もっと悪かったかもしれない2012/11/23 11:51

アメリカの元原発設計エンジニア、アニー・ガンダーセン氏が重大な発言をしています。
『もっと悪かったかもしれない』

要点は、
*非常用ディーゼル発電機を高い場所に移転しても、フクシマ型の事故を防ぐことはできない。なぜなら、それを冷却するためのウォーターポンプは水際に置くしかないから。3.11では、福島第1、福島第2、女川、東海第2の四ヶ所の原発で
ウォーターポンプが破壊された。ウォーターポンプが動かなければ、ディーゼル発電機が浸水しなくても、止まってしまう。
*地震が昼間に起きたのは不幸中の幸いだった。福島第1には1000人の人員がいたから。夜だったら、100人だっただろうし、緊急の出動も不可能だったはずだ。
英雄的な1000人がいたから、事故はなんとか今のレベルに収まっている。
*IAEAは、複数の原子炉で同時に事故が発生するレベル8を想定すべきである。

この映像は必見です。
http://vimeo.com/49092686

原発を総選挙の争点に2012/11/18 21:27

「原発をどうするかはささいなこと」と嘯き、「脱原発は短絡的。原発存続が重要」と公言してきた石原慎太郎氏が、日本維新の会に合流。
維新の会は、これまで「2030年代までに既存原発を全廃」とする一方、「原発輸出容認」という矛盾する姿勢を取ってきました。
一体化後の原子力に関する基本政策は、「新しいエネルギー需給体制の構築。原発は安全基準などのルールを構築、電力市場を自由化する」だそうです。どさくさに紛れて、「2030年代までに既存原発を全廃」は消えています。

この人たちを信じてはいけません!私たちの命や健康より、みずからの権力。そんな発想しかありません。

そして最大の問題なのは、こういったトタバタを繰り返すことで、原発問題を選挙の争点から消し去ろうとしていることです(それに乗せられている大メディアも問題ですが)。
「少しだけ反原発」だった橋下徹氏と、「原発推進」の石原慎太郎氏が結びつくことによって、「原発に対する賛否は小異」というイメージが植え付けられます。むろん、狙ってのことでしょう。まさに、「原発をどうするかはささいなこと」路線です。

こんな誤魔化しにだまされてはいけません!
今回の選挙の争点は、あくまで原発であり原子力政策です。それが、50年先、100年先の日本の姿を、いや世界の姿を決めるものだからです。このことを本気で意識する必要があります。

脱原発の選挙へ2012/11/17 13:22

12月16日の衆院選挙が決まりました。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、消費税増税など様々な問題を抱える今ですが、最大の争点は、言うまでもなく原発問題です。
本気で脱原発に向かえるのか?
福島の被災者を救えるのか?
私たちが、これからの原子力政策を決める場。それが今回の衆院選なのです。
具体的には、投票で意思表示をするわけですが、なにしろミニ新党乱立状態。どの政党がどんな主張をしているのか、正確に掌握している人は少ないのではないでしょうか。そこで、今現在の各党の主張をまとめてみました。選挙公約として公表されているものあれば、代表者の発言を要約したものもあります。また、選挙戦が進むと、言うことを変える政党も出てくると思います。そこまで含めて注視していきましょう。

●ただちに、全原発を廃炉へ
一覧表を見ると、明確に原発推進を打ち出しているのは、自民党と国民新党、太陽の党です。他に、公明党は自民党とともに原発推進を担ってきた勢力であり、再稼働も容認の立場。日本維新の会も再稼働容認。これらの政党は問題外です。

民主党は「原発をゼロにする方向感」という、なんとも分かりにくい曖昧さ。一方で、再処理を推進し、大間原発の建設再開、原発輸出推進など、矛盾だらけです。これを脱原発の立場と見ることは出来ないでしょう。民主党が本気で脱原発に取り組んできていれば、3.11から1年8か月もたった今、こんな状態にはなっていなかったはずです。

「日本の主要政党の中で唯一、脱原子力の立場を明確にしている政党」と威張る社民党。そのホームページを見ると、「実際に電力エネルギーの3分の1程度を原子力が担っている現実は無視できませんし、直ちにすべての原子力発電を廃止することは現実的ではありません」という言い訳が目を引きます。この夏、稼働していた原発は大飯だけ。無理矢理火力を止めて「電力が足りないふり」をしようとした関西電力でしたが、結局、原発なしでも電力は足りていました。社民党はいったい何を考えているのかと疑いたくなります。直ちに全原発の廃炉は可能です。

共産党は今は「即時原発ゼロ」ですが、3.11以前は「原子力の平和利用賛成」の立場でした。反省しろ!とか、総括しろ!とか古くさいことを言うつもりはありませんが、なぜ、「原子力の平和利用賛成」から「即時原発ゼロ」へと主張を変えたのかを明確にすべきでしょう。なぜなら、そこに私たちが原発推進派に騙され続けてきた理由が隠されているからです。

他にも、脱原発を主張する政党はありますが、どこも、どうやって全原発の廃炉を実現するのか、ロードマップ的なものを提示できていません。
ここでは、原発反対派が一致して合意すべき『ただちに脱原発』ロードマップのアイデアを公開したいと思います。

この図だけではありませんが、当ブログの静止画は、基本的にリンクフリー、コピーフリーです。気に入ったものがあったら、どんどんご活用ください(出典だけ明記をお願いします)。

さて、図を見て頂ければ、おおむねの流れはお分かりいただけると思いますが、何点か補足説明をしておきます。

まず、原子炉からの核燃料の取り出しを急ぐのは、そのままでは大きな危険があるからです。「取りあえず止まっていれば大丈夫なのでは」と思われる方がいるかも知れませんが、そうではありません。
原子炉が停止していれば、確かに、スリーマイル島やチェルノブイリのような運転ミスが引き金になるような事故は起きません。しかし、なんからのトラブルで冷却水が抜けたり、循環しなくなった時、福島第1と同じようなメルトダウン事故は起きるのです。それは、使用済み核燃料が激しく発熱しているからです。なんらかのトラブルとは、大地震とか津波、飛行機の墜落、隕石の衝突など、いろいろ考えられます。
ですから、原子炉内にある使用済み核燃料をできるだけ早く、少しでも安全な冷却プールに移す必要があります。さらに発熱量が少なくなったら、共有プールに移すべきです。

新燃料の核燃料会社への返却売却は、夢物語ではありません。本ブログで既報の通り、世界有数の核燃料供給企業『カメコ』が、買い取りの姿勢を示しています。

●福島の被災者を救う道
各政党の原発政策を読んで驚くのは、どこも、福島の被災者たちをどう救うのか、具体的な提案をしていないことです。
いまだに高い放射線量下にありながら、移住する権利を認められていない人たちがたくさんいます。全域が警戒区域に指定されている双葉町の住民は埼玉県の旧騎西高校に集団避難。いまも200人ほどが廃校で集団生活を送っています。それを忘れてはいけません。
移住する権利、新しい生活をはじめる権利はないがしろにされたままなのです。
すべての政党・候補者は、福島の被災者をどう救うのか、その方針を明らかにすべきです。

●私たち自身が、政党や政治家を引っぱる気持ちで!
一つ勘違いしたくないのは、私たちは、自分の意見に合う政党や政治家を選ぶだけではないということです。
たとえば、大規模なデモや集会が、政治を動かす力を持っていることは、この間、明らかになっています。そこまで行動できないという人たちは、とにかく、原発のことを家族や友人と語り合うことです。それが束になれば、政治を動かせます。
私たち自身が、政党や政治家を引っぱる気持ちで、今回の衆院選に臨みましょう。
必ず『脱原発の選挙』にしなくてはなりません。

2万年前の日本列島 10万年後の日本列島2012/11/07 20:13


上の地図は2万年前の日本列島の姿。細い線は現在の海岸線です。日本列島が大きく動いていることが分かります。
2万年前と言えば縄文時代以前。しかし、この列島には、すでに人が暮らしていました。それを「遠い昔」と呼ぶのか「たった2万年前」と呼ぶのかは、主に文学的な問題でした。核廃棄物が抱える巨大な闇が明らかにされるまでは…

この地図をじっくりと眺めて、今までの当ブログの主張を一部修正する必要があると気がつきました。新たな結論は、「日本には放射性廃棄物の最終処分場を作る場所はない」ということです。
再処理をしようがしまいが、原発が動いている限り、高濃度の放射性廃棄物が生まれ続けます。これまで「原発賛成派であろうが、反対派であろうが、最終処分場の問題を避けて通ることはできない」と主張してきましたが、実は最終処分場の設置・建設自体が不可能なのです。少なくとも、日本列島では。

再処理工場から出てくる高線量放射性廃棄物は、ガラス固化体という形です。原発から出た使用済み核燃料から、プルトニウム239とウラン235を可能な限り取り除いて、ガラスで固めたものです。濃縮してますから、セシウム137やストロンチウム90といった核分裂生成物や、アメリシウムやネプツニウムといった超ウラン元素の濃度は、元の使用済み核燃料よりも、ずっと高くなっています。核分裂生成物も超ウラン元素も、危険極まりない放射性物質であることは言うまでもありません。このガラス固化体は、当然、強い熱と放射線を発します。出来てから数年は、近づいただけで死に至るという恐ろしい代物です。

一方、再処理をしない直接処分ではどうでしょうか?
この場合、高線量放射性廃棄物とは使用済み核燃料そのもの。これは、数年間水の中で冷やし続けないと、みずからが発する崩壊熱で溶け出してしまい、臨界に達する恐れがあるという、これまた恐ろしい代物。臨界になれば、大量の熱と放射線が発せられ、一大事となります。

ガラス固化体にしても、使用済み核燃料にしても、環境に悪影響を及ぼさないレベルにまで放射線量が下がるのに、十万年以上かかると言われています。
その時まで、今の人類が生きながらえるのだろうか?放射性廃棄物の危険性を語り継ぐことができるのだろうか?
世界に先駆けて最終処分場を建設し、その本格稼働を前にしているフィンランドから問題提起したのが、映画『100000万年後の安全でした。

話を地図に戻しましょう。
2万年前と比べただけで日本列島は大きく動いています。ゆっくりとした小さな陸の動きは、やがて大きな歪みを生み、陸地を大きく動かします。大きく陸地が動く時、必ず大地震が発生します。
上の地図を見ただけで、たった2万年の間に日本列島が、どれほどの大地震に見舞われてきたのか、大地がどれほど動いたのか、想像がつきます。また、大地が動けば、そこにひび割れが入ります。粘土を強くねじった時と同じです。それが活断層。活断層は、新たな地震で陸地が動く起点になります。日本中いたるところに活断層があるというのも、この1枚の地図から十分に想像できることなのです。
2万年は、一人の人生にとっては、とても長い年月ですが、放射性廃棄物にとっても、陸地の移動にとっても、きわめて短い時間に過ぎません。2万年では放射線は十分には減らないし、2万年あれば陸地は大きく動いてしまうのです。日本列島に限って言えば、2万年の間、安定して動かない場所を特定することは不可能です。

さて、最終処分場は、別の言い方で地層処分とも言います。数十万年先まで動く可能性のない硬い地層の中に核廃棄物を埋めようとするからです。しかし、そんな場所は、この日本列島にはない。それが結論です。

原子力発電。私たちは、なんという浅はかな選択をしてしまったのでしょうか。
今出来ることは、まず、これ以上、1ベクレルたりとも放射性廃棄物を増やさないこと。そのためには、大飯原発の稼働を直ちに止め、大間原発の建設を中止すること。そして、すべての原子炉から核燃料を取り出し、廃炉決定すること。他に道はありません。

すでにある放射性廃棄物への対処は、日本学術会議が提唱している「何かかあったら取り出して他に移せる暫定保管」と「廃棄物の総量管理」しかないでしょう。苦渋の選択ですが、それが原子力発電の大きなツケなのです。

日本学術会議と言えば、良くも悪しくも日本のアカデミズムの頂点。その学術会議が、報告書の中で「地震や火山活動が活発な日本では、処分場の安定性が数万年以上、維持されるかどうかは科学的に予測不可能」と明言しています。
重く受け止める必要があると同時に、冒頭の地図を見て頂ければ、それは誰もがたどり着く結論でもあります。

参考:『高レベル放射性廃棄物の処分について』日本学術会議

福島は今、どうなっているのか…2012/11/07 13:18

今回は、空間線量(=外部被ばく)の視点から、今の福島を冷静に見直してみたいと思います。

下の2枚の表をご覧ください。11月7日の午前9時前後に文部科学省の「放射線モニタリング情報」から得たデータです。


3.11以前の空間線量は全国平均で約0.04マイクロシーベルト/時でした。もちろん福島も例外ではありません。

今現在、居住制限のかかっている地域では、3.11以前の数十倍という空間線量になっているのが一目瞭然です。なんの制限もかかっていない地域でも、5倍から10数倍という場所があります。これを胸部X線撮影での被ばく量(1回約0.1ミリシーベルト)と比較すると、20回分以上という場所が続々出てきます。「年に20回以上も胸のレントゲンを撮る」と言われたら、誰だって尻込みするでしょう。

国が定めている居住制限の線引きは20ミリシーベルト/年です。これは毎時に直すと3.8マイクロシーベルト/時になります。葛尾村で0.689、飯舘村で0.793と1.124。「3.8マイクロシーベルト/時(=20ミリシーベルト/年)に比べると、かなり低いのではないか」と思う方がいるかもしれません。しかし、これらの数値は、すべて居住空間に近い場所で計測されたものです。周りには、山林や放置された農地がたくさんあり、20ミリシーベルト/年を大きく越えています。ちなみに、20ミリシーベルト/年は胸部X線撮影200回分に相当します。

いつの間にか決められてしまった20ミリシーベルト/年。この数値は、ICRP(国際放射線防護委員会)の「緊急時の基準」をより所としています。安全だという裏付けはまったくありません。ICRPが公衆の被ばく線量限界として勧告しているのは、外部被ばく、内部被ばくを合わせて1ミリシーベルト/年です(それすら安全の裏付けはなく、放射線はどんなに微量であっても人体に害のあるものです)。

ここで、20ミリシーベルト/年で線引きされた居住制限等の内容を簡単に整理しておきましょう。
●避難指示解除準備区域
避難指示区域のうち、放射線の年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実と確認された地域。宿泊禁止。製造業などの事業再開許可。
<経産省からの通達>
●居住制限区域
避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、引き続き避難を継続することが求められる地域。製造業などの事業再開許可可能。
<経産省からの通達>
●帰還困難区域
5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり、年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域。
●警戒区域
立ち入り禁止区域

驚くべきことは、「居住制限区域」や「避難指示解除準備区域」において、すでに業務の再開などが認められていることです。
移住権を認めないどころか、危険な場所へ帰ることを奨励している!こんな国がどこにあるでしょうか!

参考のために、チェルノブイリと福島の居住制限等に関する基準の違いを下に示します。チェルノブイリの高濃度汚染地域は、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3国に広がっていますが、3国ともほぼ同じ基準で被災住民に対応しています。

図をご覧いただければ、もう何も語る必要はありません。
原発事故被災地の人たちは、今、とても危険な状況に放置されています。
国や自治体は、「1ミリシーベルト/年を越えるエリアでは、無条件で移住権を認める」といった施策を積極的に実行すべきです。その時、「10ヘクタールの水田を持っていた人には10ヘクタールの水田を」「100頭の牛を飼っていた人には100頭の牛と牛舎を」という、「生産力として等価」という考え方が必要です。「金銭的に等価」では、営々として作り上げてきた地方の文化は、間違いなく崩壊します。
例えば、「長年耕してきた10ヘクタールと新たな10ヘクタールでは、まったく違う!」という声が出るでしょう。被災地の人たちにとって、移住が苦渋の決断であることは、もちろん理解しています。しかし、ギリギリの選択としては、「ふるさとよりも命」あるいは「ふるさとよりも安心、安全」を取るべきです。共同体が一体となって移住できる道を国や東電に求め、みずからも探ることが第一ですが、個別に移転していく道も閉ざす必要はありません。

多くの自治体首長や市町村会議員が、「帰還」「除染」を声高に言うのは、自分の議席や票田がなくなるのを恐れているからに過ぎない、と冷たく見切る必要もあります。

除染は容易ではありません。高圧放水を使うと壊れてしまう家屋がたくさんあります。山林の除染の見通しは立たず、そこから流れ出る水は、苦労して除染したはずの水田へも向かいます。
仮に住宅と道路と商業施設の除染がある程度できたとして、子供たちに「放射性物質があるから山には入ってはいけない」「川の魚は獲るな」「キノコは採るな」と何十年にも渡って言い続けることができるのでしょうか…

原発再稼働と総括原価方式の闇2012/08/26 11:21

この夏、関西電力管内も含めて、原発なしで電力は十分に足りていました。
関西以外のエリアでは、すべての原発が止まっています。しかし、計画停電も、強制的な節電もなく夏が乗り切れています。一般家庭や企業における、ちょっとした節電意識の高まりだけで原発は要らなくなったのです。いや、そもそも、要らなかったと言うべきでしょう。

最大の問題は、原発依存率がもっとも高い関西でした。関電と国は「大飯を再稼働しないと過酷な計画停電を実行するしかない」「産業への影響が多大」といった脅しをかけて、大飯原発3号機・4号機の再稼働を強行しました。高まる再稼働反対の声に耳を貸さずに。

迎えたこの夏は、全国的な猛暑。関西もその例外ではありません。しかし、「原発再稼働しとったから、エアコン止まらんで助かったわ~」とはならず。関西の夏もまた、原発なしで十分に乗り切れたことが明らかになったのです。

電力不足予測過大だった【京都民報】

振り返ってみると、京都大学の小出先生をはじめとする良心的な研究者たちは、3.11の直後から「原発がなくても電力は足りる」と主張してきました。

小出先生の意見(PDF)

しかし、原発推進派は「小出さんは反対派だから都合の良いデータだけで計算している。もし、大停電が起きたらどうするのか!」などと叫んで、正しい意見を押しつぶしてきました。

それにしても、なぜ、電力会社は原発にこだわり続けるのか… ひと言でいえば、儲かるからなのです。
電気事業法によって定められた総括原価方式によって、日本の電力会社は、絶対に損をしない仕組みになっています。
簡単に言えば、資産に対して一定の比率で電力会社の報酬が決められ、「原価+電力会社の報酬=電力料金収入」となっているのです。この電力料金収入から、電気料金を算出するのです。これでは、企業努力や自由競争による料金の値下げなど絶対にあり得ません。

上の図を見て頂ければ、高額な資産を持てば持つほど電力会社の報酬が増えるのがお分かりだと思います。だから、「高額な資産=原子力発電所」を持ちたがるのです。
信じられないことに、危険極まりない使用済み核燃料まで資産として計上されています。資産額が電力料金に跳ね返るのは、言うまでも有りません。

「原発ゼロ=全原発の廃炉」が決定されれば、原発も使用済み核燃料も資産価値がゼロになります。その分、電力会社の報酬は減ります。一方で、廃炉費用を原価に組み込むことが出来なければ、電気料金を下げざるを得なくなるのです。総括原価方式がある限り、電力会社が原発ゼロに首を縦に振るワケがないのです。

では、どうすればよいのか…
「ただちに全原発の廃炉」を求めると同時に、「総括原価方式の廃止」「地域独占の廃止」「発送電の分離」の3つを実現することです。
そんなことをすれば、電力会社が潰れてしまう?大丈夫です。私たちが支払ってきた電気料金で作り上げた送電網という巨大な資産があるのですから。

『崩れ始めた世界の原子力ムラ』と日本2012/08/03 13:58

原発の開発・建設で長年に渡って先頭を走ってきたゼネラル・エレクトリック社(GE)のCEO、ジェフ・イメルト氏が『世界の原子力ムラ』を震撼される衝撃の発言です。

米GE「原発の正当化、難しい」CEO発言、英紙報道【朝日新聞】

米GEのCEO、原発「正当化難しい」英紙に語る 【日本経済新聞】

発言の概要は、
●原子力発電が他のエネルギーと比較して相対的にコスト高になっている。
●原子力発電を経済的に正当化するのが非常に難しくなっている。
●天然ガスが非常に安くなり、いずれかの時点で経済原則が効いてくる。
●世界の多くの国が(天然)ガスと、風力か太陽光の組み合わせに向かっている。
です。

背景には、天然ガスの産出量増加や、自然エネルギー分野で進む技術革新と並んで、福島第1の事故で補償や廃炉にかかる費用が膨大になることがあります。また、3.11以降、各国で原発に対する審査や規制が厳しくなっており、これもコストを引き上げると見ているのです。世界の原子力ムラの中心人物が、原子力発電のコストが実は安くないことを明言したのです。

一方、日本では、東京電力への1兆円の公的資金投入をめぐって、枝野経産相が注目の発言です。

東電に1兆円公的資金投入 経産相「国有化は相当長期」【朝日新聞】

国有化の期間が「相当長期にわたる」と述べたのは、福島第1の廃炉や賠償の費用が巨額となり、その概算の見積りすら不可能なことが理由です。

原子力なのか自然エネルギーなのかを巡って、コスト論争が盛んに行われていますが、実は、事故処理や補償まで含めたら、原子力発電のコストは実質的には青天井。幾らになるかまったく分からない状態なのです。

そんな中で行われた東電への1兆円公的資金投入。赤ちゃんから高齢者まで含めた頭割りで一人1万円。4人家族で4万円。どれほど大きな金額かお分かりいただけるでしょう。これは私たちが背負ったあらたな原子力発電のコストです。それも、今までに原発で発電した分に対するコストだということを忘れてはいけません。この1兆円は、東電が倒産しないように支えるためだけの資金であって、何も生みません。

話をGEに戻しましょう。
福島第1の1号機から5号機はGEのMark1と呼ばれるタイプの原子炉です。このうちの3基がメルトダウン事故を起こしました。
今の段階では訴訟はなっていませんが、Mark1には元々欠陥があると指摘されており、今後、GEの責任が公の場で追求される可能性も高まっています。

GE Mark1 設計に特有の脆弱さ【本ブログ】

さて、GEは日立と組んで原発の推進を進めてきました。
提携開始は2007年。比較的最近のことです。見方によっては、GEはリスクの一部を日立に肩代わりさせようとしているとも読めます。

ここで世界の世界の原子炉メーカーを見てみましょう。ロシアのロスアトムを含めて4グループしかありません。

このうち、ウェスティングハウスは2006年に東芝の子会社になっています。
ウェスティングハウスがアメリカの企業からイギリスのBNFL(英国核燃料会社)に売却されたのは1998年。それが東芝に転売されたのです。

現時点で世界最大の原子力産業と言われるフランスのアレバ社は、三菱重工と提携・協力関係にあり、各国で原子炉の売り込みをしています。六ヶ所村再処理施設にも大きく関わっています。2社の提携は2008年以降に強化されています。

こうして見ると、ここ数年の間に世界の原子力産業の最先端に日本企業が躍り出た感があります。しかしそれは、同時に原子力事故に対する巨大なリスクを背負い込んだとも言えるのです。

GEについては、原子力関連の売り上げは全社の1%しかありません。仮に世界中の原子炉が、今すぐ廃炉になっても蚊に刺された程度なのです。原子力部門をすべて日立に売却してしまっても同じことです。
前述の通りウェスティングハウスは、すでに東芝の子会社です。アメリカ系2社に代わって、世界の原子力産業の中心を担おうとしているのが東芝と日立。
逆に言えば、アメリカやイギリスの企業は、過酷事故の際に責任を追及されるリスクの高い原子炉の建設や保守・管理から体よく逃げ出そうとしているのです。この見方は、当方自身、「うがった見方」とことわった上で、これまで何度か書いてみましたが、本記事冒頭のGEのジェフ・イメルトCEOの発言を読むと、あながち「うがった見方」ではなく、ほぼ当たっているのではないかという確信を得ています。

原発推進の旗を振ってきたアメリカとイギリスが逃げ出す。このままでは、取り残されるのは日本です。アメリカのオバマ政権は、原発の新規建設に手を付けていますが、その原子炉のメーカーはウェスティグハウス(=東芝)なのです。

ヒロシマ、ナガサキで悲惨な被害を被り、福島第1で3つの原子炉のメルトダウンという、人類史上かつてない過酷事故を引き起こした日本。今すぐにでも、世界から原発と核兵器をなくすための最先頭に立たなくてはいけません。
『世界の原子力ムラ』が崩れ始めている時に、私たちがもたついている理由はどこにもありません。

福島意見聴取会と議事堂前解放区をめぐって2012/08/02 09:06

全国で行われている「将来のエネルギー政策に関する政府主催の意見聴取会」。7月29日までの開催分で、「原発0%=全原発の廃炉」の意見が7割です。
8月1日に開催された福島の聴取会では、30人中ただ一人が15%案支持で、29人が0%。原発ゼロを求める声が97%を占めました。

意見聴取会:原発「0%」7割が支持…8会場の「民意」【毎日新聞】

意見聴取会:福島では被害者の批判噴出「ガス抜きでは?」【毎日新聞】

そもそもこの意見聴取会、「2030年に…」という誰が決めたのか分からない条件の下に意見を聞くというスタンス。なぜ「ただちに全原発を廃炉」という選択肢が入っていないのか? 多くの人たちが疑問を感じています。
福島では、「原発再開のアリバイ作りではないか」「命あっての経済であり再稼働はおかしい」といった発言もありました。先の見えない避難生活、確保されない移住権、責任を回避する東電と政府… 福島の人たちの怒りは頂点に達しています。

東京では7月29日に大規模な反原発デモ。国会議事堂正面玄関前に数千(数万?)の人々がなだれ込み、いわゆる解放区状態になりました。これは1960年の安保闘争以来、62年ぶりの出来事です。大メディアは意図的に小さく報道していますが、実は歴史的な出来事でした。

60年安保も70年安保も、こういった街頭闘争(言い方が古い(笑))には、常に指導的な立場の人がいて、基本的にその指揮(時には煽動)に従って多くの人たちが動いていました。しかし、今起きている反原発のうねりは、既存政党や既存政治勢力からまったく無関係のフツーの人たちが次々と集まって大きな運動になっています。
鉄柵で閉鎖した車道へなだれ込んだのですから、警察に言わせれば「不法行為」でしょう。しかし、機動隊は手も足も出すことができません。皆、フツーの人たちだからです。

当方、国会議事堂前では最前列に行きましたが、そこには老若男女、様々な人たちがいて、政府への怒りの声を精一杯上げていました。中には、小さな子どもオンブした若いお父さんまで。「原発再稼働反対の声を議事堂正面で叫ぼう!」という当然の思いが議事堂前解放区につながりました。
撮影:広河隆一

●静止画資料集
7.29「脱原発 国会大包囲」空撮写真【正しい報道ヘリの会】
凄くイイ写真が並んでいます。

7.29脱原発国会大包囲【ウシトラ旅団アルバム】
幅広い層が集まった当日の様子を伝える写真集。

●動画資料集
7.29脱原発国会大包囲~空撮チャンネル 第二便【Ustream/IWJ】
44:40あたりから車道占拠が始まります。歴史的瞬間をとらえた貴重な空撮映像。

脱原発の鎖が国会包囲。議事堂前に解放区!【YouTube】
出来事全体の動きが分かります。

7.29 脱原発国会大包囲 国会前解放広場最前線【YouTube】
最前列の様子をつぶさに伝えています。

いっとき、福島では、「東京の人たちは気楽でイイよね。金曜日に官邸前に集まってりゃいいんだから」とシニカルな意見があったとも聞きます。しかし、意見聴取会を含むこの間の福島の人たちの声、そして、東京では毎金曜日の首相官邸前抗議行動と国会大包囲に数万の人々。溝は埋まり、一つの大きなうねりになりつつあります。

「福島の被害者の速やかな救済」「大飯原発の停止」「全原発の即時廃炉決定」。これこそが民意なのだと、政府に思い知らせてやる時が来ています。
そして、「東電と日本政府(=歴代政権)の責任の明確化」。こういったことが大切になってくると思います。

今すぐ、『黒い物質』を取り除け2012/07/25 18:47

先にアップした『南相馬の黒い物質』の続編です。
高い放射線量を示す黒い物質の正体は、生物学的にはらん藻や地衣類。一般には苔や藻の一種と受け取られている原始的な植物でした。

なぜ、苔や藻に放射性セシウムが濃縮されるのか… それは、みずからが生き延びるために栄養素としてカリウムが不可欠で、化学的な性質が似ているセシウムをカリウムと間違えて取り込んでしまうからです。
苔や藻は、雨水や河川の水から巧みにカリウムを吸い取って生きています。そのメカニズムに放射性セシウムが入り込んでいるのです。

自然界での水の循環という視点で見ると、苔や藻は、雨水から放射性セシウムを漉し取っています。山林から川や田んぼへと流れ込む水からもです。いわば天然のフィルターとして働いているのです。
掃除機のフィルターには、家中の埃が集まります。そんなイメージで苔や藻に放射性セシウムが集まっているのです。

苔や藻というフィルターに放射性セシウムが集まっている… 放っておけば、その汚れたフィルターに触る子どもが出てきます。赤ちゃんだったら、触った指先をそのまま口に入れるでしょう。

一方、苔や藻に集まっている分、若干ですが環境中の放射性セシウムは減ります。しかし、そのまま放っておけば、いつかは枯れて、ふたたび環境の中に戻ってしまいます。苔や藻に集まっている間こそが、放射性セシウムを回収する絶好のチャンスとも言えるのです。

さて、南相馬の大山こういちさんと京都大学原子炉実験所の小出裕章先生のやり取りの中で、「黒い物質」に含まれる放射性セシウム(134と137の合計)に関して、
南相馬で200万~600万ベクレル/キログラム
葛飾区の水元公園で20万~30万ベクレル/キログラム
都下東村山市で2万ベクレル/キログラム
という分析結果が出ています。
大山さんたちの独自の調査では、南相馬では1000万ベクレル/キログラムというデータもあるようです。
●参照:『南相馬市 大山こういちのブログ

視点を変えて、現行の法律で、放射性物質の取扱について、どのように規定されているのか見ていきましょう(リンク先は、例によって分かり難い役所用語の羅列ですが、詳しく知りたい方はご参照ください)。

放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令』に、別に定める下限数量と下限濃度を越える放射性同位元素を厳重に管理すべく規定されています。
その下限数量と下限濃度を定めたのが、以下の文科省(旧科技庁)の告示です。
放射線を放出する同位元素の数量等を定める件』の別表第1「放射線を放出する同位元素の数量及び濃度」(19ページ)には、放射性物質として扱わなくてはいけないセシウム134とセシウム137の下限数量が=1万ベクレル、濃度が10ベクレル/グラム以上と定めれています。
10ベクレル/グラム=1万ベクレル/キログラムです。
要は、「1万ベクレル/キログラム以上の濃度の放射性セシウムが1万ベクレル以上あったら、それは厳重に管理しなくてはならない」と定められているのです。

今ここに、スプーンでこそげ取った苔か藻が10グラムあったとします。放射性セシウムの濃度を計測したら100万ベクレル/キログラム。総量は「管理すべき下限数量」の1万ベクレルに達します。濃度が1000万ベクレル/キログラムなら1グラムで下限数量越えです。

東村山の2万ベクレル/キログラムで言えば、500グラムで下限数量越え。500グラムの苔や藻は、ちょっと一生懸命やれば、一人でも10分もあれば集められます。
そんな危険な放射性物質が、私たちの身の回りのいたるとこに存在しているのです。しかし、政府も自治体も、こういった苔や藻の撤去や管理に乗り出していません。法律的に見てもその義務は明白なのに…
また、前述の通り、苔や藻に集まっている間こそが、放射性セシウムを回収するチャンスでもあるのです。

「苔や藻には絶対触ってはいけないよ」。何十年にもわたって、子供たちに教えていくのでしょうか?川で遊ぶことも、森で遊ぶことも一切禁じるのでしょうか?

苔や藻があったら、とにかく安全に撤去する。もちろん、素人がやると危険ですので、今すぐ、行政が正面から取り組むべき課題です。

追記:
高線量を発する藻や苔は、黒いものばかりではありません。当方の調査では、湿気の多い地面に繁殖するモウセンゴケの仲間や、河川の岩にへばりつく緑色の苔も、同様に高線量を発しています。
藻や苔は種類にかかわらず放射性セシウムを高濃度に蓄積すると判断して間違いないでしょう。

東電に値上げを言う権利はあるのか?2012/07/21 09:56

結局、東電の値上げ申請が認められることになりそうです。
経営の悪化の原因は言うまでもなく福島第1の事故。消費者庁が少しだけ頑張った形跡はありますが、いずれにしても過酷事故のツケを電力使用者に押しつけてくることには、誰も納得がいかないでしょう。

『東電値上げ8.47% 消費者目線、置き去り』【毎日新聞】

「東電の資金がショートしてしまって、労働者に給料が払えないとか、下請けに支払いができないといった事態に陥ると、大停電が起きてたいへんなことになる」というのが威し文句なのですが、電気料金の値上げと公的資金(要するに税金)の注入の前に、やるべきことがたくさん残されています。
「経理全面公開」「未使用ウラン燃料売却」「全資産売却」「全関連企業の整理・売却」「経営陣・管理職徹底合理化」「発送電分離」です。
羅列しただけでは、空スローガンと批判されそうなので、簡単にその中身を解説します。

●経理全面公開
過去にさかのぼって、東電の全帳簿を誰もが閲覧・監査できるようにします。
経理上、本当に無駄がないかが調べられるし、グレーのカーテンの向う側にある原発を巡る金の流れが明らかになるでしょう。
現行法では、企業に経理全面公開を求めることはできないと思いますが、実質国営化されている現状なら、政府が判断を下せば良い問題です。
私たちは、良心的な公認会計士を雇って、東電の会計のすべてを詳しく監査することができます。また、メディアも自由に調べることができます。

そもそも、競争相手のいない企業ですから、経理全面公開による経営上の不利益はないはずです。

●未使用ウラン燃料売却
東電は、未使用のウラン燃料を大量に抱え込んでいます(残念ながら数値データ無し)。これらについては、カナダに本拠地を置く世界有数の核燃料供給企業『カメコ』が、買い取りの姿勢を示しています。使うアテのないウラン燃料を直ちに返品すべきです。数千億円分はあると見られています。

参照記事:世界の原子力利権と日本①『ウラン採掘総元締めの予想外』

●全資産売却
東電病院の売却問題がクローズアップされていますが、他にも売れる資産は山ほどあります。すべて売り、賠償に充てるべきです。

まず不動産ですが、時価100億円超とされる日比谷の本店。他にも、社宅や寮、保養所といった福利厚生施設などが数百あります(すでに一部は整理に入っている模様)。発電に利用していない土地は約1000万坪。これを10万円/坪で計算すると10兆円になります。
動産では有価証券。上場企業の分だけで約3000億円。非上場が700億円。
東電は、桁外れの資産を隠し持ったままなのです。

送電網も全資産に含まれるのですが、これに関しては、最後の「発送電分離」で取り上げます。

●全関連企業の整理・売却
東電は169社の子会社と89社の関連会社を抱えています。その多くが、旧通産省・経産省・文科省・東京都・東電OBの天下り先です。
これらを整理し、売れる会社は売ってしまえば、損害賠償の足しになります。

●経営陣・管理職徹底合理化
言わずもがななので、ここで多くは語りません。

●発送電分離
送電設備=2兆923億円、変電設備=8288億円、配電設備=2兆1540億円。東電が持つ送電関連の固定資産です。合計で5兆円にもなります。これらを複数の民間事業者に売却すべきです。
残る東電が発電部門と賠償補償を担うか、発電部門も売却して東電は賠償補償機関としてだけ残すという二つの方法があります。

いずれにしても、東電の資産は、ほぼすべてが私たちが支払った電気料金を元手にしているものです。その資産を売ることによって、電気料金の値上げと税金の投入を抑えんがら、被害者への補償の原資が得られるなら、実行しない手はないのです。東電の資産は、もともと私たちのお金。このことを忘れないようにしましょう。

そして、発送電まるごと地域で独占という、およそ自由競争とかけ離れた経営の上にあぐらをかいてきたのが日本の電力会社です。これを機に、すべての電力会社について発送電の分離を実行すべきです。

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ちょっと例えは悪いかも知れませんが、大型バスが多数の歩行者を巻き込んだ重大事故を起こしたとします。当然、被害者に対して賠償をしなくてはならないのですが、バス会社は資産を隠して「お金がない」と言い張ります。そして、賠償責任は乗客に転化すると。理屈は、「お客さんたち、バスに乗ってたんでしょ」。
こんな馬鹿げた話はないのです。バス会社はすべての資産を売り払ってでも賠償すべきでしょう。
東電に、値上げを言う権利はありません!






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