海の生態系の汚染が本格化してしまった2011/10/16 12:10

やっと福島沖のプランクトンの調査結果が発表されました。
『プランクトンから高濃度セシウム【NHK】

沿岸3kmの海域で669ベクレル/kg。高い数値です。
報道では、「スズキなどの大型魚」への影響を懸念していますが、プランクトンは多くの魚の栄養源。例えば、動物プランクトンの代表格=オキアミは、「海洋生態系のエンジンを動かす燃料」とまで言われています。心配なのは、スズキだけではありません。今まさに、南下の旅真っ盛りのサンマは、オキアミを追っているのです。

外殻を持つプランクトンは動物性、植物性を問わず、セシウム以上にストロンチウム90を溜め込みます。プランクトンの殻は、その大部分が炭酸カルシウム。殻を維持するためには、たくさんのカルシウムが必要なのです。ストロンチウム90はカルシウムと化学的な性質が似ているため、カルシウムと勘違いして取り込み、そして溜め込んでしまいます。

下の図は、河川の例。ストロンチウム90などの放射性物質は、食物連鎖の上位に行くほど濃縮されます。これは、生体が栄養素を濃縮する生体濃縮という機能を持っているからです。放射性物質は、命を維持するための機能を逆手に取ってくるのです。


今回のプランクトンの件は、放射性物質による海洋生態系の汚染が、少なくとも3ヶ月ほど前には本格的に始まっていたことを意味しています。それは食物連鎖によって、すでに私たちの食生活を脅かしています。ストロンチウム90をカルシウムと勘違いして溜め込むのは、プランクトンだけでなく、すべての生体に共通。人間もまた例外ではありません。

一方で、プランクトンの調査を徹底して行えば、海域ごとの汚染度が分かり、魚を獲ってよい場所と獲ってはいけない場所を、ある程度明確にすることができます。先回りして対策を立てることが可能になるのです。

とにかく、食の安全と漁業者の暮らしを守るために、プランクトンの調査を早急に、大規模に行う必要があります。もちろん、ストロンチウム90を調べなければ意味はありません。また、今回のように7月の調査結果が、今頃になって出てくるようでは、話になりません。速やかにすべてのデータを公開することも大切になります。

●参考:過去にこの問題を扱った当ブログの記事
『オキアミを見れば海がわかる』(4/18)
『海からストロンチウム』(5/10)
『恐怖のストロンチウム90』(6/12)


低線量内部被ばく/「毎日少しずつ」の恐怖2011/10/17 22:44

一日に1000ベクレルのセシウム137を摂取するのと、毎日毎日10ベクレルずつを長い間摂取し続けるのでは、どちらが怖いのでしょうか?
1000ベクレルと聞くと、一瞬、大きな数字に驚きますが、実は、後者の方がずっと怖いのです。下のグラフはICRPが発表している、摂取量・摂取状況の違いによる「セシウム137の体内残留量」です。

放射線による被害を少なめに計算する傾向があると言われるICRPですら、この結論に達しています。もちろん、尿や便での排泄量を計算した上の数字です。
毎日、たった10ベクレルを継続的に摂取しただけで、1年半ほど経つと、体内にあるセシウム137の量は1400ベクレルにもなってしまうのです。
その先は、摂取量と排泄量が釣り合った状態が続きますので、ずっと1400ベクレルからの内部被ばくを受けます。こういった、毎日少しずつ受ける内部被ばくを『低線量内部被ばく』と言います。

一日、たった10ベクレルでも、1400ベクレルに…
さて、まずは、この1400ベクレルが高いか低いかという判断です。よくセシウム137と比較されるのは、自然に存在するカリウム40。化学的な性質が似ているので、体内での振る舞いも同様だと考えられているからです。
このカリウム40は、体重60kgの男性で4000ベクレルが体内にあります。ここにもし、セシウム137の1400ベクレルが加わると1.35倍。人類が地球上に登場して300万年と言われますが、体内にあるカリウム40の量は、ほぼ4000ベクレルで変わったことがなかったはずです。それが、急に1.35倍に増えるのと同じ。何も起きないと断言する方が変です。

次は、この試算に用いられている10ベクレル/日という数字についてです。
もちろん、食べ物に含まれているセシウム137をすべて人体が吸収するわけではありません。それも考え合わせましょう。しかし、仮に1/3だけを吸収したとしても、一日30ベクレルを飲食で摂取しただけで、残留量は1400ベクレルに達してしまうのです。今現在の暫定基準値は、米も肉も魚も野菜も500ベクレル/kgです。人間は、毎日1.5kg~3kgを飲食しています。500ベクレル/kgは、誰がどう考えても危険な数字です。

もう一つ、上のグラフには表れない恐怖もあります。
下は、チェルノブイリ事故で大きな被害を受けているベラルーシでの調査結果。セシウム137の臓器ごとの蓄積量を大人と子供に分けて示しています。

かつて、セシウム137は、全身に平均的に蓄積されると言われていましたが、実はそうではなかったのです。
特に子供では、甲状腺、骨格筋、小腸、心筋に偏ります。甲状腺ガンを引き起こすのは、ヨウ素131だと言われてきましたが、セシウム137も関係している可能性が高いのです。
また、最近ベラルーシでは、ガン以外の病気として、心臓疾患が増えています。2005年の段階で1991年の2倍ほどになっています。この原因としても、セシウム137による内部被ばくが疑われています。
臓器によって異なる放射性物質の濃度。一部では、全身平均の2倍とか3倍になるはずです。その結果、心臓が痛めつけられた可能性が高いのです。
それでも、セシウム137は偏りが少ない方です。例えばストロンチウム90の場合は、ほとんどすべてが骨に集まってしまいますから、そこでの濃度は、全身換算の5倍になると推測できます(人間の全体重の内20%が骨)。

たまたま、今朝(10月17日朝)のNHK総合『あさイチ』で、福島の2家族を含む全国7家族の、一週間分の食事に含まれているセシウム137の量を計測していました(方法は、毎食一人前ずつ多く作ってもらい、それを検査に回す陰膳法)。結果的には、5家族で、一週間の間に一回ずつ5~9ベクレル/kgが検出されました。一週間に一回でしたら、それ程、恐れる数字ではないかも知れませんが、これが、もし毎日続いたら、かなりの量のセシウム137が、体内に蓄積することになります。
また、この調査自体は、サンプル数が少なすぎて、どうにも説得力を欠きます。そして、5~9ベクレル/kgという数字が、もし、毎日摂取したら、低い数字ではないのだということも、認識しておく必要があります。

とにかく、今言えることは、500ベクレル/kgという暫定基準値をすぐさま撤回して、もっときめ細かく、そして厳しい基準値を定めることです。
まずそれをしないと、『低線量内部被ばく』によって、健康を損ね、命を失う人が必ず出てしまいます。

放射線とは何か… あえて今、問い直す(1)2011/10/22 17:04

分かったようで分からない放射線。3種類の放射線をゴッチャにして論じて、特に、内部被ばくを過小評価しようと動きがあります。これに対抗するために、今一度、放射線とは何なのかを問い直してみようと思います。

実は、放射線と一口に語られますが、アルファ線、ベータ線、ガンマ線は、物理学的にはまったく別なものです。

ガンマ線はX線よりも波長の短い電磁波。光や電波の仲間です。電磁波なので質量はありません。また、電磁波は波長が短ければ短いほどエネルギーが大きいので、ガンマ線は遠くまで届き、一部は人体を突き抜けるほどの透過力を持っています。放射線が体内に入った時に、DNAなどの分子結合に関わる電子をはじき飛ばす力を電離作用力と言いますが、ガンマ線の電離作用力を1として基準にしています。

ベータ線は、高速で飛び交う電子。電子線とも呼びます。とても軽いですが、質量はあります。大気中でも数十センチから数メートルしか飛べませんので、外部被ばくには、ほとんど関係しません。
一方、ベータ線を出す放射性物質が体内に入ってしまうと、内部被ばくが深刻です。電離作用力は、ガンマ線と同じ1とされますが、もっと強いのではないかと疑問を呈している研究者もいます。

アルファ線は、陽子が2個、中性子が2個という粒子(ヘリウム原子核)です。これも高速で飛びますので、単に粒子ではなく粒子線と呼ばれます。陽子や中性子の質量は、電子の1800倍ありますから、アルファ線はベータ線の7200倍の質量を持ちます。
粒子が持つエネルギーは、その質量と速度の2乗に比例します。従って、質量が大きいアルファ線は大きなエネルギーを持ち、細胞やDNAを破壊する力も大きくなります。
ちなみに、プルトニウム239からでるアルファ線1個(1本)は、セシウム137のベータ線1個(1本)の10倍のエネルギーを持っています。
アルファ線の電離作用力は、ガンマ線やベータ線の20倍とされています。
一方、重いものが遠くまで飛びにくいのは、プロ野球選手が野球のボールを100メートル近く投げるのに、砲丸投げでは世界記録でも20数メートルというのと同じ理屈です。飛距離で言うと、アルファ線はベータ線の1万分の1程度しか飛べません。

運転中の原子炉の中では、ウラン235(一部、プルトニウム239も)が核分裂をしています。その結果できるのが、核分裂生成物。ヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90などが代表的ですが、細かく調べる千種類くらいあるそうです。ただ、半減期が1秒以下というものもありますので、今回の福島第1の事故で、環境中に放出された核分裂生成物の種類は、もっと少なくなります。
核分裂生成物は、主にベータ線とガンマ線を発して、安定した元素に変わります。

一方、核燃料の中にあって核分裂しないウラン238が中性子を取り込むことによって、プルトニウム239をはじめとする何種類かの超ウラン元素ができます。超ウラン元素は、何度もアルファ線とベータ線を発して、最後に安定した元素になります。
下の図は、原子炉の中で、核分裂生成物と超ウラン元素ができる仕組みを簡単に描いたものです。

原子力安全・保安院は、6月6日に「大気中に放出された主な放射性物質(核分裂生成物と超ウラン元素)31種類とその量(推測)」を発表しています(PDFの15ページ目です)。

では、核分裂生成物や超ウラン元素は、どんな仕組みで放射線を発するのでしょうか?
三つの放射線の生成の仕組みを示したのが、下の図です。


まずアルファ崩壊。
陽子と中性子が多すぎて不安定な状態の超ウラン元素が、陽子2個と中性子2個を吐き出して、少しでも安定した元素に変わろうとする過程がアルファ崩壊です。飛び出してきた陽子2個と中性子2個が、アルファ線ということになります。従って、崩壊後の元素では、陽子が2個、中性子が2個、減っています。
ただ、超ウラン元素は、一度アルファ崩壊しただけでは、完全に安定した元素にはなれません。下にプルトニウム239が最終的に鉛207で安定するまでの過程を示します(アクチニウム系列と呼ばれる)。アルファ崩壊やベータ崩壊を繰り返した末に、やっと安定した元素になれるのです。その間に、なんとたくさんのアルファ線とベータ線を放射することか。


では、今度はベータ崩壊に注目しましょう。
一言で言うと、中性子が多すぎて不安定な状態の放射性物質が、一つの中性子を陽子と電子に割ることで、少しでも安定しようとするのがベータ崩壊です。中性子は電気的に中性。陽子はプラス、電子はマイナスです。電気的にもつじつまが合います。できた電子が飛び出してきます。これがベータ線です。
崩壊後の元素では、陽子が1個増え、中性子が1個減っています。質量数(陽子数+中性子数)は変わりません。

次はガンマ崩壊です。
マスメディアの報道や、東電、国が発表する情報を詳しく見ていると、キセノン131mとかバリウム137mとか、質量数の後ろに"m"が付いている放射性物質があることに気がつきます。"m"は「メタ」と読み、「高次な-」とか「超-」といった意味ですが、原子の世界では「エネルギーが余っている」とか「不安定な」と解釈して良いでしょう。
例えば、セシウム137が崩壊してできるバリウム137は、陽子=56個、中性子=81個で、本来安定している元素です。しかし、セシウム137がベータ崩壊しただけでは、原子核内の余計なエネルギーすべてを放出することができず、少しだけエネルギーが余った状態になっています。これがバリウム137m。不安定な状態なので、やがて原子核は安定しようとします。この時に、余ったエネルギーがガンマ線として放出されるのです。
なお、原子や原子核の世界では、エネルギーは飛び飛びの値しか取れませんので、一個の原子について言えば、不安定な状態は徐々に解消するのではなく、安定する時は一瞬で安定します。また、元素の種類ごとに、不安定なエネルギーの値も決まっていますので、飛び出すガンマ線の波長も決まっています(一種類の場合もあるし、複数種の場合も)。従って、ガンマ線の波長を調べるとこで、元素の種類=核種が特定できます。
まとめとして、下に、セシウム137の崩壊プロセスを示します。

核分裂生成物の多くがベータ崩壊をしますが、それだけで安定した元素になるのは限られたものだけです。多くはベータ崩壊の後にガンマ崩壊をします(中にはベータ崩壊を2回繰り返すものも)。結果的には、多くの放射性元素が2種類・2本の放射線を発することになります。このことは、内部被ばくを考える時に、極めて重要です(次の記事で詳しく書きます)。

さて、話は一気に飛びます。
地球が誕生してから46億年。原始地球には超ウラン元素や核分裂生成物がたくさんありました。元素は皆、恒星や原始地球での核反応で作られたものです。できたばかりの元素の多くは不安定で、アルファ崩壊・ベータ崩壊・ガンマ崩壊を繰り返します。
崩壊で出る放射線がかなり減ってきた頃、一番、放射線が届きにくい海の底で生命が誕生。地上の放射線が減るにしたがって、生命は陸に上がり、恐竜の時代が訪れ、やがてほ乳類の時代へ。そして、300万年ほど前に地球に登場したのが人類です。

地球は46億年をかけて、放射性物質を減らし、豊かな生命の営みを包み込む星となりました。地球誕生以来、放射性物質が減ることはあっても、増えることはなかったのです。原爆と原発が登場するまでは…
原爆製造のための最初の原子炉が、シカゴ郊外で稼働したのは1942年の12月です。以来70年弱。人類は、46億年におよぶ地球の歴史をゆがめ、地球を極めて危険な方向に引っぱり続けています。

長くなりそうなので、ここで記事を分けることにします。

放射線とは何か… あえて今、問い直す(2)2011/10/22 22:18

さて、放射線の種類によって、人体への影響がどう違うのか、それを再確認していましょう。

まず、核分裂生成物からの放射線です。前の記事で、ベータ線とガンマ線を出すものが多いと書きました。しかし、ベータ線は大気中では数十センチから精々数メートルしか飛びません。従って、人体が核分裂生成物からベータ線を受けるとしたら、すぐ近くにある核分裂生成物からだけです。さらに、人体に入ってからは、1センチほどしか進めませんので、外部被ばくしたベータ線が内蔵に達することは、まずありません(皮膚ガンを引き起こす可能性はありますが)。
しかし、同じ核分裂生成物から発せられたガンマ線はどうでしょうか… まず、遠くからでも届きます。そして、人体全体に、ほぼ均等な外部被ばくを引き起こします。ガンマ線は透過力が強いので、一部は、体を突き抜けて透過してしまうほどです。ただ、「体を突き抜けて」と書くと恐ろしげですが、まっすぐに突き抜けた場合は、何の害もありません。ガラスを透過する光が、ガラスを壊さないのと同じ理屈です。

アルファ線に関しても、外部被ばくは大きな問題にはなりません。アルファ線の透過力はベータ線の1万分の1程度なので、皮膚に直接乗ったりしない限り、外部被ばくはありえないのです。ただ、アルファ線を出す超ウラン元素は、微量のガンマ線も出しています。大量に超ウラン元素が存在する場合は、それが発するガンマ線への警戒は必要になります。

ここまでで、今回の福島第1の事故に関する限り、外部被ばくは、基本的にガンマ線を警戒すればよいことが分かっていただけたかと思います。

さて、問題は内部被ばくです。まず、下の図をご覧ください。放射線の種類による異なる内部被ばくが及ぶ範囲を図示してあります。

見て頂ければ、アルファ線とベータ線による内部被ばくが、極めて危険である事は明白だと思います。アルファ線とベータ線は、遠くまで飛べない分、近くの細胞やDNAに確実に損傷を与えます。
すべてがガン化の引き金になるわけではありませんが、細胞になんらかの影響を与えるという意味では100%の確率です。片やガンマ線は、内部被ばくであっても、一部は体の外にそのまま飛び出していきますので、すべてが悪さをするわけではありません(ガンマ線を過小評価するわけではありませんが)。
また、ベータ線とガンマ線を出す核種であれば、外部被ばくの約2倍の被ばく量があることも、お分かりいただけると思います。同じ核種による外部被ばくではガンマ線の影響しか受けませんが、内部被ばくでは、ベータ線とガンマ線の両方を被ばくするのです。

ベータ線を発する代表的な核分裂生成物は、甲状腺に集積するヨウ素131であり、骨に集積するストロンチウム90です。政府の発表は、いつも○○シーベルトですが、これは全身が均等に被ばくした場合に換算した数字です。それが甲状腺だけに集積した場合、あるいは骨だけに集積した場合、その器官・臓器における被ばく量は、実質的には何倍、何十倍にもなります。国だけでなく、多くの医学関係者が、このことに目をつぶって、「危険な値ではない」と言い切る神経が理解できません。

一方、アルファ線を放射するのは、プルトニウム239に代表される超ウラン元素です。これらの多くは水に溶けません。それは血液にも溶けないことを意味します。従って、呼吸で肺に入った場合、肺細胞のある部分に長い間留まり続け、数マイクロメートルという狭い範囲にアルファ線を浴びせ続けます。もはや、○○シーベルトはなんの意味も持ちません。超ウラン元素を含む微粒子を数個吸い込んだだけで、肺ガンを発症する可能性が高くなるとされています。

放射線の人体への影響… それを突き詰めたときに明らかになってくるのは、外部被ばくと内部被ばくのメカニズムの違いです。この違いを無視して、すべてを○○シーベルトで語りきろうとする国や一部の研究者、研究機関の姿勢には悪意があると言ってもよいくらいです。ある臓器に、ある核種が、どれだけの量、集積した時に何が起きるのか… それを隠し続ける者たち。大きな憤りを覚えます。
内部被ばくは、まだまだ研究され尽くしているとは言いがたく、一部には、本当に分かっていないこともあります。しかし、「分かっていないから安全」ではないでしょう。「分かっていないことは、最大限の安全を考慮して」でしょう。そうしなければ、放射線から、子供たちの命と健康を、そして私たちの命と健康を守ることはできません。

思わぬところから… 忍び寄る放射性物質の恐怖2011/10/24 09:06

お茶の一件に始まった思わぬ植物や農作物の放射能汚染。
特に空間線量の高くない場所でも、植物の特性や成長期との関係で一気に放射性物質が濃縮されることを私たちは知りました。お茶の木は、新芽を出す直前に、葉から大量の放射性シセウムを栄養分のカリウムと間違って吸収していたと考えられます。
思わぬところから忍び寄ってきた放射性物質の恐怖。
この件に関して、いくつか新しい情報が入ってきました。

●スギ花粉
『スギ花粉の放射能汚染について』【WINEPブログ
このブログでは、独自に杉の雄しべのセシウム137を計測し、懸念を表明しています。非常に意味のある取り組みだと思います。

『スギ花粉のセシウム調査、林野庁が来月にも実施』【読売新聞10/21
林野庁も動き出すようです。
しかし、この記事の中に、たいへんな認識違いがあります。
「花粉症の人は、普段と同じ対策をしていれば、それほど心配する必要はない」。専門家として意見を述べている環境科学技術研究所の大桃洋一郎特別顧問の発言です。
花粉に乗った放射性セシウムを吸い込むのは、花粉症の患者だけではありません。春先になれば、誰もが吸い込んでいるのです。私は患者なので、よく分かるのですが、花粉症の患者には、ある意味で、花粉が見えます。「今日はたくさん飛んでそうだな」とか。危なそうな日にはマスクをします。だから私たち花粉症患者には、花粉に放射性セシウムが乗ってくる絵がはっきりと思い浮かびます。
このままだと、花粉症と無関係な人たちは、まったく無防備のまま、放射性の花粉を吸い込んでしまうでしょう。これは恐怖です。
一方、その季節、花粉症の患者の鼻腔内やまぶたの裏側の粘膜は、炎症を起こしている状態です。そういった場所から、より多くの放射性セシウムが体内に入り込む可能性があるのかどうか… これもまた恐怖です。

実際、スギの花粉は200キロ以上飛ぶと言われます。これまでのエアロゾルとかホット・パーティクルといったチリや火山灰のような形状とは違った飛散の仕方をするでしょう。放射性セシウムから見れば、スギ花粉は、あらたな、そして大きな船のようなものになる可能性が高いのです。
果たして、有効な対策はありうるのか… 春が来るのが怖いというのが、正直なところです。

スギやヒノキに次いで、花粉症の原因となるケヤキも要注意。今はソースを明かせないのですが、東京多摩地区で、ケヤキからだけ、突出した放射性セシウムの値を検出した例があります。

●クリとドングリ
クリは、カリウムが豊富です。と言うことは、放射性セシウムが蓄積しやすい。前から危ないとは思っていたのですが、案の定でした。

(財)食品流通構造改善促進機構が発表しているデータをもとに、一覧表を作成してみました。当ブログ独自の基準で、セシウム137と134の合計で100Bq/kgを越えたものを赤字で示しています。

クリの親戚のような、ドングリはどうでしょうか?
都内のある大学で、農学部の研究者がキャンパス内の銀杏とドングリ(3種類)を調べたそうです(これも事情があって今はソース情報明かせず)。結果は、クヌギのドングリにだけ、放射性セシウムが高濃度に蓄積していました。
「植物はよ―分からん!」とは、この研究者の口を突いて出た言葉。植物における放射性物質の蓄積、濃縮は、分かっていないことがたくさんあるのです。
しかし、「人間はドングリは食べないから関係ない」と見過ごすわけにはいきません。たとえば、夕方になると街路樹に集まって、ギャーギャーとうるさいムクドリ。木の実が大好物です。群れをなして生活しますので、その巣の近くは、糞によって放射性セシウムのホットスポットになる可能性があるのです。

ドングリにも野鳥にも、なんの罪もありません。しかし、思わぬところに、思わぬ形で放射性物質が集積するのです。
まだまだ、いろいろなところで、いろいろなことが起きるでしょう。本当に原子力事故というのは、計り知れない恐怖をもたらします。分かっていたつもりでしたが、身に浸みています。原発はいりません。

しかし、今広まりつつある汚染に対して、立ち向かわざるを得ないのも事実。その時に武器になるのは、これまでに蓄積してきた知識と大胆な想像力です。農業関係者、農学研究者、植物学研究者には、いっそうの努力をお願いしたいものです。

セシウム137とカリウム402011/10/29 10:57

昨日、セシウム137の内部被ばくに関する注目すべきニュースが伝えられました。

『セシウム検出の子ども274人 南相馬市が検査結果公表』【河北新報10/29

例によって、「低い数値で、緊急治療を要する子どもはいない」と発表されていますが、裏読みすると「長期的に見ると治療を要する子供がいる」という意味にも取れます。果たしてどうなのでしょうか…

セシウム137の危険性を論じる時に、よく引き合いに出されるのがカリウム40です。セシウムはカリウムと化学的な性質が似ているので、体内での蓄積のメカニズムなどが、ほぼ同じと考えられているからです。
カリウム40は自然界に存在する放射性物質で、カリウムの中に必ず0.0117%含まれています。植物だろうと、人体だろうと、海の中だろうと、この比率は変わりません。
一方、カリウムは人間にとっての必須栄養素の一つですから。健康な人であれば誰でも、67ベクレル/kgのカリウム40を体内に持っています。
しかし、このカリウム40が人体に何も悪さをしていないかというと、それは断言はできません。少ない数ですが、ガンや他の病気の引き金になって、人を死に至らしめている可能性はあります。ただ、人類が地球に登場してから約300万年の間、67ベクレル/kgという体内での濃度は、おそらく変化していません。人類全体としては、カリウム40の悪さに対して抵抗力と繁殖力が勝ってきたから、私たちは、今、こうして生きていられるのです。

さて、南相馬の子供たちのセシウム137の話に戻りましょう。
最も大きな値が出た子供は45~50ベクレル/kgです。ここでは、計算をしやすくするために50ベクレル/kgとします。
よく「天然放射性物質のカリウム40が67ベクレル/kgもあるんだから、50ベクレル/kgなんて心配無用」という言われ方をしますが、これはまったくの間違いです。セシウム137による被ばく分をカリウム40の分と比較しても意味はないのです。なぜなら、セシウム137はカリウム40に対する上乗せ分として効いてくるからです。比較するなら、セシウム137とカリウム40の合計を3.11以前のカリウム40と較べるべきです。考え方は下の図の通りです。

セシウム137が50ベクレル/kgの場合で見ると、ベクレル値は3.11以前の1.75倍に上がっています。これを誰が安全と言えるのでしょうか?300万年間、変わることのなかったカリウム40の体内での濃度が、いきなり1.75倍に跳ね上がったのと同じことなのです。

今回の発表で、うやむやにされている点もあります。今後、南相馬の子供たちが、あらたにセシウム137を体内に取り込む可能性をどう見ているのかです。それを明示しないで「生涯に受ける累積線量は0.41ミリシーベルトと推定」なんて言っても、意味がありません。今後の、呼吸による摂取と飲食による摂取をどう推測しているのか、あるいはまったく算入していないのか、ただちに明らかにすべきです。

セシウムは比較的代謝が速い物質で、大人で100日程度、小学校低学年で30日程度で体内残留量は半分になるとされています。今回、50Bq/kgが検出された子供は小学校低学年。ということは、3か月間、クリーンな環境に移住または疎開させることで、体内残留量は1/8にまで下げることができます。クリーンな環境とは、呼吸によっても、飲食によってもセシウム137を摂取する可能性がない場所ということです。
子供たちの将来を考えるなら、こういった対応を積極的にとっていかないと、あとで悔やむことになりかねません。
東電の責任を明確にしつつも、今のところ、東電による対応は期待できませんから、国と自治体が、すぐに動くべきでしょう。
今回、内部被ばくが確認された274人を真っ先に。加えて、内部被ばくが疑われるすべての子供たちへの具体的なケアを実行する必要があると思います。

NHK『あさイチ』の怪2011/10/30 18:42

NHK総合、朝の人気番組『あさイチ』で「放射能大丈夫?食卓まるごと調査」が放送されたのは10月17日のことです(私は、偶然だったのですが、リアルタイムで見ました)。
福島の2家族を含む全国7家族の一週間分の食事に含まれている放射性セシウムの量を計測(方法は、毎食一人前ずつ多く作ってもらい、それを分析に回す陰膳(かげぜん)法)。結果的には、5家族で一週間の間に1回ずつ5~9ベクレル/kgが検出されたというものです。
当ブログでも、その日にアップした「低線量内部被ばく/「毎日少しずつ」の恐怖」 で、番組内容に簡単に触れました。

「厳密な検査でも、一部の家庭で微量の放射性セシウムしか出なかった。福島でさえも」という、このレポートの反響は大きく、「これで安心して子供に食事を食べさせられる」といった声が上がりました。

ところが、一方で、「データが変だ」という声も広がりました。当ブログにも、『あさイチ』のデータに関するコメントを頂き、さっそく、NHKのホームページに上がっているデータを見直してみて、ビックリ。このPDFです。

まず第一の疑問は、7家族7日分=延べ49日分の食事を調べ、5日分から5~9ベクレル/kgの放射性セシウムが検出されているのですが、5件ともセシウム134かセシウム137のいずれかしか出ていないのです。
福島第1原発からの放出量を見ると、セシウム134(半減期:2年)が1.8京ベクレル、セシウム137(半減期:30年)が1.5京ベクレル(京は兆の1万倍)です。半減期の関係で、セシウム134の方が多少減りが早いのですが、現状では環境中にある福島第1由来のセシウム134とセシウム137は、ほぼ同量と見られます。おまけに、化学的な性質はまったく一緒。比重や融点、沸点なども一緒です。従って、2種類の放射性セシウムは、同じように、一緒に混ざったまま拡散していったと考えるのが妥当です。
下の地図は、文科省が発表した航空機モニタリングのデータです(福島第1の北側30キロ~60キロ圏)。セシウム137とセシウム134の広がり方も土壌への沈着量も、ほぼ同じです。

また、植物にしても、動物にしても、どちらかの放射性セシウムを選んで吸収することはできませんから、両方あれば、両方を吸収。私たちが食べる食品の中に入っていきます。
その証になるのが、食品別に放射性物質の濃度を発表している食品流通構造改善促進機構のデータです(シイタケなどを見ると分かりやすいです)。2種類の放射性セシウムのうち、片方だけが検出されるのはまれで、ほとんどの場合、両方同時に検出されています。
しかし、『あさイチ』では、5例が5例とも揃って片方だけなのです。これは、検査機器は大丈夫なのか?と疑って当然です。

もう一つの大きな疑問は天然に存在する放射性物質であるカリウム40の値です。延べ49日分のデータは、一日平均で250~470ベクレル/kgの間に入っています。しかし、通常、食品に含まれるカリウム40の濃度を見てみると下の表のようになります。

海草類などで高いものがありますが、食品全体を見れば200ベクレル/kgを越えるものはわずかしかありません。特に主食系の穀類では、ここに上げただけでなく、参考にした『家族で語る食卓の放射能汚染』のすべてのデータを見ても中華麺の99ベクレル/kgが最高で、100ベクレル/kgを越えるものはありません。
ところが、『あさイチ』のデータは、49日分すべてが、一日の平均で250ベクレル/kgを越えているのです。主食とおかずをどんな組み合わせにしても、250ベクレル/kg以上は、あり得ません。
番組では、水(おそらく飲料水)と米だけのカリウム40のデータも取っていますが、これらも考えられないような高い数値になっています。
カリウム40のデータも正しいのかどうか、疑わざるを得ないというか、ほぼ間違っているでしょう。

ところが、測定を担当した首都大学東京の福士政広教授もNHKも、「精度の高いゲルマニウム半導体検出器を用い、通常よりも時間をかけて綿密に調べた」と自信満々でした。
しかし、まず不思議なのが、専門家中の専門家であるはずの福士教授が、「セシウム137とセシウム134が一緒に出ない」「カリウム40の値が高すぎる」と疑問に思わなかったのでしょうか?NHKもNHKで、多くのスタッフが関わっているはずなのに、誰一人としてその疑問を持たなかったのでしょうか?

あるジャーナリストが、福士研究室に尋ねたところ、「機械の故障等で正確なデータではなく再分析中」という、とんでもない返事が返ってきたようです。故障した機械で取ったデータを全国放送に流すか!それも自信満々で。この記事を見た時、手が震えるような怒りをおぼえました。

NHKは、ホームページ上で再分析を行っていることを明らかにしています
「調査を担当した首都大学東京と、外部分析機関の協力を得て、データの再検討を行っています。結果が出次第、改めてホームページで公表いたします」と。
番組が大きな反響だったことを考えれば、もし、異なる結果が出た場合は、ホームページでの公表だけでは許されないでしょう。『あさイチ』で再度特集し、正しい情報を伝え直すのが報道機関の役目であり、責任だと考えます。

これは、多くの命に関わる問題なのですから。






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