舵を切る企業と産業界 ― 2011/10/04 20:30
今や、反原発に向かおうとするのは、市民だけではありません。多くの企業が、脱原発・反原発へと舵を切っています。
ソフトバンクの孫正義氏が、脱原発を目指す『自然エネルギー財団』を設立したのは、多くの皆さんがご存じの通りです。
ドイツでは、原発に深く関わってきた大手電機メーカーのシーメンスが、原子力事業からの完全撤退を宣言【朝日新聞9月19日】。日本で言えば、日立や東芝が、脱原発を宣言したようなものですから、大変な出来事です。シーメンスは多国籍企業で、外国の原発にも関わってきましたが、それも含めて止めるということです。
アメリカの世界的に有名なIT企業は、原発関連の事業にだけは手を出さないことを内規で決めているそうです。万一、コンピューターシステムが原因で事故が起きた時、補償のリスクを担保しきれないというのが理由。これは福島第1の影響ではなく、会社設立当初からの方針だそうです。
日本では、城南信金が4月の段階で脱原発宣言。大きな反響を呼びました。
スズキ自動車は、中電浜岡原発から11kmの距離にある相良工場を危険だと判断。原発事故時に従業員の命を守りきれないからです。移転を検討していましたが、7月に「浜岡原発再開なければ工場移さず」の方針を明らかにしています。
さらに、アメリカの、これまた超有名な半導体メーカーの上層部から、私が直接聞いた話があります。
「半導体メーカーにとっては、原発よりも太陽光発電の方が、ずっと儲かります。なぜかと言うと、<一つの発電システム>という意味では、原子炉1機も太陽光パネル1枚も同じです。極論すれば、原子炉一つに一個必要なチップが、太陽光パネル1枚にも一個必要なのです。太陽光パネルが千枚並べば、同じチップが千個売れるということです。巨大技術やエネルギーの中央集権は半導体メーカーにとっては困りもの。エネルギーの地方分散、地産地消は、私たちにとって大きなビジネスチャンスになるでしょう」。そして、こう続けました。「すでにこのビジネスは始まっています。日本の半導体メーカーの東芝や日立は、原子力に深く関わりすぎているので、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に大きく舵を切ることができません。私たちに追いつくとはないでしょう!」
なぜか悔しい!しかし、東芝や日立よりも、この半導体メーカーの判断の方が、間違いなく正しいのです。
企業によって、「社会的な責任に照らして」「従業員の安全を確保するため」「経営上のリスク回避のため」、あるいは「純粋に利潤追求の立場から」と様々な理由があっての、脱原発です。そのどれも、否定する必要はないでしょう。逆に、こういった動きが、ますます強まれば、脱原発のうねりに大きな弾みがつきます。
「脱原発は集団ヒステリー」なんて言ってた連中に、大恥をかかせてあげましょう!
さて、企業の脱原発の話を追っていくと、最後には、原子炉メーカーの話に辿り着きます。世界的な原子炉メーカーや、アメリカという国そのものが、実は、かなり前から原子力事業に及び腰になっていたのです。
まず、福島第1の1号炉、2号炉、6号炉を始め、日本にある多くの沸騰水型原子炉を製造したGE(ゼネラルエレクトリック社)。2006年に、日立製作所とGE双方の原子力部門を統合し、日立GEニュークリア・エナジー(日本市場担当)を設立しています。株式の割合は、日立が80%、GEが20%。世界市場を担当するGE-Hitachi Nuclear Energy の株式は、日立が40%、GEが60%です。GE一社が負ってきた原子力事業のうちのかなりの部分を日立が肩代わりする形になりました。
一方、関西電力などが導入している加圧水型原子炉で有名なウェスティングハウス・エレクトリック。アメリカの代表的な総合電機メーカーだったのですが、すでに元々の会社はありません。最後まで残っていた商業用原子力部門を英国核燃料会社(BNFL)に売却したのが1997年。BNFLは2006年に、それを東芝に転売。現在、ウェスティングハウスは、100%東芝傘下の会社です(名前だけはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー)。国策の幹であったはずの原子力産業を他国の会社に売ってしまう… 少なくとも、アメリカとイギリスでは、投資的にも原子力が魅力を失っている証です。
GEとウェスティングハウスの動きを見てみると、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの後の風向きの変化を巧みに読んで、アメリカは原発ビジネスのリスクを日本のメーカーに押しつけてきたのではないかと思えます。事故が起きたら会社が耐えきれない、という直接的なリスクと、「原発は、もう儲からない」という経営戦略上の理由の両方で。
冷静に歴史を見直してみれば、世界では、20年・30年前から、原子力企業でさえ、原子力から抜け出そうと画策してきたという逆説的な状況がありました。その流れの中で、巨大な原子力企業2社が、事実上、日本の傘下にある。いや、抱え込まされている。これは、恥ずべきことであるし、様々な意味で危険なことでしょう。
ソフトバンクの孫正義氏が、脱原発を目指す『自然エネルギー財団』を設立したのは、多くの皆さんがご存じの通りです。
ドイツでは、原発に深く関わってきた大手電機メーカーのシーメンスが、原子力事業からの完全撤退を宣言【朝日新聞9月19日】。日本で言えば、日立や東芝が、脱原発を宣言したようなものですから、大変な出来事です。シーメンスは多国籍企業で、外国の原発にも関わってきましたが、それも含めて止めるということです。
アメリカの世界的に有名なIT企業は、原発関連の事業にだけは手を出さないことを内規で決めているそうです。万一、コンピューターシステムが原因で事故が起きた時、補償のリスクを担保しきれないというのが理由。これは福島第1の影響ではなく、会社設立当初からの方針だそうです。
日本では、城南信金が4月の段階で脱原発宣言。大きな反響を呼びました。
スズキ自動車は、中電浜岡原発から11kmの距離にある相良工場を危険だと判断。原発事故時に従業員の命を守りきれないからです。移転を検討していましたが、7月に「浜岡原発再開なければ工場移さず」の方針を明らかにしています。
さらに、アメリカの、これまた超有名な半導体メーカーの上層部から、私が直接聞いた話があります。
「半導体メーカーにとっては、原発よりも太陽光発電の方が、ずっと儲かります。なぜかと言うと、<一つの発電システム>という意味では、原子炉1機も太陽光パネル1枚も同じです。極論すれば、原子炉一つに一個必要なチップが、太陽光パネル1枚にも一個必要なのです。太陽光パネルが千枚並べば、同じチップが千個売れるということです。巨大技術やエネルギーの中央集権は半導体メーカーにとっては困りもの。エネルギーの地方分散、地産地消は、私たちにとって大きなビジネスチャンスになるでしょう」。そして、こう続けました。「すでにこのビジネスは始まっています。日本の半導体メーカーの東芝や日立は、原子力に深く関わりすぎているので、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に大きく舵を切ることができません。私たちに追いつくとはないでしょう!」
なぜか悔しい!しかし、東芝や日立よりも、この半導体メーカーの判断の方が、間違いなく正しいのです。
企業によって、「社会的な責任に照らして」「従業員の安全を確保するため」「経営上のリスク回避のため」、あるいは「純粋に利潤追求の立場から」と様々な理由があっての、脱原発です。そのどれも、否定する必要はないでしょう。逆に、こういった動きが、ますます強まれば、脱原発のうねりに大きな弾みがつきます。
「脱原発は集団ヒステリー」なんて言ってた連中に、大恥をかかせてあげましょう!
さて、企業の脱原発の話を追っていくと、最後には、原子炉メーカーの話に辿り着きます。世界的な原子炉メーカーや、アメリカという国そのものが、実は、かなり前から原子力事業に及び腰になっていたのです。
まず、福島第1の1号炉、2号炉、6号炉を始め、日本にある多くの沸騰水型原子炉を製造したGE(ゼネラルエレクトリック社)。2006年に、日立製作所とGE双方の原子力部門を統合し、日立GEニュークリア・エナジー(日本市場担当)を設立しています。株式の割合は、日立が80%、GEが20%。世界市場を担当するGE-Hitachi Nuclear Energy の株式は、日立が40%、GEが60%です。GE一社が負ってきた原子力事業のうちのかなりの部分を日立が肩代わりする形になりました。
一方、関西電力などが導入している加圧水型原子炉で有名なウェスティングハウス・エレクトリック。アメリカの代表的な総合電機メーカーだったのですが、すでに元々の会社はありません。最後まで残っていた商業用原子力部門を英国核燃料会社(BNFL)に売却したのが1997年。BNFLは2006年に、それを東芝に転売。現在、ウェスティングハウスは、100%東芝傘下の会社です(名前だけはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー)。国策の幹であったはずの原子力産業を他国の会社に売ってしまう… 少なくとも、アメリカとイギリスでは、投資的にも原子力が魅力を失っている証です。
GEとウェスティングハウスの動きを見てみると、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの後の風向きの変化を巧みに読んで、アメリカは原発ビジネスのリスクを日本のメーカーに押しつけてきたのではないかと思えます。事故が起きたら会社が耐えきれない、という直接的なリスクと、「原発は、もう儲からない」という経営戦略上の理由の両方で。
冷静に歴史を見直してみれば、世界では、20年・30年前から、原子力企業でさえ、原子力から抜け出そうと画策してきたという逆説的な状況がありました。その流れの中で、巨大な原子力企業2社が、事実上、日本の傘下にある。いや、抱え込まされている。これは、恥ずべきことであるし、様々な意味で危険なことでしょう。
コメント
_ tossini ― 2011/10/05 00:06
_ 塩爺 ― 2011/10/05 01:01
貴ブログは反原発、脱原発の立場に徹して、誠実に原発の危険性、放射性物質の恐ろしさなどを科学的、技術的さらには疫学的見地から情報、知識を発信していただき大変勉強になっています。
原発をめぐる問題を産業界(資本)側からの切り口で解説を頂き目からうろこです。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」の孫子の兵法を思い出しました。
反原発、脱原発で頑張ってる多くの方に知って頂きたい意義深い貴重な問題提起の内容です。
原発問題は突き詰めてれば、資本(産業)のあり方、利権構造の問題、政治のあり方、生活様式のあり方(エネルギー問題)、そして最後には核兵器の問題に辿りつくと思っています。(すなわち社会全体がどこに向かうのか?の人類史的課題と、私は考えています)
今後とも、多面的なアプローチを期待しております。
原発をめぐる問題を産業界(資本)側からの切り口で解説を頂き目からうろこです。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」の孫子の兵法を思い出しました。
反原発、脱原発で頑張ってる多くの方に知って頂きたい意義深い貴重な問題提起の内容です。
原発問題は突き詰めてれば、資本(産業)のあり方、利権構造の問題、政治のあり方、生活様式のあり方(エネルギー問題)、そして最後には核兵器の問題に辿りつくと思っています。(すなわち社会全体がどこに向かうのか?の人類史的課題と、私は考えています)
今後とも、多面的なアプローチを期待しております。
_ 私設原子力情報室 ― 2011/10/05 11:28
>tossiniさん
「マイコン屋儲かる→原発割安論者が喜びそう」の話は、「チップ一枚、精々2000円。一万枚買って頂いても2千万円です。原発には遠く及びません」との事でした。これも直接聞いた話です。
「マイコン屋儲かる→原発割安論者が喜びそう」の話は、「チップ一枚、精々2000円。一万枚買って頂いても2千万円です。原発には遠く及びません」との事でした。これも直接聞いた話です。
_ tossini ― 2011/10/05 11:52
塩爺さんの最後の提起、その通りだと思います。
原発で利を得るのは、ほんの一部の企業で、社会資本全体から見れば「決して算盤が合わない」ことが、明らかになってきました。
そして、今ある原発を可能な限り早期に止めさせ、廃炉にする一方で、ポスト脱原発社会のグランドデザインを描いていかなければ、「原発しがみつき派」のさまざまな悪質な恫喝(原発をやめたら、人の暮らしや産業が立ちゆかなくなるetc.)をはね除けることはできません。
エネルギーをシェアし融通し合う新たな社会は、冷ややかな都市地域社会の有り様を変え、共生と連携の新しいコミュニティを生む可能性をも秘めています。また新たな雇用を生み、ひいては適正な税収の拡大にもつながります。
「原発の安全度を世界最高水準に高め、途上国に提供」という首相発言は、「もはや、日本で新しい原発は作れないが、輸出はするぞ」というWスタンダードへの意思表明であり、ある意味で「死の商人」の思想です。
日本は、これまで各所で蓄積してきた知見を結集し、ポスト脱原発時代のエネルギーのあり方を、新しいお家芸に育てて、それを輸出(啓蒙)していくべきではないでしょうか…。
そのために、各企業や大学、研究機関が蓄積してきた技術やノウハウを活かす道を考えることは、よしんば早急な社会体制の変革を目指す人達からも、「利敵行為」とそしりを受ける筋合いではありません。それを「利敵行為」と批判するが如き教条主義的な方々は、石臼・手斧の類とともに、博物館に入っていただきましょう。
原発で利を得るのは、ほんの一部の企業で、社会資本全体から見れば「決して算盤が合わない」ことが、明らかになってきました。
そして、今ある原発を可能な限り早期に止めさせ、廃炉にする一方で、ポスト脱原発社会のグランドデザインを描いていかなければ、「原発しがみつき派」のさまざまな悪質な恫喝(原発をやめたら、人の暮らしや産業が立ちゆかなくなるetc.)をはね除けることはできません。
エネルギーをシェアし融通し合う新たな社会は、冷ややかな都市地域社会の有り様を変え、共生と連携の新しいコミュニティを生む可能性をも秘めています。また新たな雇用を生み、ひいては適正な税収の拡大にもつながります。
「原発の安全度を世界最高水準に高め、途上国に提供」という首相発言は、「もはや、日本で新しい原発は作れないが、輸出はするぞ」というWスタンダードへの意思表明であり、ある意味で「死の商人」の思想です。
日本は、これまで各所で蓄積してきた知見を結集し、ポスト脱原発時代のエネルギーのあり方を、新しいお家芸に育てて、それを輸出(啓蒙)していくべきではないでしょうか…。
そのために、各企業や大学、研究機関が蓄積してきた技術やノウハウを活かす道を考えることは、よしんば早急な社会体制の変革を目指す人達からも、「利敵行為」とそしりを受ける筋合いではありません。それを「利敵行為」と批判するが如き教条主義的な方々は、石臼・手斧の類とともに、博物館に入っていただきましょう。
_ tossini ― 2011/10/05 12:04
管理者様
私が申し上げたかったのは
「マイコン屋儲かる→原発割安論者が喜びそう」の部分ではなく、
その前からのコンテクスト全部、つまりーー
「『原発一基に必要なチップが、太陽光パネル一枚ずつに必要』→『だからチップ屋が儲かる』」という言い方だけだと「逆に天文学的倍数のチップ市場を生むだけではないか」という誤解を招く、あるいはわざと誤解したふりをした悪意につけ込まれます、ということです。
そこで,ダラダラと長い書き込みをしたまでです。
追記の例を示していただければ、その懸念は氷解しますね。
私が申し上げたかったのは
「マイコン屋儲かる→原発割安論者が喜びそう」の部分ではなく、
その前からのコンテクスト全部、つまりーー
「『原発一基に必要なチップが、太陽光パネル一枚ずつに必要』→『だからチップ屋が儲かる』」という言い方だけだと「逆に天文学的倍数のチップ市場を生むだけではないか」という誤解を招く、あるいはわざと誤解したふりをした悪意につけ込まれます、ということです。
そこで,ダラダラと長い書き込みをしたまでです。
追記の例を示していただければ、その懸念は氷解しますね。
_ 私設原子力情報室 ― 2011/10/05 12:25
>tossiniさん
なるほど!了解です。
なるほど!了解です。
_ tossini ― 2011/10/05 12:26
管理者様
ちなみにpiccoloは1枚$1.85~$4.95。
500円もしませんね。コスト的にも大きなメリットがあります。
ちなみにpiccoloは1枚$1.85~$4.95。
500円もしませんね。コスト的にも大きなメリットがあります。
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まさにその通りだと思います。
ただ、「原発一基に必要なチップが、太陽光パネル一枚ずつに必要」、「だからマイコン屋も儲かる」という例えだと、「原発割安論者」が喜びそうですね。
これはつまり、
各家庭やビルが、「電力を創り・蓄え・賢く使う」、
さらに地域内の他の家庭やビルと融通し合う最小単位となる「スマートハウス」の時代になれば、
太陽光や風力、地熱、EV(電気自動車)と
系統電源をマージし、最適な負荷分担を図る必要がある。
ここにおいて、電力配分の最適化と通信機能を備えたスマートメーター、そして諸インフラの整備が不可欠。
また、現状では【交流~直流】間の変換や受け渡しがそれぞれ片方向のシステムを、双方向にしていく必要がある。
これら「AC←→DC変換」や制御、センシング・計量、通信・信号処理など主要技術を支えるマイコン群が、
最低単位となる家やビルごとに必要になるので、チップ企業も儲かるし、全体としてのコストや自然負荷等々も圧倒的に軽減される。ーーということですね?
はしょった、乱暴な言い方で失礼!