こんな国がどこにあるでしょうか!

参考のために、チェルノブイリと福島の居住制限等に関する基準の違いを下に示します。チェルノブイリの高濃度汚染地域は、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3国に広がっていますが、3国ともほぼ同じ基準で被災住民に対応しています。

図をご覧いただければ、もう何も語る必要はありません。
原発事故被災地の人たちは、今、とても危険な状況に放置されています。
国や自治体は、「1ミリシーベルト/年を越えるエリアでは、無条件で移住権を認める」といった施策を積極的に実行すべきです。その時、「10ヘクタールの水田を持っていた人には10ヘクタールの水田を」「100頭の牛を飼っていた人には100頭の牛と牛舎を」という、「生産力として等価」という考え方が必要です。「金銭的に等価」では、営々として作り上げてきた地方の文化は、間違いなく崩壊します。
例えば、「長年耕してきた10ヘクタールと新たな10ヘクタールでは、まったく違う!」という声が出るでしょう。被災地の人たちにとって、移住が苦渋の決断であることは、もちろん理解しています。しかし、ギリギリの選択としては、「ふるさとよりも命」あるいは「ふるさとよりも安心、安全」を取るべきです。共同体が一体となって移住できる道を国や東電に求め、みずからも探ることが第一ですが、個別に移転していく道も閉ざす必要はありません。

多くの自治体首長や市町村会議員が、「帰還」「除染」を声高に言うのは、自分の議席や票田がなくなるのを恐れているからに過ぎない、と冷たく見切る必要もあります。

除染は容易ではありません。高圧放水を使うと壊れてしまう家屋がたくさんあります。山林の除染の見通しは立たず、そこから流れ出る水は、苦労して除染したはずの水田へも向かいます。
仮に住宅と道路と商業施設の除染がある程度できたとして、子供たちに「放射性物質があるから山には入ってはいけない」「川の魚は獲るな」「キノコは採るな」と何十年にも渡って言い続けることができるのでしょうか…

コメント

_ keroro ― 2012/11/07 14:47

いつもデータを冷静に分析し、分かり易く解説してくださってありがとうございます。
本当にいまこの国がしなくてはならないことは、1ミリシーベルト/年を越える地域からの移住を積極的に勧め、全国民が全力でそれを支援すべきだと私は思っています。
しかし国策を後押しすることになってしまう「善意の」ボランティアをアテにした除染活動の動きは全く止まる気配がなく、私が所属する企業では従業員が除染や放射線量測定のボランティアに福島に赴くことを積極的に支援しており、いちヒラの職員が異を唱えるのはとても難しい状況にあります。
故郷に住み続けたい一定年齢以上の方に移住しろとは言いませんが、若い人たちが一刻も早く移住できるようにするためにも、こちらのブログの情報はとても重要だと思います。ありがとうございます。

_ 二本松 ぽよよん ― 2012/11/07 19:41

あれから1年8ヶ月。「もう」1年8ヶ月なのか、「まだ」1年8ヶ月なのか。
福島県民にとっては、時間や季節の感覚さえ分からなくなっている生活が続いています。

たまに東京や神奈川に用があって行くと、福島のことなんて何もなかったように賑やかで平和な街は別世界のようです。初めは抵抗を感じましたが、でもこれで良いんだと、最近ようやく思えるようになりました。

東電、政府は相変わらずデータ隠し、改ざん、その場しのぎの言い訳ばかり。
でも私達ももうごまかされてばかりではいられません。
ちゃんと見ていますよ。
ただ、福島県民は今疲れ切っています。ここらで一度心身を休めないと、次の行動に進めない状況です。

このブログや他を参考に、情報は常にキャッチしながら、今後どうしていくべきか、考えていかなければなりません。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/11/07 21:03

>keroro さん
>二本松ぽよよん さん

さっそくコメントを頂きありがとうございます。
私自身は、現地での支援活動にはなかなか出向けないのですが、ブログの他に、東京で集会やデモに参加しています。
福島現地に比べると緊張感は劣るかも知れませんが、首相官邸前の金曜行動などは、間違いなく力にはなっています。また、毎週、福島の方たちからの発言がたくさんあって、逆にそれが東京で頑張る私たちの支えにもなっています。
国や東電に騙されることなく、これからも頑張りましょう!

_ 質問です ― 2012/11/07 21:32

1mSv/yならOK,ということは私設原子力情報室さんは認めるのですか?1mSv/yearなら本当に大丈夫なのでしょうか?

_ 私設原子力情報室 ― 2012/11/07 22:52

本文に書いた通り、「外部被ばく、内部被ばくを合わせて1ミリシーベルト/年」には、安全の裏付けはありません。
「放射線はどんなに微量であっても人体に害のあるもの」というのが当ブログの立場であり、科学的な事実です。間違いなく、DNAを傷つけるのですから。

_ Sasaki ― 2012/11/07 23:31

東京在住の50代のサラリーマンです。3.11以降、仕事に身が入らず、まるで原発問題と仕事の二足の草鞋状態でした。3.11直後はカミさんの田舎である四国に子供たちを連れて車で逃げました。高速のサービスエリアでのはじめての給油は、一台5リッターまで!という信じられないものでした。働かなければならないので、ひとり東京に電車で戻りました。新幹線の品川駅ホームに大勢の外国人家族がスーツケースをもって関西方面に避難する姿をみて帰宅しました。その頃からこのサイトは私が毎日欠かさずチェックする一つになりました。この国は狂っています。これほど人間が劣化しているとは!今までお気楽に仕事だけしていた身には大変なショックでした。
関西移住も真剣に考え(東京単身赴任!)、土地の下見もし、持ち家の売却見積もりまでしましたが、家族の事情で先送り状態になっています。いつも価値ある情報をいただき心より感謝しております。福島の方々もこのブログを読んでほしいです。取引先の会社が須賀川にありますが、もう皆さん諦めておられました。悲しい限りです。同朋を守らない日本人にほとほと嫌気がさしています。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/11/08 14:20

なんとも、タイミングが良いというのか、悪いというのか… 本ブログ記事の冒頭2枚の表にある空間線量との数値は、実際よりも10%低い数値でした!

『モニタリングポスト、10%低く測定=鉛バッテリー放射線遮る―文科省』http://jp.wsj.com/Japan/node_544176

文科省を含めて、この国の官僚たちには、住民の命や健康を守るという使命感が、まったく欠如している。

_ ナウ ― 2012/11/09 23:17

いつも貴重なブログありがとうございます。
福島の故郷を守り抜きたい気持ちも分かります。でも、チェルノブイリ原発事故後の健康被害を聞くにつけ、一刻も早く逃げてほしく思っています。
で、思いついたのですが、国が税の滞納等で差し押さえた土地家屋がたくさんあるはずです。使われていない国所有の土地も。各省庁の外郭団体の土地も。
国策で、営々と築いてきた農地等を失わせたのですから、国が手にしている土地を被害に会われた方たちに、渡したらいかがかと思います。
このアイデアいかがでしょう。

_ 私設原子力情報室 ― 2012/11/11 23:01

>ナウさん
コメントありがとうございます。
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/08/22/6062767
http://nucleus.asablo.jp/blog/2011/11/23/6211963
の2本を読み直して頂けるとありがたいです。
少し前に書いた原稿なので、やや除染に期待を寄せすぎていますので、そこだけ注意してください。

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