民主党代表選を傍観するな2011/08/21 06:03

実質的に次の総理を決める民主党代表選挙が行われようとしています。「なんでこんな時期に…」というのが、多くの人の思いですが、この流れは止めようがありません。29日に民主党国会議員による投票との見通し。私たちは、これを指をくわえて眺めているしかないのでしょうか?

今度ばかりはそうはいきません。
菅首相は脱原発宣言。鳩山由紀夫前総理も脱原発支持。小沢一郎氏は 「原発はもう無理だ。今までは過渡的エネルギーとして仕方ないと考えてきたが、これからのエネルギー政策は根本的に変える必要がある」「万一事故が起こった時は大変な被害を周囲に与えてしまうことが今回の事故で明確になったわけだから、これからは火力発電とか再生可能エネルギーとか、原発に頼らない、新しいエネルギー政策を構築しなければならない」「核燃料サイクルももう無理だ。最終処分場もないのに、高速増殖炉だの再処理工場だのというのは、そもそも不可能だ」(AERA6/6号)と、実にもっともなことを語っています。
民主党全体が脱原発を意識せざる得ないところまでは来ているのです。しかし一方で、民主党員の中に、原発推進派から即時脱原発派まで、様々な意見があることも事実でしょう。

そこで、民主党員ではない私たちに何ができるのか?
<全国民→民主党員→民主党国会議員>という形で、「脱原発」の流れを強めていく必要があるし、それは可能です。
ブログやツイッターといったソーシャルメディア(クチコミ)が力を発揮する時。いえいえ、井戸端会議だって、職場での昼食時の雑談だって力になります。小さな声が束になった時、民主党議員(地方議員まで含めて)は、「脱原発を明言しなかったら次の選挙で勝ちはない」と思い知るでしょう。

テレビや新聞などのマスメディアは、明確な公開質問を代表選挙立候補者に対して行うべきです。
例えば、質問はこうです。
●日本の原子力発電所に関して
1. 現在止まっている原子炉を一切再稼働させることなく、脱原発を目指す。
2. 3年から5年を目途に、すべての原子炉を停止し、脱原発を目指す。
3. 5年から10年を目途に、すべての原子炉を停止し、脱原発を目指す。
4. 原子力発電はある程度維持しながら、再生可能エネルギーの比率を高める。
5. 原子力発電をエネルギー政策の中心に据え続ける。
●核燃料サイクルについて
1. 高速増殖炉「もんじゅ」も六ヶ所村再処理工場も即時撤退。
2. 高速増殖炉「もんじゅ」のみ撤退。六ヶ所村再処理工場とプルサーマル発電は継続。
2. 高速増殖炉「もんじゅ」・六ヶ所村再処理工場のいずれも継続。

直接選挙ではないもどかしさはありますが、なんとかして、「原発はいらない」という私たちの声を民主党代表選に反映させましょう。「永田町の中で決まることだから」という、あきらめは禁物です。兎にも角にも、次の総理には、強力に脱原発を推進してもらう必要があるのですから。

デーモン・コア 再臨界を理解するために2011/08/21 15:59

福島第1。使用済み核燃料プールについては、一応、循環冷却システムが稼働し、当面のさし迫った危機からは脱したと言えます(大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性があることを忘れてはなりませんが)。

一方、炉心でも注水による冷却を進めていますが、1号炉から3号炉まで、いずれも圧力容器に穴が空いているため漏水が多く、綱渡りの冷却が続いてます。
そんな中で、核燃料がふたたび溶融するのではないか… 再臨界が起きるのではないか… と危惧する声も出ています。ここでは、再臨界を正しく理解するために、そもそも核物質の臨界とは何なのか、そこまで立ち帰って説明していきます。怖がるにしても、正しく怖がる必要があるからです。

人類が核の恐怖に晒され始めたばかりの頃、すでに、実に簡単に起きてしまう臨界の怖さを教える重大な事件がありました。
舞台は、広島と長崎に投下された原爆を開発したアメリカ・ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所。原爆投下から間もない1945年8月21日、66年前の今日のことです。アメリカは、さらに破壊力の大きな核兵器の開発に躍起になっていました。
ロスアラモス国立研究所に所属する若手の物理学者ハリー・ダリアン(1921~1945)が実験に使っていたのは重さ6.2kgの球状のプルトニウム(大半がプルトニウム239で、一部、プルトニウム240を含む)の塊です。

核兵器や原子炉で使う連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こす物質として現在知られているのは、ウラン235とプルトニウム239だけです。この二つは、ある濃度で、ある分量が、ある形に集まった時、臨界に達します。
連鎖的核分裂反応(臨界反応)とは、原子が二つに割れる時に飛び出した中性子が、近くにある原子に吸収され、そこで次の核分裂を起こすという反応を連鎖的に繰り返すことです。それは、原爆が爆発する瞬間であり、原子炉の中では緩やかな臨界状態を保って、その時に生じる熱で発電をしているのです。

さて、ハリー・ダリアンの手元にあった、のちにデーモン・コア(悪魔のコア)と呼ばれるプルトニウムの塊。6.2kgの球状だったのは理由があります。それは、もう少し大きかったら臨界に達する大きさだったのです。球状になっていたのは、より少ない量で臨界に達するからです。球は、他のどの形よりも、同じ体積に対する表面積が小さくなるので、表面から逃げる中性子がもっとも少ない形。…と言うことは、もっとも臨界に達しやすい形なのです。

球状のプルトニウムの塊。もう少し大きくすれば臨界が起きるのですが、それでは、実験をしている自分が確実に死んでしまいます。ダリアンは、別な方法でプルトニウムを臨界に近い状態にしようとしていました。
塊の周囲に中性子を反射する炭化タングステンのブロックを積み上げたのです。ブロックを増やせば、逃げる中性子が減るので、同じ量でも臨界に達しやすくなるのです。

データを計測しながら、慎重に作業を進めるダリアン。その時、手が滑って、1個のブロックをプルトニウムの塊の上に落としてしまったのです。たちまちプルトニウムは臨界に達し、臨界反応が始まりました。ダリアンは、慌てて落としたブロックをプルトニウムの塊の上からどけましたが、すでに5.1シーベルトという大量の放射線を浴びており、25日後に急性放射線障害のため死亡しました。
もし、ブロックをどけることができなかったら、臨界反応が続き、もっと大量の放射線が放出され、死者はダリアン一人では済まなかったでしょう。プルトニウムの塊は、みずから発する熱で溶け出し、形が球状でなくなるまで、臨界反応が続いたはずです。

ダリアンの命の奪ったロスアラモス国立研究所のデーモン・コアは、翌1946年、カナダ出身の物理学者ルイス・スローティン(1910~1946)の命をも奪います。実験の形こそ違いますが、やはり臨界によって発生した大量の放射線による急性放射線障害でした。

さて、ここで一つの疑問が生まれます。連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、プルトニウム239なり、ウラン235なりに中性子が飛び込む必要があります。じゃあ、最初の核分裂を起こすための中性子はどこから来るのかというものです。
実は、プルトニウムやウランは、自然に核分裂を起こして中性子を発しているのです。これを自発的核分裂(または自発核分裂)と呼びます。
以下に、1kgのプルトニウムとウランが1秒間に自発的核分裂を起こす確率を記します。
●プルトニウム239: 7.01回/秒・kg
●プルトニウム240: 489,000回/秒・kg
●ウラン235: 0.0056回/秒・kg
●ウラン238: 6.93回/秒・kg
プルトニウムの塊には、プルトニウム239だけでなく、必ずプルトニウム240が含まれています。プルトニウム240は比較的高い頻度で自発的核分裂を起こすので、最初の1個の中性子は簡単に生まれます。
ウランの方は、ウラン235は自発的核分裂の確率は低いのですが、必ず一緒に存在するウラン238は、十分に高い確率で自発的核分裂を起こします。1999年9月30日に起きた東海村JCO臨界事故は、ウランによるものでした。臨界状態への引き金を引いたのはウラン238の自発的核分裂だったと考えられます。

なお、原爆や原子炉では、連鎖的核分裂反応をより確実に、均等に起こさせるため、別に中性子源を用意しています。

デーモン・コアの事件は、いとも簡単に臨界が起きることを教えています。
問題は、「濃度」と「大きさ」と「形状」です。
よく、炉心溶融(核燃料の溶融)と臨界(再臨界)が混同されますが、これはまったくの別物です。核燃料が溶けていなくても再臨界は起きるのです。そして、臨界状態になれば、大量の中性子線が飛び出し、近くにいる人は確実に死にます。また、ヨウ素131やセシウム137、ストロンチウム90といったやっかいな核分裂生成物が、これまた大量にばらまかれます。

この記事はここまでとして、次の記事で、今後、福島第1では核燃料の溶融や再臨界が起きる可能性があるのかを考えていきます。

再溶融や再臨界は起きるのか2011/08/21 21:23

福島第1そのものは、今、どうなっているのでしょうか?どうも政局に目を奪われて、マスメディアも、私たちも、視点が一番重要な部分から離れているような気がします。
一度、冷静に見直してみましょう。

まず使用済み核燃料プールです。1号炉から4号炉まで、すべてで循環冷却システムが稼働し、水温は32℃~42℃(8/20現在)と安定してきています。
ただ、大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性は残されています。
崩壊熱というのは、連鎖的核分裂反応によってできた核分裂生成物(ヨウ素131・セシウム137・ストロンチウム90など)や超ウラン元素(プルトニウム239やアメリシウム241など)が、放射線を出して崩壊する際に、その放射線が他の物質に衝突して発生する熱のこと。核燃料は、崩壊熱が少なくなるまで、使用後3年間は原子炉に付属するプール内で、循環する水を使って冷却し続けないと、どこにも動かせません。

最悪の場合、使用済み核燃料プールで核燃料が溶融する可能性があると記しましたが、再臨界はどうでしょうか?溶融した核燃料がプールの底に有る限り、平らに集まるので、再臨界の可能性は低いと思われます。
しかし、大量の核燃料が一気に溶融すれば、<水が無い→崩壊熱で温度が上がる→さらに水が蒸発して無くなる→崩壊熱でさらに温度が上がる>という悪循環が起きます。溶融した使用済み核燃料は、プールの底のコンクリートを溶かして、下に落ちていくでしょう。この時、何が起こるのか… 下に何があるのかによって決まります。大量の水があれば、水蒸気爆発です。

この使用済み核燃料に対する危惧は、福島第1でなくても、すべての原子力発電所に当てはまります。ただ、福島第1の場合は、地震・津波・水素爆発で建屋や施設が大きく損傷。循環冷却システムは仮設と言ってよい急造り。不具合が発生する可能性が高いので、危険性は、より高いのです。


1号炉から3号炉までの原子炉本体はどうでしょうか。
いまだに圧力容器内の、本来、燃料棒の頭頂部がある位置よりも2メートル前後下の位置までしか水で満たされていません。燃料棒は4メートル程の長さですから、元の形を残していれば、半分しか水に浸かっていない状態です。ただ、炉心溶融した際に、上の方から溶け出した可能性が高いので、現在、水面の上に出ている燃料棒があるかどうかは不明です。

圧力容器は、穴の開いたヤカンのようになっているので、溶けて固まって圧力容器の底にある核燃料は、一応、水の中です。圧力容器を溶かして、格納容器にまで達している分は、流れる水に洗われている状態でしょう。大量の放射性物質を溶かし出しながら。

原子炉本体に関しては、当初、圧力容器を水で満たす水棺を目指しました。しかし、容器の底に穴が空いているために不可能と判明。循環冷却システムの構築を目指していますが、漏水が多く、あっちこっちに溜まった汚染水を浄化して、なんとか炉心に水を注ぎ続けているというのが現状です。
これは綱渡りと言ってもよい状態です。何らか理由で注水が止まれば、冷えて固まっている核燃料が、崩壊熱でふたたび溶け出します。

チェルノブイリ事故では、2度の水蒸気爆発が起き、放射性物質がヨーロッパ全域とも言える広範囲に撒き散らされました。しかし、それでも想定された最悪の水蒸気爆発は避けられました。
チェルノブイリには4基の原子炉がありましたが、事故を起こした4号炉を含めて、すべて福島第1とは異なる黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉というタイプでした。従って、まったく同じようには語れないのですが、原子炉の底の部分に溶融した燃料が集まり、コンクリートの底を溶かし始めたのは、ほぼ福島第1と同じです(福島第1の圧力容器の底は鋼鉄製)。
そのコンクリートの下には、大量の水を蓄えた水槽がありました。ここに一気に溶融した核燃料が落ちたら、巨大な水蒸気爆発が起きます。水を入れたバケツに、真っ赤に燃える石炭をスコップ一杯でも投げ込んだらどうなるでしょうか。その大規模版が原発の水蒸気爆発なのです。
もし、この大規模な水蒸気爆発が起きていれば、残りの3つの原子炉にも被害が及び、放射性物質による汚染は数倍になっただろうと言われています。爆発を防いだのは、3人の男たちでした(ソ連軍の軍人と思われる)。彼らは潜水具を付けて、高濃度に汚染された水が溜まる水槽に潜り、水栓を抜いてきたのです(風呂の栓ではありませんから、実際にはバルブを開けたとか、そんな作業でしょう)。その後、予想通り原子炉の底のコンクリートが溶けて抜け、高温で溶けたままの核燃料が空になった水槽へと落ちました。最悪を越える最悪だけは避けられたのです。

ここでチェルノブイリの話を出したは、福島第1で、これに近い事態が起きる可能性が残されているからです。もし、何らかの理由で注水が止まれば、水の無い圧力容器内で、核燃料はほどなく溶融します。それが一気に圧力容器の底を溶かしたら、下で待っているのは格納容器の底に溜まった大量の水なのです。

考えてみれば、事故発生当初に起きていたメルトダウン(メルトスルー)の段階で、水蒸気爆発に至らなかったのは幸運でした。三つの原子炉はどれも一度は、圧力容器が完全に空焚きの状態になっていました。炉心溶融が、もっと激しく進んでいたら、ヤカンの底が丸ごと一気に抜ける可能性もあったはずです。下は格納容器に溜まった水。水蒸気爆発が起きます。今、圧力容器に空いている穴が、比較的小規模なもので済んでいるのは不幸中の幸いなのです。少なくとも、事故発生当初の段階で、「メルトダウン(メルトスルー)から水蒸気爆発」という最悪のシナリオは回避されました。しかし、今後もそれが起きないとは断言できないのです。恐ろしいのは、冷却水が止まることです。

さて、炉心での再臨界の可能性に話を進めましょう。
一つ前の記事で、再臨界が起きるかどうかは、固まった核燃料の「(ウラン235の)濃度」「大きさ」「形状」で決まると述べました。今、3つの原子炉の中で、核燃料は冷えて固まった溶岩のようになっています。巨大な塊もあれば、一抱えほどの大きさのもの、あるいは石ころのような状態になっているものもあるでしょう。
怖いのは、何かのキッカケで、それらが大きな集まりになることです。一つの塊なら臨界に達しなかったものが、二つ、すぐ近くに寄っただけで臨界反応が始まる可能性があります。例えば、冷却水の流れや、余震などによって、岩のような塊が転がって集まっただけで…
また、デーモン・コアの時のように、核燃料の上に、偶然、中性子を反射する物質が落ちてくるのも怖いです。
ちょっとしたキッカケで、核燃料は、簡単に臨界状態になるのです。

核燃料が再溶融して、ドロドロの一塊になった場合も極めて危険です。全体が臨界状態に達すと言うよりは、瘤状に盛り上がった部分(球に近い形状)や、例えば、広めの空間に流れ込んで、少しでも球に近い形でまとまった時、臨界が起きる可能性が高いのです。
何度か書いている通り、臨界状態になれば、大量の中性子線が出て、近くにいる人は間違いなく死にます。温度も飛躍的に上がるので、周りで様々な化学反応が起き、水素爆発の可能性が高まります。さらに、大量の核分裂生成物が生まれ、それがばらまかれます。

今、いくつかの悪い想定を積み重ねて、核燃料の再溶融や再臨界を論じていますが、福島第1の建屋や施設がボロボロになっていることを考えれば、心配しすぎとは言えません。
とにかく、冷却が止まらないように最大限の努力を続けること。そして、急造りの冷却システムの危うさをどう補うのかを考えないといけません。チェルノブイリで採用された石棺方式も、一つの選択肢かも知れません。






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