竹の子とイノシシ2011/05/01 22:16

福島県産のタケノコとコゴミから国の基準を越える放射性セシウムが検出されました。

植物は、みずからの命を維持するために、主に地中からカリウムを吸収します。農業や園芸の世界で三大栄養素と言えば、窒素、リン酸、カリ。カリとはカリウムのことです。セシウムは化学的な性質がカリウムと似ているため、タケノコは、福島第1原発から漏出した放射性セシウムをせっせと体内にため込んだのです。
しかし、タケノコが生えている土壌を調べてみても、とんでもない濃度の放射性セシウムは検出されないでしょう。タケノコが見事に放射性セシウムを濃縮しているのです。これは、ちょっと考え直してみれば当たり前のことで、タケノコは、みずからの命を守るために、地中のカリウムを何十倍、何百倍に濃縮する能力を持っているのです。カリウムかと見間違った放射性セシウムをどんどんため込みます。

チェルノブイリから25年。ドイツですら、いまだに放射性物質の濃度が高すぎて、食用にできないイノシシが獲れます。イノシシの大好物がキノコで、そのキノコが地中に残るあの時の放射性物質を濃縮しているからです。

私たち地球上に生きる命は、体の中で放射性物質を見つけ出し、それを選択的に排泄したり、排除したりする能力を持っていません。従って、食物連鎖に輪に放射性物質が入り込んだ時、これに対抗するのは大変に難しいことになります。

25年前に旧ソ連で原発事故があり、放射性物質がヨーロッパにも降り注ぎました。その放射性物質はキノコに取り込まれ濃縮されます。そのキノコを食べたイノシシは、さらに放射性物質を濃縮します。それを知らずに人間が食べたら… 恐怖の「風が吹けば桶屋が儲かる」。これはギャグではありません。

外部被曝の現状2011/05/05 11:14

今現在、私たちは、そして福島の人たちは、どの程度の放射線に被曝していて、今後はどうなっていくのでしょうか?状況を一旦、客観的に見直し、今後について考えてみたいと思います。

まずは外部被曝です。原発の至近距離でない限り、外部被曝の原因は、空気中を浮遊する塵などに乗った「浮遊放射性物質」と、それが地面や建物に沈着した「沈着放射性物質」に分けられます。この両方から受ける放射線量を合計したものが空間線量です。

ただ空間線量=被曝線量ではありません。屋内では線量が下がるからです。ここで面倒なのは、「浮遊放射性物質」と「沈着放射性物質」では、屋内で減る率が違うことです。
「沈着した放射性物質」は、家の中にいればかなり遮れるでしょう。上のデータを見ると木造家屋でも屋外の0.4倍となっています。
一方、「浮遊放射性物質」は、木造家屋内では0.9倍にしかならないとされています。対策は、窓を閉め切ったり、洗濯物を外に干さなかったり、外出から帰ったら玄関の外で埃を払うといった「花粉症対策」と同じ。これである程度被ばく量を減らすことができるとされます。

なお、ここで扱っている放射線はガンマ線です。
なぜならアルファ線とベータ線は透過力が非常に弱いため、それを発する物質に直接手で触ったり、体内に取り込まない限り危険性はあまりないからです(体内被曝は深刻です)。ちなみに空気に対する透過力は、アルファ線が1センチ以下、ベータ線が1メートル程度。ガンマ線はかなり遠くまで届きます。従って、事故現場から数キロ以上離れた場所では、外部被曝はガンマ線だけを考えておけばよいわけです。

ではまず、東京の状況を見てみましょう。
都内の降下物(塵や雨)の放射能調査結果」を見ると、「浮遊放射性物質」は、かなり減ってきています。今 現在の空間線量の多くは「沈着放射性物質が出している放射線」と考えてよいと思います。ということは、木造家屋における軽減係数は、一応、0.4と。

空間線量はどうでしょうか。
ここのところ下がってきて、0.07μGy/h(=0.07μSv/h)程度です。
これを一日8時間を外で過ごすとして計算すると、年間の実効被曝量は
((0.07μSv/h x 8時間)+(0.07μSv/h x 0.4 x 16時間))x365日=368μSv/y=0.368mSv/y
となります。
一般人の年間限度量=1mSv/y以下ではありますが、福島第1の事故以前の平均値は0.04μSv/hくらいでした。倍近くにはなっていますので安心は禁物です。

一方、福島は…
どこを探しても、「浮遊放射性物質」のデータがありません。これでは正確な外部被曝の量を計算しようにもできないはずです。まだまだモニタリングの体制が弱体です。
やむを得ず東京と同じ「木造家屋における軽減係数=0.4」で計算してみます。
5/4現在の福島県双葉郡の空間線量は1.7μSv/h。これを年間の実効被曝線量に直すと8.9mSv/yとなり、問題となっている20mSv/yには及びませんが、1mSv/yという基準の8倍に達しています。
一方で、http://atmc.jp/school/ を見ると、空間線量は地域によってかなりの偏りがあり、中には6.8μSv/h(年間実効被曝線量=35.7mSv/y)などという恐ろしい値も出ています。リンク先にある地図を大きく拡大してみると分かりますが、地域の中でも大きく値が異なる場所があります。これは、放射性物質が埃と同じように吹き溜まることを示しています。狭い地域の中にも、大変危険な場所と比較的安全な場所があります。それを見極めるためにも、より一層綿密なモニタリングが必要でしょう。
その結果、ある程度広い範囲で年間実効被曝線量が1mSv/yを越える地域では、大規模な避難が必要になると思います。

今回は、外部被曝だけを考えてきましたが、次は内部被曝を取り上げます。

内部被曝の再検討2011/05/05 17:06

呼吸や飲食によって体内に取り込まれた放射性物質が体内で発する放射線によるのが内部被曝です。
このブログでもそうでしたが、普通、内部被曝は放射性物質の種類(核種)ごとに語られます。ただ、放射線の種類によって「怖さ」が違うという事実もあります。いつもとは違う視点から、内部被曝を再検討してみます。

まず放射線には、アルファ線・ベータ線・ガンマ線の3種類があります。放射線として一括りにされていますが、実は物理学的にはまったく別なものです。
アルファ線はヘリウムの原子核。陽子を2個、中性子を2個持っています。
ベータ線の実体は電子の流れです。電子の質量は陽子や中性子の1/1800ですから、アルファ線に比べるとずっと軽いですが、質量はあります。
ガンマ線は、光や電波と同じ電磁波の仲間で、X線よりも波長が短いもの。波長が短ければ短いほどエネルギーが高いので、ガンマ線は強い透過力を持っています。電磁波なので質量はありません。

なぜ、まったく異なるものなのに、放射線として一括りにされるのでしょうか?
放射線は電離作用を持つ電磁波や粒子線と定義されます。電離作用とは、原子や分子の中にある電子をはじき飛ばす力。放射線の人体への影響は、DNA内の電子をはじき飛ばして、DNAの分子結合を壊してしまうことから始まります。遺伝情報を持つ二重らせん構造を破壊、正常な細胞分裂をできなくし、ガンなどを引き起こすのです。
ちなみに、生体にはDNAの破損を自律的に修復する能力がありますが、破損が大きいと追いつかなくなります。

さて、放射線の種類によって電離作用の強さは違うのでしょうか?

アルファ線はガンマ線の20倍の電離作用を及ぼします。アルファ線は透過力が弱いので体内では数十μm(マイクロメートル)しか進むことができません。逆にその事が禍して、至近距離にある細胞のDNAを集中的に傷つけます。

ベータ線は生体内では数cmしか進めません。これまた、至近距離にある細胞のDNAをピンポイント攻撃します。
電離作用の強さはガンマ線と同等とする考え方が主ですが、生体内から外に出ることがないので、生体への影響はガンマ線より強いという意見もあります。

ガンマ線は生体内でもかなりを距離を進みます。レントゲン写真が撮れるX線よりもエネルギーが高いと言えば、直感的にその透過力が分かると思います。ある程度、広い範囲で電離作用を引き起こし、一部は体外にも飛び出してきます。

さて、ここまで考えてみて、基本的な疑問が沸き起こります。体内に取り込まれた放射性物質から出る放射線の内、体の外で検出できるのはガンマ線だけ?
そうなのです。アルファ線とベータ線は悪さをした後、すべて体内で吸収されてしまうので、体の外では検出できません。
従って、アルファ線やベータ線を発する放射性物質を体内に取り込んだかどうかを調べるのは、極めて難しいことです。取り込んだばかりなら、鼻腔内や喉の粘膜を調べることで被曝量を推測できるとされていますが、出てきた数字の何倍が体内に入ったか分からないでしょう。あとは、便や尿から調べるしかありません。しかし、当然にも十分な数のデータがないので、かなり大雑把な推測しかできません。
ガンマ線は、体外に出てくる線量を計ることで、およその体内被曝量を知ることができます。

外部被曝では、あまり考慮する必要のないアルファ線とベータ線によって引き起こされる内部被曝は、そのDNAを破壊する力において、また、放射性物質を体内に取り込んだことが分からないという意味でも、極めて深刻なのです。

では最後に、放射性物質ごとに、放出する放射線の種類などをまとめておきましょう。

●ヨウ素131
放射線の種類=ベータ線・ガンマ線
半減期=8日
内部被曝の特徴=甲状腺に集まって、甲状腺ガンを引き起こす。

●セシウム137
放射線の種類=ベータ線・ガンマ線
半減期=30年
内部被曝の特徴=体内でカリウムと置き換わり、筋組織などに蓄積する。

●ストロンチウム90
放射線の種類=ベータ線
半減期=30年
内部被曝の特徴=体内でカルシウムと置き換わり、骨髄に蓄積。白血病を引き起こす。

●プルトニウム239
放射線の種類=アルファ線
半減期=2万4千年
内部被曝の特徴=肺に蓄積されると肺ガンを引き起こす。

海からストロンチウム2011/05/10 19:03

ちょっと反応が遅れてしまいましたが、5/8、福島第1原発の敷地内や周辺の海からストロンチウム90が検出されたとの発表がありました。当ブログを含む様々なところで、「どうしてストロンチウム90のデータが出ないのか?」という指摘があるなかで、東電も原子力安全・保安院も文科省も、ずっと黙り通していました(4/12に一度だけ、文科省が浪江町と飯舘村で微量を検出と発表)。

ストロンチウム90は核分裂反応によって作られる放射性物質で、運転中の原子炉内では、セシウム137とほぼ同量が生成されます。チェルノブイリの報告を見ると、事故現場から離れるほど、ストロンチウム90はセシウム137よりも減っています。これは大気中の塵に乗りにくいからと考えられます。逆に言えば、事故現場近くには高濃度で存在するということです。
海洋汚染は深刻です。カルシウムと性質が似ているので、イオン化して海水に容易に溶け出すと考えられます。溶け出したストロンチウム90をせっせと体の中に取り込むのが、この間、話題となっているコウナゴ。そしてオキアミ。食物連鎖に従って、大きな魚へと汚染が進む可能性は高いです。魚も人間も、生物は皆、ストロンチウム90をカルシウムと勘違いして、骨に溜め込みます。骨に集まったストロンチウム90は、ベータ線を骨髄に向けてピンポイント照射し、白血病を引き起こします。最も深刻な内部被曝と言われる所以です。
モニタリング(監視)を徹底して行う必要があります。やっと文科省も海のストロンチウム調査を実施すると発表しました。

ストロンチウム90をめぐる恐ろしい話が残されていますので、ご紹介しましょう。
登場人物は、広島と長崎に原爆を落としたマンハッタン計画の中心的科学者、ロバート・オッペンハイマーと、やはりマンハッタン計画に従事した科学者、エンリコ・フェルミです。

フェルミ「ヒットラーに原爆製造を思い留まらせるには放射性物質をドイツの小麦畑に蒔くのが効果的だ」
オッペンハイマー「それには骨に沈着して離れにくいストロンチウム90が一番よい。ただし、50万人を殺せる確信ができるまではやめた方がいい」
(「内部被曝の脅威」(ちくま新書)より)

ストロンチウム90の恐ろしさは、70年近く前、すでに科学者の間では常識だったのです。

モンゴルの最終処分場2011/05/11 15:48

5/9、毎日新聞の一面トップは、「核処分場:モンゴルに建設計画 日米、昨秋から交渉 原発ビジネス拡大狙い」という大スクープでした。
見出しにある「核処分場」とは、高レベル放射性廃棄物の最終処分場のこと。世界的に行き先がなくなってしまい、各国とも苦慮している原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分場を日・米・モンゴル共同で作り、ロシアやフランスの原発ビジネスに対抗する計画だったようです。また、日本もアメリカも国内で高レベル放射性廃棄物を処理できず、溜めるだけ溜め込んでいる状況ですから、それをモンゴルに持って行こうという腹づもりもあったでしょう。世界中の目を避けるように極秘裏に、とんでもない計画が進んでいました。

さて、高レベル放射性廃棄物の最終処分場とはどういうものなのでしょうか?まず、高レベル放射性廃棄物=使用済み核燃料と考えて問題ありません。日本では一日あたり1.4トンも発生しています。
使用前の核燃料は核分裂を起こすウラン235が4.1%、ほとんど核分裂しないウラン238が95.9%というのが、福島第1原発のような沸騰水型原子炉では一般的です。
約3年間原子炉内で使用したあと、使用済み核燃料になります。この時点でもウラン235は最初の1/3ほど残っているのですが、核分裂の効率が悪くなっているので、捨てざるをえません。また、ウラン235の核分裂で発生した核分裂生成物質(セシウム137・ストロンチウム90など100種あまり)が4.5%、同じく核分裂で発生した中性子をウラン238が吸収してできるプルトニウム239が1.1%とという比率になります。


この放射性物質だらけの使用済み核燃料(高レベル放射性廃棄物)を地層の奥深くに埋めてしまおうというのが、最終処分場です。

今、フランスと日本では、使用済み核燃料を再処理して、ウラン235とプルトニウム239だけを取り出し、再度発電に利用する核燃料サイクルを実現しようとしていますが、この場合も、再処理施設から大量の高レベル放射性廃棄物が出てくることに違いはありません(核燃料サイクルと再処理施設は他にいくつもの大きな問題を抱えているのですが、それは別の機会に触れます)。

日本では現在、高レベル放射性廃棄物をどうしているかというと、大半は原子力発電所の敷地内で保管している状態です。2009年9月末時点で1万2840トンに膨れあがっています(これまでにフランスとイギリスに再処理を委託した7100トンを除いてです)。

世界中で、現在までに最終処分場の建設が具体的に始まっているのはフィンランドだけ。2020年に操業を開始する予定ですが、「高レベル放射性廃棄物が安全になる十万年後まで責任を負いきれるか」という議論が巻き起こっています(映画『100,000年後の安全』)。
アメリカでは、2002年にブッシュ政権がネバダ州ユッカ山地に最終処分場の建設を決定しましたが、地元の反対にあってオバマ政権は2009年に計画中止を発表。高レベル放射性廃棄物の行き先は宙に浮いています。

日本だけでなく、世界の原子力発電は、まさに、トイレのない超高層マンション状態。どこも、放射性廃棄物であふれんばかりです。それをモンゴルに押しつけようという、とんでもないプランが動き始めていたのです。

人類は、もうこれ以上、放射性廃棄物を作り出してはいけません。そのうねりを日本から生み出していく。それは、唯一の被爆国であり、福島第1の事故を経験した日本人の責任とも言えるのではないでしょうか。
そして、今すぐにすべての原発を止めたとしても、日本だけですでに1万2千トン以上の高レベル放射性廃棄物を抱え込んでいます。どこかに最終処分場を作らざるえないという厳しい現実から目をそらすことはできません。

SPEEDIに情報操作か?2011/05/11 17:30

SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)は、高性能のコンピュータを使って、原発事故による影響を、地形条件や気象条件を細かく算入した上で予測するシステムです。2010年度だけでも7億8000万円という税金を使って運用されています。
政府は、それを「生データを公表すれば誤解を招く」という本末転倒な対応を続けてきました。

情報隠しに対する批判の高まりを受けて、やっと公開されるようになりましたが、どうも出ている情報が足りないような気がして、「SPEEDIの出力図形の一覧」を確認してみました。そうしたら、なんと、ヨウ素以外のFP核種(=核分裂生成物)に関連する内部被ばく関連のデータが、まったくない!
専門用語が並んでいて分かり難いのですが、「地表蓄積量(ヨウ素)(上記以外のFP核種など)/地上に蓄積するヨウ素およびFP核種などの積算量を表示」「内部被ばくによる臓器の等価線量/FP核種などの吸入による肺、骨表面など臓器の等価線量を表示」などは、間違いなく隠されています。特に、ヨウ素131以外の核分裂生成物(半減期が長いセシウム137やストロンチム90)による内部被ばくは、これからも問題となるし、これから注意し、対策を講じても、ある程度効果が期待できるものです。

国は、福島第1の事故に関連するすべての情報を無条件に全面公開すべきです。たくさんの人の命がかかっているという、当たり前のことを日本政府は理解できていないのでしょうか…

原発無しで大丈夫2011/05/12 21:59

こんなニュースが入ってきました。
全原発の3分の2 今月停止へ

「原発無しでも日本はまったく大丈夫」という意見から、「今、原発を止めたら日本は死ぬ」という極端な意見まで様々です。
しかし、現実を直視すれば、2/3停止で全然余裕。あと1/3を頑張りましょう!
たった今、この日本列島からすべての原発の電力が消えても、私たちはやっていけるのです。
まずは、今月中に止まる2/3をすべて廃炉に追い込みたいものです。

とりあえずは、水力・火力をフル稼働。再生可能エネルギーへの転換を急ぎましょう。原発に注ぎ込んできたお金と時間を考えれば、それは大した金額も時間も必要としません。

メルトダウンと再臨界2011/05/16 21:19

メルトダウン。世界中が起きていると言い、東電と日本政府だけが起きていないと言ってきました。
しかし、もはや東電も政府もメルトダウンを認めざるを得なくなりました
そして、その恐ろしい事態が地震発生のその日の内に起きていたことが明らかになっています。

1号炉の3月11日を振り返ってみましょう。

14:46 地震発生。原子炉自動停止。
15:30 津波の被害で炉心冷却機能全喪失。
        ↓
    崩壊熱により冷却水が蒸発
18:00 燃料棒の頭頂部が冷却水の上に出始める。
19:30 燃料棒の一番下まで水位が下がり、「全露出」状態に。炉心は1800℃以上になり、燃料被覆管のジルカロイが溶け、二酸化ウランの燃料ペレットが圧力容器の底に落ち始める。
21:00 炉心や圧力容器の底に落ちた燃料ペレットが二酸化ウランの融点である2800℃を越え、メルトダウンが始まる。
翌6:00 すべての核燃料がメルトダウン。

原子力技術協会の石川迪夫最高顧問は「溶けた燃料棒は圧力容器の下部でラグビーボールのような形状に変形しているのではないか」 と言っていますが、「幸い」にも、ラグビーボール状にはなっていないでしょう。

なぜ「幸い」なのか… それを知るために、「燃料棒がなぜ棒なのか?」から考えていきましょう。
使用中の燃料棒には1%~4%のウラン235が含まれています。ウラン235が連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、ある程度の濃度で、ある量が一か所に集まることと、集まった時の形状が問題となります。球状に集まると臨界になりやすく、平らになったり、棒状になった場合は、臨界になりにくくなります。

炉心では、たくさんの燃料棒が狭い隙間を空けて束になった状態になっています。その隙間に中性子を吸い込みやすい物質でできた制御棒を入れるからこそ、臨界ギリギリで原子炉を運転したり、いざという時に短時間で臨界反応を止められるように設計されています。つまり、制御棒が入った時は、臨界が起きにくく、制御棒がない時は臨界が起きやすいと。このように、燃料棒と制御棒を綱渡りのようにコントロールしているのが、原子炉の炉心なのです(すべてが理想的に動くという想定の下に)。
さて、その燃料棒がすべて溶けてしまったら、隙間がなくなりますから、制御棒はまったく効果無しです。溶けた核燃料が圧力容器の底にラグビーボール状に集まったら… 恐ろしいことです。間違いなく臨界反応が起き、それも小規模なものでは済まないでしょう。日本の原発を推進してきた重鎮の一人である石川迪夫氏の頭の中に、その光景が浮かばないことが不思議でなりません。

原子炉はゆっくりとした臨界反応によって生じる熱を発電に使う装置です。原爆は瞬間的に起きる制御できない臨界反応によって生じる熱や放射性物質でたくさんの人を一瞬のうちに殺戮する兵器です。人間の制御下にない臨界反応は、絶対に起こしてはいけない恐ろしい事態なのです。

1999年、たった16㎏、バケツ一杯の核燃料(この時はウランを液体に溶かしていた)が起こしたJCOの再臨界事故ですら、2名の死者と667名の被曝者を出しています。

メルトダウンの第1の恐ろしさは、制御下にない臨界反応を引き起こして、巨大な熱エネルギーによって、圧力容器や格納容器を吹き飛ばし、放射性物質を広い範囲に撒き散らすことです。

今回は「幸い」にも、今までには大規模な再臨界は起きていません。では、いったい核燃料はどうなっているのでしょうか?

メルトダウンしましたから、一旦は間違いなく溶岩のようなドロドロの状態になっています。ここで思い出したいのは、圧力容器が鋼鉄でできていること。鋼鉄の融点は1600℃。2800℃で溶けている核燃料を支えることはできません。ヤカンの底に穴が開くように、圧力容器に穴が開き、溶けた核燃料が格納容器へと落ちていく様が目に浮かびます。

格納容器の底には水がありますから、そこで小規模な水蒸気爆発を起こしながら、固体に固まっていったはずです(ここで、もし溶融した核燃料が一気に格納容器に落ちていたら、チェルノブイリのような大規模な水素爆発が起き、今よりもっともっと深刻な事態になっていたでしょう)。火山の溶岩が海岸で水に触れて固まるのと同じようなイメージです。途中で水飴のように延びたりしたので、最終的に固まっている核燃料は、複雑な形をしているでしょう。急に冷やされたので、小さく割れている部分もあるはずです。これが、今まで「幸い」にも大規模な再臨界が起きなかった理由です。

しかし、「幸い」とは言え、そこにメルトダウンが引き起こす第2の恐怖があります。核燃料が、圧力容器や格納容器を溶かして、環境の中にむき出しになっているのです。放射性物質が、どんどん漏出していくのは言うまでもないことです。

そして、とりあえず固まっている核燃料によって、今後、再臨界が起きる可能性がないかというと、そうは言えません。理解すべきなのは、再臨界が起きるために温度は関係ないということです。ある濃度のウラン235が、ある分量、ある形で集まったら、再臨界は起きます。
圧力容器や格納容器の底で、一部、バラバラになって固まっている核燃料が、余震や、あるいは冷却するための水の流れなどで、どこかに集まった瞬間、再臨界が起きる可能性は十分にあるのです。
それを避けるために、3号炉からホウ酸の投入が始まりました。
ホウ酸(ホウ素)は、中性子を吸収するので、始まってしまった臨界反応を止めたり、臨界反応が起きるのを予防します。東電も政府も、再臨界を恐れざるを得ない状況は続いているのです。

追記:
3月11日からこれまでに、再臨界が起きていなかったのか?
結局、データは東電と国に握られていますので、どうにも判断しようのない部分はあります。ただ、爆発的な中性子線量が確認されていませんので、少なくとも、格納容器の外で再臨界が起きた可能性は低いと思われます。
ただ、2か月を経て、どうにも圧力容器の内部の温度が下がってこないのは、再臨界を疑わせます。溶けた核燃料は、全体で臨界状態に達するわけではありません。部分的にコブのように出っ張ったところ(球に近い形状になったところ)で再臨界に達する恐れもあります。

そして、事実を掌握するためには、情報管理を東電と安全・保安庁から切り離し、原子力発電に利害関係のない第三者機関に委ねるべきです。
現状は、脇見運転で大事故を起こした容疑者とその同乗者が、自分たちで現場検証をしている状態なのです。普通は許されない話です。スリーマイルアイランド事故でも、直ちに第三者機関が立ち上がり、当事者からは、すべての権限を取り上げたそうです。

お茶とセシウム2011/05/18 13:05

ここのところ、神奈川県や静岡県の新茶からセシウム137が検出されて、大きな騒ぎになっています。
福島第1から遠く離れているのに、なぜ?
多くのメディアは、地形や天気等によって、核分裂生成物がある程度の濃度のまま、遠くまで運ばれることがあると報じています。それ自体は正しいのですが、もう一つ重要な視点が必要です。

茶という植物は、たいへん効率よくセシウム137を生体内に取り込み、濃縮する能力を持っているのです。えっ?と思われる方も多いと思いますので、その仕組みを説明しましょう。

文科省の食品成分データベースで、「せんちゃ」を検索してみましょう。「表示成分選択」のところで、「無機質」「全て」にチェックを入れます。結果を表示すると、煎茶にはカリウムが豊富に含まれていることが分かります。
茶は地中や大気中からカリウムを取り込む力が、とても強いのです。そして、カリウムは人間にとっての必須ミネラルの一つ。特にアジアの人々は、遠い昔から、茶が健康に良いことを経験的に知っていました。それはカリウムが豊富だからとも言えるのです。

さて、そのカリウムとセシウム137がどう関係するのか?
実は、セシウムは化学的性質がカリウムとよく似ていて、茶の木であろうと人間であろうと、生体はカリウムとセシウムを見分けることができません。言い方を変えれば、生命を維持するために、カリウムと勘違いしてセシウムをせっせと溜め込んでしまうのです。もちろん、セシウムが放射性であろうとなかろうと関係ありません。だから、環境の中で放射性のセシウム137の濃度が少しでも高まることは、たいへん危険なのです。人間の体内に取り込まれたセシウム137は、筋肉などに蓄積し、深刻な体内被曝を引き起こす可能性があります。

この事実を見ていくと、地球上の生きものはすべて、放射性物質に対してまったく防御する力を持っていないことが分かります。一方で、太古の昔から、地上での放射線量は少しずつ減ってきていたはずです。なぜなら、どの放射性物質も放射線を放出することで、少しずつ安定した原子に変わっていくからです。例えば、ウラン235の半減期は7億年ですから、現在、地球にあるウラン235の量は7億年前と比べると半分になっています。放射性物質が減ってきたからこそ、人類が地球に登場できたのかも知れません。
ところが、その人類は、減っていくはずの放射性物質を逆に増やしてしまったのです。広島・長崎、度重なる原水爆実験、そして、原発などの原子力施設での深刻な事故。ストロンチウム90やセシウム137は本来、地球上に存在しなかった放射性物質だということも忘れてはいけません。

放射性物質は、やがて減っていくという自然の摂理を破ってしまった人類。今、原点に戻って、もう放射性物質を増やしてはいけないのだと確認し合う必要があります。

年間1ミリシーベルトで、避難計画の再考を2011/05/25 10:53

文科省が4月20に教育現場向けに出したに「放射能を正しく理解するために」なる通達が、いまだに取り消されていません。この通達こそ、子供にまで年間20ミリシーベルトという途方も無い被ばく線量を強要する出発点でした。

非常に楽観的(!?)とされる「国際放射線防護委員会(ICRP)」の推測でさえ、「ガンなどで死ぬ危険は1000ミリシーベルトあたり5%高まる」としています。被ばく線量と「ガンによる致死リスク」は正比例しますので、100ミリシーベルトで1000人中5人、20ミリシーベルトで1000人中1人となります。ただ、子供は大人に比べて放射線の影響を5倍受けやすいので、20ミリシーベルトを被ばくすると1000人中5人の子供のガン死が増えるということです。ここで注意しなくてはならないのは、ICRPの計算は累積被ばく線量だということです。もし、年間20ミリシーベルトが2年続けば、子供のガン死は1000人中10人に、5年続けば25人になります。
一方、米国国立アカデミーの全米研究評議会の報告書では、「年間20ミリシーベルトは、子供の発がん比率を200人に1人増加させる」としています。

そもそも、一般人の被ばく限度量は年間1ミリシーベルトです。実は、この基準も科学的・医学的裏付けがあるものではなく、「これより厳しくすると原子力産業が立ちゆかない」という事情か生まれたものなのですが、ここではそれに噛みつくのはやめて、一応、世界標準として存在している「被ばく限度量=年間1ミリシーベルト」を前提に話を進めます。

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故。ソ連ゴルバチョフ政権の対応は遅れが目立ち、ヨーロッパ全体へその被害が広がりました。しかし、チェルノブイリの時ですら、居住禁止(=強制移住)のエリアは、年間5ミリシーベルトでした。ゴルバチョフ政権は数千台のバスを動員して、住民の移住を決行したのです。

日本政府は、年間20ミリシーベルトの撤回を頑なに拒んでいます。避難地域が広がって経済的支出が増えることをもっとも恐れているのでしょう。この姿勢は、子供の命、人の命を何とも思っていないことと同じです。
今こそ、年間1ミリシーベルトを基準に避難計画の再考をすべき時です。

追記1:
個人的には、子供だけの集団疎開には疑問があります。なぜなら、この避難は短期間で終わるとは考えられないからです(チェルノブイリの例を見ても明らか)。避難する人たちの負担は大きなものになると思いますが、家族単位、あるいは地域共同体単位での集団移転を考えるべきでしょう。それを支える義務は東電と国にあります。東電のすべての保養施設を開放し、各地の公営住宅や旅館を借り上げて、速やかに実行すべきです。

追記2:
「除染」とか「土壌改良」とか言っている人たちもいますが、校庭だけで良いならそれも可能です。しかし、農地や山林をどうするつもりなのでしょうか?大規模な除染によって、短期間で汚染地域を清浄化することは不可能です。何よりも、まだ核分裂生成物(放射性物質)が出続けているのですから。






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