民主党代表選を傍観するな2011/08/21 06:03

実質的に次の総理を決める民主党代表選挙が行われようとしています。「なんでこんな時期に…」というのが、多くの人の思いですが、この流れは止めようがありません。29日に民主党国会議員による投票との見通し。私たちは、これを指をくわえて眺めているしかないのでしょうか?

今度ばかりはそうはいきません。
菅首相は脱原発宣言。鳩山由紀夫前総理も脱原発支持。小沢一郎氏は 「原発はもう無理だ。今までは過渡的エネルギーとして仕方ないと考えてきたが、これからのエネルギー政策は根本的に変える必要がある」「万一事故が起こった時は大変な被害を周囲に与えてしまうことが今回の事故で明確になったわけだから、これからは火力発電とか再生可能エネルギーとか、原発に頼らない、新しいエネルギー政策を構築しなければならない」「核燃料サイクルももう無理だ。最終処分場もないのに、高速増殖炉だの再処理工場だのというのは、そもそも不可能だ」(AERA6/6号)と、実にもっともなことを語っています。
民主党全体が脱原発を意識せざる得ないところまでは来ているのです。しかし一方で、民主党員の中に、原発推進派から即時脱原発派まで、様々な意見があることも事実でしょう。

そこで、民主党員ではない私たちに何ができるのか?
<全国民→民主党員→民主党国会議員>という形で、「脱原発」の流れを強めていく必要があるし、それは可能です。
ブログやツイッターといったソーシャルメディア(クチコミ)が力を発揮する時。いえいえ、井戸端会議だって、職場での昼食時の雑談だって力になります。小さな声が束になった時、民主党議員(地方議員まで含めて)は、「脱原発を明言しなかったら次の選挙で勝ちはない」と思い知るでしょう。

テレビや新聞などのマスメディアは、明確な公開質問を代表選挙立候補者に対して行うべきです。
例えば、質問はこうです。
●日本の原子力発電所に関して
1. 現在止まっている原子炉を一切再稼働させることなく、脱原発を目指す。
2. 3年から5年を目途に、すべての原子炉を停止し、脱原発を目指す。
3. 5年から10年を目途に、すべての原子炉を停止し、脱原発を目指す。
4. 原子力発電はある程度維持しながら、再生可能エネルギーの比率を高める。
5. 原子力発電をエネルギー政策の中心に据え続ける。
●核燃料サイクルについて
1. 高速増殖炉「もんじゅ」も六ヶ所村再処理工場も即時撤退。
2. 高速増殖炉「もんじゅ」のみ撤退。六ヶ所村再処理工場とプルサーマル発電は継続。
2. 高速増殖炉「もんじゅ」・六ヶ所村再処理工場のいずれも継続。

直接選挙ではないもどかしさはありますが、なんとかして、「原発はいらない」という私たちの声を民主党代表選に反映させましょう。「永田町の中で決まることだから」という、あきらめは禁物です。兎にも角にも、次の総理には、強力に脱原発を推進してもらう必要があるのですから。

デーモン・コア 再臨界を理解するために2011/08/21 15:59

福島第1。使用済み核燃料プールについては、一応、循環冷却システムが稼働し、当面のさし迫った危機からは脱したと言えます(大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性があることを忘れてはなりませんが)。

一方、炉心でも注水による冷却を進めていますが、1号炉から3号炉まで、いずれも圧力容器に穴が空いているため漏水が多く、綱渡りの冷却が続いてます。
そんな中で、核燃料がふたたび溶融するのではないか… 再臨界が起きるのではないか… と危惧する声も出ています。ここでは、再臨界を正しく理解するために、そもそも核物質の臨界とは何なのか、そこまで立ち帰って説明していきます。怖がるにしても、正しく怖がる必要があるからです。

人類が核の恐怖に晒され始めたばかりの頃、すでに、実に簡単に起きてしまう臨界の怖さを教える重大な事件がありました。
舞台は、広島と長崎に投下された原爆を開発したアメリカ・ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所。原爆投下から間もない1945年8月21日、66年前の今日のことです。アメリカは、さらに破壊力の大きな核兵器の開発に躍起になっていました。
ロスアラモス国立研究所に所属する若手の物理学者ハリー・ダリアン(1921~1945)が実験に使っていたのは重さ6.2kgの球状のプルトニウム(大半がプルトニウム239で、一部、プルトニウム240を含む)の塊です。

核兵器や原子炉で使う連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こす物質として現在知られているのは、ウラン235とプルトニウム239だけです。この二つは、ある濃度で、ある分量が、ある形に集まった時、臨界に達します。
連鎖的核分裂反応(臨界反応)とは、原子が二つに割れる時に飛び出した中性子が、近くにある原子に吸収され、そこで次の核分裂を起こすという反応を連鎖的に繰り返すことです。それは、原爆が爆発する瞬間であり、原子炉の中では緩やかな臨界状態を保って、その時に生じる熱で発電をしているのです。

さて、ハリー・ダリアンの手元にあった、のちにデーモン・コア(悪魔のコア)と呼ばれるプルトニウムの塊。6.2kgの球状だったのは理由があります。それは、もう少し大きかったら臨界に達する大きさだったのです。球状になっていたのは、より少ない量で臨界に達するからです。球は、他のどの形よりも、同じ体積に対する表面積が小さくなるので、表面から逃げる中性子がもっとも少ない形。…と言うことは、もっとも臨界に達しやすい形なのです。

球状のプルトニウムの塊。もう少し大きくすれば臨界が起きるのですが、それでは、実験をしている自分が確実に死んでしまいます。ダリアンは、別な方法でプルトニウムを臨界に近い状態にしようとしていました。
塊の周囲に中性子を反射する炭化タングステンのブロックを積み上げたのです。ブロックを増やせば、逃げる中性子が減るので、同じ量でも臨界に達しやすくなるのです。

データを計測しながら、慎重に作業を進めるダリアン。その時、手が滑って、1個のブロックをプルトニウムの塊の上に落としてしまったのです。たちまちプルトニウムは臨界に達し、臨界反応が始まりました。ダリアンは、慌てて落としたブロックをプルトニウムの塊の上からどけましたが、すでに5.1シーベルトという大量の放射線を浴びており、25日後に急性放射線障害のため死亡しました。
もし、ブロックをどけることができなかったら、臨界反応が続き、もっと大量の放射線が放出され、死者はダリアン一人では済まなかったでしょう。プルトニウムの塊は、みずから発する熱で溶け出し、形が球状でなくなるまで、臨界反応が続いたはずです。

ダリアンの命の奪ったロスアラモス国立研究所のデーモン・コアは、翌1946年、カナダ出身の物理学者ルイス・スローティン(1910~1946)の命をも奪います。実験の形こそ違いますが、やはり臨界によって発生した大量の放射線による急性放射線障害でした。

さて、ここで一つの疑問が生まれます。連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、プルトニウム239なり、ウラン235なりに中性子が飛び込む必要があります。じゃあ、最初の核分裂を起こすための中性子はどこから来るのかというものです。
実は、プルトニウムやウランは、自然に核分裂を起こして中性子を発しているのです。これを自発的核分裂(または自発核分裂)と呼びます。
以下に、1kgのプルトニウムとウランが1秒間に自発的核分裂を起こす確率を記します。
●プルトニウム239: 7.01回/秒・kg
●プルトニウム240: 489,000回/秒・kg
●ウラン235: 0.0056回/秒・kg
●ウラン238: 6.93回/秒・kg
プルトニウムの塊には、プルトニウム239だけでなく、必ずプルトニウム240が含まれています。プルトニウム240は比較的高い頻度で自発的核分裂を起こすので、最初の1個の中性子は簡単に生まれます。
ウランの方は、ウラン235は自発的核分裂の確率は低いのですが、必ず一緒に存在するウラン238は、十分に高い確率で自発的核分裂を起こします。1999年9月30日に起きた東海村JCO臨界事故は、ウランによるものでした。臨界状態への引き金を引いたのはウラン238の自発的核分裂だったと考えられます。

なお、原爆や原子炉では、連鎖的核分裂反応をより確実に、均等に起こさせるため、別に中性子源を用意しています。

デーモン・コアの事件は、いとも簡単に臨界が起きることを教えています。
問題は、「濃度」と「大きさ」と「形状」です。
よく、炉心溶融(核燃料の溶融)と臨界(再臨界)が混同されますが、これはまったくの別物です。核燃料が溶けていなくても再臨界は起きるのです。そして、臨界状態になれば、大量の中性子線が飛び出し、近くにいる人は確実に死にます。また、ヨウ素131やセシウム137、ストロンチウム90といったやっかいな核分裂生成物が、これまた大量にばらまかれます。

この記事はここまでとして、次の記事で、今後、福島第1では核燃料の溶融や再臨界が起きる可能性があるのかを考えていきます。

再溶融や再臨界は起きるのか2011/08/21 21:23

福島第1そのものは、今、どうなっているのでしょうか?どうも政局に目を奪われて、マスメディアも、私たちも、視点が一番重要な部分から離れているような気がします。
一度、冷静に見直してみましょう。

まず使用済み核燃料プールです。1号炉から4号炉まで、すべてで循環冷却システムが稼働し、水温は32℃~42℃(8/20現在)と安定してきています。
ただ、大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性は残されています。
崩壊熱というのは、連鎖的核分裂反応によってできた核分裂生成物(ヨウ素131・セシウム137・ストロンチウム90など)や超ウラン元素(プルトニウム239やアメリシウム241など)が、放射線を出して崩壊する際に、その放射線が他の物質に衝突して発生する熱のこと。核燃料は、崩壊熱が少なくなるまで、使用後3年間は原子炉に付属するプール内で、循環する水を使って冷却し続けないと、どこにも動かせません。

最悪の場合、使用済み核燃料プールで核燃料が溶融する可能性があると記しましたが、再臨界はどうでしょうか?溶融した核燃料がプールの底に有る限り、平らに集まるので、再臨界の可能性は低いと思われます。
しかし、大量の核燃料が一気に溶融すれば、<水が無い→崩壊熱で温度が上がる→さらに水が蒸発して無くなる→崩壊熱でさらに温度が上がる>という悪循環が起きます。溶融した使用済み核燃料は、プールの底のコンクリートを溶かして、下に落ちていくでしょう。この時、何が起こるのか… 下に何があるのかによって決まります。大量の水があれば、水蒸気爆発です。

この使用済み核燃料に対する危惧は、福島第1でなくても、すべての原子力発電所に当てはまります。ただ、福島第1の場合は、地震・津波・水素爆発で建屋や施設が大きく損傷。循環冷却システムは仮設と言ってよい急造り。不具合が発生する可能性が高いので、危険性は、より高いのです。


1号炉から3号炉までの原子炉本体はどうでしょうか。
いまだに圧力容器内の、本来、燃料棒の頭頂部がある位置よりも2メートル前後下の位置までしか水で満たされていません。燃料棒は4メートル程の長さですから、元の形を残していれば、半分しか水に浸かっていない状態です。ただ、炉心溶融した際に、上の方から溶け出した可能性が高いので、現在、水面の上に出ている燃料棒があるかどうかは不明です。

圧力容器は、穴の開いたヤカンのようになっているので、溶けて固まって圧力容器の底にある核燃料は、一応、水の中です。圧力容器を溶かして、格納容器にまで達している分は、流れる水に洗われている状態でしょう。大量の放射性物質を溶かし出しながら。

原子炉本体に関しては、当初、圧力容器を水で満たす水棺を目指しました。しかし、容器の底に穴が空いているために不可能と判明。循環冷却システムの構築を目指していますが、漏水が多く、あっちこっちに溜まった汚染水を浄化して、なんとか炉心に水を注ぎ続けているというのが現状です。
これは綱渡りと言ってもよい状態です。何らか理由で注水が止まれば、冷えて固まっている核燃料が、崩壊熱でふたたび溶け出します。

チェルノブイリ事故では、2度の水蒸気爆発が起き、放射性物質がヨーロッパ全域とも言える広範囲に撒き散らされました。しかし、それでも想定された最悪の水蒸気爆発は避けられました。
チェルノブイリには4基の原子炉がありましたが、事故を起こした4号炉を含めて、すべて福島第1とは異なる黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉というタイプでした。従って、まったく同じようには語れないのですが、原子炉の底の部分に溶融した燃料が集まり、コンクリートの底を溶かし始めたのは、ほぼ福島第1と同じです(福島第1の圧力容器の底は鋼鉄製)。
そのコンクリートの下には、大量の水を蓄えた水槽がありました。ここに一気に溶融した核燃料が落ちたら、巨大な水蒸気爆発が起きます。水を入れたバケツに、真っ赤に燃える石炭をスコップ一杯でも投げ込んだらどうなるでしょうか。その大規模版が原発の水蒸気爆発なのです。
もし、この大規模な水蒸気爆発が起きていれば、残りの3つの原子炉にも被害が及び、放射性物質による汚染は数倍になっただろうと言われています。爆発を防いだのは、3人の男たちでした(ソ連軍の軍人と思われる)。彼らは潜水具を付けて、高濃度に汚染された水が溜まる水槽に潜り、水栓を抜いてきたのです(風呂の栓ではありませんから、実際にはバルブを開けたとか、そんな作業でしょう)。その後、予想通り原子炉の底のコンクリートが溶けて抜け、高温で溶けたままの核燃料が空になった水槽へと落ちました。最悪を越える最悪だけは避けられたのです。

ここでチェルノブイリの話を出したは、福島第1で、これに近い事態が起きる可能性が残されているからです。もし、何らかの理由で注水が止まれば、水の無い圧力容器内で、核燃料はほどなく溶融します。それが一気に圧力容器の底を溶かしたら、下で待っているのは格納容器の底に溜まった大量の水なのです。

考えてみれば、事故発生当初に起きていたメルトダウン(メルトスルー)の段階で、水蒸気爆発に至らなかったのは幸運でした。三つの原子炉はどれも一度は、圧力容器が完全に空焚きの状態になっていました。炉心溶融が、もっと激しく進んでいたら、ヤカンの底が丸ごと一気に抜ける可能性もあったはずです。下は格納容器に溜まった水。水蒸気爆発が起きます。今、圧力容器に空いている穴が、比較的小規模なもので済んでいるのは不幸中の幸いなのです。少なくとも、事故発生当初の段階で、「メルトダウン(メルトスルー)から水蒸気爆発」という最悪のシナリオは回避されました。しかし、今後もそれが起きないとは断言できないのです。恐ろしいのは、冷却水が止まることです。

さて、炉心での再臨界の可能性に話を進めましょう。
一つ前の記事で、再臨界が起きるかどうかは、固まった核燃料の「(ウラン235の)濃度」「大きさ」「形状」で決まると述べました。今、3つの原子炉の中で、核燃料は冷えて固まった溶岩のようになっています。巨大な塊もあれば、一抱えほどの大きさのもの、あるいは石ころのような状態になっているものもあるでしょう。
怖いのは、何かのキッカケで、それらが大きな集まりになることです。一つの塊なら臨界に達しなかったものが、二つ、すぐ近くに寄っただけで臨界反応が始まる可能性があります。例えば、冷却水の流れや、余震などによって、岩のような塊が転がって集まっただけで…
また、デーモン・コアの時のように、核燃料の上に、偶然、中性子を反射する物質が落ちてくるのも怖いです。
ちょっとしたキッカケで、核燃料は、簡単に臨界状態になるのです。

核燃料が再溶融して、ドロドロの一塊になった場合も極めて危険です。全体が臨界状態に達すと言うよりは、瘤状に盛り上がった部分(球に近い形状)や、例えば、広めの空間に流れ込んで、少しでも球に近い形でまとまった時、臨界が起きる可能性が高いのです。
何度か書いている通り、臨界状態になれば、大量の中性子線が出て、近くにいる人は間違いなく死にます。温度も飛躍的に上がるので、周りで様々な化学反応が起き、水素爆発の可能性が高まります。さらに、大量の核分裂生成物が生まれ、それがばらまかれます。

今、いくつかの悪い想定を積み重ねて、核燃料の再溶融や再臨界を論じていますが、福島第1の建屋や施設がボロボロになっていることを考えれば、心配しすぎとは言えません。
とにかく、冷却が止まらないように最大限の努力を続けること。そして、急造りの冷却システムの危うさをどう補うのかを考えないといけません。チェルノブイリで採用された石棺方式も、一つの選択肢かも知れません。

移住コーディネーター制度を検討すべき2011/08/22 10:10

やっと政府が、「原発周辺に居住が長期間困難な地域が残る」ことを認めました。
「原発周辺の土地、国借り上げ検討 居住を長期禁止」(朝日新聞)
「原発:警戒区域解除を一部見送り 首相が現地で説明へ」(毎日新聞
現段階では、はっきりと「移住」には言及はしていませんが、早晩、本格的に検討せざるを得なくなるでしょう。

住民の移住は、事故発生後の早い時期から、当ブログを含む多くの場所で、多くの人たちが想定し、提案してきたものです。

事故から25年の経たチェルノブイリでは、依然として30km圏を中心に居住禁止地域が定められたままです。福島第1で漏出した放射性物質は、今のところ、チェルノブイリの1/8とか1/10とか言われています。しかし、住民には酷ですが、発電所至近の地域が、長い間、生活できる環境には戻らないことは分かりきっていたことです。3.11から間もなく半年。やっと、政府がそのことを認めたのです。

チェルノブイリ事故に対する当時のソ連政府の対応は、情報の隠蔽を中心に、誉められるものはほとんど見い出せません。しかし、事故発生の翌日には、数千台のバスを動員して、まず原発至近のプリピャチ市の住民4万5千人全員の避難を実行。およそ一週間以内に、原発から30km以内に居住する11万6000人を避難させています。
さらに、30km圏とは別に、土壌が高濃度に汚染されたエリア(放射性セシウムが18万5000ベクレル/㎡以上)では、住民の「移住権」を認める対応をしました。
それでも、主に内部被ばくに起因すると考えられる放射線障害が、広範囲で、多くの人たちの健康を蝕んでいるのが現状なのです(「チェルノブイリ原発事故によるその後の事故影響」今中哲二)。
日本政府の対応はあまりに遅すぎます。

しかし、嘆いてばかりいても始まらないので、福島第1の事故で、これから先、移住の問題をどう考えていけばよいのか、検討してみましょう。

今回の発表の一番の問題点は、土地の借り上げが前提となっており、完全には「移住」を認めていないことです。もし、1年以内に戻れるという見通しがあるなら、借り上げもあり得るでしょう。しかし、そんな甘い話ではないのです。農業を営んできた人たち、畜産業を営んできた人たち、漁業を営んできた人たちをどう救うつもりなのでしょうか… 間違いなく代替え地・代替え施設を用意してあげる必要があるし、それが国の義務でしょう。この期に及んでも、「すべて金で解決」という姿勢が見え隠れすのは許しがたいです。

まず、もっとも汚染のひどい地域を「居住禁止エリア」にすること。その外側に、「移住権認定エリア」を設けるべきでしょう。これは、職種や子供の有無などによって、移住を望むかどうか、個々の住民の判断が異なってくるからです。

さて、ここで問題となるのが、住民の移住を誰が、どうアレンジするのかです。「お金は渡しますので、あとはご自身でどうぞ」というのは、絶対にやってはいけないことです。
地域のコミュニティーをできるだけ維持する形で移住を考えていく必要があります。教育施設や医療機関を配慮することも大切です。こういった複雑な事情が絡む移住を、住民にとって少しでも負担のない形で実現するためには、まず地域の自治体の努力が必要です。ただ、それだけでは不十分。民間からプロの力を動員することを考えるべきでしょう。

具体的には、不動産鑑定士とか宅地建物取引主任者の資格を持つプロの人材に、不動産業界から期間限定で、公的機関(NGOというやり方もあるかも)に出向してもらうのです。この人たちを仮に「移住コーディネーター」と名付けましょう。

移住には、当然にも複数の地方自治体がからみます。当事者だけで、事がスムーズに運ぶとは考えられません。
例えば、
過疎で集落の半分以上が空き家になっている地域に集団で移住することを考える。
廃業した畜産農家の施設が残る場所に、福島の畜産農家の移住をアレンジする。
余裕のある漁港に、漁業中心の集落全体の移住を実行する。
全国の公営住宅の空き室・空き家を網羅し、住民にもっとも適した移住先を探す。
廃校になった小学校を活用して、学校を中心とするコミュニティー全体の移住を実現する。

他にも可能性はいろいろと考えられます。だからこそ、こういったコーディネートは四角四面の決まりの中では不可能。例外だらけになるからです。
被災地域の自治体に、その任を全面的に負わせるのは酷だし、難しいでしょう。移住コーディネーターが必要です。

不動産業界としては、移住コーディネーターが活躍すればするほど、塩漬けになっていた不動産が動くので、多少のメリットがあるはずです。
一方で、利権を発生させてはいけないので、いくつかの決まりを作っておく必要はありますが。

「いつかは戻れるようにしたい」という曖昧な対応を続けることは、今、避難している住民たちを少しは勇気づけているのかも知れません。しかし、事実を認めて、本格的に手を打っていかないと、結局、大きな混乱と不幸を残すだけになります。

ここは、国の決断と不動産業界の社会貢献に期待したいです。

続報:移住コーディネーター制度を検討すべき2011/08/22 17:35

おぼろげながら、買い上げの方向性が提示されました。

福島第1原発:「警戒区域」で土地の借り上げなど検討【毎日新聞】


学校 毎時1マイクロシーベルトは低くない2011/08/28 17:58

8月26日、文科省から<学校、毎時1マイクロシーベルト未満に 屋外活動基準「3.8」は廃止>という新たな基準が発表されました。
これは、5月27日に示された「学校内では年間1ミリシーベルト以下目指す」という指針をより明確化して、毎時当たりの空間線量にまで落とし込んだものです。これによって、「年間20ミリシーベルト」「毎時3.8ミリシーベルト」という基準は、完全に撤回されたことになります。
しかし、本ブログで既報の通り、「学校 年間1ミリシーベルト」は安全な数値とはとても呼べないものです。

今回示された毎時1マイクロシーベルトを、通学日数=200日、1日当たりの学校滞在時間=6.5時間(屋内=4.5時間/屋外=2時間/コンクリート校舎による低減係数=0.1)で積算し、これに給食などによる内部被ばくを加算しても、年間0.534ミリシーベルトにしかならない。従って、十分に安全だというのが文科省の主張です。
試しに、
1μSv×(2時間+4.5時間×0.1)×200日
で計算すると、外部被ばく線量は年間0.49ミリシーベルトにしかなりません。内部被ばく量算出の根拠がどこに有るのか不明なのですが、この0.49ミリシーベルトに内部被ばく分を足したものが年間0.534ミリシーベルトということのようです。

しかし、子供たちは、学校を離れている時、放射線をまったく通さない鉛の部屋にいるわけではありません。逆に、学校などから除染を進めているので、学校を離れると、より線量が高い場所にいると考える方が自然です。

では、毎時1マイクロシーベルトを前提に、24時間365日の年間外部被ばく量を計算してみます。屋外=8時間、屋内=16時間、屋内の低減係数=0.1とすると、年間3.5ミリシーベルトです。木造家屋の低減係数=0.4を使うと、年間5.3ミリシーベルトにもなります。
実は、原発の作業員で白血病などのガンになって労災認定されている人の中には、年間被ばく線量が5ミリシーベルト強だった人も含まれています。国もそのブレーンになっている学者たちも、年間5ミリシーベルトが、大人にとっても十分に危険な数字であることを知っているのです。

福島の学校を、いえ、福島をこのままの状態にしてよいはずはありません。あくまで、24時間365日で1ミリシーベルト以下という国際基準を前提にした対策を進めること。それを政府と東電に求めていく必要があります。

マスキー法とCVCCの奇跡を思いだそう!2011/08/29 11:35

いささか古い話になってしまい恐縮なのですが…
アメリカで、通称、マスキー法と呼ばれる大気浄化法改正法が成立したのは、1970年でした。提案者の上院議員、エドムンド・マスキーの名前を取って、マスキー法と呼ばれています。

その内容は、
●1975年以降に製造する自動車の排気ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
●1976年以降に製造する自動車の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
…というもの。5~6年で有害物質の排出量を1/10にするという極めて厳しい法律でした。当然、マスキー法の基準をクリアしていないクルマは、期限以降の販売を認めません。
規制値の厳しさから、世界中の自動車会社から強い反発を受けたマスキー法。実際には、細かい改訂が続いたようです。
しかし、当初の「厳しすぎるマスキー法」をクリアするクルマが、期限前の1973年に登場します。ホンダのシビック。搭載していたエンジンはCVCCと呼ばれる形式で、ホンダが独自に開発した低公害・低燃費のエンジンでした。それまでの常識からすれば奇跡のエンジン。シビックとCVCCは世界を席巻し、低公害車が一気に普及するキッカケになりました。「先行する行政」と「追いかける産業界」が見事に機能し合った好例とされます。

原発と無関係?いえいえ、そうではありません。
言いたいことは、イノベーション(技術革新)やブレークスルー(現状突破)への姿勢です。
「高い目標設定を行い、そこに向けて真摯に立ち向かうことで、新たなイノベーションやブレイクスルーが生まれる」ということなのです。一見、根性主義(笑)に思えますが、マスキー法とCVCCの歴史以外にも、たくさんの事例を見ることができます。「ガガーリンによる人類初の宇宙飛行」「アポロ11号による月面着陸」「東海道新幹線の成功」などは、その典型でしょう。
電力分野においても、イノベーションやブレークスルーは、絶対に可能です。

今、福島第1の事故を受けて、電力を中心とする日本のエネルギー政策をどうするのかが大きな問題となっています。
少なくとも減原発の方向性は固まってきました。
しかし、「今ある原発を寿命まで使い切れば、自動的に日本から原発はなくなる」という消極的な意見から、「すべての原発を直ちに止めて、廃炉行程に入るべきだ」という積極的な意見まで、広い幅があります。
当ブログは、後者の立場を取ります。なぜか?もうこれほどの危険性と隣り合わせの生活を送りたくないからです。周辺住民から平穏な暮らしと健康を奪い取り、農業と漁業を破壊し、長い期間にわたって食べ物を汚染し続ける。原発はもう要りません。

この間、「自然エネルギーの開発には時間がかかるので、当面は原発で」といった意見が、目立ってきています。しかし、少々の苦労はしつつも、私たちはこの夏を乗り切ることができました。京大の小出先生によれば、真夏のピーク時であっても、少しだけ我慢をすれば、原発がまったくなくても停電は起きません

しかし、原発を無くすのは当然としても、二酸化炭素のことを考えたら、火力も減らしたい。大規模ダムも問題があるし… ということで、エネルギーの浪費をやめながら、自然エネルギーへのシフトを考える必要はあります。
その時に、イノベーションやブレークスルーを後押しする「高い目標設定」が必要なのです。
数日中に新しい総理が決まりそうですが、候補者はいずれも、脱原発から腰が引けていて、年内には止まっている原子炉を再稼働しようなどという発言も見られます。これは絶対に許してはなりません。新しい総理に求められているのは、敢えて高い目標設定をして、産業界の尻を叩くことなのです。
具体的に言えば、「すべての原発を直ちに停止し、廃炉プロセスへ」という明確な方向性の提示とともに、「1年以内に風力発電を○○万キロワットに」とか「3年以内に太陽光発電を○○万キロワットに」という目標を掲げることです。年限を区切って、電力会社に自然エネルギーの割合を上げさせ、達成できなければ罰則です。
産業界から言えば、国の方針が定まらないから、動きようにも動けないという状況もあるのです。マスキー法とCVCCの奇跡を思い出しましょう!

幸い、風力発電や太陽光発電は、設備としては簡便なもので、やる気になれば、数ヶ月である程度の施設を作ることができます。地熱発電や潮力発電は、風力や太陽光ほど簡単ではありませんが、オリンピック用の競技場を作るつもりでやれば、アッと言う間に造れます。そこに、新たなイノベーションやブレークスルーが加われば、発電効率が上がり、建設コストやランニングコストが大幅に下がる可能性があります。
電力会社は、送電線が… 送電システムが… と言いますが、こんなものは、大雑把に言えば、電線を引くだけです。それに、この間、飛躍的な進歩を遂げているITを絡ませれば、問題は次々と解決していくことでしょう。ここにも、イノベーションやブレークスルーの可能性が十分にあります。

基本的な構図は、「先行する行政」と「追いかける産業界」です。そして、マスキー法の時には、「先行する行政」の背後には、反公害運動という安全と安心を求める市民の大きな声があったことを忘れてはなりません。
新総理にお任せでは何も動きません。まず、私たち一人ひとりが声を上げていくことです。


附記:
すべての原発を直ちに止めたとしても、危険がなくなるわけではありません。1963年の国内初の原子力発電から48年。溜め込んできた使用済み核燃料(放射性廃棄物)が放出する放射線が環境に影響を及ぼさないレベルになるまでには、10万年以上の年月が必要です。そして、それらを安全に保管するための最終処分場は日本にはありません(世界を見渡してもフィンランドにしかない)。たった48年のために、10万年以上に渡る危険を私たちは背負い込んでいます。この危険を今以上に増やしてはいけないのです。
そのためには、とにかく、すべての原発を止めて、廃炉への道に踏み出すこと。原子炉の運転(核分裂連鎖反応)を止めれば、少なくとも、福島第1やチェルノブイリのようなシビア・アクシデントの可能性は大きく減ります。一年ほどすれば、燃料棒を原子炉から取り出して貯蔵プールに移すことができます。これで、さらに危険性は減ります。その三年後、燃料棒は中間処理施設に移せます。ここまでくれば、核燃料溶融や再臨界の危険性はなくなりますので、汚染物質や汚染水を徹底して管理することに注力すればよくなります。それでも、注意深く進める必要はあるのですが、これは、50年近くに渡って原発を認めてきてしまった私たちが、甘んじて背負わなくてはいけない、最低限の危険と負担と理解するしかないでしょう。

NHKは真相公開を2011/08/31 12:23

『ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図(3)』(8/28放送)を見ました。
木村真三さんと岡野眞治さんの名コンビによる詳細な汚染マップ作りは、今回は内部被ばくに大きく踏み込みました。さらに、ホットスポットで暮らす住民たちの実情を知った木村さんは、「汚染マップ作り」という枠を越えて、具体的に除染への取り組みを行い、その効果を検証しています。
前二回の番組に比べると、やや「安心」寄りのコメントが気になりましたが、住民を目の前にしたら止む得ないのかとも…

実際に除染を行った民家では、屋内の空間線量が半分程度に下がりましたが、それでも、赤ちゃんがいる部屋で毎時0.64マイクロシーベルト。仮に、赤ちゃんが一日中家の中にいるとして、年間の実効被ばく線量は5.61ミリシーベルトにもなります。これは、はっきり言って危険な数字。お母さんが「赤ちゃんと一緒に、この家(実家)を離れて自分のアパートに帰る」と言った時は、少しホッとしました。
とは言え、他の家族は、高い線量の外部被ばくを受け続けます。これは大丈夫なのか?心が痛みます。

さて、この番組の中で、本筋には絡まなかったのですが、奇妙なデータが提示されました。民家の庭の土から、セシウム134、セシウム137と並んで、テルル129とテルル129mが、相当量検出されたというのです(番組中ではナレーションによる解説は一切無く、グラフだけを表示)。数万ベクレル/㎡という高い値です。
半減期はともに短く、テルル129が70分、テルル129mが34日。これは変です。3.11当日、原子炉に制御棒が挿入されて連鎖的核分裂反応は止まっています。それ以降、テルル129もテルル129mも半減期に従って減る一方なので、今はほとんど残っていないはずです(テルル129mの一部がテルル129になるプロセスもあるようですが、それにしても量が多すぎる気がします)。
「すわ、再臨界」と騒ぐ声もありますが、もし、再臨界が起きていれば、他の数値も大きく変化するはずですから、データの解釈になんらかの間違いがあると思われます。

放射性物質の種類を知るためには、放出するガンマ線の波長を計測します(ガンマ線は光の仲間なので波長がある)。放射性物質によって、放出するガンマ線の波長が違うので、それを計測することで、放射性物質が特定できるのです。
と言うことは、テルル129・テルル129mではないにしても、セシウム134・セシウム137以外の放射性物質が、相当の濃度で存在していることになります。
一体、その放射性物質が何なのか?特に、内部被ばくを考える時、核種の特定は極めて重要です。NHKは木村さんとともに、サンプルを再検査して、真相を明らかにして欲しいと思います。

急性白血病で福島第1原発作業員が死亡2011/08/31 23:43

急性白血病 福島第1原発作業員が死亡」という衝撃的なニュースが飛び込んできたのは、昨8月30日。1日経っても、詳しい情報、新たな情報がまった出てこず、謎だらけです。
とりあえず思いつく疑問だけを列挙しても、
●発表されている被ばく線量は正しいのか?
●正常とされた白血球数はいつ計ったのか?
●白血病発症から数週間で死ぬことがあるのか?
●遺骨に放射性物質の沈着は認められなかったのか?
●過去に原発で働いていなかったのか?
などあります。

本来なら東電と国は、他の作業員の安全を考えて、徹底的に調べるべきでしょう。
しかし、「医師の診断によると作業と死亡の因果関係はない」(松本純一原子力・立地本部長代理)という、氷よりも冷たい一言があったのみです。
亡くなった方のご冥福を祈るとともに、真実の究明を徹底的に進めることを各方面に訴えたいです。






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