今頃 ストロンチウムだと!2011/10/01 09:25

久々に手が震えるような怒りを感じています。
昨9月30日、文科省から『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』なる報道発表が行われました。一つ前のブログ『再度、プルトニウムに警戒を』は、この発表に関する報道から書いたものです。
その後、報道が続き、さらに報道発表の本文を入手するにいたって、とんでも無い事実が判明してきました。

『文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について』【文科省報道発表全文9月30日
『福島第1原発:45キロ離れた飯舘でプルトニウム検出』【毎日新聞9月30日

プルトニウム情報の後ろに隠すように、広範囲での放射性ストロンチウムの検出が発表されていたのです。毎日新聞の見出しを見ても分かるように、マスメディアもプルトニウムに目を奪われて、ストロンチウムへの注目が薄くなっている有り様です。それでも、記事本文にストロンチウムの情報を載せた毎日新聞はマシな方で、前のブログで紹介したNHKの記事には、ストロンチウムのスの字さえ登場しません。

まず、放射性ストロンチウムの危険性は、研究者はもちろん、当ブログを含むたくさんの所で、事故直後から多くの人たちが指摘してきたものです。それが、なぜ今頃になって発表されたのか… 今回の報道発表の分のサンプル採取は、6月6日から7月8日の間で行われています。これ自体、遅きに失しているのですが、発表はサンプル採取終了から3ヶ月が経とうとしている昨日。文科省の態度には「人の命に関わる問題なんだ」という意識が、まったく感じられません。

さらに発表が金曜日。それも報道のタイミングから見ると、午後から行われたようです。これは、ここ数十年、世界中で見られる傾向なのですが、「権力者にとって都合の悪い発表は金曜日の午後、それも夕刊の閉め切りが過ぎた後」に行われます。なぜかと言うと、「土日のテレビは娯楽やスポーツ中心になり、報道番組が少ない」「役所が休みなので、マスメディアの追及を受けるまでに二日の余裕ができる」「週末は人々が家庭中心の生活になるので、世の中に向ける目が緩む」といった事情があるからです。今回の発表、プルトニウムにしても、ストロンチウムにしても、よほど都合の悪い状況があることの証です。

では、放射性ストロンチウムの危険性に関してです。
まず、すでに多くの方がご存じ通り、ストロンチウムはカルシウムと化学的な性質が似ているため、植物にしても、動物にしても、生体はカルシウムと勘違いして、積極的に取り込みます。動物では「カルシウムは骨を作るもと」と言われるくらいですから、ストロンチウムも骨に集まります。
今回検出されたストロンチウム89(半減期:50日)にしても、ストロンチウム90(半減期:30年)にしても、放出するのはベータ線。ベータ線は、空気中では数十センチから数メートル、体内では1センチほどしか進むことができません。従って、地面に沈着していても、外部被ばくは、あまり心配する必要はありません。一方、内部被ばくは大変に危険です。ストロンチウムが集まるのは骨。その中には血液を作る骨髄があり、造血細胞があります。放射性ストロンチウムは長い期間に渡って、造血細胞にベータ線を浴びせ続けるのです。この時、弱い透過力が禍します。半径1センチの範囲にある造血細胞(骨髄の中にある)を徹底的に痛めつけることになるのです。やがて白血病の発症です。

文科省の報道発表をよく読むと、放射性ストロンチウムによる被ばくについて、「土壌からの再浮遊に由来する呼吸被ばく」と「土壌からの外部被ばく線量」を勘案しているように書かれています。これは明らかな誤魔化しです。一番重要な部分を間違いなく意図的に隠しているからです。
ストロンチウムの危険性を考える時に、それが一旦、植物に吸収され、一部は家畜を経由して、最終的に人間の体内に入ってくるという流れを考えなかったら、まったく意味がありません。
セシウム137によるお茶の汚染を思い出してみましょう。空間線量が驚くほど高かったわけでもないし、土壌への沈着が問題視されていた場所でもない所で、茶葉が高濃度に汚染されていました。大気中を浮遊する、それこそごく僅かのセシウム137を、茶木が重要な栄養分であるカリウムと勘違いして、積極的に取り込んだ結果です。葉では、空気中の数百倍、いや数千倍の濃度にも濃縮されました。これを生体濃縮と言います。ちょっと難しい言葉ですが、本来は、生きものが生きるために栄養分を体内で濃縮する働き。放射性物質は、生きもの本来の営みを逆手に取るように体内に入り込み、内部被ばくを引き起こすのです。

さて、ストロンチウムに話を戻しましょう。
チェルノブイリを含めて、過去の原子力事故では、ストロンチウムを吸収した牧草を食べた乳牛から絞った牛乳による内部被ばくが、大きな問題となっています。IAEAもICRPも認めていませんが、原子力事故の後に、白血病が増えたというデータは複数存在しています。それを伝えているドキュメンタリー番組もあります。
今回、汚染が確認された地域には、二本松や白川など酪農が盛んな地域が含まれています。心配です。なお、福島県産の牛乳は、事故直後に出荷制限されましたが、4月末から5月初めにかけて、県内のほぼ全域で解除されています(事故後に地元の牧草を乳牛に与えていたかどうかは不明)。


危険なのは牛乳だけではありません。ストロンチウムを吸収した野菜を直接食べる場合や、溶け込んだ水道水を飲むことによる体内への吸収。これらにも警戒が必要です。当面、カルシウムが豊富な野菜に注意が必要でしょう。小松菜、モロヘイヤ、水菜、大根の葉、バジルなどが当たります。
また、牛乳の例で分かる通り、授乳中の女性が取り込んだ場合、母乳に放射性ストロンチウムが濃縮されるという恐ろしい事態が起きます。

すでに、事故発生から半年以上が経っています。ただちに、食品と水道水の検査項目にストロンチウムを加えないと、とんでも無い悲劇が起きる可能性があると指摘しておきます。乳牛の検査、母乳の検査も、今すぐに始めるべきです。一刻の猶予もありません。これは決してオーバーな言い方ではありません。

それにしても、国の動きの遅さ、知ってて情報を隠す姑息な態度。あらためて強い怒りを覚えます。

追記:
参考までに、過去に当ブログでストロンチウムを扱った記事をまとめておきます。
『ストロンチウム90に警戒を』(3月24日
『再度、ストロンチウム90に警戒を』(4月11日
『ごく微量のストロンチウム90?』(4月13日
『海からストロンチウム』(5月10日
『恐怖のストロンチウム90』(6月12日

聖地に反旗が翻った日2011/10/01 12:51

茨城県東海村と言えば、住民の方からは怒られそうですが、『日本の原子力の聖地』とも言ってもよい場所。東海発電所、東海第二発電所、核燃料サイクル工学研究所を筆頭に、1999年に臨界事故を起こしたJCOを含め、12もの原子力関係事業所が建ち並びます。
その東海村が、明確な脱原発の方針を打ち出しました。

『JCO臨界事故:国を痛烈批判 茨城・東海村で臨時の朝礼』(毎日新聞9月30日

私は、仕事で何度か東海村に行ったことがあります。数日間滞在したこともあり、なんとなく雰囲気は身体で分かっているつもりです。初めて訪れた時、「原子力が来る前、ここは穏やかな日差しの下に田畑が広がっり、海岸には小さな漁船が並んでいたんだろうな」という寂しい想いが頭を過ぎったことを覚えています。

就労人口の30%が直接の原子力関係者と言われ、その他にも、土建・建築関係はもとより、スーパーマーケットから居酒屋に至るまで、原子力無しでは立ちゆきません。

JCOの臨界事故から12年になる9月30日、その東海村の村上達也村長が「人に冷たく無能な国に原発を持つ資格はない」という厳しい言葉で、明確に脱原発を打ち出したのですから、国にとっては大事件でしょう。
JCOで、原子力事故の恐ろしさと、それに対する国の対応があまりに冷酷だったとことを身を以て知った東海村の人たち。福島第1の事故を受けて、ついに国に対してはっきりと反旗を翻したのです。

東海村の勇気ある脱原発宣言。大きな拍手を送りたいと思います。

東海村だけではありません。
『南相馬市、新原発の交付金辞退へ 住民の安全を優先』【朝日新聞8月4日
『原発新規立地めぐる交付金、浪江町も辞退へ 町長が明言』【朝日新聞9月6日
『浜岡原発永久停止、周辺自治体理解示す 牧之原市が決議』【中日新聞9月27日
『静岡県知事、浜岡原発再開の可否を独自で判断する考え強調 』【日経9月27日
『浜岡原発:「廃炉にすべきだ」 牧之原市の隣、吉田町・田村町長が初表明』【毎日新聞9月29日
住民の声に押されて、自治体の脱原発への動きは急を告げています。

自治体が脱原発に舵を切ろうとする時、最大のネックになるのが住民の就労問題です。原発周辺の自治体では、多くの住民が原発関連の仕事に就いています。しかし、これは、ちゃんと手当をすれば大きな問題にはならないはずです。まず、廃炉などの行程に入れば、十年以上にわたって地元から多くの労働力が必要になります。その間に並行して、農業や漁業を立て直すことが可能です。また、自然エネルギーの基地として新たな道を探ることも考えられます。選択肢は、風力、太陽光、潮力、地熱など様々。地域にあった自然エネルギーを見つけ出し、エコの町としての再出発を考えるのです。自然エネルギーの活用のためには、原発よりも労働力が必要になりますから、雇用問題もクリアできるはずです。

本当は、地方自治体の脱原発を妨げる大きな枷は存在しないのです。

追記:
自治体の脱原発への動きは、日本だけではありません。原発大国と言われるフランスでは、福島第1の事故を受けて、国内最古の原発=フェッセンハイム原発(まさにフランス原子力の聖地)周辺の自治体が次々と「原発停止」を決議。サルコジ政権の原発推進策の前に立ちふさがろうとしています。

日本中で、世界中で、自治体が脱原発の旗を翻し始めました。このうねりをなんとか、地球上からすべての原発を無くすところにまでつなげていきたいものです。






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